第57話「妹とお庭バーベキュー」

「お兄たん、」

「おにぃ」

「にぃ」

「兄ちゃん」

「あんちゃん」

「お、おぉ、」

「お兄ちゃん、」

「お兄ちゃん」

「おおっ、アリアもフレデリカも、、俺を、お兄ちゃんと、!?」

「お兄ちゃん、」

「チ、チェスタまでっ!?」


 何と。妹達に囲まれている。夢だろうか。顔を赤らめ迫る妹達。これは、お兄ちゃん期待に応えなくてはならないな。エルマンノはニヤニヤしながらよし、と。立ち上がる。


「よ〜し、、みんな、、俺が、相手して、、あげよう、」

「何してんの、?早く起きたら?」

「ん、、あ、んん、?」


 聞き慣れた声が響き、エルマンノはゆっくりと目を見開く。

 どうやら、本当に夢だった様だ。


「こういう時は夢じゃないもんじゃないのか、?」

「一人で何言ってるの?頭おかしくなった?まあ、元々ヤバい奴には変わりないけど」

「今日もエッジが効いてるな」

「どうも」

「そこで申し訳ないが、フレデリカ。妹に起こしてもらえるのは至福ではあるが、起こしていい時と悪い時があるんだぞ?」

「なら今のは起こしていい方だね」

「なんでだよ、」

「夢の中で私に何するつもりだったの?」

「俺は妹としか言ってないが、、もしかして、認めてくれたのか、?」

「はぁ、あのままにしたら私があんたを捕まえなきゃいけなくなるから」

「俺を気に掛けてくれるんだな、ありがとう」

「犯罪者を捕まえるとか私が面倒って話」

「えぇ、夢の中くらい犯罪者にさせてくれよ、」


 エルマンノは息を吐いて目を擦る。と、いうより。


「こ、ここ、、どこだ、?」

「私の家だよ」

「ん?お、おぉ、、これは、お姉さん、」


 どうやら、あの後獣族のお婆ちゃん達の民家でパーティーをしたまま、皆で寝てしまった様だ。


「随分と昨日は騒がしかったねぇ」

「すみません、突然みんなで押しかけてしまって」

「いいんだよ。騒がしかったけどね」

「めちゃくちゃ腹立ってるじゃないですか」


 エルマンノは冷や汗混じりに起き上がろうとする。と。


「ず、頭痛が痛い、」

「...」

「何かツッコんでくれてもいいだろ、?」

「耳に薬品でも突っ込もうか?」

「おぉ、フレデリカの森に捨てた試作品なら是非」

「もう蒸発してる」

「今ここで生成出来るだろ、、口から沢山」

「耳に異常をきたしても知らないよ?」

「してくれるんですか?」

「ここにある薬品で代用させてもらうけど」

「その新薬は耳からも摂取出来る代物的なあれですか、?」

「エルマンノで実験してみてもいいかもね」

「余計に頭痛が悪化しそうだ」


 エルマンノは頭を押さえ起き上がる。そこには、アリアやオリーブ、ソフィやネラ、そしてミラナとチェスタが仲良く寝ていた。


「おぉ、妹っぽい」

「何妹っぽいって、」

「それよりも、、思い出したぞ、」


 エルマンノはソフィを見据え歯嚙みする。そこには、よだれを垂らしたソフィが大の字で寝ていた。そういえば、昨日ソフィがアルコールを持ち込んだのだ。それを、まさかの未成年に飲ませるという禁忌を行ったのだ。


「許せん、」

「エルマンノが調子乗って飲んだんでしょ?」

「そうだったか、?」

「はぁ、もう記憶ないわけ、?」

「ソフィの気持ちが分かる気がする」


 エルマンノはボーッとしながら昨日の事を思い出す。

 チェスタの案によってユナの誕生日を祝った一同。これから、ここに居るみんなが家族だ。そう、伝える様に。ユナは消えない。ここに居る家族が、ユナを忘れない。

 ミラナとチェスタは泣き疲れたのか、はたまた夜遅くまでバタバタとしていたからか。主役の二人が先に寝てしまった。二人をお婆ちゃん達と交渉し、空き部屋に寝かしつけたのち、エルマンノ達は続けてこの機会を大切にと妹パーティーを行った。勿論、主役はユナだ。

 そこで調子に乗ったソフィにアルコールを盛られた。そういえばエルマンノより年下のアリアも少し飲んでいた気がする。アリアはアルコールが入ると甘えん坊の積極的少女になるのだが、エルマンノもお酒が入っていたため記憶がない。


「クソッ、」


 エルマンノは勿体ない事をしたと拳を握りしめた。が、しかし。いや待てよと。エルマンノは目の色を変える。もしかして記憶が無いだけで一線を越えていた可能性がある。いやもっと勿体ない。エルマンノはそう強く思っていると。


