第33話「妹達と夏祭り」
「もう!何で起こしてくれなかったの!」
「まだ言うか、」
あれから数十分が経ち、アリアは支度をしたのち、エルマンノの病院に付き合い。とは言え外で待ってたのだが。そののちネラと三人で王国に向かっていた。
「オリーブちゃんの勝負服、、見たかったのに、」
「ふっ、それは兄の特権だ。まあ、現地で見られるから、もう少しの辛抱だな」
エルマンノは、自身のみが見ているという優越感に浸りながら、ニヤニヤとそう放った。
「そこまで言われると、期待しちゃうなぁ」
「ハードルを高くしても超えてくるぞ。オリーブだからな」
「運動神経いいしね」
「獣族だからな」
「それよかさ、どこ向かってる感じ?会場こっちじゃなくない?」
アリアとエルマンノが話す中、ふとネラが割って入る。
「ん、ああ。先にアリアのお面と、深く被れるフード付きの服を探しに行こうと思って」
「なるほどねっ!だから人通りも少ないところで買い物なわけだ!」
「ごめんね、付き合わせちゃって、」
「全然オッケーだよ!それに、ウチはこうして景色見るの楽しいし、人通り少ない方が、エルマンノ君もぬいぐるみ持ってるヤバいやつって思われる確率低いっしょ?」
「エルマンノはぬいぐるみ持ってなくてもヤバいやつだからあんまり気にしなくていいと思うけど、」
アリアの返しに、エルマンノは何故か無言で頷くと、ふと口にする。
「それとネラ、もう妹なんだ。お兄ちゃんと呼んでくれていいんだぞ?」
「あ、あはは、あーねぇー、」
「エルマンノのこれは聞かなくていいから。私だってエルマンノ呼びだし」
「だが、、エルマンノ君は流石に他人行儀過ぎないか、?」
「なら、ヴァラントラ君って呼んでいい?」
「もっと遠ざかってるぞ。というか、何で知ってるんだ。俺ヴァラントラって言ったか?」
「アリアちゃんから聞いた!」
「アリア、、逆によく覚えてたな、」
「えっへん!一応記憶力はいいから!」
「記憶力だけな」
「なっ、ムッカァ!だけとは何!?」
「ならやっぱエルマンノ君かな」
「お兄ちゃんと呼んでくれ」
「エルマンノ君ね!」
「えぇ、なんでだよ、」
エルマンノがそう声を漏らす中、服屋がところどころに現れる。
「っと、どこかありそうなとこあるか?」
「うーん、、あ!あそこなんか可愛い服多いっ!」
「お、おいっ!趣旨を間違えるなよ!?」
アリアは、そう見渡すと、ふと気に入った服屋が見つかったのか、そちらへと近づいて行く。今回は仕方がないのでエルマンノが奢るという話になったが、「奢る」と言うとアリアは危険である。それにエルマンノは息を吐きながら歩みを進めていると、その時。
「ワンワンッ!」
「ん?」
ふと、こちらに犬がやって来た。首にはリードが付けられている。恐らく、散歩中に逸れたのだろう。エルマンノはそう思い、しゃがみ込もうとすると。瞬間。
「フンッ!」
「なっ!?」
まさか、まさかな。エルマンノは力んだ犬のそれに目を見開きながらも、恐る恐るしゃがみ込む。すると。
「俺は電柱じゃねぇ!」
まさかの、文字通り。フンをされた。
「あははっ!ウケるっ!そんなっ!ははっ!確率っ!ははっ!マジッ、あるん!?」
「笑い過ぎだ。おいおい、、ズボンにはねてるぞ、、どこのワンコロだ、?」
エルマンノが渋々その犬を持ち上げようとすると、その時。
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
パタパタと、遠くから女性。...いや、女児が現れた。緑がかった黒髪の、ツーサイドアップのロング少女だ。恐らく、この犬を散歩させていた子だろう。なるほど、と。エルマンノは呟く。この小ささなら、犬に負けるな、と。
「もう!駄目でしょ!...あの、本当に、すみません、、ご迷惑、かけて、、っ!」
その少女は、ワンちゃんを抱き寄せると、そこに見事な糞が置いてある事に気づき顔から血の気が引いていく。
「ご、ごめんなさいっ!あの、えとっ、本当に、、すみませんっ!ズボン、、弁償しますから、、えと、」
「便だけにか?」
「は、?ああ、えと、す、すみませんっ!本当にっ!」
焦って言葉がまともに出て来ていない様子だ。エルマンノはそんな彼女に怖がらせまいとしゃがみ込み、笑みを浮かべて、ずっと言ってみたかったそれを放った。
「悪ィな、おれのズボンがウンコ食っちまった。次ァ小の方をするといい」
「は、?へ、いや、、あ、あぁ、、ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
「なっ、ちょ、」
何故か、逃げられた。
「あははっ!ははっ!はははっ、死ぬっ!マジッ、ははっ、何で超意外みたいな顔してるのっ!?逃げられるのっ、当たり前じゃんっ!はぁ〜、、腹痛、」
「大丈夫か?生理か?」
「はははっ!違うっ、腹筋だよ!」
改めて俯瞰してみると、確かにこれは恐怖かもしれない。ぬいぐるみが喋ってるし、それを持ってるし、台詞意味分からんし。
「どうしたの、?あんまり騒ぎ起こさないでよ、」
