第31話「ツンとデレで兄は風邪ひきそうです」
「あ、えっと、、ま、まずは話だけでも、」
「だから要らないって。持って帰って。早く」
「な、、何で、」
「そ、そんな言い方って!」
「何?」
「う、、そんな言い方ないだろボケ!と、エルマンノが、」
「おい、俺になすり付けるな。それと、最後の暴言要らないだろ」
エルマンノが会話を促す中、その人物は聞く耳を持たない。それに、オリーブとアリアは声を上げるものの、その冷徹な瞳に射抜かれ、エルマンノの背後に隠れる。と、その後エルマンノは息を浅く吐き、オリーブにぬいぐるみを渡した。
「オリーブ。悪い、くまさんと一緒にちょっと席を外してくれ」
「え、?」
「頼む」
「わ、、分かった、」
エルマンノが真剣に放つと、オリーブは頷き、「行こう」とくまさんと話しながらその場を去った。
「どういうつもり?」
「いや、、くまさんの前で、話していい内容か分からないから」
「話すこと無いけど」
「事情を話していただけませんか?」
「貴方に話す理由がない」
「それはそうか」
「えっ!?ちょっ、納得しないでよエルマンノ!」
「なら、俺達の話を聞いてください。あのぬいぐるみは、俺の妹の手に渡ったんです」
「何で聞かなきゃいけないの?というか、その答えを聞く前に話し始めないでくれない?」
「その妹に、あのぬいぐるみは話しかけ始めたんです」
「はぁ、、だる、、マジ病み、」
「元の持ち主のところに、帰りたいって」
「はぁ、それはあのぬいぐるみの意思でしょ?」
「はい」
「ウチは嫌」
「どうして、そこまで嫌がるんですか?」
「それを話す理由無いって、だから。大体分かるよ。ぬいぐるみからお願いされたんしょ?助けてとか言ってさ。ウチのところに戻してって言って、それで貴方達をここまで来させた。違う?」
「そうです」
「はぁ」
その人物は頭を掻く。話し方は確かに似ているが、性格は違う様だ。
「その、巻き込んで、、ごめんなさい」
「「えっ」」
「え、そんな意外そうな顔しないでくれない?」
「いや、謝るとは、、思わなくて、」
「私も、」
「はぁ、ま、第一印象最悪だしね、」
「大丈夫です。まだ今も第一印象のままです」
「は?キツ、それフォローになってなくない?マジサガるわ、」
「最悪だとは元から思ってないってことですよ」
「はぁ、、とりあえず、その、ご迷惑かけました。ウチのぬいぐるみのせいで、ここまで来させて、、でも、ここまで来させておいてなんですけど、ウチ、あのぬいぐるみを受け入れる気無いんで」
「...分かりました」
「いや呆気なく無い!?」
「そこで何なんですけど、」
「何か、あるんですか?」
エルマンノが切り出したそれに、威圧感を露わにしながらその人物は低く放つ。それに、エルマンノは真剣にそう告げる。
「もし良かったら俺の妹になりませんか?」
「何がもし良かったらなの、?」
「は?意味分からんて、、マジでNだわ、」
「Sでも無く?」
「Mでもないから」
「磁石の話したんですけど」
「はぁ、、違う。NはNGって意味」
「妹になるのがか?」
「貴方が」
「もう共演出来ないな、」
エルマンノはそう呟いたのち、少しの間を開けて笑みを浮かべる。
「逆に言えば、妹になるのはオッケェー?」
「しんっど、」
「エルマンノポジティブ過ぎるでしょ、」
「ま、ポジティブに考え過ぎて、理不尽に飲まれるのは良くないからな。ポジティブが良いってわけでもない」
と、エルマンノはそこまで言うと「あれ?これはどこで聞いた言葉だ、?」と呟く。すると。
「てか、敬語消えてない?」
「そのまま貴方にお返ししますよ」
「ウチは無理して敬語話してるから」
「なら俺もそうだ。貴方と俺、一緒ですね」
「きっっつ、、貴方ってのが余計にキツさを倍増させてる、」
「なら、君の名は?」
エルマンノはちゃっかりと言いたかった台詞を口にしながらそう聞く。すると、その女子は息を吐いたのち、渋々名を口にする。
「ウチは、、ネラ、」
