第30話「妹が一つ屋根の下集結」

「ソフィ、」

「え、、えぇっ!?何何何何っ!?今っ、えっ!?誰が!?に、にぃが言った?」

「俺が腹話術と裏声が出来ると思うか?」

「な、なら、、オリーブさん、?」

「ううんっ!この子っ、喋るの!」

「は、?」


 ソフィは、自分の名前を呟かれた以前に、ぬいぐるみから声が出た事に驚愕の色を見せる。まあ、当たり前だが。


「ぜ、全然状況が読めないんだけど、」

「安心してくれ。俺もだ」

「何でにぃが分かってないの?」

「とりあえず、こちらが長女のアリア。俺の大切な妹だ」

「え?いや、ちょっと、もっと先に紹介するものがあるくない、?」

「本当だよエルマンノ!私の紹介薄れちゃうよ!」

「気にするのはそこなのか、?」


 エルマンノはこのカオスな状況を何とかするべく、一番説明のしやすいアリアの紹介をするものの、どうやら順番を間違ったらしい。


「ちなみにこちらが俺の大切な妹。ソフィだ。一番下の子」

「一番下って、私にぃよりも歳上なんだけど、」

「一番最後に妹になったって意味だ」


 とりあえず、と。有無を言わさずアリアとソフィで自己紹介をさせたのち、エルマンノは改める。


「実は、ここに来たのには理由があって」

「だろうね、、そのぬいぐるみのこと?」

「ああ。見て分かると思うんだが、口元が破壊されている」

「え!?そこ!?」


 ソフィが声を上げると、アリアもまた頷く。それは恐らくソフィに同意見という意味だろう。


「この口を縫い直す事って、出来たりしないか?」

「私がそんな器用な人に見える?」

「ギター弾いてるだろ?」

「それとは別」

「そうか、、なら仕方ないな」

「私は無理だけど、、ラディアちゃんなら多分出来ると思うよ。いつも穴が開いた服も、縫い直して着てるケチケチケチん坊だし」

「誰のせいで買い替えられないと思ってるのかなぁ?」

「っ!?」


 エルマンノのお願いに、ソフィがそう口にすると、背後からラディアが現れ、それに彼女はビクッと肩を震わせる。


「またお泊まりしてたのか?」

「いえっ、朝方来たんです!部屋の掃除しておかなきゃと思って。それに、、会いたかったんです、、引っ越すまでの間しかこう頻繁に会えないのでっ!」

「相変わらず百合女子してるな」

「そんなえっちな事はしてません!」

「何も言ってないだろ、?」


 ラディアはやめてやめてと呻くソフィをプロレス技の様にして押さえつけながら爽やかな表情で放つ。


「こ、、この人も、?」

「ああ。二人のバンドって話をした通り、この二人がそのメンバーだ」


 アリアが小さく呟くと、エルマンノが頷きそう前置きをする。そののち、彼は改めてアリアに向き直って放った。


「こちらが、俺の大切な妹。ラディアだ」

「ま、またその紹介ですかっ!?あ、えとっ、ラディアです!よろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします、」