「大丈夫だ。ちょっとズボンが臭くなっただけだ」
「えぇっ!?な、どういう状況!?」
エルマンノが例のものが付いたズボンを、恐る恐る戻ってきたアリアに見せたのち、魔法で水洗いをして風魔法で乾かす。
「それよりも、決まったのか?買うものは」
「あ、そうそう!エルマンノ、これ欲しいんだけど、」
「おい、趣旨変わってるぞ」
アリアが連れて行った先には可愛らしいワンピースの様な服があった。
「それと、今日は最低限の金額しか持ってないからな」
「えぇ、」
「文句を言うなら買わないぞ?」
「あぁっ!う、嘘嘘っ!ごめんなさい!」
そののち、アリア達で何となく付けていても浮かないであろうお面と、フード付きの大きめパーカーの様な見た目のものを買った。うーん、これはこれでありだ。エルマンノはそう微笑みながら、フレデリカのところへと向かった。
☆
「で、こうなったわけ?」
数分後、フレデリカの家の前で予定通りお昼過ぎに待ち合わせをし、四人で出発をした。と、そんな彼女は、アリアの姿をジト目で見据えた。
「そ、そう、」
「これのどこが違和感ないの?」
そこには、ゴブリンのお面をつけて深くフードを被り、縮こまりながらポケットに手を突っ込む柄の悪い女子がいた。
「お祭りだぞ?こんなもんだろ」
「何でよりにもよって魔獣系統のお面なの?」
「マシなのが無かったんだ」
「まずお面付けてるのが浮いてるって、」
「会場ではそうでもないはずだ。それにしても、フレデリカ」
「何?」
「普段は花火を家から見てるんだよな?」
「そう」
「祭りにも行かないんだろ?」
「そう」
「やけに気合が入ってるな」
そこには、オリーブと同様和服風の服を身に纏い、ナチュラルメイクを施している感じに見えるフレデリカが居た。
「うんうん!ウチもそう思った!マジかわちぃ!」
「別に、、たまには、って思っただけ。それに、、アリアがもしお面付けて浴衣とか着て歩く時、、その、浮かない様に、しようと、」
「ふ、フレデリカッ、、う、ううんっ!師匠!一生ついて行きます!」
「親離れしなさい」
「...そうか、」
フレデリカの考えに、アリアが涙目になり、エルマンノが微笑む。というか、こっちでも浴衣って言うんだな。と、そののち。
「だが、逆に目立ちそうになってしまったわけだな?」
「そう。まさかそういう服で来て、尚且つお面つけてくるとは思わなかったの。お面つけるなら浴衣でしょ、」
「あ、、そ、そっか、」
「でもまあ、もっとおかしい人が居るから、別に気にする必要もないと思う」
「あっ、確かにそうかも!」
「それは誰の事を言ってるんだ?」
二人が息を合わせて言う中、エルマンノはジト目を向けた。すると。
「それと、なんか平然と入ってきてるけど、貴方がネラ、、って事でいい?」
「あ、え、?し、知って、?」
「悪い。どっちで紹介すれば良いか分からなくて」
「あ、そ、そっか!そうそう!ウチがネラ!貴方が、、えと、フレデリカさん?」
「こいつから聞いたの?」
「こいつて、」
「そうだね!」
「なんか変な事言ってないでしょうね、」
「自分の事が好きになれない妹が居るって」
「はぁ、あんた、」
「ま、まあ、、事実じゃないか?」
「それはそうだけど、」
「ウチもそうだから、、なんか話したいなって、」
「...なるほどね、」
「どうした?」
「やっぱり、、生き霊だったんでしょ?」
「そうだな」
フレデリカが彼女を見据え呟くと、そののちエルマンノに近づき耳打ちする。
「なら、、なんとなく理由分かるなって」
「理由?」
エルマンノが聞き返すと、改めるようにしてフレデリカは離れる。
「まあ、そういう話はお祭りの後ね。きっと、重い空気になっちゃうでしょ?」
「それもそうだね!とにかく今日はアゲていこう!」
フレデリカの提案にネラは元気に放つと、皆もまた頷き歩みを進めた。と、その先は。会場ではなく。
「で?何でここに来てるわけ?」
「一応だ」
ソフィの家であった。
そこでエルマンノはドアをノックしながら名を放つと、数十秒後、中からボサボサの毛の眼鏡女子が現れる。うん、いつもと変わらない。というか、この感じは。
「あれ〜?みんなそろってどうしたのぉ?」
「お、アルコールが入ってるな?」
「ちょっとしか飲んでないからぁ〜、ノーカンノーカン!」
「うっわ、お酒くさ、、本当に昼間から、、飲んでるんだ、」
「アリア、あまり本気で引くな」
「あ、ごめん、、露骨に、出ちゃってた、」
「ちょ〜っ、ちょっちょっちょ!さすがにそれは悲しくなるってぇ!それどぇ?どうしたの?なんか、フレデリカさんとかすっごいオシャレしてるけど」
「え、、アリアには触れないの、?」
フレデリカを一瞥して放ったそれを聞いて、フレデリカ本人は冷や汗混じりに放つ。
「実は今日のお祭りに行くところでな。前に嫌だと言ってたが、一応、除け者にはしたくなかったから、呼びに来たんだが」
「え〜、そうなんだぁ、だからみんな揃って張り切ってるんだね」
「そういう事だ」
「うーん、、でもごめんね〜、やっぱ私にはハードル高いかなぁ」
