第43話「妹達とスポーツの秋」

 家を破壊したその日。エルマンノは涼しい顔して直しますよと進んで声をかけ、魔法で家を直すという自作自演を行おうと考えたものの、流石に心が痛んだため、オリーブと共に土下座をした。オリーブが行った事だったのと、被害者は出ていなかったため、物を直す魔法で家を直すのを条件に見逃してもらえた。オリーブの土下座姿は横から見ても何だか湧き上がるものがあった。それを目の前で仁王立ちして見ていたら、大きくなってしまっていたに違いない。勿論、気持ちの話だ。


「はぁ、、も〜、、焦ったよぉ、」

「焦ったのはこっちだ」

「ご、ごめんなさい、」

「まあ、あれは俺のせいでもある。お互いに、これからは気をつけなきゃな」


 アリアが息を吐いてお婆ちゃん達の家の縁側らしき場所に座り込む隣で、エルマンノとオリーブもまた息を吐いた。

 今までは森の中だったのもあり問題無かったが、思い返してみると、木をいくつも破壊していた。建物が近くにある場所ではもうしない方がいいな、と。エルマンノは頭を押さえる。


「それにしても、、キャッチボールはあまり出来なかったな。せっかくオリーブに着替えてもらったのに」

「う、、ごめ、申し訳ございません、」

「いや、それは大丈夫だが、、オリーブは、物足りないよな」

「...」


 エルマンノの呟きに、目を逸らすオリーブ。と、少し考えたのち、そうだ、と。エルマンノは立ち上がる。


「王国に行かないか?」

「「えっ」」


          ☆


「よし!みんな揃ったな!」

「うん!」

「いるよ〜」


 数分後。王国の公園に皆で集まった。


「いきなり呼ばれたからマジびびったんだけど。てか何するん?」


 せっかくならばと、ソナーでネラも誘った。ソフィも誘ったのだが、来るはずは無かった。


「実はオリーブとキャッチボールをしてたんだが、色々とあって出来なくなったんだ」

「うぇ〜、じゃあキャッチボールやるん?あっべぇ〜、ウチ久々過ぎて出来っかなぁ」

「いや、キャッチボールはしない」

「へ?」

「さっきボールが破壊された」

「えぇっ!?そマ!?何があったらボールが壊れるん!?」


 ネラが驚愕する後ろで、オリーブは俯く。


「という事で、今回はマラソンでもしようかと」

「うっは〜、マラソン〜、?病み、つまんなそ、」

「おい、心の声が出てるぞ」

「えっ」


 ネラにエルマンノがそう告げる後ろで、アリアがそそくさと来た道を戻り始めた。


「どうしたアリア」

「私、、帰ろっかなって」

「走った方がいいと思うぞ」

「え!?ちょ、どこ見て言ってるの!?」


 エルマンノはじっとアリアの体を見つめてそう呟くと、彼女は顔を赤らめ体を隠す。


「別に、太ってないし!」

「誰も太ってるなんて言ってないだろ」

「目で言ってる!」

「目は口ほどにって言うもんな。まあ、確かに最近ちょっと、、二の腕とか」

「ちょっ!?な、何でそんなところ凝視してるの!?エルマンノほんっとさいてー!」

「ウチ、やる!」

「おお!やってくれるか!?」


 どうやら、何故かネラの方はやる気になってくれた様だ。きっと、どこかで体型が気になっていたのかもしれない。見たところ細いと思うが。


「それよりも、ネラ」

「ん〜?どした?」

「運動しやすい様にって言わなかったか?」

「あ〜、言ったかも」

「どうしてヒールなんだ?」

「...癖?」

「一番重要だろ、靴は、」

「まあ大丈夫大丈夫!ギャル歴何年だと思ってるの?ま〜、見ててって。ごふっ」


 ネラは意気込みながら転ぶ。うーん。ネラはギャルよりも芸人の方が向いているのかもしれない。


「と、それとオリーブ」

「えっ」

「オリーブ。確かに動きやすい格好でって言ったが、」

「う、うん、、さっきの服、着てきたよ?」

「違う。靴はどうした?」

「え?靴ない方が動きやすいと思って!」


 なんと、オリーブの方は裸足だった。痛くないのだろうか。それよりもその素足は俺に効く。お兄ちゃんは捗ってしまうぞ。確かに、五十メートル走で裸足になる奴が居たが、それはグラウンドでの話ではないか。ここ岩の上だぞ。

