第29話「妹ぬいぐるみと妹朝食」

「...助けて、欲しいのか、?」


 エルマンノは、ぬいぐるみの一言に、目の色を変える。何か、助けて欲しい願いがあって、話していたのだろうか。それを思った瞬間、目の前のぬいぐるみに、恐怖という感情はなくなった。


「うん、、お願い、」

「何を、、助けて欲しいんだ、?」

「その、、えと、持ち主を、、探して、ほしいの、」

「持ち主、?オリーブ、、じゃ無くて、?」

「うん、、正確には、、元の。...ウチ、捨てられた、から、」

「っ」


 エルマンノは目を見開く。元の持ち主に捨てられ、それが巡ってオリーブの元へ来たという事だろうか。だとすると、それが原因で、このぬいぐるみに感情が宿ったという事なのだろう。と、思うと共に。


「あのカラオケ大会の開催者、高かったとか言って無かったか?嘘か?それとも中古品買って景品にしやがったのかあの野郎、?」


 エルマンノは大会の景品である事を思い出し小さく呟く。


「拾われたんです、、その人が、商人で、、それで、」

「なるほど、、勝手に商品にされたと。...何考えてるんだよ、全く」


 エルマンノは息を吐きながらぬいぐるみを見据える。まあ、確かに綺麗だ。捨てておくには勿体無いと、思う輩はいるかもしれないな。


「まあ、でも、そのお陰で俺達は出会えたんだ。感謝しないとな」

「えっ、、うん、そう、だね、」

「分かった。元の持ち主を探そう」

「えっ!?い、いいの、?」

「ああ。オリーブも困ってるわけだし、断る理由は無い」


 エルマンノは、それが原因で成仏出来ていないのではないかと内心思いながら放つと、改めて問う。


「それで、、その持ち主が見つかったら、、どうするんだ、?」

「は、、話が、、したいの、、それだけ。ウチ、、きちんと、持ち主の本当の気持ち、分からないから、」

「なるほどな。...それがもし、自分の納得出来ないものでも、、いいのか、?」

「...うん、、そこまで、わがまま言えないから」

「そうか、」


 ぬいぐるみの表情は変わらない。だが、どこか悲しい顔をしている様に見えた。それにエルマンノは目を逸らしながらも、よしと。改めて告げた。


「とりあえず、今日は遅い。...明日から探そう」

「っ!...ありがとう!」

「ちゃんと心の準備しておくんだぞ?」

「え、?」

「一緒に行くに決まってるだろ。会わなきゃ、分からない事もある」


 ニッと。エルマンノは微笑んでそう告げると、今日は眠いからと布団に潜った。それを見つめるぬいぐるみの目の奥には、エルマンノが映っており、それはどこか、潤んでいる様に見えた。