「そうか、いや、こちらこそ申し訳ない。嫌だって、言ってたのに」
「いやいや〜、全然大丈夫っ!こっちこそごめんね〜、行ければいいんだけど」
アルコール入りのソフィで駄目ならば恐らく本当に駄目なのだろう。エルマンノはそう考え、皆で行こうと促す。その中で。
「ソフィは駄目みたいね」
「まあ、あまり無理に誘うもんでもないからな」
「そっかぁ、、祭りってそんなに人多いの?」
「アリアは行った事ないんだったな。結構多いぞ。出店とかいっぱいあるしな」
「へ〜、エルマンノは行った事あるんだ」
「前に、本当に昔に一回な」
「そうなんだ、どんなお店があるの?」
「まあ、飲食、遊びどころ、飲み屋とかも、ちょいちょい出てーー」
「うへぇ!?飲み屋あるのぉ!?」
突如、皆で話す中、その一言にソフィは戻って来た。
「え?あ、ああ、、チラシにも、確か書いてあったぞ、?まあ、そんながっつりじゃ無くて、飲み歩き程度だと思うが」
エルマンノはそう放ちながら確か、と。ポケットを探し、今日のために入れて来た祭りのチラシを出す。そこには、記憶通り、アルコール店の名前も書いてあった。
「おお!本当じゃぁん!何何〜、?えっ凄っ、ここの酒は中々飲めないよ!うっわぁ!お店の酒なんて絶対飲みにいけないもんなぁ〜、美味しいって聞くなぁ」
「確かにそう言われると凄いな、、こっちでは平然とアルコールが道端で販売されるのか、、改めて考えると大丈夫なのか、?」
「その分厳重に取り締まってるから。魔力量で年齢はだいたい分かるから、それでストップかけられる人も居ると思う」
「なるほど、、でも、そしたらフレデリカはどうなるんだ?」
「私はいつも止められる」
「判断基準は魔力でも容姿でも、難しいもんなんだな。まあ、合法ロリみたいな展開で、お兄ちゃん的にはありだ」
「シスコンからロリコンにジョブチェンジしたの?」
「転職の時代だが、俺はしてない」
と、そんな会話をしていると。
「う〜、、すっごい悩むけど、、うぅぅぅんっ!ち、ちょっとだけ、、ちょっとだけ、行っていい?」
「ああ、全然いいぞ」
ソフィが覚悟を決めた様にそう放ち、エルマンノは微笑みながらそう答える。そんな中、アリアは「ちょっとだけ行くって何、?」と零しながらソフィの支度を待つのだった。
☆
「おお、、凄い賑わってるな、」
会場に到着した一同は、予想通りの人の多さに声を漏らした。
「おっえ、、や、やっぱ帰りたい、」
「アルコールが切れてきたか、」
「違法に聞こえる言い方しないで、」
「...アリアも大丈夫か?」
「だ、大丈夫、、でも、思ったより、多いなって、」
「前の大通りとは違うからなぁ。今日はお祭りだから」
エルマンノは皆と歩きながら、ある人物を探す。と。
「あ!おにぃ!こっちです!」
「お、ラディア見つけたぞ」
「あ!ラディアさんだ!」
何やら垂れ幕を取り付けながら振り返り手を振るラディアに、皆で近づく。
「フレデリカさんも来てるんですね!す、すっごい綺麗、、可愛いですフレデリカさん!」
「お世辞言っても何も出ないけど、」
「お世辞じゃないですよ!」
「う、うぅ、」
「って、えぇっ!?ソフィ!?なんでっ、こ、来れたの!?」
「おえぇ、、きっつ、」
「も〜、、ただでさえ二日酔いしてるんだから、駄目だよ、人酔いまでしたら、」
「今日限定で出店を出すアルコール店に興味があるんだってさ」
「あ〜、、確かに好きそう、、でも、それなら私が買って行ったのに」
「えぇっ!?え〜、、私の、努力はぁ、?」
「まあ、その場で飲んだ方が絶対美味いからなぁ。それに、テイクアウト出来ないものも多そうだ」
エルマンノはそう笑いながら放ち、周りを見渡したのち、付け足す。
「まあ、、無理は良くないからな。調子悪かったら直ぐに戻っていいぞ」
「え?言ってとかじゃないの?」
「言いづらいかもしれないだろ。勝手に帰っていいってルールの方が、何かとありがたい時もあるんだよ」
エルマンノは疑問を放つアリアにそう答えると、未だに周りを見渡しながら口を開く。
「それにしてもネラ、静かじゃないか?」
「え?いやぁ、その、外で話したら色々とマズいかなぁって」
「今更?」
「学んだの!」
「大丈夫だ。こんなに妹が勢揃いしてるんだ。話してても、誰の声かなんて分からないって」
エルマンノがバツが悪そうに放つネラにそう告げると、尚も周りを見渡す。すると。
「あっ!見つけた」
「え?どうしたの?」
エルマンノはそう声を漏らし、首を傾げる一同を他所に、そちらへと向かって行く。
「おーいっ!こっちだ!お兄ちゃんだぞ!」
「...?...あっ!お兄たん!」
周りをキョロキョロとしていたオリーブが、ハッとこちらに気づくと、パタパタと歩み寄る。
「えっ!?オリーブちゃん凄っ!えっ!可愛過ぎない!?」
「そ、、そうかな、?」
そこには、編み下ろしをしたオリーブが居た。これこそと言った感じだ。浴衣姿によく似合っている。
「こ、、これは、、ヤバいな、」
「ど、どう、?」
「今日は可愛い妹が多過ぎて俺の体がもたない、」