「今日から俺がお兄ちゃんだ。よろしくなネラ」
「キッショ、」
「なら、ネラちゃぁん」
「もっとキショい」
「どうやら俺はネラのことを呼べないらしい。妹と呼んで良いか?」
「最初のキッショは名前のところじゃなくて台詞に言ったの。妹にはならない」
「えぇ、」
「心底残念そうにするのやめてよ、」
項垂れるエルマンノに、隣のアリアがツッコむ。
「もう良い?帰ってくれない?」
「あ〜、ぬいぐるみのせいでここまで来させられたなぁ。最悪だぁ〜、お茶くらい飲みたいところだが、」
「うわ、、エルマンノ、」
「クッ、、最悪、、分かった、お茶用意するから、玄関で待ってて」
「えぇ、お茶って上がっていってのノリで言う言葉じゃ無いのか、?玄関でお茶だけ飲むの絵面ヤバいだろ、」
ネラがそう言って家に上がろうとした、その時。
「うわっぷ!」
「「え」」
まさかの、盛大に転けた。
「...」
「大丈夫だ。何も見てない」
「その配慮が一番腹立つんだけど、」
「そんな高いヒールを履いてるからじゃないのか?」
「うっさい。そこで待ってて」
赤面しながらそう放つネラに、エルマンノは家に入り玄関で放つ。
「というよりエルマンノ、、今のはちょっと図々しいんじゃないの、?」
「助けられた側なのに家に上がり込んで住み込んでた人が何言ってるんだ、?」
「う、、そ、それはっ、、ごめん、」
エルマンノのジト目に、アリアは俯きながら謝罪を口にすると、奥からネラがお茶を持って現れる。
「本当にお茶だけ持って来てくれたのか。親切だな」
「ぎ、逆に親切かも、」
「さっさと飲んで帰って」
「分かりました。それで、その、どうしてあのぬいぐるみを捨てたんですか?」
「飲んで帰ってって言わなかった?」
「ティータイムは、お話ししながらするもんだろ?」
「するつもりない」
「理由を説明しないと、あのぬいぐるみも納得出来ないですよ」
「...はぁ。別に、理由とかない。ただ、、必要無くなっただけ。もう、要らなくなったの」
「要らなくなった?」
「貴方がウチと同じーー」
「貴方じゃなくてお兄ちゃんです」
「貴方がウチと同じ立場だったとして、昔遊んでたぬいぐるみを片付けるために捨てたのに、理由とか聞かれても説明とか無いっしょ?」
「無視ですか」
「その無視は正解だと思います、」
エルマンノがネラの放ったそれに、茶を啜りながら呟くと、アリアもまた頷く。
「まあ、、分かりました。くまさんにも、そう言っておきます」
「くまさん?」
「あのぬいぐるみの名前です」
「はぁ、あの子にはマロンって名前があってーーっ!」
思わずネラはそこまで口にし、ハッとしながら口を噤む。その様子を、エルマンノとアリアはニヤニヤとしながら見つめた。
「な、何、?」
「いやぁ、可愛らしいところもあるんだなと」
「帰って」
「ええ、帰りますよ。でも、その前に一つだけ。もう少し、アゲた方が良いですよ」
「は?この状況でアゲられると思ってんの?サゲだわ、」
「試しにアゲ!とか言ってみません?」
「言わないから。帰って」
「分かりました。帰ります」
「ちょっと、ティーカップは返して」
「そうだぞアリア」
「えぇっ!?私!?エルマンノも持って帰ろうとしてたでしょ!?同罪だから!」
「どっちでも良いから早く帰って!」
とうとう、追い出されてしまった。だが、ここまで話を出来たのは奇跡に近いな。エルマンノはそう思いながら家を後にした。
「にしても、、エルマンノ、何で突然あんな事言ったの?」
「あんな事とは?」
「お茶出してとか、アゲた方がいいとか、煽ってるの?」
「煽ってるつもりはない。ただ、少し気になっただけだ」
「気になった?」
アリアと話しながら帰る、その道中、公園に居たオリーブとくまさんを見つけエルマンノ達は合流する。
「お、お兄たん、、どう、だった、?」
「ま、残念だが、やはり引き取るつもりは無いってさ」
「そ、、そっか、」
エルマンノがくまさんを持つオリーブにそう告げると、俯く。
