第25話「妹と原因探し」

「何で、だ、?」


 エルマンノは冷や汗を流す。昨晩。ソフィとの関係は良好となったはずだ。またバンドをやるかどうかに関しては分からなかったものの、少なくともお互いの気持ちは分かったはずである。故に、まだソナーが放たれているのは、おかしいのだが。


「...まさか」


 エルマンノは冷や汗を流す。まさか、あの後何かあったのではないか、と。またもや、二人の良好な関係にヒビが入ってしまったのではないか、と。そう察せざるを得なかった。


「母さん」

「おお、エルマンノ」

「...母さんは?」

「マザコンだなぁ。今日はギルドハウスに行ってるよ。ほら、朝食は用意してある」

「父さんは何でここに?仕事やめたの?」

「縁起でもないな。今日は休みだ。冒険者は安定した休みじゃないの知ってるだろ?」

「そうか、、ごめん!朝食とっておいて!戻ったら魔法で解凍して食べる!」

「どこ行くんだ?まさか、朝からあの子達とーー」

「ああ!その通りだ!」


 エルマンノは父にそう声を上げながら家を出ると、拳を握りしめながらソフィの家へと向かった。

 が。


「居るか!?ソフィ!」

「んん〜、、もぉ、そんなデカい声で呼ばなくても聞こえてるって、」


 ドアをノックしながら声を上げたのち、現れた彼女は。いつも通りであった。


「ソフィ、、あ、あの後、どうなって、」

「あ、おにぃ!おはようございます!早いんですね」

「え?あ、え?」

「寝癖立ってんじゃん、、朝起きてそのまま来た?」

「立ってるのは寝癖だけじゃないですね、、もう少し落ち着いてから来て良かったんですよ?」

「あ、え?」


 その通り。エルマンノは朝起きた状態のまま彼女達の目の前に現れた。それにより、服も部屋着のままであった。外でも違和感のない服を部屋着にしておいて良かったと。心から思った。て、そんな事はどうでもいい。


「なんで、ラディアが?」

「ああ、はいっ!実は昨日、そのまま泊まったんです!熱い夜を過ごしちゃって、」

「覚えてない、」

「えぇ!?何でよ!」

「なん、、え?その、仲は、、良い、ままか?」

「え?はい、何言ってるんですか?まあ、確かに、色々思うところはありましたけど、昨日全部吐き出せましたし、ソフィも、分かってくれて、お互いに、朝も話したんです。今後の事とか、今までの事とか」

