第17話 男子三人集まれば

─── 田所拓海視点 ───


「では、第4回女子風呂覗き作戦の会議を始めよう」



俺の初めの挨拶に藤井と桜木がパチパチパチと拍手する。藤井はやる気なさげで桜木はめちゃくちゃやる気だ。



俺、田所拓海と隣の部屋の桜木悠斗は藤井健太郎の部屋に集まることが多い。毎日では無いというのは男にはどうしても一人になりたい時があるからだ。そういう時は事情はわかっていながらそっとして置いてやるのが男の友情というやつだ。藤井なんかはそういう時は部屋に鍵を掛けているので丸わかりだ。そういう時は俺の部屋を提供して桜木と二人でいたりしている。



俺たち三人は同中ってやつだ。俺と藤井が陸上部で友人だったところに高校になってから桜木が加わった。桜木はノリのいいヤツで俺たちとウマがあった。



「ここと、ここはダメだ。最近ではここも潰されている」



俺は手書きの見取り図を広げ対策されてしまったルートにバツをつけていく。



長い修学旅行となった異世界召喚ではあるが、修学旅行のテンプレは外せない。漫画・アニメでは定番となっている女子風呂を覗くというイベントを俺たちが見逃すはずが無い。当然、初日から特攻し、武装した先生と女子達に阻まれてしまっている。完全に俺たちの行動を読まれてしまっている。



「くやしいが黒羽の読みが上手だったってことだよなぁ」



桜木がくやしそうに愚痴る。そうなのだ。俺たちは女子風呂を覗くというテンプレ行為を行おうとしたのだが、普通に考えて今どきそんなことをする奴はいない。いくら修学旅行や異世界召喚で浮かれているとはいえ、そんなド定番の行動を現代の高校生が行うなんて思わないい。だからこそ、俺たちは逆をついて決行したわけだ。完全に隙をついたはずだった。



だが、やつは完全にそれを看破していやがった。女子風呂の壁面にある通気孔からの覗きスポット。事前の下見を済ませ計画は完ぺきなはずだった。俺たちも含めて大なり小なり混乱している最中、警備に頭が回るはずがないと考えていた。が、あっさりと現場を抑えられてしまった。



「いや、黒羽先生が覗きをしていて現場に遭遇したって可能性もあるか?そういうことしててもおかしくないからな」


「確かに!」


「確かに!」



俺と桜木は藤井の意見に同意した。あいつ絶対むっつりの顔してるからな…。と、黒羽の熱い風評被害をしたところで話を戻そう。



「完全にルートは全部潰されてないか?」


「それは俺も思った。こことか俺たちも知らないスポットじゃね?」


「藤田と北山が失敗したところを俺が書き足したやつだな。あいつらのせいで警戒が強化されたと言ってもいい」



俺たちの他にも覗きにチャレンジしたやつらがいる。藤田と北山の二人だ。あいつらは存在が騒々しいのでバレるのもしようがない。失敗されると警戒が強化される。本当に迷惑なやつらだ。それにあいつらは覗きに対する美学と情熱が足りない。ただのイベント感覚で覗きをしようとしているとしか考えられない。



覗くということは倫理観の破壊だ。だからこそ大きな感動を得られるのだ。ただ単純にエロい物をエロい物として見るだけなら動画でも画像でもいくらでも手に入る。いまはインターネットは無いが、俺のスマホにも他のやつにも相当量のデータが存在している。それを共有するだけで、有限ではあるがいくらでも手に入るのだ。



しかし、覗き、しかも同級生のとなれば話は違う。絶対に不可侵である領域に踏み込むということ、普段顔を合わせている普通の関係性の女子の隠された部分を見るという禁忌。それを破ることに意義があるのだ。そして、それはリスクが高いほど価値が上がるという物だ。



それをあの二人が分かっているとは思えない。まるで小学生男子のノリで相いれない。



「なあ、そうは思わないか?」


「まあ、そうかなー」


「いや、そんなことないだろ」



桜木はちょいノリで藤井は否定的だった。藤井、お前も情熱が足りない。



「俺は今回は抜けるわ」


「マジすか!?じゃあ俺もやめとこうかな」


「嘘だろ?なんでだよ」


「リスクが高すぎる。そろそろ女子達の視線がきつくなってきたからな」


「それな」


「ぐぬぬ…」



反対2に賛成1になってしまったらチームは崩壊だ。音楽性の違いだよお前ら。



「正直そんなに見たいってこともないしな」


「それっすね」


「おい!根幹を否定することを言うな!」



志を同じにしていたと思っていたのだが、どうやら一人よがりだったらしい。



「そもそも誰のだったらみたいんだよ?」


「僕はクラスにはいないな」


「俺もいないっすねー。どっちかって言うと大人のお姉さんが好きなんで」


「佐藤ちゃんとかはいいんじゃない?大人だろ?」


「いやいやいや、あかねちゃんは大人だけどお姉さんって感じじゃないでしょ」


「確かに!」



佐藤あかね先生は俺たちからしたら大人だけれど、キャラ的には妹系だからな。桜木が求めるお姉さん像とはかけ離れている。お姉さんとは年齢で慣れるモノでは無い。生き様でなる物だから。



