第54話「妹のためなら、死んでもいい」
「すみませんっ!」
ミラナが居ない事に気づいた一同は、受付の控え室をノックする。と。
「は、はい、、いかがなされ、、っ!あ、貴方達、一体、?」
「あ、」
ミラナの事で慌てていたものの、改めて考えると我々は侵入している身であった事を思い出し硬直する。
「患者様じゃないですよね、?」
「そ、それは、」
「それよりも緊急事態なんです!廊下の端の部屋のミラナという患者が行方不明なんです!」
「えっ」
それよりもじゃないがと思いつつも、ネラが割って入ってくれた事に感謝しながらエルマンノからも説明をする。と、どうやらミラナの情報を確認してくれた様で、その受付の方は戻る。
「ミラナ様は、先程の見回りの際にはいらっしゃいましたよ?」
「だ、だとしたら、、意図的に逃げ出したのか、誘拐されたのか、」
「でも、ウチの時と違って誘拐する理由なく無い?」
「え、貴方、、誘拐されてるんですか、?」
「あ、そうそう!凄いっしょ!」
「全然凄くないんですけど、」
ネラが割って入ると、それにチェスタはジト目を向ける。そんな中、エルマンノもまた先程のネラの意見に確かにそうだと目を細める。と、そののち。
「あの、すみません、何か、ミラナの事で、今日変わった事があったなどの記載はありますか?」
「え、、いえ、、これそれよりも、あなた方は一体、」
「ミラナの家族です」
「どうしてこの時間に、?」
「ソナーで呼ばれて」
「ソナー、ですか、?」
「はい」
さらっと嘘をキメ込む。すると、担当者は首を傾げる。
「おかしいですね、、ソナーが送られたなら探知はされる筈ですが、」
「あー、えっと」
「兄ちゃん、ボロが出る前に出た方がいいくない、?」
「いや、もうボロボロ出まくってるけどな、」
エルマンノはネラの耳打ちにそう返すと、失礼しましたと無理矢理話を終わりにして抜け出す。先程の話によると病院は魔力探知が出来るのだろう。故に、我々の魔力も覚えられた可能性が高い。厄介である。と、そう思いながらも、そんな事よりもと。エルマンノは目つきを変える。
「それよりもネラ。何か心当たりないか?今日、何があったか」
「うーん、、ウチ、あの後少ししたらもう帰ったんよね、、だから分からないかな、でもアリアっちとオリーブちゃんなら、何か知ってるかも」
三人は病院近くを歩きながらそう会話を交わす中、エルマンノは頷き耳を押さえる。
「そうか、ならソナーを、、もしもし!」
『えっ、エルマンノ!?どどどっ、どしたの突然っ!』
「アリアか?助かった、ちょっと色々あってな。今ネラとチェスタと一緒に居るんだ」
『へー珍しい!遊んでるの?』
「遊んでないぞ」
『そう、なんだ、、ねぇ、それよりエルマンノ、大丈夫、?戻って来なかったから、心配してたんだよ、?』
「悪かった、、色々と、いっぱいいっぱいでな、」
『そっか、、でも、良かった。三人で遊べてるなら』
「遊んでないぞ」
『そ、それよりも普段しないのに突然ソナーって、、何かあったの、?』
「その、実は、ミラナが行方不明に、なった、」
『えぇっ!また!?』
エルマンノが目を逸らし告げると、驚愕するアリア。
『あ、うん、うん、そう、何だか大変な事になってるみたい、』
「オリーブも居るのか?」
『いるよ。今ご飯食べてるところ』
「具体的にどう口を開けてどうしゃぶりついてるのか説明してもらってもいいか?」
『しゃぶりついてないよ阿保!』
「えぇ、しゃぶってないのぉ、?」
『しゃぶって無いからぁ!え、あ、ううん、気にしなくていいから、え、?しゃぶ、?あ、うん、まあ、そうだけど、』
「どうした?」
『いや、まあ、今日しゃぶしゃぶだから、』
「しゃぶってるんじゃないか」
『別にしゃぶりついてはないから!』
アリアが声を上げる中、エルマンノはニヤニヤと微笑む。と、そののち。
「それより団らん中悪いな。実はそれで聞きたい事があって。アリア達は、今日一日病院に居たんだよな、?」
『そうだね、大体五時あたりまでは』
「結構居たんだな」
『まあ、エルマンノを待ってたのもあるから』
「う、わ、悪かった、」
エルマンノはバツが悪そうに目を泳がす。だが、これで五時から六時あたりの時間帯に居なくなったのが分かった。まだ大した時間は経っていない。遠くには行っていないだろう。
「そ、それより何か、変わった事とか無かったか、?」
『変わったって言うか、、その、、ど、どうしよ、』
「どうした、?」
『う、うん、、その、落ち着いて聞いてね、、その、実は、』