「へ、変な事しないでよ!?」
「だからしないって、」
「お兄たん、、どう、?」
「最高だ。髪で発情する奴の気持ちがわかる」
「だから絶対しないでよ!?」
「だからしないって」
赤面しながら声を上げるアリアに、エルマンノが微笑みながら返すと、オリーブもまた顔を赤らめながら「よ、良かった、」と呟いた。
「わっ、すっごい可愛いじゃん!いつも可愛いけど二乗って感じ!」
「そ、そう、かな、?」
「凄く似合ってますオリーブちゃん!すっごく可愛いです!」
「ほ、ほんと、?」
ネラとラディア、それぞれに褒められ、更に顔を赤らめるオリーブ。対するフレデリカは、エルマンノの隣で無言で見つめていた。
「どうした?口元が綻んでるぞ」
「勝手に私の表情を読み解かないで」
「可愛いって、素直に言えば良いのに」
「別に言いたくないわけじゃない、」
「可愛いって一言では言い表せないよなぁ」
「あっ、フレデリカッ!凄く綺麗!」
「えっ!?あ、そ、そう、?」
「うん!いいなぁ、、私も、そういうの着てみたい、」
「まあ確かに、オリーブは可愛い系だもんな」
エルマンノとフレデリカが二人で話している中、オリーブが割って入る。それに、フレデリカは恥ずかしそうにしながらも、「じゃあ明日、貸してあげる」と呟いた。
「え?いいの、?で、でも、、フレデリカは、?」
「私は、明日は用事があって、花火大会は来られないの。だから、、私の服で、私の分まで花火見て来て欲しいの」
「わっ、分かった!フレデリカの分までっ、楽しんでくるね!」
「妹の服を、妹が、、こ、これは、アリだな」
「ちょっとエルマンノ、視線がエロい、」
「安心しろ。アリアの事もちゃんと見てやる」
「見てほしいって意味で言ってないからぁ!」
「か、帰っていい、?」
「ん?ああ、、悪い、ソフィはそれどころじゃ無かったな、」
「ソフィ!向こうに珍しいお酒あったよ!行こ!」
「えぇ、、も、もう、帰らせてよ、」
「まだ何も見てないでしょ!」
ラディアはそう言うと、ソフィを連れて出店の方へと向かって行った。垂れ幕の準備はいいのだろうか。エルマンノはそう思いながらも、改めて放つ。
「よし。とりあえずみんな揃った事だし、俺達もそろそろ店を見て歩くか」
「オッケー!行こう行こう!」
「おー!」
エルマンノに答えてくれたのはネラとオリーブ。あれ?残り二人はどこ行ったんだ。エルマンノはそんなツッコミを入れながら、息を吐くフレデリカとアリアと共に、皆で歩き出した。
☆
「はい、ダルコ焼きね」
「わぁ!お、美味しそう!いただきますっ!は、はふっ、あ、あつ、」
「オリーブちゃん!?大丈夫!?」
「う、うんっ!お、美味しいっ!」
祭りと言えばたこ焼き。では無く、ダルコ焼きのお店にやって来た。この世界ではそう言うらしい。
「私も貰っていい?」
「うん!いいよっ、アリア!あーんっ!」
「へっ!?そ、そんなっ、駄目だよオリーブちゃん!そんなっ、あっ、あっ、んっ!...あぁっつっ!」
「な、なんと、、これは、」
「破壊力パないね」
「それよりも食べさせてもらって一言目熱いなわけ、?」
「多分、あつあつだったんだろう。二つの意味でな」
アリアが笑顔でダルコ焼きを差し出すオリーブに悶絶しながら頰を赤らめ吐息混じりの声を出すものの、その熱さにそれを忘れる。その様子をふむふむと見つめるエルマンノとネラは、それぞれ微笑んだ。
「オリーブ、お兄ちゃんにもくれないか?」
「うんっ!いいよ!」
「ななっ!?」
「ふ、アリアだけには渡さないぞ」
エルマンノは一度は経験したいシチュエーション。妹からたこ焼きを貰う。オアあーんを、同時に経験しようと顔を近づける。すると。
「あんっ、んう、うん、」
「へっ」
まさかの、ダルコ焼きのみならず、それを刺していた楊枝の様なものまで喰らった。
「うんうん、おいちぃーーぶっ!?」
「はぁ、ほんと、馬鹿、」
「の、喉に、詰まるところだったぞ、?」
「あー、残念、、詰まらなかったみたい、、今度はもっと強く叩かなきゃだよ!師匠!」
「私としたことが、」
「お笑いのツッコミじゃないんだ、、強く無かったからつまらなかったとかないだろう、」
エルマンノは咳き込みながらそう返すと、オリーブが呟く。
「あ、、な、なくなっちゃった」
「あ、」
「あっ、駄目じゃんエルマンノ君!オリーブちゃんがまだ食べてる途中でしょうがっ!」
エルマンノとかいうヤバいやつが楊枝を喰ってしまったせいでオリーブは刺すものが消えて声を漏らす。それにネラがツッコむ中、エルマンノはよし、と。身を乗り出す。
「ありがとう、オリーブ。悪かった、お兄ちゃんのせいで、、その代わりに、お兄ちゃんが今度はあーんしてやろう」
エルマンノは素手でダルコ焼きを掴むとオリーブの口に持っていく。
「食べてくれ、」
「えっ、、あ、うん、、お兄たんの、食べたい、」
「おお、、その台詞、もう一度言ってもらっても」
「汚い手で触ったやつを食べさせないで!」
「がはっ」
アリアに、力一杯殴られる。
「ど、どう!?師匠!これくらい?」
