第36話「夏祭り人形窃盗事件」

「あれ?エルマンノ、?どうしたの?」

「ん?っ!お、おおっ、間に合ったのか」


 森の中、アリアとオリーブ、ネラで歩く中、目の前からエルマンノが現れ声を漏らす。


「に、にしても、、す、凄いな、」

「えっ、、あっ!そうそう!この浴衣っ!オリーブちゃんのところで借りてきたの!この間お面付けるなら〜って話してたから!さっきまではフード付きのマント上から着てたんだけどさ。まあ、ちょっと、師匠にも見てもらいたかったし、脱いだんだけど、、どう、、かな、?」

「凄く似合ってる。オリーブといい、やはり、浴衣似合うな」

「っ!そ、その目、、もしかして胸見て言ってる、?」

「全体的にだ」

「それってスタイル良く無いって話になるけど!?」

「別に胸が大きくなく、尻も大きく無い方が浴衣が似合うだなんて言ってないと思うが」

「その二つが出て来るだけで確信犯だから!」

「オリーブも、昨日のイアリングつけて来たんだな」

「うん!ラディアとお揃いだから!」

「ネラも、可愛い。やはり、俺の目に狂いは無かったな」

「えぇっ!も〜、そんな事言っても何も出ないよ〜」

「いっぱい出してくれていいんだぞ。我慢するな」

「エ、エルマンノが言うと卑猥、、というか、それ狙ってるでしょ、」

「にしてもアリア、オリーブのところから借りてきたからか、やはり露出が多いな」

「えぇっ!?こ、これちょっとそういう衣装なの!?」

「肩と脇が出てるところがポイントだな」

「ちょっ!へ、変な目で見ないでよ!」

「目に焼き付けておかないとな。それに、顔はお面つけてるのに肌は出してるなんて、余計に唆る」

「っ!ま、まだ、、つけてないし、」

「アリアの可愛い顔を出しての浴衣は見納めかもしれないし、もう少し見させてもらうよ」

「かっ!...か、可愛いって、、言うなし、」

「むー!」

「勿論オリーブの可愛さは限突してる。それに、今日はイヤリングでカッコ良さも出てるぞ」

「ほ、ほんと、?」

「ああ。大人な女性感がある。フレデリカっぽい」

「や、やった!」

「それよりエルマンノ、フレデリカのところ行かないの?私達向かってるところなんだけど」


 アリアは、フレデリカの実験室の方向から来たエルマンノに、そう切り出す。


「ああ、実は色々あってな。今フレデリカはお父さんといい感じなんだ」

「えっ、、そ、それって、パパ活って事、?」

「違う。本当のお父さんとだ。というかこっちの世界にもあるのかそれ、」

「じゃあ、邪魔しちゃ悪い、かな?」

「ああ、オリーブ。その通りだ。って事で、俺達は一足先に花火大会行っておこうって事になった。俺の中だけでだが」

「あーねっ!とりま、そろそろ始まりそうだし、先行っとこっか!」


 エルマンノの言葉に、ネラは元気に放つと、皆もまた頷き、足を進めた。


          ☆


「おおっ、やってんねぇ!なんか超アガる!」

「昨日より多い感じするな、、やっぱ、祭りは夜に来たがるみたいだな」

「うぅ、、人多いなぁ、、わ、私浮いてない、?」

「大丈夫だ。足は着いてるぞ」

「そ、そういう話じゃないから!」

「あっ、あれなんだろっ!あっ、あれも面白そう!あっ、あれアリアのお面じゃない?」


 会場に着くと、そこは昨日よりも人の数が多く感じた。それにテンアゲするネラと疲れを見せるエルマンノとアリア。対するオリーブは元気にはしゃいでいた。


「おお、お面屋さんか、、良かったなアリア。これで、昨日よりおかしくないぞ」

「よ、良かったぁ、、って!昨日はおかしかったの!?」

「ああ。明らかに浮いてたな」

「ちょっ、なんでもっと早く言ってくれないの阿保ぉ!」

「それにしても昨日とは違う屋台が多いな」


 エルマンノは、話を逸らしながら見渡し、そう呟く。そこには昨日無かったお面屋を始め、輪投げ風の店や魚すくいなど、前世風の出店が揃っていた。今回はアルコールなどを始めとした飲食店が少ない分、アトラクション系の店が多い印象だ。