 頭を下げるラディアに、アリアもまた頭を下げるものの、目を逸らす。そういえば、前に人見知りを発動していた事があった。普段はそうは見えないが。

 すると。


「あ、、あれ、?ど、どこかで、?」

「えぇっ!?いや、私は、、知らない、ですけど、」

「ん〜、?」


 ラディアは突如、アリアに目を細めて近寄る。それに焦りながら顔を背けるアリアに、エルマンノは目を細める。


「どうした?この人誰だっけ状態なのか?」

「いやまず会った事ないから!」

「ん〜、、なんか、何処かで見た事ある気がしたんですけど、」


 ラディアは腑に落ちない様子で顎に手をやり呟く。それに、エルマンノはまあ、同じ顔の人間は三人居るらしいしなと。それは置いておいてと言わんばかりに改める。


「それより、こちらが俺の大切な妹。長女のアリアだ」

「よ、よろしくお願いします、」

「はい!よろしくお願いします!お話は聞いてます!」

「えぇっ!?私の事どんな風に話してたの!?」

「壺買わされそうな妹が居るって話をしたな」

「私のイメージ壺なの!?」


 アリアが声を上げる中、ふとラディアはエルマンノに近づく。


「...おにぃ、、その、大丈夫、ですか、?」

「ん?何がだ?」

「お体ですよ!一昨日まで倒れてたんですから!」

「ああ、、まあ、特に、異変はないぞ」

「ほんとですか、?」


 覗き込むラディアに、エルマンノは目を逸らす。ここ最近感じる頭痛。霊的なもので片付けているものの、まさか、と。僅かに嫌な予感を覚えながらも、いやいやと。エルマンノは首を振って改めた。


「まあ、明日もう一回検診を受けるんだ。これからは一応通院する事になるし、異変があればそこで分かるだろう」

「本当ですか、?私の時は分からなかったですよ、?」

「ラディアは健康だったからだ」

「そ、そうですけど、」

「...」


 ラディアの俯く姿に、エルマンノは無言で見つめたのち、浅く息を吐いて改める。


「俺は大丈夫だ。あんまり、自分を責めなくていいんだぞ」

「っ、、せ、責めたくもなりますよ、、全部、私のせいじゃ無いですか、」

「まあ、色々あったけど、俺はこうして動けて、話して、元気にしてるんだ。他のみんなも、無事だ。何も気にする必要はない」

「で、でも、」

「なら、その埋め合わせとしてラディア。このくまさんを何とか出来ないか?」

「え、この、、ぬいぐるみの、縫い合わせ、、ですか?」

「そうだ。埋め合わせで縫い合わせだ。今ピンチなんだ。直せないか?」

「任せてください!」


 エルマンノがぬいぐるみをラディアに手渡しすると、それならと、彼女は強気にそう放った。その姿に、エルマンノは優しく微笑んだ。そこには、くまさんを直せる事だけじゃ無くて、ラディアに対しての感情も、含まれていた。


          ☆


「ふぅ、妹が増えるのは嬉しいが、カオスになりがちだな」

「ねぇ、にぃ。結局あのぬいぐるみの事聞いてないんだけど、」

「そうだな、、確かに、何でソフィの名前を呟いたのか、」

「いやその前に私に説明してよ、」


 その後、ソフィの部屋に上がった三人とぬいぐるみ一つは、それぞれリビングで、端の方でラディアがぬいぐるみを直し、その隣にアリア。その横にソフィとエルマンノ。彼の隣にオリーブが座って、部屋が狭いためギリギリの状態でテーブルを囲んでいた。


「俺も詳しい事は分からないが、元持ち主に捨てられたらしく、それのせいかは不明だがこうして話が出来るようになったらしい」

「霊的なもの?」

「まあ、ものに魂が宿る事もあるみたいだし、そういう感じではあるな。それで、元の持ち主のところに、一度会いに行きたいっていう話だったから、それを手伝う事にしたんだが、その際に口が破壊された」

「えぇ、、どういう状況、?」

「ご、ごめんなさい、」

「え、オリーブさんがやったの?」

「あぁ、、確かに、オリーブちゃんならやりかねないかもしれないですね、」

「ごめんなさい、」

「気にしなくていいぞ。本人も気にしてないだろうし。な?」

「全然オッケーだよオリーブちゃん!アゲていこう!」


 エルマンノの言葉に、オリーブが謝罪を口にすると、以前ドラムを破壊されたラディアは察する。尚も罪悪感に押しつぶされそうになるオリーブに、エルマンノとくまさんはそう口にする。と、そののち。