          ☆


「ん、、んん、、こ、ここは、」


 エルマンノは、ゆっくりと目を開ける。


「見知らぬ天井だ」

「あ、お兄たん!おはよっ!」

「天国か、ここは」

「えっ」


 エルマンノは起き上がると、隣で巫女服に着替え、髪をとかすオリーブの姿があった。朝っぱらからその巫女服はヤバ過ぎる。


「ん、、んん、ん、」

「ん?アリアはまだ寝てるのか、」

「うん!...なんか気持ち良さそう、、なんの夢見てるんだろ〜」

「気持ちいい夢見てるんだろうな。俺をハエ叩きで叩く夢とか」

「ハエ叩き、?」

「平手打ちかもしれない」


 エルマンノは相変わらずのアリアの様子に、内心ホッとしながらも、彼女を起こす。


「起きろ〜。他所の家でもそんなぐっすりなのか?ん、いや待てよ。俺の家も他所の家だな」


 やはりアリアは相当肝が据わっている様だ。いや、ただ能天気なだけか。


「起きろ妹よ。起きないと色々しちゃうぞ」


 エルマンノはそう呟きながらゆっくりとアリアの布団に入り込む。


「布団は布団でありだな。これこそジャパニーズ布団。獣族の村は和の文化っぽいものがところどころに見られてホームシックになりそうだ」

「うぇっ!?な、なななっ!何やってるの!?」

「おはよう妹よ」

「いやっ、へっ!?何でっ、こんなちかっ」

「おはよ〜アリア!」

「あ、う、うん、、おはよう、、って、何でこの状況が普通である様な雰囲気なの、?」

「二度寝するか?」

「しないっ!」


 エルマンノが掛け布団を広げて誘惑するものの、アリアは即答する。かなしい。


「はぁ、、もう、朝から、声上げたくないのに、」

「相変わらず低血圧なのか?」

「そう直ぐに変わるものじゃないでしょそれ、」

「それもそうだな」


 頭を押さえながら支度をしようとするアリアに、エルマンノは淡々と呟くと、布団から起き上がり片付け始める。と。


「ねぇ、、その、お兄たん、、その、ごめんね、、私が、、お願いしたのに、その、先に寝ちゃって、」

「ああ、大丈夫だ。俺は妹なら助席で寝ても怒らないぞ」

「助席ってなに、?あと、妹じゃないと怒るの、?」

「当たり前だ。俺は運転席で寝る人間だ」

「だから運転席って何、?人力車とか馬車の話?」

「なんで人力車はあるんだよ、」


 エルマンノはこの世界の交通に愚痴を零す。そう言われると、王国には馬車だけで無く、路面電車の様なものも走っていた記憶がある。と、それにオリーブが付け足す。


「そ、その、、ね、その事で、お兄たん、、その、」

「ん?ああ。ぬいぐるみの事か?」

「う、、うん、、先に寝ておいて、、その、あれだけど、どう、、だったのかな、って、」


 オリーブは罪悪感を露わにしながらそう呟く。そういえばと。エルマンノは部屋の奥にあるぬいぐるみを見据えた。確か昨日、薄れた意識の中話した記憶がある。何か助けを求めていた様な。だが、あの後直ぐに寝てしまったため、それが現実であったのか、はたまた夢だったのか、上手く覚えていない。いや、あんな事あるはずがないな。エルマンノはそう思いオリーブに向き直って微笑んだ。


「何事も無かったよ。大丈夫」

「そ、、そっか、」

「きっと、オリーブが何か他のものを聞き取っただけで、このぬいぐるみがどうこうってわけじゃないんじゃないかな」

「このぬいぐるみが話してるんだってば。なーに忘れてるの?」

「やっぱりそうなのか、?オリーブがそう言うなら、そうなのかもしれないが、お兄ちゃんは経験してな、、え?」


 突如聞こえてきた返答にエルマンノは答えるものの、オリーブは驚愕した様子でぬいぐるみを見据える。その様子に、エルマンノは察する。確かに、オリーブの声じゃなかったかもしれないと。ならばアリアか。エルマンノは振り返り彼女を見るものの、アリアもまたぬいぐるみを見据えていた。と、いう事は。


