第46話「やっぱり母親は母親にしか務まらない」

「お兄たん、、私の、、お母さんは、、どこ、?」


 ゴクリと。生唾を飲む。この時が、来てしまったか、と。ふと、先程のお姉さんとの会話を思い返す。


『そ、それがね、、昨日の夜、あの神社の歴史が記されてる書物を、オリーブちゃんが見つけちゃったみたいで、、それで、』

『まさか、、母親の、、事を、?』

『うん、、多分、母親の存在を、、知ったんじゃないかって、思う。オリーブちゃん。確かにずっと世間と触れてこなかったから知らない事とか多いし、言葉も最低限だけどね。でも、ちゃんと分かるところは分かるんだよ。多分、あの本の内容を見て、自分にも母親という存在が居る事を、知ったんだと思う』

『...そう、ですね、、オリーブは、、天才ですから、』

『昨日は詳しい話をしなかったんだけどね、、今日は一度も下に降りて来てないし、、この天気、、エルマンノさん、、様子を、見て来てくれないかな、?』


「...」


 その会話を思い返し、泣きそうな彼女に目をやる。それは、母の事を知りたいや、どんな人なのか。何があったのか。そういう事を知りたい様子では無かった。ただ、母はどこに居るのか。まるで迷子の子供の様な、そんな表情であった。


「オリーブ。とりあえず、、おはよう」

「え、?あ、う、うん、、おはよう、」

「まあ、もうお昼だけどな」

「えっ、、もう、そんな時間、?」

「時間を忘れるくらい集中して、考えてたんだな」

「...」


 優しく微笑み、エルマンノはオリーブの隣に座る。


「お姉さんから聞いた。昨日、本を見つけたんだって?」

「うん、、そ、その、、これ、」


 オリーブは、手元にあった本を差し出す。


「おお、これは、随分と年季が入ってるな、、読んでも、、いいか?」

「う、うん、」


 エルマンノはオリーブの許可を得たのち、その本を読み始める。そこには、初代の巫女。即ち、土地神の血の始まりから、現在までの話が載っていた。どうやら、ページを追加していくタイプの様だ。

 元々、この村の長であった者が、ある日この地で石を見つけたという。その石が、現在は御神体として、奉納されているとの事だ。それを見ながら、エルマンノは目の前の仏壇の様なものに置かれた、石の塊の様なものに目をやる。


「これが、、か、」


 そう呟き、ページをめくる。

 その石からは眩い光が放たれており、近づくと何故か弾かれるというのだ。何か強い力があると。そう考えた長は、村の人達にその事を伝えた。それに興味を持った者が大勢やって来る中、僅か一名。それに触れることが出来たという。その人物は、病に侵されていた様で、それに触れたのちにその病は治ったとの事だ。故にその石は奇跡の石と名付けられた。

 だが、その石に触れたものは、病は治ったものの、日に日に様子がおかしくなったという。普通ではありえない感覚。力。更に、何か別のものと話している様な様子。そして何よりも、その石はそれから人を弾かなくなったのだ。故に、その力が人に乗り移ったのだと。皆はそう解釈した。それに恐怖した村の者は、その人を村から離れたこの神社に預ける事となったという。御神体と呼びながら、まるで災いを封じるかの如く。


「これが、、始まりの血、」


 エルマンノは呟く。それが神の力だと気づくまでに、三世代かかったという。その力は、子に代々受け継がれている様で、初めの頃は同じく恐怖の対象だったとの事だ。特に、それが現れてからは雨しか降らなくなったのだという。それ故に、災いをもたらす者として、皆からは怪訝された。

 だが、三世代目の巫女は違かった。自身の力を自身の力で把握したのだ。それ故に、自在に天気を操る事が出来るようになったのだという。


「今のオリーブみたいなものか、」


 そこからは、その三代目の力によって解明された神の力を書物に書き記し、伝説となった。そして、その存在は時期に神として崇められるようになり、村の象徴となったのだという。なんとも皮肉な話だ。

 村の天気と、土地神の力を得た巫女の心理は繋がるという点。真実の水に情景が映し出される点など、聖書に書かれていたものと一致する。恐らく、それが広まり、村だけに留まらなくなり、それを信仰する宗教が出来たのだろう。そのため、オリーブは。


「...」


 エルマンノは目を細める。やはり、この村から外に、口外するべきでは無いのか、と。それと共にページをめくり目を見開く。

 そこには、石と話す少女と記載されていた。先程もあった何か別のものと話している様な様子というもの。それは、あの奇跡の石に触れた土地神は、神と話が出来るとの事だった。


