第49話「合法ロリ妹とは最高だな」
「なんで、」
エルマンノは目を疑う。間違いだろうか。他に少女が居るのだろうか。いや、だとしたら「ねぇねぇ今日居るかな」なんて言葉、おかしいだろう。ならば。そう思うと、同時。
「ワンッ!」
「あっ、ペロはやる気みたいよ!今日、ねぇねぇに聞いてみよか〜」
「はぁ、」
ミラナは、ペロを撫でながらそう放った。その隣で、呆れた様に、だがどこか寂しそうに、チェスタは息を吐いた。間違いない。先程の会話も、全てミラナとのものだ。だとすると、即ち。
「あの時の、六歳の妹ってのは、、ミラナのもう一つの、、人格、なのか、?」
エルマンノは冷や汗を流す。先程オリーブの石の時に多重人格のイメージをしたため、それを容易に察する事が出来た。恐らくそれが無ければ少し悩んでいたところだろう。と、その時。
「ワンッ!」
「え、?どうしたの、?...あっ、」
「え、、あ、」
「おお、」
ペロがこちらに気づき吠えると共に、二人もまたこちらに視線を移す。それに、エルマンノは声を漏らし冷や汗を流す。気まずい。ペロ、お前なんてことをしてくれたんだ。内心そう思いながらも、改めて口を開く。
「ぐ、偶然だな、」
「...ん、」
「え!?誰?あっ、もしかして、貴方がエルマンノさん!?」
「え、あ、ああ、、そうだが、」
目を逸らすチェスタとは対照的に、ミラナは元気に目を見開き近寄る。その反応に、エルマンノは確信する。やはり、二重人格的なものみたいだ。エルマンノとの記憶は無いらしい。
「チェスタから聞いたんよ!貴方エルマンノさんって言うのね!」
「どこぞの映画の巨大な生物を前にした様な台詞を言うんじゃない」
「何の事ぉ?」
「何でもない」
エルマンノはそう告げると、チェスタに視線を移す。それに、彼女はバツが悪そうに目を逸らすと、対するミラナは前に出る。
「貴方の事知っとるよ!この間チェスタのお迎えに来てくれたって、そして、貴方にウンチしちゃったって!」
「そ、それ、、私がしたみたいになるから、」
「おお、それはいいな、」
「ほら、こうなるから」
「ふぇ?」
エルマンノがニヤニヤする中、チェスタが嫌そうに目を細めると、ミラナは首を傾げる。すると。
「あ、そや!エルマンノさんっ!えと、遅くなりました!私、ユナ!六歳!今月で七歳になると!いーでしょ〜」
「っ」
エルマンノは目を見開く。やはり、六歳の妹とはこの子。ユナという少女の話だったのか、と。納得すると共に、ミラナ。いや、ユナに近づき微笑む。
「よろしく、ユナ。今月って事は、そろそろ誕生日なのか?」
「うんっ!二週間後!」
「おお、それはめでたいな」
「おめでた!」
「ああ。お赤飯だな」
「何それ〜」
微笑む彼女は、ユナ。なのだが、見た目がミラナなため冷や汗を流す。だが、これは逆に、合法ロリとは言えないだろうか。中身は幼女だが、体は違う。という事は、と。エルマンノはニヤリと微笑む。この場合、精神と体。どちらが法的に認められるのか。そんな最低な考えをしながら、エルマンノは改める。
「それにしても、しっかりしてるな。六歳なのに」
「えぇ〜、ほんま〜?うれし〜!」
異世界の幼女はこんな感じなのだろうか。いや、よく考えたら自分が六歳くらいの頃の施設でも、皆しっかりした会話をしていた様に思える。
「気をつけた方がいいよ、、この人、変態さんだから」
「え〜?変態さん、?何でよ?」
「パンツ一丁で私達の家の中歩いてた」
「わっ!変態さんだ!」
「おい、それは語弊があるぞ、、弁護人を呼んでくれ」
エルマンノは息を吐く。あれはペロ。貴様のせいだろ。そう思いながら睨むものの、「ワウゥ?」と首を傾げた。許せん。動物愛護法に感謝するんだな。すると。
「フンッ!」
「わ、ま、また、?」
「わわっ!立派やなぁ、おっきぃおっきぃ」
「お、おお、、それ、もう一回言ってくれないか?」
「立派や!」
「おお、、俺も立派になりそうだ」
「ユナ、この人相手にしないで」
「えぇ〜、可哀想だよぉ」
「俺は可哀想なのか、?」
