第48話「兄は妹の秘密を聞き出したい」
「た、ただいまっ!...あ、チェ、チェスタァ、、良かったぁ、大丈夫やったんやねぇ、」
「ま、まあ、」
「おい、俺はそんなに警戒されてるのか、?」
「そゆことやないけど、、ってえぇっ!?どないしたん!?そのっ、えっ、チ、チェスタ!?大丈夫!?なんかされとらん!?」
「近しい事はされたけど、大丈夫、」
「おい」
帰宅と共に焦りながらチェスタに駆け寄るミラナに、エルマンノはジト目を向ける。と、そののち、エルマンノは自身がパンツ一丁なのに気づき、なるほどと。何故か納得した様に腕を組む。
「俺は妹には手は出さないぞ」
「ほ、ほんまかいな、?」
「ほんまです。それに、今の俺の股間は元気になれません」
「こ、股間が、、どしたん?」
「蹴った。思いっきり」
「えぇっ!?それ死ぬんとちゃうん!?」
「ああ。もう死んでるのかもしれないな」
「それあかんて、、て、それよかチェスタも妹になったん?」
「されたの」
「成り行きでな」
どゆこと?と呟きながら、ミラナは首を傾げる。その様子を、エルマンノとチェスタは目を細め見つめる。
先程の話。やはり、ミラナの妹はチェスタで間違いはないが、彼女の話していた妹は別に居るという事になる。がしかし、あの様子。隠している妹が居るというよりかは、チェスタも何か思い当たる節があったように見える。即ち、他に妹が居るのを二人で隠している可能性も低い。となると、やはり、先程のエルマンノの予想は間違っていないだろう。
彼女は、架空の妹を作り出している。そう、エルマンノの同業者というわけだ。
「ミラナ」
「ん?どしたと?」
「周りから白い目で見られる事もあるかもしれないが、お互い頑張ろうな」
「な、突然どないしたと!?」
エルマンノとミラナの会話に、チェスタが拳を握りしめると、そののち。チェスタは息を吐いて口を開く。
「その、ペロがまたフンをつけちゃって、、それで、ズボンを洗って乾かしてる最中なの」
「ああ、そういう事、、でも、なら何で上も脱いどるん?」
「バランス調整です」
「なるほどね!」
「何がなるほどなの、?」
「バランス取らねえとなぁ」
ミラナの頷きに、チェスタは呆れ混じりに放つと、改めてミラナは笑みを浮かべた。
「それよかほんまにありがとーな。おに、、エルマンノさん、、ほんま助かったわ」
「いえいえ。どうせなら、このまま部屋の掃除でもしましょうか?」
「そこまではええよ流石に。でも、せっかく来てくれたんやし、ちょっとゆっくりしとって」
「まあ、十分ゆっくりはさせてもらってましたが」
「でもお茶とか出しとらんやろ?」
「まあ、そうですけど」
「なら飲んでいくでありんす」
「突然上品になったな」
「ゆっくりしていきんしゃい」
突然口調が変わったミラナにそう口にすると、彼女は奥でお茶を用意しながら放った。
「それよか、この間のは、何とかなったん?」
「ん?この間、?」
「その様子やと大丈夫そうやね」
ミラナは、お茶をエルマンノが座る前のテーブルに置くと、改めて放つ。
「ほら、妹さんの」
「ああ、オリーブのお母さんの話か、」
「あれオリーブさんの話やったん!?」
「あー、そういえば言って無かったか、」
「なんかイメージ変わったわぁ、、色々、大変やったんやね、」
「まあ、、ミラナの言う通り、、立派だった。ちょっと話はややこしいが、オリーブは分かってくれたよ」
「そうか、、ほんま良かったわ、」
ミラナはそう息を吐くと、そののち立ち上がる。
「でもせっかく来てくれたんにごめんなぁ。あたしまたこの後バイトやねん」
「ああ、、いや、それなら全然。寧ろ、急がなくていいのか?」
「まだ時間あるけん。大丈夫と」
「その間にチェスタの様子を見に帰って来たんだな、、ほんと、妹を大切にしてる、、姉の鑑だな」
