第26話「引きこもり少女が妹になった日」

「もう!うるさいよ!」


 ドアをバンと開けて、ラディアはそう声を上げる。


「うぇ〜、、いいじゃん、こんぐらい、」

「ここ壁薄いの知ってるでしょ!?」

「安かったからね〜。うおっ、って、クソッ、そこ左だろなんで右から攻めるかなぁ!?つーかまずお前タンクなんだから前線いけよ間抜け!」

「何やってるの?ソナーで会話?」

「誰と?」

「友達?」

「うわぁ、、なんか心苦しい事を言われた、」

「あー、ソフィ友達居ないもんね〜」

「居るし、、今ここに、」


 怒りながら放つラディアに対し、ソフィは口を尖らせて返す。と。


「はいはい。それで許すと思った?で?何やってるの?」

「精霊で戦闘シミュレーション。今流行ってる。精霊同士で三対三のチーム作って戦わせる」

「えぇ、それ大丈夫なの、?」

「別に本当に殺したりしてないから。元々精霊は形を持たないし、今目の前にあるのは精霊が作り出してる虚像に過ぎないんだよね」


 ソフィは、机の上で小さな人型のもの同士が戦う様を見つめながら放つ。


「それで?なんでそれでそんなうるさくなるわけ?」

「静かにやってるつもりなんだけど、、ってぇ!あーもう!ラディアちゃんのせいでダウン入ったじゃん!もう!こいつさっさと回復させろよカス!」

「はぁ、独り言が大きいのね、」

「う、、ごめん、」

「下の階の住人が私じゃなかったらこれじゃ済まないよ?」

「分かった!分かったから、、ごめんなさい、、今度から気をつけるから、」

「それで?その精霊さんはいくらで買ったのかな〜?」

「う、、そ、それは〜、」

「今ライブが少なくて危ないって話この間したよね?」

「は、はい、」

「それで?いくら?」

「ぎ、、銀貨、四枚、」

「あーっ!またそんなっ!私は服が破れても自分で縫って何回も着てるのに!」

「ラディアちゃんは、、ケチ過ぎなんじゃ、?」

「はいじゃあ路上ライブ一人で頑張ってねー」

「なっ!?そ、それはっ」

「だって前言ったじゃん。また無駄遣いしたら一人で路上ライブやってもらうって」

「そ、、そんなっ、こ、これは無駄遣いじゃなくて、」

「はいはい。言い訳しない」

「う〜、」


 ラディアに押されて、ソフィは嫌々ながら外へと足を踏み出す。


「グッ!?うわっ、め、目がっ、目が焼けるっ!?」

「たまには日差しを浴びた方がいいよ」

「お、お肌の敵だって、よく言うけど!?」

「日光浴も大事だよ?」

「あぁ、体がっ、溶けるっ!太陽近づいてない?昨日より」

「昨日外出てないから分かんないでしょ。ほら、早く行く!」


 背中を無理矢理押され、抵抗するものの、ソフィは大通りにまで到達した。


「さぁ。ほら」


 ニヤニヤとしながら、ラディアはそうソフィに放つと、顔を赤くする彼女を他所に声を上げる。


「皆さん!おはようございます!突然ですが、私達!エターナルブラッドって言います!一度活動休止してましたが、今また二人で再結成しました!」

「ら、ラディアちゃぁん、、や、やめてよぉ、」


 ただでさえ、ソフィの姿に周りの皆は目を向けていた。やはり、ビジュアルだろうか。街行く人達も、そのオーラに目を向けたがるのだろう。そんな中、ラディアはそれに拍車をかける様にそう放ち、続ける。


「今日は珍しくソフィのソロライブです!皆様、よろしければお聞きください!」

「も、もう、やめよ、?ね?」

「はい!いっせーのっせーでっ!」

「う、うぅ、」


 ソフィは声を漏らしながらも、歌い始める。ギターもない。音源もない。アカペラである。しかも路上で。これは恥ずかしい。ただでさえ外に出るのが苦痛なソフィには、地獄でしか無かった。その姿を、ラディアはニヤニヤと見つめる。悪魔か。

 彼女が言うには、その恥ずかしがりながらモジモジとして歌う姿が、皆から評判が良いらしく、ここでお金が稼げるらしい。とんでもない性格をしている。

 一番が終わって、二番に入る。ソフィは尚も恥ずかしさが抜ける事無く、歌い続ける。皆の視線が痛い。怖い。逃げ出したい。そう、思いながら強く目を瞑った。と、その時。


「っ!」


 隣で、突如ギターの音が聞こえる。


「ラディアちゃん、」

「ほら、歌って!」

「あ、え、う、うん!」


 ラディアは持っていたギターで、突如演奏を始めた。それにソフィは目を見開くと、まるで本当のライブの様に、二人は歌い始めた。その姿に、周りの人達も歓声を上げた。


「ありがとうございましたっ!そのっ、本当にっ、ありがとうございました!是非、私達エターナルブラッド。名前だけでも覚えていただけたら幸いです!」


 演奏終了後、ラディアは頭を下げながらそう放つ。それに、ソフィは僅かに頰を赤らめながら口を開く。


「その、、えと、ありがと、」

「ん?まぁ、流石に可哀想だったからね!それに、私の名前も、少しは覚えていってもらいたかったし」

「ありがとう、、私の、せいなのに、」

「これに懲りたらもう無駄遣いしないでよね?」

「う、うん、」


 皆からの投げ銭を集めながら、ラディアがそう言うと、ソフィは小さく頷く。と。


「三人の時も、よくこんな感じだったよね」

「え?」

「ソフィに歌わせて、二人で後から入ってさ。結局、路上ライブが、本格的になっちゃって、周りのお店から怒られたっけ」

「そんな事も、、あったね、」

「うん。また、三人でバンドやりたいね」

「...で、出来るよ」

「え?」


 ラディアが立ち上がって遠くを見ながら放つと、ソフィはそう強く放つ。


「私、、気をつける。ちゃんと、、相手のこと考えられる様に、、少しずつかもだけど、、変えていくから、、だから、ラディアちゃんと、、こうして戻れたみたいに、、また、三人で話し合って、、さ、」

