第38話「ぬいぐるみもギャルも、同じ大切な妹だ」

 セオとガレスが聖騎士に連行される中、皆で会話をしたのち、ふと聖騎士の一人がエルマンノに口を開いた。


「また、貴方達ですか」

「いやぁ、トラブルに愛されてるんですかね、?」

「貴方がトラブルメーカーでは無いのですか?」

「断じて違います」


 エルマンノは否定を口にするが、皆はそれぞれトラブルメーカーでもあると頷いた。


「悪いですが、あなた方からも、また話をお聞かせ願います」

「ま、マジですか、」

「エルマンノはトイレに行っておいた方がいいんじゃない?」

「そうするよ」

「わ、私も、行きたいかも、」

「おお。オリーブ、一緒に行こうか」

「へっ!?お、おトイレ、、一緒、?」

「現行犯逮捕しますよ」

「おっと、、冗談が通じない聖騎士にはなりたく無いですね、」

「貴方の場合冗談じゃないじゃないですか」


 エルマンノが手を上げ放つと、村長が呆れ気味で口を開く。と、それにエルマンノは気づき、改める。


「村長も、、ありがとう。助かった」

「いえ、アリアさんが頭を下げるものですから。断るわけにはいきませんよ」

「ア、アリアが、?」


 村長の一言に、その場の皆が目を見開く。


「もし成功したら、エルマンノさんが報酬をくれるとお伺いしましてね」

「なっ!?あ、あの妹、、俺を使ったな、」

「村の繁栄のため、レジャー施設でも作りたいと思っていたんですよ」

「報酬のレベル高すぎはしないですかね」


 少しの間ののち村長が付け足すと、エルマンノは拳を握りしめた。と、話を変えるべく、エルマンノはフレデリカに振り返った。


「フレデリカも、ありがとう。本当に助かった」

「私もアリアに言われただけだから」

「アリアからはどこまで聞いたんだ?」

「ネラが誘拐された事と、そこにみんなが向かってる事。それと、その場所」

「場所なんて、、よく分かったな」

「アリアも真実の水で見たみたい」

「それだけで場所が分かったのは凄いな、」

「路地裏はよく使ってるみたいだから、知ってるみたいよ」

「拉致でもされないといいけどな。セオとかガレスみたいな奴もいるし」


 エルマンノはそう口にしながら、路地裏で隠れながら生活しなくてはならないアリアを考え目を細める。と、それを考えたのち。


「それにしても、フレデリカにネラの事情はまだちゃんと話して無かったよな?」

「うん。だから、熱く語ってる時意味分かんなかったよ」

「そりゃそうだよな」


 アリアからその話しかされていないがために、ネラの事は何も把握していなかった事を悟り、エルマンノは苦笑を浮かべる。が。


「でも、何となく分かったよ。精神移動転移魔法。そうとうややこしい事になってたみたいだね」

「そのややこしい事をこの一瞬で理解出来てるフレデリカは一体、」

「ご、ごめんなさい、ややこしい事しちゃって、」

「ううん。ネラは悪くない。悪いのはこいつ」

「えぇっ!?なんでぇ!?」


 淡々と放つフレデリカにエルマンノが声を上げると、一呼吸置いたのち、改めて問う。


「それより、状況が分かって無かったのにどうして新薬を持って来てくれたんだ?」

「それは、、いち早く、見せたかったから、、今まで、正式に認定されてなくて、外に持ち出せなかったからね、」

「っ!って事は、、つまり、」

「認められたの!?」

「うわっ、マジ最高じゃん!何今日最高の一日じゃん!ウチ死ぬんかな?」

「誘拐された奴が言う台詞じゃないだろ、」

「あ、そうだったわ」


 エルマンノの指摘にネラが笑い、オリーブがその事実に喜ぶ。それに「そんな、大袈裟な、」と呟くフレデリカだったものの、彼女もまた思わず口元が綻んでいた。

 と、そんなお祝いムードに構わず聖騎士が入ってきたので、お兄ちゃんパンチを喰らわしてやりたかったものだが、それをしたらセオとガレスと文字通り法廷で会う事になるため手を抑えた。