「そ、そうなのか?」

「え、?な、何?」

「神と話が出来るとあるが、」

「あ、うん、、たまに、話すよ?神様」

「えぇ、、そんな同級生みたいなノリで神と話すのか、」

「ほんとにたまにだよ、、この部屋に来たのもっ、、本当に、久しぶりだもん、」


 オリーブの発言に、エルマンノはハッとする。先程、ぶつぶつと声が聞こえたのは、神との会話中だったのか。


「俺の事何か言ってた?」

「え?」

「妹想いの兄だから、妹布団に妹枕で妹空気を吸わせながら、妹楽園に連れて行ってあげようとか」

「わ、分かんない、」

「神のみぞ知ると言うが、、神様が分からないなら誰も分からなさそうだな」


 エルマンノが淡々とそう放つ。それにオリーブが首を傾げる中、目つきを変えてその本に視線を戻す。

 そこからは日記のようなものだった。別段異様な事は書いてはおらず、四代目、五代目と。それぞれの日常を書き記していた。そんな中。


「っ」


 六代目。最後の章に辿り着き、エルマンノは手を止める。

 ごくんと。改める。ページをめぐる手が震えた。そこには心を痛める様な事は一つも書いていなかった。寧ろ良い事ばかりである。そして、最後のページに。

 一番の幸せが載っていた。


 大切な娘、ライラ。その誕生が。


「...」

「...お兄たん、?」


 ライラ。その名前は、以前オリーブにかけていた言葉だ。それ故に、彼女は気づいた事だろう。ここに記された名が、自身のものであると。彼女は天才だ。きっと、察した事だろう。だが、それ以上の情報は書かれていなかった。故に、オリーブの母の"その後"が不明なままなのだ。


「...」


 これを説明するべきか。エルマンノは悩んだ。だが、オリーブは母の居場所を聞きたがっている。ならば、と。エルマンノは呼吸を整え、真剣な表情でオリーブを見据えた。


「...オリーブ、」

「お兄たん、?」

「お母さんに、、会いたいか、?」

「...会いたい、、でも、なんか違うかも、、会いたいっていうよりかは、、どういう人なのかなって、、見てみたいに、近いかも、」

「そうか、」


 オリーブが小さく呟いたそれに、エルマンノは遠い目をして放った。と。


「お兄たんは、、知ってるの、?」

「え?」

「お母さんの、事、」

「いや、、俺は、何も知らない、、知らないんだ、、兄なのに、」

「っ!ご、ごめんねっ、、そんな風に言うつもりはっ、」

「いや、、俺も、もっと知るべきだった。知っておくべきだった。こうなるのは、知ってたのに、、それなのに、」


 エルマンノは歯嚙みする。お姉さん。村長。聞ける人も、聞けるタイミングも、多くあった筈だ。それなのに、オリーブの母の事を。この土地神の力についても。そしてこの力が周りからどう見えているのかも。今日この本を見るまで、浅くしか知らなかった。


「ごめん、、お兄ちゃんなのに、」

「ううん、、ごめんね、私こそ、、お兄たんに聞いても、、分からないのに、」

「いや、、確かに俺はお母さんのことは知らない。でも、、聞いた事はある」

「え、?」

「オリーブの、、母が、この後どうなったのかを」

「っ、知ってるの!?」


 僅かに、笑みを浮かべる。雨が弱くなったのを感じた。エルマンノはそれに、強い罪悪感を覚えながらも、それでもと。事実を伝えるしか無いと。兄として、オリーブはもう、立派な妹なのだと。真剣に告げる。


「オリーブ、、ごめん。その時が来るまで、、話さない様にしてたんだ。その、、実は、、オリーブのお母さんは、、オリーブをライラと名付けた母親は、」


 うんうんと。頷くオリーブの姿にエルマンノは押し黙る。駄目だ、言えない。心が締め付けられる。過去は変えられない。それでも、それを知らない方がいい事も、ある。お姉さんの言葉を思い出し、エルマンノは思わず口を噤んだ。が、その時。


「母親は、死んだんですよ」

「えっ」

「なっ」


 ふと、背後から声が放たれた。

 するとその主。村長が現れる。


「な、何で、」

「事情は皆様から聞きました」

「え、、お、お母さん、、居ないの、?」

「はい、オリーブ。貴方の母親は、亡くなったのです」

「な、何で、?」

「気持ちの病気で、体も病に侵されました」

「ご病気、?」

「はい。貴方のーー」

「もういい」


 エルマンノは、ふと口を挟む。


「オリーブ、、今までごめん。黙っていて、」

「ううん、、それよりも、、理由、知りたいよ、」

「分かった。...俺から話す」

「な、何故です、?」

「村長は、、もう、嫌われ役を、しなくていいんです」

「っ、、で、ですが、」


 エルマンノは強く告げると、オリーブに向き合う。そうだ。ただ怖いだけじゃないか。オリーブは知りたがっているのだ。それを教えるのが兄だ。それでどんな反応をされようとも、嫌われようとも。それを伝えなきゃいけない義務がある。


「オリーブ、、実はな、、そのお母さんと、オリーブはこの村で、暮らしてたんだ」

「え?...わ、私が、?」

「ああ、そうだ。でも、、そこで、悪い人達に見つかってな、」

「うん、、でもっ、お兄たんが助けてくれた!」

「ああ、、そうだな、、でも、その時の、その、ショックでな、、お母さんは、寝たきりになってしまったんだ、」

「え、」

「でも、オリーブのせいじゃない。オリーブだって、、大変な目に遭ったんだ。オリーブが気にする必要はない」

「で、、でも、、お母さんは、?」

「...」


 オリーブの言葉に、エルマンノは目を見開いたのち、口を噤む。


「ねぇ、、お母さんは、、居ないの、?会いたいよ、、聞きたいよっ、お母さんっ、どう思ってたの?」

「え、」

「どんな人なの、?知りたいよ、、お母さん、私のっ」

「オ、オリーブ、、だから、、その、お母さんは、」


 オリーブは尚も母親の存在を問う。その様子に、エルマンノは口を噤んだ。また、あの話をするのは、耐えきれなかったからだ。それを見越した村長は、改めてしっかりと説明をと、前に出る。が、その時。