「実は、?」
『もう、起きるかどうか、分からないらしくて、』
「えっ」
エルマンノは目を剥く。それに、何々と顔を覗かせるネラとチェスタ。それを目にしながらも、歯嚙みし続ける。
「それは、、担当医から、?」
『そう、、その、意識が戻るか分からない状況なんだって。だから、このままだと、記憶を消すしか無いって話になって、』
「クッ、、クソッ!なんで、、何でだよっ、、どうして、こうなるんだ、」
『エルマンノ、、落ち着いて、』
「っ、わ、、悪い、、ちなみに、それは、、どこで?」
『え、?どこって、普通に病室だけど、』
「それは、ミラナが居るところでか?」
『そうだけど、寝てたよ?』
「そうか、」
エルマンノは拳を握りしめると共に目を細める。意識が無いならやはり誘拐の確率が高いのだろうか。はたまた、それを薄い意識の中聞いていたミラナが抜け出したのだろうか。
「分かった。とりあえずありがとう。また何かあったら連絡する」
『えっ!ちょ、もっと聞かせてよっ!何かあってからじゃ遅いんだからっ!エルマンノッ、いつも無理するからっ!』
「悪い、、直ぐ返事は送り返すから。待っててくれ」
『ちょっーー』
エルマンノはそこまで告げると、ソナーを止める。すると、その様子にネラが覗き込む。
「ど、どしたん、?大丈夫、?」
「わ、悪い、、その、、実は、ミラナはもう目を覚さないかもしれないと言われてたらしいんだ、」
「え、」
エルマンノの答えに、ネラより先にチェスタが目を剥く。
「もしそうなったら、チェスタの声も、届くかどうか、」
ユナに聞かせる事でミラナを引っ張り出す作戦だったのだ。だが、ユナ自体も出ていないのならば、それのしようがない。
「そ、そか、それだと精神移動も難しそうだね、」
「そ、、そう、だよな、」
エルマンノは妹の前だからと、無理に冷静を装いながらも頭を抱える。ミラナを救うためには、どうするべきか。またもや振り出しである。そんな事に途方に暮れている中、ネラが改める。
「それよかまずはミラナちゃんの居場所探さんと!」
「あ、ああっ!そうだな」
「エルマンノさん、、分かるんですか、?」
「そういえばウチを探した時はどうやったん?」
「魔力探知をした。一応、ミラナの魔力も把握してる、、だけど、意識が無いなら、それも、」
エルマンノはそう改めると、目の横に手を添える。魔力を持つ種族は皆いつでも微量の魔力を放っているものである。がしかし、逆に意識の無い者のはそれすらも発していないのだ。故に、意識の無いミラナを誰かが運んだとすると、その魔力を特定するのは不可能である。それに目を細めた。その瞬間。
「っ!これはっ」
「なっ、何か分かったん、?」
「ああ、、ミラナの魔力だ」
「「っ」」
不安げな二人の表情がぱあっと明るくなる。
「つまりっ、ミラナは意識があるって事ですね!」
「ああ、そうなるな。それに、もっと言うと、自分で抜け出した可能性が高いって事だ。他の魔力は見当たらない」
「だとすると、やっぱ記憶を消す事を聞いたから、それから逃げたって事なんかな?」
「そうかもしれないな、、でも、どこに行ったか、、チェスタ。ミラナだったらどこに行くか、心当たりないか?」
「...ミラナなら、、行くとしたら、、記憶を消される可能性がある中、思い出さなきゃいけないって、、ユナの事を、、それに縛られてる、、思い出さなきゃって、自分を責めるはず、そうした時、病院には行けないから、」
「まさか、」
「はい、、多分、あそこです、、電車、だと思います」
「だよなぁ、」
チェスタの考察に、エルマンノもまた頷く。と、そののち。日が落ちたのを見て、エルマンノは改める。
「チェスタ。気になるのは分かる。でも、悪いが先に帰ってくれないか?」
「え、、何で、ですか、?」
「妹を夜に連れ回すわけにはいかないだろ?」
「そんなっ!今日はっ、、夜更かしするって、言ったじゃないですかっ!」
「そうだな、、でも、お兄ちゃんとして、それは駄目だ、」
「そんなっ、!」
「安心してくれ。ちゃんと連絡する。そのために、ゼロ距離で魔力感知したんだろ?」
エルマンノはニッと微笑む。寂しくならない様に、ソナーで話し続けよう。そう約束し、エルマンノはネラに促した。
「ネラ、送るの頼んだ」
「ウチ家分かんないけど」
「チェスタ。案内してくれないか?」
「いやですっ!」
「えぇっ!?ウチ嫌われてるぅ!?」
「私もっ、連れて行ってくださいっ!」
「安全の保証はない。そんなところに、連れて行くわけにはいかない」