「昨日のこと、、覚えてるよな?流石に」

「当たり前でしょ、、あれ忘れてたら老害だよ、」

「寝たら記憶が消える人だし、あり得るかと」

「だからその設定何?」

「それよりも、とりあえず中で話しませんか?」

「あ、ああ。それもそうだな。とりあえず洗面所を貸してくれないか?」

「良いですよ!」

「ここ私の家なんだけど」


 エルマンノは急ぎ過ぎて顔すら洗ってなかった事に気づき、慌てて部屋へと上がるのだった。


          ☆


「ふぅ、、スッキリした」

「そんな台詞をナチュラルに発する人は初めて見た」

「それにしても、どうしてそんなに焦ってたんですか?顔も洗わないで」

「妹にいち早く会いたい。そして、妹にはありのままの俺を知っていて欲しかったからだ」

「キッショ、」

「ナチュラルに傷つけるのやめてくれませんか」

「気色が悪い」

「略すなって話じゃない」


 エルマンノは、一通りの支度を済ませたのち、リビングでくつろぐソフィの前に座った。すると、台所で朝食の支度をしていたであろうラディアがこちらに向かう。


「本当にそれだけですか、?何か、理由が、、っ、も、もしかして、、ソナー、収まってないんですか、?」

「...あ、ああ、」

「えっ」「?」


 エルマンノがバツが悪そうに頷くと、ラディアが声を漏らし、ソフィが首を傾げる。


「そういえばソフィには話して無かったな」

「何の話?」

「実は、私からソナーが無意識のうちに出てるらしくて、、私の作ったあの歌が、ソナーを受け取れる人全員に送られてるみたいなの」

「えっ、世界進出してるって事?」

「そういう事だな。良かったな、ラディア。夢叶ってるぞ」

「そういうのじゃ無いですよ!その、そういう方法は、嫌です」

「にしても何で、?そういう方法が嫌なら、ソナーが勝手に出るなんて有り得ないんじゃないの?」

「それは、ソフィに伝えたかったから。そうだと、思ってたんだ」

「え?私?」


 エルマンノが割って入ると、ソフィが首を傾げる。


「ああ。ソフィに、ラディアの。自分自身の歌を届けたくて。それで」

「そう、、なの、?」

「うん。少なくとも私はそうだったよ、?」

「っ!ラ、ラディアちゃん、、えと、その、す、すき、」

「私もだよ〜」

「なんか素直になれたのは良い事だが、百合化が進んで無いか?」

「それは記念すべき事です!」

「ま、まあ、姉妹での結婚は、お兄ちゃんは大歓迎だ」

「問題に更に問題を重ねたような結婚だけどねぇ、」

「異世界ってお堅いのね」

「え、異世界、?何、?」

「何でも無い」


 エルマンノが冷や汗混じりに笑みを浮かべ放つと、ソフィが現実を考えジト目を向ける。と、そののち、エルマンノは話を戻す。


「それで、なんだが。俺はてっきりそれが理由だと思って、、こうして話をして打ち解けた二人なら、もうソナーは出ないと思った。それでもソナーが止まって無かったから、俺は何かあったのかと思って来たんだが、」

「別に、喧嘩もしてないよね?」

「うん、、私は、何も、、だけど、ラディアちゃんもしかして怒ってる?」

「怒ってないよ〜」

「いや、もし怒ってたとしても、ソナーが無意識に出る理由としては考えづらい、怒って、何故曲を出すに至るかは謎だ」

「なら、、何で、?」

「俺一人で考えるには重いな。もう一人妹が必要だ」

「と?言うと?」


 エルマンノの言葉に、ラディアが首を傾げると、彼は何故か自信げに鼻を鳴らし、ついて来いと言わんばかりに部屋を出た。


          ☆


「おーい、フレデリカ。居るか?」

「ここ、、何ですか、?魔獣の出る森じゃないですか、、それに、こんな怪しい古屋、、よくノックなんて出来ますね、」

「妹の家なんだ。おーい、フレデリカー」

「え?フレデリカさんの家なんですか?」


 森の中。馴染みの実験部屋に、エルマンノはノックをしながら声を上げた。


「...出て来ませんね、」

「寝てるのか、?というか、それよりもソフィはどうしたんだ?」

「あの人外出たら死にます」

「ライブどうしてるんだよ、」

「間違えました。自分に関係ある事以外で外に出ると死にます」

「めちゃくちゃ関係あるだろあの人」


 エルマンノは息を吐いた。確かに、ついて来てくれの一言を言わなかったのは問題だったかもしれない。誠に遺憾である。


「あ、おにぃ!」

「ん?おお」


 と、そんな事を話している中で、ラディアが目を見開くと、フレデリカがゆっくりとドアを開けジト目で向かい入れた。


「居たのか、助かった。その、フレデリカ、一つ聞きたいことがーー」

「いつでも入れてもらえると思わないで」

「え?」


 フレデリカはそれだけを放つと、ドアを閉めた。


「「...え?」」


 それに、エルマンノとラディアはそれぞれ声を漏らした。と。


「フレデリカ!何で閉めるんだ!お兄ちゃん悲しいぞ!」

「大声で言わないで。もう少し誠意を見せたら?」

「え」


 エルマンノが声を上げノックをしながら懇願すると、フレデリカはまたもや小さくドアを開けそれだけを告げると、同じく閉めた。


「あ、え?」


 エルマンノはその姿に声を漏らしながら拳を握りしめると、そののち。

 優しくゆっくりと三回。丁寧にノックをして四十五度の礼をしながら口を開いた。


「その、フレデリカ様。早朝にお声がけして申し訳ございません。今現在、非常に難しい局面に陥っており、五分程で構いませんのでフレデリカ様のお力をお借りしたいのですが、お時間いただけないでしょうか?」