 と、そんな事を思う中、ネラが起き上がる。


「やっぱ無理ぽ、」

「じゃあまずは靴買いに行こうな」


 エルマンノはそうネラに言ったのち、オリーブに向き直る。


「オリーブもな」

「えっ、、でも、私は一応持って来てるよ、?」

「でもせっかくだ。見て行こう。向こうの村と違って、目新しいものがあるかもしれない」

「っ、!い、いいの!?お兄たんありがとうっ!」

「っ!...毎日貴方のお風呂のお湯で顔を洗わせてください」

「プロポーズの仕方きっしょ、」

「それは味噌汁だろ?これは妹になってくださいの意だ」

「今オリーブちゃんが入ってるお風呂はお婆ちゃんとお爺ちゃんも入ってるやつだよ?」

「地獄だな」


 靴屋に向かいながらアリアの付け足しにエルマンノが吐き捨てる中、ふと、目を見開く。


「ま、まさか、混浴っ!?」

「違うって!順番で入ってるだけ!」

「でも、アリアとは一緒だよっ!」

「昔からだもんね〜」

「ね〜」

「なっ!?こ、ここでも百合カップルだと!?」


 妹同士の百合は最高ではあるが、妹同士でカップリングが出来上がり兄だけ残されるのは中々心にくるものがある。お前は無人島で男性一人で女性十人でも五組のカップルが出来てお前が残るぞ的なあれだ。