エルマンノは真剣な表情で告げる。まだ、ミラナが誘拐ではないと決まったわけではない。ミラナの身内だと知られたら、ミラナを誘拐した連中なら、何かしらをしてくるに違いない。更に彼女にとって大きなトラウマである電車に、近づかせるわけにはいかない、と。エルマンノは彼女の送り迎えを自分が出来ない事に歯嚙みしながらも、ネラを信じて無理矢理その場を後にする。
ーごめん、、チェスタ、でも、もう間違うわけにはいかないんだっ、!ー
エルマンノは、背後から聞こえるチェスタの声を聞こえないフリをして、足を進めたのだった。
☆
カンカンカンと、音が響く。どうやら、なんとか間に合った様だ。病院に最寄りの駅の場所と時刻表の紙が貼り出されてあって助かったと。エルマンノは息を吐く。ここは大きい王国ではあるものの、夕方にこの辺を走っているのは二本程しか通っていない。その中で、ミラナが姿を消したであろう時間帯と重なる電車を狙って、エルマンノは乗車した。
「どこだ、?」
彼女がもし電車に乗っているならば、この列車である可能性が高い。エルマンノは目を凝らして、列車内を進む。車内には未だ人が多いため、魔力探知は出来ない。それに目を細めながらも、足を進める。一車両、また一車両と。進んで行く。周りを見渡すエルマンノに不思議に思う人がこちらを見て来るものの、いつもと同じだ。エルマンノはいつもおかしい事を自覚しながらそんな事を思う。
と。
「っ!ミ、ミラナ、?」
「ふぅ、、ふぅ、」
「ミラナッ、大丈夫か!?」
「あ、エル、、お兄ちゃん。元気やった?なんかえらい久しぶりな感じやわぁ」
「っ、、ミ、ミラナだな、、間違いないなっ」
エルマンノは一番後ろの車両の、これまた後ろの座席に座るミラナを見つけ、息を吐いた。が。
「大丈夫か、?」
「はぁ、、はぁ、なんか、えらい寒くなってきたなぁ、、あたし、あんま寒い事って少ないんやけど、、最近病院で筋トレサボってたからかもしれへんなぁ」
ミラナは弱々しい笑みを浮かべる。それに、エルマンノは苦しい表情を浮かべながらも、笑みを作り口を開く。
「そんな薄着だからじゃないか?」
「あ、そうかもしれへんなぁ」
「それだけじゃない。こんな
「え?淫らって、どういう?」
「ああ、そういえばそういう知識無いんだったな」
「そういう、?というか、別に変な服やないで、?トレーニング用のウェアや。別にこういうの来ちゃ駄目な法律とかはなかとね」
「まあ、それもそうだけどな」
「はぁ、、はぁ、でも、やっぱ寒いわぁ、」
「...」
その様子に、エルマンノは迷ったものの、意を決して告げる。
「戻った方が、いいんじゃないか?寒いし」
「どこに?」
「まあ、、その、病院に。先生も心配するだろ?」
エルマンノはだからさ、行こうと言わんばかりに手を伸ばすと、ミラナは歯嚙みして首を振った。
「い、、行かんよ、」
「え、」
「ごめん、、でも、戻りたかない、」
「そ、そうか、、なぁ、ミラナ、」
「え、?」
「もしかして、あの話、、聞いてたのか、?」
「あの、話、?」
「記憶を、、消さなきゃいけないって話だ、」
「...知ってたと、?」
「ああ、」
エルマンノは、やはりあれを聞いていたのかと。目を細める。と、そののち、エルマンノは優しく微笑み放った。
「でも、あれは起きなかった時の話だ。今ミラナは起きてる。だから、まだ可能性はある。大丈夫だ」
「ほ、、ほんま、?」
「ああ。俺に考えがあるんだ。だから、一度病室にーー」
「うっ、クッ、」
「っ!ミラナ!?大丈夫か!?ミラナッ」
エルマンノは突如倒れるミラナに駆け寄り声を上げる。
「あ、あはは、、なんやろ、、疲れとるんかな、?」
「大丈夫か、?と、とりあえず座って、」
エルマンノは慌てて席に戻し、改める。彼女を病室に運ぶのは難しいだろう。ならばここで話そうと、エルマンノは続けて隣に座る。
「ミラナ、大丈夫か?」
「あ、うん、全然へーきよ、、ち、ちょっとすれば、」
「そうか、、ミラナ、そのままでいい。目を瞑ってていいから、聞いてくれないか、?」
エルマンノはまた眠ってしまう前にそれを伝えなくてはと。懸命に切り出す。が、しかし。
「う、、うぅ、、クッ、」
「ミラナ?ミラナ、?おいっ、大丈夫か!?」
応答が無い。また、意識を失ってしまった様だ。
「クソッ!」
エルマンノは思わず歯嚙みし彼女の手を握る。すると。
「っ、」