「はぁ。最初からそれなら入れてあげたのに」

「何だかエロい響きですねそれ」

「閉めるけど?」

「ああ、すみません入ります」


 エルマンノの言葉に息を吐きながらもドアを開けてくれたフレデリカに、二人で頭を下げると、小さくなりながら入室する。


「ここってフレデリカさんのお宅だったんですね」

「そう。ここで魔薬を作ってるの」

「へ〜、、凄い、一人暮らしでずっと魔薬作りなんて、ストイックだなぁ」

「貴方だって、一人暮らしで作曲活動してたんでしょ?」

「私にはソフィが居ましたから。あ、ソフィっていうのは、元バンド仲間で、」

「知ってる。こいつから教えてもらった」

「お兄ちゃんって言ってくれません?」

「追い出すけど?」

「はい、」


 ラディアとフレデリカが話す中、エルマンノは更に縮こまる。妹に囲まれた兄は肩身が狭いもんだなぁ。


「それで?今日はどうしたの?ラディアが居るって事は、ソナーのこと?」

「ああ。話が早くて助かる」

「すみません、、巻き込んでしまって、」

「ううん、いいの。妹に頼ってばかりの兄が悪いんだから」

「ごふぁっ!?」


 エルマンノは倒れ込んだ。


「おにぃ!?」

「いいの。少しはこうさせておいて」

「なんか冷たくないか、?まさか、昨日あの後顔を出さなかったのを気にして、、悪かった、、埋め合わせに、今日は一日一緒に居てやるから」

「違うんだけど」


 なんという扱い。エルマンノは涙しながら起き上がる。


「それで、話を戻すけど、、実は昨日仲直り出来たんだ。ソフィとラディアが。まあ、その事で長くなって、フレデリカのところには顔を出せなかった、、申し訳なかった」

「話戻ってなくない?」

「そ、それでも、、ソナーが収まらないらしいんです、、こ、ここまでしてくれたのに、、私、どうすればいいか、」


 エルマンノの言葉にフレデリカが割って入ると、それに被せてラディアがそう切り出す。


「つまり、要約すると、昨日言ってた方法で二人で話をさせて、仲直り出来たけど、それで一件落着かと思いきや今日またソナーが聞こえたって事でいい?」

「ああ、大体合ってる。朝気がついた俺がソフィのところに行って、そこでこの話をした後に原因を突き止めるべく、フレデリカのところに来たんだが、」

「私を医者か何かと間違えてない?」

「とんでもない。医者よりと優秀だと思ってるぞ」

「医者に謝りなさい」

「それで、、その、フレデリカさんでも、、分かりませんか、?」

「あ、あのね。私別にソナーの担当じゃないから。正直魔力系の話ならあんたの方が分かるんじゃないの?」

「いや、悪いがお兄ちゃん馬鹿だからな。可能性としてはソナーが出てる理由が他にあるかだが」

「それか、ラディアから出てるんじゃない可能性もあるけど、、他の人があの歌をソナーで出す理由は分からない」


 フレデリカの言葉に、エルマンノと二人で悩み込む。その様子に、ラディアは申し訳無さそうに俯く。


「ごめんなさい、、私のせいで、」

「ラディアが気にすること無い。まず、自覚がないんだ。ラディアだって被害者だよ」

「そう。ラディアだって、そのソナーの件でこうして迷惑してるわけだし、こいつに目をつけられるし、被害者以外の何者でもない」

「悪いがそれには間違ってる点がある。まずソナーが出ていようと出ていなかろうと、俺はラディアを妹にしていた」

「その根拠は?」

「運命がそうさせたんだ」

「こいつはほっといて良いから、話進めるよ。ラディア」

「え、あ、はい!」

「あのー、ちょっと〜」


 ラディアと部屋の奥へ行こうとする二人に、エルマンノは息を吐きながら呼び止める。がしかし。

 そんな事を繰り返していても答えが出てくるわけもなく、二人でまたもや悩む。


「ラディア。何か、他に心当たりないか?」

「え、?う、うーん、、すみません、、分からないです」

「そうか、、そうだよな、」

「はい、、私、自分を見つめ返して思ったんです。多分、ずっとソフィの事考えてたんだなって。私、自分が有名になりたいって思いだけで音楽を作ったり歌ったりなんて、した事ないんですよ。いつも、その根幹には、あの子が居て。あの子を目標にしてたからとか、見返してやろうと思ったからとか、あの子にもう一度認めてもらいたいとか。そんな、ソフィに関係する事ばかりで。自分がどうとかって、、無かったと思います。なので、、ソフィと仲直り出来た今、他に思い当たる節なんて、」