「...ご、ごめんねっ、お兄たん。私、ち、ちょっと、外行って来るね!」

「オ、オリーブ、」


 この場が耐えきれなくなったのか、オリーブは神社を後にした。それを追ったエルマンノは、ふと空を見上げる。外の雨は止んでおり、がしかし暗い雲に覆われていた。


「...雨は、、止んだか、」

「...エルマンノさん。その事なら、私から言いましたのに、」

「いえ、、そうやって、良い面ばかりをする兄は、、憧れますけど、違うと思っていたので、、それで、いいんです」

「ですが、、あまり事情を知らないエルマンノさんが話すのは、」

「...」


 村長の言葉に歯嚙みした。その通りだ。エルマンノは何も知らなかった。オリーブの母の事も、土地神の事も、村の事も。そして。

 親の居ない寂しさも。


「...そう、、ですね、」


 エルマンノはずっと恵まれていた。それは前世でも同じだ。死ぬ間際、心配してくれた母が居た。引きこもりだった時、部屋の前で声をかけてくれた父が居た。そしてこの世界でも、ずっと心配してくれる両親が居る。


「クソッ、」


 何も、何も寄り添えなんてしない。いくら慰めの言葉を重ねても、本当に寄り添えるのは、その気持ちを体験した者のみだ。それを思い、エルマンノは追いかける足を止めるのだった。


          ☆


「はっ、ほっ、ほっ」


 王国で、いつも通り走るその後ろ姿を見つけ、エルマンノは駆け出した。と。


「こんにちは」

「えっ、あっ、エル、、お兄ちゃん!?こんにちはっ!一昨日はほんまありがとうございました!お陰で、数日間の食事は豪華になりそうッス!今度、ちゃんとお返しするんで、」

「い、いえいえ、、だだだ、大丈夫だ」

「ど、どないしたん?」

「いや、お兄ちゃんという言葉に、慣れなくて」

「あんなに妹おるのに?」

「お兄ちゃんと呼んでくれる妹はなかなか居ないんだ」

「あ〜、それ分かるわぁ」


 ふと、以前出会った場所。恐らく彼女のジョギングコースとなっているこの場で、今日も走るミラナに声をかけた。


「ミラナの妹さんは、、ミラナの事なんて呼んでるんですか?」

「うーん、、ねぇねぇとか?」

「ただ呼ぶだけみたいな感じか、」

「ああっ、ちゃうちゃう。姉さんのねぇねぇって事やでっ」

「なるほど、、にぃにぃみたいなもんか」


 思わずニヤける。


「どしたん?」

「いや、それはいいなと」

「はははっ、相変わらずシスコンやねぇ」

「当たり前です。それに、貴方もでしょ?」

「ったり前や!」


 ニカッと笑うミラナに、エルマンノは優しく微笑むと、改める。


「いつも、この時間に走ってるのか?」

「ん?まあ、そやねぇ。基本午後の二時あたりはバイト入ってないんよ。やけん、その間に走っとる感じばい」

「凄いな、、ほんとストイックなんだな」

「いやいやっ、あたしなんてそんなっ!それに、ただの趣味やし!」

「趣味でその筋肉なら十分だと思うが、」


 エルマンノはその腹筋にジト目を向ける。すると。


「あ、あんま見んでよ、、照れるやん、」

「妹のお腹の調子を見るのもお兄ちゃんの役目です」

「みるの意味ちゃうくない?それに、兄でも診んよ普通、」

「診させてください」

「それはどっちの意味や?」


 ミラナは、エルマンノの速度に合わせてくれているのか、普段より少し遅く走りながらそう放つ。と、そののちエルマンノはバツが悪そうにしながらも口を開く。


「...それより、その、、妹さんの話なんですけど、」

「どないしたん?」

「...ミラナって、、その、、言いづらい事ならすみません、、その、両親を、失って、、その時、妹さんには、どう説明したのかなって、」

「説明?」

「ああ、いや、、その、妹に納得させるために、、どうしたのかなって、、気になって。六歳って言っていたので、、納得出来たのかなって、」

「あ〜、、そうやねぇ、、両親が亡くなったんは、、妹が六つの時やけど、、もっと小さい時なら、逆に良かったんやないかなとも、、思ったけどね、」

「...」


 エルマンノは目を逸らす。確かに、物心が付く前の方が、その存在を隠す事が出来る筈だ。だが、それでもやってくるのだ。親の存在を認知する時が。その時、その子はどう思うだろう。


