87:陰キャを独占している
<星架サイド>
あの後、帰りながらポツポツと我が家の事情を話した。
家庭内別居中であること。パパもママも想い合ってないワケじゃないけど、意固地になってしまってること。パパは敏腕で鳴らすエリートだし、ママもママであんな調子だし。お互い我を曲げない。ちなみに「あんな調子」って言っただけで康生にも通じてしまったのは草だったんだけどね。
多分、いや確実に、康生はある程度は察してたみたいで、打ち明けても驚いた様子はなくて、ただ気遣わしげにアタシを見るだけだった。
パパとママの最初にして最大の不和の原因はアタシだった。パパはアタシの病気を知るや、色々と調べてくれて、評判の良い横中の病院に診せようとしたんだけど、ママが慣れ親しんだ地元の病院の方が良いと言って聞かなかった。それでパパが折れたんだ。
だけど、結果はご存知、横中の病院の方が正解。ここでママが殊勝な態度だったらまた違ったんだろうけど。
パパとしては、そこがずっと引っ掛かってたんだろうな。その火種はアタシの進学に伴って爆発した。いくつか候補があった中で、アタシが沢見川の方を考えてるって知ると、パパはママが自分の地元愛から、アタシの進路に口出ししたと思ったみたいで。
そんなに沢見川が良いなら勝手にしろ、って具合で。
雛乃の引っ越し先、千佳とアタシの学力&通勤可能距離とか諸々考えて、あわよくばコウちゃんと会えるかもって欲もあって。総合的にアタシ自身が判断したことなんだけどなあ。
だけど何度そう説明しても、一度抱いてしまった疑心は深くて。口には出さなかったけど、自分は会ったことがないコウちゃんという存在自体、疑ってたっぽい。
そんなワケで結局、横中から通学するつもりだったのが、アタシとママだけ沢見川に急遽、引っ越すことになったんだ。これにて家庭内別居の完成。
そこまで話すと、康生の方が泣きそうな顔になってたっけ。「病気だけでも辛かったハズなのに」って小さく言ってて。ああ、アタシの立場になって想ってくれたんだなって。それで凄く救われた。
正直に言うと、子供の立場からすると辛いんよな。どうしたってアタシのせいでって思っちゃうし。
多分そこら辺、正しく汲んでくれたんだと思う。
ここまで深く話したのは千佳、雛乃の幼馴染組を除いたら初めてだったけど……話して良かったって心底思う。
「唯一の友達とかいう破壊力よな」
来て欲しい時に駆けつけてくれて、アタシのこと凄くよく考えてくれて。共感してくれて。
これが例えば、康生に他の友達がいて、今晩その人とご飯食べてたとしたら? アタシのこと気にしてくれてても、友達ほったらかして待ってるとか出来ないよね。
でもそんな仮定が成立しない。いつでもアタシが一番で他の選択肢がない状態。
そんなんアリかよって感じだよね。友達を沢山作りなさいとか言う一般的な幸福論なんかガン無視してしまってる。康生自身も閉じた世界では視野が狭くなるって自覚してるのに、それをしてくれてる。
「康生の一番、康生の唯一」
ああ、アタシたぶん、いや確実にヤンデレ気質持ってるわ。こんな不健全な形で独占欲が満たされて、嬉しさで足ジタバタさせてるし。ベッドシーツがグシャグシャなってるし。
「けどその分、アタシも康生のこと見てあげて、考えてあげなくちゃだよね」
……なんかさ、本当に友達が多いのが幸せで、少ないと不健全なのか? って思っちゃうよね。だって大切な人(たち)が出来たら、そんなに沢山、浅い関係の友達なんか作れなくない? 康生が、千佳が、雛乃が苦しんでたら、クラスの2~3回話した事あるような相手との約束があっても、ドタキャンして駆けつけるだろうし。
人が他人のために割ける時間なんて有限で、
アタシは取り敢えず、いま両手に抱えてるだけで精一杯。
と、そこでスマホが震えた。康生からのレインだ。
『明日、公民館で卓球やるみたいです。僕たちも行ってみませんか?』
卓球? いきなりどうした?
『お揃いのアジダスのジャージでチーム組みましょう!』
ああ、そういうことか。いつか雑談してる時、偶然にも二人全く同じジャージを持ってることが判明したことがあったんだけど、それをユニフォームにしようと言ってるワケだ。
つまり、明日はジャージで遊ぼう、飾らなくて良いよと、気遣ってくれてるってこと。
「ふふ」
心の中に温かな風が吹いたみたい。帰ってからも、まだ気遣ってくれてる。アタシだけ見てくれてる。唯一で一番。やっぱヤバいわこれ。
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