「ねぇねぇお兄たん!私あれやってみたい!」

「おお、、あれは射的か。よし、やるか」


 そうそうこれこれ。これなんだよなぁ。エルマンノはそういう様に微笑む。妹にせがまれながら射的で欲しいおもちゃを取る。これこそ理想のシチュエーションである。


「これで」

「まいど!」


 エルマンノは支払いを済ませると、キョロキョロと周りを見渡す。


「どうされました?」

「あの、、銃は、?」

「銃なんて物騒な。そんなもの無いですよ」

「え、?じゃあ、あれはどうやって?」

「ここにある魔法の輪を付けていただいて、水を飛ばしてあそこの景品を倒してもらいます」

「おお、なるほど。流石ファンタジー」

「この魔法の輪は魔力固定のものです。魔力が多い人も、少ない人も、同じ量の、同じ勢いの水分しか飛ばせません」

「つまり、不正は出来ない、か、」

「お兄たん!あのうさぎさんとって!」

「ん?ああ、あの殴られてそうな兎のぬいぐるみか」

「な、殴られ、?」

「こっちの話だ。ピンクのうさぎでいいんだな?隣の黒いうさぎじゃなくて」

「うん!ぴんく!」

「黒いウサギはお母さんの形見だもんな」

「な、何それ、?」

「こっちの話だ。オリーブはやらなくていいのか?」

「お兄たんの先見たい!」

「承知」


 エルマンノは本来ならば妹が何回か行って取れない時に泣きついて欲しかったのだが、兄が見本を見せる。それもありかと目つきを変える。


「いざっ!」


 エルマンノは三回程水分を固めて放った。が。


「あー、惜しいねぇ。残念!また挑戦してね〜」


 おかしい。普段から魔法を放っているはずだというのに。最近森での訓練を怠っていたからか。はたまた入院生活が長かったからか、クソエイムをかました。


「こっ、、これは罠だっ!」

「不正を疑われてもねぇ、」

「エルマンノ、、苦しいよ」

「クッ、」

「む、難しいんだね、」

「オリーブも、やってみるか?これは詐欺だぞ」

「詐欺とは心外な、」

「うん!やる!」


 エルマンノはオリーブにこの難しさを体験してもらおうと腕輪を渡す。と。


「やった!やったよお兄たん!」

「凄いじゃないかオリーブ!流石は俺の妹だっ!」


 なんと、平然と成功させてしまった。表向きにオリーブにそう声を上げたのち、少し下がってネラを持つアリアに耳打ちする。


「ま、これが狙いだったんだ。兄が先やって、取ってしまっては味気ないだろ?」

「エルマンノ、、苦しいよ」

「アリアはボットになったのか、?」

「何それ、」


 エルマンノの苦し紛れの発言を全て否定するアリアにそう放つと、元気そうに、ウキウキでウサギのぬいぐるみを抱きしめるオリーブに血を吐き出す。


「ごはっ」

「えぇっ!?どうしたの!?大丈夫!?」

「ああ、、とうと、すぎ、る、」

「てぇてぇなぁ」


 エルマンノとネラはそれぞれ召された。と、そののち。


「それにしても、オリーブ。ウサギ好きだったのか?ぬいぐるみなんて、珍しく無いか?」

「うん!その、ネラ、友達、欲しいかなって、その、少し虚しい時、あると思うから、、たまに、元気ない時とかあるし、」