以前よりも、彼女の手は冷たかった。ここまで冷たい事があるだろうか。いや、寧ろこれで生きているとは思えない。それ程までのものだ。まるで凍っているかの様な。
「っ、まさか、」
エルマンノはそれを察し立ち上がる。このままだと体が先に死んでしまう可能性が高い。それを理解したミラナは、彼女自身気づいてはいないものの、その"精神"が勝手に体を魔法で冷凍し始めているのだ。そう、体が腐る前にそのままを保つために。
「マズイな、」
冷や汗混じりにエルマンノは周りを見渡す。誰かを呼ぶべきだろうか。いや、医師でも出来ない事が、他の人に出来るとは思えない。彼女を運ぶのも、意識が無いため難しい。ならばここに医師を呼んで。
ー駄目だ、、そしたら、記憶が、ー
エルマンノは拳を握りしめる。ミラナを救うのが兄。お前の役目だろと。
何かないか。エルマンノは頭を全力で動かし考える。と、同時に。
「クッ、、でも、これしかないっ」
なるべく避けたかった方法だ。だが、解決出来る可能性は高いもの。それをエルマンノは考えると共に、停留所に到着した電車から降りる。
「どうする、、まずは、フレデリカに聞いてみるか、」
エルマンノはそう呟き、フレデリカの実験室へと走りながら、一方のネラにソナーを送る。と。
「あ、ネラか!?そっちはどうなった?もう、家に着いたか?」
『あー、えと、、なんてーか、さ、マジごめんっ!ちょっと、チェスタちゃんに言われて、獣族の村に来てるんよね、』
「えっ、獣族の村、?」
『ほら、さっきソナーで話してたっしょ?それでその人に会いたいって言い出してさ。だからアリアっちのところに連れて来たんだけど、』
「今、、何してるんだ、?」
「えーっとねぇ、今は、」
ネラはそう返すと、皆の方へと視線を戻す。と、そこには。
「お願いしますっ!」
「えぇっ!?」「ど、どうしたの、?」
アリアとオリーブに頭を下げる、チェスタが居た。
「お願いします、、ミラナを、、お姉ちゃんをっ、助けてっ、くださいっ!」
「た、、助けるって、、でも、私はどうすれば、」
「手を、貸していただけるだけでいいんですっ!エルマンノさんにっ!」
「「っ」」
どうやら、チェスタはエルマンノがしようとしている事を、なんとなく理解している様子であった。だが、それにはチェスタの力が必要だと言っていた。が、チェスタは行けない。ならば、と。そう覚悟を決め頭を深々と下げる。そんな様子に、二人は目を見開くと。それを後ろで聞いていたネラはその会話をそのままエルマンノに話す。
すると、数分後。
「おいっ!チェスタ!?居るか!?」
「あっ、兄ちゃん!こっちこっち!」
「あ!お兄たん!」
「っ!エルマンノさんっ」
息を切らしながら、民家にズカズカと入るエルマンノは、そう声を上げた。
「チェスタ、、何やってるんだ、早く、帰らないと、」
「っ、、そ、それでもっ、ミラナが、、ミラナはっ、居たんですか!?」
「っ、、あ、ああ、ミラナは、居た」
「「「「っ」」」」
その言葉に、チェスタだけでなくその場の皆が目を見開く。だが、エルマンノはそののち表情を曇らせながら、目を逸らして付け足す。
「...でも、意識が、、また無くなった、」
「「「「えっ」」」」
思わず声を漏らす一同の中、突如チェスタはエルマンノに向かう。
「なっ、何でですかっ!どうしてっ、、どうしてっ、こう上手くいかないんですかっ!エルマンノさんっ、言いましたよね!?ミラナをっ、救って、くれるって、、少しは希望が見えたって、言いましたよね!?」
「ああ、、言った、」
「ならっ、助けてくださいっ!お願いです、、ミラナを、、誰かっ、お願い、」
「チェスタちゃん、」
泣き崩れるチェスタを見据えるアリアが呟く中、エルマンノは目を細めた。まるで、あの時の自分の様だと。自分では何も出来ない。そんな無力さが、その弱さが、憎い。誰かに頼るしか無いのにも関わらず、救いたいという思いが強くなる。だからこそ、強い物言いになってしまう。それなのに、頼る事しか出来ない。そんな、少し前の自分を見ている様だった。だからこそ。
「なんだか騒がしいねぇ」
「お、おぉ、エルマンノさんも来とったんか」
「はい。お邪魔してます」
「ナチュラルにお邪魔しないでよ、」
「アリアに言われたく無いが、」
「う、」
チェスタが声を上げ崩れる中、それを聞いた爺婆が集まる。チェスタに驚いていない点を見ると、エルマンノが来る前にある程度の話をしてあったのだろう。泣き崩れるチェスタに声をかけようとしたもじゃおじを、お姉さんが耳打ちし引き下がらせる様子を見ると、なんとなく察する事ができる。と、エルマンノは改めてしゃがみ込み、チェスタの目を見て告げた。