 その後は、皆で取り調べを受け、無事にセオとガレスは逮捕された。だが、グレイブ王国に話をしたところ、どうやらその国の人では無かった様だ。それが本当かどうかは不明だが、二人があの国の国民であるのならば、少なくとも我々を欲している点を考えるとこの国よりも戦力は下なのだと予想できる。即ち、この国の聖騎士に、変に逆らうことは出来ないという事だ。そのため、極力ダメージを受けないよう二人をグレイブ王国と切り離すのが手っ取り早かったのかもしれない。あくまで憶測だが。


「兄ちゃん、」

「ん?どうした?もっと言ってくれ」

「え?に、兄ちゃん?」

「もっと」

「兄ちゃんっ!」

「ああっ//」

「また取り調べ室行こうか?」

「やめてくれ」


 取り調べが終わった帰り、エルマンノ達は皆王国を歩きながら、いつもと何ら変わらない会話をした。


「それで?どうしたんだ?」

「...ウチの、、花火、良かった、?」

「ああ、勿論だ。きっと、見えたし、届いた筈だ。向こうのネラにも」

「そ、そっか、」


 エルマンノの言葉に、彼の腕の中のネラは少し俯き気味に返した。と、その様子に、対するフレデリカは目を細めるのだった。


「じゃあねっ!お兄たん!また明日!」

「ああ。はぁ、、夜の間妹の顔が見れないなんて、、クソッ!絶対に朝来るからな!」

「うん!待ってるね!」

「じゃあ、ネラも」


 エルマンノは、オリーブとそう別れの挨拶をすると、そのままネラを手渡ししようとする。が。


「...兄ちゃん、」

「ん?」

「もう少し、」

「おお、、お兄ちゃんの腕が恋しいか?」

「ん、」

「ネラは甘えん坊だなぁ」

「あっ、そしたら、お泊りする?」

「あー、、悪いが、母さん達が心配してる筈だ、、お泊りは無理そうだな、」

「そ、、そっか、、あっ!なら、お兄たんのお家は?」

「あ、、えっと、申し訳ないが、部屋が狭くてな、、前は親が遠征だったから三人で居られたが、今は厳しそうだ。それに、、アリアが一人になるぞ?」

「あっ、、そっか、」


 村の前で腕から離れようとしないネラに、オリーブが加わり、エルマンノは冷や汗混じりに返す。親に説明するのは中々難しい。通常時ならまだしも、ここまで帰りが遅くなった日にそれを説明するのは問題だろう。そう思いながら放つと、その後。


「なら、ネラだけなら、?」

「「え?」」


 オリーブの提案に、エルマンノとネラは同時に口にする。


「ネラなら小さいし!一人ずつなら、、大丈夫、かな、?」

「まあ、、それも、そうだな、、どうだ?来るか?ネラ」

「っ、、う、うん、」

「なら決まりだな。オリーブも、今度お泊まりしような」

「うん!楽しみにしてるね!」


 エルマンノの柔らかい表情で放った提案に、オリーブは元気に返す。と、本日はネラとお泊まりする事が決定し、歩き出す一同の中、フレデリカは目を細めながら、共に足を進めた。


          ☆


「今日は色々あって大変だったな」

「そ、それなぁ〜、、なんか、どっと疲れたわ〜」

「声は気にしなくていいぞ。多分、親には聞こえない。俺の声は、ソナーでも送ってることにするから」

「オッケー!なら、ブチアゲて普通に喋るね!」

「声量は考えてくれ」


 エルマンノの部屋にネラを置いて、二人は疲れを感じながら倒れ込んだ。


「...ありがとう、兄ちゃん、」

「感謝するなら妹にしてくれ。俺がやった事なんて、高が知れてる」

「そんな事ないって、、最高、、マジ、最高のお兄ちゃんだった、」

「おぉ、もっと言ってくれ」

「よっ!世界一っ!ヨイショォ!」

「ヨイショする時にリアルにヨイショ言うやつは初めて見たな、」


 両親にも軽く事件に巻き込まれた事を伝えながら、無事だという報告を済ませ、その日はまるで修学旅行の如く、コソコソと。小声でネラと話しながら寝床についた。と、そんな暗い室内で。