「...そ、、そんな事、無いよ、」
「...」
ミラナの様子に、エルマンノは目を細めながらも、お茶を出してもらった後は、そのままバイトへと向かった。と、その後。
「...」
「...」
「...えーと、、最近、学校はどうだ?」
「何ですか突然、、話しかける話題に困ってる兄みたいな雰囲気出さないでください、」
「おお、よく分かったな、」
「はぁ、、そういうの要らないんで、」
ミラナが家を出たのち、エルマンノは服を着てチェスタとお茶をした。本当ならば帰って欲しいところだが、ミラナが先に念を押していたため、嫌々ながらにチェスタはその場を耐えていた。気まずい雰囲気を誤魔化す様にペロと遊んでいたエルマンノだったが、何とかしなくてはと口を開く。
「...それよりも、チェスタ」
「...」
「学校、、大丈夫そうか?」
「え、まだそれ続けるんですか、?」
「ん?ああ、というか、一番聞きたいところだったんだ」
「え、、一番って、、さっきのはいいんですか?」
「それは別に、俺も架空の妹を作り出してるし、変な話でもないだろう。それよりも、俺はチェスタの話を聞きたい」
「えぇ、、何だか変な人ですね、」
「変態だからな」
「認めるんですね、犯罪者さん、」
「も、もっと強い言葉になってません?」
「まだ物足りないですか?」
「よく分かったな」
浅く息を吐くチェスタに、エルマンノはニヤリとそう呟くと、そののち、彼女は小さく続けた。
「別に、、普通ですよ」
「そうか、、辛くは、ないか、?」
「え、?何ですか、?何でそんな事、、っ」
エルマンノの一言に、一転。チェスタは目の色を変えて、またもや立ち上がった。
「...もしかして、見てたんですか、?あの時、」
「わ、、悪い、、目に、止まったから、」
「だから待機室に呼ばれたんですね、」
「そ、そういう事だ、」
「...帰ってください、」
「え、」
「他人に、、話す事はありませんから」
「俺は他人じゃない。今日からはもう兄として、頼ってーー」
「帰ってください!」
「っ...そうか、」
やはり、聞いたらマズイ事だったかと。エルマンノは頭を掻きながら、ティーカップを置く。
「ご馳走様でした。また、来ます」
「こ、来ないでください」
「ペロに会いに来たいんだ。な?ペロ」
「クゥ〜、」
「今まで全然ペロと戯れて無かったじゃないですか、」
「それ以上の事が重なってたからだ。それに、ペロは思わずウンチが出るほど、俺に安心感を抱いてるみたいだしな」
「...それは、、すみません、」
「謝る話じゃない。だから、また来るよ」
エルマンノはそう微笑むと、玄関へと向かう。そんな中、チェスタは少し迷ったものの、深呼吸をして告げる。
「それと、、別に、辛くないですから。ずっと、一人だったので」
「っ、、そうか、」
その、強がりでは無い。本当の言葉に、エルマンノは目を見開き、その後微笑んで頷き、家を後にした。
☆
「...と、いうことがあったんだ」
「...エルマンノは私以外の家にも平然と上がり込む犯罪者なのは分かったけど、、それでどうして欲しいの?それだけじゃ判断材料が足りな過ぎる」
その後、エルマンノはソフィの元に行こうかと悩んだ末、このモヤモヤを片付けるのが先だと。またもやフレデリカの元に足を運んだ。
「まあ、、それはそうなんだけどな、、でも、明らかに、俺とは違う感じだった、」
「妹の妄想が?」
「ああ」
「エルマンノよりヤバい人はいないと思うけど」
「俺はそこまでヤバいのか、?」
「うん。ヤバいね」
「即答するなよ、」
「それよりも、確かにエルマンノとは違うタイプなのは同意見。多分、情報は少ないけど、彼女は存在すら、形すらないものに妹と名づけ、その設定を自分で作って、それに合った部屋まで作ってるって話でしょ?」