「じゃあ、しゃあない諦めるかぁ」


「そうだな」


「そうっすね」



俺一人でもやるという選択肢はあるが、そこで一人でやり始めたらそれはイベントではない。完全に変態のそれだ。まあ、どちらにしろ変態と言えばそうなのだけれど。



「じゃあ、あれやるか。修学旅行の定番のやつ」


「なんだ?麻雀はお前ら弱いからしばらくやらないぞ」


「いやいやいや、藤井くんが強すぎるんですって」


「麻雀じゃねーよ」


「大富豪やるか?トランプ借りてくるか」


「いいっすね。俺、中学で泉野の革命児って呼ばれてたんすよ」


「いや、同中だけど聞いたことねーよ」


「マジすか?結構有名だったんすけどね」


「違うだろ!好きなヤツいねーの?のヤツだよ!」


「それは初日に散々やっただろ?」


「俺はクラスにはいないっすね。俺、女優の藤沢京香さんみたいなお姉さんが好きなんで」


「どんな人?」


「待ち受けにしてるんすよ」


「あーなるほどねー」


「あ、興味ないっすか?」


「ほら、俺、10歳以上は興味ないから」


「あ、そうでしたね。すんません」


「だーかーらそういうんじゃねーんだって!もっとあるだろ!それじゃ普通の会話じゃねーか」


「普通の会話しちゃダメっすか?」


「お前はテンプレとか狙いすぎなんだよ」


「テンプレの何が悪い。お決まりっていう名の儀式だろ。修学旅行っぽいことしようぜ」



俺は二人に懇願する。修学旅行という特殊条件下でしか出来ないことをしたい。それのなにが不満なのか。いましか出来ないことをやる。やらない後悔よりもやって後悔したい。



「わーかったよ。で、何がやりたいんだよ」



説得の末に藤井が折れたことで俺の話を聞いてくれるようになった。



「俺がやりたいのは…女子のティア表だ」


「ま、まじすか…」


「お前最低だな」


「いや、でも盛り上がるぜ」


「確かに」



藤井と桜井がゴクリと息を飲み込む。これはかなりの禁忌の所業だ。



ティア表とはソシャゲなどのゲームでよく見るキャラなどの性能評価を階層に分けて分類するランク付け方法だ。だいたいがSSランク~Cランクで階層分けされていて、S、SSなどの上位のキャラなどがソシャゲなどでは一軍評価でパーティーの戦列に加わることになる。もちろんCランクは戦力外だ。



漫画やアニメなどでの修学旅行の定番である「好きな女子を告白する」は実際のところハードルが高く、本人がよっぽど言いたいだけの時以外は行われることは少ない。しかし、このティア表やランキングは自分が好きな女子をオブラートに包むことが出来、なんとなく言いたいという欲求も解消出来るという修学旅行での新定番だ。



しかし、これはとても大きな危険を孕んでいる。それはこのことが外部に漏れることだ。「好きな女子を言う」であれば、相手への好意を告白するという一番を宣言する肯定的なものなので比較的悪い印象は無い。しかし、このランキングとティア表は上位だけで無く、下位も決定していく。この内容が外部に女子にバレてしまうと、次の日から俺の存在はゴミカス以下で扱われることは必然だ。



俺たちはいま禁忌に触れようとしている。



「では、出席番号順でいくか…」


「マジか…」


「やるんすか…」



出席番号1。木村一夜。ロングヘアーの高身長クール系女子だ。女子達のグループの中に居ても一歩引いて、時々ツッコミを入れるような役回り。確か軽音部でギターを担いで登校しているところを見かける。バンギャだな。



「ティアBか…」


「いやAの後ろの方でいいんじゃないか?」


「そうすね…。ってなんなんですかねこの緊張感」



出席番号2。佐々木あやめ。県外からやってきている健康優良児。髪をポニーテールにしているのは高評価だ。高城のおもりというか悪友の面倒を見ているような関係性だ。



「佐々木はティアSだな」


「いや、お前ポニテ好きすぎだろ」


「Sまでいきますか?良くてAじゃないっすか?」



佐々木はAの一番前ということになった。ふぅーなぜだろう。ヒリつくぜ。



出席番号3。三ノ宮美月は満場一致でティアCとなった。



出席番号4。高坂みなみ。同年代とは思えない色気がある女子だ。胸もかなりある。これは高評価だ。しかし、意見が割れた。藤井の評価がダントツで低かったからだ。こいつの性癖とは相反する物だったらしい。