「兄ちゃん、、起きてる?」

「...」

「流石に寝たよねぇ、」


 眠る事のないネラは、そんなエルマンノの寝顔を見つめながら、小さく呟いた。と、その瞬間。


「ぐがっ、クッ、あぁっ」

「え、、大丈夫、?どしたん、?」

「あ、づ、」

「ああ、」


 掛け布団を蹴飛ばし、顔を真っ赤にする彼を見据え、察したネラは息を吐いた。


「はいはい、氷魔法で冷気出しとくかぁ」


 ネラは汗だくなエルマンノに、少量の魔力でも使用出来る氷魔法を放ちながら、小さく改めた。


「はぁ、ほんと、、兄ちゃんに出会えて、、良かった、」


          ☆


 翌朝。エルマンノは朝食を済ませ、ネラを一度オリーブのところに渡しに向かった。


「あっ!お兄たん!おはよー!」

「ああ、おはよう。宣言通り、一刻も早くオリーブに会いたかったから早朝に来たぞ」

「うんっ!私も会いたかった!」

「早朝に含まれるのかい?今は」

「おにばあさん。おはようございます」

「おにばあにさんをつけるんじゃ無いよ。なんかばあさんみたいじゃないか」

「いや婆さんじゃろうに」

「何か言ったかい?」

「儂らは起きるのが早いから早朝の感覚がズレとるんじゃよ」

「いやいや兄ちゃんの早朝も十分ズレてるんだけど」


 エルマンノの挨拶に、おにばあともじゃおじが話す中、ネラがジト目を向ける。現在の時刻は十一時半。うーん。ほぼお昼かもしれない。


「ふぁ〜、、おはよ〜、、って!エルマンノ!?なんでここに、?」

「なっ!?馬鹿なっ!?お前っ、、アリアか、?」

「ふぇ?そ、そうだけど、?」


 奥から現れたアリアに、エルマンノは驚愕し近づく。


「あ、あり得ない、、こんな早朝にアリアが起きて、、しかも下に居るなんて、」

「ムッカーっ!私だってこういう日もあるよ!」

「雨でも降るのか、?」

「おお、、そういえば雨が最近降ってないのぉ」

「オリーブちゃん。明日、降らせられるかい?」

「うんっ!任せてっ!」

「なら、明日相合傘兄妹デートしような」

「うんっ、、待ってるねっ!」


 エルマンノの言葉に、オリーブは頬を赤らめながらそう頷くと、アリアに改めて向き直る。


「昨日は、、ありがとうな。アリア」

「えぇっ!?と、突然だねっ!?で、でも、私はエルマンノに言われた事しただけだから、」

「言われた事をしっかり出来るのも凄い事だ。俺は指示待ち人間に敬意を表するよ。それに、、フレデリカに、事情を伝えてくれたんだろ?」

「っ」

「真実の水で見た場所を教えてくれたんだよな、、ありがとう。助かったよ」

「...そんな事ないよ、フレデリカが、凄いだけ、」

「そのフレデリカは、そのまま帰ろうとしてたみたいだぞ」

「そ、、そっか」


 エルマンノの言葉に、照れくさそうに目を逸らすアリア。そんな彼女に報告という形で口を開く。


「それで、あの後の事なんだが、何とか間に合って、みんな無事だ。だから安心してくれ」

「それは、昨日オリーブちゃんから聞いたよ。それよりも、」

「ん?それよりも、?」

「...ちょっと」

「ん、、ああ」


 この場を離れようと言わんばかりの様子に、エルマンノは一度頷くと、ネラをオリーブに預けて裏へと回る。


「どうしたんだ、?」

「向こうのネラは、、どうなったの?それに、ラディアさんは、」

「それは、、分からない、」

「えぇっ!?なんか、妖精の話聞いて駆け出したから、てっきり向こうのネラに何かするために行動してたんだと思ったんだけど、、ま、まあ、正直何するかは、、分からないけどさ、」

「よく分かったな」

「エルマンノのことだから、分かるよ」

「さすいもだな、、でも、悪い。それどころじゃ無かったんだ」

「そ、、それもそっか、」

「でも、上手くいった可能性もある。ちょっと今から、それを確認してくるよ」

「...分かった、、でも、もう、無茶しないでね、」

「...ああ、」


 アリアにも言われてしまった。そうエルマンノは思いながら、表へと戻る。みんなに、心配かけてばっかりだ。そんな事を考えていると。


「それでねっ!アリアはそのまま寝ちゃって!」

「そうじゃそうじゃ。じゃから、昨日はここで寝たんじゃよ」

「あははっ!何それウケる!マジかわちぃなぁアリアちゃん!」

「なっ!?ちょ、ちょっとぉ!?何勝手に話してくれちゃってるのぉ!?」


 オリーブとお爺ちゃん達がネラに昨日のアリアの話をしていたらしく、当の本人は驚愕しながら慌てて割って入る。それをエルマンノは見つめながら、小さく「だから下に居たのか」と、どこか納得した様子で呟いた。