「...チェスタ」
「へ、?」
「大丈夫だ。何も手がないわけじゃない」
「っ」
その一言に、皆が目を見開く。
「何か、方法があるの、?」
「ああ、、でも、この方法は、」
アリアが首を傾げる中、エルマンノは拳を握りしめる。それに、ネラが口を開く。
「何?別に言うだけだったらタダじゃん?ウチは聞くよ?」
「...」
返事を渋るエルマンノにアリアとオリーブもまた頷く。それに対し、観念した様子で息を吐いて、エルマンノは恐る恐るネラに放った。
「その、その方法は、、ネラが、苦しい思いをするかもしれない、」
「「えっ」」
エルマンノの言葉に、オリーブとアリアは声を漏らす。対するネラ本人は、どこか、覚悟を決めている様子だった。
「具体的には、どんな作戦なん?」
「...精神移動魔法を使う」
「それはぬいぐるみとかに?なら、別にウチは苦しくはないけど」
「違う、、人に、だ」
「っ!」
エルマンノの一言にネラは目の色を変える。
「何言ってんの、?前に、言ったっしょ?生き物に精神を移すなんて、体がもたないって。その人も、その魔法を使う人も。もっても数分」
「ああ、、でも、数分で十分だ」
「えっ」
付け足したそれに、ネラは目を見開く。
「どゆこと、?」
「精神移動するのはミラナの精神じゃない」
「「「「えっ」」」」
「俺の精神だ」
「っ!そっ、それって、」
「ああ。俺の精神をミラナの精神に移動させる。そして、俺がミラナの中で、彼女を説得してみせる」
「っ!それは無理だよっ!いくら何でもっ、危険過ぎる!」
珍しく、ネラが声を荒げる。先程まで怪訝な顔をして割って入ろうとしていたアリアが退く程に。余程危険なのだろう。そう考え、エルマンノは乾いた笑みを浮かべる。
「転移魔法を勉強しまくったネラが言うんだから、、相当マズイんだな、、やっぱり、、ネラにも、無理か、」
「そうじゃないっ!下手したら、兄ちゃんが帰って来られなくなるんだよ!?」
「...ネラの方は、無理じゃないのか、?」
「え、、ち、違うって!兄ちゃんがっ」
「ミラナの体や俺の体がもたないって事か?」
「そ、それもあるけど、」
「前の話だと、どれ程回復力があってもって話だったよな、?回復魔法がある程度あれば、体を回復させながらで、少しはもつって事か?」
「それはそうだけど、、相当な魔力が必要になるんだよ、?それに、二人同時に、同じ量の回復が必要になる、、少しでも傾いたら、その精神が強くなってのみ込まれるかも、」
ネラはそこまで告げると、だからと。足を踏み出しエルマンノに寄る。
「だからお願い、、行かないで、」
「...」
「兄ちゃんを、、失いたくないからっ、」
ネラは、涙を溢しながら強く告げる。その様子に、エルマンノは表情を曇らせながら、チェスタへと視線を移す。チェスタもまた、ミラナを助けて欲しいという思いと、エルマンノの危険を案じる二つの思いとで葛藤している様子だった。それに、エルマンノは悩んだ末、真剣な表情で、ネラの肩を掴む。
「ネラ、、俺に考えがある。その方法なら、二人を均等に回復させる事が可能だ」
「そっ、それでもっ、少しでも不安定になったらっ、兄ちゃんがっ、!」
「大丈夫だ。俺のこの精神力。こんな頭がおかしい奴が、そう簡単にのまれるわけないだろ?寧ろ、異物として吐き出されるかもな」
エルマンノは笑みを浮かべて返す。が、対するネラは歯嚙みし、涙を浮かべ真っ赤な顔で返す。
「いやっ、、絶対、、行かせないっ、!兄ちゃんっ、ウチ、兄ちゃんを、失いたく無い、」
「そうか、ありがとうな、そんなに心配してくれて、、ネラは、俺の大切な家族だ。俺の妹だ。妹にそんな事言われたら、、断れないよな、」
「っ、だったらっ!」
「でもな、ミラナも、俺の妹だ。そして、チェスタの大切な家族だ。これ以上、チェスタに大切な家族を失わせるわけにはいかないんだ。俺は、、妹を諦めるわけにはいかない」
「っ」
エルマンノは、一度オリーブを見据えたのち、そう告げ笑う。オリーブに教えてもらったのだ。諦めない強さを。
そんなエルマンノに、対するネラは、あの日しゃがみ込み目の前で背中を差し出した彼の姿を思い出し、今にも崩れそうな表情で笑みを浮かべた。
「な、なんそれ、、マジッ、反則じゃん、、そんな言い方、断れるわけないじゃん、」
隣で見据えるチェスタ。彼女のためにも、ミラナを諦めろなんて言えない。ネラはそう思いながら、涙を溢した。それに、オリーブもまた苦しそうに目を逸らす。と、対するアリアは歯嚙みしながらも前に出た。