「何も無かったよ」

「なっ!?どうして考えてる事が分かった!?」

「当たってたのが嫌になる、」

「なんで当たって嫌そうなんだ、、宝くじより確率低いぞ」

「何宝くじって」

「無いのか、」


 エルマンノはフレデリカの反応にそう息を吐くと、彼女が改める。


「...それよりごめんね、日記、読んじゃって」

「ん?ああ、ユナのか、?ま、まあ、俺はいいけど、」

「大丈夫。ミラナとチェスタから見せてもらったから。ユナを知って欲しいからって。というか、やっぱり覚えてなかった?」

「俺も居たのか?」

「居たね」

「危険だな、、アルコールは、」

「まあ、改めて、ごめん」

「別に謝る事じゃない。ま、ユナからしたら赤面ものだけどな」


 エルマンノはフレデリカの切り出しにそう笑う。


「ねぇ、、あの、ユナって事故で亡くなったんでしょ?」

「まあ、、そうだな、」

「その、、こういう言い方あれだけど、、あそこまで長く日記を書けるものなの、?病気なら、分かるけど、」

「ああ、ユナは事故で大きな怪我をしたんだ。それを治すために、何度も手術をしてな、」

「回復魔法で治らないって事は、、臓器、?」

「ああ、臓器に関しては回復魔法は通用しないからな、、手術の際に麻酔として使う事はあるが。それでも、その傷は手術をしても治らなかったんだ。だからこそ、彼女の身体はずっと回復させるために動いてたって事になる」

「つまり、、魔力不足、?」

「そう、だな、、体は本能的に回復を繰り返す。外部からの回復魔法だけじゃ足りないからな、、だから、どんどんと魔力が減っていって、深刻な魔力不足に陥ったんだ」

「あの時の、、ラディアみたいに、」

「ああ、、だからこそ、じわじわと体力が失われていく恐怖を経験したんだ、、小さな体で、」

「もっと早く、、新薬を作っていれば、」


 思わず、フレデリカは強く拳を握りしめる。それに、エルマンノは表情を曇らせながらも、微笑む。


「フレデリカが気にする事じゃない、、新薬が出来たのは、奇跡の連続だ。勿論、フレデリカの実力もあるけどな。八十パーセントくらいか?」

「はぁ、、ほんと、もっと早く出会ってれば良かった、」


 フレデリカは様々な意味でそう呟くと、エルマンノはそれに視線を落としたのち、改めて放つ。


「...今更かもしれないが、魔導書、、買いに行かないとな」

「色々あって忘れてた、、でも、まだ忙しいから、、もう少し後になるかも、」

「ああ、それは全然大丈夫だ。フレデリカのお祝いだからな。フレデリカが行きたい時でいい」


 エルマンノがそう口にすると、フレデリカは少し視線を落として優しく微笑む。と。


「それより、みんな起こしたのか?」

「いや、昨日は夜遅くまで大変だったから。エルマンノ以外は起こしてないよ」

「おお、俺だけ特別に起こしてくれたのか、、ほんとツンデレだなぁ」

「はっ倒すよ?理由はさっき言った筈だけど」

「にしても、夜遅くまでって、フレデリカもだろ?」

「私は、ただ新薬を持って行っただけ。詳しい話も、よく分かって無かったし」

「でも、チェスタを連れて来てくれたじゃないか」

「チェスタが行きたいって言ったからね。何か、どうしても渡したいものがあるって。あんなに小さい子を一人で夜に出歩かせるなんて、出来るわけないでしょ」

「ああ、フレデリカが気づいてくれなかったら、きっとそうなってた。ありがとう。それに、チェスタの行動のお陰で、なんとかなったんだ。それを考えたチェスタと、チェスタの安全を考えて見ていてくれたフレデリカのお陰だ」


 エルマンノはそう口にすると、優しく微笑み皆を見つめる。すると、改めてフレデリカは放った。


「それと、行く時持ってたマフラーはどうしたの?帰って来た時にはボロボロだったけど」

「ああ、まあ、あれはあれでいいんだ。確かに、せっかく妹達が作ってくれたマフラーを手放すのは痛かったけどな、、あと、美女獣族の毛」

「あれってあの時のだったの、?」

「おお、よく覚えてるな。ああ、あの時の獣族の毛を編んだんだよ」

「どうしてあんな時にマフラーなんて、、あんな欲望にまみれた事をしてたわけ、?」

「俺を何だと思ってるんだ、」


 フレデリカが呆れた様に放つ中、エルマンノは息を吐くと、改めた。


「転移魔法を共有する二人が同時に、同じ量の回復と魔力が必要って話だっただろ?」

「そうだね」

「なら、獣族の毛に魔力を溜めて、それを二人で均等に共有するってなったら、マフラーしかないだろ?」

「相当知識が偏ってるみたいだね」

「まあ、ソフィを巻き込むかは悩んだんだけどな、、でも、魔力量で言ったらソフィの力が必要だったんだ、、だから、事前にネラにも協力してもらって、全員分の魔力を溜めた。それで何とかなるかは一か八かだったけどな、、でも、ミラナを、救えて良かった、」

「はぁ、、相変わらずエルマンノらしいね」

「変わってるって事か?」

「ううん。自分より他人の事に一生懸命になってるって事」

「...」


 フレデリカの少し苦しそうな表情に、エルマンノは目を逸らす。が、そののち改める。


「いや、俺は自分の事ばっかりだ。だからこそ、フレデリカにそんな顔をさせてしまった、」

「...分かってるなら、やめて欲しいんだけど、」

「...」


 フレデリカのどこか呆れと悔しさが含まれたその言葉に、エルマンノは無言で拳を握りしめる。と、そののち、フレデリカはふと口を開く。


「でも、エルマンノだけでも起きてくれて良かった」

「おぉ、そんなに俺を想ってくれてたのか?」

「違う。エルマンノは起きなきゃ危ないと思ったから起きてくれて良かったって言ったの」

「どういう事だ?」

「家、どうせ抜け出して来たんでしょ?」

「っ!」


 エルマンノは、その言葉と同時に、血の気が引いていった。


          ☆


「大変申し訳ございませんでした、」

「今、何時だと思ってるの?」

「は、八時です、朝の、」

「朝帰りとは。随分とやる様になったな」

「...ごめんなさい、」


 エルマンノは、土下座していた。当たり前である。昨日は母の言葉を聞かずにあんな危ない事をしに行き、帰ったのが今。そんなもの、許してもらえるはずがない。これから長い長いお説教が始まるのだろう。父も呼び、圧迫面接状態。父のいつもの様な発言も、目が笑っていないので言葉が出なかった。ここは、天気の話でもしようか。