「...まあ、でも、色々あってね。あたしも、、自分の事で精一杯やったんよ」

「っ、、す、すみません、、こんな、話、」

「ええよええよ。まあ、今こそ大丈夫やけどね。そん時はギリギリやってん。やけん、妹に説明なんて、ちゃんとは出来んかった、」

「...して、、無かったのか、?」

「まあ、ちゃんとはしてへんなぁ、、あたしが本当に、、辛そうやったから、、向こうも分かったんかもしれん、」

「...」

「でもな?あたしも妹のお陰でえらい救われたんよ。いっつも明るくて。可愛くて。甘えてきてな。ねぇねぇ好きなんて言われた日には、もうほんま胸が躍って、、辛い事全部吹き飛んだんよ」

「分かります」

「やろ?」


 エルマンノが真剣に頷くと、ミラナはニカッと微笑み放つ。


「まあなぁ、今はどう思っとんのか、、よく分かってへんけど、でも、小さい頃はいつもくっついて来るんよ。ほんま可愛くて、嬉しくてなぁ。...魔法とか、あんま使えへんのやけど、、体動かすの好きやからさ。一緒にちょっと遠くまで出かけてな。運動公園で遊んだりはしょっちゅうやってん、、ほんま、楽しかったなぁ、」

「へぇ、それは、凄くいいな、、俺も、最近体を動かす遊びをし始めて、、その方が、コミュニケーションも取りやすいし、話してなかった妹同士が、少し話すきっかけとかになって、、だから、ありがとう。ミラナのお陰だ」

「えぇっ!?あたしは何もしとらんよ?」

「いえ、教えてくれました。運動の良さを」

「ほんま!?せやろせやろ?...って、ああ、なんかごめんな。その、話、逸れてしもうて、」

「いえいえ。妹の話なら何時間でも出来る」

「ほんま分かるわぁ」


 エルマンノとミラナは笑いながら足を進める。と、少しの間ののち、エルマンノはふと口を開いた。


「その、、実は俺の妹にも、、居るんだ、」

「ん?」

「親が、、もう居ない人が」

「っ、、そ、そうなんや、」

「それで、、何というか、説明は、、したんだ。もう、居ないんだって。亡くなったとも、伝えた。それでも、、まだ、捜し続けてて、」

「なるほど。やから、、親がおらんあたしに相談したんやね」

「っ!す、すみませんっ、、そういうつもりでは、」

「ええよええよっ」

「...でも、、それよりも何よりも、ミラナの事。知っておきたかったんだ。俺は、お兄ちゃんだから。ずっと、話したくない事は聞かない様にしてきた。話さない方がいい事は、話さない様にしてきた。でも、だからこそ、寧ろ辛くなってるというか、、兄として、出来る事が、少なくなってるというか、」

「ははっ」

「ん、?な、なんだ、?」

「いやぁ、なんか、やっぱ真面目やなぁって」

「ミラナには言われたくないが、」

「あたしなんて全然よ。親の話すら、妹にしてないんだから。...まあでも、なんやかんや言ってもな。もう立派な一人の人間やけん。あんま気にせんでもええかなって」

「立派な?」

「そう。両親の事、話はしとらんけど、多分、もう分かってるんやと思う。周りの反応とか、話とか。そういうの見てさ」

「...立派な、、妹さんなんだな」

「お兄ちゃんの妹さんもそうやと思うよ」

「えっ」


 ふと、ミラナの言葉に目を見開く。


「...多分、分かっとると思う。ちゃんと。届いとるよ。お兄ちゃんの言葉」

「そ、、それでも、」

「その妹さん、お母さんを捜してるって事は、会った事ないんやね、」

「ああ、、そうだな、」

「なら、、多分違うんやと思うよ。居ないのを分かってるけど、証拠が欲しいんとちゃうかな。自分に親が居たこと。そして何よりも、、自分が、愛された証拠を」

「っ」


 エルマンノは、ふと立ち止まる。


「多分本人もそれを言葉に出来んくて困っとるんやと思うよ。色々混乱しとんやろ、、やから、側に居てあげればええと思う。あたしの妹にはな。仲良い子がおってん。やから、妹は元気になったと。まあ、その妹があたしの事どう思っとるかは分からんけども、、少なくとも、お兄ちゃんの妹さんは、お兄ちゃんの事大切に思っとーよ。ま、会った事ある妹さんの中だけやけどな。それでも、こんなに初めて会って日が浅いあたしでも、分かるくらいやけん。その妹さんは、お兄ちゃんがちゃんと向き合って、お母さんがどう思ってたかを伝えて、受け入れれば、お兄ちゃんなら大丈夫、」

「...そうか、そう、だよな、、はぁ、、やっぱ、、凄いな、、みんな、俺の妹達は、」

「え?」

「俺は、、兄なのに、妹に気づかされてばっかりだ」


 エルマンノは呟いたのち目つきを変える。オリーブは天才だ。妹なのだから違いない。それは分かっていた。それなのにも関わらず、それを理解していなかったのは自分じゃないかと。エルマンノは体の向きを変える。


