第37話「妹とブチアゲ花火」

「はぁっ、はっ、はぁ、、はぁ、、は、」


 駆け足で会場に足を運んだフレデリカは、祭りの会場で周りを見渡しながら、皆の姿を探した。が、人が多いのもあり、見つかる気配がない。


「...花火、、もう、終わった、?」


 僅かに寂しそうに、フレデリカは息を吐く。急いで来たつもりだったのだが、どうやら間に合わなかった様だ。ラストスパートの花火が上がり終わる中、皆最前列に居るのかと、フレデリカは足を踏み出した。が、その瞬間。


「フレデリカッ!」

「え?」


 ふと、背後から。聞き慣れた声で、声をかけられた。


          ☆


「ごはっ!」

「お兄たん!?」

「思った程強くねぇじゃねーか。変な魔力してるから、警戒してたのに」

「貴方達が、、強すぎるだけですけど、」

「おお。それは嬉しい事言ってくれるなっ!」

「ごふっ!?...で、でも、この国には負けたんですよね?」

「っ!ふざけるなっ!貴様っ!」

「がはっ!」

「お兄たん!」


 エルマンノは、彼らの魔力に敵う筈も無く、何度もそれを受けては壁に叩きつけられを繰り返していた。


「お兄さん、悪いけどね。ちょっとぬいぐるみ借りるだけだから。こっちも事件にはしたくないからさ」


 ガレスが、ふと声をかける。先程から魔力で押されているだけで、殺意のある攻撃はされていない。恐らく、我々を止めて、ネラを連れ去るのが目的だからだろう。だが、それが問題なのだ。

 ネラは、本体が存在する。即ち、エルマンノやフレデリカを連れて行く場合とは違って、捜索依頼などを出しても誰も動いてはくれないのだ。彼らも、それを理解しているのだろう。ぬいぐるみ相手に、捜索する輩はいないと。

 それ故に、ここで逃したら、きっと、このネラはもう二度と戻って来ない。


「お兄たんをっ!離してっ!」

「ごふぁっ!?」

「おぉ、、きょーれつぅ、」


 そんなことを考えている中、セオの息子をオリーブは強く蹴る。これは、死んだだろう。エルマンノも思わず股を隠す。


「おぉう、、オリーブ、、助けてくれるのは嬉しいが、、ちょっとやりすぎだ」

「えぇっ!?ご、ごめんなさいっ!あ、えと、申し訳ございませんでした!」

「股間は大切にしような。少子化なんだから」

「こ、こかん、、って、お股の事、?」

「そうだ。...というか、そこら辺は教わってないのか?」

「うん、、村長さん、、そこだけ教えてくれなかった、、まだ、早いって、」

「おお、それは俺が教えてあげよう。実技でいいか?」

「え?じ、実技、?何か、するの?」


 エルマンノはナイス村長。そう言う様に微笑みながら。いや、ニヤニヤしながらオリーブに向かう。と。


「ふざけるなよ、」

「馬鹿なっ!?獣族の蹴りだぞ!?」

「鋼鉄魔法と回復魔法。...両方が無くては即死だった、」

「なるほど、、それで回避出来るのか、」

「おふざけは終わりだ」


 そんな、ありがちな台詞を前にエルマンノが鼻で笑っていると、ふと。違和感に気づき目つきを変える。


「まて、、もう一人はどこだ、?」

「はははっ!気づかなかったのか!?馬鹿が」

「マズいっ!オリーブッ!」

「うん!」


 エルマンノは、廃墟の裏口が開いている事に気づき、オリーブに促す。


「今更走ったところで、間に合わん。どうだ?俺達を通報でもするか?ちなみにお前には大した怪我は負わせてない。回復魔法を与えながらダメージを与えたからな。俺達を罰する手段はないぞ」

