*8* なすび畑のサンタクロース
マンドラゴラ。
ふちが波打ったたまご型シルエットの葉っぱの、かわいらしい植物。
その正体は、土に隠れた寸胴な根っこの部分に、短い手と足と悲壮感ただよう顔をもつモンスター。
大昔から、マンドラゴラを引っこ抜いた瞬間に、この世の終わりが訪れると言い伝えられてきた──
「ヒギッ、ギョエ……」
「うるさい。さわぐな」
バチィンッ!
ふかふかの土から引っこ抜かれた植物型モンスターが、断末魔を響かせることなく、稲妻の直撃を受けてしまう。
「……キュウ……」
いい感じに電撃で焦がされ、ぺしゃりと顔面から地面に撃沈するマンドラゴラ。あっという間のことだった。
「まさかの雷魔法……!?」
この世界で、魔法の基本属性は火、風、土、雷、水の五つ。
相性としては、火は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強く、水は火に強くなる。
マンドラゴラは土属性の初心者向けモンスターなので、初級の風魔法で倒すのが一般的。与えるダメージは等倍ながら、火魔法で倒すのが薬術師的な討伐法なんだけど。
「よし、これでリオの耳を守ることができた」
「お、おぉ……!」
杖要らず、魔力おばけのノアくんが、詠唱をぶっ飛ばしてマンドラゴラもぶっ飛ばした。
(いやいやいや……相性不利の雷魔法で一撃って、どんだけ威力高いのよ!)
引っこ抜かれたマンドラゴラの絶叫にびっくりして、大体の人は気絶、運が悪かったら死んじゃうって言われてるくらいだけど……
わたしの鼓膜は、最後まで傷ひとつなく守られたのであった。
「で、こいつら持って帰るんだっけ?」
「へっ、あ、そうそう! マンドラゴラの根っこは、エーテルの材料になるからね!」
「俺が運ぶ」
ノアはそう言って、なすび畑の脇に用意していた麻袋に、ひょいひょいとマンドラゴラを放り込んでいく。
マンドラゴラ三十三体。推定重量、約五十キログラム。
涼しい顔でパンパンの麻袋をかついださまが、プレゼント袋を背負ったサンタさんみたいだなぁなんてトンチンカンなことを考えて、ノアの付き添いクエストは終わりを告げた。
* * *
クエスト完了報告へ向かったノアを待つこと、一時間半。
冒険者ギルドの中庭で、マンドラゴラの処理をしてすごしていた。
マンドラゴラは、まず念入りに高温で熱処理をしないといけない。
でもノアの(初級なのに)高火力雷魔法で充分焦がされていたこともあって、熱処理工程はとばすことにした。
あとは甘皮を剥いで鍋で煮詰めたり、炙られて水分の飛んだパリパリの葉っぱを
じぶんで使う分だけ確保して、余りをポーションやエーテルをあつかうギルド内の魔法薬店で買い取ってもらった。
「……ごめんリオ、待ったよね」
「全然! こっちも終わったよ。今夜は食事つきのお宿に泊まれそう~」
でも、臨時収入があってホクホクなわたしとは正反対に、戻ってきたノアは、どこか浮かない表情だった。
「あれ……ノア、どうかした? 報酬の受け取りで、なにかあった?」
マンドラゴラ退治の報酬は、五千ゴールド。
今回のクエスト受注者はノア名義にしてあるから、五千ゴールドの倍、一万ゴールドが手に入ることになる計算だ。
月に十五万ゴールド稼げは生活していけるから、初クエストでこの報酬金額は、自信をもっていいと思うんだけど……
「報酬はちゃんともらった。問題ない。でも……」
「でも?」
「……気持ち悪くて」
「わぁっ、大丈夫!? マンドラゴラの魔力にあてられちゃったかな!」
『
薬術師がマンドラゴラを倒すとき、火魔法を使う理由は、これね。
でもこのときに発生する『酸っぱいにおい』で、気分が悪くなる人も少なくないんだよね。
無水酢酸をあつかってるみたいな感じだ。強烈なお酢のにおい。わたしは平気だけど、ノアには合わなかったのかもしれない。
でも、そうじゃないことに、遅れて気づいた。
だってノアは、マンドラゴラがどっさり入った『プレゼント袋』を担いで、ここまで三キロの距離を、涼しい顔で歩いてきたから。
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