11:ギャルとのデートが始まった
10時45分、現着。イワンモール自体久しぶりだったから、西口がどっちだったか、館前の案内板を見なくてはいけなかった。歩いて更に5分近く。やばいやばい。真反対で一周しちゃった。10時52分。
待ち合わせ場所へ着くと既に溝口さんは来ていた。上はヘソが見えるくらい短尺の黒カットソー。金の英字が入ってる。下は脱色したような薄水色のダメージ気味のジーンズ。白いショルダーバッグを肩から掛けている。うわあ、話しかけたくないな。嫌だなあ、怖いなあ。
「あ! 沓澤クン!」
振り向いたらサングラスまでかけてた。バチバチのギャルファッションだ。銀に程近いアッシュグレーの髪が振り向いた動きに合わせてフワッと舞った。毛先はかなり巻いているらしい。いつもより少し柔らかい印象だ。服装がギャルっぽいのに、髪はふんわり。敢えてのハズシみたいなヤツだろうか。ファッション上級者だけに許されるという、あの伝説の。
「おはようございます。待たせてしまったみたいで、恐縮です」
「んーん全然。アタシも今来たとこだから」
何かデートっぽいやり取り、とか思う余地はあんまりない。ぶっちゃけタイプも何も違い過ぎる。周囲にも、甘い関係に見紛う人は居ないんじゃないかな。
「行きましょうか」
「ねえね。今日のファッションどうよ?」
うわ。それを僕に聞くのか。どう答えても恥かくヤツじゃないのか。
「……ギャル、ですね」
「それは分かってんのよ。それが似合ってるか、可愛いか、ってそういうフェーズなんよ」
知らない間にそんな剣呑なバトルフェーズまで進んでたのか。こっちまだ召喚酔いなんだけどな。
「その、溝口さん美人だから、何着てもお似合いだと思います」
「……」
溝口さんは面食らったように、押し黙って、それから少し嬉しそうにはにかんだ。う、普通に可愛い。言われ慣れてるだろうに。その度、こんな嬉しそうにするんだろうか。何となく違う気がする。あんまり男に可愛げを見せるタイプじゃなさそうと言うか。キノコが机運ぶの手伝ってた時も、最低限のぶっきらぼうな礼しか言ってなかったし。そう考えると、ウチの作業所で見せてくれた天真爛漫な姿や今の照れ笑いは貴重なのかも。
「ありがとう。沓澤クンも、カジュアルで良い感じだと思う」
ポロシャツとジーンズという、世界中どこでも見られるような格好だ。これでも少し悩んだんだけど、気合入れてる勘違いクンみたいに思われても嫌だから、結局いつも通りな感じで来た。
「良かったです。信長柄のシャツと悩んだんですが」
「信長柄!? すげえ見てみたいけど、今日ではないな。確かに」
和気藹々と話しながら、二人でモールの自動ドアを潜る。はー涼しい、と溝口さんが両手を広げた。
少し危惧していたけど、思ったよりは全然目立たなかった。アンバランスな組み合わせだから、二人を見比べて僕の方に「フッ」みたいな嘲笑があるかなとか。考えすぎだった。モールには色んな人が居て、いちいち他人の関係なんか詮索するほど皆ヒマではないということ。卑屈が過ぎるあまり、逆に自意識過剰になってるんだろうな。誰よりも僕自身が、溝口さんと連れ立って歩くには役者不足だと感じている証拠か。まあ実際、彼女が恩に感じてという事情がなければ、二人でこんな日向を練り歩くことなんて絶対なかっただろうし。
「どうする? 先にゲーセンとか行く?」
「いえ、パチンコはちょっと」
「アタシを何だと思ってんだよ。あのコーナー入ったこともないわ」
そもそもなんでゲーセンにパチンコやスロット台があるんだろうな。
「プリ撮ろうぜ」
「ブリ捕ろうぜ? 定置網……」
「ハハハ。ブッ飛ばすぞ」
「すいません」
流石に調子乗りすぎたか。いや、ぶっちゃけイヤなんだよ。アレこそ正に陽キャの巣みたいな機械だから。けど僕の内心なんてお構いなしな溝口さんは、ガシッと僕の手首を掴んで、グイグイと引っぱって行く。うわあ。女の子の手って本当にちっちゃいんだな。とか思っている間に、あっという間にモール内のゲーセンに連れ込まれてしまうのだった。
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