「だが、気になるのはそこからだ。...くまさん。ソフィの事、知ってたんですか?」

「えと、、そうだね。...知ってた、」

「わ、私は知らないけど、」

「元持ち主の人と、同じ、魔法学校に通ってたんだよね、」

「え!?」

「え!?」

「...何でエルマンノが驚いてるの、」


 くまさんの言葉に、ソフィが驚愕すると、エルマンノも何故か声を上げる。


「いや、富裕層な家系だったんだなと、」

「私は、、嫌だったけど、魔法科学校に行きなさいって、、言われて、」


 この世界には義務教育なるものは存在しないものの、学校というものは存在する。勿論、そこでは現世の様な勉強をするものの、基本は魔法の授業が集中的だ。歳は大学同様、入学の素質がある者、学費が払える者ならば、歳は関係無く入る事が可能である。


「学校に行ってたのはいつ頃なんだ?」

「もう六年くらい前の事だよ、」

「ソフィは何歳なんだ?」

「それ女性に聞く?」

「お兄ちゃんとして、聞いておかなきゃいけないだろう」

「二十三」

「おお、頃合いだな」

「何の?」

「エルマンノさいてー」


 ソフィとそんな事を話す中、アリアが割って入る。と、改めてソフィはくまさんに向き直る。


「...その、、その元持ち主が、私の事を知ってたから、、貴方も、って事、?」

「そうだね。一度、見た事もあったし、」

「ぬいぐるみを学校に持って来てるなら目立つと思うが」

「学校とは限らないでしょ」


 エルマンノが顎に手を当て呟くと、ソフィが告げる。と、そんな中、アリアはラディアに身を乗り出し手元を見据える。


「そ、それにしても、、凄いですね、」

「手つきがか?」

「えっちですか?」

「ちっ、違うっ!って!ラディアさんもそんな事言わないでください!」

「珍しいな。アリアが敬語とは」

「私そんなに敬語使わない常識のない人だと思われてるの!?」

「出会って数秒で俺にはタメ口だっただろ?」

「そ、それは、、誘惑、、する、ため、」

「何だ?」

「な、何でもないっ!」

「もしかしてアリアはサキュバスだったのか?」

「聞こえてるじゃん!って!違うから!」


 妹の言葉は聞き逃さない。エルマンノはそう強い意志を見せると共にそう返すと、アリアは赤面する。


「そ、そうじゃ無くてっ!そのっ、縫うの、、上手いなって、」

「あっ、ならアリアさんもやってみますか?」

「えぇっ!?わ、私はっ、そのっ、下手ですけど、」

「私も元々は不器用だったんです。こういうのは経験ですよ!」

「で、でも、」

「普段人を縫ってるのに、布を縫うのにそんな慎重にならなくていいだろ?」

「私医者だと思われてるの!?」


 エルマンノの淡々とした言葉に、アリアは全力でツッコむ。と、そののち、エルマンノは少し間を開けたのち、優しく微笑んで呟いた。


「大丈夫。最初は出来ないのは当然だ。料理もそうだっただろ?」

「っ」


 エルマンノの言葉に、アリアは目を見開いたのち、少し目を逸らして頷くと、微笑んでソーイングセットを差し出すラディアのそれを受け取る。


「凄い微笑ましい状況で申し訳ないんだけど、、それウチで試すんだよね?」

「あ、、ご、ごめん、」


 ふと、恐る恐る話し出したくまさんに、アリアはあ、と。声を漏らして謝った。


「痛みとかは無いんだろ?」

「でも、、その記憶は残るわけだし、恐怖ではあるよ、」

「麻酔が効いてるけど、意識がある状態での手術みたいなものなんだな」

「そうそうっ!それ!」

「じゃあこのぬいぐるみは私がやるので、アリアさんは、私が後でやろうとしてた刺繍の方お願い出来ますか?」

「えっ!?良いんですか!?私、刺繍に興味、あったんですよ!」

「ほんとですか!?なら、ちょうど良かったです!」