「うん!そうだね!まあ、それはおにぃのお陰でってのもあるけど」

「うん、、ほんと、、頭上がらないな、、今度は、、私、頑張るから、、にぃの力借りずに、上手く、話せる様に、する。...そして、メンバー三人で、にぃに、挨拶に行って、、お礼を言って、、そしたらまた、三人共妹にされるのかな、」

「はははっ、そうかもね〜。でも、メンバー三人。全員姉妹ってのも、いいかもね」

「...うん、」


 頰を赤らめながら、ソフィは微笑んで頷く。それに、ラディアもまた笑みを浮かべると、朝ご飯にしようかと促し、二人は家へと戻るのだった。

 もう一人の元バンドメンバーの居場所は既に分からない。だけど、こうしてラディアとソフィがまた会えて、偶然にエルマンノと出会えたそれがあるのならば、また、と。ソフィは優しく笑顔を浮かべながら今という最高の瞬間を。大切でかけがえのない大好きな人との時間を、噛み締めた。


          ☆


「...あれからずっとああね、」


 王国の丘の上から、フレデリカは街を見ながら呟く。

 そこには巨大で、薄らと見え隠れするドームの様なものが存在していた。


「なんだか、、日に日に大きくなってるみたい、」

「...」

「それで、、あんたもあれからずっとそうね」

「...俺のせいなんだ、」


 隣に座るエルマンノにフレデリカは目をやると、彼は蹲りながらぼやいた。


「気づけなかった、、もっとよく考えれば、、分かった事だ、、ソナーが聞こえてるのはこの中では俺だけだったのに、、その声に気づけなかった、、そして、演奏の音楽が無かったのも、まだ未完成のままだったからだ、、それに、病院の人も適当な検査をしてたわけじゃ無かった。...ラディアは元々、体に異常なんて無かったんだ、」

「...別に、あんただけの責任じゃない、」

「俺のせいだろ!?俺はお兄ちゃんなんだ!妹の事っ、、もっと、」


 エルマンノはそう叫びながら立ち上がり、フレデリカに迫るものの、その彼女の表情で口を噤む。


「...悪い、、熱くなりすぎた、」

「...これ、、ソフィによるものなのよね、」

「ああ、、この魔力、、あのソナーの主がソフィだったなら、不思議な事はない」


 少し落ち着きを取り戻したエルマンノは、フレデリカが見つめる先。そのドーム型に広がっている膜が、どんどんと広がる様を見据えて目を細める。


「あんた、、近くにいたんでしょ、?その時。何か覚えてないの?」

「恐らく、弾き飛ばされたんだ。そこからは記憶がない。その後はフレデリカに助けられた。覚えてるのはそれくらいだ」

「...そう、」

「あれから二日悩んでる中で、ラディアの件について、一つ案が出来たんだ。...でも、それよりもまずソフィを何とかしなきゃいけないよな、」


 エルマンノは、二日前。即ち二人でラディアの家に行き、瀕死の状態である彼女を見つけた時から、ずっと部屋に篭って自分を責めながら打開策を考えた。どうして、妹の事をもっとちゃんと見て、聞いていなかったのか、と。

 そしてその末、ようやく案が思い浮かんだものの、それが出来るかは分からなかった。それ故に、フレデリカの元にやってきたのだが、なんとそれによって引きこもっていたのは、エルマンノだけでは無かった様だ。


「そうね、、このままだと、みんな飲み込まれる、」

「相変わらず、引きこもり少女だな、、ほんと、」

「きっと、彼女は引きこもってる事にも気づいてない。恐らくあの中で、取り込んだ人達と"ソフィが考える理想の世界"を作り上げてるんだと思う」

「あの中でも、普通に生活出来てるって事か。なら、いっそのこと、全部取り込ませれば、普通の生活に戻るんじゃないか?」

「それは違う。あの中の人達に、意識はない。ラディアもまだ、瀕死の状態のままだと思う」

「っ、、それって、」

「そう。ソフィは、自分の都合の良い世界という幻覚の中で生活してるの」

「全部幻覚でしたエンドか、」

「このままだと、あの閉鎖空間が広がって、世界全体を飲み込む可能性がある。...それ程、ソフィの魔力は大きくて、、ラディアを失ったと思い込んだ事による感情が大きかったんだと思う」

「それは、、あるな、」


 エルマンノが苦笑で話す中、ソナーについても理解する。ソフィがラディアの事を想っていた。それによって、ラディアの作ってくれた歌がその想いと共に溢れ出していたのだ。だからこそ、ラディアと仲直りした後も、寧ろ更に感情が大きくなって、ソナーが出続けていた。とするならば、それ程大きな感情を、ラディアに抱いていたのだろう。だからこそ、彼女の歌声しか入っていないまだ未完成のあの楽曲を、今でも尚想い続けてたのだ。