「っ!オ、オリーブちゃぁんっ!マジ天使!マジきゃわぁ!ありがとう!超ありがとう!大切にする!抱き枕にする!ウチウサギ大好きぃ!でもオリーブちゃんもっと好きぃ!」

「えへへっ、良かったぁ、、ごめんね、先に聞いてからの方が良かったよね、、ウサギ好きかも分からないのに、」

「ううんっ!ほんとっ、、ほんと、、ありがとう、」


 ネラのその声は、掠れていた。その様子に、エルマンノもまた微笑んだ。きっと、オリーブも同じ気持ちだったのだろう。詳しい事は知らないし、話していない。だが、ネラが妖精な話は聞いていたし、大変な事になっているのも分かっていたのだ。その中で、誰よりもマロンのネラと長い時間を共にしたからこそ、分かることがあったのかもしれない。エルマンノはそんなことを改めて実感して目の奥が熱くなった。

 その後も、昨日と同じ様な出店も出ており、軽く買い食いをしたり、雑貨を見たりした。その最中で、エルマンノはまた誰かを捜す様に見渡していた。すると、それに首を傾げながらアリアが口にした。


「どうしたの?」

「いや、ラディアが居ないなと」

「うん、、私も、さっきから探してるんだけど、、見つからない、」

「獣族の目で見つからないんだ。俺は絶対見つからないだろうな、」


 エルマンノはそう呟くと、ふとそうか、と。目つきを変え、耳に手を当てる。


「エルマンノ?どうしたの、?耳鳴り?」

「いや、ラディアは一応魔力が戻ったんだ。ソナーを送れるはずだ」

「っ!そっか!」

「...っ!繋がった!聞こえるか!?ラディア?」


『えぇ?なぁにぃ、どうしたの突然ソナーなんて送ってぇ、ラディアちゃん居ないよ〜』

「何故ソフィが出るんだ?」

「え!?ソフィに繋がったの!?」

『え〜、普通に私に送ってきたんじゃないのぉ?』

「っ!」


 エルマンノはそこまで放ったのち理解する。そうか、そういうことか、と。


「やられた、」

「え?どゆこと、?」

「ラディアの魔力はソフィのを分け与えて馴染ませたものだ、、つまりソナーを送るために感知する魔力は二人とも同じってわけだ、」

「あ〜!なるほど!...ってぇ!ならどうするの!?」

「いや、原理で言えば、普通なら二人に繋がるはずなんだが、、ラディアは忙しいのか、?」

『ラディアちゃんに何かあったの?』

「いや、、分からない、、とりあえず、悪かった。突然ソナー送って。ラディアはただ忙しいだけの可能性あるから、気にしなくていいぞ」

『ちょっ、それ一番気になるって!』

「よし」

「え?解除したの?」

「ああ。まあとりあえず、もう少し待ってみよう」

「え、エルマンノがいいなら、、いいけど」


 アリアは、腑に落ちない様子で呟く。それはそうだ。ソナーが繋がらないのは、意図的に拒否しているか、魔力が減っているか、応えられない状態かのいずれかである。故に、心配するのは無理はない。だが、エルマンノはラディアにネラの事を頼んでいるのだ。もしかすると色々と面倒な事になっている可能性が高い。他のみんなに心配かけずに上手く迎えに行けないかとエルマンノは考える。と、その時。