「昨日の事なのにもう忘れたの?ウチのこと」

「っ!?あ、あれは夢では無かったのか!?」

「寝ぼけてるの〜?でも、今ので目覚めたっしょっ!」

「え、あ、ああ、」


 エルマンノは追いつけていない様子であった。ぬいぐるみが話している。しかもテンション高くだ。


「...その、昨日はそこまで流暢に話して無かったんじゃ、」

「ああっ、あれ?まあ、確かに、罪悪感が大きかったし、調子悪かったから」

「調子悪いとかあるのか、?ぬいぐるみなのに、」

「ウチもびっくりしたよ!痛みとかは感じないのに」

「え、えーっと、その、エルマンノは昨日私達が寝た後、声を聞いてたって事、?」

「ああ。夢じゃ無かったみたいだな、、一人で寂しかったぞ」

「ご、ごめんね、、私が言い出したのに、」

「オリーブのせいじゃない。アリアのせいだ」

「えぇっ!?なんで私なの!?それに、元々私に色々言って怒らせたのはエルマンノの方じゃん!」

「寝たフリでもなかったみたいだが」

「う、、それは、その、久しぶりに、、安心して眠れる場所に、、来れたから、」


 アリアのその一言に、エルマンノは目を細める。すると、ぬいぐるみの方から声をかける。


「ごめんね!突然でびっくりしたよね!貴方、オリーブと、アリアっていうんだね!よろしくっ!」

「えぇっ!?う、う、え、と、よろしく、」

「どうしたアリア。怖いのか?」

「当たり前でしょ!?」


 ぬいぐるみの顔だけが突然動き、アリアに視線を向けると、彼女はビクッと肩を揺らし、青ざめた顔でお辞儀をした。


「その、、こちらこそごめんね、、私、少し誤解、してたかも、、しれない、えと、私はオリーブ!お兄たん、だと、あれだから、、くまさん!よろしくねっ!」

「俺はあれなのか?あれって何だ?」

「かっわいい〜!うん!こちらこそっよろしく!」


 なんか平然と打ち解けているが、相手はぬいぐるみである。ここまで自然だと、何かのドッキリかと思ってしまい、どこからかスピーカーで話しているのではとエルマンノは周りを見渡したりぬいぐるみを持ち上げる。