突如糞(今度はズボンにでは無い)をするペロに、驚いた様に二人で話す中、エルマンノは震える。と、それを魔法で回収しようとしゃがみ込むユナを他所に、チェスタはふと、エルマンノに近づいた。
「...驚かないんですか、?」
「ん?まあ、前ズボンにされたからな」
「そっちじゃありません、、その、ミラナの、」
「ああ、そっちか。いや、それ驚かない奴居るのか?」
「あ、驚いてたんですか、、表情が死んでる方ですね、」
「俺の表情は死んでいるのか、?」
「...ごめんなさい、、その、変な、事に巻き込んでしまって、」
「いや、お陰でモヤモヤが晴れた。寧ろ、今ここで出会えて良かったよ」
「...その、エルマンノさん、、明日、お時間ありますか?」
「おお、それはデートのお誘ーー」
「違います。勘違いしないでください変態さん」
「おお、そ、そこまで強い否定も中々、」
「はぁ、、駄目だこの人、」
エルマンノが微笑むと、チェスタは頭を押さえる。と、回収の終わったユナが遠くで話しているのに気づき、パタパタとペロと共に歩み寄る。
「ど、どしたん、?そんな遠くで、何のお話?」
「ううん、ただ変態さんにお説教してただけ」
「えぇ〜?エルマンノさん何もしてないよ〜?」
「本当だよな?」
「うん!」
「何もしてないのにお説教なんて、贅沢だよな」
「え?」
「はぁ、、それより、そろそろ帰らないと、」
「あっ!ほんまだ!門限過ぎちゃう!」
チェスタの切り出しにユナが驚き声を上げると、エルマンノに手を振る。
「なんかバタバタしててごめんなぁ!エルマンノさんっ!また今度、ちゃんとお話ししよ〜ね〜!」
「ああ。ミラナとチェスタの妹なら俺の妹だ。改めてお話しよう」
「え?どーゆー事ぉ?」
「気にしなくていいから、」
エルマンノの発言に首を傾げるユナを、チェスタは呆れ混じりに促し、帰ろうとする。と、そんな中、ふと。エルマンノは小さく告げた。
「明日、空いてるぞ。何時だ?」
「朝十一時でもいいですか、?」
「早起きだな。問題ない」
「それじゃあ、、ここで、」
エルマンノとチェスタは小さく交わすと、それを最後に帰っていった。それを見据えながら、エルマンノは息を吐いた。
不思議な事が多く起こったものの、意外に今が一番しっくりきている。ただミラナは架空の存在を作っていたわけでは無いのだ。そして、それに少し困った様な反応を、チェスタがしていた理由も、ハッキリした。これは妹が居るとも言いづらいし、居ないと断言するのも悪いし、難しいだろう。だからこそ、部屋も別に作ったのだ。
つまり、自身の中に居る存在を認識しているが故に、ユナの記憶はミラナに引き継がれている可能性が高い。ユナはどうなのだろうか。だが、知っていたら先程の様な会話はしないだろう。先程、「ねぇねぇは家にいるか」そんな確認をしていた。ねぇねぇはミラナの事だろう。ユナの中にミラナが居る事を彼女が知っていたら、そんな事は言わないはずだ。だが、それでもおかしい。
だとしたら、ミラナの存在はユナは認識出来ない筈である。もし記憶が連携されていなくても、その記憶の欠如や部屋などによって認識しているのだとしても、"家に居るか"なんて台詞は普通出てこないだろう。それはまるで、"ミラナと会った事がある"様な言い方だった。
「おかしいな、」
エルマンノは冷や汗を流す。大体は理解した。スッキリした。そう思っていた筈だというのに、考えれば考えるほど、矛盾点が現れる。
「まあ、、とりあえず、明日だな」
エルマンノは明日のチェスタとの会話を目標に、今はソフィの様子を確認しに行こうと、足を進めた。
☆
その後、ソフィの家に行くや否や、彼女は案の定アルコールが入っており、寂しさ全開の様子だった。昨日顔を出していなかったのもあり、いつも以上にそれが大きかった様に思える。以前勝手に帰ったというのに、随分と都合の良い妹だ。お兄ちゃんは嬉しいぞ。