「っ!」


 と、それを思う中、エルマンノは何かに気づく。すると、フレデリカは淡々としながらも焦りを見せ放つ。


「とりあえず、ラディアを救い出すためにも、この閉鎖空間を何とかしなきゃいけない」

「ああ、そうだな。このままだと、宇宙人やら未来人やら超能力者やらが出てくるかもしれないからな」

「どういう事、?」

「いや、こっちの話だ」

「なんだか吹っ切れたみたいね。もしかして、策でもある?」

「流石だな妹。兄をよく見てる」

「エルマンノは分かりやすすぎるだけだけど」


 エルマンノが先程とは一転。少しどこか確信を得た様な表情をする中、フレデリカは息を吐く。すると。


「だが、それをするためには妹の力が必要だ。フレデリカ、一緒に来てくれ」

「え、?」

「頼む。フレデリカの力が必要だ」

「私の力で、なんとかなるなら、」

「助かる。後、魔力増加魔薬を一つ用意してくれ」

「え、?...それは駄目。魔力を減少させる薬を使ってたんだから、、その後にまた増加させる薬なんて服用させたら、、体がもたない、」

「いや、ラディアに使うんじゃない」

「え、、って事はまさか、また、?だからああいうのはやめてってーー」

「頼む。これしか、無いんだ」

「クッ、」


 エルマンノはそう言うと、渋々頷いたフレデリカを背に、感謝と共について来てくれと歩き出した。


          ☆


 数分後。訪れたのは獣族の村であった。


「はぁっ、はっ、はぁ!オリーブ!居るか!?」

「っ!お兄たんっ!おにっ、、ひくっ、だ、大丈夫だった、?ず、ずっと、、来てなかったから、、ぐすっ、よかっ、、ひっく、良かったぁ、」

「ごめん。本当にごめんオリーブ。寂しい思いをさせてしまった、」


 エルマンノはしゃがみ込み、愛情増し増し。お兄ちゃんパワー全開でオリーブを抱きしめる。巫女服を着ていたが故に妹肌の感触が半端ない。これは、年頃の男子には耐えきれない。


「あ、、う、」

「悪い、これ以上するとなんかが爆発しそうなんだ」

「ば、爆発!?」

「ああ。俺の下半しーーごはっ!」

「馬鹿なこと言ってないで。で?どうして私をここに連れてきたわけ?」


 もう終わり?と、まるでそんな表情をするオリーブに、エルマンノが真剣な表情で、表情とは似つかない内容を言う中、フレデリカに殴られる。


「あれ?エルマンノさんじゃないの。良かった〜、心配してたんだよ?みんなあんたのこと」

「おぉ、エルマンノさんじゃ。良かった良かった。無事じゃったんじゃな」

「突然巨大な膜みたいなんが出来て国中が問題になっとるよ。みんなエルマンノさん達も巻き込まれたんじゃないかって、心配しておったんじゃ」

「い、一回、、その、お兄たんのお家、、行ったんだよ?」

「なっ!?そうだったのか!?」

「うん、でも、、今は無理そうって、、言われて、」


 村の祖父祖母がゾロゾロと外に出る中、オリーブの言葉に驚愕する。


「ああ、、考え事、してたからなぁ、あの時は」

「お母さん綺麗な人だねっ!」

「ああ。俺に似たんだろう」

「はぁ、」


 エルマンノの言葉に、フレデリカはどこからツッコめば、と言わんばかりに呆れた息を吐く。と。


「でも、、本当にっ、良かったぁ〜、、良かったよぉ〜、」

「オリーブ、、ごめんなっ、本当にっ、ごめん」


 またもや二人で抱き合う。これずっとしていたいなぁ。そんな事を思う中。


「だから。さっさと話進めてくれない?私帰るよ?」

「ああ、そうだった!あの閉鎖空間のことをみんな分かってるなら話は早い。オリーブ。頼む、一緒に、来てくれないか?」

「え、?」

「あの閉鎖空間を、なんとかしたいんだ」


 エルマンノの言葉に、村の人達は声を上げる。危ない。やめておいた方がいい。オリーブにそんな事。そんな様々な言葉が飛び交う中、エルマンノはただオリーブの目を見て、真剣に迫った。すると。


「...うん!お兄たんと一緒なら、怖くないよ!」

「っ!...ありがとう、、絶対、この国を。世界を。いや、ラディアとソフィを、救い出してやる」


 周りから未だ心配の声は途絶えないものの、覚悟を決めた二人は、互いに真剣な表情で頷いた。そんな皆を照らす太陽の光。

 空は、澄み切った快晴であった。


          ☆


「よし。ここだ」

「ここって、」

「え、、まさか、これって」


 エルマンノはフレデリカとオリーブ。二人を連れてある建物にまでやって来た。この場所がまだ閉鎖空間に飲まれていなくてよかったと。エルマンノは内心ホッとする。

 あの閉鎖空間はソフィのラディアに対するクソデカ感情により大きくなったものである。故に、彼女に対して何かをしなくてはならないのだが、閉鎖空間内の彼女には手は出せないし、我々だけの力では彼女を外に出させる事は難しいだろう。まず、虚像と現実の区別をさせなくてはならない。あそこを現実だと思っている以上、我々がどれ程頑張ったとしても何も変わらない。故に、現実に引き戻さなくてはならないのだ。だが、現実に向き合う事から逃げている彼女には、それは不可能だろう。ならば、と。