「今日はいい天気ですね」

「窓ないぞ」

「...いい灯りですね」

「替えてないぞ」

「...」

「エル、、心配、したのよ」

「どうしてソナーに答えなかった?」

「ソ、ソナー、?」

「何度も送ったんだ。ずっと魔力分散していて、不安定だったから心配してたんだぞ」

「っ」


 恐らく、転移魔法を受けている時の話だろう。事実上、エルマンノの精神はミラナの中に居たため、この世界には存在しない事になっていた筈だ。送れないのも無理はない。


「その後も、送れる様になったと思ったら、全然返してくれないで」

「あ、それは、」


 それは恐らくアルコールのせいだろう。ソナーなんて、気づかなかった。いや、寧ろ記憶がない様なあの状況でソナーに返事したら。それこそ、地獄絵図である。寧ろ、良かったのかもしれない。


「何ホッとしてるんだ!」

「あぁっ!?いえ、それは、、その、こういう顔なんです、」

「反省してるのか?」

「はい、」


 母は目を真っ赤にし、父はそう強く放った。それに、エルマンノは噛み締める様に俯き、目を逸らした。


「なら、昨日何があったのか、話してみなさい」

「っ、、う、うん、」


 エルマンノは、少しミラナの素性を話すのは躊躇したものの、事実を話した。事故で家族を失った少女が居るという事。その少女が妹を失った事から、精神を入れ替えようとしていた事。それを、同じくその事故で家族を失った少女が止めたいと願っていた事。その少女達とエルマンノの関係性。そして、昨日の出来事。その全てを、少し理解出来なさそうな部分や言いづらいところは変換して話した。


「そう、、だったのね、」

「エルマンノ。女の子にいい顔したいのは十分に分かる」

「そ、そういう意味では無いけど、」

「だが、一番大切なのは自分だ」

「っ」

「自分でそのミラナという子に話したんだろ?君を必要としてる人が居る事を」

「...」

「エルマンノに、居ないと思うのか?」

「っ」


 エルマンノは目を見開き父と母を見据える。父は真剣だった。今まで見た事が無いくらいに。母は目を真っ赤にしていた。まるで、昨日からずっと泣いていた様に。


「...」


 思わず歯嚙みした。


ー俺は妹が大切だ、、でも、それは息子であっても同じだ、ー


 エルマンノは拳を握りしめ俯いた。


「ごめんなさい、」

「謝罪が聞きたいわけじゃない。エルマンノは、前に気づいた筈だ。父さん母さんが、どれ程エルマンノを心配しているのかを。そして、その心配はどこからきているのかも」

「...」

「だから、もうあんな事はやめなさい」

「...」

「返事はどうした」


 返事は、直ぐには出せなかった。自信がないのだ。きっと、また妹が苦しんでいたら、自分を犠牲にしてまで助けに行ってしまうと。昨日の様に、周りの心配を後回しにしてしまう程に、それにばかり目を向けてしまうだろうと。その自分を知っているからこそ、答えられ無かった。情けなかった。自分を大切に思ってくれる人を自分で増やして、その人達を悲しませる様な事をしてしまう自分が。

 こんなの、捻くれラノベ主人公みたいじゃないか。いや、似た様なものだが。


「...エル」

「っ」


 ふと、掠れた声で母が放った。


「昨日、自分にしか出来ない事って、言ってたよね」

「...うん、」

「確かに、お母さん達はその女の子の事は知らない。それでも、エルの事を想う気持ちは誰にも負けないし。知らなくても、その女の子の力になりたいって思う。だから、約束して」

「...」


 母はエルマンノの前で真剣に告げた。


「母さん達に、助けを求めるって」

「っ」

「助けを求めるのは、恥ずかしい事じゃないよ。それでエルにしか出来ない事なら、ちゃんと話し合って、それで決めよう?まず、話してくれなきゃ。何も、分からないから」

「母さん、」

「まあ、話すのが嫌って年頃だと思うけどなぁ」

「あなたは黙ってて。...でも確かに、誰かに話すのって、勇気のいる事だと思う。だけど、エルにはその勇気があるのを知ってる。そうじゃ無かったら、そうやって、みんなに助けを求めて、一人の女の子を助けられない。だから、急ぐ気持ちは分かるけど、話せる時に、話して欲しいの」


 エルマンノは、目を見開く。そうだ。そのせいで、みんなに辛い思いをさせてきたのだ。何も話さない。確かにそれは、いい時もあるだろう。だが、向こうからしてみたら何も分からない中ただ見送る事しか出来ないのだ。昨日のフレデリカも、理解はしていたものの、話し合うタイミングは無かった。みんな、優しい妹達だ。だからこそ、甘えてしまったのかもしれない。兄は甘えてはいけない。そう言いながら、一番甘えていたではないか、と。