「まず、二つ間違ってるな。まず、一つ目」


 エルマンノはそこまで言うと、空中に岩の魔法で石を出現させ、勢いをつけて頭を殴る。


「ごああぁぁぁぁぁっ!」

「な、何馬鹿なことをっ!?」

「濡れ衣を着せる事など容易いということだ」

「お前っ!最低だな!」

「お前に言われたくはない!」

「はぁ、、だが、傷口には魔力が残る。自分で放った魔法なのは少し調べればバレるぞ」

「え、そ、そうなのか、?」

「知らないで言ってたのかお前」


 ジト目を向けるセオに、エルマンノはならばと傷を治癒し、改めて告げる。


「だが、俺は最初に、二つって言ったぞ」

「もう一つは、なんだ?」

「もう一つは」

「ごふぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「何っ!?」


 エルマンノが言いかけたその時、遠くで叫び声が響く。それにセオが慌てて振り返ると、エルマンノは微笑んで告げる。


「どんな魔法を使おうとも、獣族のスピードと鼻には勝てない」

「なっ!?」

「ここは有難いことに人が少ないんでね」

「クッ、、まさかっ」


 セオはそこまで放つと、慌てて裏口から飛び出し、声の聞こえた方向へと。魔力を辿って向かう。と、そこには。


「お兄たん!やったよっ!」

「ナイスだ!オリーブ!」


 先程のセオ同様、蹲るガレスがおり、目の前にはオリーブが元気にネラを持ってエルマンノに駆け寄った。


「また、、股間を、?」

「ううんっ!今度は背中にしたよ!」

「偉いな。お兄ちゃんとの約束、ちゃんと守ってくれたんだな」

「うん!」

「何も良くなどないっ!」


 エルマンノとオリーブの掛け合いに、セオは声を荒げた。どうやら、とうとう本気モードの様だ。


「本気で怒らせたな、貴様、、もう手加減はしない。一度気絶させるくらいの激痛を与え、最後に治癒して痕跡を消す」

「傷口には魔力が残るんじゃ無かったのか?」

「治癒魔法の魔力が上回れば良い話だ」

「クッ、、オリーブ、、下がっててくれ」

「う、、うん、」


 エルマンノは魔力を最大限に引き出すセオに、歯嚙みしながら構える。それと同時に、セオは手から巨大な竜巻を出現させる。


「魔力最大、、突風雷電」


 セオはそう放つと、竜巻から雷の様なものがバチッと見える。それに、エルマンノは冷や汗を流した。


「いきなり特大魔法、、しかも混合魔法か、」

「風魔法と電気魔法だ。ここでくたばれ」


ー恐らく、、治癒で治す想定なら、、殺す程の力は出してこないはずだ、、だとすると、俺の全力でかき消せるか、?ー


 エルマンノは一か八かだと言わんばかりに手から炎を出し、それを纏わせながら空中で大きくする。


「妹にまで怪我はさせない。エンテイプロメテウスッ!」


 その竜巻に負けず劣らずの大きさの魔法を、エルマンノは放ちぶつける。だが、そのぶつかった魔力が大き過ぎたからか、その場で大爆発を起こし、皆は吹き飛ばされる。


「クッ!」


 エルマンノは空中で、ネラをギュッと抱きしめ守るオリーブを、更に上から覆い被さって守る様にギュッと抱きしめると、そのまま彼が受ける様に背中で地面に激突する。


「ごはっ!」

「お兄たん!?」「エルマンノ君!?」


 オリーブとネラの声が聞こえる。感覚が、薄い。


「クソッ、、病み上がりでやるもんじゃないな、」

「そうだよっ!お兄たん!もう、戦っちゃ、駄目だって!」

「そう、、かもな、、でも、妹を守るのが、兄だ」

「ううんっ!そんな事ないよっ!お兄たんだって、私達に甘えていいんだよっ!」

「安心してくれ、、妹を悲しませたりはしない。それも、兄の役目だ」


 エルマンノは死にはしないさと渇いた笑みで放つと、爆破による煙の中からセオがゆっくり現れる。


「間抜けが。あれをただ受けていれば、気絶して楽になれたというのに。それでは、寧ろ苦しいのではないか?」

「うるさい、、妹の前で、はぁ、、妹より先に気絶するわけには、いかないだろ」

「はぁ、貴方と話していると疲れるな。だが、もうこれで最後だ。二度も特大魔法は放てるはずがない」


 セオはそう告げると、またもや特大魔法を作り上げる。それも。


「エンテイプロメテウス」

「っ!」

「貴方の攻撃、そのままお返しするよ」


 ニヤリと微笑む。あれ程必死に、倒れるほどの魔力を使って放った特大魔法と、全く同じ攻撃を、息一つ荒げずに放つ。その絶望に、エルマンノは歯嚙みした。と、その瞬間。


「させないっ!」

「なっ!?」

「オリーブちゃん!?」


 ネラをエルマンノの後ろに置いて、オリーブはセオの放った特大魔法を受け止める。


「キャッチッ!ボールだよねっ!お兄たん!」

「っ!そうか、」


 エルマンノは、目を見開く。オリーブは、魔力無効の力を持っている。それならば、あの時エルマンノが放った特大魔法を受け取り、返す事が出来た様に、これもまた、と。


「何っ!?」

「今日もっ!私の勝ちっ!」


 オリーブはそういつもの様に笑ってそう放つと、エンテイプロメテウスをセオに返す。と、同時。


「っ!?」


 またもや爆破が起こった。


「キャッ!?」

「っと、、おかえり、オリーブ」

「た、ただいまっ!お兄たん!」

「オリーブちゃん、、良かった、」


 その爆風によって吹き飛ばされたオリーブをエルマンノは受け止めると、優しく微笑む。が、その矢先。


「なるほど、、あれは、、伝説かと思ったが、、本当に居るとは、」

「「「っ!?」」」


 またもや爆破の煙から、セオが小さくそう放つと。


「これはますます手ぶらでは帰れなくなった」

「「っ!?」」

「ぐっ!?」


 瞬間、一瞬にしてエルマンノと抱き合うオリーブの背後に現れると、彼女の肩を掴み、正面を向かせて鳩尾を殴る。


「オリーブちゃん!?」

「っ、お前ぇっ!?」

「フローズンフリーズ」

「クッ!?」


 エルマンノは、怒りのままセオに向かおうとしたものの、彼が放った氷魔法により体が固められ、オリーブが引き剥がされる。


「お、、お兄、、たん、」

「オリーブッ!待ってろっ!大丈夫だっ!お兄ちゃんがっ!絶対助けてやるっ!」

「無駄な足掻きはやめろ」


 氷を破壊しようともがくエルマンノに、セオは淡々とそう告げると、改めてオリーブを見据える。


「にしても、、これが土地神の力、、これは、凄い発見だ」

「なっ!?お前っ、それをっ!?」

「知らないと思ったか?まあ、、我々も半信半疑だったが、、魔力を持たないのにも関わらず、魔力を無効化する事が出来る、、更にこの力、、そんなの、土地神の力以外にありえない」