「クッ、ううっ、」

「え、兄ちゃんどした、?」

「いや、大人になったなって、」

「え、お風呂一緒に入ってるのは子供じゃないん、?」


 エルマンノの涙ながらの言葉にネラが驚愕すると、そののち。

 靴屋に到着する。


「よしっ、じゃあまず、動きやすいやつ探すか」

「奢ってくれるってマ?」

「誰も言ってないぞ」


 さらっと見たところ、最低でも銅貨十五枚以上は必要な様だ。奢るなんてとんでもない。だが。


「まあ、、安いやつなら」

「じゃあウチこれにするわ!」

「高いだろこれ。てかこれヒールも高いだろ」

「じゃあ私これ!」

「アリアの靴を買いに来たわけじゃないぞ」


 エルマンノがジト目を向ける中、オリーブもまた可愛らしい靴を見つめる。


「これ、欲しいか?」

「えっ、、あ、ううん、、大丈夫、だよ?」

「言ってくれてもいいんだぞ?言うだけならタダだ。アリアとネラもそうだっただろ?」

「...そ、そう、?な、なら、、これ、欲しい、かも、」

「おお、ブーツか。確かに、オリーブの村では見られないものだな」


 オリーブは普段和の雰囲気を漂わせているため、こういう西洋風のブーツを履いているところは見た事がない。


「試着してみるか?」

「へっ、、い、いいよ、、そ、そこまでは、」

「試着ならタダだぞ?」

「そうそうっ!試食ならタダなのと一緒!」

「試食と言いながら全部食べてそうな奴が言うと意味が違って聞こえるな、」

「私なんだと思われてるの!?」


 アリアとエルマンノで言い合いをしながらも、結局オリーブは履くことに決めたらしく、少しののちブーツを履いて現れた。


「ど、、どう、かな、?」

「かっ、かわっ、、すぎっ」

「ドストライクシストゥッ!?!?」

「えぇっ!?何なにっ!?何事っ!?」


 アリアが口を押さえる隣で、エルマンノは謎の単語を放ち倒れ込んだ。


「お兄たん!?お兄たん大丈夫っ!?」

「あ、ああ、、オリーブの、、その姿は、殺人的だ、」

「えっ!?だ、駄目、かな、?」

「違う。とてつもなく良いって意味だ。童貞を殺すなんちゃらってあるだろ?」

「何?それ?」

「今度教えてやるから、待っててくれ」

「そんなの教えなくていいから、」


 エルマンノが真剣にオリーブに話す中、アリアは呆れた様子で息を吐く。と、対するオリーブは少し恥ずかしそうにモジモジとして呟く。


「でも、、その、ちょっと、これ、、暑い、かも、」

「あー、確かに。ブーツって暑いって言うもんな、、オリーブは普段草履とか履いてるから特にか、」

「確かに、、ブーツって汗臭くなっちゃうイメージあるよね」

「オリーブの足が臭く、、か、、これは、イケる」

「何がイケるの!?」

「や、やっぱり、、可愛いけど、、止める、」

「代わりにお兄ちゃんがブーツになろう」

「踏まれたいだけでしょ、?」

「よく分かったな」


 エルマンノの魂胆をアリアは素早く見抜く中、ふと、背後から。


「おっつ〜!ねねっ!どう?これ良いっしょ?」

「ん?おお、ネラ。いつの間に」


 振り返ると、そこには運動靴を履いたネラが立っていた。


「買うのか?」

「買った!」

「いつの間に、、安ければ奢るって言ったのに」

「いーよ別に!兄ちゃんに甘えてばっかだったしさ!」

「そんな甘えてばっかりだったか?」

「...うん、、助けてもらってばっかり、」

「安心しろ。俺もネラに助けられてる」

「え?」

「そんな事より、買ったなら本題だ。軽く走るぞ!」

「うん!」「おっし!」「えぇ、」


 エルマンノが気合を入れて放つ中、アリアは一人、嫌そうな声を上げた。


          ☆


「はぁっ、はぁっ、はっ、もう、駄目っ、」

「だらしないぞアリア!まだ始まったばかりだろ!」

「一番後ろの人に言われたくないから!」


 何と、始めて五分。エルマンノは一番後ろとなってしまった。オリーブは分かっていたが、ネラもまた運動神経は良かった様だ。ただヒールに慣れていなかっただけで、スポーツは出来たみたいだ。エルマンノの味方がアリアしかいなくなった瞬間である。


「はぁ、、はぁ、もう、エルマンノがっ、ここらでっ、競走しようなんてっ、言うからっ!もう、こんな暑い日にっ、、最悪だよぉ、」

「いや、、オリーブにっ、思いっきりっ、走って、貰いたかったんだっ、ずっと、本気を出せていなかった様子だから、」

「そうは言っても、、これはレベルが違い過ぎるってぇ、」

「悪いな、ヤムチャさせてしまって、」

「え?無茶じゃなくて、?」

「噛んだだけだ」


 どうやら、我々は参加してはいけないものだった様だ。どこぞの盗賊だったはずなのに宇宙を巻き込んだ戦いに呼ばれた奴の感覚。こんな感じだったのだろう。伏字に出来てないが。


「お兄たーんっ!遅いよ〜!お兄たんの負け〜!」

「おお、、時々見せるオリーブのメスガキ要素、、これは、唆るな、」

「そそんないでよ、」

「しゃしゃんなみたいに言わないでくれ」


 エルマンノとアリアがとぼとぼと歩く中、ゴールに設定した場所でオリーブが振り返り、手を振った。


「いやぁ、ほんとオリーブちゃんガチつよだって〜、、ウチ全然勝てない、」

「ネラも凄いよっ!私ギリギリだったもん!」

「だってよ、ネラ。神様と同レベルだ。誇っていい」

「は?神様?」

「ん?ああ、ネラに言って無かったか?オリーブは神様だぞ?」

「え?」


 ネラは、オリーブに目をやる。と、そこには可愛らしく胸を張る激かわ獣族少女が。


「天使の間違いじゃね?」

「いや違う、本当なんだ。オリーブの居る神社の御神体はオリーブ自身だ。だからこそ家が神社なんだ。宝物庫に入れられてたネラなら分かるんじゃないか?」

「え?マ?」

「ま?」

「マの意味分かってないみたいだぞ。オリーブ、マゾか訊かれてるみたいだ」

「違うって!」

「マゾって、、何、?魔法の話、?」

「ああ、今日もたっぷりそれについて教えてあげるからな、」

「今日"も"って何!?」


 エルマンノがオリーブに近づくと、アリアが声を上げる。


「まあ、オリーブは神様だ。それは間違いない」

「うん!神様!」

「えぇ、、簡単に信じられないって、」

「ぬいぐるみが喋ってた人に言われたくないが、」

「いやまあ、確かに、、じゃあ、それもあってウチの事信じてくれてたんだ、」

「まあ、それもあるな」


 ネラが呟く隣で、エルマンノがそう答える。すると。


「そ、それより、、もう、終わり、?」

「ああ、悪い。走りながら話そうか」

「うん!」

「えぇ、、私、もう帰っていい、?」

「ウチもぉ、、マジ汗ベトベト、、変に暑いじゃん今日、もう足パンパンだってぇ、」

「まあ、、確かに、疲れたな、、妹が汗だくなのは嬉しいが、、仕方ない。オリーブ。悪い、一回休憩にしないか?」

「うんっ!それでもいいよっ!」


 僅か十分ほどでギブアップとは。情け無い。エルマンノは自身を含めそう思いながらも、オリーブに放つ。と、そののち、皆で近くのカフェに立ち寄り、軽くお茶をする事にした。本日二度目のお茶である。だが、こちらの方が圧倒的に安い。助かった。