「ミラナ、本当にありがとう。ミラナの事、そして、ミラナの妹さんの事、聞けて本当に良かった。また、連絡するな」

「おっ、なんか分かったっぽいね」

「ああ、ありがとう。後で、お礼させてくれ」


 エルマンノはそう笑って声を上げ来た道を引き返す。そんな後ろ姿を見据えながら、ミラナは小さく微笑んだ。


「ほんま、、ええお兄ちゃんやわぁ」


          ☆


「オリーブ!」

「っ!?お、お兄たん、?」


 獣族の村に戻ったエルマンノは、村の人達と話をしたのち、起きてきたアリアと共にどこにもオリーブの姿がないため村中を捜し回った。そうする事数十分。あの、村を見渡せるという展望台近くに足を運んだ。


「はぁ、、はぁ、、ここ、だったか、」

「ど、、どうしたの、?」

「はは。ちょっと、走りたい気分だったからな。オリーブも誘おうかと」

「...私は、、いい、かな、」


 目を逸らすオリーブにエルマンノは微笑むと、彼女の隣まで進み、村を見つめた。


「...懐かしいな。思い出の場所だよな」

「...うん、、覚えててくれたの、?」

「ああ。俺とオリーブが、、兄妹になった場所だ。忘れる筈ない」

「っ、、うん、、それに、お兄たんにお名前をちゃんと貰った場所、、だから、」

「まあ、名前を付けたのは王国の帰り道だけどな」


 エルマンノが微笑むと、対するオリーブは唇を噛む。


「ねぇ、、お兄たん、、私、ライラ、、なんだよね、?」

「ああ。ライラでもあり、オリーブだな」

「...あの、本に書いてあったのって、、やっぱり、私の、、お母さん、なんだよね、?」

「ああ。間違いないな。村の人も言ってた」

「そう、、なんだ、」

「実は、ここに来る前に村の人達と話をして来たんだ。どうやら、お姉さんとおにばあちゃんは、お母さんと友達だったみたいだぞ?」

「そ、そうなの!?」

「ああ。よく、オリーブの話をしてたって」

「...そう、、なんだ、」

「大好きだったみたいだぞ。オリーブの事」

「...」


 俯くオリーブに、エルマンノは深呼吸して、改める。


「オリーブ。ちょっと、神社に戻らないか?」

「え、?」

「見せたいものがあるんだ」


 エルマンノはそう優しく告げると、目を見開く彼女の手をとった。


          ☆


 あの地獄の様な階段を上り、エルマンノは神社へと到達した。


「お兄たん、?大丈夫、?」

「ああ。問題ない」


 オリーブは元気そうだ。お兄ちゃんは昨日からの筋肉痛でもう動けません。いや、昨日は頭痛だったか。そして一昨日は腹痛。コンディションが悪い奴っていうのはこういうことなんだろうな。


「...オリーブ。あの、神社にある奇跡の石、、あったよな」

「え、?う、、うん、」

「あれとは、神様とお話をしてるだけか?」

「え、?そ、そう、、だね、」

「...そうか、、なら、もう一回、あの石に触れてみるか」

「え?なんで、?」

「妹がベタベタ触った石をお兄ちゃんも触りたいからだ。いや、あわよくば食べたい」

「そ、、そうなの、?」

「そうなの」


 エルマンノは頷き返すと、先程の石が祀られている部屋へと進み、オリーブと共に座った。


「じ、じゃあ、、触るね、」

「お、おお、、その台詞、もう一度言ってくれないか、?」

「え、?」

「いや、何でもない。大丈夫。いつもと同じ様にしてくれ」


 エルマンノは微笑んで告げると、オリーブはその石に手を触れる。と、突如その石が光出す。


「おお、、凄いな、、こんなに光るのか、」

「お、お兄たん、、そ、それで、?どうするの、?」

「ん?ああ。実はな、お姉さん達から聞いたんだ。その石は、神の力が宿っている。だからこそ、神との会話を可能にしてるわけだ。そして、オリーブの血筋には神の力がある。どういう事か分かるか?」

