92:ギャルの親友と会った
翌日は終業式だけ。なが~い校長先生の御高説をありがたく頂戴して、教室に戻って太田先生から夏休み中の注意事項、禁則事項などについてのお話も聞いて。
「晴れて……釈放だー! シャバだぜ、シャバ」
校庭に出た星架さんが、大きく伸びをしながら叫んだ。元気だなあ。けど、僕も叫ばないけど、これからの日々へのワクワク感はいよいよ抑えがたいものになってる。極限まで引き絞られた弓から矢がついに放たれたような。
「康生、千佳! 行こ!」
元気一杯のまま、僕と洞口さんの手をグイグイ引っ張る星架さん。ガキかよ、と洞口さんは呆れたように言うけど、顔は笑っていた。
今日はなんと星架さんが昼に手料理をご馳走してくれると言う。不安は拭えないけど、お母さんも監督したとのことなので、食べられない物は出てこないはず。
「クッツーは、なに茶漬けだと思う?」
「鮭茶漬けでしょう。鮭フレーク乗せるだけですからね」
「甘いな。わざわざ呼ぶくらいだから、もっと豪勢に……鯛茶漬けと見た!」
「貴様ら~!」
ワイワイガヤガヤしながら、駐輪場へ。今日は二人とも自転車で登校しておいた。
「洞口さん、乗ってください」
ステップしかないスターブリッジ号より、僕の荷台つきの方が座れるので、そういう役割分担になった。
「おう、サンキュー」
洞口さんが乗ったことを確認して、いざ出発。目指すは星架さんのマンション……の前に、もう一ヵ所。
学校を南に出て、普段は左に曲がるんだけど、今日は真っ直ぐ。モールや新興住宅地の方面だ。
10分ほど漕ぐと、星架さんの所とほぼ同じくらいの規模のマンションに着く。ガラス張りのエントランスホールから、外の僕らに向けて、手を振る少女が一人。
真ん丸の体と、手を振る度にタルンタルン揺れる二の腕が印象的だ。やがて自動ドアをくぐって、外まで出てくると、こちらに駆けてくる。
「千佳、久しぶり~。星架は先々週ぶり~」
洞口さんの方が間隔が空いていたせいか、そっちに抱き着く彼女。洞口さんがその背に手を回しながら、さりげなくもう一方の手で脇腹を摘まんでいた。
やがて抱擁を解くと、
「はじめまして~、私、
と、僕に向き直って自己紹介してくれた。
「はい、初めまして。沓澤康生です。16歳です」
誠秀さん相手のやらかしの天丼。星架さんがフッと噴き出す。
「あはは。歳は知ってるよ~。二人から聞いてる通り、面白い人だね~。あ、そうだ、星架のツイスタで見たよ! すっごい手先が器用なんたよね~?」
そう、実際に僕と重井さんが会うのは初めてだけど、星架さんや洞口さんのツイスタに何度も出てくるので、互いにある程度は知ってる。ちょっと不思議な感覚だ。
「手先はすげえんだけどな、確かに。センスの方がなあ」
む。星架さんが失礼なことを言ってくれる。
「あはは。戦国武将だっけ? でもすごい上手いよね。アタシも1つ欲しいかも」
「ホントですか!? 毛利、今川、織田、長宗我部、誰でも作りますよ! お代は星架さんにツケとけば……」
「なんでだよ!?」
さっきの仕返しだ。
重井さんは、口元を手で隠しながらクスクスと笑う。お肉を除けば意外と控え目な人なのかも。髪は黒だし、服装もベーシックカジュアルで、二人のようなギャルっぽさも見受けられないし。
「いやぁ~、ホントにあの星架がここまで気を許す男子が居るとは。ちょっと信じらんない気分~」
「だろ? アタシらと会う時と撮影の時以外は、ずっと遊んでるかんな。入れ込みすぎだろって」
「そこ! うっせえぞ!」
女三人寄ればなんとやら。加えてこの子達は全員が小学校からの親友同士だもんな。
……僕も一緒の学校に通えてたらな。
「ほら、もう行くぞ? クソ暑いんだからさ」
星架さんが仕切る。まあ確かに炎天下の屋外で話し込むことはないよね。
「んじゃ、康生は雛乃、乗っけてやってな? アタシは千佳だから」
ん! そんなの聞いてない。というかSNSに上がってる写真だと、少しポッチャリくらいかなと思ってたのに、実際会ってみると、中々の貫禄だった重井さん。彼女を僕が運ぶ? カエルに負ける体力で?
「あはは、ごめんね~。私、最近、自転車キツイの~」
そんなバカな。あ、でも漕ぐたび膝小僧がお腹に当たるくらいに見受けられるし、無理させて体調悪くなったら可哀想だもんね。
……ここが男の見せ所ってヤツか。
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