88:ギャルと卓球した

 <星架サイド>



 7月の祝日、海の日に屋内の公民館に集いし暇人が20余名。殆どがお年寄り。学童保育か何かなのか、ちびっ子たちも多少は混じってる。そんな中、高校生はアタシら2人だけ。これはやらかしたんじゃねえの?


 隣に立つ康生にそっと耳打ち。


「これ、アタシら完全に浮いてね?」


「大丈夫ですよ。昨日のうちに、初心者のギャルでも参加できますかって聞いときましたから」


「何してくれてんだ!?」


 てかどういう聞き方だ。ギャルって情報を出す必要ないだろ、それ。「初心者でも大丈夫ですか?」だけで良かっただろ。


「大丈夫ですよ、電話で匿名で聞きましたから」


「だいじょばねえよ。バレバレだから」


 普段は知らない人に電話かけるの嫌いなクセに、なんでこんな無駄な時だけ無駄な行動力を発揮するんだよ。

 キョトンとする康生。なんで伝わんないかなあ。けど、そんな所がバカ可愛いんだから、アタシも重症だな。


 と、そこで公民館の扉が開き、おばあちゃんが入って来た。康生が町内会長だと教えてくれる。その会長がのんびりした足取りでこちらに歩み寄ってくると、散り散りで私語をしていた参加者たちが一塊になる。アタシたちも慌てて倣った。


「はい、本日はお集まりいただきありがとうございます。ええ、暑いですから熱中症に気を付けて……えー、それじゃあ長々と年寄りの話を聞かせるのもアレですので」


 他のお年寄り勢から笑いが巻き起こる。


「みなさん、各自で卓球台の用意をお願いします。準備できた所から始めちゃって下さい」


 ゆるい。まあアタシとしても、こんくらいの方が助けるけど。


「あ、そちらの初心者のギャルの方は、こっちで私が基本的な所を教えますので、いらしてください」


 やっぱバレてんじゃねえかよ。そらそうだわな! アタシしかギャルっぽいの居ないもんな!


「すごい。会長さん、どうして星架さんが初心者って分かったんだろ」


 アタシはボケボケの康生のケツに軽く蹴りを入れて、レクチャーを受けに行くのだった。














 <康生サイド>



 カコンカコンと小気味いい音が館内のあちこちで響いている。

 最初こそぎこちなかった星架さんも、すぐにコツを掴んだのか、かなり正確なボールを返してくるようになった。借り物のラケットも手に馴染んできたらしく、時折クルクルと回して遊んでる。


「意外とやってみると楽しいな、これ」


「無心になりますよね」


 実はスカッシュなんかも良いかなと思ったけど、僕がへばって昼ご飯をリバースする未来しか見えなかったからやめた。


「ああ、引っかかった」


 ネットにオレンジのピンポン球を引っ掛けた星架さんが天を仰ぐ。


「ちょっと休憩」


 バッグの上に無造作に置きっぱなしのタオルを拾い上げて、顔をグシグシと拭った星架さん。そう、今日はすっぴんで来ていた。ジャージも勿論、僕と同じアジダスの安物。普段は部屋着にしてるようなヤツだ。


 保湿とか最低限の肌ケアはしてるだろうけど、普段とは比べ物にならないくらい軽装甲。

 それでもやっぱ美人だよなあ。目鼻の主張が強い。実は南米の血が少しだけ入ってるらしくて(母方のひいおばあさんとか言ってたかな)それが隔世遺伝的に濃く出てたりするんだろうな。と言うかお化粧いらないんじゃない? とさえ思う。


 そこで、館内にパチパチパチと拍手が巻き起きる。


「星架さんが美人すぎて拍手が起きてますよ?」


「バッカ! ほんとバッカ!」


 照れてる。僕もらしくないこと言ったせいで自爆気味に恥ずかしい。


「……あっこ。ラリーがかなり続いてたんよ」


「おお、小学生? 高学年くらいかな? 若いのに凄いですね」


「いや、若い方が動体視力とか反射神経とか、有利なんじゃね?」


 あ、確かに。卓球のプロ選手もみんな若いもんな。


「んん? ていうか、あの子たち、どっかで見たことある気が……」


 二人とも地味めの女子で、僕が言うのもなんだけど、どこにでも居そうなタイプだし、道ですれ違ったことあるとか?


「やっぱり康生って……」


「ロリコンじゃないですからね?」


 まあ気のせいだろうな、と思ってたんだけど。僕の視線に気付いて、向こうの二人も顔を見合わせて、二言、三言交わして、こっちに近づいてきた。


 やがて僕たちのテーブルの傍まで来ると、ポニーテールの方の子(もう片方はショートボブだ)がおずおずと話しかけてきた。


「あの……勘違いだったら失礼なんですけど、もしかして戦国武将の人ですか?」


 ん? 何を言ってるんだ、この子は。


「えっと、たぶん人違いだと思うけど」


「いや、確実にアンタのことだよ。自覚がねえのにビックリしてるよ」


 星架さんが割って入ってくる。


「やっぱり! 私たち、沢見川孤児院の……」


「あ、ああ! どっかで見たことあると思ったら」


 意外な場所で予想外の再会を果たしたのだった。

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