「どこで、、それを知った、?」

「ラークという古き友人が居たものでね。奴は土地神の力に狂った輩だ」

「ラーク、?」

「フッ、知らなくても無理はない」

「お前、、知ってたから、今、」

「ああ。土地神に効かないのは魔力のみ。即ち、肉体強化魔法の様なバフは対象外だ。それを、私自身に適応し、魔力ではなく直接彼女を殴る。いくら獣族でも、この威力を受けたら、直ぐには立て直せまい」

「お前っ、魔力のバフ上げの効果以外の事を知って、!?ふざけんなっ!離せっ!オリーブをっ!離せっ!」


 エルマンノは冷や汗を流しながら声を荒げ続ける。そんな中、ネラは何か出来ないか、と。辺りを見渡した。が。


「そこで大人しくしていろ。土地神の末裔は、力の研究が終わったら直ぐ返してやる。行方不明にでもなったら、色々と厄介だろうからな」


 そう放ちながら、セオの方はネラを持ち上げた。


「へっ!?」

「だが、お前は別だ。ぬいぐるみなんて、誰も本気で相手してくれないだろう。捜索依頼を出されても痛くも痒くもない」

「お前はっ!お前らは何の目的でっ、こんな事っ!」

「目的、?そりゃあ、国のためだ。我が国が、一番になるために、ね」

「一番!?一番になってどうするつもりだ!?俺が聞きたいのは、そうなって、何をしたいのかっ!その目的を知りたいって言ってるんだ!」

「はぁ、、無知とは恐ろしいな。お前、この国のことを全く知らないだろ。今、この国は全てにおいて頂点なんだ。それをいいことに、この国の国王は傲慢で野蛮な人間だ。この国に居るから、お前らは分からないかもしれないが、もっと他の国の事情を知った方がいい。この世界を変えたいと、努力している人間がどれ程居るかを」

「な、、何、?この国の、国王は、、そんな、ヤバい奴なのか、?」

「はぁ、本当に何も知らないんだな。いいか?」

「セオ、さん、、そろそろ、」

「ん?おお、、そうか、そうだな」


 セオがそれを話そうとしたその時、後ろから未だ蹌踉ているガレスが声をかけ、彼は改める。それに、エルマンノは歯嚙みをした。と、それに。


「ん?どうした。...まさか、時間稼ぎをしたかっただけか?ハッ、残念だな。お前の今の魔力じゃ、どれ程時間をかけてもそこから抜け出せないぞ」

「一度、ここで気絶させた方が良いかと、」

「そうだな。おねんねの時間だ。少年」

「クソッ!」


 エルマンノは、目の前で睡眠魔法を放とうとするセオに、どうにかして対抗しようと体を動かす。だが。


「お兄、、たんっ、」

「エルマンノ君ッ!」

「クッ!うっ!うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 妹のピンチだぞ。動けよ。動いてくれよ。エルマンノは自身に言い聞かせる様にして、歯軋りするがしかし、その氷はビクともしない。


「ふ、ふざけっ」


 エルマンノはそう愚痴を零し、半ば覚悟を決めた。と、その時。


「エルマンノッ!」

「っ!」

「なっ、、貴方はっ」


 背後から声が聞こえ、エルマンノはハッと目を見開き、セオもまた驚愕する。その声のした方向へと、ゆっくりと振り返る。と、そこには。


「フ、フレデリカ!?」

「フレデリカッ!」「フレデリカさん!?」

「エルマンノッ、、はぁ、、はぁ、ま、間に合った、」

「ど、どうして、?」

「はぁ、、ち、、ちょっと、、早く終わった、から、」

「いや、それもだけど、なんでここが、?」

「フレデリカさん。我々のところに来てくれる決心がついたのですか?」

「は、?そんなわけないでしょ」


 エルマンノが疑問を放つのを遮ってセオが声を上げると、フレデリカはジト目を向けたのち、ポケットからポーションを取り出す。


「そ、、それ、」

「なっ、それはっ!」

「エルマンノこれ、新薬。これなら、体に大きな影響はないから」

「っ...ありがとう、、やっぱり、俺の妹達は、最高だ、っ!」


 エルマンノはそう放つと、フレデリカがキャップを取ったポーションを口で咥える。それを止めようとしたセオ達が到達するよりも先に、エルマンノはそれを飲み切り、瞬間。


「身体強化魔法!」

「「っ!」」


 エルマンノは身体強化魔法で力をつけ、内側から氷を破壊する。


「妹達の声、、ちゃんと届いたぞ」

「お兄たん!」「エルマンノ君!」

「はぁ、、間に合って良かった、」

「フレデリカの特製汁。ご馳走様でした」

「はっ倒すよ?」

「美味しかったよ」

「味覚神経を削り取るよ?」

「お、おお、、とんでもない脅しだ、、それよりも、プレゼンは大丈夫だったか?」

「明らかに今聞く事じゃ無いでしょ、」

「いやぁ、やっぱ妹の晴れの舞台。兄としては気になるってもんだろ?」

「はぁ、、ガレス。土地神とぬいぐるみを頼んだ。ここは、俺がやる」

「大丈夫ですか?」

「ああ、このくらい。何ともない」

「随分と舐められたもんだな」

「さっきボロボロだったのは誰よ、」


 エルマンノが二人を預けるセオに足を踏み出し目つきを変えると、またもや構える。


「エルマンノ、気をつけて。魔力的には向こうが圧倒的に上。元々がギリギリだっただけに、大して魔力上がってないから」

「えぇっ!?それ早く言ってくれないか!?」

「もう遅い」

「ごはっ!?」


 エルマンノは、その後も、必死で魔法を放ったり、抵抗を繰り返すものの、当たってはブチのめされ、向かってはまたもや大魔法によってボコボコにされた。


「はぁ、、はぁ、、ま、まだ、、だ、」

「おい。もう諦めろ。もう何分それをやってるんだ」

「時計がないから、、分からないな」

「そういう事を言ってるんじゃない」


 体感。三十分程は経っている。何度も何度も、魔法を受けては倒れ、また立ち上がっては倒れの繰り返しだ。どうやら、セオも後ろで見ているガレスも飽きている様子だ。何度も立ち上がる姿に心打たれ、改心する流れは、どうやらなさそうだ。残念。