「わ、、分かんない、、ごめんなさい、」

「いや。分かんないオリーブも可愛いぞ」

「ふぇっ!?」

「...ああ、だからもっと分からなくていいぞ。無知とムチムチは大好物だ」

「ど、どういうこと、?」

「まあ、そんな事より、、さっきの本、読んだんだよな?」

「うん、」

「それは、元々はこの石の力が、人に移ったって話だっただろ?」

「そ、、そう、だね、」

「だから、意識が共有されてるんだよ。その人と、この石は」

「え、?」

「村の人達は誰も触れない。弾き返されるからな。でも、オリーブなら、それが出来る」

「何の、、話、?」

「お姉さんとおにばあさんが、オリーブのお母さんは最後までオリーブがまだ生きてる事を信じてたって言ってた」

「うん、、私、生きてるよ、?」

「ああ。でも、村の人達は諦めモードっぽかったらしいんだ。そんな中、唯一信じ続けた。だからこそ、お婆ちゃん達にそう残しておいたらしいんだ」


 エルマンノはそう前置きすると、告げる。


「オリーブがもし戻って来ても、あの子の幸せを一番に考えてあげて欲しいって。そして、もしオリーブが母の存在を話し始めたら、伝えて欲しいって」

「つ、、伝える、?」

「ああ。母が、どれ程オリーブを愛してたかって」

「っ、!」

「オリーブ。最初に言ったよな?神の力は元々一つで、石と一体化していた。だからこそ、石とそれは共有されている」

「う、、うん、、む、難しい、」

「はは、そうだな。まあ、難しい事は考えなくていい。まあ、つまりだ、この石の中に、オリーブの母の記憶を持ったそれが、、存在するって話だ」

「えっ、」

「お母さんはもうこの世界には居ない。だけど、神の力は残されているんだ。その、オリーブの母の中で共に、同じ記憶と感覚を共有していたそれが」

「そ、、それって、」


 オリーブが呟くと、エルマンノは優しく微笑んで頷く。


「オリーブ。お母さんって、、呼んでみたらどうだ?」

「っ」


 エルマンノがそう呟くと、オリーブは目を剥き、そのまま石に向き直って、震えながら。

 放った。


「お、お母さんっ!い、居るの、?」

「うおっ!?」


 まるで、オリーブのその言葉に答える様に、その石は、強く光った。


『...ラ、ライラ、?ライラなの、?』

「っ、、そ、そうだよ、?貴方は、?お母さんなの、?」

『っ、、ライラ、、ライラなのねっ、、うん、、そうよ、お母さん、、そう、、こんなにっ、、大きくなって、』


 掠れた声が、僅かに聞こえた。それに、エルマンノは目を見開く。


「や、、やっぱり、居たんだ、、私の、お母さん、」

『ふふ、、可愛い、ライラ、、もっと、よく見せて、』

「ん、?こ、こお、?」

『うん、、ありがとう、』


 母はそう口にしたのち、少しの間、啜り泣く様な音が響いた。と、そののち。


『ラ、ライラ、、辛い事とか、、無い、?大丈夫、?』

「うん!お兄たんが居るからっ!大丈夫だよっ!」

『お兄、、たん、?』

「こんにちは。お母様。兄のエルマンノです」

『あ、兄、?』

「そうだよっ!私の、お兄ちゃん!」

『っ』


 オリーブの元気な表情。そして、エルマンノの微笑み。それを見て、母は察する。そうか、彼が、"代わり"になってくれたんだな、と。


『ふ、、ふふ、、ふふふ、、そう、そっか、』


 母は、小さく呟きまたもや間を開けると、鼻を啜って改める。


『ふふ、、初めまして。ライラの母です』

「初めまして。こんな天使を産んでくださいまして、誠にありがとうございます」

『ふふ、律儀な人ね』

「うん!」

「いやぁ、そんな、」


 エルマンノが照れると、対する母は今にも泣きそうな声で呟く。


『ありがとう、、ライラ、、そんな、元気な姿を見せてくれて、、それだけで、、幸せよ、』

「ねぇ、お母さんは、、もう、居ないの、?」

『そうね、、ごめんなさい、、側に、、側に、、居てあげられなくて、』

「?」

『...帰って来た時に、、一番に抱きしめてあげられなくてごめんなさい、、土地神の力に悩んだと思う、、そんな時に、側に居てあげられなくて、ごめんなさい、、この神社で、、一緒に居てあげられなくて、、寂しい思いをさせてしまって、、ごめんなさい、、これから、沢山、色んな事があると思う、、いい事も、悪い事も、、ああ、、ライラの成長、、見たかったな、、側で、、一緒に、、本当に、、ごめんなさい。...母親らしい事、、何も、、してあげられなくて、、ごめんなさい、』

「っ」

「お母、、さん、?」

『っ、、謝ってばかりでごめんね、、ライラ。でも、これだけは言わせて、、ライラ、、生きていてくれて、、本当に良かった、、そして、産まれてきてくれて、、本当に、ありがとう、』


 震えた声で放たれたそれに、オリーブは首を傾げる。対する背後のエルマンノは拳を握りしめて、目に涙を浮かべていた。すると。


『...エルマンノさん、、って、言いましたね、』

「はい。兄です」

『...ライラの事、、よろしくお願いします、、こんな、不甲斐ない母で、、申し訳ございません、、お願いする事しか出来ませんが、、エルマンノさん、、どうか、、貴方が、この子の、親代わりに、、なってあげてください、』


 石だというのに。頭を下げている様に見えた。だが、しかし。

 エルマンノは首を横に振った。


「それは無理です」

『えっ、』

「俺はオリーブの、いや、ライラの兄です。両親には、、なれません。母親は、、貴方しか居ないんです」

『っ、』

「だから、、不甲斐ないとか、、母親らしくないとか、言わないでください。オリーブも、、ライラも、、分かってるんです。貴方の存在を。母の存在を。お母様が、、どれ程ライラを想ってるかも。今ので、十分分かったと思います」