 エルマンノは考えた。現実に、自然と引き戻ってしまう。それが理想だ。そう考えた時。これしか思い浮かばなかった。

 そう、二人を連れて来たのは、エターナルブラッドがライブをしていた場所。元ライブハウスだった。


「外観はああだけど、中はラディアが掃除してくれてるから綺麗だろ?」

「うん!きれー!」

「そこじゃ無くて、、はぁ、、だから、一回家に戻ってギター持って来たわけね、」

「そういう事だ。話が早くて助かる。ちなみにこのギターの名前はラディアだ」

「へ、へいさくーかん?って、、ラディアが関係してるの?」

「ああ、関係大アリだ。まあ、厳密にはラディアのバディ。そして、俺達の新しい妹の問題だ」

「新しい妹っ!?」

「ああ。二人を無事に救出して、その後紹介するよ」

「うん!じゃあ、絶対二人とも助け出さなきゃ!」


 オリーブの純粋な言葉にエルマンノは優しく微笑む。


「それで?私はどうすれば良いの?...まさかとは思うけど、」

「ああ。そのまさかだ。オリーブ。そこに貸し出し用のドラムセットがある。準備してくれ」

「え、?」

「ライブ、するぞ!」


 首を傾げるオリーブに、エルマンノは自信満々に、強気でそう放った。それが確信となった瞬間、フレデリカは息を吐いてこっそりとライブハウスから抜け出そうと足を進めた。


          ☆


「よし。準備は出来たな」

「さいっあく、」


 何度か脱走を試みたフレデリカを、エルマンノは引き止め、ステージの上のメンバーの位置に皆を立たせる事に成功した。


「何で私が歌うわけ、?」

「メンバー的にそうだろう。ああ、今日がリトルシスターズの初ライブか、緊張するな、」

「き、緊張する、」

「オリーブ、変なノリに付き合わなくて良いから。...それに、私歌詞知らないし」

「ほら、歌詞カードを作って来た。これ見ながら歌ってくれ。メロディは前に歌ってたから分かるだろ?」

「さいっあく、、鼻歌聞かれた記憶を削除しておくんだった、」

「さらっと人の脳を操作しようとしてません?」

「でも、ここで歌っても意味無いんじゃない?閉鎖空間内には届かない」

「ああ。だが、ソナーなら、可能性あると思わないか?」

「っ!まさか、、だから、薬を用意してって言ったわけ!?」

「ああ」

「閉鎖空間内にソナーを届けるなんて、どれ程の魔力が必要になるか分かってるの!?それに、相手はソフィなんでしょ!?あんなに魔力の多い人に、そんなーー」

「悪い、、でも、妹を助けるのが、兄の役目だ。将来のある妹を、助けない兄なんていない。出来る事があるなら、全力でやるもんだ」

「そんな馬鹿な事言ってないで!少しは自分をーー」

「馬鹿な事じゃ無い。兄としての、、俺なりの、兄妹論だ」

「聞いた事ないってば、」


 フレデリカは、持って来た薬を渡すのを拒む。それはそうだ。今は治ってきているものの、少し前までこの魔薬による副作用が長く続いていた。次は、その程度では済まないかもしれない。だが、と。


「ありがとう。心配してくれて、、でも、妹二人を救えるんだ。兄一人なんて、大した事ない」

「っ、、ふざけないでっ!何で死ぬ前提で話してるわけ!?そんな事っ、させないから。私が、絶対。これが全て終わって、あんたの事殴るから。それまでは、絶対死なせない」

「その後は死んでも良いのか、」


 エルマンノは必死で声を上げるフレデリカに苦笑すると、彼女の赤くなっている顔を見据え微笑む。


「ありがとう。ああ、俺は大丈夫だ。何せ、一度死んでるからな。毒性のある薬草食って」

「随分と前の話ね、」

「...お兄たん、、本当に、大丈夫、なの、?」

「ああ、大丈夫。俺にはフレデリカが居て、オリーブが居て、ラディアが居てソフィが居て。...そして、アリアが居る」

「「っ」」

「妹が沢山待ってるんだ、死ぬわけない」

「それ、フラグじゃないの?」

「お約束なんて、俺の妹への想いの前ではミジンコだ」

「アリンコじゃないの?」

「ああ。更に小さい」


 エルマンノが何故か意味の分からない事を自信げに放つと、オリーブがそれでもと表情を曇らせる。


「大丈夫だ。オリーブが頑張って、俺が魔力増加魔薬を使わなくて良い様に、感情による天候変化を乗り越えてくれた。それなのに、俺がここでへばってたまるかよ」


 ニッとエルマンノは微笑んで、さぁ、と。フレデリカに手を差し出す。それに、目を細め、一気に飲む様な真似しないでと付け足すと魔薬を差し出す。


「ああ。妹の頼みだ。勿論だ」


 エルマンノがそう呟き、魔薬を少しずつ飲んでいく。


「クッ、う、うぅ、、はっ、前より、、鈍くなったか、?」

「お兄たん、」

「クッ、うっ、うぅ!あぁっ!」


 エルマンノは呻き声の様なものをあげながらも、ゆっくりと、魔力を体に馴染ませながら飲み干す。と。


「よし、いくぞ」

「大丈夫、なの、?」

「お兄たん、」

「ああ。それよりも、みんなもだぞ。今度は音源が無いんだ。本当のライブだ。失敗は許されない」

「そんな時に初見の私を起用するのは意味分かんないんだけど、」

「フレデリカの事信じてるぞ」

「そういうのいらないから」

「ツンデレだなぁ」

「違うから」

「よし、、そろそろいくぞ!オリーブ!」

「えっ、あ、う、うん!いちっ、にっ、さんっ、はいっ!」


 オリーブの掛け声と同時に、エルマンノとオリーブは前奏を始める。それと同時に、エルマンノは意識を集中させる。この音を、全て耳で取り込み、それをそのまま、ソナーとして送り出す。全ての魔力を、込めながら。