「あ、、ああ、、そうなるな、」
「それが本当なら、多分寂しいのかもね」
「え、?」
「両親も居なくて、家、広いんでしょ?二人とペットだけじゃ、大き過ぎるんじゃない?」
「...なるほどな、」
エルマンノはフレデリカの考察に頷く。すると、彼女は改める。
「でも、本当にそうかは分からないんでしょ?なら、何もする事は出来ない。それに、どうにかして欲しいとも言われてないわけだし、勝手に人の事情に口出しする方がよっぽどおかしいよ」
「まあ、、そうだよな、、でも、その話は多分本当だ。ミラナの発言にはおかしいところが多かった。明らかにチェスタと妹の話が違う。歳も、ミラナの呼び方も。ねぇねぇと呼んでるらしいが、チェスタはそのままミラナ呼びだった。それに、妹想いだなって話をした時に、前に妹の話をしてた時のミラナとは明らかに違う反応をしてた。まあ、何というか、戸惑ってる、、そんな感じだったな。まるで、前とは対象が違ってるみたいに」
「なるほどね、、まあ、エルマンノも色々証拠とか考えがあって発言してるんだろうなってのは知ってるから、私は何も言わないけど、でも、それでどうにかしようとは私は思わないし、私に相談する意味も分からない」
「まあ、ただ聞いて欲しかっただけだ、、悪い、頭を整理したくてな、」
「はぁ、相変わらずめんどくさい彼女みたいだね、エルマンノは」
「悪い、、いつも、こうして頼ってばかりで、、兄なのに、」
「別に兄だって、妹に甘えたい日くらいあるでしょ。そんなの、誰が決めたわけでもない。だから、そんな理屈的に考えなくていい。私だって、そのお陰で新薬のアイデアを貰ったり出来てるわけだから」
「それはフレデリカが凄いだけな気がするけどな、」
「まあ、一応こう見えても新薬の発見者だからね」
「はは、一応じゃなくて十分だな」
エルマンノはどこか吹っ切れた様に笑う。そうだ。ミラナとチェスタには明らかに闇が隠れている。だが、それを闇と断定するのには早過ぎるし、エルマンノがそれを判断するのは少し違うだろう。ミラナは元気そうに妹の話をしていた。それにチェスタも驚愕はしていたが、受け入れている様子だった。そして、チェスタの学校の件も、本当に気にしていない様子だった。一人イコール可哀想ではない。一人だった人間は、一人の寂しさなんて感じないのだ。エルマンノは前世を思い出して頷く。それを周りで勝手に可哀想だと言いレッテルを貼る方が、間違っている。ただ。
彼女の「ずっと一人」。その言葉が、引っかかった。そして、時々見せる、どこか寂しげな表情。あれは、恐らく一人だからでは無く、もっと別の。
「サンキュ、フレデリカ。なんか、色々とまとまった」
「別に私は何もしてないけど」
「それでいいんだ。兄は、妹の隣で愚痴ってるだけで、次の日も頑張れるってもんだ」
「それ愚痴だったの?」
「まあ、似たようなもんだ」
エルマンノはそう笑みを浮かべ放つと、そのまま玄関へと向かう。と。
「ちょっと待って」
「ん、?どうした?」
突如止められたエルマンノは、フレデリカに向き直る。
「...それよりも、もっと気になる事があるんじゃない?」
「も、もっと、?」
「はぁ、、アリアの事、さっき聞き忘れてたから」
「ああ、、悪い、色々あり過ぎて、、結構前のことの様に思えるな」
「それで、、何か聞いたの?」
「ああ、、でも、まだやっぱ言えないらしい。今年はまだって」
「え、何それ。来年ならいいってこと?」
「まあ、そういうことだな。というか、、もう少しこの環境に居たいって事じゃないか?」
「...それを、エルマンノはいいって言ったの?」
「ま、まあな、」
「...そう、」
「もっと聞いた方が良かったか、?」