「普段から死臭を嗅いでるのにか?」

「私解剖医でもないから!」


 そんないつも通りの掛け合いをしたのち、アリアは刺繍に。ラディアはぬいぐるみの修復にそれぞれ戻る。その様子を見据えながら、ふとエルマンノはソフィに口にする。


「何か、、覚えとかはないのか?」

「え、何突然」

「いや、同級生なんだろ?」

「話戻り過ぎじゃない、?...分からない、、私、直ぐに辞めちゃったから」

「学校を?」

「うん、、なんか、馴染めなくて、、それで、音楽に興味あったから、」

「なるほど。それで、ちょっとした活動をしている中で、ラディアに出会ったわけだ」


 エルマンノの呟きに、ソフィは無言で頷く。


「まあ、くまさんの口を直して、家まで送り届ければ分かる事だ。そこまで無理して思い出す事でもないか、」

「...でも、、なんか、あの感じ、、どこかで、」


 ソフィがくまさんの話し方などを聞いて目を細める中、エルマンノもまた浅く息を吐いた。と、そののち。


「駄目だっ、、思い出せない、」

「昨日の記憶も曖昧なんだから仕方ないな」

「いつもじゃ無いから」

「いつも飲んで無いか?」


 エルマンノはそう口にするソフィにジト目を向けると、彼女は改めて口にする。


「それより、、にぃ、大丈夫、?」

「ん?何がだ?」

「わ、私のせいで、、倒れたでしょ、?」

「...ふっ、」

「はっ!?え、な、何!?」

「いや、、悪い、似たもの同士だなって」

「誰と!?」


 ソフィの切り出しに、エルマンノは思わず微笑むと、改めて答える。


「大丈夫だ。通院する事になったし、何かあったら早めに対処出来る状況ではあるから。そこまで気にしなくていい」

「...でもにぃ直ぐ無理すんじゃん」

「無理にはしてない。好きでしてるんだ」

「その方が危険だって、」

「まあでもとりあえず、今はくまさんを何とかしないとな」


 エルマンノは不安げなソフィにそう切り替えると、隣から、小さくオリーブが入る。


「ご、ごめんね、、私のせいで、」

「ん?まだ気にしてたのか?」

「そ、それは、そうだよ、」

「オリーブが気にする必要ないよ」

「そうだぞ?オリーブのお陰で、アリアとみんなを会わせる事が出来たんだからな」

「でも、、まず、このぬいぐるみの件も、私が言い始めたことだし、」


 オリーブは皆の言葉に、それでもと。俯きながら放つ。と。


「...いや、寧ろ、逆じゃないかな」

「え、?」

「オリーブが、ぬいぐるみを受け取ってくれて、いつもぬいぐるみと一緒に居てくれて、その声を聞きつけてくれて、、それで俺達にお願いしに来た。そのお陰で、くまさんの願いは、俺達に伝える事が出来て、こうしてみんなで協力出来てる。俺も、この手で救えるなら、救いたい。だから、ありがとうオリーブ。俺に、言ってくれて」

「...お、お兄、、たん、」


 今にも泣きそうなオリーブに、エルマンノとソフィがお互いに優しく微笑む。と、その時。


「出来ました!」

「おお」

「ど、どんな感じ?」


 ラディアがそう放ち、完成されたくまさんを差し出すと、当の本人は自身故に分からずに声を漏らす。


「全然目立ってない、、凄いな。縫い目も分かりずらいようにしてある、、これはプロだな」

「そんなに褒めても何もしないですよ?」

「えっちな事をいくらでもしてくれるって言ってたじゃないですか」

「えっちな事を言うのはですよ。するのはハードル高いです、」

「まあ、妹だしな。するつもりはない」


 エルマンノはそう口にしながらぬいぐるみを持ち上げると、そのまま鏡の前まで持っていく。そこには、口を直すために少し周りの布が凝縮しているものの、とても自然に直っているくまのぬいぐるみが映し出された。