「そうね。もっと強くてもいいかも」
「そ、そっかぁ、、道は長いなぁ、」
「お、おい、、手はちゃんと洗ったぞ、?」
「手を汚してるから駄目」
「えぇ、まだ落ちてないのかよ、その汚れ、」
「いいから。早く木材形成魔法で刺すもの作って!」
「ば、バレてたか、」
エルマンノはその手を隠しながら手を使った事がバレていたがために、息を吐いた。なんか手ばっかだな。
その後はフレデリカの要望により魔薬の店へと向かった。
「ここの魔薬、、結構珍しい、、というか、」
「おっ、よく分かるねお嬢ちゃん。そうだ。ここの魔薬はうち特製だからねぇ。是非見てってよ」
「よく分かるも何もっ!この人は新薬を見つけ出した研究者で、私の師匠なんですよ!?」
「やめてよ、」
「し、新薬を?はははっ、面白いね君!」
「嘘じゃありませんよ!」
「はぁ、まだ未発表なの。口外する事も禁止だから、、それに、正式に任命されるかも明日次第」
「えぇっ!?そうなの!?」
「それにしても、お嬢ちゃん、どこかで会ったかい?」
「えっ!?あ、いえ、私は、、知りません、」
「そうかぁ?」
お店のおじちゃんにアリアが前に出るものの、その一言によってエルマンノの背後に隠れる。それにエルマンノは目を細めたものの、改めてその店の品を見つめる。
「確かに、、見た事ないものばかりだ」
「お、あんちゃんも分かる口かい?」
「まあ、かじった程度ですが」
「そうかいそうかい!美人な子ばっか連れて歩いてるあんちゃんにはこれ!おすすめだよ」
「へぇ、なんですかこれ、、あっ」
エルマンノがおじちゃんからある一つの魔薬を受け取ると、ふとフレデリカがそれを取り上げお金を出す。
「買います」
「おぉっ!お嬢ちゃんそれを知ってるのかい?いやぁ、これは、あんちゃん好かれてるねぇ、おじちゃん興奮してきちゃうよ」
「え?」
おじちゃんの意味不明発言にエルマンノが首を傾げると、それをフレデリカが購入した矢先。
「っと」
「「「「えぇっ!?」」」」
それを力強く落としてビンの様な入れ物ごと破壊する。
「な、なんて事をっ!?」
「買ったんですから。問題ないでしょう」
「そ、そうは言っても、」
「お、おい、、その魔薬はなんだったんだ?」
「媚薬」
「へっ!?」「あー!」
「なっ!?」
フレデリカの言葉に、アリアが赤面し、ネラが納得した様に声を漏らす。その中でオリーブが首を傾げると、エルマンノは目を見開き地面に広がった魔薬の残りを飲み干そうと口を近づける。
「クソッ!な、なんて事だっ!これをっ、もったいないっ!俺が一人で全員を相手出来る様にっ、、ごはっ!」
エルマンノがそれを舐めていると、ふと頭の上からフレデリカが踏んで口を開いた。
「そこの魔薬と、そっちのバーミリオンのやつ。あと、そこのターコイズのやつください」
「え、あ、はい、、まいど、」
「代金はこの変態が払います」
「あ、、こ、これはこれでありだな」
エルマンノは微笑みながら、フレデリカが足を上げると、代金を支払った。その時、店主の顔が引き攣っていたのは忘れよう。
「ツンデレだなぁ」
エルマンノは、フレデリカが足に力を入れていなかったのを理解してそう呟くものの、何故か彼女に睨まれた。兄離れが始まっているのかもしれない。
続いてはアリアの見たいところに共に向かった。そこは浴衣の様な服を売っている店。どうやら、本当は着たかった様だ。
「わっ、これ、、可愛いし、カッコいい、」
「なんか、オリーブとフレデリカを足して割った感じだな」
「き、着てみたい、」
「試着室あるぞ」
「で、でも、」
「俺が怖いか?」
「ち、違うよ!その、」
「大丈夫だ。誰も見ない。俺が試着室の前で待っていようか?」
「それ逆に怖いからいい、」
「えぇ、、結局俺じゃないか、」
エルマンノはそう呟いたものの、フレデリカに試着室前を頼み、店の前でオリーブと二人で話しながら監視をすることにした。
「...ねぇ」
「え?」
ふと、試着室内のアリアに、外のフレデリカが話しかける。
「アリアさ、、私、考えたんだけど、」
「え?う、うん、」
「アリアって、もしかして、」
「い、言わないでっ!」
「...まだ何も言ってないけど」
「わ、分かる、、から、、その、私の、正体の話でしょ?」
「正体って、、大袈裟だけど、、まあ、身元というか、」
「分かってる、、それと、多分当たってる、、でも、バレるよね、こんな、ずっと顔気にしてて、それに、こんな一緒に居て、バレないはずないもん、」
「...あいつは分かってないと思うけど」
「ううん、、エルマンノも、きっと分かってる。だけど、、聞いてこないだけ、」
「何か、バレそうな事したわけ?」
「少しだけど、、一緒に住んでたんだもん、、バレない事ないよ、、きっと、分かってるんだけど、分からないフリ、、というか、分かったら、このままじゃ居られないから、、見て見ぬフリしてるだけ、」
「まあ、、確かに本当は通報しないと駄目な事だからね」