「うわっ、大胆だね君!」

「いや、なんか細工でもされているのかと」

「まだ信じてくれてないの?」

「いや、昨日のなら信じられたが、ここまで元気だと流石に、」

「みんなこそもっとアゲてこっ!」

「こっちの世界にもギャル語みたいなのが存在するんだな」

「ギャル語?」

「何でそれは知らないんだよ、」

「ギャルの言葉的な?」

「ギャルはあるのか、」


 ギャル味を感じるぬいぐるみに、エルマンノはジト目を向ける。そんな中、アリアもまた信じられていない様子だ。いや、怖くて信じたくないのかもしれない。


「とりあえず、状況を整理しよう。まずはそこからだ」

「オッケー!」

「うん!」

「わ、私帰っていい、?」

「どこにだ?」

「う、、わ、分かった、」


 エルマンノの指摘に唇を尖らせながら、アリアはこのノリに渋々入った。


「まず、どうして話せる様になったんだ?」

「多分、未練がある的な?」

「まあ、昨日の話からしてそうだろうな、、だが、何でオリーブと一緒の時にそこまで話してくれなかったんだ?オリーブはお願いとしか聞こえてこなかったと言ってたぞ?」


 エルマンノがそう言うと、隣のオリーブが強く頷く。


「オリーブはいつもぬいぐるみと一緒だったって言ってる。なら、話しかけるタイミングはいくらでもあったと思うんだが、」

「何でって、そんな急に話しかけたらびっくりしちゃうでしょ?」

「十分びっくりしてるが、」

「だからまあ、少しずつと思ったんだけど、少し話したら怖がられて、押し入れに閉じ込められちゃったから」

「っ!ご、ごめんねっ!そのっ、そんなつもりはっ」

「全然オッケー!気にしてないよ!オリーブちゃん可愛いくて純粋だから、ちょっと言い出すのに時間がかかっただけ!」

「それでも、昨日の話なら、捨てられた後に拾われて、売られたって事に繋がると思うんだが、、その間に話したりはしなかったのか、?」

「するわけないじゃん!そんな、拾った物を売る様な連中だよ?ウチが話したらきっと実験施設とかに売り飛ばされるよ」

「あ〜、、ありえるな」


 オリーブを横目に、エルマンノは呟く。そういう連中が多い事も、知っているからだ。


「だが、そこまで知能があるのは凄いな」

「まっ、ウチ天才だから!」

「元の持ち主が優秀だったんじゃないか?」

「それもあるね。アリ寄りのアリ」

「それはもう蟻だ」

「でっ、でも、オリーブちゃんには、話したわけでしょ、?」

「え?それはそうだよ!オリーブちゃんはそんな事しない子って、直ぐ分かったから!」

「っ」

「ま、俺の妹だからな」


 アリアの問いに、くまさんはそう強く放つと、エルマンノは自信げに放った。すると。


「君もだよエルマンノ君」

「え?」

「立派で素敵なお兄さんなんだって、カラオケ大会の時から思ってた」

「見てたのか?」

「もちのロン!」

「古くないか?」


 エルマンノはいまいちくまさんの性格が掴めない中、そう呟くと、よし、と。目つきを変えて足を踏み出した。


「じゃあ、元の持ち主、捜しに行くか!」

「っ!ありがとうっ!」

「だ、大丈夫なの、?エルマンノ、」

「まあ、ちゃんと成仏してほしいしな、」


 エルマンノの言葉に、くまさんはどこか泣きそうになっている様に見えた。と、そんな中アリアが小さくエルマンノに耳打ちすると、ハッと。改めて振り返った。


「そういえば、その元の持ち主って、男性なのか?女性なのか?」

「女性だよっ!」

「おお」

「うわ、、どうせまた妹にしようとしてるんでしょ、」

「流石は長女。長い付き合いなだけあるな」

「エルマンノさいてー」


 アリアが引き気味に呟くと、突如その場にバカでかい音が響く。それはーー


「ご、ごめん、なさい、」


 オリーブからだ。どうやら、お腹が空いたらしい。


「...そうだな、まずは朝食だな」


 エルマンノは腹が減っては戦はできぬと言うように、朝食の準備を始めた。


          ☆


「っ!美味しい〜!オリーブちゃん今日の凄く上手く出来てるよ!」

「え、、そ、そうかな、?アリアに、教えてもらったから、だよ、?」

「〜〜っ!毎日一緒にご飯作ろうね!」

「...」

「な、何、?」

「微笑ましいと思って」

「エルマンノの微笑ましいはニンマリでしょ」

「こういう顔なんだ」


 朝食を囲む一同は、それぞれ料理を担当したオリーブ、それを教えたアリア。それを確認しながら監督という役割をこなしたエルマンノで、感想を言い合った。


「...うまくなったよ、、ほんと、料理も、腕も、」

「え、?」


 エルマンノが小さく微笑みながら、妹の成長を感慨深く受け止める中、ふと、くまさんが口を開いた。


「凄く美味しそうだね、、見てるだけで食べたくなる、」

「ぬいぐるみでも、腹が減ったりするのか?」

「いや、そういうのは無いけど、美味しそうとかは分かるもんだよ」

「そうなのか」


 エルマンノはそう呟きながら、それでも食べられない辛さを考え、目を逸らす。と、そんな最中、オリーブはその言葉にハッとしてくまさんに駆け寄る。


「ごっ、ごめんねっ!気づかなくてっ!えと、はいっ!あーんっ!」

「なっ!?」


 オリーブは、自分の料理をスプーンに取ってくまさんの口元に伸ばす。くまさんは口がないのだ。話しているからとはいえ、口があるわけではない。それを知ってか知らずか、オリーブは純粋にも笑顔で差し出す。だが、一番の問題は。


「ごはっ!?」「うぶっ!?」


 あの天使が"あーん"。破壊力が半端ない。エルマンノとアリアはまたもや尊死した。


「きゃっわ〜!オリーブちゃんの可愛さレベチだね〜!いいの、?」

「うん!いいよ、?」

「ごはっ!」「うはっ!?」

「ありがとう、」


 オリーブの小さく呟いたそれに、エルマンノとアリアはぶっ倒れた。それに、くまさんは純粋に感動しながら感謝を告げると、オリーブはスプーンをーー


 ーーくまさんに突き刺した。


「ごぶっ!?」

「あぁっ!?オリーブちゃん!?」

「あっ、ご、ごめんなさいっ!」


 忘れていた。オリーブは怪力であった。力加減が分からずにぬいぐるみの口部分を突き破ってしまった様だ。と、慌ててアリアが声を上げ、オリーブもまた焦りながらスプーンを引き抜くと。