「クッ、うっ、」


 演奏中、エルマンノが歯嚙みする。それに、オリーブとフレデリカが不安げに振り返る。が。


「ほらっ、そんな不安そうな顔するなっ!ステージの上だ。みんなに笑顔を届ける。それがアイドルだろ!」

「アイドルじゃないから」

「それと、フレデリカは歌い出しもう少しだぞ、気をつけろ!」

「はぁ、ああっ、もう!分かったっ!」

「うん!」


 フレデリカとオリーブはいつも通り。ソナーであるため表情は見えない筈だが、まるで皆に見せるように、元気に、明るく演奏をした。


          ☆


「今日の昼ご飯はどうする〜?」

「え〜、さっき食べたばっかでしょ?」

「あれ朝食でしょ〜?」

「はぁ、ほんと、良く食べるね〜、ソフィは」

「絶対屋根裏部屋になんか居る!私が知らない間に二人前食べてる!」

「朝ソフィ二人前食べてたよ?」

「食べてない!絶対!ぜっったいなんか居るから!」

「ん、?」


 ソフィがラディアとそんな会話をする中、突如。


「何、これ、?」


 ラディアが周りを見る。どこからか、音が聞こえて来ているのだ。


「なんの、、音、?」

「ううん、、これ、音って言うか、歌じゃない、?それに、、これって、、っ!」


 ソフィがそう返しながら、だんだんと明確になっていくメロディに目を見開く。これはあの曲だ、と。


「何で、、こんな、え、?」

「何?この曲」

「え?ラディアちゃんの、、曲、でしょ、?」

「う、うん、、確かに、歌詞とメロディ、、そうだけど、でも、演奏なんて、」

「ラディアちゃんが作ったんじゃ、、っ!...そ、そっか、」


 ソフィは目を見開き理解する。この曲は、もう既に、完成していたのだ。あの時、ラディアに誕生日プレゼントとして贈られた曲には、演奏は無かった。きっと、そこにソフィの演奏を加えて、そうする事で完成になるように。そういう意図だったのだろう。そうか。

 そうだったのか。

 知らない間に。

 ソフィの知らない間に。

 ここまで、素敵な音楽を作るようになっていたのだ。


「いかなきゃ、」

「え、?どうしたの?ソフィ」

「ごめん。ありがとう、、私の、心の拠り所になってくれて」

「え、?」

「でも、もう、逃げない。今度は、私がラディアちゃんを救わなきゃいけない。私はもう、私の都合の良い世界で、閉じこもってるわけにはいかない!」

「ソフィ、?」

「ありがとう。私の中のラディアちゃん。私、分かった。気づいたよ、ありがとう。...行ってくるね、本当の、ラディアちゃんのところに」

「っ、、うん、、行ってらっしゃい!向こうでも、飲み過ぎたら駄目だよ?」

「っ、、う、うんっ!ありがとう!」


 ソフィの言葉に何かを察し、目の前のラディアはハッとすると、そののち笑顔を作る。と、そのままソフィは目つきを変えて部屋を飛び出す。家からも中々出られなかった。それでも、ラディアは、エルマンノは。外に出してくれた。


ーこんな、私をー


 ありがとう。そんな言葉だけでは足りない。皆から、周りからは才能のある人間だと言われて来た。だがそんな事は無い。それ故に甘やかされて育ったソフィは、傲慢で、社会を知らない。そんな人間になってしまった。学校でもそれ故にハブられたためすぐに辞めて、バンドのメンバーにも不満をぶち撒け続けた。そんな、傲慢な人間だ。

 ステージの上では、お客は皆ソフィに目が釘付けだったかもしれない。だが、そのソフィはーー

 ーーこんな傲慢で、社会ではやっていけない様な人間に手を差し伸べて、一緒にわがままを聞きながらも夢をめざしてくれた。そんな大切で大好きな。

 ラディアに、釘付けだったのだ。


「ラディアちゃん!」


 ソフィは走り、向かった。きっと、あそこだ。音が聞こえてくる。その根幹の場所は。そう察しながら、ただ足を進めた。と、その瞬間。

 パリンと。


「「「っ!」」」


 歌が終わると同時に、何かが弾けた様な音が聞こえた。


「こ、これって、」

「今の音、、なに、?」

「はぁ、、はぁ、よ、良かった、、なんとか、成功、か、?」


 それにフレデリカとオリーブ、エルマンノがそれぞれ口にすると、その後。


「はぁっ、はぁ!み、、みんなっ」

「はぁ、、良く出て来られたな、ソフィ。相当、勇気のいる事だっただろ?」

「っ、、ありがとう、、ありがとうっ」


 ライブハウス。きっと、ソフィなら分かると思っていた。そう言わんばかりの表情でエルマンノが微笑みながら放つと、ソフィは泣き崩れた。


「良く頑張ったな、、凄いよ、ほんと、凄いな、俺の妹は、、俺より、何十倍も凄いよ」


 エルマンノは、転生前の自分自身とも重ねながら、あの都合の良い世界から抜け出して来たソフィの目の前まで歩き、しゃがみ込む。


「そんなっ、そんな事ないっ、、にぃのっ、にぃのおかげでっ、私はっ」

「いや、あそこから抜け出せたのは、ソフィが強かったからだ。俺達の曲に気づいても、、向こうの世界が居心地が良い以上、戻って来てくれるかは確信が無かったからな、」

「う、、ありがとう、、本当に、、ありがとう、みんな、」

「まさか、、本当にソフィを現実に戻せるとはね、」


 すると、フレデリカがエルマンノの後ろで小さく呟く。


「まあ、一か八かではあったけどな。ソフィは、ラディアからこの曲をプレゼントされたっていう話だったんだが、ラディアの話的に、渡したのは声だけのアカペラの状態のものだったみたいなんだ」

「なるほどね。だからこそ完成されたこの曲を聴いた時、向こうのソフィが作り上げた世界とのズレが生じて、こっちの世界。つまり、自分の視界外で時間が進んでいた事に気づき、現実を認識する。そういう事ね、」

「ああ。でも、それだけじゃない。ソナーで溢れ出るくらい、嬉しくて大好きな曲だったんだ。完成の曲を聴いて、動き出さないはずがない。体も、心もな」


 フレデリカの分析にエルマンノが付け加えると、改めて皆に振り返る。


「とりあえず、みんなお疲れ様!みんな失敗無しで、初見だったフレデリカも、良い声だったぞ」

「あんたはところどころミスりまくってたけどね」

「ソナーを送りながらだと中々難しいんだよ。...それに、長らく練習サボってたしな」

「うっ、ありがとう、、みんな、ごめんなさい、、巻き込んじゃって、」

「巻き込んだのは俺だ。俺は好きでライブをした。妹とバンド組んでみたかっただけの兄だ。気にする必要はない。...それと、ちなみにこの人がソフィ。俺の大切で大好きな、最高の妹だ」