          ☆


 その後、ネラを託してエルマンノは村を飛び出し、そのままソフィの家へと向かった。


「おーい。ソフィ。居るか?」

「あっ!おにぃ!おはようございます!」

「ん?ラディアの家だったか、、悪い」

「ああっ!間違ってないですよ!」


 ドアを閉めようとするエルマンノに、ラディアは慌ててそう口にすると、部屋へと平然と入れた。やはり、ラディアの家だったか。


「あー」

「ん、?何だ、この音、」

「あー」

「なっ!?ソ、ソフィか、?」


 部屋に入ると同時に変な音が聞こえ、その方向へと向かうと、そこには蹲るソフィが居た。


「あー」

「ルーターか何かの音かと思ったぞ、、ファンが必要だな」

「昨日飲み過ぎちゃったみたいで、今日は朝からずっとこんな感じなんです!」

「いや、それいつもじゃないか、?」

「まあ、だから私が掃除しにきたってわけなんですけど、」

「大変だな、、シェアハウスしてるわけじゃないのに、」

「でも私は平気です!まあ、掃除してっていつも言ってはいますけど」

「楽しそうだな、」

「そう見えます?」

「相変わらず百合百合していて安心だ」


 エルマンノはそう息を吐くと、改めて頭を下げた。


「その、、昨日は悪かった。一緒に花火大会見る約束だったのに、、俺は行けずに、、色々頼んだせいでラディアも、しっかり祭り見て回れ無かっただろ、?」

「あぁっ!?頭上げてください!全然平気です!」

「ほ、、本当か、?」

「はい!それよりも、、もっと大きな思い出、、出来ましたから、」

「っ、、そうか」


 ラディアの優しく微笑んで放ったそれに、エルマンノもまたそれを察して微笑んで答えると、表情を変えて改める。


「あの、、それで、ネラの事なんだが、」

「ああ、はい!その、昨日、ライブやって、その後そのせいで危なくなったんで、会場から逃げたって話まではしましたよね?」

「ああ、、昨日の夜、ソナーでな。にしても、相変わらず危険な事してるんだな」

「相変わらずってなんですか!?おにぃの方がよっぽど危険です!」

「俺がいつ幼女を襲った、?」

「その危険じゃないですよっ!まあ、、それで、その後、ネラさんとは夜ずっと遊んで、飲んだりしてました」

「あぁ、、だからこんな感じなのか、」

「はい!」

「何となく、謎が解けた気がするよ」

「何となくじゃなくて正解です」

「じゃあ、この様子を見る限り、その後ネラは帰ったのか?」

「はい。その後は、、すみません、分かってませんけど、」

「いや、ラディアが謝る必要はない。寧ろ、助かった。ありがとう。本当に情け無い兄で申し訳ない」

「いえいえ!そんなっ、全然気にしてないですよ!」


 エルマンノはそう謝罪を放ったのち、顎に手をやる。ソフィ達と飲んだのならば、関係は良好だと思われる。問題は、彼女自身がどう思っているかだ。そうエルマンノは脳内で呟いた。と、その直後。