「はぁ〜、、ガチ疲れた〜、、ウチ走るのとか学校以来だよ、」

「にしては速かったぞ、?」

「うんっ!ネラ速かった!」

「それはそん時だけだってぇ、、体力が無いんよ、体力が。兄ちゃんは逆に遅いけど体力あるっしょ?」

「おお、、お兄ちゃん体力あるねって、ちょっと吐息混じりで言ってくれないか?」

「えぇっ!?ちょちょちょっ!?ネラ!?」

「あっ、お兄ちゃんって〜、、体力、あるよねぇ、」

「あふんっ!?」

「お兄たん!?」


 ネラが突如隣の席だったのもあり近づくと、耳元でそれを呟く。それに赤面するオリーブと声を上げるアリア。うーん、これは破壊力が半端ない。鼓膜に妹お布団をかけられたかのような心地良さ。お兄ちゃんは召されてしまいます。


「あははっ!なにマジになってんの〜?びびった?」

「おお、妹立体音響だ、」

「あ、あれ?ど、どしたん?おーいっ、戻ってこーいっ」


 エルマンノは天に召された様だ。妹天国というやつにだろう。


「にしても、随分と積極的になったな、ネラ」

「嫌、?」

「大好物です」

「あははっ、何それっ!じゃあさ、もっと甘えていいん?」

「ああ。勿論だ」


 エルマンノは低くそう呟くと、手を広げる。その様子に、何か言いたげなアリアとオリーブ。これは、修羅場の予感がする。すると。


「兄ちゃ〜ん」

「あふっ!?」

「疲れた〜」

「お、おぉ、」

「ね、揉んでよ?」

「えぇっ!?」

「おお、ネラが積極的になってくれて嬉しいぞ」

「ね?して」

「えぇっ!?」


 ネラがエルマンノに寄りそう小さく呟くと、アリアが驚愕する。と、次の瞬間。


「あっ、、そ、そこっ、んっ!そっ、あっ、きもちっ、」

「おお、、ここ、硬くなってるぞ、、ここが、揉んで欲しいのかっ」

「...」


 目の前では、ネラの足を揉むエルマンノが居た。


「どうしたアリア、その顔は」

「なんか、裏切られたなって、」

「それ俺の台詞じゃないか、?」

「え〜、ウチの脚じゃ不満?」

「妹の脚を揉めるなんて死んでもいいです。ありがとうございます」

「あははっ!てかさ、揉むだけでいいん?」

「本当は挟まれたいんですが」

「キッショい!」

「ごふっ!」

「これ以上は通報するよ!」


 このままいけば出来たかもしれないのに。アリアが途中でエルマンノの頭を叩き、未遂で終わった。


「ははっ、残念だったねぇ〜。挟ませてあげるわけ無いじゃ〜んっ」

「おお、その焦らしは、、それはそれで、」


 エルマンノが、席を立ち拳を構えているアリアの下でネラにそう呟く。すると、そんな中。


「あれ、?もしかして、エルマンノさんじゃないっスか、?」

「ん?おおっ」


 突如声をかけてきた人物に振り返ると、そこには服装が変わったミラナが居た。


「さっきぶりですっ!あ、えと、この方達が、もしかして、」

「はい。妹です」

「な、なるほど、、突然妹にされたという、」

「え?誰、?」

「エルマンノ、、この人は、?」

「ああ、実は新しい妹だ」

「えっ!?そうなの!?」

「えぇっ!?」


 ネラが放つ中、アリアが耳打ちすると、さらっとそう告げるエルマンノ。それに、オリーブが元気に目を見開くと、ミラナは驚愕した。


「な、なんか本人が一番驚いてるっぽいけど、」

「まあ、まだ悩み中らしいしな」

「悩み中とかの話じゃ無いでしょ、」


 アリアが、小さく呟くエルマンノにフレデリカと同じ様な事を返す中、オリーブは嬉しそうにミラナに寄った。


「あっ、えとっ、私っ!オリーブって、言います!き、今日から、家族に、なって、くれるの、?」

「っ」


 オリーブの、期待のこもった眼差しに、ミラナは目を剥く。と。


「なっ、なんなんっ!?この子めっちゃ可愛いなぁ!この子も、エルマンノさんの妹さん?」

「ん?関西弁、?」

「ああっ、ごめんなさいっ!つい、」


 なんと、今まで気を遣って敬語にしていたのか、分からなかったものの、どうやらミラナは関西の人だった様だ。いや、待てよ。ここ異世界だよな?