「こちらでよろしいですか?」

「あははっ、床屋さんみたいだねっ!わっ、すっご!超盛れてる!」

「埋もれてるの間違いじゃないか?」

「存在が?」

「口元が」

「でも全然気にならないよ!サンキュー!ラディアちゃん!」

「はい!どういたしまして!」


 どうやら、とても満足した様で、くまさんは後ろにいるラディアに声を上げ感謝を告げた。と、そののち。


「よし、じゃあ、これで元持ち主のところに行けるな」

「だねっ!」


 改めてエルマンノとくまさんはそう覚悟を決めたのち、リビングへと戻る。と。


「う、うぅ?え?な、何、、こ、こっちが、、あれ?何の、糸?これ?」


 苦戦するアリアが居た。


「どうした?二本取りに挑戦してるのか?初めては一本の方がいいぞ」

「そうです!初めては一本!二本なんて体が持ちません!」

「それは狙って言ってるのか?」

「何の事ですか?」


 エルマンノに続いてラディアがそう言うものの、その様子は明らかに分かっての物言いだ。


「えっ、え!?に、二本取り!?な、何それっ!?」

「おい、二本でもなくないか、?というか、どうなってるんだこれ?」


 確かにエルマンノも裁縫なんて全く出来ないものの、これはそれ以上である。やはり、予想は当たってしまった様だ。


「ラディア、アリアにはまず玉止め玉結びから教えた方がいいと思うぞ」

「そっ、それくらい知ってるよ!」

「流石高学歴少女だ」

「ムッカァ!それ明らかに煽ってるよね!?」

「このまま裁縫やってくか?」

「え、?どうしたの?突然」

「いや、くまさんの直しが終わったからな。一応早めに元持ち主のところに連れて行った方がいいかと」

「あっ、そ、それもそうだね」


 アリアは、少し残念そうに呟いた。


「別にまだここに居てもいいんだぞ?」

「で、でも、気になるじゃん。ここまで来たなら、」

「元持ち主がか?」

「そう、」

「まあ、未来の妹になるわけだし、会っておいた方がいいかもな」

「それは確定なんだ、」

「なら、ラディア。今度、また教えてあげてくれないか?」

「えっ、はい!全然いいですよ!」

「ほ、、ほんと、ですか、?」

「はい!一緒にお裁縫しましょう!」

「はっ、はい!う、上手くなれるように頑張りますっ!」


 ラディアとアリアがそう元気に言葉を交わす中、エルマンノは微笑む。


「実は、今度のお祭りで刺繍で作った垂れ幕みたいなものを使用するんです!アリアさんも一緒に作りませんか?」

「お祭り、?」

「お祭り知らないか?」

「知ってるよそれくらい!」

「お祭り、、するの?」


 エルマンノとアリアが話す中、オリーブが割って入る。


「はい!夏のお祭りです!」

「そうか、、もうそんな季節か」


 エルマンノはしみじみしながらそう呟く。この世界にも、夏祭りなるものが存在する。イベント的には日本と変わらないが、雰囲気は海外の文化に似ている。幼少期に母に連れられた記憶がある。