「いや、無理に聞き出す話でもないから。実際、アリアも色々と考えてるみたいだからね」
「そんな感じだったか、?」
「...エルマンノ、アリアは家出してきたってのは知ってるでしょ?」
「ああ。というか、明らかにそうだしな、」
エルマンノは、目を細めるフレデリカに、そう返す。
「...なら、分かるでしょ。深く聞いてなくても、それがどれ程恐ろしい事か」
「...」
「実際に、親はアリアの事を探してる」
「っ!」
「見て来たの、この間。ギルドハウスに出てたって本人から聞いたから、見に行ったら、実際に捜索依頼が出てた」
「ほ、本人、って、アリアか、?どこでそんな、」
「アリアによると、三人でパーティを申請しに行った時にはあったみたい。普通にクエスト一覧に含まれてたらしいよ」
「な、、それに気づかなかったのか、俺達は、」
「不甲斐ないね」
エルマンノは驚愕する。いくらアリアの事情が分かっていなくても、それが本名で無くとも、捜索依頼が貼ってあれば覚えている筈である。それを覚えていないという事は、恐らくその時に見てなかったという事だろう。と、そんな事を考えるエルマンノに、フレデリカは息を吐いて告げる。
「まあでも、アリアはあの時それを見せない様にしてたらしいから、気づかなくても無理ないのかもね」
「アリアだったらそこでしくじりそうだけどなぁ、、まあ、ああ見えて、アリアも出来る時は出来るって事だな、」
「実際、彼女一人で住まいを見つけてるわけだしね」
「全然疑問にも思わせないし、やっぱ強い妹だなぁ」
「疑問点しか無かったと思うけど、、でもまあ、それなりに彼女も考えてるってのは、本人から話を聞いて分かった」
「...お兄ちゃんに教えてくれないか?」
「嫌」
「えぇ、、妹同士の秘密なんて、、一番聞きたいぞ、」
「それ、一番兄に聞かせたくない事だと思うけど」
エルマンノは残念そうに放つと、フレデリカは浅く息を吐いたのち、僅かに微笑み付け足した。
「アリアは、まだエルマンノには話せないって言ったんでしょ?」
「ああ、、無理させるからって、」
「まあ、そんなとこだろうね。アリアなりに考えて、エルマンノにまだ話せないって結論を出したなら、まだ話さない。私も実際、話したらエルマンノは大変な事をしそうだと思うから」
「そ、そんなヤバい事なのか?」
「犯罪に手を染めそうって事」
「もう染まってるんじゃないのか、?」
フレデリカの言葉にエルマンノはジト目を向けると、「汚した上から染めるつもり?」と付け足し微笑んだ。すると、エルマンノは少し悩んだのち、改めてドアノブに手をやった。
「汚れた手でドアノブ触らないで」
「えぇ、、じゃあ染めた方が良くないか、?」
「乾くまでどこにも触らせないよ」
「乾いたら触っていいのか?」
「身体の話してないんだけど」
「えぇ、駄目ですか、」
「それより、次はどこに行くの?」
「ま、昨日の事があったからな。先にオリーブのところに行こうと思う。やっぱり、妹には全員に毎日会いたいからな」
「はぁ、、エルマンノはほんと分かりやすいね」
「妹には敵わないな」
フレデリカが呆れた様に放つと、エルマンノは笑みを浮かべながらそう告げ、ドアを閉めた。それに、フレデリカは素直じゃないな、と。"彼女"に会いに行った事を察して息を吐いた。と、そののち。目つきを変えて立ち上がったのだった。
☆
その数十分後。エルマンノはオリーブの元を訪れた。
「あれ、?すみません、、今日って、、オリーブは、?」
訪れた民家で、オリーブの声が聞こえなかったため、エルマンノはお姉さんにそう放った。いつもなら、誰よりも先に走って現れる筈だというのに。かなしい。
「ああ、オリーブちゃんなら、今日は来てないよ」
「なっ、、な、何か、、あったんですか、?」