「なんそれ!?本場の方言じゃん!」

「なっ!?こ、この世界にも方言というものが!?」

「多分、訛り方からして、北の国っぽいかも、」

「おお、流石、伊達に高学歴をしてないな。というか西じゃないのかよ」

「伊達にって何!?」


 どうやら、アリアの見解は、北の国の言葉らしい。場所によって僅かに発音が変わるのは、この世界も変わらない様だ。英語圏などでも見られるのだから、当然か。


「色々と重なってアレだが、改めてオリーブは俺の妹だ。こちらのギャルがネラ」

「よろ〜っ!」

「で、こっちの壺買わされてそうなのがアリアだ」

「そこ普通見た目の説明しない!?」

「買わされてそうなところは否定しないのか?」

「うっ、そ、それはっ、、か、買わないから!」


 皆の様子を見据えながら、ミラナは僅かに微笑む。スカウトしている。何だか怪しい言葉だったがためにどんなものかと思っていたが、皆楽しそうで。想像以上に彼が兄をしていて。まるで本物に見えて、思わず。


「いいなぁ、」


 本音が漏れ出た。


「えっ」

「あ、えとっ、な、何でもないですっ!」

「そして、この人が新しい妹になるミラナと言います。突然の事で申し訳ないが、、仲良くなれるとお兄ちゃん信じてます」

「どこ目線、?」

「え、えっと、その、あたし、、まだ、妹には、」

「えっ、、な、ならないの、?」

「うっ」


 ミラナが否定しようとする中、それを察したのか、どこか寂しげにオリーブは放つ。その表情に負け、ミラナは。


「な、なります、」

「やっ、やった!」

「よくやったぞオリーブ。流石だ。泣落とは、やるな」

「な、なきおとし、?」

「オリーブちゃんがまるで泣き落とししたみたいな言い方やめてよ!」


 エルマンノの発言に首を傾げるオリーブ。そんな様子になんて事をと、アリアは放つ。と、改めて。


「それよりも、何でここに、?それに、その格好、」


 見ると、ミラナはエプロンをしていた。これは、まさか。


「あっ、はい!実はここでバイトしてるッス!」

「い、異世界ドリームは、?」

「ん?いせかい、?」

「いや、こっちの話だ、」


 どうやら、ここがバイト先の様だ。話を聞くと、バイト前にランニングをしていたところで、エルマンノと出会った様で、現在はそのままバイトに入っているとの事だ。終わるのは夕方のようなので、皆時間もあるためこの辺をランニングしながら待つ事にした。