「でも、ネラさんは楽しそうでしたよ!何だか、、吹っ切れた、?って感じでしたし、、最初に会った時みたいな嫌悪感とかは感じませんでした」

「っ、、そうか、良かった」


 エルマンノはラディアのそれに、安心した様に息を吐くと、ならば、と。足を踏み出した。


「ど、どこ行くんですか?」

「ネラのところだ。...あー、でも、出来ればラディアも一緒に来て欲しい」

「え、?いいですけど、、何でですか?」

「俺は嫌われてるんだ」

「えぇっ!?そうなんですか?」

「ああ、、だから、頼む」

「いいですよ!二人とも、私のライブの最前列を取ったんです。行かない選択肢はないです!」

「ネラも最前列を?」

「はい!無理矢理聞かせました!」

「昨日のやつか」


 元気に笑うラディアに、エルマンノは微笑みながらそう答えると、未だ二日酔いで倒れるソフィに一応声をかけ部屋を後にした。


          ☆


「お、おはようございます」

「あっ、ラディアちゃん、、おはよう、」


 その後、ネラの家へと着き、ノックをすると、ありがたい事に直ぐに顔を出してくれた。


「おはよう。ネラ」

「は、?な、何で居るわけ、?」

「ちょっ!?早いですよおにぃ!もう少し話してからって言ったじゃないですか!」

「悪い、、妹を前にして、抑えきれずに、」

「抑えてください!捕まりますよ!」

「確かに、、欲望を抑えなくては、」


 ラディアとエルマンノの謎会話に息を吐きながら、そんな最中ネラはゆっくりとドアを閉める。


「あーっ!ちょっと!待ってください!」

「こいつが居るなら嫌。帰って」

「お兄ちゃん泣いていいか?」

「あぁっ!えと、少しでいいから、話だけでも、」

「それが嫌なんだけど、、それに貴方、友達の兄なんでしょ?何でここに、、っ!まさか、、ウチの事調べるために、、妹の友達を利用したわけ、?」

「っ!違う!断じて違うぞ!俺が、妹を利用なんてするわけないだろ!ふざけるな!」

「おにぃがそんなに熱くなると変な空気になるからやめてください!」

「えっ、変な空気になるん、?」

「それよりも、違いますネラさん!私は、ネラさんと友達になりたかった。確かに、貴方の事を知ったのは兄の話からですけど、、でも、ネラさんと本気で友達になりたいと思ったんです!」

「...ねぇ。妹を利用とか、兄からとか言ってっけど、、もしかして、二人とも兄妹なわけ?」

「っ!」

「バレてしまったか。この兄妹ラブラブオーラは、拭えきれないよなぁ」

「ああっ!違うんですよ!その、おにぃの方から妹になってって言われたからで、本当の妹じゃ、」

「はぁ、、もう、いいよ」


 二人して口々にそう放つ中、ネラは呆れた様に。どこか寂しそうに呟いた。


「昨日は、、楽しかった、、でもさ、なんか考えれば考える程、どうでも良くなってきちゃったんだよね、」

「え、」

「そ、それは、、どういう事だ、?」

「昨日、ソフィは言ったんだ。こんな私でも、こんな風になれた。素敵な人達が周りに居たから。だから、今度は私の番。そう言って、ウチに手を差し伸べてくれた、」

「ソフィ、、そんな事言う様になったんだな、、お兄ちゃん嬉しいよ、」

「おにぃは少し黙っててください」

「えぇ、」

「それに、ラディアちゃんだって、、こんなウチの話を優しく聞いてくれて、、初対面なのに、色々気にかけてくれた。それが、どんな理由であろうと、同情だったとしても、嬉しかった」

「違います!私はただっ、お友達になりたいだけなんです!」


 ネラの言葉に、ラディアが慌てて割って入るものの、それに更に続けた。


「それから、昨日、マロンが見えたの」

「っ」


 付け足されたそれに、エルマンノは目を剥いた。


「大きな花火だった、、確かに、普通のものには程遠いけど、、凄く、綺麗だった、」

「ああ、、そうだ。ネラは駄目なんかじゃない。努力して、あそこまで大きな花火を打てたんだ!」

「それは向こうのネラでしょ」

「「っ」」

「はぁ、、なんか、勝手に救われてたの、馬鹿みたい、、ソフィだってそう、、勝手に、ウチが仲間意識してただけで、、ウチよりも立派だった、、ああして自分の得意な事でしっかり道を進んでて、周りのお陰って言ってたけど、その周りを引き寄せたのも、ソフィの努力だよ。マロンの方だってそう。やっぱり、、ウチ、なんも駄目だ、」

「そんなわけーー」

「そんなわけないです!」

「っ」


 エルマンノが声を上げかけたその時、それよりも大きく、ラディアが割って入る。が。


「努力してるのは私じゃ無いでしょ!」

「「っ」」

「ウチなんて、、何もやってない!要らないと思った感情を切り離して捨てて、そのまま何かしようとする訳でもなくて、、こうしてラディアちゃんと、ソフィと出会ったのも、全部そっちからじゃん!マロンのお陰じゃん!ウチから動いて、努力して出会えたものなんて、何も無いんだよ!...分かった、、分かったんだ、昨日。本当に要らないのは、ウチの方だったんだって、」