「お兄たん!行きたい!」

「ああ。妹と夏祭り、、それこそ最高のシチュエーション。逃すわけにはいかないよな」

「やった!」

「妹全員で行こうな」

「うん!」

「えぇっ!?私も!?」

「てか、、わ、私パス、」


 エルマンノとオリーブで勝手に進める中、アリアが声を上げ、ソフィが掠れた声で放つ。


「嫌か?」

「人間が嫌、」

「じゃあ獣族の村で似た様なイベントやるか?」

「そういう問題じゃない。生き物増えすぎ、、半分くらい消えて欲しい、」

「どこぞの宇宙生命体みたいな事をしようとするな、」

「誰それ、」

「わ、私も、、ちょっと、人が多いところは、」

「前に大通りで買い物しなかったか?」

「うっ、、そ、それは、」

「まあ、引きこもり体質の気持ちは大いに分かる。...でも、妹全員で夏を過ごしたいのは、変わらないな」

「...」


 エルマンノが呟く中、くまさんは俯く。


「安心してくれ。その時は、くまさんも一緒だ」

「え、」

「妹の大切なぬいぐるみだぞ?一緒に決まってるだろ?な?」

「うんっ!くまさん!一緒に行こ!」

「...あ、ありがとう、」


 珍しく、静かに俯いた。表情は変わらないものの、どこか涙を浮かべている様に感じた。


「それならっ、刺繍頑張らなきゃですね!」

「そうだな。ラディアも主催者側なのか?」

「いえ!前に募集してたんです!垂れ幕を作ってくれる方募集って!なので、この機会に私の名前を広めようかと」

「なるほど。いい宣伝効果になりそうだな」

「はい!なので、私の垂れ幕にはラディアの名前が入ってます!...でも」

「え?」


 ラディアはそこまで言うと、少しの間ののちソフィに目を向ける。


「今は、私一人じゃ無いので、作り直してます」

「っ」

「エターナルブラッドって!」

「っ、、そうか、楽しみにしてるよ」


 ラディアの言葉に、ソフィは目を見開くと、それにエルマンノもまた目を剥いたのち、優しく微笑んだ。


「二人は、祭りでライブでもやるのか?」

「無理。ぜっっったい死ぬ」

「ソフィにはアルコールが必要だな」

「出たいですけど、、やっぱり流石にまだ知名度も、、低いですし、」

「その宣伝のための垂れ幕でもあるわけだしな。ライブは流石にまだか」


 エルマンノがそう呟いていると、ラディアが奥からチラシを渡す。チラシといってもギルドハウスにある様な紙だ。


「おお、これがか、」


 エルマンノがそれを受け取り呟くと、隣からアリアとオリーブが覗く。と、そこには、一日目がフェス。二日目の夜が花火大会と記載されていた。が、問題はそこではなく。


「えぇっ!?開催日明日!?」

「はい!」

「なら絶対私刺繍終わんないよぉ、」

「するつもりだったのか」

「うっ、、そ、それは、、まあ、楽しそうだなって、」


 エルマンノがツンデレめと微笑みながら見つめると、アリアは目を逸らす。


「でも、大きくなくてもいいんですよ?ハンカチくらいの大きさでも、全然!」

「なら、やっぱりここでやってくか?」

「いい!諦めた!」

「何と、、清々しいな、」

「なら、来年に向けて作りましょう!」

「そ、、そうだね、」

「あ、でも、」

「え?」


 ふと、その発言ののちラディアは思い出した様に寂しげな表情になり目を逸らす。それに、エルマンノは察して同じく俯く。


「ど、どうしたの、?」

「あ、あの、私、、もう少しで居なくなっちゃうんで、、教えるのは、それまでに、、なります、」

「え、」


 ラディアの少し寂しげに放つそれに、アリアは表情を曇らせて呟いた。


「ああ、実は、もう少しで引っ越すんだ」

「えぇっ!?ラディアさんが!?」

「はい、、すみません、」

「な、何でですか、?」

「親の、都合で、」

「そ、そっか、、それなら、仕方ないですね、」


 アリアは、そう呟いたのち、目つきを変えて顔を上げて笑った。


「なら、それまでに頑張ります!師匠の意思を継げる様に!」

「本当ですか!?じゃあ、頑張りましょう!」

「はい!」

「師匠何人増えるんだ、?」


 エルマンノはそう呟きながら、その二人の姿に、思わず微笑むのだった。


          ☆


「っと、色々と寄り道はしたが、これでとうとう元持ち主のところに行けるな」

「ありがとう!ほんと、、助かったよ」

「大丈夫だ。そのお礼は元持ち主が妹になる事でチャラだからな」

