12:ギャルに昼食を奢ってもらった
「ひーひー、はあ、ヤバい。笑い過ぎて腹つる」
溝口さんが笑っているのは当然、僕のプリ。生まれて初めての経験に証明写真機の中より緊張しまくった挙句、「ほら笑って笑って」と隣の彼女にせっつかれ、無理やり笑ったのだが、すごく不格好な笑い方になってしまった。そこまでなら、まあ緊張してる写真だなで終わってた話なんだけど。
「こんなガンギマリ写真、どうするんですか? 僕いらないですよ?」
「やめ、今それ言うのナシ。あは、ははははは」
そう。その変な笑顔のまま、目元だけパッチリでか目に変えたモンだから、凄まじい顔になってしまったのだった。そして僕の反対を押し切り、溝口さんは爆笑しながら、そのまま印刷ボタンを押下。今に至る。悲しき怪物と美女のツーショットは完全に資源の無駄。
「ほら、もう行きましょう。12時前ですから、今から並んでも大分かかりますよ」
土曜日のモールはかなり人が多かった。人気のテナントなら何十分待ちか想像もしたくない。普段ボッチの僕は、既に人酔いしそうになっている。溝口さんには悪いけど、早く昼飯食べて帰りたい。
「待って待って。あと一回。今度はガチのヤツ。盛りとかナシのヤツ」
「それだったら携帯のカメラで良くないですか?」
「うーん。プリって友達と仲良くなった記念とかで撮るモンだからさ」
友達。僕らは友達って認識で良いのか。陰キャの友達すら居ないのに、いきなりギャルの友達って。四天王の塔が残ってるのに魔王城に殴り込むくらい順番がおかしい気もする。
「分かりました。今度こそ、紙の無駄遣いはしないで下さいよ」
そうして二度目も撮った。溝口さんに肩を抱き寄せられてかなりビビった。胸が当たるかもなんて不埒なことも一瞬過ったけど、カバンを僕側の肩にかけてて、さりげなくガードしていた。なるほど。ギャルだけど清純担当だったっけ。
店舗の方は混み過ぎてダルかったので、フードコートにやって来た。まあこっちも凄い人数だけど。
「どれにしようか?」
さり気なく一番安そうな店を探す。「はなからうどん」があった。あれが良い、と指をさす。すると溝口さんは僕の遠慮に気付いたみたいで、
「もっと高い店でもいいよ。稼いでるし、多少」
と言ってきた。ただ僕としては実は遠慮以外にも理由があった。
「いや。あれだと待たないで済むので」
他の所だと、ブザーを貰って鳴ってから取りに行くシステムだけど、「はなから」は客が自分でトレーを持って注文、うどんを受け取った後、途中の揚げ物を取って、お会計までレーンを進む方式なので、待ち時間が他とダンチだ。
「なる。んじゃアレにしよっか」
溝口さんは別に僕に合わせる必要は無かったんだけど、一緒に並んでくれた。今日は暑いし、冷たいうどんにした。天ぷらも勧められたので、失礼して温玉天を選ぶ。
「おお、温玉か。美味いよね、それ」
「はい。溝口さんは、かしわ天ですか。ヘルシーですね」
そんな益体のない話をしながらレジを待ち、僕らの番になる。
「お会計一緒で」
と溝口さんが僕と自分のトレーを指さすと、レジの若い男性は少しビックリした表情で、はいと言った。まあそうだよね。僕みたいな冴えない陰キャに美人のギャルが奢るって、どういう関係? ってなる。
ペロッと平らげた僕たちは、食休みにしばらくイスに座ってダラけていた。溝口さんはカバンからプリント帳みたいなのを出してきて、さっき撮ったヤツをしまっている。僕も半分もらってるけど、正直扱いに困るんだよね。
「あー、そうそう。マジ忘れてたんだけどさ。番号交換しよ」
スマホを持ってフルフルと揺らす溝口さん。意外にもスマホはデコデコしてない。リングがついてるくらいでシンプルすっきり。
「あ、はい」
「今朝さ、もし沓澤クン来なかったら、家まで行かなきゃとか思って。マジ不便やんって」
「あー。流石に約束すっぽかしたりはないですよ」
後が怖いし。
「でも結構、強引に誘ったじゃん? 来れなくてもしゃーないかなって」
自覚があるなら是非やめていただきたい。
とにかく、番号を交換。ついでにレインのIDも交換した。
「星を架ける」
「あ、漢字ね。そうそう、スターブリッジみたいな」
「星を架ける」
何か、どっかで聞いたようなフレーズ。
「……どうかした?」
「いえ。何か、いえ。良い名前ですね」
「……ありがと」
溝口さんも怪訝というか探るような目をしていた。僕はけど、引っかかる物が何なのか結局わからなかった。
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