「エルは凄い子だから、分かってるとは思うけど、母さん達は、誰よりもエルを大切に思ってる。それは、忘れないで」

「っ、、う、、うん、」


 思わず、目の奥が熱くなり、鼻がつんとなった。今にも、溢れそうだ。


「ありがとう、、母さん、父さん、、それと、ごめん、」

「もう心配かけないって、約束出来るか?」

「相談して、それで心配しないでくれるならね」

「フッ、言うようになったな」


 エルマンノが涙を堪えて放つと、父もまた何かを堪えながら放つ。そうだ。あの日見た、自身が死んだ時の母の姿。未だに夢に出てくる。泣いていた。きっと、同じ気持ちだったのだろう。もう二度と、あんな顔はさせたくない。違う両親だったとしても。ここで、生きていくと。二度目の人生。妹ドリームライフとして、生きていこうと決めたから。


「はぁ、まぁいい。ほら、早く手洗ってきなさい」

「朝ご飯。作ってあるから」

「っ」


 エルマンノは強くそれを思いながら、笑みを見せる今の両親に、元気に返した。


「ありがとうっ、ただいまっ」


          ☆


 その後、朝食を済ませ、時刻は午後となった。


ーうーん、、妹達に会いたいな、ー


 エルマンノは部屋でベッドに横になりながら思った。昨日一日居たからか、今日は妹成分が足りないと体が疼いている。だが、先程のあれの後に、「いってきます」なんて、中々言えたもんじゃない。通過魔法で出ていくなんて尚更である。


「どうするかな、」


 あの後朝食の際に、父に「酒臭くないか」と聞かれた時は焦った。昨日のパーティーの事は話していないのだ。色々あって疲れて寝てしまった事にしてある。ちゃんと以前カラオケ大会を行った村の村長に泊めてもらったと嘘をついた。妹達と泊まったなんて言ったら何を言われるか堪ったもんじゃない。

 そんな事を思い返しながら、よし、と。起き上がる。


「ソナーでも送るか」


 めんどくさい彼女の様な作戦である。理由は、まあ、妹の声が聞きたかった。これが一番だろう。ソナーが送れるのはアリアとソフィとネラ。そしてミラナと。チェスタは、長時間は難しそうである。その中で送りやすいアリアに、イタ電でもしようとした、刹那。


「うっわ!こんなとこに平然と建ってんだマジすっご!」

「あんちゃーんっ!おる〜?」

「っ!なっ、まさかっ」


 これは、この声はソナーではない。それを理解し、エルマンノは慌てて窓から外を見た。すると。


「あ!お兄たんだ!」

「マジで兄ちゃんちだったん!?やっほー!」

「あんちゃーんっ!遊びに来たで〜」

「なっ、何故だっ!?」


 エルマンノは慌ててカーテンを閉める。そこには、ネラ、ミラナ。そしてソフィとオリーブ、チェスタが居た。どうしてこの家が分かったのだろうか。オリーブからだろうか、と。人の家には平然と入るくせして、自分の家に突然来られるのは困るという最低な兄である。というか、親にはなんと説明すれば良いのだろうか。エルマンノは嬉しさも僅かにありながらも、慌てる。


「し、仕方がない」


 エルマンノは覚悟を決め、玄関まで行き、ドアを開ける。


「おおっ!お兄ちゃんに会いに来てくれたのか!」

「せやせや!なんか怒られとる聞いてたけん、ちょっとどないしたか思て」

「お、怒られとる、?」

「うん!あのねあのねっ、フレデリカからっ、お兄たん今頃怒られてるって、聞いたの!」

「あ〜、なるほど、それで」

「そそそ!それで兄ちゃん多分外出られないじゃん?だから、ウチらから凸っちゃおっかな〜って!」

「と、突然だな、」

「凸ってんだから凸然じゃん?てか、ウチの家にズカズカ入ったんだから、いいっしょ?」

「う、」


 これは仕返しを食らったと、エルマンノは冷や汗を流す。やはり、人の家に無許可で入るものではないな。と、今更ながらに人並の学習をするエルマンノだった。その中で、彼は見渡す。


ーやはり、、アリアは居ないか、ー


 と、そんな事を考えていると。


「変態さんがどこにいるのか聞いたら、フレデリカさんが今怒られてて家から出られないと思うって言われたので、」

「なるほど、それでか、、で、その本人はどこに?」

「遊びに行く聞いたら、いやそれは嫌だと思うって言っとったけん、来とらんよ?」

「フレデリカもまさか本当に来てるとは思ってないだろうな、」

「だ〜から来なくても良くない?ってぇ、聞いたじゃ〜んっ」


 ミラナにエルマンノがジト目を向けると、ソフィが割って入る。どうやら、アルコールが残っている様だ。だが、ふと嫌なものが目に入る。


「それより、ソフィ、それはなんだ?」

「ん?ああ、これウイ〜スクィ〜」

「そうじゃない、何で手に持っているんだと聞いたんだが?」

「そりゃあ今からバーベキューやるからに決まってんじゃ〜んっ!」

「なっ!?バーベキュー!?バーベキューセットなんてどこにも、」

「ウチが異空間移動魔法で持って来るからへーきへーき」

「マ、マジですか、」

「マ!」

「なんか乗り気ちゃう?やめとこか?」


 ミラナの問いに、少し悩んだ。妹とのバーベキュー。そんなもの、憧れのシチュエーションに決まっているでは無いか。だが、と。そう悩んだ、その瞬間。


「あら、いらっしゃい、どうしたの?」

「おお、まさか家に女を呼ぶとはな」

「っ」


 だから嫌だったんだ。そう思いながらも、もうどうにでもなれと。エルマンノは目つきを変えて笑みを浮かべる。


「俺のために集まってくれた妹達だ!」

「妹、、っ!そう、貴方が、」


 母がネラに駆け寄り手を握る。


「大丈夫よ!私達、もう家族なんだから!何かあったら、何でも言ってね!」

「え、、あ、ありがとう、、ございます、?」


 母の言葉に、ネラは動揺の中に僅かに感動を覚えながら頷く。それに、母も同じく涙目になりながら「うん、うんっ」と頷く。どうやら、先程の話のお陰で、妹にしている理由が美しいものに見えている様だ。