と、そんなソフィに引き込まれ、エルマンノは一夜をソフィの家で過ごす事になりそうだったのだが、なんとか夜になる前には抜け出し、家に戻る事が出来た。あのままでは母に殺されているところだった。なんとか助かったと、そうエルマンノは安堵した。正直、あそこまで妹に引き止められたら、恐らく熱い夜を過ごしてしまっただろう。ソフィに絞められながら寝る事になっていたに違いない。母からのソナーがなければ即死だった。
それ故に、その日はネラのところにいけなかったのだが、家に戻ってからソナーで話したところ元気そうだったので、明日顔を出すとだけ伝え、その日は幕を閉じた。
そして、約束の明日になり、エルマンノは目を覚ます。すると。
「なっ!?じ、十時五十五分!?」
明らかに間に合わない。エルマンノは慌ててリビングに顔を出した。
「おはようエル」
「ま、マズいっ!」
「どうしたのエル?何か用事?」
「幼児の用事がっ!」
「え、?」
エルマンノは急いで顔を洗い支度をしながらそう放つと、母は返す。
「昨日帰るの遅くて、寝るのも遅かったからじゃない?」
「滅相もない」
「使い方間違ってるわよ?それより、ご飯はどうするの?何も言ってなかったから作っちゃったけど」
「食べます」
エルマンノは瞬時に支度を済まし、腹が減っていたため急いで食す。と。
「ごふぇっ!?ごふぅっ!?」
喉が堰き止められた。どうやら、まだ食道は開いていなかった様だ。九時にはオープンするものだろ普通。
「だ、大丈夫!?エル!?」
「だ、大丈夫、、ありがとう、、ご馳走様っ、じ、じゃあ、行ってくる、」
「え!?そのまま!?」
エルマンノは感謝を告げそのまま家を後にした。驚く母を背に、エルマンノはまるで追いかけないでくれっ、と。感動的な雰囲気で振り向かずに走り抜けた。すると。
「はぁ、、はぁ、はぁ、」
「十五分の遅刻です」
「す、すみません、」
エルマンノは慌てて昨日別れた場所へと戻り、チェスタに顔を出した。そんな彼女は、どこか怒っている様子だった。まあ、当たり前なのだが。
「普通、五分前くらいに遅れる場合は連絡をするものですよ変態さん」
「も、申し訳ない、、チェスタの魔力解析をしてなかったから、ソナーも送れなくて、」
「なら、いいですよ。解析してください」
「えっ」
ん、と。チェスタは体を前に出す。おお、これは、と。エルマンノは冷や汗混じりに震える。このままでは本当に犯罪者になりそうだ。
「何してるんですか?早くしてください」
「ああ!あ、ああ、分かった」
エルマンノはそう声を上げると、チェスタに近づき魔力感知する。この作業は、前世でいう連絡先交換と似た様なものである。ただ、普段は魔力感知にここまでの事をしないのだが、何せ相手は幼女である。まだ魔力も大きく無く、微細な魔力なのだ。近づいて、かなり細かく分析しないと、他の魔力と混じる可能性があり、兄と妹のあんな会話やこんな会話が第三者に聞こえてしまうのだ。
「へへへ」
「何笑ってるんですか、?...ま、また変態な事考えてるんですか、?」
「いや、まあ、」
「否定から肯定しないでください、」
そんな会話をして数分後。エルマンノは分析を終える。
「よし、」
「長くないですか、?もしかして、、変な事してました、?」
「ずっと見てる中でするわけないだろ?」
「見てるからするんです」
「よく分かってるじゃないか」
エルマンノはニヤリとそう返したのち、それでは改めてと。試しにソナーを送る。
「どうだ?」
『あ、は、はい、、聞こえてます』
「なら大丈夫そうだな」
「それよりもこの距離で試してもあまり意味無いと思うんですけど、」
「あ」
エルマンノは真隣でソナー交信を行っていた。これはソナーの声なのか実際の声なのか分からなそうだ。と、改めてエルマンノは遠くでソナーを送り確認をすると、近くの公園で四人席の休憩スペースで斜めに座った。
「と、隣に行ってもいいか?」
「嫌です。何されるか分かりません。舐める様に足を触ってきます」
「決めつけないでくれ、、ならせめて対面に」
「舐める様に見られるので嫌です」
「じゃあ膝の上とか」
「舐められるので嫌です」
「舐めてない。チェスタは俺より立派だと思ってるぞ」
「別の意味で言ったんですけど、」
