6:陰キャを激写した

<星架サイド>



 放課後のホームルームが終わると、沓澤クンはそそくさと教室を後にした。多分アタシ以外だれも気付いてないレベル。ボッチりょくは伊達じゃないな。千佳ちかも言ってたけど、喋ったら面白いんだから、もっと積極的にクラスメイトと交流すれば良いのに。GW過ぎて、もうクラス内のグループも大方固まってしまってるし、今更難しいのかも知れないけど。


「ウチのグループ来れば……」


 いや。それこそムズイ。アタシも流石にそこまで鈍感じゃない。ツイスタのミスも、それをクラスで言ってしまったのも今はマジで反省してる。すっかり忘れてたんよね。陰キャみたいな人をアタシらみたいなのが構うと、周囲の方が鬱陶しいこと。所謂カーストの位が自分より低いと思ってる相手が成り上がるのなんて見たくないって事か。


 はー。だっる。別に誰が誰と仲良くしたってよくね? アタシと沓澤クンは友達になれない? アタシの責任でも、沓澤クンの責任でもなく、全然関係ない第三者たちのせいで。そう考えると、やたらムカついた。


「溝口」


 声に振り返る。案の定、マッシュヘアーの雰囲気イケメン。宮坂。鬱陶しいな。話しかけんなオーラ全開で先歩いてるのに、普通についてくるとか頭沸いてんじゃね。


「なに?」


「一緒に帰らね? 駅前にたこ焼き屋できたみたいでさ。どう? おごるよ?」


「いいわ。おごられる謂れないし」


 出来るだけすげなく言って、後はもう振り返らずに自転車置き場に向かっていく。

 嫌いなんだよね。容姿以外、なーんも持ってないヤツ。たぶん同族嫌悪の類だと思うんだけどさ。


 ふ、と。沓澤クンの顔が脳裏に浮かんだ。あんな凄い図面引けて、って言うかあんだけ集中できることがあるってだけで、アタシからすると尊敬なんだよな。自分の世界か。いつかアタシにも見つかるんかね。それともただ何となく容姿の良さだけで渡っていくんかね。


 自転車を漕ぎ出すと、何故か自宅への一本道の途中で右折してしまった。













 今日は作業場のシャッターが上がっていた。げ、と思った。もし知らない従業員に見咎められたら、割と言い訳に困る。まさか、お宅の社長の息子さんをストーキングしてきましたとは言えない。

 ふら~と自転車で通り過ぎてみよう。その時に少しだけ中を覗いてみよう。いや……マジでストーカーそのものだな。けどここまで来ちゃったしさ。そっと。そっと。蛇行しながら滅茶ゆっくり。


 そこでアタシは見てしまった。工場の窓から差し込む西日に照らされてキラキラと汗を輝かせる沓澤クンの横顔を。作業用の机の上で、塊みたいな角材に彫刻刀を丁寧に何度も走らせている。頭に白いタオルを巻いて、口を真一文字にキュッと結んで、目は彫刻刀と製造途中の木塊だけをひたすらに見つめていた。


 息を飲んでしまった。自転車のタイヤは完全に前転をやめ、アタシの両足はアスファルトを踏みしめていた。目が離せなかった。この光景を切り取って持って帰りたい。そんな馬鹿な事を考えてしまった瞬間、ほとんど無意識にスマホを取り出して、カメラを起動していた。


 パシャ。


「っ!? え!?」


 沓澤クンが目玉が飛び出すかと言うほど目を見開いて、こっちを振り向いた。あ。しまった。


「み、溝口さん!? 何やってるんですか? え? は?」


 そりゃそうなる。


「ち、ちが。これはストーカーとか盗撮とかじゃなくて」


 ヤバい。どう見てもストーカーの盗撮犯だから。マジでアタシなんでこんなこと。


「と、とにかく、お邪魔しましたー」


 退散あるのみ。アタシは跨ったままだった自転車を慌てて漕ごうとして……


 ガキン!


 凄い音がして、恐る恐る後輪を見ると、チェーンがまた外れていた。あー、うん。終わったわ。恥ずかしくて顔あげらんない。


「えっと。取り敢えず、チェーンは直しますけど……それとは別に、少し話を聞かせてもらって良いですか?」

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