「そうだよな、、本来なら、これで収まっててもおかしくないんだけどな、」


 ラディアの言葉に、エルマンノは息を吐く。すると、ふと。悩む中でラディアが目を細めて放つ。


「まず、、なんでソナーが出てしまってるんでしょうか、?」

「考えられるものとしては、魔力が溢れてるんじゃない?」

「あ、溢れてる、?」

「その可能性が高いな。多分、魔力が多過ぎて、心の思いとシンクロしてるんだろう。自分でも気づかない自分の願いが、大きくなるにつれて溢れ出ている。そんな感じだ」

「つまり、、魔力が多いから、私の知らない私の中の望みを叶えるために溢れ出てるって事ですか、?」

「ニュアンスは違うかもしれないが、原因が魔力であるのは確定だろうな」

「な、、なら、その魔力量を、少なくすれば、、いけませんか、?」

「「っ」」


 ラディアの一言に、エルマンノは目を見開く。そうか、その手があったか、と。それが起こる心理的部分に思い当たる節が無いのであれば、魔力という根幹をなんとかすれば良いのだと。


「フレデリカ、魔力を少なくする魔薬とかあったりするか?」

「はぁ、、そう簡単に言わないで」

「魔力が増える薬はあるだろ?」

「魔力は摂取するタイプのものもあるの。それは受け取るだけだから簡単だけど、減らすのは簡単じゃない」

「なるほど、未来に行くのは簡単でも、過去に行くのが大変であるタイムリープ理論と一緒か」

「たとえが遠くなってるけど、まあそんなところ」

「な、、なら、、その、魔力を減らすのは、難しいって、、事ですか、?」


 エルマンノとフレデリカがそんな会話をすると、ラディアが恐る恐る割って入る。それに、二人は表情を曇らせながら彼女を見る。と。


「これこそ、魔力科の病院に連れて行った方がいいんじゃないの?処方箋があるかもしれないし」

「それもそうだな。こういうのはプロに見てもらった方がいいだろうし」


 フレデリカの話に、エルマンノもまた頷く。だが、対するラディアは目を逸らす。


「あ、ありがとう、ございます、」

「どうした?不満か?」

「いえ、、そういうわけでは、、無いんですけど、」

「けど?」

「...魔薬の勉強をいつもしているフレデリカさんが分からない事を、、分かる人は居るのかな、と、」

「何だ、そんなこと?」

「え、?」


 ラディアが小さくそう話すと、対するフレデリカは笑って彼女の目の前に向かった。


「大丈夫。私なんて、全体からみたらこれっぽっちだから。もっといろんなものが世界には溢れてるの。私が全ての魔薬を把握してるとか、何を調合すればいいとか、専門家レベルで知っていたら、新薬なんてもうとっくに出来上がってた筈だから」

「...」

「フレデリカさん、」


 フレデリカの言葉に、エルマンノは目を細める。きっと、悔しさも、その言葉には入っているだろう。彼女の性格を考えれば一目瞭然だ。だが、そんな責任感の強い彼女だからこそ、もし薬を知っていたとしても安易に渡さなかっただろう。


「それじゃあ、早速病院に行ってみるか。そこで、原因の特定も出来るかもしれないしな」

「はい!」


 エルマンノが優しく微笑むと、彼女は笑ってドアまで歩く。その後ろ姿を見据えながら、エルマンノはフレデリカの隣で小さく口にした。


「ありがとう。フレデリカ」

「何の事?」

「実は、知ってたんだ。魔力量を少なくする魔薬がある事」

「知ってて聞いてきたわけ?」

「いや、ここにあるかどうかは分からなかったから」

「無いけど、、ここにあるもので作れる」

「そうか、、やっぱりフレデリカが居てくれて良かった」

「なんで?私は作れるのにラディアを返したんだけど?」

「いや、魔力量を減らすなんて、体を考えると難しい事なんだろ?さっきの話、そういう意味も含まれてると俺は思った。魔力量を増加させる薬みたいに、安易に使えるものじゃない。摂取量とかも、制限されてそうだしな。...だから、専門家に話を聞いた方がいいって、そう促してくれたんだよな」