「舐めはしない。食べます」
「本物の変態さんなんですね、」
「本気で引かないでくれ。した事はない」
更に距離を感じるこの空間で、エルマンノが冷や汗混じりに放つと、改めて問う。
「それよりも、、この時間に、、大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「その、施設行くんじゃ、」
「あ、いえ、今日はお休みです」
「おお。という事はつまり、久しぶりのお休みに、お兄ちゃんと一緒に過ごしたくてっ、ずっと、、待ってたんだよ、?ってやつか、嬉しいなぁ、」
「違いますよ、、寧ろ、お休みの日に早くから貴方と居るのは最悪の一日になりそうで嫌です。出来れば近づきたくもないです」
「流石にお兄ちゃん泣いちゃいますよ」
「ご、ごめんなさい、、そういうのも好きなのかと、つい」
「俺はドMにされてるのか、?」
エルマンノがジト目を向けると、チェスタもまた改めて口を開いた。
「それよりも、エルマンノさんの方は大丈夫なんですか、?」
「ん?何がだ?」
「というよりか、変態さんっていつも暇なんですか?」
「突然直球になったな」
エルマンノは苦笑を浮かべる。
「暇ではない。日々、妹の事を考え、全妹に会いに行こうと動いている」
「...つまり無職なんですね、」
「う、、ま、まあ、と、というかっ、まだ俺は未成年だぞ、」
エルマンノは冷や汗を流す。確かに、未成年なためそれ自体は問題ないのだが、バイトをしているミラナや、毎日施設に勉強をしに行っているチェスタを見ると、何だかだらけている様に見える。だが、しっかり者の妹に叱られる駄目兄もそれはそれでありだ。
「ふふ、」
「え、何に微笑んでるんですか、?」
「ちょっと、妄想を」
「へ、変な事考えないでください、」
「変なこととは?」
エルマンノはそう真剣に首を傾げると、チェスタは口を噤み、恥ずかしそうに目を逸らす。と、そののち。
「まあ、、このままじゃいけないのも分かってる。だからこそ、成人になった時に考えるよ」
「それ一番駄目な思想じゃないですか、?」
「とりあえず、もしもの時はクエストでもやって、稼いでいくよ」
エルマンノはそう口にはしながらも、クエストをする度に妹達を巻き込んでしまう事に目を細める。まだきちんと考えてはいなかったが、この世界でまたやり直すと決めたからには、この世界で生きていく術を学び、社会に出なくてはいけない。妹を養うためにも、兄が出来ることをしっかりしなくては、と。真剣に考える。と、そんな悶々とした様子に、チェスタは珍しく目を見開いて、意外そうに見つめる。
「ん、?どうした?」
「い、いえ、、意外に考える事するんですね」
「俺を何だと思ってるんだ、?」
チェスタが見直したと言わんばかりの表情を浮かべると、またもや苦笑を返す。と、そののち。エルマンノは放つ。
「それよりも、そんな大切なお休みの日に、どうして最悪な俺と会ってくれたんだ?」
「えっと、、その、ミ、ミラナの事で、お話しを、」
「ああ、、昨日の」
「はい、、その、ごめんなさい、、びっくり、しましたよね」
「ああ。あの大きな見た目で幼女とは、新たな扉が開きそうだったぞ」
「ほんと変態さんですね、、大きなっていうのは、どこを見て言ってるんですか、?」
「ん?体全体だ。それと、筋肉の話だが?」
「はぁ、、そういうことにしておきます」
エルマンノが即答すると、チェスタは呆れた様に頷く。
「本当に、、エルマンノさんを巻き込むつもりは無かったんです、、その、ペロの件も合わせて、私達の問題に巻き込んでしまった事を、謝ります、」
「ああ、いいんだ。というかやめてくれ。幼女に頭を下げられると、俺が頼んだヤバい奴みたいになるからな、」
「そういう話じゃないです、、本当に、すみませんでした、」
「俺は気にしてない。なら、気に病む必要もない。寧ろ、俺はこんな可愛い妹達に出会えたんだ。出会いに感謝してるくらいだ」
エルマンノはそう優しく微笑む。それに、チェスタは目を見開き視線を逸らす。と、それに付け足す様に続ける。