「なぁ。くまさんは、、いや、マロンは、帰りたいのか?」
「っ!そ、それって、」
「ネラが言ってたぞ。本当はマロンっていうんだな」
「っ、、そ、そう、だね。そう、呼んでた、」
「ネラは、、そう言ってたんだ。まあ、口走った感じだったけど。...きっと、心のどこかで、まだマロンのことを想ってる。何か、捨てたのには他に理由があるのかもしれないんだ」
「...」
「そ、それじゃあ、まだ可能性はあるって、、ことだよね、?」
エルマンノの言葉に無言のマロンとは対照的に、オリーブはそう声を上げる。それに、エルマンノは頷く。
「まあ、、ネラと次話すためには、少し理由を作らなきゃ難しそうだけどな、」
「あの感じ、、もう二度と話聞いてくれそうにないよ」
「そうだなぁ」
アリアの言葉に、エルマンノは腕を組みながら宙を見つめる。
「そ、そっか、」
「そんな悲しい顔しなくて大丈夫だオリーブ。お兄ちゃんが、何とかしてみせるよ。一度、手を貸すって言ったんだからな」
「...お兄たん、」
「あ、ありがとう、」
微笑みながら、涙を浮かべて名を放つオリーブと、掠れた声で感謝を告げるマロンに、エルマンノは優しく笑みを浮かべた。その様子を、アリアは僅かに目を細くして見つめたのだった。
☆
「おーい、フレデリカ〜、居るか?」
ドンドンと、エルマンノは森の中の実験室のドアを叩く。
「居ないんじゃない?」
「いや、フレデリカはそういうお茶目なところがあるんだ」
「無いから、」
「ほらな」
「ほ、本当だ」
「本当だ、じゃない」
エルマンノとアリアは、その後。オリーブとマロンを一度家へと帰らせたのち、そのまま二人でフレデリカの元へ足を運んだ。すると。
「それにしても、、アリア、、どこ行ってたの?」
「っ、、あ、えと、、ひ、久しぶり!師匠!」
「だから弟子とってないから」
「あれから師匠呼びなのか、?」
「話逸らさないで。エルマンノも、本当は聞きたいこといっぱいあるんじゃないの?」
「...」
フレデリカはドアを開け皆を中に入れながら、アリアを前にそう口にする。それに、エルマンノはバツが悪そうに目を逸らした。
「エルマンノのことだから、言いたく無いことは聞かないと思う。でも、私は違う。エルマンノもオリーブも、その時は本当に心配してたんだよ?いつも辛そうな顔してた。それなのに、ノコノコ戻って来て、何の説明も無しに平然とそこに居るのは、ちょっと違うと思う」
「そ、、その、、ご、ごめんなさい、」
「ごめんなさいを聞きたいんじゃないの。理由は、、なんなの?」
「そ、それは、」
「ま、まあ、、いいじゃないか。戻って来てくれたんだ。それで」
「良くないでしょ」
「...」
フレデリカの押しに、エルマンノは押し黙る。と、対するアリアは、小さく、口を開いた。
「ごめんなさい、、きっと、、みんな、いい人だから、、分かってはくれると思う、、でも、だからこそ、、言えないことも、あるの、」
「私はいい人じゃない。エルマンノもただ変態なだけ」
「えぇ、、まあ、合ってるけど、」
「...それでも、、ごめん。後、もう少し、、待ってくれない?...その、、この事が、終わった後に、ちゃんと話するから、」
「アリア、明日死ぬのか?」
「えぇっ!?どういう事!?」
「いや、死亡フラグだなと」
「え、ちょっと待って。今、この事が終わった後って言った、?」
「ああ、言ったな。言ったよな?アリア」
「え?あ、うん」
エルマンノとアリアの言葉に、フレデリカは何か嫌な予感を覚えながら震えて放つ。
「も、もしかして、、また変な事に巻き込まれてるの、?」
「ああ。よく分かったな。流石妹」
「そして、それに私を巻き込むつもり?」
「ああ。よく分かったな。流石いもーー」
「帰って」
「おお、今日二度目の光景だ」
「師匠の方が全然怖くないね!」
「は、?な、何なの、?」
「フレデリカによく似た人が居るって話だ」
「そ、それってもしかして、」
「ああ。新しい妹だ。今度紹介する」