「そこまで分かってるなら、何でラディアをその気にさせたわけ?」

「だからフレデリカが居てくれて良かったって言ったんだ。きっと俺だけだったら、そんな事考えずにラディアにその魔薬を渡してただろうからな」

「少しは考えなよ」

「妹には気付かされる事ばっかりだ」


 エルマンノは、フレデリカの言葉にそうはにかむと、ドアの前でどうしたんですかと口にするラディアに笑って歩みを進める。


「悪い。妹との話に夢中になった」

「私も妹ですよね?」

「今度妹オールスターズで鍋でもやろうな」

「闇鍋になりそうですね」

「妹の闇鍋なら、喜んで食べよう」


 エルマンノは微笑みながらそう話し、視線でフレデリカに感謝を伝えながら、二人で頭を下げ実験室を後にした。


「はぁ、、もう、」


 閉められたドアに、息を吐くフレデリカだったものの、ラディアの事を考えながら、近くにあった紙を取り、メモ書きを始めた。


          ☆


 その後、いくつもの病院を周ったものの、原因は特定出来ず、処方箋も出す程では無いと見送られた。それ程、大きな魔薬なのだろう。魔力量の減少魔薬は。

 元々、魔力量の多さは良い事とされている。それを話した時点で、魔力減少なんて案は考えられないのだろう。皆口を揃えて精神科などを薦めてきた。


「...私、、頭がおかしいのかな」

「精神科を薦めてくる理由はそれじゃ無いと思うが、」

「でも、、まともに取り合ってもくれないじゃ無いですか!魔力量の測定すらさせてもらえないですし、」

「まず治療室にすら連れて行かれないもんな」

「はぁ、、何で、」


 エルマンノとラディアは病院から病院へと、何度も移動しながらそんな会話を口にする。やはり、魔力科に直接行くのは間違っているのだろうか。


「次は別の科で診察受けた後に、原因をしっかりと明確にした上で魔力科に移動した方が良さそうだな」


 エルマンノがそう小さく口にすると、ラディアが袖を掴む。


「おう、」

「...肌に触れなきゃ大丈夫なんじゃ無いですか?」

「これは憧れたシチュエーションだからだ」

「...おにぃ、、やっぱり、治らないのかな、?」

「そんな事無い。時間をかけても、しっかりと治せる方法と病院を探そう」

「時間なんてないんですよっ!」

「っ」


 ラディアの、突如荒げた声にエルマンノは目を見開く。


「こんなに、、こんなに迷惑かけてっ、、ソナーで、苦しんでる人も居て、、それにっ、引っ越しも控えててっ、、それなのに、時間かけてなんて、、出来るわけ無いじゃないですか!」

「ラディア、、わ、悪かった。そうだよな。引っ越した先で曲のイメージを下げることは、避けたいよな」

「違いますっ!それも、ですけど、、ですけどっ、、おにぃ達に、、これ以上、迷惑かけたく無いんですっ、、早く、出来るだけ早く収めないと、、いけないんです!そして、、出来ればおにぃと、ソナーが収まって、、全てが丸く収まった状態で、、一緒に、居たいんですっ」

「...ラディア、」

「だからっ!私にはっ、時間なんてっ、時間なんてないんですよ!そんな流暢な事言ってられないんです!迷惑はっ、もう、かけたくないんですよ、」

「はぁ、、はぁ、、ほんと、迷惑、」

「ん?」「えっ」


 突如、背後から声が聞こえ二人は振り返る。と、そこには。


「えっ!?なんでっ!」

「っ」


 荒い息を零すソフィの姿があった。


「まだ弱音を吐くタイミングじゃないでしょ。とりあえず今出来るのは、色んな病院にあたってみるしかない」

「ソフィ、」

「行くよ!」


 ソフィは、そう息を切らしながら放つと、ラディアの腕を引っ張って進んだ。外に出る性格じゃない。それをよく知っていたエルマンノもまた、その姿に優しく微笑んだ。

 が。


「...」

「...?ソフィ、?どうしたの?」


 突如立ち止まったソフィに、ラディアが首を傾げる。すると。


「...病院って、、どこ、?」

「あ」

「あぁ、引きこもりだもんな」

「しっつれいね。この辺しか知らないだけ」

「病院この辺だぞ」

「私のこの辺は家から直径百メートル近辺なの」

「それ引きこもりじゃ無いのか、?せめて半径にしてくれ、」

「家から出てるんだから引きこもりじゃないでしょ」

「ふふっ、、ありがとう、ソフィ、」


 そんな会話を交わす二人に、ラディアは潤ませた瞳で、優しくそう呟いた。


          ☆


「うーん、、どこも異常は無い様ですね。ただの思い込みでは?」

「そ、そんな、」


 やっとの事我々の話を聞いてくれるという医者が現れたものの、その人もまた、大した検査を行わずにそんな事を口にした。それに、ラディアは表情を曇らせる。と、その隣のエルマンノもまた歯嚙みすると、瞬間。