「その人さっき話したミラナって人じゃないよ」

「えぇっ!?そうなの!?」

「向こうの褐色の人だ」


 間違えてはいたが。


 エルマンノは小さく母に事実を伝えると、母は慌てる。


「え、変態さんの家庭ってみんなおかしいんですか、?」


 それを遠くから見て引いている人もいるが。


「おいエルマンノ。妹って、、まさか、本当にみんなを妹にしてるんじゃないだろうな、?」

「そのまさかです」

「お、おいおい、妹を欲しがってたのは知ってるが、子供ながらの兄弟が欲しい的なやつじゃなかったのか、」

「性癖だ」


 同じく引き気味の父に耳打ちされる中、エルマンノは改めて放った。


「それより、今日みんなでバーベキューをしたいって言ってるんだけど、庭でやってもいい?」

「おう。ここの庭どこ使ってもいいぞ」

「え、ここ庭判定なんですか、?」

「そうこなくっちゃあ!」

「やった!やったねネラ!」

「うん!超アガる!じゃあ、準備しよっか!」


 母と話すミラナ。父の発言と一同に少し困惑気味な様子のチェスタ。そんな一同を他所に、ネラが異空間移動魔法で移動してきたバーベキューの準備物を、エルマンノとオリーブでセットした。


「っと、とりあえずこれでセットは終わりだな、、じゃあ、そろそろ始めるか」

「うん!」

「あ!じゃああたし焼き係やってもええ?誰かやりたい人おったりする?」

「お肉焼くの見てみたい!」

「ミラナちゃん慣れてるみたいだし、ウチも焼き方ってやつ?見てみたいかも!」

「じゃんじゃん焼いちゃって〜」


 準備が終わったのち、ミラナが声を上げると、オリーブとネラ、そしてソフィはそれぞれ彼女に促した。恐らく皆やりたくないからだろう。


「ええで〜。肉の焼き方には、コツがあるけん。みんな覚えてき!」

「そうなの?」

「せやでチェスタ〜。お姉ちゃんのやり方、見せちゃる!」

「うんっ」


 少しぎこちないものの、お互いに歩み寄ろうとしている姿に、エルマンノは微笑む。と、対するミラナは説明口調でセッティングを始める。どうやら、肉は魔法で冷凍していた様だ。それを放置していたものを取り出すと、肉の表面に何やら油の様な物を先に塗り、肉を焼いていく。


「なんか周り変くない?」

「あ、気づいた?せやで〜、空気を圧迫させる魔法使って、真空状態にしとるんよ〜。本来はもっと楽やけど、せっかくのバーベキューやし、ちゃんと火に通して食べよ思うて」

「真空、、という事は、」

「あ、あんちゃん分かる?」

「低温調理か、」

「さっすがやなあんちゃん!せや!やっぱ肉のええ成分は出るし、筋肉に最適やけん。この調理法がいっちゃんええな!」

「そうなんだっ!楽しみっ」


 ミラナの言葉にオリーブはワクワクと体を動かす。どうやら魔法を使うとバーベキューでも簡単に低温調理が出来る様だ。食べた事は無いが、良いと聞くし、期待が高まる。と、そんな事を考えていると。


「うっへ〜!やっぱ昼間から飲むのさいっこぉ〜じゃ〜んっ」


 後ろで、ヤベェ人が声を上げた。


「ソフィ、もう飲んでるのか、?」

「焼けるまで飲むんじゃ〜ん!」

「喉をか?」

「ちが〜うって〜!肉にく〜」

「焼けた後は飲まないのか?」

「食いながら飲む!」

「あの歌声がそこから生まれるのは驚きでしかないな、」

「やっぱ天才だからぁ〜」


 ソフィは早速、用意した木の椅子に座りながらウイスキーを口にする。しかもまさかのロックときた。強いんだな。そう思いながら、エルマンノもまた妹達を眺めながらソフィの隣に座る。


「おっ、にぃも飲む?」

「飲まない。まだ頭痛が痛いんだ」

「え〜、頭痛も醍醐味だよ〜」

「醍醐味になってたまるか、」


 エルマンノはツッコミながら皆を見つめる。


「少し寒くなってきて、バーベキュー日和だな。やはりキャンプと言えば冬キャン。故にバーベキューもまた冬がベスト」

「え、普通夏じゃね?夏の方が映えるっしょ?」

「あ〜私死ぬわ〜!肉と一緒に焼かれるって!」

「酒焼けしてるのにか?」

「だからだって!二重に焼けたらどうするの?」

「俺は褐色のソフィも好きだぞ。というか、普段引きこもってる分、丁度いいんじゃないか?」

「だからキツイんだけどぉ〜」

「でもまあ、、確かに夏は暑いよな、」

「えぇ〜冬寒くね?なら、春とか秋とかは?」

「春は花粉症キツイしな。秋は虫が出る。やはり冬だな」

「花粉症?なんそれ」


 エルマンノの言葉に前に居たネラが振り返りながら話したのち、ミラナに放つ。


「ミラナちゃんはどう思う〜?バーベキューっていつが旬?」

「バーベキューはいつやってもええで!春はお花見になるしやな!夏は汗流しながらで気持ちええで〜!秋はそれこそ紅葉を楽しんで、食欲の秋やろ?冬は肉焼く火で温まるやん!」