「あっ、お兄たん!あれっ、やりたい!」

「ん?おお、フィッシュすくいか」

「うん!」

「オリーブなら取れそうだが、、取ったらちゃんとお世話するんだぞ?」

「うん!大丈夫!ちゃんとお世話出来るよ!」

「え!私もやりたい!」

「アリアもか?珍しいな。興味あるのか?」

「私どんな風に見られてるの?ちゃんと興味あるから!凄く美味しそう!」

「フィッシュすくいを食料調達として見ないでくれ、」


 オリーブがはしゃぎながらお願いする横で、ヤベェことを話すアリア。エルマンノは慌ててオリーブの耳を塞がなくてはと身構えたものの、耳が四つあるので不可能であった。

 その後も、今日だけの出店を周りながら、ラディアを待つ事、数十分が経った。と、その時だった。


「あれ、?お兄たん、、ネラは、?」


 ふと、トイレから戻ってきたオリーブが不安げに口にした。と、それに。


「ん?あれ?アリアが持ってたんじゃないのか?」

「えぇっ!?いや、さっきエルマンノ持ってってたじゃん!」

「え、」


 エルマンノは、目を剥く。先程、エルマンノとオリーブは共にトイレへと向かった。その時は、確かにエルマンノが持っていた筈だと、アリアは放った。


「いや、、トイレ行く時に、ここに置いておくからって、」

「え、?み、見た時に、、無かったから、持って行ったんだと、、思ったんだけど、」

「「っ」」


 アリアの言葉に、エルマンノとオリーブは目を剥く。


「ま、まさか、、ありえない、、この、一瞬の隙に、?」


 エルマンノは冷や汗を流す。明らかにトイレには持って行ってない。寧ろ、ネラを男子トイレに持っていくのは色々と問題である。故に、アリアに預けようと、隣のベンチに置いた筈だというのに。


「ご、、ごめん、、私、ずっとここに居たのに、」

「いや、、何か、魔力を感じる、、何かの魔法を使って、隣に居たアリアに気づかれずに持って行った可能性が高い、」

「そ、、それって、」

「ああ。ネラは、、誘拐されたんだ、」


 エルマンノは、またか、と。頭を押さえる。どうしてこうも、不注意なのだ。そう、エルマンノは不甲斐ない自身に憤りを見せる。その後、慌てるアリアとオリーブに、エルマンノは目つきを変えて口を開く。


「大丈夫だ。さっき魔力を感じるって、言っただろ?」

「え?う、うん、、言ったけど、」

「それなら、魔力探知が使える。普通にしていたら発生しない量の魔力を探知すれば、」


 エルマンノは、そう口にして、その魔力を検知する。と、この感じ。どこかで感じたことがある。そこまで前では無かった筈だ。いや、寧ろ先程といったレベルである。エルマンノはそう考えたその時、ハッと。この魔力の正体に目を剥く。