『...』

「うん!お母さん、、私の事、、ずっと、想っててくれてたんだよね、?だからこそ、、その、私のせいで、体、悪くなっちゃって、」

『っ!ち、違うわっ!ライラのせいで、具合が悪くなったわけじゃないの!』

「ああ。そうだ。オリーブは気にする事はない。悪いのは、全部誘拐した奴らのせいだ」

『ゆ、誘拐、、そう、だったのね、』

「うん!でもお兄たんが助けてくれた!」

『っ、、そう、』


 今にも抱きしめてあげたい。そんな声音であった。だが、そんな状況でもこうして笑顔になれた。その理由を母は理解し、口を開いた。


『助けて、、下さったんですね、』

「兄ですから」

「うん!お兄たんのお陰で元気だよっ!それにねお母さんっ!私、、私ね、、色々な事を知ったよ!お兄たんに、、いっぱい教わったの。言葉も、家に帰ったら手を洗うとかも、キャッチボールも、努力も、勇気も、、雨の良さも。そして、、この、大好きって、、気持ちも、」

『っ』

「だから、すっごく楽しいよ!」

『そう、』


 笑顔のオリーブに、母は掠れた声で返す。


『...ふふ、、そ、、そっかぁ、、ライラは、、知らないうちに、、こんなに、お姉さんになってたのね、そっか、、もう、大丈夫、、ね、』


 どこか寂しげに呟く母に、エルマンノは向き直る。


「...いえ。オリーブには、兄だけじゃ無く、母親が必要です」

『...でも、、私はもう、』

「いえ、お母様は、お母様ですよ」

「うん!お母さんは、お母さん!」

『ライラ、』

「お母さんの事、、もっと知りたいし、、もっと昔の話聞きたい、、お母さんが見てくれてるなら、、私、何でも出来る気がする!」

「おお、、何でも出来るのか、」

「うん!」


 エルマンノがニヤニヤと放つものの、オリーブの純粋な返しに改めて微笑む。と、そののち。


「まあ、、そういう事です。確かに、、側に居てあげられない。実体として、一緒に居られないのは、辛い事です。俺だって、もしそうなら気が気じゃないですから。でも、だからって貴方の役目が無い訳じゃ無いです。オリーブには母が必要です。それは変わりありません。だから、、見ていてあげてくれませんか、?お母様が見ていてくれれば、何でも出来るみたいですから、」

『っ』

「うん!お母さんっ!見てて!」

『...い、いいんですか、?』


 オリーブの元気な言葉に、少し間を開けたのち、母は放つ。


『こんな私でも、、ライラを、、見守る権利が、、あるんでしょうか、』

「寧ろ貴方になければ、俺にも無いですよ。ずっと、オリーブのこと、考えてくれていたんですから。だから、その神様の力で。見ていてあげてください。そして、オリーブが話しかけた時は、返してあげてくれませんか」

『...そう、、ですね、』


 小さく、母は呟く。やはりまだ、罪悪感が残っているのだろう。それに、エルマンノが唇を噛むと、その時。


「見ててくれるの!?」

『えっ』

「ありがとうお母さん!」

『っ』


 オリーブの笑った姿に、言葉を失う。その姿を見据え、涙を堪えながら、息を吸って改めて放つ。


『ねぇ、、ライラ、今、、幸せ?』

「うん!凄く幸せだよっ!お、、お母さんは、?」

『うん、、私も、、ライラが元気なら、、幸せ、』


 掠れた声で、そう返した。そうだ。彼女は今、幸せなのだ。それでいいでは無いか、と。


「お母様。ライラは、幸せみたいですよ。お母様のせいで、不幸になった事なんて、何一つとしてない。寧ろ、貴方がこうして話してくれたお陰で。見ていてくれるだけで、ここまで幸せになるんです。見てください」

『え、』


 エルマンノはそこまで放つと、ドアを開けて向かい側にある窓の外を見せる。


「さっきまで雨だったんですよ。でも、今は晴れてます」

『っ』


 まるで、貴方ならその意味が分かる筈です。と言わんばかりにエルマンノは微笑み放つ。母に出会うだけで、天候が変わる程心が明るくなるのだ。


「過去は変えられません。でも、これからを使って、取り戻す事は出来ますよ」

『...っ、、ラ、ライラ、、ライラも、段々と大人になって、、私が必要じゃなくなったり、、この石に話しかけなくなる時が、、離れる時が来るかもしれない、、それでも、、そうなっても、、見ていて、いい、かな?』

「ううんっ、離れないよ!」

「おお、随分とべったりだな。でもまあ、、そうだな、、そうみたいです、お母様。当分は、ライラを見てなきゃいけなさそうです。でもまあ、神の力が共有されているなら、ライラの中の力とも、リンクしてるって事ですからね。それはいつでも見ていられるって事で、、とっても素敵な事じゃないですか?」

「そ、そっか!」


 エルマンノの言葉に、オリーブは気づいた様に元気に放つと、そののち。改めて母に向かって優しく宣言した。


「私、、大人にはなれない、、かもだけど、、少しずつ、、頑張って進むから、、だから、見てて、欲しいなっ」

『ライラ』

「ああ。進まない日があってもいい。戻ってしまう日だってある。誰にだって、何やっても上手くいかない時なんてあるもんだ。だから一歩二歩戻って、少し休憩して、三歩進めばいい。そんな曲もある」

「そうなの?」

「ああ。歌うか?」


 エルマンノの言葉に、元気に答えるオリーブ。それに対して歌い始めるエルマンノと、何それと笑うオリーブ。その、喜んでいる姿に、母はずっと掠れた嗚咽を漏らしながら、聞き入れたのち、ふと放った。