「すっご!マジポジティブマンじゃん!」

「そんな凄いもんちゃうて!やめてーや〜」

「マンじゃないだろ。いや、だがあげまんとも言うし、まんはあるかもしれないがーーごはっ!」

「あははっ!にぃ何酔っ払ってんの〜!?発言危険だって〜っ!」

「酔っ払ってる人に言われたくないが、」


 バンバンと背中を叩きながらソフィが割って入る。と、そののち、エルマンノは昨日のソフィの発言を思い出し視線を落とす。


「...なあ、ソフィ」

「え〜?どうしたの〜?そんな顔して〜」

「...ラディアと、連絡とか、取ってるのか?」

「ああ〜!そうそう!この間さっ、ラディアちゃんにソナー送ったんだけどさっ!なんか、繋がんなくて、」

「え、?」

「にぃ、なんか知ってない?」

「いや、、俺は、何も、」

「えぇ〜、そうなのぉ〜?も、もしかして幽霊!?あ、屋根裏部屋の奴かもっ!?」

「...」


 ソフィの発言に、エルマンノは怪訝な表情を浮かべる。確かに我々からソナーを送ればソフィとも繋がる可能性があるため、分散して繋がらない事もあるだろう。だが、ソフィが送ったのであれば、その可能性も低い。ラディアに何か、あったのだろうか。


「とりあえず、、俺からも試してみるよ」

「あっ、それ凄い助かるぅ〜!さっすがにぃ!さすにぃだねぇ〜」

「さすにぃ、、おお、その呼び方も中々、」

「でも一ヶ月後あたりに練習で会う約束なんだよね〜、最悪その時に理由聞けばいいかもぉ」

「そうか、、もし繋がらなかったらその時頼む」

「まっかせてよ〜!」


 エルマンノはそう微笑みながらも、表情を曇らせる。もしその日来なかったらどうなるのだろうか。ラディアの引っ越した先を、ソフィは詳しく知っているのだろうか。エルマンノ以上にラディアを愛しているソフィが、不安な筈が無い。そう思い、エルマンノは改めて放つ。


「話は変わるが、実は俺も精霊買おうと思ってるんだ」

「えっ!?ほんとっ!?」

「ああ。結構前になったが、熱く語ってくれただろ?精霊シミュレーション」

「あ〜、うん!いやぁ、あれほんとクソゲーだよねぇ」

「なっ、クソゲーなのか、?」

「いや、本当勝てないんだよ〜、、それでもさ、やめらんないよねぇ」

「ああ、まあ、そういうもんだよな」


 ソフィがニッと笑うと、エルマンノもまた微笑み返す。


「そういえば、チェスタも好きらしいぞ、精霊シミュレーション」

「えっ!?そうなの!?」

「ああ。是非とも妹達とお手合わせ願いたい」

「いいねぇ〜やろやろ〜!じゃあ私攻めでにぃは受けね」

「普通守りだろ、」


 ソフィの発言にジト目を向けたのち、その張本人ことチェスタへと視線を向ける。すると。


「ほ、ほな、これ焼けたで。はい、チェスタ」

「あ、ありがと、、お、お姉ちゃん」

「っ!うん、どういたしまして!まだまだあるけん、いっぱい食べてな〜。じゃんじゃん焼くわ〜」


 チェスタが恥ずかしそうに受け取る中、ミラナもまたどこか恥ずかしくなったのか、話を逸らす様に焼き始める。その中で、ミラナはチェスタをチラチラと見る。どうやら、感想が気になっている様だ。


「あ、、や、柔くて、お、おいしい、」

「っ!ほっ、ほんま!?嬉しいわ〜!」

「ちょ、ちょっと、焦げちゃう、」

「あぁっ!ほんまやっ!」


 チェスタが小さく笑って呟いたそれに、思わず気持ちと同期して炎が強くなりながら、ミラナは肉を置いて近寄ってしまった。


「あははっ、なんか、楽しいなぁ、」

「お、お姉ちゃん、、焼くの、上手いね、」

「ほ、ほんま!?ありがとう!...そう、いやあ、実はユナもな、あたしが焼く肉好きやってん」

「えっ」


 ミラナの放った名に、チェスタは目を見開く。


「せやで〜、、ユナ、いっつも、家族でバーベキューする時はな。独り占めしとったんよ。他の人の肉は美味しくない言うてな。わがままやけど、めっちゃ嬉しかったなぁ、」

「...」


 どこか遠い目をして放つそれに、チェスタは目を細めたのち、優しく微笑んだ。


「...」


 それに噛み締める様にして頷いたのち、ミラナは視線を落とす。


「...」

「お、お姉ちゃん、?」

「...あ、あははっ、ごめんな、、今日は楽しむって、、決めとったのに、」


 ふと、ミラナの瞳から涙が溢れ出た。それを見据えたチェスタもまた、涙目になる。


「...はぁ、、そうやなぁ、」


 小さく零す。ユナは、もう居ないのだ。今更だが、チェスタの事ばかり考えていたのもあり、実感が無かった。ユナは、戻らない。それを自覚し、ミラナは思わず手を止め俯いた。


