7:陰キャの取り調べを受けた
| <星架サイド>
勧められるまま作業所の椅子に座ると、沓澤クンは冷蔵庫から飲み物を出してくれた。ライチの清涼飲料。ラッキー。アタシの大好きなヤツ。とか言ってる場合じゃねえんよ。
「えっと、まず、なんで僕の家を知ってるんですか?」
「あー、うん。実はアタシさ、隣町から引っ越してきたばっかで土地勘なくてさ」
考えろ、考えろ。全力で誤魔化す!
「ここら辺もグルっと回ってみたくなって。そうしてる時に、沓澤製作所って見っけちゃって。ほら珍しい苗字じゃん? ここ沓澤クンの実家じゃね? みたいな」
「……なるほど」
筋は通ってるハズ。沓澤クンも疑ってない、多分。畳み掛ける!
「それで昨日、本当は帰りについていって沓澤クンの家か確かめたかったんよ」
まあ実際は、嫌な顔されたから引き下がったと見せかけて、勝手にストーキングして確認したんだけどね。
「なぜ? ここが僕の家だろうが、そうじゃなかろうが、あんまり溝口さんには関係ないような」
確かにねー!
「ほら、やっぱ気になるじゃん。答え合わせだけ出来ないクロスワードパズルとか」
いや苦しいわ、と思ったけど、意外にも沓澤クンは口を開けて、
「あー。分かります。気持ち悪いですよね」
と同意してくれた。何か知らんけどラッキー。
「じゃあ、それは良いとして……なんでこっそり覗いて写真撮ってたんですか?」
「あー、それは」
まあそうやんね。当然の疑問だよね。
「何か凄いなって」
「凄い?」
「うん。覗かれてるのも、ってアタシが言うのも変な話だけど、覗かれてるのも気付かないくらい、ガチで取り組んでる姿っていうのかな」
「え!? アレ、僕を撮ってたんですか!?」
「は?」
「僕、てっきり作ってる物の方を撮ったんだと思ってたんですけど」
「え!? あ、ああ」
そういう逃げ道があったか。うわ、クソ恥ずい。アンタがカッコよかったから思わず撮っちゃったって言ってるようなもん? 誤解される……いや、誤解じゃないか。
アタシはスマホを操作してギャラリーから、あの画像を呼び出す。夕日の差す古い工場の中で、とてつもなく真剣な眼差しで創作物と向き合う少年。彫刻刀の銀がキラリと煌めいた瞬間を撮れている。綺麗。沓澤クンは、顔自体はフツメンから少し良いくらい。けど、この
「ちょ、マジで僕がガッツリ映ってるじゃないですか!? さ、流石にそれを上げられるのは……」
沓澤クンの困惑顔。少し怯えたような雰囲気もある。もしかすると、昨日の自転車修理の映像もSNSに上げられるのイヤだったとか? それを断り切れず、みたいな。アタシの周りはハッキリ物事言うタイプばっかりだから、汲めなかったのかも。しかも間違えて仕事用アカに上げちゃったから見た人は多かっただろうし。
「大丈夫、これはツイスタに上げたりしないから」
そう言うとあからさまにホッとした顔をする。ああ、やっぱり。それはそうだよね。自分の世界があって、これだけ没頭する物がある人にとって、教室内で平穏に過ごす方が、アタシみたいなのと付き合うより遙かに大事だよね。
「……っ」
アレ? 何か少し胸にチクって刺すような痛みが走った。
「その……正直、消して貰えると、嬉しいんですが……」
「え?」
それは嫌だ、と脊髄反射的に思った。こんなエモい写真、多分もう撮れないし。いや別に写真に興味あるとかじゃないんだけど。素人でも良い写真は手元に残しときたいって感じるのはフツーっていうか。
「悪用とかはしないから。誓う、マジで。メッチャ良い感じに撮れてるからさ。勿体なくね?」
「いや同意を求められても……僕の写真を、僕自身がそれ良い写真だから消すのは勿体ないとか言い出したら、キモくないですか?」
「あ、うん、それは、まあ。じゃあ、やっぱダメかな」
「……何かよく分かんないですけど、本当にSNSに上げないなら。あとコラ画像にして遊んだりとかしなければ」
「しないから! アタシのこと、何だと思ってるん?」
と言ったものの。ストーカーの盗撮魔、おまけに写真を別アカで上げた前科もある。うん、アタシが沓澤クンの立場でも警戒マックスだわ。マジでごめん、沓澤クン。そしてそれでも写真を残すのを許可してくれてありがとう。
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