「っ!」

「ど、どうだった、?」

「...嘘だろ、」

「お、お兄たん、?」

「この魔力、、さっきの、」

「「え?」」


 エルマンノの呟きに、二人は首を傾げる。そう、その魔力の正体。それは、先程フレデリカの家に現れた、セオとガレスのものだった。


「これは、、まずいな、」


 先程我々を脅すために魔力を最大限に放ったばっかりがために、僅かな魔力でもそれを検知する事が出来た。

 恐らく、どこかでネラの事を見つけたのだろう。話すぬいぐるみだ。あの連中が目をつけない筈ないだろう。故に、その跡をつけ、隙を見て誘拐した可能性が高い。


「クソッ!」


 エルマンノは、思わず声を上げ、探索を始める。フレデリカの自宅を特定した時と同様、魔力検知したものと同じ魔力を探す。が、しかし。


「チッ、、マジか、」


 思わず舌打ちが零れる。ここは祭り会場のど真ん中。魔力のあるものが大勢居るのだ。魔力が分散して定まらない。


「エ、エルマンノ、?」「お兄、、たん、?」


 二人が、歯嚙みするエルマンノを不安げに覗き込む。それに、いけないと。エルマンノは首を振り息を吐く。


「わ、悪い、、ちょっと、、取り乱したな、」

「エルマンノ、、誰が誘拐したか、、分かったの、?」

「ああ。でも、場所は特定出来ない、、魔力が分散してて、」

「でっ、でもっ、エルマンノがトイレ入ってる間だから、、そう遠くは行ってないんじゃない?」

「いや、、かなりの魔力量だ、、飛んだり瞬間移動の魔法を使って移動してる可能性は高い、」

「そ、、そんな、」


 オリーブが力無く声を漏らすと、そののち。


「わ、私がっ!見つける!」


 オリーブは、獣族の視力をフル活用して怪しい人物やぬいぐるみを持った人物を捜す。


「ありがとう、、オリーブ。俺達も負けていられないな」

「う、、うん!」


 エルマンノがオリーブの様子に微笑むと、改めて二人もまた捜索を始めた。

 が、しかし。


「クソッ」


 あれから既に二十分が経っても尚、見つかりそうにない。


「エッ、エルマンノッ!ごめん、、こっちも、、見つからない、」

「クッ、、まずいな、、このままだとどんどん捜索範囲が広がっていく、」


 エルマンノが、時間が経てば経つ程相手も移動する事に冷や汗を流した。と、その瞬間。


「「っ!」」


 ボンッと。突如大きな音と共に空には綺麗な花火が上がる。それに、会場は声を上げた。


「は、始まったか、」


 エルマンノは更に焦りを見せる。マロンのネラだけではない。ネラを連れて来るラディアの事も心配して。


「クソッ!とりあえず、今は探すしか方法はないっ!アリアは、この会場でぬいぐるみを持った奴が居ないか捜しながら、ラディアの事も捜してくれ!」

「えっ、わ、わかったけどっ、エルマンノはどうするの?」

「俺は、会場の外を捜す!」

「で、でもっ!そしたら、私達も逸れちゃうんじゃ、」

「大丈夫だ!大切な妹を見つけられない筈ないだろ!」

「でもっ、ネラは、」

「ネラも大切な妹だ!絶対に見つける!アリアも、絶対に見つけるから、安心してくれ」

「わ、分かった、、気をつけてっ!」


 エルマンノは、駆け足で振り返りながらアリアに告げると、二人はそれぞれ捜索を始めた。

 それから、更に十分程が経過した。だが、未だにそれらしき人物は見つからない。それだけで無く、ラディアもである。


「な、、何か、、あったのか、?」


 エルマンノは、ネラの説得をラディアに頼んだ事を、負担を与えてしまったと後悔しながら、拳を握りしめる。


ー先に、、ネラの家に行ってみるかー


 このまま見つからないのならば、と。エルマンノは逆にネラの方に足を運ぼうとした。

 が、その時だった。


「なんだあれ」

「なんかかわいい〜」

「失敗かな?」

「え、」


 ふと、会場の外から花火を眺めている人達の言葉が気になり、花火に目を向ける。そういえば、全然ゆっくりと花火を見られていない。このままだと、花火大会が終わってしまうのではないだろうか。妹達と花火を見る。それは、エルマンノだけではない。ネラの楽しみでもあったのだ。そして、もう一人のネラに見せたかった景色。エルマンノはそれを再確認して、早く見つけ出さなくてはと焦りを感じる中、ふと。

 ボンボンと上がる花火の後ろ。何やら小さく、可愛らしい小さな花火が僅かに見えた。


「えっ何あれ可愛い!」

「なんか変なとこから出てる〜」

「っ!」


 街行く人達の言葉を聞き流しながら、エルマンノはその花火に目つきを変える。今まで花火なんてしっかりと見ていなかったから分からなかった。いや、というより会場では丁度隠れていて見えなかったのだ。その、隠れていた小さな花火にエルマンノは気づき、足を止める。