「うっ、、クッ、」


 昨日、あれ程泣いたというのに。それでも尚、悲しみは消えない。心に空いた穴が、大き過ぎる。ミラナは抑えきれないそれを必死で止めようとすると、その瞬間。


「...」

「...っ、!チ、チェスタ、?」

「...」


 ふと、チェスタがミラナの袖を掴んだ。その様子に、ミラナは目を見開く。そうだ。何を一人で考えているのだろう。チェスタも、妹だ。チェスタも、大好きで大切な家族だ。そう改め、笑顔を浮かべた。


「ご、ごめんな!なんか、思い出しとったわ、」

「ううん、、大丈夫」


 チェスタもまた掠れた声で返すと、ふと手に持った皿を差し出す。


「?」

「お、おかわり、」

「っ!」

「独り占めになんて、、させない。私が、お姉ちゃんは独り占めするんだから!」

「っ、、ほ、ほんまわがままやなっ!なら、お姉ちゃん頑張らなあかんな!チェスタ、いっぱい食べてな!」

「うん、」


 まるで自分を見てと。そう告げている様だった。きっと、チェスタから出たその言葉と、ミラナが受け取った言葉には僅かな違いがあるだろう。だが、それでも。今を大切にしようと、ミラナは肉を追加した。


「...」


 焼きながら、またもや考える。今を受け入れる。楽しむ。今の大切を、守る。それを考えると、どこか胸の奥が苦しくなった。すると。


「あ!ほんとだうっま!ミラナちゃんマジ美味しいわこれ!マジリピ!この焼き方バズるって!」

「ほ、ほんま?そこまで褒めてもなんも出えへんで〜」

「お世辞じゃないって!」

「〜〜〜〜〜〜っ!ほんとだっ、すっごく美味しい!」


 ネラに続いて、オリーブもまたその肉を口に運び、嬉しそうな表情を浮かべる。それが嬉しくて。だが、だからこそ苦しくて。ミラナは視線を落とした。


「...?ど、どうしたの、?お腹、痛い、?」

「えっ、ああ!全然平気やで!ち、ちょっとな、」


 オリーブが覗き込む中、ミラナはそう返す。その様子にチェスタとネラもまた不安げに見つめると、ふと。ミラナの方から口を開く。


「オリーブちゃんさ。お兄さんやお姉さん。妹達の事、どう思っとる?」

「...?みんなっ、大好きだよ!」

「...そ、、そっか、」

「...みんな大好き。お母さんも、お兄たんも、アリアもフレデリカも、ラディアもソフィもネラもミラナもチェスタも!勿論ユナも!それにっ、お兄たんのお母さんお父さんも!」

「え、?」


 オリーブはみんなを見渡しながらそう笑う。それに、ミラナはお母さんという発言に僅かに首を傾げた。が。


「私ねっ、お母さんと、会えないの」

「っ」

「昔に、死んじゃって、、それでね」


 ミラナはやはりか、と。エルマンノの発言を思い出し表情を曇らせる。


「さ、寂しく、ないん、?」

「ううんっ!お兄たんが居てくれるから!寂しくないよ!みんなっ、居るから!」

「...みんなで居て、なんか、お母さんに申し訳ないとか、思わへん、?」

「ん、?ど、どうして、?お母さんは、私が笑ってると、笑ってくれるよ?」

「っ」

「前ねっ、お兄たんが言ってたんだ。お兄たんは兄で、母親の代わりにはなれないって」

「っ!」

「だから、誰も代わりにはなれないし、私はお兄たんはお兄たんで大好きだし、お母さんはお母さんで大好き!」

「...そっか、、そうやな、、そうや、なんか、色々考え過ぎたわ、」


 ミラナは、オリーブの言葉に、小さく微笑む。と、そんな二人に。


「そそそっ。ウチもさ、本当の家族とか、今の家族とか。色々ごっちゃになって、意味分かんなくなったけどさ、そんな考える必要もないかなって、今は思ってんだよね。家族の形とか、関係ないっしょ?好きなものは好きでいいしねっ」

