第24話「妹の本心」
「な、」
思わず声が漏れる。
「...っ、ち、ちが、」
「そ、、そっか、、ごめんっ!ありがとね!言ってくれてっ」
ラディアはそう放つや否や、その場に居るのが辛いのか、はたまた恥ずかしいのか、慌てて戻って行った。その姿に、ソフィは崩れ落ちながら歯を食いしばった。
「違う、、違うよ、」
「ソフィ、」
「話しかけないで、、こう、なるんだ、、やっぱり、私、もう、いや、、私が嫌だよ、」
「...」
言いたくても言えない。それが、ソフィの悩みだったのかもしれない。先程の震えは、本当の事を話そうとした事に対する反応なのかもしれない。素直に話すのが、難しい人だって、居るのだ。
「...悪かった、、こんな事、するべきじゃ無かった」
「それ、、やめて、」
「え?」
「もっと、、惨めになる」
「...ソフィ、」
「ラディアも、にぃも、、みんなして、私が悪いのに、、それなのに、こっちだって悪いって、そんな言い方して、、やめてよ。一番悪いの私じゃん、、私が、何も、、一言も、謝れてないのに、」
「謝るのは、、難しい事だよな」
「でも、、ラディアは出来てる」
「ラディアは立派だな」
「にぃもだよ、」
「お兄ちゃんだからな」
「...当たり前なんだよ、、そんな事、それが、私は出来ない」
「多数派が当たり前と言うなら、今は確かに俺とラディアで謝れる人間が多数派だな。でも、それだけが全てじゃない」
「そんなの、、気休めでしかないよ」
「確かに、そうかもな。実際、社会に出るにつれて直さなきゃいけないところだ。でもまず、先に立てるか?道の真ん中で座り込んでると目立つぞ」
「...もう、ほっといて」
「心を痛めてる妹を放ってはおけない」
「...それは、ラディアの方でしょ。向こうに、言ってあげて」
「それもそうだが、俺にはソフィの方が痛めてる様に見えるぞ」
「っ!そんなわけない!私が全部悪いの!私がちゃんと、言えてれば、今日の事も、あの日の事も、全て上手くいってた!それなのに、私のせいで、、だから、加害者の事は、、放っておいて」
「加害者も人間だ。人を傷つけた人もまた、痛むもんだよ。殴った拳は痛いだろ?...とりあえず、一回戻ろう」
エルマンノはそう話すと、ソフィを家へと送った。
☆
「...それで?何で部屋に入って来るの?」
「昨日は寧ろ薦めて来たのに、」
「飲んでる私は、私じゃなくなるの」
その一言に、エルマンノは目を細めると、そののち、部屋を見据え苦笑を浮かべる。
「おかしいな。昨日俺掃除したよな」
「ん?うん。ありがとう」
「タイムリープしてね?」
昨日程ではないが、また部屋の中が戻っている。何をどうやれば一日でこうなるんだ。
「こういうところも嫌」
「ん?どうした?」
「酒のせいにして、怠けて、引きこもって、、全部の事から逃げる。そんな自分が、いや、」
「どうした突然、メンヘラって」
「メンヘラになりたくもなるよ、、こんな私、」
机の上で突っ伏す姿は、この周りの環境もあって、彼女の心を表現している様子だった。
「ごちゃごちゃしてるんだよな」
「え?」
「感情がだ。自分がこうした方がいい。本当はこう言いたい。そう、分かっているのに、いざ目の前にするとそれが出来ない」
「...慰めてるつもり?」
「いや、俺の見解を話してるだけだ。それと、そんなソフィに、こんな提案をしてしまった俺への戒めだ」
「いいよ、、もう。昨日会ったばっかりだし、そんな事まで考える必要ない」
「会ったばっかりとかは関係ない。もう、ソフィは俺の妹なんだから。知っておかなきゃいけないんだ」
エルマンノはそう告げると、目つきを変えて放った。
「ちなみに、本当はどう思ってるんだ?」
「え?」
「ラディアの事」
「...なんで昨日会ったばかりの人に言わなきゃいけないの」
「昨日会ったばっかりの人だからだ。ラディアとか、もう一人のメンバーの人とか、関わりが深い人こそ、言えないもんだろ?」
「...はぁ、ダル、」
「おい」
「でも、、それは、そうかもね」
「それで、?どうなんだ」
「...分かってるでしょ?何となく。ラディアの事、本当は好き。私だって、出来るならバンド、もう一度やりたい。でも、、私のこの性格が直らなきゃ、きっとまた同じ事になるし、一人で仕事するのが似合ってるよ」
「仕事、してたのか、?」
「ウザ、」
「そう言いたくもなるぞ、」