「...まさか」


 エルマンノは、思い当たる節があった。あの花火は、初めてみたものでは無かったからだ。最近見たものだ。そう、つい先程。今日見たのだ。


「嘘だろっ」


 エルマンノはそう声を漏らして来た道を戻る。ならば、もし予想が当たっていたら、やらなくてはならない事がある、と。


「はぁ、はぁ、、はぁ、はっ、はぁ」


 エルマンノは会場に戻るや否や、懸命に捜す。今度は、アリアを。すると。


「あれっ、エルマンノ?会場の外見て来るって、、も、もしかしていなかったの?」

「いや、それにしては諦め早すぎるだろ、」

「確かに、、なら、どうしたの?」

「...ちょっと、状況が変わったんだ。アリア、一つ、頼みがある」

「え!?」

「アリア、、アリアにしか、頼めないことなんだ、」

「えっ、えぇぇっ!」


 肩を掴んで詰め寄るエルマンノに、アリアは顔を赤らめながらそう声を漏らすと、彼はそれを告げた。


「え、、それって、」

「ああ。頼む。アリアなら、場所も分かるだろ?」

「っ!...分かった!」


 エルマンノの言葉に、アリアは目を見開いたのち、元気に頷くと、突如踵を返し走り出す。と、その後、エルマンノは改めてオリーブを捜す。


「っ!お、おぉーいっ!オリーブ!」

「あっ、、お、お兄たん、、ごめんなさい、、み、見つからない、」

「いや、、それは大丈夫だ。ちょっと、状況が変わった。オリーブ、、ちょっと、怖いかもしれない。辛い思いをさせてしまうかもしれない、、でも、一緒に、、来てくれるか、?」


 エルマンノは、オリーブに目線を合わせながら、優しく肩に手をやり、だが表情はしっかりと、真剣に告げる。と、それにオリーブはアリアの時と同じく目を見開いたのち、元気に微笑んだ。