「もっとちゃんと調べてくださいよ!」

「っ!」

「ソフィ、?」

「本人がっ、こう言ってるんですよ!?もう少し、まともに検査してくれてもいいじゃ無いですか!?」

「そ、そうは言われましても」

「ソフィ、気持ちは分かるが、ここは病院だ。何も、全く調べてないわけでも無いし、その人の見解であるのも事実なんだ」

「クッ、にぃは、いいの!?妹が、苦しんでるのに」

「良くない。だが、それとこれとは話は別だ。俺らも確信はないだろ?それなのに、こっちの意見を押し付けるのは違うぞ」

「...」


 声を上げるソフィを、エルマンノは止めながら放つ。その後、ラディアとエルマンノの二人は頭を下げて、ソフィは医師を睨んで診察室から出る。その、ソフィの姿に、ラディアは泣きそうになりながら微笑んだ。


「ありがとう、」

「何?」

「私の、、ために、」

「...バディが辛い思いしてるのはこっちも迷惑だから、」


 小さく、俯き気味に放つソフィの言い分に、ラディアは口元を緩ませた。


「この辺の病院は駄目か、、小さい病院だからなぁ、、ちょっと遠いが、隣町まで行ってみるか?」

「行かなきゃ、、駄目でしょ」

「それもそうだな」

「すみません、、もう、いいです、」

「「え?」」


 エルマンノの促しにソフィが即答すると、ラディアがふと口にする。


「隣町の病院は、、私一人で行きますから、、本当に、ありがとうございました、、ソフィも、ありがとう、、もう、大丈夫だから。病院は、私が探すから、もう、」

「何勝手に決めてんの?」

「え、?」

「もう散々迷惑かけてきて、突然突き放すとか、、もっと迷惑」

「そ、そんなっ、突き放してるつもりはなくてっ!」

「私にとっては一緒。ここまで来たんだから。私だって、はいそうですかとは、言えないから」

「ソ、ソフィ、、でも、隣町なんて、」

「私をなんだと思ってるの。それくらい、私だって」


 ソフィが恥ずかしそうにしながらもそう放つ姿に、ラディアは目を潤ませ唇を噛む。


「お、おにぃは、、その、もう迷惑はかけられないですから、、その、」

「妹二人だけで隣町になんて、勝手に歩かせるわけにはいかないだろ。悪いが、お兄ちゃんもついて行かせてもらう」

「おにぃ、」


 二人に微笑みながらそう答えられ、ラディアは震えながら俯く。


「ご、、ごめんなさい、、私のせいで、こんなに、迷惑かけて、」

「はぁ。ほんと迷惑。だから、今度何か奢って」

「っ、ソフィ、」

「俺には兄妹プレイをさせてくれさえすればそれでいい」

「っ、、おにぃ、、ありがとう、、みんな、」


 今にも泣き出しそうになりながらラディアが放つ。と、瞬間。


「はぁ、、はぁ、い、居たっ、」

「えっ、フレデリカさん!?」

「だ、誰、?」

「おお、フレデリカ。なんでここに?お兄ちゃんが恋しくなったか?」

「違う。...それで?病院は、見つかった?」

「いえ、、その、ちゃんと診てくれるところは、、まだ、」

「そうだと思った、」

「そうだと思った、?というと?」

「まず、魔力が多いなんて奇才に等しいの。つまり、魔力を減らす事なんて、普通は考えない。だから極力、魔力を減らす薬なんて使用したくはないだろうし、魔力が多くて困る事も、少ないの」

「つまり、魔力を減らすのでは無く、多くて困っている事を、違う形で解決させたいってなるわけだ」

「そう。魔力を減らすなんてのは最終手段。いくら私達がラディアの気がかりをなんとかしようとした話をしたとしても、専門家を通じてないから流されるだけ。まずは専門家にお願いして、魔力が多くて困っている、心の部分。根幹をなんとかしようと促されると思う」