「ひっ、」


 穴の空いた口の周りに、ソースが付いていた。これはグロい。自分でやったというのにオリーブは恐怖している。


「う、うわぁ、、なんか、グロい、」

「ホラー映画で出てきそうだな」

「ぬいぐるみが話してる時点でホラー映画だって、」

「やっぱりどこぞの夫妻に引き取ってもらった方がいいか、」


 アリアとエルマンノがそんな会話をしている中、オリーブは慌ててティッシュを取り、口元(?)を拭く。すると。


「超美味いね!オリーブちゃん天才っ!」

「へ、?ほ、ほんと、?」

「うん!結構練習したんじゃない?」

「え、えと、い、一か月、くらいかな、?」

「えぇっ!?そマ!?いや早くない!?やっぱオリーブちゃんパないよぉ!」


 そうかな、と。オリーブが照れ笑いを浮かべると、エルマンノが突如ひょいと顔を出す。


「じゃあ、その、残りのスプーンは俺が貰っていいか?」

「へ?う、うん、、いいよ、?な、何かに使うの?お兄たん、」

「食べます。ごはっ!」

「スプーンは食べ物じゃないから!」

「えぇ、」

「えぇはこっちの台詞だよ、、相変わらずおかしいんだから、」


 以前同様。妹スプーンは食べ物である。エルマンノはおかしいで済まされない考えを浮かべながら、残念そうに項垂れた。


「わ、悪かった、、オリーブ、返すよ」

「え!?」

「う、うん!別に、嫌じゃないよ、?」


 オリーブは何故か赤面しながらスプーンを受け取ると、それで食事を続けた。まさかエルマンノが食べかけたスプーンをまだ使ってくれるとは。やはりオリーブはブラコンに近い様だ。お兄ちゃんは捗ってしまうぞ。


「オリーブちゃん、、そのスプーン使わない方がいいよ、」

「アリアが欲しいのか?」

「違う!」

「アリアも欲しかったの、?」

「ちっ、違うからっ!オリーブちゃん!」


 皆がいつもの様な会話をするのを、くまさんはただ見つめていた。その瞳は、いつもと同じなのにも関わらず、どこか遠い目をしている様であった。そんな、くまさんに。


「...料理の味、本当に分かったのか?」

「...ちょっとわざとらしかった?」

「まぁな。それで騙せるのはオリーブと、児童向けアニメの主人公くらいだ」

「アニメ?」

「こっちの話だ」

「まあ、、それは、仕方ないって、ウチも思ってる」

「騙す事がか?」

「ううん。味が分からないって事」

「まあ、、ぬいぐるみだからな」

「いつか、、食べてみたいなぁ。本当に、、オリーブちゃんの料理、、後、アリアちゃんのも」

「...」


 寂しげに語るくまさんを、エルマンノはただ無言で見つめる事しか出来なかった。成仏は本当に出来るのか。もし、出来なかったら。そう考えると、エルマンノは心が痛かった。ぬいぐるみに、皆と同じように会話の出来る、意思が存在する。皆とは、違うというのに。それがずっと続くのだとすれば、このくまさんは、どう思うのだろう。エルマンノは明るい性格故に、くまさんの辛い部分に歯嚙みした。