「うんっ!お兄たんと一緒ならっ、何も怖くないよ!」

「っ、、そうか、、強いな、オリーブは」

「強い、、かな、?」

「ああ。でも、俺もオリーブが居てくれれば何も怖くない。絶対、オリーブはお兄ちゃんが守る。だから、行こう」

「うんっ!」


 エルマンノは強い意思と共にそう放つと、オリーブの手を取って「その場所」へと、向かった。


          ☆


「おお、、凄い、まだ出来るのか」

「んんっ!んんっ!」


 街外れの廃墟。そこに一度連れて来られたマロンのネラは、懸命に魔法を放ち続けていた。それを、物珍しそうに見つめる二人の男性。


「はぁ、、はぁ、」

「そろそろ限界か?」

「んんっ!んんっ!」

「おお、まだ出来るみたいだ、、このぬいぐるみ。魔力は十分にあると思われるな」

「それよりこの異様な魔力の感覚、、何処かで感じた事がありますね」

「どちらにせよ、異質なものである事には変わりない」


 二人がそう会話を交わすと、今尚魔法を放ち続けるぬいぐるみ。ネラに、彼らは近づきしゃがみ込んだ。


「きみ、喋れるんだろ?ちょっと、聞かせてくれないかな?」

「...」

「ぬいぐるみのフリしてもダメだよ。さっき、実は聞いちゃったんだ。君が、話してるところ」

「っ」

「ほら、ちょっと聞こえた。別に何かしようって話でも無いんだ。話を聞かせてくれないか」

「んんっ!んんっ!」


 話してる二人を無視し、ネラは魔法を放ち続ける。それも、"上空"に、だ。だが。


「いい加減にしろ。我々も暇じゃ無いんだ。別に君の事を調べたら帰るよ」

「...う、、あ、貴方達、、どちら様なんですか、?」

「おおっ、喋りましたよ」

「フッ、やっとか、、申し遅れました。私、セオと申します」

「私はガレスです」

「グレイブ王国の騎士団長を行っているものです」

「グレイブ、王国、?」

「隣の国です」

「ど、ども、」

「はい」

「なんだか、人と変わりなさそうですね」

「面白い。もう少し探ってみよう」


 彼らの言葉にまるでお辞儀をするかの様に放つネラ(ぬいぐるみ)に二人は興味深そうに頷く。


「先程の人達が、貴方の所有者ですか?」

「そうです、、だからっ!早く返してください!いくらぬいぐるみだからって、立派な犯罪ですよ!」

「そ、それを言われると痛いですね、、ですが、貴方は素晴らしい。もしかすると、グレイブ王国の力になれるかもしれません」

「えっ」


 僅かに声が高くなった。それを聞き逃さなかったセオは、更に詰め寄る。


「はい、貴方は特別ですよ。他のものにはない力がございます。是非、我々とご同行願います」

「そ、、そう、なんですか?」

「はい。それは勿論」

「私、、力に、なれるんですか?」

「はい。その特殊な魔力、、是非参考にさせていただきたくーー」

「「「っ!?」」」


 セオがそこまで放ったその瞬間。バンッと。大きな音と共に廃墟のドアを開けて、二人の人物が現れた。


「貴方は、、っ!」

「先程ぶりですね。妹を、返してもらいます」

「な、何を言ってるんですか、」


 そこには、エルマンノとオリーブが居た。その姿に、鋭い目つきを送る二人。


「そこのクマのぬいぐるみ。その子も、俺の妹だって言ってるんだ」

「何を馬鹿なことを」

「話したの、、聞いたんですよね?」

「「っ」」

「なら、分かる筈です」

「...まさか、、この異質な魔力、、そうか、」


 エルマンノの真剣な声音に、二人は察する。これは、精神転移魔法だということを。


「精神転移魔法、、そんな、魔法、普通の人間が行える筈ない、、これは、大発見だ」

「俄然興味が湧きますね。この子は、我々が一度預かります」


 セオが零す中、ガレスがネラを持ち上げ踵を返す。が。


「ふざけないでください。いくらぬいぐるみでも、話したのを聞いて、利用しようと持ち出したんですよね?」

「り、、利用、?」

「利用とは心外な。...我々はただ力を貸してもらおうとしていただけです」

「ぬいぐるみだからって、立派な誘拐ですよ」


 震える手足。後ろに隠れるオリーブに悟られないよう、懸命にエルマンノは強く放った。それに。


「さっきから邪魔ばっかしてんな。お前さん」

「何、?」

「フレデリカさんの件だけならまだしも、このぬいぐるみは嫌だと言っていないですよ。寧ろ、力になれることに希望を抱いていました」

「...」


 セオの言葉に、エルマンノは口を噤む。それに対し、何かを確信した様に。


「そうか、、なるほどな、、ネラ。ネラは、、ただ怖かったんだな」

「えっ」


 ふと、エルマンノが優しく放ったそれに、ネラは勿論。オリーブやセオ達も目を見開いた。


「みんなに、、認められたくて、、でも出来ない自分が、、辛かったんだ」

「っ」

「...学校でも、、キツかったか?」

「っ、、う、うん、」

「そうか、、良く、頑張ったな」


 エルマンノは、近づき頭を撫でようとするものの、割って入るセオを睨みつける。と、その時。


「そうっ、、辛かった、、怖かったよっ!でも、、それを話すのも、、怖かった、」

「ああ。ネラは、、優しい子だ。優し過ぎて、理不尽に飲まれるタイプのだ。それを受け入れて、受け止めて、吐き出さずに胸の内で懸命に押し殺すことしか出来なかったんだ」

「っ!うっ、!うんっ、」


 掠れた声で、ネラは声を上げる。恐らく、泣いているのだろう。涙は、出ないが。

 するとその時、ふとオリーブがエルマンノに後ろから近づき、裾を引っ張る。


「ね、」

「うおっふ、、妹に、裾を引っ張られた、、だと、?」

「え?う、うん」

「ありがとう。オリーブ」

「え?あ、どう、いたしまして、?」

「それで。どうしたんだ?」

「そ、それはこっちの台詞だよ!その、な、なんの、、話、?ネラの事、、私も、もっと知りたいよっ」

「...それは、、本人から聞いた方がいい。俺から言っていい話じゃない、、いや、本人も、言いたくないことかもしれないが、」

「ううん、、いいよ。ね、、オリーブちゃん。...ウチ、期待されてたんだ、、両親どっちも、凄い魔力を持っててね、、妖精の中でも、、特に凄かったんだ、、でも、ウチは、、ウチはさ、」