「お兄たんっ!」

「ん?マズい、、セオさん。この子、回復し始めてます」

「なら、また一撃を喰らわせてやるまでだ」

「は、はい」

「や、やめっ」

「ごはぁっ!?」


 セオの言葉によって、ガレスはオリーブの腹をまたもや強化魔法を使って殴る。それに、エルマンノは拳を握りしめて向かう。


「お前ぇぇっ!」

「怒りに任せての攻撃なんぞ、私には届かない」

「なら、届くまでやるだけだ」

「そんな時がくるかな」

「くるまでやるだけだっ!」

「その前に力尽きるのがオチだ」

「力尽きるわけないだろ、、妹が苦しんでる前で、寝転んでいられるかよ!」

「お兄たん、」「エルマンノ、」「エルマンノ君、」


 その姿に、オリーブもネラも。皆どうすれば良いのか、と。拳を握りしめて思考を巡らせた。だが、この力の差。どうやっても勝てるビジョンが見えてこない。と、その時。


『あ、あのっ、も、、もしもーしっ、、あ、あれ、?き、聞こえてますか、?』

「っ!こ、この声はっ、、ラディアか、?」

『あっ!はい!そうですっ!ごめんなさい!遅くなってしまって、、その、、ごめんなさい、、花火大会、、間に合いませんでした、』

「大丈夫だ、そんな事、、今はどうって事ない、、それよりも、ネラは、?」

『あっ、はい!ちゃんと来てくれました!その、ソフィの力を、借りちゃいましたけど、』

「え、?ソフィの、?」

『はい、、実は、ネラさんはソフィと、クラスメイトだったみたいなんです』


          ☆


「ほ、、本当に、、ソフィ、?」

「え?え、、えーっと、」

「あ、、そ、そうだよね、、わ、分かる筈ないよね、」


 ラディアに説得される中で、ソフィという銀髪眼鏡の少女とバンドをしている事を知ったネラは、その人物はもしかしてと。そう思いソフィの家に共に足を運んだ。


「ウチ、、えっと、魔法学校の一年の時、同じクラスだったネラだよ、、えーっと、あの時は、髪も地味で、、眼鏡だったけど、」

「え、、嘘、、あ、あの子、?」

「だ、誰を思ってるかは分からないけど、多分そうかも、」

「っ、、そ、その、、私よりも、いじめられてた、」

「そうそうっ、、って、、あんま言いたくないかなぁ、」

「っ!ご、ごめんなさいっ!」

「ううん、いいのいいの」


 ソフィはアルコールが僅かに残っているらしく、普段の様に突然現れたネラを追い出す様な事はしなかった。その二人の再会を、ラディアは後ろから見つめる。すると、ふと。ソフィは泣きそうな表情で目を逸らす。


「ごめんね、、本当にごめん、」

「え、?な、なんで、?」

「だ、だって、、私が、、学校辞めたから、、貴方が、、もっと、いじめられて、、そ、その事、言いに来たんでしょ、?」

「何それ、、そんなわけないじゃん」

「え、?」

「ウチがソフィのところに来たのは、会いたかったから。今どうしてるのかなって、思ったから。でも、元気そうで本当に良かった、、いじめられて学校辞めたでしょ?だから、、心配してたんだ、、思い詰めてないかなって、」

「大丈夫ですよ!ソフィはいっつも気ままに、だらだらしてます!」

「う、、じ、事実だけどさ、」

「そっか、、良かった、」


 ラディアが横からそう言うと、ネラは微笑む。と、そののち、ソフィは恐る恐る口を開く。


「ね、、ねぇ、、私のこと、恨んでないの、?」

「え?なんで?」

「だ、、だって、、いじめられても、、二人なら、まださ、、それなのに、私、一人で逃げて、貴方を一人にしちゃって、」

「恨んでないよ。恨んでんのはあいつら。確かに、ソフィが学校に居た時間は短かったし、ウチは大して話せなかった。というか、、きっと、長く居ても話しかけられなかったかもしれない、、それでも貴方を、なんだか近い存在のように感じて、、心の支えだった、、だからさ。ウチと同じ境遇の人を、恨むとかあり得ないっしょ」