「っ!そんな事ないです!」

「...ネラ」

「何、?」


 声を荒げるネラに、ラディアが割って入るが、そんな中、ふとエルマンノは小さく口にした。それに、鋭い目つきを送るネラ。すると。


「なら、何でヒール履いてるんだ?」

「は、?」

「なら何でその髪にした?どうして眼鏡やめたんだ?どうして」

「な、何なの、?」

「どうして、、精神移動の魔法を、使える様になったんだ?」

「っ」


 エルマンノの少し間を開け告げたそれに、ネラは息を飲む。


「何が、、言いたいの、?」

「それはつまり、全部努力だろ?」

「...努力なんかじゃない、、変わりたかったから、、やっただけ、、ただ見た目から変えようとして、中身は変わらなかった、」

「それでも、変わろうとした。それに嘘は無いだろ」

「うっさいなぁ!もう帰ってよ!」

「帰らない。悪いが、素直になれない。自分の本当に気づけない。そんな妹に、教えてあげるのも、兄の役目なんだ」

「おにぃ、」

「何勝手に、」

「ああ。勝手に兄を名乗ってる、出会って数日の奴だ。でも、そんな数日間しか会ってないヤバい奴でも、分かるんだよ。ネラの、努力を。頑張りを」

「何も、、頑張ってない、、頑張れてないよ!」

「謙遜し過ぎだな。マロンのネラとそっくりだ」

「っ!」

「ネラは、今まで努力してきたのは全て要らないと思っていた感情の部分だと思ってるのかもしれないが、今のネラにもちゃんとそれがあるんだ。じゃ無かったら、転びまくってるのに未だにヒールなんて履かないだろ?確かに髪の色とかは抜けるのを待ってるとか、色々あるかもしれない。でも、ヒールなんて履き慣れてないなら直ぐにやめたくなるものだ。それでも履き続けてる。それは、それに何か強い思いがあるからじゃないのか?まだ、この変わった姿で居たいと、思ってるからじゃないのか?」

「な、、何知った気になってるの、」

「なら教えてくれ。俺は周りの目が気になってた、周りの期待に応えようとしてた自分の心によって、自分が殺されそうになったから、それを分離したんだと思ってる。違うか、?」

「っ」


 エルマンノの言葉に、ネラは目を剥く。どうやら、図星の様だ。


「この間は悪かった。俺も、、無知だった、、無神経だった、、俺が無自覚に聞いていたそれが、ネラにとってどれ程辛いものか、、俺は分かって無かったんだ、」

「えぇっ!?このタイミングで謝るんですか!?普通先にじゃ無いですか!?」

「いや、中々タイミングが無くて、」

「はぁ、、もう、いいよ。それが分かったって事は、調べて来たんでしょ?妖精についても、、ウチについても」

「ああ」


 ネラが息を吐きながら放つそれに、エルマンノは頷いた。


「だからこそ、、周りからの目は相当キツかっただろうなって、分かったよ」

「...それでも、、ウチは逃げたんだよ、、分離って形で、、きっと、マロンのウチは、そんな事は思わない。不必要な、ネガティブな感情はウチの方。ウチが、、捨てられるべきだったんだ、」

「そうかもな」

「えっ!?おにぃ!?」

「ん?そんな事無いって言うべきだったか、?」


 ラディアが驚いた様子で呼ぶと、エルマンノは息を吐いたのち、少し間を開けて告げた。


「そんな事無いなんて、会って数日の俺に言う権利はない。でも、これだけは言える。そのネガティブな、今のネラという存在は、不必要ってわけじゃないってことだ」

「は、?」

「マロンのネラは、色々とはっちゃけ過ぎだ。確かに静かな時とかはあるが、きっとあの性格は色々と問題になりそうだぞ」

「問題、?」

「ああ、昨日な。実はマロンが誘拐されたんだ」

「はっ!?えっ!?」


 その事実に、ネラは驚愕の色を見せた。ラディアはソナーで昨日言った筈なのだが、何故か驚いていた。初見の反応を上手く出来る妹だ。芸人とかに向いていそうだな。


「その時、マロンはその人達に言いくるめられて、元気にそこに行こうとしてたんだ」

「な、なんそれやっば、、マ、?」

「やっばだろ?まあ、何と言うか、、マロンには良いところがあって、悪いところがある。ネラには悪いところもあるけど、良いところもあるんだ。それはそうだ。ただでさえ人間は完璧じゃないんだ。その人間を、更に二分割したら、そうなるに決まってる」