「俺達も同じ方法で対応しようとした話も、大して聞いてくれないって事か」

「な、、なら、、どうすれば、」


 ラディアはフレデリカの見解に力無く口にする。と、フレデリカは淡々と放つ。


「その専門家を通じて、どうしてソナーが出ているのかを探っていくか」

「そ、そんなのっ、時間かかってしまいますよね!?」

「...それか、これを使うか」

「「「!?」」」


 フレデリカはそこまで言うと、手に持っていた魔薬を差し出した。


「これって、?」

「まさか、」


 ラディアとエルマンノの言葉に、フレデリカは無言で頷く。


「これは魔力量を減らす薬。でも、扱いが難しい。使い過ぎると力を無くすし、魔力が多い人から極端に魔力が減ると、最悪の場合死に至る可能性もある」

「そ、、そんな、」

「なっ、何かっ!何か方法は無いんですか!?お願いします!ラディアちゃんを、、安全にっ、救う方法はっ、無いんですか、?」


 ソフィは、初めて会ったであろうフレデリカに、深く頭を下げる。それに、ラディアは彼女の名前を小さく呟くと。


「分かってる。だから、これを守って」

「え?」

「摂取量を事細かく書いてある。どの量で、どの物質と組み合わせて。どう適応させるか。分量とか、しっかりと見ながらちゃんと摂取して。そうじゃないと、死ぬから」

「字が小さいな、、読ませる気あるのか、?」

「それくらい情報が多いの。別に、危険なものだし、これを読むのがめんどくさいなら、別にこの魔薬は使わなくていい。普通に、病院に行った方が私はいいと思うから」

「みたいだぞ?どうする?ラディア」


 恐らく、先程エルマンノが実験室を後にしたのち、書いていたのだろう。改めて調べながら、もし医者でも駄目だった時に、力になれる様に。その姿を、懸命に書いたであろう事が伝わるその字を見ながら、エルマンノは優しくラディアに促した。すると。


「いいん、、ですか、?」

「いいも何も、もう書いちゃったんだから。ただ、これを守れるかどうかは貴方次第だけどね」

「はいっ!本当にっ、ありがとうございます!」


 きっと、言いたい事は沢山あったのかもしれない。だが、今はこれだけしか言えないと。ラディアは掠れた声で、皆に囲まれながら、涙を流して頭を下げた。


          ☆


「大丈夫か?ラディア。うなされてたみたいだが」

「は、、はい、、大丈夫です、」


 あれから数日。ラディアの家で、エルマンノは状態確認という名のお見舞いに来ていた。

 あれからもフレデリカの言いつけを守り、ラディアは適量を毎日摂取した。だが、未だソナーは止まらない。エルマンノは、それを隠そうとしたものの、それは本当にラディアのためなのか、と。仕方なく本当の事を話した。


