89:陰キャが徳を積んでた
<星架サイド>
え? 知り合い? 孤児院って……確か再会して間もない頃、作ったモノ寄贈してたよな。アレの関係か。
アタシの推測を裏付けるように、康生は笑顔でアタシに二人を紹介してくれる。
「前も言ったかも知れませんけど、時々地域の催しで品物を持って行ったりしてる孤児院があって……そこの子たちだったみたいです。僕も最後に行ったのは三年前くらい? かな。記憶が朧気なんですけどね」
「私たちも、当時はもっと小さかったので……すぐには気付かなかったです。失礼しました」
二人が礼儀正しくペコっと頭を下げると、ツインテールとショートボブの黒髪がサラリと揺れた。なんだか、寂しい処世術だなって思った。寄付、寄贈してくれる人に失礼が無いように。そう教わってるんだろうと思うけど。まだ中学にも上がってなさそうな、こんな小さな子たちが……
どうしてもアタシ自身、病弱だった頃、周囲の厚意に甘えざるを得なかったことを思い出してしまう。もちろん感謝は持ってたけど、同時に、アタシだって好きで病気になってるワケじゃないのにって気持ちも否定しようがなかった。この子たちにしたって、好きで孤児になったワケじゃないのにって、内心を押し殺してるのかも知れない。
「いやいや。気にしなくて良いよ。最近は完成したら町内会の人に渡して、そのままって感じだったからね」
代表で持っていく人も居るんだろう。その人に丸投げしてたってことか。
「あの、今年も頂いたウサギさんとか猫さんとか年少の子たちも喜んでて……」
「節分の時に頂いた島津義弘もすごく迫力ありました」
鬼違いじゃね?
「あはは。島津は恥ずかしかったな」
そうだろうな。後になって、自分は何やってんだってなるヤツでしょ。
「完成度低かったから」
完成度の話かよ。大胆な解釈違いの方を恥じろよ。
「あ、あの。ところで、そちらの方は……」
「ん? あ、そっか。星架さん。友達だよ。とっても優しい人だから、よく遊んでくれるんだ」
その言い方だと近所の優しいお姉さんに遊んでもらうチビッ子みたいだな。
「あくまで対等だよ? アタシだってメッチャ楽しいから、一緒に遊んでるんだ」
誤解を招かないように、女の子二人にアタシからも説明。
「今日も、卓球楽しかったし。やってみると奥が深いね」
「はい! 私たちも、ラケットだけで出来るから、中学あがったら卓球部入ろうねって話してたんです!」
ニコニコと本当に嬉しそうに笑うポニテちゃん。もしかするとお金がかかるから部活は諦めてたのかも知れない。それが費用少なめで出来る部活を見つけて、初対面のアタシにまでつい言ってしまった感じか。可愛いなあ。
と、口数が少なくなっていたボブカットの方の子が、アタシの顔を凝視しながら、
「あ、あの……もしかして、セイさん、ですか?」
そんなことを聞いてくる。セイってのはモデルやってる時のアタシのニックネーム。ってことは、この子、読者さん?
「え!? ティーン・バイブルの? 読モの?」
ポニテの子も、そう言われて、アタシの顔とボブの子の顔を交互に見る。そしてまたアタシの顔に視線が戻って来て、
「あ、ほ、ホントかも!」
と少し大きな声を出した。ついアタシは周囲を窺うけど、いつの間にかお年寄りたちも各々で休憩に入ってるらしくて、老人会の様相だった。誰もアタシらに注目してる人はいない。
つか弱小雑誌の読者モデルごときで身バレにビクビクすんのも自意識過剰か。
アタシは観念してコクンと頷いた。
「まあ、うん。そういう活動もやってたりするね」
康生が気遣わし気にアタシを見る。昨日の仕事のモヤモヤを吹き飛ばしてあげたいって、多分そういう考えで誘ってくれたんだろうしな。しょっちゅう思ってることだけど、やっぱ康生って優しい。
「うわあ! アタシたち、友達に雑誌見せてもらったりして、えっと、その……ファンなんです!」
「うん。すごくキレイで、カッコよくて!」
二人がキラキラした目でアタシに迫ってくる。
確かにまたモデルの話なんだけど、不思議なくらい素直に受けとめられていた。すっぴんでジャージでも余裕で受け入れてくれる人が傍に居るからやんね。そしてこの子たちも純粋な好意だけ見せてくれるから。ゲンキンだなあ、アタシ。
「あ、あの! アタシたち、メイクとか興味あって……けど独学でやってみても、何かちがくて」
もうすぐ中学生になるんだもんね。興味も出てくる頃だよなあ。
「おし! じゃあ一丁、お姉ちゃんが教えたろ」
頼られたのが嬉しくて、ついそんな安請け合いをしていた。
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