「...ネ、、ネラちゃん、」

「あっ、やっと、名前呼んでくれた、」

「...ありがとう、、ごめんね、」

「ううん、、会えて、本当に良かった、」


 ネラもまた、泣きそうな表情を浮かべる。と、その瞬間。


「そのー、、そしたらみんなで、お祭り、行かないですか?」

「え?ま、またその話、?」


 ラディアが恐る恐る割って入る。それにネラは訝しげに返す中、ソフィが何か考えがあるのか、少し悩んだのち、覚悟を決める。


「うん、、行こっ!ラディアちゃん!ネラちゃんも!」

「え、」

「...私に会いに来るの、勇気が必要だったと思う。だから、、私も、」

「ソフィ、」


 首を傾げるネラに、ソフィはそう強く放つと、ラディアは優しい表情で名を呟いて、そうと決まればと、三人で会場に向かった。


          ☆


「それで、、色々とあったがなんとか会場には着けたのか」

『はい、、なんですけど、ソフィは昨日より多い人間に吐きそうですし、ネラさんは帰りたそうにしてますし、、花火大会も、、終わってしまって、』

「それはピンチだな」

『はい、』

「何の話をしている?」

「妹と、大切な話だ」

「通報などしても無駄だぞ」

「それは分かってる。だからしてないんだ」


 エルマンノは、ラディアと一通り話をしたのち、セオに視線を戻してそう返す。その中で、どうするか、と。エルマンノは思考を巡らせる。すると。


「エルマンノ、、どうするの?」

「ああ、、こっちより、まずは向こうだな」

「え、正気、?」

「フレデリカは、知ってるのか?」

「アリアが知ってることはね」

「なるほど。アリアからか、、なら、問題ないな」

「何が問題ないのか全く分からないんだけど、」


 フレデリカが突如エルマンノに耳打ちをし、対する彼も小さく返す。


「ラディア、聞こえてるか?」

『あ、は、はい!』

「一つ俺に考えがある。待っててくれ」

『はい、分かりました!あ、あと、私達にも、一つ考えがあって』


 エルマンノが悩んだ末に思いついたそれを一つの考えとして放つと、対するラディアもまたそれを告げる。と。


「それ、最高だな。流石百合女子妹だ」

『えっ、そんなぁ、別に百合とかじゃ無いですよ〜!ソフィが好きなだけです!』

「一途だなぁ」


 エルマンノはそう笑って放つと、「頼んだ」と小さく告げたのち、目つきを変える。


「ネラ」

「えっ、う、うん!」

「一つ、やって欲しいことがある」

「えっ!?この状況で!?」

「ああ。そうだ」


 エルマンノは、そう告げながら、ゆっくり立ち上がり、セオへと。いや、後ろのガレスへと近づく。


「お兄たん、?」

「ああ、、悪かった。俺は、、妹から嫌われるのが怖かった」

「「え、?」」


 突然放ったそれに、オリーブとネラは声を漏らす。


「だから、、妹が言いたくない事、聞きたくない事は、なるべく、突きつけない様にして来た。理解のある兄で、居たかったからだ。...でも、それは逃げだ。本当に妹を愛してるのならば、それは違う」

「エルマンノ、?」「お兄たん、?」

「さっきのソナーでの話で、一つ分かったことがある。ネラは、ずっと頑張って来た。羽無しの妖精であるのにも関わらず、ずっと、周りからの期待に答えられる様にずっとだ」

「っ」

「なっ、こいつ、、羽無しの妖精なのか、?」


 エルマンノの言葉に、セオは目を見開く。


「ネラが話してくれた様に、最初は親も一生懸命なネラと一緒に寄り添ってた。でも、時期にそれはなくなっていって、、学校でも羽無しという異質さからいじめを受けた。...それでも、頑張ったんだろ?」

「っ」

「どうにかしてみんなと仲良くなりたい。親に認められたい。いい子で居なきゃいけない。そういう思いがあった。ハブられるのが怖くて、それが嫌で。親にもその期待に応えなきゃって必死で。だからこそ、ずっと学校を続けた。それは、頑張ってみんなと仲良くなりたいからか、親の期待に応えたいからなのか、はたまた両方か。それは分からない。でも、ネラはそんな思いがあって、でもそれが重荷になっていった」

「エルマンノ、」「お兄たん、」


 無言でネラが震える中、フレデリカとオリーブは名を呟く。その瞬間、エルマンノはセオを横切り、ガレスへと近づく。それに、セオは。


「おい。何平然とーー」

「これは俺の妹の話だ!」

「っ」

「いいか!?ネラは不器用なんだよ!無理に明るく振る舞って来たんだ!どれだけ辛くても、苦しくてもっ!それでも、みんなに明るい子だと。その取り柄を見てもらいたくて。そう思って欲しくて!意地でもそれを続けたんだ!慣れないのに、それにだ。恐らく学校を卒業してから言葉使いも変えて髪も染めて!ネラはな、いっつも転んでんだよ!」

「っ」

「おい、お前自分の置かれた状況理解してるのか?」


 エルマンノはセオに押さえられながらも、そう声を上げ続ける。それに、ネラは息を飲みながら、彼を見つめた。


「確かに何やっても転んでるのもそうだ。でも、文字通り本当に転んでる。俺は二回もそれを目の前で見た。あんな慣れない高いヒール履いてるからだ!不器用なのに、頑張って変えようとしてるんだよ!不器用なりに、頑張ってるんだよ!」

「エル、、マンノ、」

「ネラがぬいぐるみに人格を乖離して移動させたのはそこだネラ。明るく振る舞って、周りの顔色ばかり窺って、勝手に傷ついて辛くなりながらも、それを外に出さないから、ただただ一人で辛い。そんなマロンの中のネラを、向こうのネラは消したかったんだ!」

「エルマンノッ、ちょっとそれはっ」

「でもな!」


 フレデリカが言い過ぎではと、割って入るものの、エルマンノはそれを遮って声を上げる。


「マロンのネラの、その頑張り屋なところが大切なんだ!自分を変えようとしてたのもそう。その部分を移動させるために転移魔法を勉強してたのもそうだ!だからこそ、成し遂げられたんだ!普通の人間には出来ない。高度な技術だ。精神分離をして、それを移動させるなんて、よっぽど努力しないと成し遂げられない」