「うーん、、でもこの天気だしねぇ。多分、話が弾んでるんじゃないのかな?」
「っ」
お姉さんがそう放ち視線を移した空は、いつも以上に雲一つない綺麗なものだった。それに、エルマンノは察して微笑むと、感謝を告げあの地獄の階段を上った。
☆
「はぁ、、はぁ、オリーブ、?お取り込み中か?」
エルマンノは息を切らしながらも昨日の石のあった部屋の前にまで到達し、ドアを叩いた。すると。
「あ!お兄たん!今日は早いね!」
「もうそろそろ夕方だぞ?まあ、一周回って早いかもな」
「えぇっ!?もうそんな時間だったの!?」
「気づいて無かったのか、?」
「うん、、夢中になり過ぎちゃった、」
「...お母さんと、話してたのか?」
「うん!」
「そうか、」
その、予想通りの理由に、エルマンノは思わず口元を綻ばせた。
「お母さん!お兄たん来たよ〜!」
「...お母さんはなんて?」
「こんにちはって!私に色々教えてくれてありがとうだって!」
「それは、、色々な皮肉が込められている気がするが、」
オリーブの純粋な言葉とは裏腹に、どこか寒気のする物言いに、エルマンノは冷や汗を流した。
「その節は、、すみませんでした、」
「大丈夫!気にしてないって!」
「絶対嘘だぞそれ、まずその節で分かる時点で」
エルマンノが頭を下げると、オリーブは同じく元気に放つ。すると。
「え?誰それ?お兄たんはお兄たんだよ?」
「ん?何て話してるんだ?」
「うーん、何だか知らない人のお話、、お兄たんはエルマンノっていうんだよね?」
「ああ。そうだな」
「ほら!」
オリーブが何やら会話を交わしている。エルマンノに似た人物でも昔居たのだろうか。そう考えながら、詳細を聞こうとしたその時。
「それよりお兄たんっ!そろそろ雨の日だねっ!」
「そうか、もうそんな時期か」
「うん!相合傘デートしようねっ!この間色々出来なかったぶん!」
「っ!」
オリーブがそう元気に放っている後ろ。見える。見えるぞ。あの石から、とてつもない意思が見て取れる。オーラというやつだろう。相手は神様である。下手したら殺されるかもしれない。なんか寿命とかの理由をつけられて。
そんな神隠しにでも遭いそうな雰囲気に、エルマンノが恐怖しながら話題を変えようとした。その時。
「オリーブちゃん、、そろそろ、ご飯に、、って、ええっ!?エルマンノ!?」
「おお、アリア。たす、、いや、おはよう」
「流石に起きてたよ!」
「早起きだな」
「ムッカァ!それ絶対煽ってるよね!?」
ドアを開け、アリアが現れた。助かった。
「ご飯は、夕ご飯か?」
「昼ご飯!」
「やっぱり遅くまで寝てたんじゃないか、」
「そ、そんなに寝てないでしょ、?」
「もう夕方だぞ」
「えぇっ!?そんなにぃ!?」
アリアは驚いた様子だ。オリーブは分かるが、アリアまで時間を忘れていたのだろうか。と、そこまで考えたのち、エルマンノはハッとして窓を開ける。
「ど、どうしたの、?お兄たん、?」
「いや、この空間だけ時間の進みが違うのかと、」
「そ、それあり得るかも、」
「いや、それは無いな」
「突然裏切らないでくれない!?」
窓の外を見て何もないと判断する中で、アリアが声を上げる。すると。
「じ、じゃあ!直ぐご飯作るね!」
「あ、私も作るよっ!」
「じゃあ今日も一緒に作ろ!アリア!」
「うんっ!」
オリーブとアリアが微笑ましい会話をする中、エルマンノはその石に振り返る。
「大丈夫です、、オリーブは、元気ですよ」
『ありがとう、』
「っ」
エルマンノの耳に、僅かに聞こえた気がした。だからこそ、エルマンノはずっと気がかりだったそれを告げた。
「...その、、ライラの事、お母さんが愛情を込めた名前なのに、、俺が変えてしまって、すみません、」
『ふふふ、そんな、』