ー明るい人の闇の部分は、、難しいな、、アリアといいー


「君は、やっぱりいい人だね」

「え?」

「...妹の事、考えてるでしょ?」

「毎秒考えてます」

「はははっ、流石!」

「...いい人とかじゃ無い。ただ、力になりたいんだ。自分の手が、届く範囲なら。...それは人だろうがそうじゃなかろうが関係ない」

「...ごめんね、」

「俺はごめんより、ありがとうの方が嬉しいかな」

「...ありがとう」

「ああ。絶対に、元の持ち主、見つけるぞ」


 エルマンノは力強くそう告げる。と、どうやら会話が聞こえていた様で、オリーブとアリアもまた、力強く頷く。


「アリアは、怖がってたんじゃないのか?」

「怖いよ!というか、まずどゆことっ!?って感じだし!」

「まあ、それは俺もそうだな」

「でも、、なんか話してるの聞いてると、、私達と別に変わらないような気がして、、助けたいって思う理由、分かる」

「そうか、」

「みんな、、ありがとう、、あったかいなぁ、ほんと、」

「俺の妹だからな」

「妹じゃないから!」

「えぇ、そろそろ良く無いか、?」

「えぇっ!?君達兄妹じゃないの!?」

「あー、まあ、血は繋がってないな」

「連れ子だったみたいな言い方やめてよ」

「えっ!?連れ子でもないの!?」

「勝手に妹にしてくるの。気をつけてね?エルマンノ誰でも妹にしちゃうから」

「人形にって、、中々ハードな性癖だろ、、俺はそこまでじゃないぞ」

「エルマンノは十分ハードだって、」


 アリアとエルマンノの会話と、それを笑って見つめるオリーブ。その様子に、嘘は無さそうであった。それに、くまさんはポカンとしているのが伝わった。


「え、ちょ、待って、、じゃあオリーブちゃんも、」

「うん!血は繋がってないよ!」

「アリアちゃんも、、妹じゃ、ないん、?」

「うん」

「えぇぇっ!?」

「な、何でウチより先にびっくりしてるの?」

「いや、驚愕で、」


 何故かエルマンノが声を上げる中、くまさんはあっけらかんとしていた。


「ん、?どうしたんだ、?」

「いや、なんか、凄い人達のところに来たなぁって」

「え、?貴方がそれ言う、?」

「あははっ、まあ、それもそうだねぇ」

「つまり、直ぐ馴染めそうって事だな」


 アリアのツッコミに、くまさんは笑うと、エルマンノが微笑みながらそれを呟いた。その言葉に、くまさんもまた、優しく微笑んでいる様に思えた。


          ☆


「さて、、そろそろ行こうか、、と、言いたいところだが、」

「どうしたの?お兄たん、?」

「よく考えたら、、これヤバくね、?」


 目の前のくまのぬいぐるみは、なんと口元に穴が空いていた。


「ノリで見てたけど、、確かに、」

「...こんな状態で戻ってきたら流石にヤバいよな、」

「ごっ、ごめんなさいっ、、やっ、えと、申し訳、、ございません、」

「大丈夫だ。オリーブ。やってしまった事は仕方ない」

「エルマンノの魔法とかで、なんとかならないの?」

「体の傷とかなら治癒魔法があるが、」

「前にお皿直してたよね?」

「やってみるか」


 エルマンノは、以前同様の魔法で直そうと試みた。がしかし。


「クッ」

「うっ」

「え、?どうしたの、?」


 エルマンノとくまさん。互いに声を漏らす。


「悪い、また偏頭痛だ。...と、いうより、多分魂が宿ってるからか、上手く無機物を直した時の様には出来ないな、」

「そ、そうなんだ、」

「ごめんなさい、」

「あはは、、ウチは全然これでオッケーだよ!何だか、話せてるみたいな感じになるし!」

「いや、、問題は元の持ち主がどう思うかだ、、ただでさえ一度捨ててるんだから、、これは、」


 エルマンノは言葉を濁しながら、アリアと共にテーブルの上のぬいぐるみを凝視する。その隣で、頭を押さえて謝るオリーブに大丈夫だぞ〜とエルマンノが尚も付け足す中、アリアがふと口にする。