「羽無しで精神移動、、そ、それは本当なのか、?」

「妖精で羽無し、そして精神移動、、通りで、」


 エルマンノの言葉に、セオとガレスが話す中、ネラは僅かに震える。その、一瞬の隙を狙って、エルマンノは二人を押し退けてネラの元へと駆けつけると、彼女を持ち上げる。


「なんっ、うぇぇぇっ!?」

「なっ!?貴様っ」

「だから、見せてやれ。向こうのネラに。色々考えて、辛くなるかもしれない。人の顔色ばっか見て、苦しくなるかもしれない。それでも、ここに居るネラの努力が、絶対に必要だって事。未だに高い靴履いてる向こうのネラなら、きっと分かる。見せてやれ。今の自分を。自分は駄目なんかじゃ無い。ここに、それを証明してくれる妹がいっぱい居る事を。そして、その中で変わった、自分の意識を。考えを、それを全部込めて爆発させろ!大丈夫。俺が上に上げる。だから、ネラは全部の気持ち吐き出す様にっ」


 エルマンノはそこまで言うと、ネラを持って走ったのち、身体強化魔法を使って思いっきりーー


「ブチアゲてやれ!」

「っ!うんっ!」


 ーー空へと投げた。


「「なっ!?」」「「えぇっ!?」」


 その突然の奇行に、皆が目を見開く中、ネラだけはその意味を理解した様に、元気に返事をする。その声はどこか掠れており、今にも泣きそうだった。そんな彼女に、エルマンノは下から声を上げた。


「上からっ!向こうのネラを見てこい!」

「まっかせて!」


 そう、ネラは声を上げると同時。

 全魔力を込めて。今の自分を全て曝け出す様にーー


 ーー爆散魔法で、花火を放った。


「おおっ」


 思わずエルマンノは声が漏れる。それに、その場の皆も、目を輝かせた。

 空に打ち上げるからこそ、魔力が分散し、減少し、破裂した時に小さくなるのだ。ならば、近距離でそれを使えば、あるいは。そうエルマンノは考え、空中に投げたのだ。


「今日のウチッ!すっごい羽ばたいてるっ!」


 そんな、まるで大成功という様子で声を上げるネラに、エルマンノはセオを止めながら、ニッと。釣られて笑みを浮かべた。


「ああ!本当の意味でな!」


          ☆


「はぁ、、はぁ、、は、はぁ、ふぅ、、なんとか、落ち着いてきた、」

「よ、良かったぁ、、だ、大丈夫、?」

「うん、、その、ごめん、」

「ううん、いいんだよ。良く、決心したね」


 お祭り会場で、呼吸を整えるソフィの背中を摩りながら、ラディアはそう口にする。それに、ネラは意味が分からないといった様子だったものの、二人はここまで来たのだからと。覚悟を決める。


「ふぅ、、よしっ、い、行こっか、」

「わ、私まで緊張してきちゃった、」

「これ、マズい?」

「マズいだろうね〜」

「そ、そうだよね、、でも、なんか、懐かしい、」

「っ、、そう、だね、、うん、久しぶりの二人のライブ、絶対にっ、成功させるよ!」


 ソフィとラディアが、それぞれ今までの事を思い出しながら潤んだ瞳で言い合うと、そののち振り返ってネラに告げる。


「辛い事、沢山あったと思う。私とは比べ物にならない程、、だから、こんな私が先輩面するのは違うかもしれないけど、でも」


 ソフィはネラに告げたのち、少し間を開け、緊張で強張っていたものの、笑顔で放つ。


「こんな頼ってばかりで、それなのに素直になれなくて、やりたくても出来なくて。そんな私でも、このくらい変われたっ!それを、見て欲しい!」

「え、」

「「最前列で!」」


 ラディアとソフィがそう声を上げると、瞬間、広場の真ん中で持って来ていたギターと音響サポート系統の魔薬を取り出して声を上げた。


「曲は、あれとは別の方がいいかな、?」

「そうだね〜、、あれは、ソナーの件があったし」

「そ、そうだね」


 ソフィが恐る恐る放つと、ラディアは苦笑を浮かべてそう返し、改めて皆に向かって魔薬を使って声を上げる。


「皆様!本日はお祭りにご来場下さり誠にありがとうございます!」

「え、、えぇっと、わ、私達っ!えと、新世紀エターナルブラッド、ソフィとっ」

「ラディアです!」

「さ、最後に、突然ですがライブッ!やります!」

「最高のフィナーレにしましょう!」


 ラディアの掛け声と同時に、二人は曲名発表と共に演奏を開始する。

 その光景を、ただただ、ネラは圧倒される様に、眺めた。

 ラディアもいけない事をしていると分かっているからか、いつもの様に自信満々には見えなかった。ソフィはそれ以上に、人が多過ぎて倒れそうであった。だが、それでも。


「...凄い、」


 ネラには、輝いて見えた。歌も素敵なものだった。上手かった。だが、それ以上に、自信のあるその歌い方が。声音が、背中を押した。ソフィは確かに学校を辞めた。だが、その後ここまで輝いたのだ。それに、圧倒された。存在感に、生き様に。ネラは、呼吸を忘れる程に、見惚れた。

 そんな事を思っている内に、気づいた時にはラスサビになっていた。今まで以上の盛り上がりを見せる楽曲。最初こそ意味が分からずポカンとしていた、祭り会場に来ていた人達も、今では皆体を揺らし、まるで応援している様に、共鳴していた。