「はっ、初めまして!私っ、オリーブって、いいます!」

「ふぇ、、あ、う、うん、、よろ、しく、」

「あんた、、もう少しタイミングを考えたらどうなの、?いきなり自己紹介って、」

「まあ、話には順序があるし、寧ろここを逃したら紹介するタイミング無いだろ?」

「私とソフィの紹介タイミング無かったけど」

「そうだったな。改めてするか?」

「いい。それよりも、ラディアは大丈夫なの?」

「恐らく、あの閉鎖空間が消えたんだ。きっと閉鎖空間が出来た時と同じ場所。つまり、ラディアの家にまだ倒れてるはずだ」


 エルマンノはそう放つと、頭を下げて挨拶をするオリーブとソフィ。隣のフレデリカ皆に行こうと促しながら、ライブハウスからラディアの家へと向かった。


          ☆


「ラディア!居るか!?」


 エルマンノは、ラディアの家のドアを強くノックしながらそう放つものの、返事はない。


「ラグレスも不在か、?」

「え、?ラグレスって、あんたが言ってた神教徒の人、?何であの人が?」


 エルマンノの呟きにフレデリカが呟くものの、それどころではないと。エルマンノは居ないなら入るぞとかいうイかれた言葉を放って、皆で貫通魔法を使用し通過した。

 貫通魔法はそれを使う人物が触れているものも貫通出来る。そして、更にはその触れているものが触れているものも対象なのだ。故に、皆で手を繋げばゴリ押せる。


「ラディア!」

「ラディアちゃん!?大丈夫!?しっかりして!」


 エルマンノとソフィは一目散に彼女の部屋へと向かうと、その中で倒れているラディアへしゃがみ込み声を上げる。


「あの時と同じ状況だな、、いや、これは、、前よりもヤバそうだ、」


 閉鎖空間が出来る前の状態と同じ状況で発見されたラディアだったものの、今の彼女は苦しそうにはしていない。いや、寧ろ息をしていない様に思える。これは、以前より遥かにマズい状況なのではないだろうか。エルマンノが焦る中、フレデリカも近づきしゃがみ込む。


「...相当ヤバい状況、」

「っ!?ラディアちゃんはっ、大丈夫なの!?」

「まだ手遅れではない。...けど、どうすれば、」

「お兄たんっ!な、何とか、、ならないの、?」


 皆が表情を曇らせる中、エルマンノは悩む。


「ねぇ、あんた、何か策があるって、言って無かった?」

「...ある、、けど、」


 エルマンノは口を噤む。確信では無かった。可能かも分からなかった。それ故にあの時フレデリカに相談しに行ったのだが、ここまで状況が進んでいるとなると、今からそんな事をしていて間に合うのだろうか、と。そう考え悩むエルマンノに、ソフィは声を上げる。


「いいからさぁ!何でもいいからっ!お願い!何かっ、あるなら言ってよ!」

「っ、、そ、そうだな、、それもそうだ」


 エルマンノはソフィの言葉にハッとすると、改めてフレデリカに疑問を投げかけた。


「確か、前に誰かから誰かに魔力を与えられる方法を聞いたよな、?」

「...あったけど、?まさか、それをするつもり?」

「いや、魔力の扱いが上手い人じゃないと魔力増加魔薬と同じ様になるんだろ?そうじゃなくて、その時言いかけてた方法があったはずだ。手で触れる以外で、分量が分からない人でも上手く体に馴染ませながら魔力を与えられる方法ってやつが」

「でも、、それは」

「絶対嫌だって言ってたやつだよな、、分かってる。でも、もう他に方法は無いんだ。何でも良い。可能性のあるものは、やらなきゃ駄目だろ」


 エルマンノは本気の表情でそれを告げる。もう既に、ソナーを長らく送っていた大量の魔力消費により体はボロボロのはずだというのに。フレデリカはそう思いながらも、歯嚙みして告げる。


「分かった、、その、魔力の扱いが上手くない人も、、その、口移しなら、魔力を馴染ませることが出来るの、、それに、、その、」

「濃厚なやつか?」

「う、、そ、そう、」

「「っ」」


 フレデリカが顔を僅かに赤らめながらそう呟くと、エルマンノは真剣な表情で放つ。それに、ソフィとオリーブもまた恥ずかしそうに目を見開く。


「そうか。これは人工呼吸と同じだ。今の現状でそんな事言ってられないよな」

「あんたしたいだけなんじゃないの、?」

「兄として、妹を救うのは当然の行動だ」

「でも、それは駄目」

「えぇ、、なんでどうして、」

「あんた、、どれ程今の自分の体が危ない状況か分かってる?それに、今の状況じゃエルマンノが魔力を与えても、大した量にはならない」

「そうか、、なら、」


 エルマンノは、どこかで既に決めていたのだろう。それを聞いたのち、彼はーー

 ーーソフィに目を向けた。


「っ!わ、私っ!?」

「ああ。この中で、魔力が最も多くて、有り余ってるだろ?」

「あ、あんたねぇ、、確かにラディアを救いたいけど、そんな、いきなりキスなんて、、同性でも、それは、」

「する!」

「「「っ」」」


 即答で、ソフィは答えた。その言葉と表情からは、彼女を救いたいという強い思いがあったものの、それ以外の感情も、僅かに感じた。そう、なんかニヤついていたのだ。


「ラディアちゃん、、今、助けるからね、」

「おお、」

「ひゃっ」

「オリーブは、目瞑ってような」

「へっ!?わ、私そんなに子供じゃないよっ!」

「じゃあ見て学ぼうな。今度お兄ちゃんでテストしてみてくれ」

「ふぇっ!?」

「そろそろ自首した方が身のためだと思うけど?」

「通報する前に自首の選択肢を与えてくれるなんて、やっぱり優しいなぁ」

「はぁ、今すぐ通報したいところだけど、ソナーが使えないのが悔やまれる」


 んっ、んっ、と。なんだかエッチな声を漏らしながら懸命にソフィはラディアと接吻を交わす。うーん。これは良い。元々妹同士の百合は大歓迎だったものの、これは新たな扉が開きそうだ。