「いや勝手に妹にしないでよ、、あの人認めてないよ、?」
「認めさせるしか無いな、」
「それはもう半分犯罪だよ、」
「今更か?」
アリアが呆れ気味に放つと、エルマンノは首を捻りながら返す。と、対するフレデリカは頭を押さえる。
「...今度は何やったの、?」
「いつも俺が犯罪を犯してると思わないでくれ」
「でも巻き込まれてるのは事実なんでしょ?」
「まあな」
エルマンノはそう呟くと、なんだかんだで話を聞いてくれるフレデリカに事の顛末を話す。すると。
「夢でも見てるんじゃないの?」
「いつも妹の事を夢見てるが、」
「そうじゃない。ぬいぐるみが話すとか、、あり得ないでしょ」
「わっ、私も見たよ!」
「じゃあアリアも夢見てるとか」
「二人で同じ夢を見たって言いたいのか?それはそれで別の怪異っぽいが」
「はぁ、、その、ぬいぐるみが何故かギャル風な話し方で話し始めた話を信じるとして、持ち主が嫌がってるならもう話は終わりなんじゃない?」
「ああ。それが、ただぬいぐるみの意思だったならその話は終わるんだ」
「どういう事、?」
「わ、私も、、分かんない、、どういう事なのエルマンノ?」
フレデリカに続いて、アリアもその発言に疑問を浮かべ身を乗り出す。
「さっき、気になる事って言ってたし、、エルマンノ、なんか今日ずっと変な感じだったし、、何か、分かったの、?」
「変なのはいつもだろ?」
「いつも以上に!」
ニヤリと微笑み放つエルマンノに、アリアが声を張ると、改めて続ける。
「...まあ、初めてネラに会った時に、、少し違和感があったんだ」
「え、?」
エルマンノの一言目に、アリアは声を漏らし、フレデリカは無言で目の色を変える。
「どこかで、聞いた事ある声だなって」
「こ、声、?」
「いつもなら、そのくらいの事はスルーしてるところなんだが、、何せ、ソフィの事があったからな、、声の違和感は、ちょっと見過ごせなかったんだ」
エルマンノの言葉に、アリアは首を傾げる。
「ああ、アリアは居なかったな。実は、ソフィがソナーを送ってた本人だった事が分かったのは、声が同じだったからなんだ」
「えっ、あっ、それってこの間寝る前に教えてもらった、」
「ああ。ソフィの閉鎖空間の話だ」
以前オリーブの家で寝る前に軽い説明をしていたため、その一言でアリアは大体を察する。と、エルマンノは改めて続ける。
「それで、声の違和感は、どうしても見逃せなかった。だからこそ、確認したかったんだ」
「か、確認、?」
「...それで、、分かった。多分、、間違いない。ネラの声は、、マロンの声そのものだったんだ」
「えっ!?」
「...なるほどね、」
エルマンノの告げたそれに驚愕を見せるアリアと、それを聞き入れ何かを察するフレデリカ。
「つまり、、そのぬいぐるみが話したっていうのは、ぬいぐるみに意思が宿ったわけじゃ無いって事?」
「ああ、、多分、、ぬいぐるみに魂が宿ったとかじゃ無くて、、彼女の。ネラの、生き霊が憑いたんだと思う」
「い、生き霊って、、な、なら、会わせようとしたの結構ヤバいんじゃ、」
「ああ。それに、ネラの前でマロンは話さなかった。何か、関係あると思わないか、?」
「だ、だからエルマンノ、あの時マロンちゃんをオリーブちゃんと一緒に引き離したんだ、」
「ああ。それに、アゲた方がってやつもそうだ。マロンの良く言ってるアゲって言葉を、ネラに言ってもらって、本人かを確認しようとしたんだ。どこかで、発音や声音で共通点が見られるかもしれないからな、」
「それが全部妄想だったら、そんな事をしたエルマンノはシスコン馬鹿を通り越してただの犯罪者だね」
「妄想だけで犯罪級な事は何もしてないぞ。弁護人を呼んでくれ。...まあ、もしそれが全部妄想だったら、小説でも書いてみるとするよ」
エルマンノは、フレデリカの言葉にそう返すと、少しの間ののち、彼女の方から口を開く。