「お疲れ」

「えっ、お、お疲れ様ッス、、え、?も、もしかして、、待っててくれたんですか、?」

「はい。まあ、今日はランニングするために来てたので」

「もしかして、あたしの影響ですか?」

「はい。ランニングにハマりまして」

「はははっ、明日からもうやらなそうな状態なんだけど!」


 息は上がり、体は震えていた。そんなエルマンノの、姿とは対照的な言葉に、ネラは隣で笑った。その隣で言葉も出せない程息を荒げているアリアは一回そっとしておこう。


「す、すみません、待っててもらってしまって、」

「全然大丈夫だよっ!その間のランニングっ!楽しかった!」

「っ!そ、それは良かったです!」


 オリーブの純粋な言葉に感銘を受けながらミラナはそう返す。すると。


「それよかさっ、もう妹でウチら家族じゃん?全然タメでいいよ!」

「え、?で、ですけど、」

「ウチなんかに敬語使う意味ないっしょ!」


 元気に放つものの、そんな自虐的な言葉に、エルマンノは目を細める。すると。


「え、ええん、?」

「おおっ!いいじゃんっ!ウチ、本場の訛り聞きたかったんよ!」

「え?ネラさんも方言が?」

「いやいやっ、ウチは方言可愛いから真似てるだけ!」

「方言て可愛いんかな?」

「マジかわ!試しに一回言ってみてっ!」

「えっと、あたしのために、待っててありがとーな、、最近天候が不安定やし、季節の変わり目やけん。あまり夜ば出歩くん良かなかど、?」

「うわっ!マジきゃわ!こりゃリピだわ!」

「食べ物みたいに言うなよ、」


 エルマンノはネラにツッコミながら、驚愕する。

 いや、関西弁じゃ無いのかよ。

 色々と混ざっている気がする。方言に詳しくない作者が、色々言われるのを恐れて異世界方言として混ぜながら作った感が出ている。


「兄ちゃんも可愛いと思うっしょ?」

「ああ。妹はみんな可愛い」

「方言の話してるんだけど!?」


 ネラがそう放つ中、改めてミラナは放つ。


「それよか、、その、待っててくれたんは嬉しいんやけど、、その、どういう、?」

「ああ。そんな深い意味はない。少し、話したかっただけだ」

「そうそう!ミラナちゃん素材めっちゃいいから、メイクしたいなぁって」

「え、どっちなん?」

「まあ、素材がいいのは否定しないが、メイクするために待ってたわけではないな」

「えぇっ!?ちがうの!?」

「ネラは逆にそうだと思ってたのか、?」


 エルマンノがネラにジト目を向けながらも、どこか楽しそうに微笑んで放つと、ふとミラナは慌てた様子で足を踏み出す。


「あ、その、でも、ちょっとごめん、、そろそろ次のシフトあるんよ、、ごめんなぁ、、ちょっと、急がなあかん、」

「え?次のシフトって、」

「掛け持ちでもしてるのか?」

「そうそう!やけん、せっかく待って貰ってたんに、、ごめんな、」

「そうなん!?」

「そうなんだ、、なら、仕方ないね、、気にしなくてええよ」

「アリア、移ってるぞ」

「えぇっ、ほんとだっ!」

「ミラナ、、大変、」

「大丈夫よオリーブさん!あたしこう見えても体力あるけん!心配せんで良か!」

「そうにしか見えないが」

「ははっ、そう?」


 ミラナがエルマンノの言葉にニカッと笑ったのち、歩き出す彼女に目を見開く。


「歩きで行くのか?」

「走りやで!」

「凄いな、」

「ウチらも負けてられなくね?」

「ネラ一人で行ってきていいぞ」

「さんせーい、」

「ひ、酷ない!?」


 エルマンノ達が話す中、それに笑ったのち、ミラナは申し訳無さそうに唇を噛み、俯き気味に放つ。


「ごめんね、今度埋め合わせするから、」

「いや、別にそんな必要はない。まず、元々俺たちが好きで待ってただけだ。それに、ランニングしてただけで、待ってもないからな」

「だけってぇ、、それが一番大変だった、」

「アリア、?大丈夫、?」

「うん、、大丈夫じゃないよぉ、」

「それよりも、ミラナ。なんでそんなに掛け持ちしてるんだ?」


 エルマンノは、やはりこの世界でも色々と大変なのかと、軽く聞いてみる。もし学校に行きたいだの目指しているものがあるなどがあれば、力になりたいと思ったからだ。

 すると。


「いや、、その、」

「ん?」

「えっと、実は、、あたし、その、」

「...い、言いづらい事なら、、いいぞ。悪かった、、その、突然妹にして、馴れ馴れしく話して、それで、こうして踏み入った事を聞いてしまって、」

「あ、自覚あったんだ、」

「アリアは俺を何だと思ってるんだ、?」


 エルマンノが頭を下げると、隣のアリアはジト目で放つ。いや、そうかもしれないな。ネラとの事を思い出してエルマンノはまたもや息を吐いた。


「いやいやっ!そんな事ないッスよ、、確かに、ちょっとびっくりしたッスけど、なんか、あったかいなって、思ったので、」

「あ、標準語に戻ってるよ!」

「あ、ご、ごめんなぁ」

「無理に言わせなくてもいいだろ、?」


 突如割って入るネラに、エルマンノは息を吐くと、少しの間ののち、ミラナはどこか思うところがあったのか、口を開く。


「その、、実は、あたし、、その、両親居ないんスよ、」

「「「「っ」」」」


 その一言に、その場の皆は目を見開くと共に、エルマンノはそれを言わせてしまった自身に酷く嫌悪を抱いた。

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