「っ」
僅かに、笑い声が聞こえた気がした。その声には、まるでまだ気にしていたの?全然大丈夫よ、と。そう言っている様だった。
「...それでも、」
『貴方も、同じく愛情を込めてつけてくれたんでしょ?なら、彼女も、大好きな貴方につけられたお名前の方が、嬉しいと思うよ』
「そんなっ、お母さんだって、」
『分かってる。でも、私と同じくらい。貴方のオリーブという名前にも強い想いが宿ってる』
段々とハッキリと声が聞こえてくる中で、エルマンノはそれを耳にし、檻に入れられ、近くにオリーブがあったからとかいう大して捻ってもないネーミングに苦笑を浮かべた。すると。
『でも、ライラじゃなくてオリーブ!って、、あの子に言われると、ちょっと寂しいけどね、』
「オリーブにもそう言っておきます。でも、大丈夫です。彼女は、お母さんの事、大好きですよ」
エルマンノはそう微笑むと、しばらく声が聞こえなかった。どうやら、感極まっている様子だ。と、そののち。
『ありがとね、、でも、、いいよ、それは言わなくて、、ほんと、お兄ちゃんだね、、貴方がお兄ちゃんで、、良かった、』
「そんな立派な兄じゃないですよ」
掠れた声で放たれたそれに、エルマンノは小さく笑うと、改めて問うた。
「それよりも、、その、さっき、何を話してたんですか?」
『え?』
「さっき、俺の話をしてたっぽかったので」
『うーんとねぇ、さっきは、、多分神様が話してたね』
「え、?」
『だから、ごめんね。あの時の私は神様の私だったから、、私には分からないかな』
「そう、、なんですか、」
エルマンノはそう呟く。聞くところによると、どうやら土地神の力の母の記憶という一部が塊となり魂を持った形が今の彼女だという。それ故に、記憶の統合はされていない様だ。多重人格者が他の記憶を共有していないのと似たものを感じる。
元々、聞こえない筈の声が、母の強い思いによってエルマンノにも聞こえているのだ。他の神の声が聞こえないのも無理はない。そう考えていると、その時。
『それよりも、娘とラブラブデートですか?』
「あ、えーっと、ですね、」
『この間は出来なかったから、、という事は、いつもは色々しているのですか?』
「あ、えーっとですね、」
エルマンノはえーっとですねボットになり目を泳がす。兄、というよりは彼の様な扱いに、石だというのにジト目が見てとれた。と、瞬間。
「きゃっ!?」
「なっ!?妹の叫び声!?大丈夫か!?」
エルマンノは瞬時に声のした方向へ振り返る。まるで助かったと言わんばかりに。
『あっ、ちょっと、』
そして、慌ててその声のした場所。台所に向かった。と、そこには。
「い、、てて、」
「...おお、」
「大丈夫!?アリア!」
「てて、」
転んでいるアリアが居た。その姿は。
「えっちだな」
「どっ、どこ見てんの阿保っ!」
エルマンノは、本来ならば転んだ相手を見据える時には絶対ありえないアングル。ローアングラーによるパンチラショットの角度でエルマンノはアリアに寄った。すると。
「おうふ、」
アリアに思いっきり蹴られたが、これはご褒美である。
「しっ、下から覗くとかさいてーっ!」
「た、確かに、、ローアングル禁止だったな、、悪い、、つい、」
「ついじゃないから!」
エルマンノはコミケでは御法度のローアングルを行ってしまった事に頭を押さえる。だがやはり、妹は全方向から見たいものだ。禁止されているのは撮影では無いだろうか。ならば見るのはアリである。エルマンノはそんな抜け穴を探す様な、最低な事を考えながらニヤリと微笑む。それに距離を取るアリアと、こぼしてしまったものを拭くためにその場を離れるオリーブ。と、そんな中。
「...それより、、アリア」
「え、?ど、どうしたの突然、」