 その様子に顔を赤らめるオリーブと、ソフィもまた変態だった事に呆れるフレデリカ。そんな二人と共に、身体から光を発しながら魔力供給を行う二人を見つめるエルマンノ。

 そんなお茶の間で観るには少し気まずい雰囲気ではあるものの、皆はラディアの安否を真剣な表情で、バクバクと騒ぐ胸を押さえながら願った。と、そんな時間が数分続いたのち。


「ふはっ、、はぁ、、はぁ、、はぁ、ラ、ラディア、ちゃん、?」

「え、?あ、うぅん、、な、何が、、あったの、?」

「「「っ」」」

「っ!ラディアちゃんっ!」

「えぇっ!?ど、どうしたのソフィ!?いきなりっ!?」


 ラディアが意識を取り戻し、それにソフィは思わず彼女を抱きしめる。その姿に、エルマンノは目を見開いたのち、優しく微笑んで安堵する。


「よ、、良かったぁ、」

「え!?みなさん、、お、お揃いで、?」


 声を漏らしたオリーブの声に、皆が居ることに気づいたラディアは、冷や汗混じりにお辞儀をした。どうやら、記憶はないらしい。


「心配したんだよっ!ほんとっ、、良かった、」

「え、?な、何が、あったの、?」

「ごめんなさい、、実は、私のせいだったの、、ソナー、」

「え?」

「ソナーが勝手に出てたのは私の方だったの、、それなのに、ラディアに魔力を減少させる薬なんて、」

「え、、て、ていう事は、?」

「悪かった、、俺が、もっと早く気づくべきだったんだ、、ラディアは、、何も、ソナーも出して無ければみんなに危害を与えてもいなかったんだ」

「そ、そっか、、よ、良かったぁ、」

「...悪かった、、医師の言ってた事は正しかったんだ。薬を飲ませる前に、、もっと魔力の有無を確認しておけば、、こんな事には、」

「ううん、、そんな事無いよ、、だって、私は今元気だし、、こうしてソフィとも仲直り出来た。...全部、おにぃのおかげ。だから、そんなこと言わないで。...だって、おにぃが勘違いしてくれたお陰で、ソフィとまたこうして話せる様になって、、そして、こんな素敵な人達と、兄妹になれたんだから!」

「っ!...ラディア、」


 エルマンノはハッとしたのち、目を潤ませながらそうか、ありがとうと呟き笑みを浮かべる。と、そんな二人の後ろで大号泣するソフィに、フレデリカが告げる。


「やっぱり、、貴方相当魔力が多いみたいね、、あの状態からここまでいつも通りに戻せるなんて、、普通、ありえない、」

「うっ、うぅ、でもっ、良かった、、私のっ、魔力っ、みんなをっ、不幸にしかしてなかったからぁ、、良かったぁ、」

「きっと、ソフィ。貴方がラディアを想う気持ちが魔力の増加の原動力になってたのだとすると、彼女を救いたい。それが一番の理由なのかもね」


 フレデリカが優しくそう呟くと、エルマンノが改めて皆に振り返る。


「まあ、これでソフィの魔力も上手い事ラディアと同じ平均値に分断されただろうし、ソナーの心配も無さそうだな」

「えへへ、、も、もう、ソナー出せる程元気じゃないよ、」

「え、?ソフィが、、私を、?」

「うん、、ごめんね、、全て、私のせいなのに、、だから、別に感謝される様な事、私してないんだ。ただ、自分が起こしてしまった過ちを、みんなを巻き込んで、、なんとかしただけ、、やっぱり、私一人じゃ、、何も出来ないな、、へっ!?」


 ソフィが言い終わると同時。ラディアは抱きつく。


「ありがとう、、ソフィ、、ありがとうっ、、自分の、、魔力を削ってまで、、そんなっ」

「あ、当たり前でしょ、、バンドメンバーなんだから、、せっかく、、また二人でバンド出来そうなのに、、また一人に戻るなんて、、絶対嫌」

「っ、、ソフィ〜」


 ソフィが目を逸らしながら恥ずかしそうに放つと、ラディアは更に抱きしめる。骨が折れそうだ。まあ、ソフィは肉がついてるから大丈夫か。ヤバいな、この台詞は多方面から殺されそうだ。