「ネラちゃん、、そうやなっ、そうかもしれへん、」


 ミラナは、二人の言葉を聞いて笑みを浮かべ俯く。それに合わせる様に、先程よりも掴む力を強めて、袖を掴まれた感触がした。


「っ」


 そちらに視線を向けると、チェスタもまた頷く。


「...せやな、なんか考え過ぎとったわ、、ちょ、ちょっと、奥の方で水飲んでくるなっ!ごめんっ、ちょっと、肉見ててくれへん?」

「りょっ!任しといてっ!」


 ミラナはそう改めると、ネラに肉を任せて森の方へと足を進める。それを見据えたエルマンノは、目を細めたのち、同じく向かう。


「ちょっと森の方は危険だから、様子見て来るよ」

「おっけ〜」

「うん!待ってるね!」

「う、、うん、」


 ネラとオリーブ、チェスタに声をかけたのち、エルマンノはミラナを追う。すると、その先で。


「うっ、、うぅ、うっ」


 泣いていた。


「...」


 数分間。エルマンノは木の陰で見据えたのち、落ち着いたのを確認してミラナに声をかけた。


「ミラナ、大丈夫か?」

「っ!あ、あんちゃんっ、いつから、?」

「今来たところだ」

「...ご、ごめんな、心配かけて、、全然平気やでっ!ほ、ほな、、戻ろか、」


 ミラナは無理に笑って足を進める。その姿に、エルマンノは目を細めると、そののち。その場で小さく微笑んで、そう切り出した。


「ミラナの肉。美味かったぞ」

「え、?あ、ほ、ほんまに、?い、いやぁ、みんなに言われるなぁ、、なんか、ちょっと恥ずいわぁ」

「恥ずかしがる必要なんてない。まあ、恥ずかしがる姿は唆るけどな」

「そ、そうなん、?」

「ああ、ま、俺自身羞恥系の趣味は無いけどな。鼻高くするくらいが丁度いいんだ。鼻は高い方が、いいだろ?」

「はははっ、おもろいなぁ、」

「これからも、食べさせてくれ」

「え、?」

「また、やろう。今度は家族みんなで、バーベキュー」

「っ」

「これからはみんな、家族だ。だから、抱え込まなくていい。みんなに、振る舞っていいんだ。この肉も、ありのままの自分も」


 エルマンノは小さく微笑む。それに、ミラナが何かを堪えながら俯くと、ギュッと拳を握りしめ口を開いた。


「や、やっぱ、、辛いと、」

「...ああ、」

「ユナがおらんのは、、耐えきれやん、」

「...」

「別にっ、チェスタが大切やないっちゅうわけやないんや、、それでも、」

「ああ、分かってる」


 目を擦るミラナに、エルマンノは優しくも悔しげに放つと。


「あ、ああ、、ごめんなっ、なんか、こんな事っ、」

「いや。寧ろ、ありがとう。話してくれて」

「え、」

「ミラナ。もう、我慢しなくていいんだ」

「っ」

「ずっと、、よく、頑張ったな。ミラナは、頑張り過ぎたんだ。少しくらい、頑張らない日が続いても、いいと俺は思う」

「そ、そやけどっ、、あたしは、決めたんや、、チェスタを、今度こそ、大切にするって、、家族になるて、、お姉ちゃんに、なってみせるって、」

「強がりが、お姉ちゃんってわけじゃないだろ?」

「えっ」

「俺も、勘違いしてたんだ。でも、妹達に教えてもらった。家族って思ってるなら、寧ろ頼って欲しいって。無理に頑張る必要はないって」


 エルマンノは優しく抱きしめてくれたオリーブ。気づかせに来てくれたラディア。その後ろから見守っていてくれたフレデリカを思い出しながら口にする。


「チェスタも、辛いんだ。だからって、自分が元気にしなきゃいけないなんて思わなくていい。辛いもの同士だからこそ、それを忘れずに、引きずってても、支え合えばいいんだ」

「そ、そやけど、」

「そこまで考えなくていい。家族は、思ってるよりも軽いし、深い関係でもない」

「...」

「まあでも、難しいよな。妹の前だと、俺も多分、また強がるし、無理する」


 エルマンノは先程の両親の言葉に対する思いを考えそう放ち、ミラナの前を歩くと、振り返って優しく告げた。


「だから、兄を頼ればいい」

「っ」

「確かにミラナはチェスタの姉だ。だけど、それよりも上の兄が居るんだぞ?なら、その兄にはぶつけてもいいんじゃないか?というか寧ろ、いろんな欲望をぶつけて欲しいまであるけどなぁ」

「...ふ、ふふっ、な、なんやそれっ」


 ミラナは泣きながら吹き出すと、そののち。


「でも、、あたしの方が年上やけん、、そんな事、、出来んよ、」

「俺が兄と言ったら、俺が兄なんだ。それに、一歳なんて誤差だしな」

「一歳は十歳違うんやで、?」

「一切聞いた事ないな」

「ふふっ」


 ミラナはそう笑うと、思わずエルマンノに向かって走り。


 ーー抱きしめた。


「おうふっ!?」

「...ありがとう、、でも、銀貨六枚も、借りとるわけやし、」

「三枚じゃなかったか、?」

「あっ、ほんまやっ!」

「詐欺に遭わない様に気をつけろよ、?」

「でも、それ以上のものを貰ったけん、、そんなこと、言えやん、」

「なら、これからもランニング、付き合ってくれないか?」

「え、」

「俺の体を鍛えて欲しいんだ。ミラナにコーチになってもらいたい」

「き、鍛えたいん、?」

「ああ。タンクお兄ちゃんになりたい。兄に求めるのは筋肉って言ってる妹が居るんだ。その妹に気に入られたくてな」

「っ!」

「まあ、別の方のトレーニングも是非とも指導して欲しいところだが、」

「別の方、?」

「そっちはお兄ちゃんが指導してあげた方が良さそうだな」


 ミラナはエルマンノの腰に手をやったまま、顔を赤らめ目を見開く。その瞳は、潤んでいた。それに、エルマンノは優しく微笑みながら告げる。


「忙しい中、俺のコーチをするんだ。立派な労働だと思わないか?」

「っ、、ほ、ほんま、、なんかっ、、こ、言葉にでけへんわ、」

「ああ、言葉はいらない。お兄ちゃんは、妹を肌で感じるもんだ」

「ふふっ、、なんやそれっ、、ほんま、ありがとうな、、やっぱり、、ほんまええお兄ちゃんや、、これからっ、これからもっ、よろしくなっ!あんちゃん、!」

「っ、、ああ。不甲斐ない兄だが、妹に見栄を張る者同士、よろしく頼む」


 エルマンノが優しく抱きしめ返すと、ミラナは涙を浮かべながら抱きしめる力を強くしたのだった。

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