「...」

「ネラ、なんで昨日マロンが誘拐されたか分かるか?」

「え、?」

「ぬいぐるみが喋ったから。それが第一だったが、それよりも」


 エルマンノはそこまで放つと、一呼吸置いてネラの目を真っ直ぐと見据えて告げる。


「面白い魔力をしてたんだってさ」

「お、面白い、?」

「ああ。魔力が多い奴はいくらでも居るのに、マロンは特別だったんだ。転移魔法が含まれてるからってのもあるけど、それでもネラは、誘拐されるくらいには、凄い魔力の持ち主だったってわけだ」

「それ全然嬉しく無いんだけど、」

「まあ、そうかもな。...でも、見ただろ?昨日の花火。凄い綺麗で、本物よりかは小さいが、ネラから見ても大きいと思えるくらいのものだった。つまり、成長してるって事だ」

「何が言いたいの、?ウチを、惨めな気持ちにさせたいわけ、?」

「違う。つまり、ネラは、精神を分離させて転移させるって目的ではあったが、そのために努力して、転移魔法を成功させた。その段階で既に、もう十分魔力においても成長してたって事だ」

「「っ!」」


 エルマンノの優しく口にしたそれに、ネラのみならずラディアもまた目を見開く。


「転移してたから気づかなかったかもしれないが、分離してるのにあの魔力量は相当だぞ?だって、俺らが気づくまで、ずっと小さな花火を上げ続けてたんだ。相当な魔力がないと、そんな事は出来ない」

「...そうとは、、思えないけど、、それに、たとえ、そうだとしても、」

「まあ、何だ。簡潔に言うと、あまり比べる必要ないって話だ。だって、向こうのマロンも、今目の前に居るネラも。同じネラなんだ。それぞれに良さがある。それが、そんな素敵な二人が、一人に融合されるって、俺は凄い事だと思うぞ。魔力においても、性格においてもな」

「っ」

「確かに、それで完璧にはならない。不完全な二つが融合して、ひとつになって、それで悪いところを補うだけで、完璧になんてなれない。不完全と不完全を足しても、きっと不完全にしかならない。でも、それでも尚変わろうとする気持ちは、二人とも同じで、それがひとつになれば、実現する程の力になる。俺はそう思う。現に、転移魔法を会得してるわけだしな」


 エルマンノは、そう告げると、真剣な表情で。だが優しく、続けて放った。


「お願いだ。マロンを、もう一度、受け入れてあげてくれないか?」


 それに、ネラは俯く。彼らの言いたい事は、心のどこかで分かっていたのかもしれない。自分でも前からそう思っていたものの、言葉には出来なかった。決断を下せなかった事だった。