 と、その、曲のラストに差し迫った。その瞬間。


「っ!」


 ボンッと。一つの。もう既に終わっている筈だというのに。少し小さく思えたものの、それでも素敵な。唯一無二の花火が上がり、その場の二人を照らした。その光景に、皆が興奮する中、ネラは。

 その花火を凝視し気づく。


「あれって、」


 そう。空中で弾けた花火のところから、小さい何かが落下していくのが見える。それは、間違い無い。


「っ、、マ、マロン、」


 そう、もう一人の、ネラだった。


「皆様!このままもう一曲っ!といきたいところですが、お祭りの実行委員会とかから苦情が来る前に、おいとまさせていただきます!」


 空中に目をやる中曲が終わり、ラディアが慌ててそう声を上げ頭を下げると、ネラの元へと二人で駆け寄りソフィは震える手を見せ笑みを浮かべた。


「私、逃げてばっかりで、今も、、こんな感じに凄い緊張してるけど、、でも、幸せだよっ!」

「っ!」

「ネラを辛い目に遭わせたのに、幸せになってごめん、、でも、こんな私でも、幸せになれた、、だから、、逃げなかったネラはもっと幸せになれる。ううん、、一緒に、なろっ」

「え、」

「はい!ネラさんも、このまま遊んでいきませんか?あ、その、このお祭り会場には、、もう、いられないかもですけど、」

「...っ、、う、うん、」

「「っ」」


 とうとう抑えきれなくなった。そんな様子で、ネラは涙を流す。だが、直ぐにそれを袖で拭くと、深呼吸をしたのち、真っ赤な瞳で小さく笑みを浮かべた。


「ありがとうっ」


          ☆


「っと、フレデリカ!悪い!キャッチは頼む!」

「はっ!?ちょ、突然、」


 エルマンノがセオに向かいながらそう促すと、突然故にフレデリカは慌てて空中を見据え、落下地点へと足を進める。


「させるかっ!ガレス!」

「はい。私が先にっ」

「させるか!」


 セオがそう声を上げると、ガレスがフレデリカよりも先にネラをキャッチするべく走り出す。それを、エルマンノが止める様に、残った魔力を全て出す様にして地面に手をやった。