「そ、それで、、その、見られてしまったからには、、話しておかなきゃと、思ったんです」
「ミラナの事か?」
「はい、ミラナの、ためにも、」
「まあ、何と無くわかるけどな、、多分、二重人格とか、そういう話だろ?架空の妹を作り出して」
「そう、、なんですけど、、またちょっと違うといいますか、」
「?」
エルマンノは首を傾げる。確かに、昨日の話的に、ただの二重人格では無さそうだった。
「本当なら、、何も無く終わらせたかったんです、、ミラナのあの時の姿も、、見せない様に、、するつもりでした、」
「それでも、丁度通りかかった俺が見てしまった、」
「はい、、それで、忘れてくださいって、、言っても、、無理ですよね、」
「妹の事は脳に焼き付いてる。全ての記憶を忘れる筈がない」
「で、ですよね、」
チェスタは迷っている様子だった。話すべきか。ここに呼んだのは良いが、まだいまいち覚悟が決まっていない様子である。それを見据えたエルマンノは、ふと立ち上がった。
「そうだ、チェスタ」
「は、はい、?」
「ちょっとランニングでもしないか?」
「え、?」
☆
「はぁ、はぁ、、ま、待って、」
「大丈夫ですか、?」
なんと、逆になっていた。普通「はあはあ」とする妹を、「やれやれ」と待つのが兄では無いのか。そして帰り、疲れ切った妹をおんぶして帰る。それが兄ではないのか。エルマンノは自身の不甲斐なさに拳を握りしめる。すると、ゆっくりと歩きながら、チェスタは口を開いた。
「それよりも、、なんで急にランニングなんて、」
「ん?ああ、、妹の汗を摂取したかったからだ」
「聖騎士さ〜ん!助けてくださ〜いっ!」
「やめてくれっ!」
エルマンノは声を上げるチェスタに慌てて放つと、息を吐いて改める。
「まあ、その、そうじゃ無くてだな、、なんだ、走りながらとか、体を動かしてた方が話しやすい事もあるだろ?ミラナとも、いつもランニングしながら話してたんだ。前を向いて、ただ走りながら。その方が、顔も合わせなくて済むし、少し気持ちも違うと思わないか?」
「...はぁ、それも、そうかもしれません、」
「だろ?」
「でも息上がってたら意味無くないですか?」
「もっ、盲点だったぁ!?」
「盲点の幅が広いんですね」
微笑むエルマンノに呆れた様に返すチェスタ。すると、その後彼女は覚悟を決めた様に前置きする。
「その、、それで、私達の事情を話して、どうこうってわけじゃないんです。ただ、このままだと分からない事だらけだと思いますし、モヤモヤしてしまうと思ったので、、その、」
「ああ、分かってる。それを誰かに言うつもりは無いし、事を大きくするつもりもない。兄でも、妹の隠したい事くらい分かるし、配慮はするつもりだ」
「あんなに配慮のかけらも無い事言ってるのにですか、?」
「まあ、自分の欲も大切だしな」
エルマンノは微笑みながらそう放ち、「ものの重要度は分かってるつもりだよ」と付け足す。それにチェスタは「じゃあ部屋に入るのは良いんですか」と強く放つと、エルマンノは冷や汗混じりに目を逸らした。だが、その様子に、チェスタはどこか先程とは違った小さな笑みを浮かべ、息を吐いて告げる。
「そしたらまず、、私達の、話から、する必要があります、」
「私達、、っていうのは、チェスタとミラナの事か?」
「...」
チェスタは小さく頷く。
「その、、実は、、私達、本当の姉妹じゃ無いんです」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「っ、、そ、そんなに驚きますか、?」
エルマンノの突如上げた声にチェスタはビクッと肩を揺らして聞き返すと、彼もまた真剣に放つ。
「つ、、つつ、、つまり、天然の、妹では無いということか、?」
「て、天然、?」
「あ、ああっ、、なんということだ、」
エルマンノは崩れ落ちる。とうとう見つけた天然妹だと思っていたのに。残念無念。そう思いながらも、天然だろうがそうじゃなかろうが、妹に変わりはないと。エルマンノは目つきを変える。