「...その、、捜索依頼、、出されてるんだって、?」
「っ」
「...アリア、、それだと、流石に、」
「ご、ごめん、、ごめんね、、迷惑は、、かけないから、」
「...」
エルマンノは目を細める。そういう話ではないと。だが、それと共にフレデリカの、彼女なりに考えている。その言葉を思い出し目を逸らす。フレデリカも、エルマンノに話さない理由は分かると言っていた。そんな配慮をされてしまう自分が情けなくて。兄失格だと拳を握りしめる。
結局その後も、エルマンノは聞き出す事は出来ずに、皆と食事をして帰路についた。
「...はぁ、」
思わずため息が零れる。何も聞き出せない自分の臆病さに。話すのを躊躇させてしまう自分の危なっかしさと無計画さに。自分自身、怖かったのだ。それで、アリアに迷惑をかけてしまう事が。
「妹が安心して悩みを話せない兄なんて、」
エルマンノは歯嚙みする。今年中。アリアはそう言ったものの、来年に話すとは一言も言っていない。その時が来たら突然また居なくなって、自分一人で片付けようと無理してしまうのでは無いだろうか。それまでに視察でも来るのでは無いだろうか。隠していた悩みが溢れ出し、エルマンノは頭を掻く。と、そんな事を考えている内に、森にまで辿り着いた。
「もうここまで来たのか、、ちょっと賢者タイムになり過ぎたな、」
エルマンノは改める様に目つきを変えると、よし、と。家に帰る前にもう少し気持ちを改めたいと。今度はソフィの元へ向かうため体の向きを変える。
と、それから数十分。王国を歩いたところで、ふと。
それは聞こえた。
「きょーは学校どうやった〜?」
「ん、、別に、」
「私のとこでねぇ、きょうレクレーションあったんよぉ!」
「へぇ、」
「すっごいラッキーだった!あーあ、明日もお遊び回ないかなぁ」
ふと、微笑ましい二人の会話が聞こえる。どうやら、学校の話の様だ。エルマンノの施設は違かったものの、小学校の様な、授業のある子供用施設もあるみたいだ。考えてみると、チェスタもそういえば体育を行っていた。彼女と出会わなければ知らなかっただろう、と。エルマンノは妹の事を思い出し思わずニヤリと微笑む。別にあの時のストレッチを思い出しているわけではない。
「でなでなっ!その時アミリス先生がルール間違っててさっ!」
「へぇ、」
「最初はその変なルールでやっとったんだけど、なんだかんだ楽しくてさっ!そのルールで今度やらへん?鬼ごっこ!」
「え、鬼ごっこの話だったの、?それどうやったらルール間違えるの、?」
なんか面白い会話をしているな。もう一人の友達(?)が無口なのがシュールさを加速させている。エルマンノは歩く速度を遅めて背後で同じく歩く二人の会話に耳を傾ける。すると。
「せやさっ、今日はねぇねぇ居るかなぁ?」
「まあ、、居るんじゃ無い、かな、?」
「最近バイト忙しそうだから、心配、」
「まあ、、ね、」
「そやっ!今度ねぇねぇと三人で鬼ごっこしない?」
「三人なんてすぐ終わるでしょ、」
「なら、ペロも一緒に!」
「そしたらペロ無双でしょ、」
「っ!」
エルマンノは、その言葉に目を剥いた。
ー何て、言った、?ー
ふと、足を止める。先程、間違いない。片方の女子は「ねぇねぇ」と呼んだ。それは、隣の彼女を呼んだわけでは無い。それに加えて、ペロという名前。間違いない。エルマンノは振り返る。
「なんだ、、本当にもう一人妹が居てーーっ!」
ふと、目を疑う。
「な、、嘘だろ、」
先程まで、話をしていた少女。片方は、チェスタがペロを散歩しており、予想は当たっていた。が、しかし。
その隣で、元気に施設の話をしていたのはーー
「なんで、」
ーーミラナだった。
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