「わ、私からもお願い。本来のネラと、お友達に、、改めて、なりたい、」


 エルマンノに続いてラディアからも、そう真正面から。頭を下げそう告げられ、ネラは。


「...う、うん、」


 静かに、頷いた。


「「っ」」


 それに、目を見開き微笑む二人は、安堵と共に、ならば早速と、獣族の村へと向かった。


          ☆


「あ、お兄たん!とラディア!と、、えっ」


 エルマンノとラディア。そしてその後ろからネラが村に現れ、オリーブは驚愕する。


「...ネ、ネラ、?」

「ああ。ちょっと、マロンに話があってな」

「っ」


 エルマンノの、微笑みながら放ったその一言で、オリーブは察して口元を綻ばせた。そんな彼女は、ならばと。奥からマロンのネラを連れて来てエルマンノに渡す。


「わっ、みんなお揃いでクラブってんの?アガるねぇ〜。どうしたん?なんかあってーーっ!」


 と、エルマンノがマロンのネラを持ちながらネラへと振り返り、二人は目を合わせる。


「...」

「え、、えっと、お、お久、」

「ん、」

「その、、ごめんなさい、、精神移動で、、ぬいぐるみに移動させて、、全部のことから逃げようと、、して、」

「...」

「ゆ、許してほしいとは、、言わない、、でも、、その、ウチからのお願いっ、、また、戻って来てほしいっ!」

「えっ」


 マロンのネラは、予想外の言葉に思わず声を漏らす。


「こ、、こんな、、わがまま、、駄目、だよね、」

「いや、ネラ。多分怒ってるとかじゃなくて、普通にネラの前でマロンのネラが話すのが難しいんだと思うぞ」

「そ、、そうなん、?」

「ん、」

「だから、多分こうすればいいんだな」

「えっ」


 エルマンノはそう呟くと、マロンのネラをネラに渡し、皆で家の中へと向かう。


「えっ、おにぃ、どうしてですか?いいところなのに、」

「いいところだからだ。そんなとこに、俺らが居ていいものじゃない」

「そ、、そうかも、」


 そんな中、ラディアが疑問を放ち、それにエルマンノは答えると、オリーブは納得しながら裏へと歩いていく。

 と、一方の残されたネラ達は。


「え、、えっと、その、」

「怒って、ないよ、」

「えっ」

「さっき、話せなかったのは、存在が確定しちゃうから、」

「か、確定って、、精神移動は、魔法の一種だから、タイムパラドックス的なものは起きないんじゃないん?」

「でも、怖いじゃん、、第三者にウチらが別々に認識されたらさ、、なんか、もしかすると戻れないかもって、、思ったから、」

「っ!...そ、、それって、」

「あったり前じゃん!てか、ウチ元に戻れなかったらずっとクマじゃん!流石に厳しいて!」

「...っ、、うっ、ごめん、、ごめんね、、そうだよね、」


 恐らく、許してはくれてないだろう。だが、元に戻りたい。その思いは、一致している筈だ。そう、ネラは思った。その矢先。


「あと、別に許してないわけでもないから」

「えっ」

「何で分かったんって感じだね!そりゃ分かるよ。ウチだもん、」

「で、でも、、ウチの部分と、貴方の部分はウチの中でもそれぞれ違うから、、分かるわけーー」

「分かるよ。どこで分離しても、根幹は同じなんだから」

「っ」

「それに、怒るも何もウチじゃん!自分の事許さないって、ただ胸中でやってろって話だし、なんかそれイタくね?」

「そ、、そう、だけど、」

「だから安心して。寧ろ、感謝してるくらいだから」

「か、感謝、?」


 マロンの言葉に、ネラは聞き返す。


「多分、こうして分離しなかったら、この人達と出会えなかったし、自分の事見直す事も出来なくて、、なんてーかな、、でも、とにかく、そのお陰で得たものが多すぎって感じ」

「っ!それはっ、ウチも同じだよっ!そのお陰で、気になってた同級生とも会えて、話聞けて、、それにっ、新しい友達がっ、出来たからっ!」


 二人はそれぞれ。マロンはエルマンノやアリア、オリーブ、フレデリカ。ネラはラディアやソフィを思い返しながら、そう泣きそうな声で互いに放つ。と、それにマロンのネラは、微笑む。


「なら、マジウィンウィンだね!」

「っ、、うんっ!だね!」


 互いに笑い合う。その声だけを、家の中でエルマンノ達は聞きながら、優しく微笑む。彼女の友達という言葉に、ラディアは涙目になり、オリーブもまた二人が仲直りしている様子に顔を赤くしながら笑みを浮かべた。と、そんな中。


「えっ、な、何、?な、何かやってるの、?」

「おお。いいところに来たが今はマズい。ここに居てくれ」

「えぇっ!?どういう事ぉ!?」


 奥から声を聞いてアリアが現れ、マロンのネラが気にするパラドックス的なものを恐れ彼女を取り押さえる。

 と、一方のネラ達は、互いに微笑み合ったのち、覚悟を決めた様で、一度頷くと、ゆっくりとぬいぐるみの頭とネラの頭をくっつける。と、同時に、そこからは優しい光が放たれ、恐らく転移魔法を解除するための魔力が働いているのだと思われる。

 その様子に、一同は胸を撫で下ろした。

 と、その瞬間。


「「きゃっ!?」」

「「「「っ!?」」」」


 突然、まるで何かに弾き飛ばされた様にして、ネラ達はそれぞれ吹き飛ばされる。その光景に、エルマンノは思わず家から飛び出し声を上げる。


「だ、大丈夫か!?」


 と、そんな中、オリーブはマロンのネラに、ラディアはネラに駆け寄り、その真ん中で、エルマンノとアリアは怪訝な表情を浮かべる。これは、まさか、と。

 と、そんな最中。ネラは頭を押さえながら顔を上げ、絶望の色を見せながら、皆に小さく告げた。


「どうしよ、、戻れない、」

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