「もし、それが本当だったとするなら、そのぬいぐるみに生き霊が取り憑くのにも、大きな理由があるからだと思う。...例えば、、本当はぬいぐるみを手放したく無い。とか」
「ああ、その可能性は高いな。何か理由があってぬいぐるみを手放そうとしてるが、心のどこかでは諦めきれない。その想いの強さが、生き霊となってぬいぐるみに宿ったのだとすると、、何と無く納得出来る。...それに、ネラは最初ぬいぐるみが話したって言った時に、フレデリカみたいに信じようとしなかったわけでも無く、その後にはその理由がなんとなく分かってる様子だったんだ」
「た、確かに、、私達があの人のところに行った理由も、察して話を進めてたね、」
「きっと、どこかで分かってたんだ。生き霊を本人が把握出来るとは思えないが、もしそうなっても納得出来るほどの理由が、彼女にあったんだと思う」
「それで?そこまで分かってて、私のところに来たって事は?」
「どうにかして、、ネラの本当の気持ちを、、聞き出したいんだ。フレデリカ、、何か案はないか、?」
「はぁ、、いつもなら帰してるところだけど、」
フレデリカはそう前置きをすると、顎に手をやり考え始める。
「やけに素直だな」
「まあね」
「何かあったのか?」
「その、、実は」
フレデリカはそこまで呟くと、エルマンノは目を見開く。
「あ、新たな生命を、?」
「妊娠してないから。てか、彼氏すらいないから」
「いないのか。意外だな」
「何を以って意外と言ってるのか分からないんだけど、」
「そんなに可愛いのにって話だ」
「今まで私の何を見てきたの?そんな素振りは無かった」
「まあ確かに、男の雰囲気は全く無いな」
「そっちじゃ無くて、、好かれる理由が無いって話」
「寧ろいっぱいあると思うが」
「そうだよ師匠!もっと自信持っていいよ!」
「...」
二人の言葉に、フレデリカは少し恥ずかしそうに目を逸らす。と。
「それで?何があったんだ?」
「あ、、えっと、実は、、その、完成、したの、、まだ見つかってない、、新薬、」
「「っ!」」
フレデリカの、小さく呟かれたそれに、二人は目を見開く。
「それは結局はおめでたじゃないか!」
「今日はご馳走だねっ!」
「赤飯だな」
「何それ」
「赤いご飯だ」
「不吉じゃない、?」
「い、いいから、、別に、ただ、二人には、、凄く、手伝ってもらって、、助けてもらったから、、言わなきゃと、、思っただけ。私の方が、、返さなきゃいけないもの、沢山あるから」
「そうは言ってもなぁ。妹の晴れ舞台だ。アリアも揃った事だし、今度は全員揃って妹パーティしたいな」
「それはあんたの願望でしょ?」
「バレたか」
「あんたの願望を叶えるために私の新薬完成を理由にしないで」
フレデリカは、いつも通りの言葉だったものの、明らかに喜んでいる様子だった。
「ふふ、、相変わらず分かりやすいな」
「はっ倒すよ?」
「今日ははっ倒されてもいいかもなぁ」
「エルマンノ、、それはキモいよ、」
「アリアも来てくれていいんだぞ?」
「いっ!いかないよ!」
「それで、その新薬はどういうものなんだ?」
「魔力の無いものに魔力を与える薬を服用させると、体が耐えきれずに倒れてしまうの。だけど、あの時、ラディアの魔力がほぼ無い状態で、ソフィから魔力を与えられた時、あの方法なら、ラディアの体は耐えられた」
「あの方法、?」
「濃いめのキスだ」
「こっ!?濃いめっ!?」
「別にあそこまでじゃ無くて良かったのに、、あの二人がノッてきちゃっただけでしょ、」
「えっ!?そ、ソフィさんとラディアさんって、、そういう、?」
「まあ、百合女子アーティストなのは変わりないな」
「えぇ、、そ、そうだったんだ、、だから、家に掃除しに行ってるし、、そ、そか、、まあ、そういう時代だよね」
「アリアがどれ程真っピンクな想像をしてるのかは知らないけど、話を戻していい?」
「あ、ご、ごめん、、ってぇ!真っピンクって!そんなっ!考えてないからぁ!」
「これは考えてたな?」
「ち、違うから!」