 そんな事を脳内で。表情は変えずに考える中、エルマンノはその後改めて声を上げた。


「それじゃあ、せっかくみんな揃ってる事だし、妹パーティするか!」

「何、?妹パーティって、」

「言っただろ?今度みんなで鍋パーティでもしようって。それに、ソフィはみんなと飲みたいみたいだぞ」

「あんた未成年でしょ、」


 エルマンノにジト目を向けるフレデリカが呟いたのち、オールスターでは無いがと彼は小声で付け足し、皆にそれぞれ鍋の具を買いに行こうと促した。


          ☆


 その後。ソフィと買い物に行こうとしたところ、王国全体が閉鎖空間の話で持ちきりだったためにソフィの家に戻ってひっそりと鍋パをする事となった。


「はぁ、、ほんと、あいつには迷惑してる、、もう、来ないで欲しいって、、何回も言ったのに」

「ね〜、ほんとおせっかいですよね!フレデリカさんお酒強いですね!ほら、もっと飲んでください!いっぱい吐き出しちゃいましょう!」

「はぁ〜、もう何でそこまでするかなぁ、あいつ、、ほんと、無理しないでって言ってんのに、」

「それ本人が居る前でする話じゃなくないか、?」


 ラディアが勧めるお酒を、フレデリカは飲みながら愚痴を垂れる。グツグツと泡立ちながら、これこそと言わんばかりの闇鍋を挟み、目の前でエルマンノは苦笑を浮かべた。


「というか、フレデリカって成人してたのか、」

「当たり前でしょ。なら何で森の中で一人暮らし出来るわけ?」

「あー、そういえば成人してないと一人暮らしは駄目だったな。オリーブは、っ!?」


 エルマンノは、隣に居るオリーブに目をやると、そこでお酒を可愛く両手で飲んでいる彼女に驚愕する。


「なっ!?だ、駄目でしょう!?お酒飲んじゃ!めっ!」


 エルマンノはうおらっ!と。オリーブからお酒を取り上げる。


「へ、?だ、駄目、、だった、?」


 それにより泣きそうな表情になったオリーブに、エルマンノは貫かれながらも、ふと、考える。


「ん?あれ、?オリーブ、何歳なんだ、?産まれて間もない頃に、、その、色々あって、十二年間行方不明だったんだよな、?だとすると、」

「え?う、うーん、、と、獣族の中では四十五歳かな、?」

「なっ!?」

「えぇ!?オリーブちゃんそんなに歳上だったんですか!?ねぇおにぃ、自分より歳上だったらお姉さんじゃないですか、?」

「妹に歳は関係ないぞ。現にフレデリカとソフィが酒を飲んでる時点で俺より歳上だしな」

「暴論ですね、」

「お兄たんはお兄たんだよ!」

「っ!ああ!一生お兄ちゃんだぞ〜、オリーブ〜」

「うん!お兄た〜ん」

「おお、アルコールのお陰かいつも以上に甘えてくれるなオリーブ!」


 エルマンノとオリーブがそんなイチャラブを見せつける中、ソフィは台所の奥から皆を見つめる。それに気づいたエルマンノは、オリーブに声をかけたのち、ソフィへと向かう。


「今日は飲まないのか?」

「え?あ、、うん、」

「珍しいな。今日はノリ気じゃないか?」

「う、、ううん、飲みたい、けど、」

「ソフィが酒飲みってのもあって飲み会にしたんだ。遠慮しなくていいんだぞ?」

「...でも、飲まない、」

「どうしてだ?」

「...今日あった事、一つも、忘れたくないから」

「っ」


 ソフィの言葉に、エルマンノは目を見開く。


「そうか、、そうだな」

「うん。ありがとう、、本当に、ありがとね、」

「別に、妹を助けるのは当たり前だからな。そこまで感謝される事でもない」

「ははっ、ほんと、変わってるよねぇ」

「よく言われるよ。主に妹にな」

「...あのさ、、私、自分が大っ嫌いだった」

「...」


 エルマンノが微笑みながら放つと、ソフィはそう呟く。


「今回の事も、私のせいで色々迷惑かかってたわけだし、、面倒な事になったのも、全て。全部私のせいだし、、今でも、本気で自分自身の事は好きになれない」

「...ソフィ、」

「でも、でもね」

「?」

「確かに私は面倒な事するし、お酒が入っててもいなくても、どっちも嫌い。だけど、にぃの事を、部屋に入れて、私が妹になるって、そう言ってくれた私は、、好き、」

「っ」

「だからちょっと、、ほんのちょっとだけ、、今は私が好きでいられるかな、」

「そうか」

「私、、絶対に、変わってみせる、、そして、また、あの時のみんなで、バンド、出来る様にするから、、今度は、私の力で、、にぃの力、借りないで、、だから、見ててほしい、私の事」

「兄離れは必要だからな。...でも、全然、頼ってくれて構わない。その方が、兄としても嬉しいんだよ。妹からお願いされたら、何でも出来ちゃうもんなぁ」

「...それが怖いんだよ、」

「...まあでも、そうだな、、分かった。見てるよ。ずっと」

「ほんと、?」

「ああ、当たり前だ。いつまで経っても、ソフィは妹で、俺はお兄ちゃんだ。ずっと見てるよ。最前列で。...いや、最後尾でも、どこでも。どこに居ても、見てるよ。一人で頑張ろうとしている妹を見守るのも、兄の役目だ」

「っ!...ありがとう、、本当にっ、にぃと、、みんなと出会えて良かったっ!」

「ソフィ〜、おにぃも!ねぇ!ライブやりませんか!」

「えぇっ、、め、めんどくさ、」


 エルマンノがソフィの言葉に優しく微笑むと、その時。リビングからラディアが声を上げ二人は向き直る。


「せっかくなんだからっ!ほら、久しぶりにっ、やろ!」

「大丈夫なの、?ここ壁薄いじゃん」

「下の階に今は誰もいないから大丈夫だよ!」

「上には居るよ、屋根裏部屋」

「じゃあ確認する?」

「いや結構です」

「ならやろう!ねっ、おにぃも!」

「え、、俺は妹を最前列で見てるだけで最高なんだが、?」

「一番前っ!つまりステージの上って、言ったじゃないですか!ほら、丁度ギター持ってますし!」

「ラディアとは片時も離れない様にしてたんだ」

「っ!な、なんかしましたか!?」

「一緒にお風呂に入りました」

「やめてくださいっ!普通に壊れます!」


 ラディアが赤面しながらそう話す中、嫌々と歩くソフィと共にエルマンノもまたリビングへと向かうと、まるでステージの様に、皆の前にベッドが置かれていた。


「ラディアとソフィと、、ベッドに行って良いんですか?」

「っ!...ねぇラディアちゃん、、やっぱやめない、?」

「本気で引かないでください」

「大丈夫ですよ。おにぃに二人相手は厳しいですから」

「ごはっ、、や、やってみないと分からないだろう」


 エルマンノはラディアの言葉という名の矢を受けながらそう掠れた声で放つと、ならばと。皆でベッドの上へと乗った。

 が、その時。


「っ!クッ」


 突如大きな目眩と共に、エルマンノはーー

 ーー倒れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る