「...多分、私も一緒。捕まりたくない。そう思ってて、バレてるのも分かってる、、でも、それでもここに戻って来ちゃった、、それくらい大好きで、、居心地がいい場所だから、、だからっ、」
そこまで言うと、突如試着室のカーテンが開いた。
「え、」
「お願いっ!まだっ、言わないでっ!ちゃんとっ、その時がきたら、私がっ、全部言うからっ!まだっ、フレデリカも、、見て見ぬフリ、、して欲しいのっ」
「...私に、、共犯になれって事?」
「ごめん、、それでも、、お願い、」
「はぁ、、アリアのわがままに喜ぶのは、あいつだけだけど、」
フレデリカは息を吐いてそこまで言うと、微笑んで告げた。
「分かった。私も、、犯罪者になる」
「えっ」
「だって、犯罪者に囲まれてるわけだし、、それに、私達、姉妹でしょ?」
「...っ!ふ、フレデリカァ、」
アリアは泣きながらフレデリカに抱きつく。すると、なんだなんだと、周りから人が集まる中、エルマンノとオリーブが戻って来てジト目を向ける。
「フレデリカ」
「何?」
「この状況でよく普通に話せてたな」
なんと、そこには下着姿のアリアが居た。
「えっ、、あ、あぁっ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
アリアはそれに気づき顔を真っ赤にすると、急いで試着室へと戻り、強くカーテンを閉めた。それを眺めながら、フレデリカはため息を吐く。
「あんたと一緒に居るから、、私までイカれてきたのかも」
「おお、流石兄妹。似たもの同士だな」
「一緒にしないで」
「えぇ、、さっきそういうニュアンスじゃ無かったですか、?」
エルマンノがそう呟く中、オリーブもまた赤面して手で顔を隠していた。
そののち、アリアは色々あってご迷惑をかけた事もありその浴衣を購入すると、絶望の色を見せながらお祭りの中歩いた。
「あぁ、、さいあく、、お嫁に行けない、」
「兄が居るから大丈夫だ」
「それ慰めてるつもり?逆効果だよ、」
「いや、兄がまだ結婚してないから大丈夫だという話で」
「あんたの方が年上ならいいけど、兄と言ってるくせにみんなほぼ年上でしょ」
「た、確かに、、考えてみると、、そうだな」
フレデリカの言葉にエルマンノが感慨深く呟く中、オリーブがアリアに声をかける。
「え、えとっ、アリア!だ、大丈夫だよっ!えと、下着!可愛かった!」
「ぶっ」
「うぅ、、オリーブちゃぁん、、慰め方間違ってるけど、、可愛いからいい〜、」
アリアは涙目のままオリーブに抱きつく。その中、声を出さずに爆笑するネラとエルマンノはそののち、ふと口を開いた。
「ネラは、どこか行きたいとこないのか?」
「...まあねぇ、、でも、ウチはいいかな、、食べれないし、服も着れないし、、趣味もないし、」
「...そうか、」
ネラの言葉に、エルマンノは表情を曇らせる。と、対するネラは笑って付け足す。
「でも大丈夫だよ全然っ!ウチお祭りの雰囲気を見て見たかったから、それで満足っていうか」
その、暗い雰囲気をなんとかしようとする姿に、エルマンノは唇を噛みながらもそうかと呟く。が、そののち、エルマンノはふと周りを見渡しある店へと向かう。
「おっ、何なに〜?何か見つけたん?」
「...ここなら、少しは楽しめるんじゃないか?」
「え?」
そこは、人形屋であった。人形屋とは言え、人形やぬいぐるみだけでは無く、ぬいぐるみ用の着せ替え服なども売っている。
「ここ凄いな、結構バリエーションがある、、今までぬいぐるみの店なんてスルーしてたから、新鮮だ、、ここまで進化してるんだな」
「...」
「どうした?気に入らなかったか?」
「う、、ううん、、すっ、すっごい可愛い、、こういう服、ハオいよ、」
「異国の言葉を使ってお兄ちゃんをハブらないでくれ」
「は、、ははっ、凄い、嬉しいってこと、」
「...」
声を震わすネラに、その言葉に嘘はない様で、エルマンノは安堵と可愛らしさにより微笑む。すると。
「お目が高いですね!そうです、こちら限定品ですよ」
奥から、若い女性が現れた。恐らく、お店の人だろう。
「へぇ、限定品なんですか」
「はい!世界に数える程しか無いんですよ」
「それは、、なんか凄そうだな」
エルマンノは嫌な予感を覚えながらその服に目をやる。と。
「そちらのくまさん、可愛いですね!」
「はい。当たり前です。俺の妹ですから」
「い、いも、?」
「芋じゃありません。妹です」
「へ、へぇ、、可愛いですね、、お名前はなんていうんですか?」
「名前は、」
エルマンノはふと、ネラと言いかけたものの、少し考えたのち口を開く。
「マロンっていいます」
「っ」
「へぇ!マロンちゃん!可愛いお名前ですね!」
「はい。俺の妹が付けたんですから。当たり前です」
「あ、妹さんの!」
「はい。俺の妹が名前をつけた俺の妹です」
「え?」
マズい。このままでは店員さんの脳が破壊されそうだ。もうやめておこう。
「そ、それよりも、この服ですけど」
エルマンノは慌てて話題を変える。
「あ、はい!ご購入なさいますか?」
「いくらですか?」
「銀貨二枚です!」
「「なっ」」
「え?」