『ありがとうございます、、エルマンノさん。ライラを、、見つけてくれた人が、、貴方で、本当に良かった、』

「っ、、それは、、こちらの台詞ですよ。ライラのお母さんが、、貴方で本当に良かった」

「うん!」


 エルマンノに続いてオリーブもまた頷く。その姿に、母は笑みを浮かべた。様に見えた。


『...ありがとうございます、、その、エルマンノさん。ライラを、、よろしくお願いします。そして、、私も、、これから、よろしくお願いします、』

「はい。勿論です。俺はライラのお兄ちゃんですから。ずっと、見てますよ。離れても、嫌われても。どんな事があっても。ライラは妹で、貴方は俺からしても、母親なんですから」

『ふふ、、面白い方ですねっ!』


 エルマンノは優しく微笑むと、母は掠れた声で笑う。それにオリーブが「嫌いになんてならないよ!」と付け足すと、改めて母は放つ。


『それで、、その、先程おっしゃってましたけど、オリーブというのは、、ライラの事、ですか、?』

「あ、は、はい、」

「うん!お兄たんがつけてくれたの!」


 オリーブが元気にそう答えると、今までの事を母に話し出した。それを、娘の今日あった出来事を聞く様に、ただただうんうんと。微笑みながら聞き入れた。

 だが、オリーブは巫女服を脱がせたり、エルマンノの好きな服装のお話をしたり今までの奇行も説明していたため、母は段々と相槌の声が低くなっていった。それに冷や汗混じりにエルマンノはそっと退出すると、息を吐く。


「ま、、マズいな、、お母様に前言撤回されそうだ」


 エルマンノは神社の前で悶々としていると、ふと。


「どうでした?」

「うおっ、、相変わらず影が薄いな、特殊性癖さん」

「村長です。それよりも、オリーブの、お母さんは、」

「ああ。何とか話せたし、分かってくれたみたいだ。多分、オリーブと呼んでる事も、なんだかんだ認めてくれそうですし、話はまとまりそうだよ」

「そうでしたか、」

「はぁっ、はぁ、、ま、また私除け者〜、?」

「おお、アリアも、、ありがとな。連絡遅くなって悪かった」

「見つけて神社に来た時にソナー送らないでよ阿保っ!階段上るだけで時間かかっちゃうじゃん!」

「上ってきたばっかりか?」

「そうだよっ!連絡遅いから!」

「足がパンパンだな」

「どっ、どこ見てんのアホ!」

「挟まれたい」

「み、見んな!」

「それよりも疑問なんだが、、神の力を持つオリーブ以外は、あの石の声は聞こえない筈ですよね、?なんか、俺も聞こえたんですけど、、これって、」


 エルマンノが首を傾げながら村長に聞くと、彼は少し悩んだのち微笑んで告げた。


「恐らく、、貴方を、信用している。いえ、、貴方にも、聞いて欲しかったからではないでしょうか」

「俺に、?」

「はい。貴方は、一応兄ですからね」

「一応とは何だ」


 微笑む村長にエルマンノはジト目を向けると、その時。


「ねぇねぇお兄たん!お母さんが聞きたい事あるって!」

「っ!?ま、マズいっ、恐らくオリーブへのセクハラ発言の件だっ!」


 エルマンノはそう察すると同時に逃げ出そうとするものの、瞬間村長とアリアに腕を掴まれる。


「なっ!?は、はーなーせっ!」

「離さない!私を除け者にした罰は受けてもらうから!」

「いけませんねぇ。お母さんに内緒にするなんて、、神の力は共有されています。オリーブの視界を使えば、貴方が何をしているかは一目瞭然。謝るなら今しか無いですよ」

「クッ、、このっ、クソ性癖お化けがぁぁぁっ!」


 エルマンノはそう声を上げると、トボトボと石の前に正座しに行くのだった。


          ☆


「はぁ、、あ、足立たねぇ、」


 エルマンノは、震えた足で帰り道、王国を歩く。あれから数十分問い質されたエルマンノだったものの、何とか理解していただけた様だ。


「神の力は共有されてる、、か、、これからオリーブと一緒にお風呂とか入れないな、」


 エルマンノが息を吐く。入った事は無いが。そんな事を考えていると、ふと。目の前から見慣れた女子が現れる。あれは。


「おお、ミラナ。夕方に歩いてるのは珍し、、っ」


 遠くから現れたミラナに、エルマンノは声をかけようとしたものの、その隣に見慣れない少女がおり、息を飲む。そこには、緑がかった黒髪の、ツーサイドアップの少女。いや、女児が居た。ミラナの隣に居るという事は、と。エルマンノは目を見開く。

 だが、本当に驚いたのはそこでは無く。


「っ!?えっ、あ、貴方はっ、!」

「君はっ、確か、犬の糞ぶっかけ少女!?」

「〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「おふぅ!?」


 ただ記憶の通りに話しただけだというのに。その少女はエルマンノの腹を殴った。

 なんと。この子がミラナの妹なのだろうか。

 これは、最高の妹だ。

 エルマンノは至福の笑みを浮かべながら、腹を抱えて倒れ込んだのだった。

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