「元持ち主からしたらたまったもんじゃないよ、それ、」


 エルマンノがそう話しながら歩く中、アリアがジト目で放つ。


「それで、、くまさんのお家はどこなの?」


 と、そんな中、オリーブがくまさんにそう疑問を投げかけると、任せてと言わんばかりに胸を張り、道案内を始めた。


「結構遠いんだな」

「色々なところで持ち運ばれたからねっ!転売ってやつ!」

「そんな元気に言うことでもない気がするが、」

「いつまでも病んでちゃいられないでしょ!」

「それも、、そうだな」


 くまさんのいつも通りの声音に、エルマンノは安心しながらも、言われたルートを辿る。


「ちなみに、元持ち主はどんな人なんだ?性別以外の情報がないが」

「えーっと、、見た目は派手系だよ!」

「その話し方が元持ち主に関係あるんだろうなって、何となく分かるよ」

「おぉっ!鋭いね君!その人は紫がかった髪に緑寄りの黄色のインナーカラーが入ってるから、見つけやすいと思うよ!」

「凄いな、、いわゆるネオンカラーってやつか、?」

「そうそう!その人ギャルべだから!」

「ギャルゲの間違いじゃないか?」

「違う違う!ギャルベースの略!」

「イエローとブルーしか無いんじゃないのか、?」

「な、何の話、?」

「超次元の話だ。アリアとオリーブにはまだ早い」

「えぇっ!?何で!?」

「アリア!一緒だね!」

「きゃわっ!オリーブちゃんと一緒、、な、ならいっかぁ!」

「単純だな」

「エルマンノに言われたく無い」


 アリアがオリーブに悶える中、エルマンノはニヤニヤしながら放つ。すると、そんな会話をする事数分後。


「ここだよっ!」

「なんか、家は普通だな」

「家までデコってたら怖いっしょ?」

「まあ、ガーデニングの延長みたいなもんだしな、あれは」


 エルマンノはそう言いながら、ゆっくりとドアの前に立つ。


「ど、どうしたの?エルマンノ?」

「ぐ、具合悪い、?」


 アリアとオリーブが覗き込む。その中で、エルマンノはドアに目をやったまま口を開く。


「いや、、なんか、緊張するなと」

「えぇっ!?今更!?フレデリカの時も、私の時もっ、何も躊躇してなかったのに!?」

「いや、派手な人相手だと、流石に、」

「あははっ!そこで陰キャにならなくていいからっ!別に気にしなくて大丈夫だよ!そこまで怖い人でもないから!」

「そ、そうは言ってもな、」

「未来の妹なんでしょ?」

「そうだな。行こう」

「早、」


 エルマンノはくまさんの言葉に意識を改めると、ドアをノックしようと拳を作って手を挙げた。が、その瞬間。


「え、何あんた達、、うちの前で何やってんの?」

「「「え?」」」


 その場の全員が、背後から声をかけられ硬直する。

 そこには、紫がかった髪に緑寄りの黄色のインナーカラーが印象的な、サイドテールの女子が立っていた。間違いない。この人だ。


「初めまして。エルマンノと言います。この子達は妹です」

「だから違うって!」

「オ、オリーブっていいます!よろしくお願いします!」

「えぇっ!?オリーブちゃん!?否定しなよっ!」

「ううん、、私、お兄たんの妹だよ。お兄たんから、沢山のものを、、貰ったから、」

「え、そ、その言葉とどう繋がるのかは分からないけど、、え、あ、えと、私は、、アリア、です、」

「は?いや自己紹介いいって。それよりも誰?親と知り合い?」


 皆の自己紹介をスルーしながらそう切り出す。随分とトゲのある物言いだ。いや、こんな大人数で家の前に居たら怪訝に思うか。


「あ、いえ、そういうわけでは無く、俺たちはこの子を届けに来たんですよ」

「この子、?っ!」


 その人物は、エルマンノの持ったくまさんを見据え、目を見開いた。


「あの、、えっと、信じられないかもしれないですけど、この子に言われてーー」

「いらない」

「「「えっ」」」


 エルマンノが事情を話すよりも前に、その人物は割って入る。


「どうせ、、返しに来たんでしょ?いらない。ウチそれ捨てたの。だから、持って帰って」

「「「「っ」」」」


 ぶっきらぼうに放たれたそれに、エルマンノを含めた皆が息を飲む。その中で、くまさんもまた変わらないはずの表情が、僅かに動き、目を見開き、絶望を見せている様に見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る