エルマンノとアリアがそう掛け合いをする中、フレデリカは浅く息を吐いて続ける。
「まあ、、それで、その原理を魔薬に使用出来ないかなって、、そう思ったの。魔力の無い者でも、体に害の無い方法で魔力を得る方法」
「どれ程キスは嫌なんだ、」
「そうじゃ無くて、、その、これ以上、あんたの体を、、傷つけたく無いから」
「え、」
エルマンノとアリアは、目を見開く。
「い、今の忘れて、」
「妹の言葉は忘れる筈がない。その魔薬はもしかして、魔力量を増やすのにも使えて、それを多用しても大きな副作用がないって事なのか、?」
「...こういう時だけ察しがいいのはなんなの、?」
「妹の事になると早いんだ」
「まあ、、そんな感じ、」
「そ、、そう、か、」
エルマンノは、掠れた声でそう呟く。対するアリアもまた、僅かに瞳を潤ませた。
「なんでアリアが泣いてるんだ、?」
「泣いてないから!」
「...ありがとう、、フレデリカ。俺のために、、頑張ってくれたんだな、」
「別にあんたのためじゃない。...それに、ラディアとソフィの件が無かったら、この魔薬の作り方は思い浮かばなかったから、」
「凄いな、、俺の妹達は。妹同士でインスピレーションを得て、前へと進んでる、」
エルマンノはしみじみとしながらそう呟く。
「明後日に魔薬協会の人達が来るの。その人達に、魔薬の使用実験と、プレゼンをして、結果次第では正式に登録される事になる」
フレデリカはそこまで放ったのち、小さく付け足す。
「これで、、私みたいな、、魔力の無い人も、きっと、、普通に生活出来る、、もう、いじめられたりなんて、」
「っ」
その小さな一言に、エルマンノは目をピクリと動かす。妹の事を、知った気になっている。それは、今も変わらないのかもしれない。エルマンノは、そう思いながら息を吐いた。
「凄いよっ、フレデリカ!もしかすると、魔導書とか、教科書とかに名前が載るかもしれないねっ!」
「気が早いから、、まだ正式に決まったわけじゃない」
「実験自体はしてるのか?」
「私で実験済み」
「また自分で実験してるのか、」
「あんたに言われたく無い。...それに、こうして私でも元気だった。他の魔薬では、すぐ倒れちゃう私が、、大丈夫だったんだから、、きっと、」
「オリーブとかにも一回挑戦してみた方がいいんじゃないか?」
「あの子土地神でしょ?なんかまた違う事が起きそうだし、それで大変な事になるのはごめん」
「まあ、、そうだな、」
「まあでも!とりあえず今日はお祝いだね!」
「そうだな。ちなみにそれはお父さんにも?」
「あ、、うん、、言った、」
「どうだった?」
「...」
フレデリカは、答えようとはしなかった。だが、それは嫌な事を言われたから。では無く。恥ずかしいのだ。
「また筆談で話したのか?」
「なっ、ちょ、まだその事覚えるわけ!?妹の部屋勝手に見て、最悪っ!記憶破壊してやる!」
「そうだよエルマンノ!プライバシーの侵害!最低!最悪!変態っ!鬼畜!犯罪者!」
「えぇ、、流石に死にますよ俺、」
「はぁ、、もう、最悪!」
「おふぅ!?」
フレデリカは、ふとそう強く放つと、エルマンノの足を踏んだ。
「ご褒美でしょ?変態」
「あ、あれ、?なんか呼び方変わってません、?」
「シスコン馬鹿を通り越してただの歪んだ性癖の変態!」
「あふぅ!?」
「はぁ、、まっ、今日は機嫌がいいから、このくらいにしてあげる」
「た、助かります、」
エルマンノは苦笑を浮かべてそう呟くと、改めてフレデリカを見据える。
「...なら、明日にでも魔導書買いにいかないか?」
「えっ、」
「言ってただろ?魔導書、、買いに行くんだろ?大きなショッピングモールで。お兄ちゃんが買ってやるよ」
「...ふっ、」
「な、何かおかしかったか、?」
エルマンノの放ったそれに、フレデリカは小さく笑うと、泣きそうな表情で笑みを浮かべた。
「一文無しが威張るなシスコン!」
「ふっ、、ああ、、それもそうだな」
微笑む二人に釣られて、アリアもまた優しく微笑む。すると、ふと。