「なら、私が縫って直す!」

「やめておいた方がいいと思うが、」

「何でよ!?」

「いや、、アリアって、不器用な方だろ、?」

「う、、ま、まあ、、そうだけど、」

「ちなみに、裁縫の経験は?」

「...ない、」

「なら厳しいな」

「決めつけないでよ!」

「わ、私、、は、?」

「オリーブは、、厳しいな、」

「うぅ、、ごめんなさい、」


 エルマンノはオリーブの先程の光景、ドラムの破壊を考え渋々口にする。と、そののち。


「仕方ない。他の妹を当たってみるしか無いな」

「フレデリカ?」

「確かに、フレデリカはなんか全部出来そうなイメージあるが、、まずは挨拶も含めてあの二人のところに行くか」

「あ、もしかして前言ってた、新しい妹、?」


 エルマンノが顎に手をやり考えながらそう告げると、アリアはそれを察して口にする。と、それにエルマンノはその通りだと。流石妹だと言わんばかりの表情で、強く頷いたのだった。


          ☆


「それにしても、元持ち主を捜すっていっても、どうするんだ?見た目の特徴とかを聞いて捜すのは、、中々骨が折れる作業だが、」


 エルマンノはソフィの家に向かいながら、抱えたぬいぐるみにそう口にした。


「それは大丈夫だよっ!元々居た家だから。大通り辺りにまで連れて行ってくれれば、大体の家の場所分かるし」

「なるほど。そうか、完全に手がかりがないわけじゃないもんな」

「そうそうっ!ただ、ウチ一人じゃ動けないし、みんなの力が必要だったって感じ!」

「なら、直ぐに元持ち主は見つかりそうだな」


 元気に話すくまさんに、エルマンノは微笑む。と、そんな矢先、目の前にはソフィの家が見え始める。


「あっ!お兄たん!見えたよ!」

「っと、話してる間に」

「え?ここが、、その人の?」

「ああ。この家の二階に住んでる。ここは貸家なんだ」

「な、、なんか、、ボロい、」

「初っ端から失礼だな。...まあ、壁は薄いし、間違いではないが」


 アリアの呟きにジト目を向けながらも、エルマンノはその家をマジマジと見据え呟く。そののち、エルマンノとアリア、オリーブは階段を登り、二階の玄関前にまで到達する。


「今日はどうかなぁ」

「どうかなって、、何かあるの?」

「朝から飲んでるかって話だ」

「えぇ、、そういう人なの、?」

「この間はいっぱい飲んでた!」

「嘘、、大丈夫なの、?その人、」

「まあ、大体想像通りの人だ」

「はははっ、楽しそうな人だね!」


 アリアがエルマンノとオリーブの言葉に引く中、くまさんはその人物を想像して笑う。そのビジュアルで笑わないでくれ。怖すぎる。


「びっくりするぞ。属性を詰め込んだ様な妹だからな」

「え、?何の属性、?」


 エルマンノはそう告げながら、ドアをノックする。と。


「おーい、居ないのか?」

「はいはい、、もう、聞こえてるから、、うっさいなぁ、もう、」

「お、二日酔いか?」

「朝っぱらから来られると中々困るんだけど、」

「早かったか?もう十一時だが」

「私は十時半に起きるの」

「良く寝てるんだな」

「寝てない。寝るのは深夜三時」

「何でフレデリカといい、こうも寝ない妹が多いんだ、?」


 エルマンノがジト目を向けて呟く。


「で?何?なんかいっぱい人連れて来て、、てかあの人だれ?」

「えっ!?あ、はいっ!わ、私っ!アリアって言いまーー」

「嘘、、ソフィ、?」

「「「「え?」」」」


 ソフィがアリアに視線を送り、彼女が自己紹介をする中、ふと。

 くまさんが、震えた声で放った。


「こんなところに、、居たんだ、」

「...知ってる、のか、?」


 その場の皆が困惑する中、エルマンノは眉間に皺を寄せて呟いた。

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