「でも大丈夫だ。もう、チェスタは俺の妹だからな」
「え、?な、何が大丈夫なのか全然分からないんですけど、」
エルマンノが歩きながら微笑むと、チェスタはジト目を向ける。
「進んで良いですか?」
「進んでるぞ?」
「足じゃなくて話です」
「ああ。どんどん話してくれ」
「はぁ、、その、、それで、その、ミラナと出会ったのは病院でなんです」
「病院、?」
「実は、、ミラナの親が、その、」
「あ、ああ、、いないんだよな、」
「そういえば、、知ってたんでしたっけ」
「ミラナから聞いた」
「家に来た時言ってましたね、」
「ああ。だから、ミラナの事だからって、そんなに気にしなくていい。ミラナも結構デリケートな話はしてくれていたからな」
エルマンノがそう付け足すと、どこか安心した様にチェスタは息を吐き、続ける。
「そうなんです、、それで、その、両親が亡くなった理由は、知ってますか、?」
「そ、それは知らないな、」
エルマンノは、両親が居なくなったのでは無く亡くなった事を知って目つきを変える。
「はい、、実は、事故、だったんです」
「え、?」
「二年前の、電車の事故です、」
「っ」
「知ってますか、?」
「し、知らなかった、」
電車というのは、恐らく路面電車の事だろう。この世界では、電車はそれしかないため、その事が窺える。
「結構大きな事故だったんですよ、、それで、」
「ミラナの、、両親が、」
「はい、、それに、、それだけじゃ無いんです」
「え、?」
「私の家族も、亡くなりました、」
「っ」
その立て続けに放たれた衝撃的な言葉に、エルマンノは思わず足を止め険しい表情を浮かべる。
「あ、えと、エルマンノさん、?」
「あ、ああ、、悪い、ランニングしながらって言ったのは俺なのにな、、悪い、」
エルマンノはそう仕切り直すと、改めて足を進める。
「その、、それで、?チェスタは、、大丈夫、だったのか、?」
「はい。私は、お母さんに守られて、、それで、軽傷で済んだんです、」
「そう、か、」
エルマンノは歯嚙みする。それで軽傷で済んでも、彼女の心は大きく傷ついている筈だ。それは果たして、本当にいいのか、と。
以前チェスタが言っていた、一人だという意味。何となく分かった気がした。きっと、誰と居てもその孤独感は拭えない。
と、そんな事を思う中、チェスタは少し悩んだのち、口を開いた。
「それで、、その、私も引き取り手が居なくて、、それで、」
「っ、、まさか、それで、ミラナが、?」
「はい、、それから、私はミラナの妹、、に、一応なったんです」
エルマンノは目を見開く。そうか、彼女は養子に、、いや、ニュアンスが少し違う気がするが、とにかくミラナに引き取られ、家族になったという事である。エルマンノはならば妹ではないか、と。目つきを変える。血は繋がっていなくてもそれは既に血筋以上の関係である。エルマンノは安心感を露わにした。が、しかし。
「それで、、確かに色々あったのは分かったが、ミラナの人格の話と何か関係が、?」
「はい、、そう、ですね、」
チェスタは、ふと。今まで以上に言いづらい様子で言葉を濁す。
「...大丈夫か?いいぞ。無理しなくて、」
「い、、いえ、、一番、、話しておかなきゃいけない事なんです、、そのために、呼んだんですから、」
「そうか、、なら、いつまでも待つよ」
「...エ、エルマンノさん、」
「ああ」
チェスタが覚悟を決めた様にそう切り出すと、そののち、数歩前に出て振り返った。その顔は、辛そうで、崩れそうであった。
「実は、ミラナがあの事故で亡くしたのは、両親だけじゃ無いんです」
「えっ」
ドクンと。胸が大きく音を鳴らす。嫌な予感がする。話の流れからそれを察して、エルマンノは身構える。すると、チェスタは深呼吸をしたのち、真剣に告げた。
「それが、、ユナ。...ミラナの、"本当"の、妹です」
「っ」
予想していた最悪の言葉が放たれ、エルマンノは呆然と立ち尽くした。
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