「でも、、明日はお祭りでしょ?」
「お祭りとか行くのか、?フレデリカ」
「まあ、普段は行かないけど、、でも、花火大会はいつも見てる。ここからでも、見えるから」
「まだ王国寄りの場所だもんな。ここ。...でも、花火大会は明後日じゃないか?」
「そう。明後日は色々やる事あるし、見られそうもないから、、明日のお祭りでもって、、思って」
「そうか、、なら、丁度いい。みんなで、お祭りデートでお祝いしよう」
「えぇっ!?」
「や、やっぱりアリアは嫌か?」
「う、うぅん、、お祭りは、、一度は、、行ってみたかったけど、」
「...」
アリアの様子に、二人はもう既に察していた。聖騎士に会いたくない点。街に出たくない点。やはり彼女は、家出をした身なのだろう。もし親が探しているのであれば、それは行きたくないだろう。だが、兄として親が探しているのならば帰らせるのが得策。だと、思うのだが。
「...なら、顔を隠して行けばいいんじゃないか?」
「へ、」
「へじゃない。人が多くて恥ずかしいなら、自分の顔隠して行けばいいんじゃないか?祭りなんだから、お面とかしてても大して怪しまれないだろう」
「...エルマンノ、」
「あんた、」
エルマンノは、あえてそう放った。その答えに、ジト目を向けるフレデリカ。そんな彼女に、エルマンノは耳打ちする。
「事情を知らない内は、踏み入った話は出来ない」
「だ、、だからって、、はぁ、もういい、、でも、そのぬいぐるみの件が終わったら、ちゃんと聞いてよ、?」
「分かってる」
呆れた様子のフレデリカに、エルマンノは力強く頷く。
「そ、、そっか、、そう、かも、」
「まあ、ソフィは難しいかもしれないけどなぁ」
「無理に誘うものでもないでしょ。それに、今はぬいぐるみの話もあるし」
「そうだな、、よし。もし、元持ち主と上手く話せる案があったら教えてくれると助かる。俺も、出来る限り考えてみるよ」
「はぁ、、私がいつも案を出せると思わないで。しかも、状況的には最悪なんでしょ?」
「二度と話してくれなさそうだなぁ、」
「なら、そのぬいぐるみの方から聞いた方がいいかもね。同じ、ネラという同一人物なんでしょ?」
「っ!そっか!そうだよエルマンノ!その話が本当だったら、それで!」
「そうか、、それもそうだな」
目を見開くアリアに、エルマンノもまた頷く。
「ありがとうフレデリカ。やっぱり頼りになるな」
「得策かどうかは分からない。あんたがそれを真っ先に行おうとしない理由も、アリアの時と同じで踏み入れていいものか分からないからでしょ」
「...まあ、な、」
「でも、、そうね。ぬいぐるみに話を聞くこと自体はいいと思うけど、でも、、あまり、そのぬいぐるみと親しくなるのはやめておいた方がいいかもね」
「え、何故だ?同じネラなら、マロンも俺の妹だ」
「その理屈は置いといて、、話を聞くには、マロンちゃんと親しくならないとあれなんじゃない?」
エルマンノが真剣に放つ中、隣でジト目を向けながらもフレデリカにアリアは口にする。が。
「それもそうだけど、、もし、ネラの生き霊なら、この問題を解決出来たとしたら、、その子は、、消えるんだよ?」
「「っ」」
フレデリカのその一言に、エルマンノとアリアは目を見開いた。
「だってそうでしょ。いくら同一人物だろうと、記憶が分散してしまった以上、同じ個体として戻ることは不可能。生き霊なんて、知らずのうちに生み出されてるものなんだから、本人とは関係はない。だとすると、その生き霊は。その生き霊との記憶は、全て消えるんだよ」
そうか、と。エルマンノは掠れ声で呟く。あの元気で明るいマロンの姿をしたネラ。あの子と過ごした時間は、決して多くはない。だが、それでも。もしこれが解決したのだとすると、全て、消えてしまうのだ。
それを思うと同時に、思わず二人は歯嚙みした。
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