「エルマンノ、、そんなの、やっぱ駄目だよ」
「なっ!?だ、だが、、そしたら、」
エルマンノはチェスタを横目で見据えながら返す。チェスタが、とは言えなかった。チェスタのためにやっているわけではない。ミラナを助けたいと思ってるのは皆であり、一番は。
エルマンノ自身だからだ。
と、そんな事を考えていると、対するアリアが真剣に放った。
「でも、そんな無謀な事、、何か、他に考えとか、可能性は、無いの、?」
「...わ、、悪い、、ミラナが目を覚さないんじゃ、どうする事も出来ない、、医師が記憶消去意外ないと言ってるんだ、、医師が出来ない違法行為しか、残されてない、」
「...」
「はぁ、、そっか、」
「えっ」
エルマンノの返しに、アリアが歯嚙みする中、ネラが観念した様に息を吐いて、頰を叩くと、目つきを変える。
「なら、絶対死なんでね、?」
「ああ、、当たり前だ」
涙目だが真剣な様子のネラに、エルマンノはニッと。自信げに、強く返してみせる。が。
「っ!駄目だよっ!そんなっ、ネラはっ、ネラはいいの!?ネラだってっ」
「嫌だよ!絶対嫌、、でも、何も出来ないで、、崩れちゃう兄ちゃん見るのは、、もっと嫌なんよ、」
「っ、、で、でも、」
病院から出て行った時のエルマンノをお互いに思い出す。
そんな中、アリアがネラの答えに目を見開くと、ネラが歯嚙みして続ける。
「ごめんね、アリアっち、、アリアっちの気持ち、めっちゃ分かるよ、、ウチだって、そうだもん。でも、それで止まる兄ちゃんじゃないってーかさ、、そこで止めたら兄ちゃん死ぬってかさ、、ウチらが無理したら、兄ちゃんももっと無理するからさ、、ウチらみんなで、分け合って、、みんなで無理しない、?だって、ウチら家族だし、」
「っ、、そんなの、」
ネラの主張に、アリアは納得出来ないと言わんばかりの表情で、隣のオリーブに視線を移す。すると。
「...お兄たんが居なくなるのは嫌、、だけど、、諦めて苦しくなっちゃうなんて、お兄たんじゃない、、お兄たんは、いつだって諦めないで、いてくれたから、」
「オリーブ、」
「大丈夫、、精神移動するんはウチだよ?絶対、死なせないから。ウチが、絶対守り切ってみせるから」
ネラはニッと、歯を見せ笑う。その様子に、アリアは苦しそうな表情を浮かべたのち、背中を押す様に笑みを浮かべるオリーブに息を吐いて、真剣に告げた。
「帰って来なかったら、絶対許さないから」
「ああ、」
「わーってるって!兄ちゃんは守るよ!」
「ううん、ネラもだよ」
「えっ」
「ああ、そうだ。俺の事よりも、ネラの方は、、大丈夫なのか、?」
「ま、まあ、、第三者の精神移動とか、、マジやった事ないし、本で読んだ情報だと、相当大変みたいだけどさ、」
「そう、、なのか、」
ネラの言葉に、今度はエルマンノが弱音を零しそうになる。と。
「でも、ウチ、やってみるよ」
「っ!」
「ウチは誘拐されるくらいには、凄い魔力の持ち主なんしょ?ウチの事は信用出来んけどさ。兄ちゃんが言ってたから、、兄ちゃんの事は、信用してるから」
「っ、、そう、だな。ああ、ネラは、努力家で、努力すれば常識も覆せる、最高の妹だ」
「そこまで言われると逆に信用ないんだけど」
「えぇ、」
ネラは未だ涙を浮かべながら笑顔で放つと、「でも、ありがと」と付け足す。だがその表情は、自分の力を信用しているとは、とても言えない様子だった。それに、エルマンノは拳を握りしめながらも、時間がないと。アリアとオリーブに向き直る。
「悪い、その、二人にも、頼みたい事があるんだ」
「っ!うん!任せてっ!」
「はぁ、、うん、分かった。寧ろ、手伝わせて。こんな時に何もしないとか、なんか、嫌だから、」
「そうか、」
アリアの答えにエルマンノは小さく微笑む。と、ずっと沈黙を貫いていたチェスタが割って入る。
「ご、ごめんなさい、」
「ん、?どうした?チェスタ」
「そんな、、危険な事とは知らずに、」
「ふっ、ああ、大丈夫だ。俺は今まで何回も死にかけてきた。でも、その度に妹達に助けられた。俺は、俺の大切な妹達を信じてる。だから、チェスタ、頼む。俺を、、お兄ちゃんを、信じてくれ」
「...」
その言葉に、チェスタだけで無く皆歯嚙みした。確かにこんな言い方、暴論かもしれない。何度も死にかけているからこそ心配しているのも理解しているし、今回やろうとしている事の大きさも理解している。だが、それをせずに失うものの大きさも、エルマンノは理解している。だからこそ。