「焦りはしなくていい。焦って分量を多くでもしたら、もっと大変な事になるだろうからな」

「はい、、大丈夫です、、少し、時間がかかるのかもしれないですけど、」


 ラディアはそこまで言うと、優しく微笑みながら窓の外を見た。

 少し、やつれている様に見える。なんだか、声にも力が入っていないし、元気もない。これは、副作用か何かなのだろうか、と。エルマンノは表情を曇らせた。

 すると、ラディアはこちらに向き直り笑顔を浮かべた。


「それでも大丈夫です!私は、一人じゃないって、分かりましたから!」

「っ!...そうか、、そうだな。ソフィやフレデリカ、オリーブ。みんな、ついてるぞ。みんな、家族なんだから」

「ふふっ、そうですね、、それに、おにぃも」

「ああ。妹の部屋なんて、毎日来るだけじゃ妹の摂取量が足らないな。ずっと泊まっていたい気分だ」

「それ、ソフィも言ってましたよ」

「あいつもシスコンなんだな」


 ソフィも、毎日来ている様だ。エルマンノはその事実に微笑みながら、既に日が落ちていたために立ち上がった。


「悪い、今日は時間的に帰らなくちゃいけない。明日、また来るよ」

「実家暮らしですもんね」

「ラグレスが帰ってくるからってのもある」

「怒りそうですもんね」

「会ったら色々と面倒だからなぁ」


 エルマンノはそう放つと、じゃあ、と。改めて放って家を後にした。

 すると。


「あ、、にぃも、?」

「おお、ソフィは今からか。ラディアは退屈しないな」


 帰りの道中。ソフィとバッタリと遭遇した。それに、エルマンノは微笑む。


「帰るところ?」

「ああ。今はラディア一人だ。思う存分イチャつけるぞ」

「別にそれが目的じゃない」

「本当か?」

「本当だから!」


 ソフィが僅かに頰を赤らめて放つと、エルマンノはニヤニヤとしながらそうかと呟く。すると。


「ねぇ、、ラディアちゃん、、大丈夫だった、?」

「ん?」

「最近、、なんか、調子悪そうでしょ?」

「...そう、だな、」


 エルマンノは心当たりのあるそれに、拳を握りしめながら目を逸らす。


「ねぇ、、その、フレデリカさんの事疑ってるわけじゃ無いけど、、本当に効いてるの、?あれ。寧ろ悪化してる様に、見えるんだけど、」

「フレデリカに勝る魔薬調合者はいない。お兄ちゃんが認めた相手だ」

「なんの保証にもなってないけど、」


 ソフィがジト目でエルマンノに告げた。と、瞬間。その時だった。


「っ!」


 エルマンノは、目を剥く。まただ。またソナーによって歌が聞こえる。あの時の歌。まただ。同じだ。


「どうしたの?」

「いや、、その、ソナーが」

「まだ聞こえてるの、?」

「あ、ああ、、ん、?」


 ふと、目の色を変える。おかしい。そうだ。このソナーにはおかしな点があった。ずっと、心のどこかで突っかかっていた部分である。そう、最初。一番最初にラディアの奏花から完成曲を聞かされたその時から、感じていたおかしな点。そうだ。

 少しソナーで聞いていた音声とは、違かったのだ。

 そして、今目の前に、ソフィが居ることで、エルマンノはハッと気づいた。


「ソフィ、、なんか適当に話してくれないか?」

「え?何、?何を?」

「あー、じゃあ、お兄ちゃん大好き!今日もお風呂一緒に入ろうねって言ってくれ」

「言うわけないでしょそんな事!なんなの?突然、真面目な話してたんでしょ!?」

「やっぱりだ、」

「え?」


 エルマンノは驚愕に声を漏らす。そうか。そうだったのか、と。


「やばい」

「え?」


 それを思うと同時に、エルマンノはそう零し、直ぐに踵を返すと、ラディアの家へと走って戻る。


「どうしたの!?」

「もしかするとっ、相当ヤバいかもしれない!」


 エルマンノはそう叫ぶと、息を荒げながら走るソフィと共にラディアの家をノックする。


「ラディア!ラディア大丈夫か!?」

「ど、どうしたの!?」

「クソッ、これはもうやむを得ない。入るぞ!ラディア!」


 エルマンノはそう叫ぶと、ソフィの腕を掴み、物体通過魔法でドアを通過する。そのまま、ラディアの部屋まで行くと。


「っ!」

「ラディアちゃん!?」

「はぁっ、はぁぁっ、はぁっ、はっ」


 そこには、息を荒げて倒れるラディアの姿があった。


「クソッ、、最悪だ、、もっと、早く、気づいていれば、」

「どういう事なの!?説明してよ!」


 倒れ込むラディアを揺すりながら、ソフィは後ろで立ち尽くすエルマンノに声を上げる。すると、拳を握りしめ、歯嚙みしながら、エルマンノはそう口にした。


「ソナーを出してたのはラディアじゃない」

「え、?」

「あの歌声は、、ソフィの声だったんだ」

「え、、私、?」

「つまり、魔力量が多かったのはソフィで、、ラディアは、、別に魔力量は多くなかった」

「って事は、」


 ソフィは、恐る恐るラディアに振り返る。それに、エルマンノは自身の不甲斐なさに憤りを見せながら、震えた声でそれを告げた。


「そんなラディアに魔力量を減らす薬を使った、、だから、今のラディアは、、魔力不足なんだ、」

「嘘、」


 魔力量が減ると死に至る可能性がある。それを思い出しながら、二人は絶望に崩れ落ちた。

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