第8話 義男は話さない(母親サイド)
麻美は特別休暇をもらったので、入院二日目は朝から病院を訪れることにする。昨日と違うのは今日は休みで、義男の付き添いを一日出来る点だ。看護婦に、
「義男は昨日、どのように過ごしていましたか」
「特に症状は変わったところはありませんけど、こちらの話しかけにも応じませんし、ご飯も食べませんでした。睡眠もほとんど取っていません。この状況が続くとかなり危険ですね。また飛び降りやしないか心配です。この高さから飛び降りたら、今度こそ絶対に助かりません」
家で取り降りたときは2階だったから助かった。あれ以上の高さなら、間違いなく死んでいた。
「そうですか」
とだけ麻美はいって、急いで義男のもとへ向かう。まだ、自殺未遂から立ち直れていないようだ。今日も、自殺しようとした経緯を聞くのはやめる。何も言わないからだ。
昨日とは違い、義男が言葉を発するまで待つことにした。一時間、二時間、三時間と時間は過ぎていくけど、しゃべりだす気配は全くない。痺れを切らして、何か言いたかったけど、義男のことを思うと何もいえない。
麻美はしびれを切らして、
「何か食べる」
とだけ聞いた。義男はそれにも答えない。ずっと放心状態だった。看護婦の置いた朝食や昼食を、全く食べていない。箸も全く汚れていない。お茶すら飲んでいない姿を見て、麻美は悲しくなる。それでも、義男はもっと悲しいだろうから、泣くのだけは我慢する。
九時に来てから六時間になろうとしている。義男はずっと放心状態だった。家のことをやらなければならない麻美は義男に、
「明日もまた来るからね」
とだけいって病室を後にした。
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