「ネラ、」

「何、?妖精といったか、?」

「これは、妖精の精神を移動したという事か、、ならば、この魔力にも納得だ」


 ネラの言葉にエルマンノが小さく呟くと、妖精という言葉にセオとガレスは目を輝かせる。だが、そんな中でも尚、ネラは続ける。


「きっと、、親は失望したんだ、、きっと、」

「でも、、仲、良かったんだろ、?昔は。そう聞いた。多分、花火大会も、、昔行ったのは、家族とだったんじゃないのか、?」

「そうだね、、そう、、でも、段々と駄目になった、、最初の頃は、優しかった。花火大会で、花火を見て、約束したの。...ウチも、大きな花火、、これくらい出せるくらい、魔力を、持つって、、でも、いくらやっても出来る様にならないウチを見て、、多分、幻滅したんだ、」

「...」「...」


 エルマンノとオリーブが、表情を曇らせてそれを聞き入れた。すると、そののち口を噤んでいたオリーブは、目つきを変えて意を決し足を踏み出し告げた。


「分かるよ、、私も、、そうだった」

「え、?」

「色んな人に助けてもらって、、それなのに、何も出来なくて、悔しくて、、辛くて、いつも怒られた、」

「怒られたのは、、あれは天候のためじゃないか、?」

「それもだよ、、私が、上手くお天気を操れないから、、お兄たんにも、迷惑かけたの、、それが、苦しかった、、だから分かるよ。やりたいのに、出来ないの、、辛いよね、」

「...」

「オ、オリーブ、ちゃん、」


 ネラが、オリーブの言葉に呟いた。その瞬間。


「悪いけど、もうそろそろ、、こちらも時間がないんだ、、話は、後で出来る、、少し、こちらの国へと一度来てーー」

「いやっ!」

「「「「っ!」」」」


 割って入ったセオに、ネラは声を上げる。その様子に、その場の全員が目を剥いた。


「た、確かに、、こんなウチでも力になれるって、そう言ってくれるのは嬉しい!ウチの、存在意義が、、やっと見つかったって、、思った、」

「な、なら、」

「でもっ!ウチ、もう、いいの」

「何、?」

「凄い悩んで、、辛くて、苦しかった。...でも、なんか全部吹っ飛んだわ!」


 その場に、沈黙が訪れる。何を言っているのだ、と。


「元々、何も出来ない。この体になって、もっと何も出来なくなった。...でも、そんなウチでも、みんな、受け入れてくれた、、何も変わらず、接してくれた!」

「っ、、ああ。勿論だ。どんな姿だろうと、俺の妹だ」

「うんっ!...だから、もう大丈夫!ウチ、このままでもいいんだって!思えたから!」

「...」


 笑顔であろうネラ、優しく微笑むエルマンノ。良かったと、元気に笑うオリーブ。その中で、歯嚙みした。


「ふざけるな」

「っ」

「...さっきから、、俺達の邪魔っ、しやがって!」


 セオは、そう声を上げると同時、魔力を最大限に引き出してエルマンノに向かった。


「フレデリカさんの時みたいにいくと思うなよ。もう、こっちも後がないんだ。このまま、このぬいぐるみは連れて行く」

「おおっ、二度目の本性、現したな!」


 エルマンノは、そう声を上げると同じく構えた。


「悪いが、妹を渡すわけにはいかない」

「ハッ、このっ、シスコンがっ!」


 互いに向かう中、エルマンノの震えた手を見据え、ネラは険しい表情を浮かべた。


「エルマンノ君、」


 その、圧倒的な魔力差を目にしたネラは、そう、力無く声を漏らしたのだった。

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