「ウッドストッパー!」

「っ!?」


 瞬間、ガレスを止める様に、地面から樹木の壁が生える。それに、ガレスは歯嚙みしながらも、直ぐに炎魔法で焼き払い、そのままネラへ走る。が。


「っと!」

「っ」


 先に、フレデリカが受け止める。


「フレデリカ、さん、」

「はぁ、、もう、無茶し過ぎ、」

「そっ、それはこっちの台詞!」

「でも、よく、頑張ったね、」

「っ」


 その一言は、この危ない中での話では無い様に思えた。フレデリカの、自身に似た境遇だからこそ放ったそれに、ネラは目を見開く。と、それを横目に、エルマンノが微笑んだ。


「ナイスだ!」

「クッ、渡すかっ!そのぬいぐるみは我々のものだ!」

「いや、俺の妹だっ!」


 キャッチしたフレデリカを、ガレスが魔法で吹き飛ばそうとするがしかし、それにエルマンノは先に風魔法で二人に距離を作ると、今度は岩の魔法で壁を作る。


「こいつ、、さっきまで瀕死だったくせに、」

「これが、兄ってもんだ。妹の百合はな、兄にとって一番のバフ上げになる」


 セオが舌打ちをすると、エルマンノはニヤリと微笑み自信げに告げる。だが。


「はぁ、また、意味の分からない事を言っているが、これくらい、どうって事はない」


 またもや、ガレスに破壊されてしまう。それにより、フレデリカは覚悟を決め、ネラをギュッと抱きしめ守る。


「「フレデリカッ!」」


 それに、エルマンノとオリーブは同時に声を上げる。と、その瞬間。


「っ、、フッ、、おい。もう、やめておいた方がいいぞ」

「何、?」


 ふと、エルマンノは何かに気づき笑みを浮かべる。


「まあ、どちらにせよ、もう終わりって事だ」

「何が言いたい?」


 エルマンノの突然の発言に、ガレスが首を傾げ、フレデリカが肩を撫で下ろし微笑む。と、瞬間。


「あっ、あちらです!」

「居ましたっ!」

「「何っ!?」」


 突然ゾロゾロと。王国の聖騎士達が現れ、セオとガレス。だけで無く、オリーブやネラもまた驚愕する。


「...間違いないな。お前達が隣国のセオとガレスだな?」

「な、、何故、我々の名を、?」

「すまないが、一度一緒に来てもらう」

「なっ!?何故だっ!」

「貴方達には暴行罪と窃盗罪の容疑がかけられています」

「「なっ!?」」


 すると、以前のオリーブの時同様。同じ聖騎士の方が先頭に立って二人に告げると、他の騎士達に連行を促す。それに、呆気に取られるオリーブとネラ。すると。


「どうやら、、間に合ったみたいですね」

「あっ!えっ、、と、とくしゅ、、せいへきさん、?」

「オリーブ。私をその名前で覚えるのはやめてください」

「それが本名だろ?」

「違いますよ」


 奥から村長が現れ、オリーブとエルマンノは口にする。


「な、、何で、?」

「アリアさんに頼まれたのですよ」

「え、、アリアに、?」


 首を傾げるオリーブに、やれやれと村長は口にする。と、エルマンノは頭に手をやり、恐る恐る口にする。


「その、、実はアリアに先に頼んでおいたんだ」

「頼んだ、?」

「ああ。村長に、聖騎士の人達に通報してもらって、"真実の水"に案内してくれってな」

「「し、真実の、、水、?」」


 オリーブとネラは互いに疑問符を浮かべる。


「知らないのも無理はないな、、その、実は、、オリーブの視界は、その真実の水と呼ばれる、あの神社にある水に映し出されるんだ」

「何それすっご!」

「えぇっ!?って、、こと、、は、も、もしかして、、私の見てる景色、、全部、、見えてるの、?」

「ああ。お兄ちゃんとお風呂に入ってるところも、お兄ちゃんとご飯食べてるところも、お兄ちゃんと寝てるところも、お兄ちゃんとトイレ一緒にしてるところもな」

「どれ一つとして無いけど最後のは特に無いでしょ、」

「うわ、それは無いわー、」

「さらっと引かないでくれます?」


 エルマンノの発言に、フレデリカが頭を押さえ、ネラが引き気味に放った。


「まあ、つまり、聖騎士の人達に普通に通報しても、あいつらの方が言葉巧みに使って無罪になるだろうし、盗まれたのはぬいぐるみ。聖騎士が動いてくれるとも思えない。それに、あいつらの言った通り、俺達に攻撃しても回復してしまえば分からない。そしたら、もう現行犯逮捕しか方法は無かった」


 エルマンノがそこまで言うと、フレデリカが割って入る。


「だから現行犯にするために、オリーブをこの場に連れて来て、その景色を村長が聖騎士に見せる事でそれを実現させたわけね。流石に国の保護対象になってるオリーブに危害を加える情景を見たら、動かざるを得ないし」

「ああ。時間の問題とか、本当に来てくれるかとか、水にちゃんと映るかとか、色々不安はあったけどな、、でも、何とかなって良かったよ」

「でも、一つ疑問なんだけど」

「何だ?」

「どうしてその考えを、ネラを誘拐されたその時に考えられたの、?アリアには最初に伝えたんでしょ?他にも方法は色々あった筈だけど」

「まあ、、これしか思いつかなかったってのが本音だけどな。...このセオとガレスとは一回会ってたし、俺では敵わないのは簡単に予想出来た。それに、ぬいぐるみの捜索に本気を出さないだろうなってのも、何となく予想出来たからな」

「なるほどね、、それで、聖騎士に見られると色々と問題がありそうなアリアに、アリアにしか出来ないことって言って、聖騎士と絶対に対面しないポジションを任せたわけね、」

「そこまで知ってるのか、?アリアから聞いたのか?」

「そう、、きっと、アリアもそれに気づいてると思うよ」

「...そうか、」


 フレデリカが目を逸らしながら放つと、エルマンノもまた息を吐きながら目を逸らす。と、その後。


「え、、えっと、ちょっと難しくて分からなかったけど、、とりあえず、解決、?」

「ああ。妹みんな元気だ。それを見れただけで兄も元気だ」

「っ!良かったぁ、」


 オリーブは、安堵の息を吐いて崩れ落ちる。そんな彼女に、エルマンノは駆け寄る。


「大丈夫か、?悪かった、、辛い役割を、、させてしまったな、」

「ううん、、全然平気!お兄たんが、、みんなが元気でっ、、良かった!」

「そうか、」


 エルマンノはオリーブの元気な言葉に、思わず微笑む。その姿を、ネラは見つめながら小さく呟く。


「...凄いなぁ、、やっぱり、みんな、」

「何言ってるの。貴方だって、凄い」

「え、?」

「ああ。その通りだ。ネラも、、よく頑張ったな」

「う、ウチは頑張ってないよっ!みんなみたいに、苦しい思いもしてないし!元々っ、ウチがあのままついて行けば良かった話だしっ!」

「苦しい思いをしてないって、、本当か?」

「えっ」


 フレデリカとネラに、エルマンノは割って入り、そう告げる。


「痛くはなくても、その記憶は残るし、恐怖なんだろ?」

「っ」

「...なら、同じくらい怖かったはずだ。表情も変えられない。動けない。そんな中、何も出来ない中、一人で連れ去られて、怖かった筈だ。だからこそ、花火で俺達に居場所を教えてくれたんだろ?」

「そ、それは、」

「それに、自分の気持ちに気づいて、勇気を出して声を上げ、向き合って、そして、空に飛び出したんだ。それを頑張ってないなんて、、謙遜し過ぎじゃないか?」


 エルマンノの、優しく放つそれに、ネラは声を掠れさせながら、エルマンノの名を呟く。すると。


「そうだよっ!ネラッ、凄くカッコよかった!」

「まあ、大袈裟だけど、、頑張ったのは事実」


 オリーブと、フレデリカもまたそれぞれ口にする。


「俺の妹は、みんな頑張り屋さんなんだ。頑張って頑張って、、挫折したり、辛くなって諦めたり、逃げ出したり自分に嘘をついたり、頑張っても上手くいかなかったり頑張っても出来なかったり、言いたくても言えなかったり。そんな感じで、上手くいかないことだらけだけど、俺の妹は共通して、努力してるんだ。そう、ネラも、俺の妹だ」

「っ」

「花火、綺麗だった。ちゃんと、大きかったぞ」


 エルマンノの、その一言に、ネラは嗚咽を零しながら、掠れた声だったものの、元気に答えた。


「それっ、超アガるっ!本当にっ、、マジッ、ありがとね!兄ちゃんっ!」


 表情の変わらないクマのぬいぐるみ。だがそれが、満足げに、満面の笑みを浮かべて見えた。

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