「そもそもこのティア表の基準を明確にしとかないといけないんじゃないか?付き合いたいかどうかの基準ってなると高坂はぶっちぎりのCだし、一般的にモテそうとかって基準にすると高坂はかなり上位に入るのは間違いないことは分かる。そういうことならSに入ってもおかしくないんじゃないか?」


「自分と他の意見とのギャップもありで決めたらいいじゃないっすか。そっちの方が盛り上がって面白そうだし」


「じゃあ、意見が割れたら話し合いで、決まらなかったら間をとっていくか」



出席番号5。高島奈々。綺麗なロングヘアーによく通る声の美人。初めて見たときはどこのお嬢様かと思うような上品な女子だった。過去形なのは彼女がツッコミ気質でいじられキャラだったところだ。段々とボロが出てきて、木村に弄られるのが定番となっている。ティアBだな。



出席番号6。高城美咲。可愛い顔立ちの女子だが、行動がめちゃくちゃで謎理論で回りを引っ掻き回す。ヤンデレ気質だな。胸はデカい。ティアC。



出席番号7。橘愛菜。黙っていれば多分、美少女なんだけれど、黙っていることは無い。田中に絡んではいつも喧嘩している。ティアCだな。



出席番号8。田中未来。うちのクラスはロングヘアーが多いが田中も綺麗なストレートヘアー。クール系女子なんだろうけれど、その目は何人かヤってるんじゃないかってくらい鋭く怖い。クールを通り越してフリーズなんだよな。胸は無い。ティアC。



出席番号9。中村美結。落ち着いているのかいないのかわからないマイペース女子。髪を後ろで結んでいる若干ボーイッシュ。ギャルではないが、オタクに優しい。というか彼女自体がかなりのオタク。ネットスラングからゲーム、アニメ、特撮までなんでも知っている怪物。でもその辺は高評価。ティアAだな。



出席番号10。葉山あおい。ボーイッシュで得点を付けるなら120点の陽キャ。ウェーイ的な陽キャでは無くて、性格が明るい陽の者。ショートヘアもよく似合っておられる。陽の者は俺にとっては完全に苦手な生き物のはずが、彼女には何故か苦手意識が持てない。多分、本物の陽の者の気に充てられてしまったのだろう。ティアS。



出席番号11。藤川さくら。デカい。ティアS。



出席番号12。水野悠里。ロングヘアーの大人しい女子。同年代だけれど庇護欲を掻き立てられる生粋の陰キャ。しょっちゅう高坂と話していて、ボソッと毒舌を吐いている。そういうところも陰キャ。ティアA。



そして!外から失礼しますよで現れた俺のマイエンジェルことイリスたん。金髪碧眼の美少女なんてお約束もお約束で最高だ。婚約破棄された公爵令嬢で、魔法を使えない呪いまで受けているなんて、テンプレ設定盛りすぎだろ!最高か!穿いてないのも高評価。これは文句なしのSS!藤井と桜木も同意してくれた。



最終結果は


ティアSS イリス


ティアS 藤川 葉山 高坂


ティアA 佐々木 水野 中村 木村


ティアB 高島


ティアC 三ノ宮 高城 橘 田中



偏ったような偏ってないような中々いい物が出来たんじゃないか?紙に書き出すことで一つの作品が完成したような満足感があった。



「じゃあ、そろそろ寝るか」



俺たちは満足して出来上がったティア表を机に置き、灯りを消して寝ることにした。



「明日、授業ないらしいな」


「そうなんすか?」


「なんでもカレンダー的に祝日にあたるから授業しないって」


「黒羽そういうとこマメだよなー」


「仕事したくないだけじゃねーの」


「確かに」



電気を消しても話は終わらない。誰か順番に寝るまでくだらないことを話している。



「なんかみんなで街に出るらしいっすよ」


「それはいいな。異世界の街とか見てみたかったんだよな」


「お土産にバスタードソード買ってこようぜ」


「観光地の木刀じゃないんだから」


「まじで木刀買ったら英雄だよな。ダサ過ぎる」


「いや、俺は買うつもりだったけど…」


「マジかよ…」



少しづつ眠くなってきて、話はわけがわからないまま続けられる。



「もしさ、元の世界に戻れなかったらどうする?」



俺はなんとなく切り出した。黒羽はきっとなんとかして帰還方法を見つけるだろう。何故かはわからないけれど、よくわからないことでもなんとかする謎の信頼感があった。だから、もしもの話だ。



「あーまーあれだな。冒険者になって世界を救うとかやってみるのもいいんじゃないか?」


「いいっすねー。でもわざわざ住所不定無職になんなくてもいいんじゃないですか?」


「確かに」


「じゃあ、騎士団とか入って俺たちで遊撃隊作って魔王討伐とかしたらいいんじゃないか?」


「それいいかもな」


「それだったら公務員っすね。将来は安泰だ」


「じゃあ、今回の件が片付いたら先生に話してみようぜ…」



そんな話をしながら俺たちは意識を手放していった…。

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