13:ギャルだって悩むこともある
奢ってもらったらハイ用済み、みたいな感じがして、すぐに帰るとは言えなかった。それに人混みはイヤだけど、溝口さんには慣れてきた。悪い人ではない。SNSの件やクラスでの暴露なんかは困ったし、盗撮までされたのはドン引きだったけど、やっぱり悪い人じゃない。こうして自転車の件のお礼をしてくれたり、木彫りのリクエストの時も無料はダメだと言ってくれたり。義理堅い人だと。
「小物屋さん回ってみても良い?」
「何か買いたいんですか?」
「いやさ。沓澤クンに頼む木彫り、何にするかまだ決めかねててさ。参考に」
可愛いのがあったら、もうそれを買った方が早い気もするけど。まあでも木彫りって中々ないし、好きな動物でそれが出来るのならって話か。
僕は頷いて、彼女の後をついてテナントを冷やかしていく。
「あ、あのワンピ、良い感じじゃね?」
「じゃね? って言われても」
女の子のファッションなんて詳しくない。というか、小物屋を見るんじゃなかったのか。普通にガールズファッションの店に釘付けになってる。まあ職業病でもあるんだろうけど。
「モデルかあ」
「ん? 興味ある? 沓澤クンも応募してみる?」
「い!? 冗談キツイですよ。そうじゃなくて……やっぱ服とか好きなんだなって」
「うん。まあ好きだけど」
「天職?」
「どうなんだろ。どっちかって言うと、沓澤クンのモノづくりの方が天職に見える」
「ああ、それは間違いないです。僕、何か作ってる時が一番幸せですから」
「堂々と言えるのカッコいいよね」
「溝口さんは堂々と言えないんですか?」
「アタシの好きは……一番かなあ? 何となく、顔が良いから、スタイルも良かったから、元から持ってる物が人より上だったからやってるように思えてならない」
少し他人事みたいな言い方なのは、恐らく彼女自身もまだ自分の心が掴めていないんだと思う。
いつの間にか僕も彼女もモールの通路中央に置かれている休憩用のソファーに座り込んでいた。
「しかし、自分で顔やスタイルが良いって言っちゃうんですね」
「うーん、多分、可愛い女の子、男ウケする女の子は、ええそんなことないですよ~って言うんだろうけど。嫌いなんよね。美人なら美人。それで良いじゃんって」
確かに男に媚びる謙遜なんて似合わない人だと思う。
「やっぱ沓澤クンも可愛げ無いなって思う?」
「可愛くないかどうかは分かんないですけど、僕も溝口さんの考え方の方が好きです」
「す……あんがと」
ぶっきらぼうに口を尖らせて礼を言ってくる。こういうの時折見せてくる方が可愛いなって思う。普段はイケイケなのに、地味に照れ屋っていう。
「見んなしっ!」
知らずニヤニヤしてしまってたらしい。頬をグイと押され、爪が刺さる。ネイルチップかな、意外とフニャッとしてる。溝口さんはわざとらしい咳払いをして、話を戻す。オッサンくさいと茶化したら永遠に話が進まなそうなので黙っておいた。
「沓澤クンは最初から、モノづくり上手かった?」
「まさか。手とかメッチャ切りましたよ。線もヨレヨレだったり。一個一個トライアンドエラーです」
「だよね。アタシは最初から結構メイクも上手く出来たっていうか、少々ミスっても元が良いからそこまで見栄え悪くならないし……要するに失敗してクソーってなって、そこまでして続けてきた物じゃないっていうかさ」
「真剣度が違うってことですか?」
「うん。沓澤クンみたいに跳ね返されてまた挑んで、それでも上手くなりたいって情熱を持ってやってきたのかって言われると、そうじゃないんだよ」
「例えば、持って生まれた肌質とかで化粧ノリが悪かったりしたら、そこまでメイク頑張ってないって事ですか?」
「うん、そう。確実にそう。ナチュラルメイクのズボラファッションで、頑張ってませんアピールして、逃げてたと思う。そういうダサいヤツなんよ」
「……うーん。別に良いと思いますけどね。僕だって逃げてること一杯ありますし。たまたま才能あるなし抜きで夢中になれる事が早くに見つかったってだけですよ。他の、興味ない分野なんか一瞬も頑張りたくないです」
笑いかける。
「そんな焦ることないですよ。何か他の好きな事が見つかるかもしれないし、ふとした瞬間に、もっとモデル業が好きになる可能性だってある。まだまだ僕ら高校生なんですから」
ちょっと説教臭かったかなと思いつつも、溝口さんの安堵したような笑顔を見て、僕もホッとした。彼女みたいに明るい人が曇ってるのを見るのは苦手だ。
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