「俺だって死ぬわけにはいかない。死のうとなんて思ってない。だから、戻ってくるよ。ネラの事も、絶対に何とかする。妹は、絶対に兄が守る」
「はぁ、ほんと、こうなったら兄ちゃんは止まらないからなぁ〜」
エルマンノが笑みを浮かべてネラに促すと、彼女は息を吐きながら放った。それを一瞥し、エルマンノはチェスタの頭に手をやり優しく撫でる。
「だから、心配しなくていい。チェスタも、オリーブも、アリアも、ネラも」
「なら、エルマンノの事は、私達が絶対に守る」
「うん!お兄たんを守るのが、妹だからっ!」
「っ、、ああ、、頼りにしてる」
エルマンノは皆の言葉に目の奥が熱くなりながらも、いつも通りに返す。と、そんな中。
「どうした?チェスタ」
「触らないでください、、変態さん、」
「ああ、わ、悪かった、、頭撫でられるの嫌いな妹も居るもんな、」
「それ妹に限らないです」
チェスタが小さくそう答えていると、ふとアリアが口を開く。
「それで?私達に頼みたいことって?」
「ああ、、そのためにはまず持って来なきゃいけないものがある。だから、少し待っててくれ!」
エルマンノは強くそう告げると、そのまま民家を後にする。その様子に、皆が不安げな表情をする中、ネラは目つきを変えて、足を踏み出した。
「ネラ、、どうしたの、?」
「エルマンノのところ?」
「ううん、、ウチも、ちょっと確認したい事があって」
ネラはそれだけを告げると、同じく民家を後にした。
☆
「よしっ、あった」
エルマンノは一度家へと戻り「それ」を手に取ると、そのまま皆の元へ戻ろうと向かう。が。
「エル?帰ってたの?」
「あ、、か、母さん、、その、ごめん、、また、ちょっと用事があって」
「もうこんな時間でしょ!?どこに行こうとしてるの!?」
「...お願い、、今、動かなきゃ、、手遅れになるかもしれない、、一人の、命が懸かってるんだ、」
「え?命、?」
「帰って来たら、、いくらでも説教してくれていいから、、だから、、今だけは、」
エルマンノの表情に、母は目を見開く。そこには、もう何も出来ないのは嫌だと。そんな、強い意志が表れていた。それに、事の重大さを察し、母は悩んだ。
「エル、」
「え、」
「前、ソナーがずっと聞こえっぱなしで、辛かった時があったよね、」
「う、うん、、あったね、」
「あの時、、ソナーを止めてくれたけど、、エルは、、危険な状態になった」
「そう、、だね、」
「だからきっと、今日もそうなんでしょ?お母さんには分からないけど、誰かのために、命を懸けようとしてるんでしょ?」
「そ、、それは、」
「でも、駄目」
「えっ」
「誰かを助けるためなのも、誰かの命が関係してるのも、、なんとなく分かる、、けど、それでエルがまた危険な目に遭ったら、、お母さん耐えきれない、」
「...」
エルマンノは、唇を噛む。
「誰かの命を見捨てろなんて思ってない、、けど、誰かの命より、、エル、、貴方の命が、大切なの、」
「...」
エルマンノは拳を握りしめる。いつも、辛い思いをさせている。そんな自分に腹が立つ。それと同時に、こんな話を早く終わらせてミラナのところに行きたいと、そう願う自分にもまた、腹が立つ。
「母さん、、いつもごめん」
「えっ、」
「母さんが、息子を死なせたくないのと同じで、、俺も、大切な妹を、死なせたくないんだ。だから、、ごめんっ、!」
「あっ、ちょっと!」
エルマンノは拳を握りしめ、強く目を瞑り、振り向かずに走り出す。
「エル!」
母は慌てて家を出て追いかけようとするものの、そこにエルマンノの姿は無かった。恐らく、透明化魔法を使用したのだろう。それに、母は目に涙を浮かべながらも。
「説教するから、、絶対に帰って来なさい、」
と、掠れた声で呟いた。
☆
「フレデリカ!」
「はっ、ちょっ」
「お、おぉっ!」
エルマンノは母の言葉を振り切り、何度もごめんなさいを繰り返しながら走ったのち、フレデリカの実験室に容赦無く通過魔法で入室する。と、そこにはお風呂上がりで肌着のままストレッチをするフレデリカが居た。
「おおっ!妹の部屋に入ってしまい、そこには薄着の妹、、そして角度的に上から見ると、無防備な胸元が大きく露わに、」
「死ね!」
「ごはっ!」
エルマンノは家の外に蹴り飛ばされた。
「わ、、悪かったっ、、フレデリカッ!待ってくれ!」
ゆっくりドアを閉めようとするフレデリカにエルマンノが声を上げると、「何、?」と、とても機嫌の悪い様子で。不快な様子で放った。それに対し、そのまま土下座をする。