思わずネラも声を上げ店員に怪しまれる。マズいマズい。エルマンノはそう息を吐きながら改める。アリアの選んだ服と同等では無いか、と。
「ま、まあ、お人形さんの服にしては高いかもしれませんが、」
「いえ、服に人も人形もありませんよ。どちらも可愛く、そのものを彩るためのものですから。そう思う事、そう願う事。それを着て可愛いと思う事。それに、人もぬいぐるみもありません」
「っ!で、でしたら、ご購入を、?」
「いえ、この値段はまず人の服でも高価すぎます。あちらの服をください」
「え」
「えっ、あ、はい!」
金銭に余裕のないエルマンノは、その隣にあった服を選んで購入をした。そこには、セールと記載されていた。
「悪いな、ネラ。あれ、買ってあげられなくて」
「いやいや、あれはウチもびっくりするくらい高かったから、、それよりも、、いいの、?」
「ん?何がだ?」
「これだよ、、買って、もらっちゃって、」
「ネラはお金ないだろ?」
「そういう意味じゃなくて!」
「...ああ。安いやつで申し訳ない」
「ううん、、凄く、可愛い、」
「布が少ないから安かったのかもな」
「ちょっとくらい、露出が多い方がいいっしょ?」
「話が合うな」
エルマンノとネラはそこまで話したのち、ふと、彼女の方から口を開いた。
「...ねぇ、さっき、マロンって、」
「ああ。確かに、君はネラだ。でも、向こうのネラとは違う。マロンのネラって事だ。別に悩む必要はない。俺がそう思ったからそう名乗っただけだ。兄の呼び方に腹が立つのは分かるけどな」
「...腹なんて立ってないよ、、それより、寧ろーー」
「あっ、おにぃ!やっと見つけました!」
「はぁ、どこ行ってたのエルマンノ!迷子になったら駄目でしょ!」
「悪い、可愛いぬいぐるみ店があったから、つい」
ネラとの会話の途中、遠くからラディアが現れ、続けてアリアが現れた。どうやら、その間に皆合流していたようだ。
「一人で歩いてたら捕まるよ?」
「まあ、確かに、俺みたいなやつがぬいぐるみと話しながら歩いてたら捕まるか」
「ぬいぐるみ無くてもだよ」
「えぇ、、俺歩く十八禁なんですか、?」
フレデリカの言葉にエルマンノがジト目で呟くと、その直後。
「いいじゃ〜んっ!楽しいんだからさぁっ!それでっ、結局こうして見つかったわけだしね!」
「誰かと思った」
「普段より可愛くて気づかなかった?うふ〜ん」
「こんなに違うものなのか、」
「はははっ!もっと言ってくれてもいいんだよ〜!」
ラディアの隣から、酒片手に笑うソフィが現れた。やはり、酒に弱いんだな。いや、強いのか?分からない。これはどっちの言い方をすればいいんだ。そんな事を悩んでいると、ふとラディアが割って入る。
「色々言ってたけど、やっぱりみんなと遊ぶの楽しそうだし、お酒もいっぱいあるし、ソフィ連れて来て正解でした!ありがとうございますおにぃ!」
「いや、言い出したのはソフィの方だ。丁度アルコールが入ってる時で助かったって感じだな。だから、俺自体は何もしてない。確かに、酒が飲めるってので釣ったのは釣ったが」
「あれわざとだったの!?」
エルマンノの言葉にアリアが驚愕する中、ソフィは引きながらも笑う。
「うわぁ、やっぱ腹黒いねぇ」
「肝臓が黒い人に言われたく無いが」
「うまいねぇ」
「どうも」
「アルコールがだよ」
「それよりもこのお店、雑貨屋さんですかね、?」
「ん?ああ、そんな感じだな、、凄いな、お祭りでこんなものも出るのか」
「可愛い!」
ふとラディアが隣のお店に目をやると、背後に居たオリーブが駆け寄る。
「こ、こういうの、、私、似合うかな、?」
「イアリングも似合います!だってオリーブちゃん可愛いですから!」
「ラディアもっ、可愛いからっ!絶対似合うよ!」
「そっかぁ、なら、二人でつけましょう!」
「うん!」
二人が可愛らしい会話をしたのち、ラディアはその店の上のほうに目をやる。
「どうしたの、?」
「あ、ううん!私、あの刺繍が気になって」
「ラディアちゃんいっつも縫い物頑張ってるからねぇ」
「ソフィが無駄遣いしてたおかげでね」
「いやぁ、どういたしましてぇ」
「今のソフィに皮肉は通用しないかぁ」
「あら、貴方、もしかして垂れ幕の実行委員会の?」
「あ、はい!ラディアって言います!こちらのお店のカーペットの刺繍が気になって、」
「あら、嬉しいねぇ。ラディアさんの刺繍も素敵でしたよ」
「本当ですかっ!?でも、ここのには負けますよ!」
と、ラディアはお店の人と話し始める中、ソフィとオリーブ、アリアはそれぞれ雑貨を見始める。それをエルマンノは遠目で見ている中で、ふと。
隣の店にあるそれに目を剥く。
「なっ!?何だと」
「え?どしたん?」
「?」
エルマンノのそれに、ネラと隣のフレデリカが首を傾げる。そんな事よりもと、エルマンノはそれに近づく。なんと、そこには。
「何故、これがここにっ!?」
掃除機があった。
「なにこれ」
「掃除機だ、、掃除をする道具、、ゴミを吸い取ってくれる優れものだ」
「なんかエモいね!造形がいい」
