14:ギャルが豹変した

 <星架サイド>



 うわああ。語っちまったあ。ついつい、甘ったれた弱音吐いてしまった。マジでキャラじゃないってこんなん。けど、沓澤クン、めっちゃ一生懸命励ましてくれた。幻滅されたり、面倒くさがったりされるかもって、ぶちまけた後に不安になったけど、全然そんなことなかった。


 優しいよね。アタシが凹んでるの見て、凄く心配げな顔してるから、なんか心が軽くなったんだよね。それで不思議と沓澤クンの言う通り、焦らずに続けて行こうって少し前向きになれた。何か他に好きなことが見つかるかも、続けてるうちモデルが本当に天職と思える瞬間が訪れるかも、か。


「それじゃあ、今日は御馳走様でした」


「うん。いや、何か逆にアタシが付き合って貰ったっていうか、ウィンドウショッピングとか……人生相談とか」


「いえいえ。楽しかったですよ、今日」


「そっか、そう言ってもらえると誘った甲斐があったわ」


「あとは木彫りですね。何にするか決まったら言ってください。今川義元ならすぐに作れますし、なんなら首と胴体を」


「えっとさ、それなんだけど」


 不穏な事を言い出したので慌てて遮る。戦国武将へのリスペクトだけは無いよね、この人。何か恨みでもあんのか。いや、今はそんなんどうでも良いんだ。

 アタシはスーッと息を吸って吐いて。心の中で気合を入れる。


「ちょっと古いアニメでさ。魔法少女ミラクル☆クルセイダーズっていうのに出てる、クルルちゃん」


 アタシは賭けに出た。清水の舞台から飛び降りる覚悟ってヤツだ。性急に過ぎるし、もっと距離を詰めてからの方が良かったんだろうけど、やっぱ白黒ハッキリつけたい。さっきアタシの名前の漢字で引っかかってたの見ちゃったら、どうしても。そうなんじゃないかって疑いが止められない。

 果たして沓澤クンは……


「あー、あったなあ。そんなアニメ。確か昔、作ったような。フィギュアだったけど」


 敬語じゃないのはアタシに向かって話しているって感じじゃなくて、自分の過去を思い出しているからだと思う。ただアタシは彼の口調とかどうでもよくて、興奮で目の前がチカチカしていた。賭けに勝った? 本当に、沓澤クンがコウちゃん?


「あの頃は結構フィギュアづくりハマってたから、色々作ったんだよなあ。そん中にクルル? ってキャラも居た気がするんだけど……」


 落ち着け。まだ確証までは至らない。あと一歩。


「へ、へえ。その作ったフィギュアってどうしたん?」


「え? ああ、確か……人にあげたハズですね。病院に居た子じゃなかったかな」


「っ!」


 マジか。マジだよ。コウちゃん。やっぱコウちゃんだったんだ。やっと見つけた。いや、本当にまた会えるとは思ってなかった。もちろん、そうなれば良いなって思って引っ越してきたんだけど、流石に現実的には無理だろうなって半分以上は諦めてた。なのに。見つけてしまった。願掛けに詣でた神社の賽銭箱に一万円くらいブチ込んで来ようか。もう何だろコレ。ガッツポーズしたい。


「コウちゃ」


「フィギアに関しては最初にあげた、メグルって子がメッチャ喜んでくれて。そのインパクトが強くて、他の人たちはあんま覚えてなかったりするんですよ」


 …………は?


「まあもう十年近く昔のことだから覚えてなくても仕方ないですよね、ハハ。それで、えっと、そのクルルってキャラを作れば良いんですよね?」


「……らん」


「え?」


「要らんわ! 馬鹿コウちゃん!」













 

 <康生サイド>



 突然の罵声。ビックリして思考が完全に止まってしまう。その間に、溝口さんは走り去ってしまう。モールの駐輪場へ猛ダッシュで向かい、そのまま自転車に乗って飛び出した。歩道を爆走し、あっという間に見えなくなる。


「え、ええ……」


 全く意味が分からない。僕、何かしてしまったんだろうか。うん、多分そうなんだろう。けどそれが全然分からない。走り去る直前を思い出してみる。馬鹿コウちゃん。僕の下の名前を呼んだ。もちろん今日一日、今までと同じく沓澤クンかアンタとしか呼ばれていなかったにも関わらず、あの場面だけ下の名前。


 更にキレる前、メグルの話。まさか溝口さんはメグルの知り合い? いや、溝口さんは今年になってこっちに引っ越してきたばっかり。メグルと面識があるワケない。そもそも仮に知り合いだったとしても、怒るような事じゃない。


 分からない。全然何も分からないままの頭の中を、最後に見た溝口さんの泣き顔がずっと駆け巡っていた。

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