「頼むっ!話を聞いてくれっ!フレデリカのっ、力が必要なんだっ、!」
「...その様子だと、何か策があったみたいだね」
「ああ、そうだ。よく分かるな、、流石フレデリカだ、」
「あんな死にそうな顔で出てって、戻ったら鼻の下伸ばしてるんだから、誰だって分かるよ」
「伸ばしてたか、?」
「うん、伸びてるね」
「伸びるのは鼻の下だけじゃ無くて、別の下もーー」
「帰って」
「ああ!悪かった!」
またもや閉めようとするフレデリカに、エルマンノが声を上げ止めると、改めて立ち上がり真剣に放つ。
「フレデリカの、力が必要なんだ」
「その策に私を巻き込もうって話?」
「巻き込むというか、お願いをしに来た、、その、実は」
エルマンノは奥から持って来たタオルを巻いて聞き入れる彼女に告げる。エルマンノは余程危険人物なのだろう。肌着を着ているというのに、更にタオルを二重巻きにしていた。
「は、?そ、それで、、エルマンノは精神移動をして、ミラナの中で話し合いをしようとしてるって事?」
「ああ、そうなんだ。だから、そこでフレデリカに頼みがある」
エルマンノはそこまで告げると、改めて深く頭を下げる。
「数が少ないのも、頑張って作ってたのも知ってる、、だが、お願いだ。新薬を、、いくつか欲しいんだ、」
「っ、、それ、誰に使うの?」
「...ネ、ネラだ、」
「駄目。絶対に貸さないから」
「っ!そ、そこを何とかっ!」
エルマンノはフレデリカにしがみつく。
「っ」
「お願いだっ!もうっ、時間がないんだっ!ミラナがっ、ミラナが手遅れになるっ!お願いだっ!」
「駄目って言ってるでしょ!」
「っ」
振り解くフレデリカの瞳には、涙が溢れ出ていた。
「...エルマンノッ、、ほんと、、馬鹿なの、?あんた、死ぬかもしれないんだよ!?」
「俺は馬鹿だ!シスコン馬鹿だからな!」
「ふざけないで!今まで何回死にかけたと思ってるわけ!?」
「でもっ、死んで無い!フレデリカの、みんなのお陰だ!」
「だから過信しないでって!転移魔法なんて、ただでさえ危険なものなのに、精神が不安定な相手に、しかも第三者の魔法で入り込むなんてっ、自殺行為でしか無い!」
「でも俺は死なないっ!」
「何を根拠に言ってるわけ!?確かに、ミラナはあんたには大切な人かもしれない。チェスタのためとか言うのかもしれない!でもっ、私はそのミラナって人になんて会った事もないんだよ!?それよりも、す、、エ、エルマンノを失う方が、、よっぽどっ、」
「っ」
フレデリカもまた、泣き崩れてしまった。その様子に、エルマンノは目を剥き拳を握りしめる。まただ。自分を犠牲にする考えしか出来ていない。そうしてまた一人の妹を、苦しめてしまった。みんなそうだ。その場のノリで、なんとか分かってもらっているだけで、アリアもオリーブも、ネラもチェスタも。母にだって、苦しい思いをさせている。それに嫌気がさしながらも、もう時間がないと。エルマンノは目つきを変える。
「...わ、分かった、、ありがとう、フレデリカ。悪かった、、俺が、馬鹿だった、」
「え、?」
ふと、頭を下げ撤回する。
「ちょっと、俺もいっぱいいっぱいだったんだ、、少し、頭冷やして別の方法を考えてみるよ。フレデリカも、ありがとな。色々、考えてくれて、、新薬は、、大丈夫だ。せっかくの複製だもんな、、ほんと、無理言って悪かった、、こんな夜遅くに。まあ、フレデリカの淫らな格好を見れたのは、来た甲斐があった。助かる」
「は、?何、言ってるわけ、?」
「とりあえず、身体に負担のかからない方法で、上手いやり方を考えてみるよ。フレデリカも、何か出たら、頼む。今日は遅いから、明日また来るな」
「はっ、ちょっ、まっーー」
「じゃあ、、またな」
エルマンノはそう言い切ると、またもや歯嚙みして走り出した。どこか、おかしく無かっただろうか。いつもの様に冷静に取り繕えただろうか。不安は沢山あったものの、今はただミラナの事をと。ポケットに入れた「それ」を握りしめ、村へと向かった。
「ほんと、、嘘つき、、分かりやすいくせに嘘なんかつかないでよ、、馬鹿、」
そんなエルマンノの後ろ姿を見据えながら、フレデリカは涙を浮かべ座り込んだ。
「ほんと馬鹿、、最低、勝手に居なくなんないでよ、、お願いだから、」
フレデリカは掠れた声で。誰にも聞こえない声でそう呟いた。
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