「それなぁ」
エルマンノはネラに釣られてそんな言葉遣いで返すと、その店の店主が現れる。
「おお、これを知ってるのかい?」
「これを、どこで?」
勿論、この世界に掃除機はない。
「随分と昔に使われてたものみたいだよ。今では全く使わなくなってねぇ。掘り起こして見つけた様なそういうものを、集めて出してるんだよ」
「なるほど、、あ、確かにハンドスピナー的な何かがあるな、、確かにこれなんで流行ったのか一つも分からないよな、」
「これはモーター用の工具です」
「いや違うのかよ、、恥ずいな、」
「ねぇエルマンノ、なんでそんなの知ってるわけ?」
「兄は博識だからな」
「この歳でそれを知ってるのは凄いねぇ。お安くしとくよ?」
「いくらですか?」
「セールだから、ここら辺のは全部銅貨十枚ってとこかねぇ」
「安いな、」
おおよそ千円前後くらいだ。これは安い。
「どうしてここまで安いんですか?これプレミアとかついててもおかしくないでしょう」
「いえ、、ただ希少なだけで、誰も欲しがりませんから」
凄く悲しい事を言われた気がする。剣と魔法の世界で掃除機は要らないのか。
「じゃあ掃除機とこいつください」
「まいどあり!」
「モーターの工具なんてどこで使うわけ、?」
「遊ぶんだよ」
エルマンノはそれを受け取ると、クルクルと回るところを回しながら遊び始める。
「ねぇねぇ〜、飲みに行こうよ〜」
「えぇ、、まだ飲むの、この人、?」
「み、みんなっ!そ、その、、どう、かな、?」
「えっ!?可愛い!」
一方でソフィがそんなやばい事を言う中、オリーブとラディアがお店から現れた。どうやら、二人でお揃いのイアリングを買い、それをそれぞれ右耳と、左耳に二人で分けてつけている様だ。それに思わずアリアが声を上げる。するとそれに続いて。
「超盛れてんじゃん!やっぱオリーブちゃんもラディアちゃんも最高に可愛い!」
「うっひょ、楽しいぃ」
「ソフィも、どう、かな、?」
「ラディアちゃんちょー可愛い〜!オリーブちゃんも可愛い、、けど、もう一個の方付けるのは私じゃないの、?」
「はいはい、後でソフィのもお揃いで買おうね」
「楽ひぃ、」
「師匠がつけてるのも可愛いよね?」
「これは、、昔、お母さんから貰ったものだから」
「そうなんだ!凄い似合ってる!」
「楽しいぃぃぃ」
「てかあんたはさっきから何やってるわけ、?」
「ん?ハンドスピナーだ」
「え、、それそうやって使うの?」
「あははっ、回すだけで本当に楽しいの?んなわけないじゃん!」
フレデリカが痺れを切らして先程から隣で回し続けるエルマンノにそう放ち、その答えにアリアが困惑する。それを煽るソフィに、エルマンノはモーターの工具を手渡す、と。
「いや、楽しいな、、これ、」
「だろ?」
なんと、ハマってしまった。恐らく、この世界にはハンドスピナーは無いだろう。当たり前だが。だが、これをキッカケにモーターの工具が人気になればいいなと、エルマンノは何故かあの店のことを考え呟いた。すると。
「ねぇ、、その、お兄たん、、どう、?」
「おお、可愛いな、、なんか、今日は大人っぽ過ぎてお兄ちゃん悲しいぞ」
「えっ!?か、悲しいのっ!?ご、ごめんなさい、」
「いや、大人になってきたって事だ。悲しいだけじゃない。お兄ちゃんは嬉しいんだ」
「え、?」
「妹が成長するのが、一番嬉しい事だからな」
「お兄、、たん、」
「ねぇおにぃ、私のどうですか?」
「お、ラディアもイアリングお揃いなのか、、それぞれの耳につけるって、なんか二人が合体しそうだな」
「何そのコメント、」
エルマンノの言葉にアリアがジト目を向けると、皆合流した事だし、と。改めて出店を周り出した。それを、遠くから見つめる。男性二人は、小さく呟いた。
「あの人がか?」
「はい。新薬を作り上げたと」
「はぁ、デマじゃないだろうな」
「新薬を作り上げた証拠はありません。...ですが、少なくともそれを実現出来る程の知識があります」
「本当か?」
「はい。先程、その人物が店に来た際、小さくこんなものを出すのはやめてくださいと言われました」
「それがどうした」
「普通なら分からない様に加工しているものを、彼女は違法魔薬であると見極めたのです。そしてあえて違法なものを買っていきました。恐らく捨てる気ですよ」
「なるほど、それで、私に見てほしいと」
「はい。是非、ご自身の目で、拝見していただきたいと」
「図に乗るなよ」
「は、はいっ!すみませんでした!」
「もし、あの少女に何の価値も無かったら、分かっているんだろうな」
「は、はいっ!問題ありませんっ!彼女には、それ相応の知識がございます!」
「ふん、、だが、どちらにせよ違法魔薬の存在を知っている以上、野放しには出来ないな」
そこに居たのは、先程魔薬の店をしていた店主と、それよりも偉そうな雰囲気を漂わせる聖騎士風の服装をした人物。その男性は、彼女。
フレデリカを見据えると、目を細めた。
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