エルマンノがジト目を向けてそう口にすると、ソフィは頭を押さえた。
「してるよ、、内職だけどね」
「内職もあるのかよ、」
「ん?どういう意味?」
「いや、、異世界へのイメージが、」
「異世界?」
「こっちの話だ」
エルマンノが呟くと、ソフィは改める。
「まあ、、だから、私の事、忘れて欲しい。きっと、また会っても、、苦しめるだけだから」
「...それは、ラディアに言っておいて欲しいって事か?」
「そう、それと、貴方も、」
「...」
エルマンノは頷く彼女を見つめる。
「...何、?そんな事言う前に、直そうとしろとか、そう思ってるんでしょ?」
「違う。えっちな体型してるなと」
「出てって」
「分かった」
「...」
ソフィの言葉に、直ぐに頷き立ち上がったエルマンノは、玄関へと向かう。
「...直そうとしても、、出来ないんだよな」
「っ、、分かった気に、ならないでっ」
「なってない。それと、、憧れがあるんだろ?」
「え、」
「ラディアに。真っ直ぐで、一生懸命な、彼女が。羨ましいと思ってるんだよな」
「っ、昨日会ったばっかりの奴にっ!分かってたまるか!」
「違うのか?」
「...それでも、、駄目なんだよ、、私は、、もう、ほっといてよ、私を、、これ以上、惨めな気持ちにさせないで、」
「悪かった、、また、来るよ」
「来んな!」
エルマンノはそう告げると、ドアを閉めながら「鍵、頼むぞ」と呟いてその場を去った。
「...」
道中、エルマンノは悩む。きっと、その見解は間違っていない。自分への嫌悪があるからこそ、自分を見つめきれてない。きっと、本当に自分を深く見つめたら、心がもたないのだろう。だからこそ、それから逃げている。いや、無意識にそうしてしまっているのだろう。
「はぁ、、なぁ、アリア、、これで、良かったんだよな、」
アリアとは、ちゃんと向き合えていなかった。フレデリカの時と同じだ。話したくない事だから聞かない様にするという、そんな良い言葉に言い換えて、ただ、向き合う事から逃げていただけだったのだ。相手から目を背けずに見つめる。それが、一番の愛情だというのに。
「今度こそ、、嫌われても良い。...妹に、歩み寄ってやる、」
エルマンノは覚悟を決めながら、ラディアの元へ歩き出した。
☆
「ひくっ、、うぅ、、う、」
「やっぱり、ここだと思ったよ」
「え、」
王国の端の丘で、泣き声をあげるラディアに、エルマンノは小さく口にした。
「お兄ちゃん、、なんで、ここに、?」
「ライブハウスも、家にも、居なかった。お手上げ状態だったが、、初めて会った時の事、思い出したんです」
「あ、、あぁ、、そういえば、、ここでしたね、」
「明確なビジョンが無くて、ただソフィの事を引きずりながらソロ活動をしていたラディアが、居た場所。ここが、、心の拠り所なんじゃないかって、思ったんだ」
「よく、、分かりましたね、」
「ここを、同じく心の拠り所にしてる妹が、居るんです」
エルマンノは微笑みながらそう口にすると、その丘の上から見える景色を眺めながら、放つ。
「ソフィの事、なんですけど」
「...分かってます、、ありがとうございます。こんな事まで、、してくださって、」
「...」
「分かってたんです。ソフィは、、そう簡単には許してくれないって事も、、あの子は、ちょっと傲慢。そういう人ですから」
「...そうか、」
エルマンノは、ラディアの言葉を噛み締める様に受け止め頷くと、改めて彼女に顔を向けた。
「それよりも、よく頑張ったな」
「え?」
「勇気がいる事ですから、、思いを伝えるっていうのは」
「いえ、、私だけでは、、きっと出来ませんでした、、お兄ちゃんが、きっかけをつくってくれた、おかげです」
「きっかけを与えただけでそれをモノにできる人なんて、中々居ないですよ。ラディアは、凄いです。俺の自慢の妹です」
「...それでも、、駄目なんです、私じゃ、、ソフィの隣には、居られないんですよ、、あの人には、届かないんですよっ、」
その言葉には、ソフィからの思いと、周りから向けられるソフィとの比較。その二つに対しての想いが込められていた。
「届いてますよ。大丈夫です」
「え、?」
「ラディアが伝えたい事って、あれだけですか?」
「あ、あれって、?」
「誕生日プレゼントとして、曲を作ったってやつです」
「ま、、まあ、、出来るなら、、もう少し、言いたい事は、、ありましたけど、」
「なら、もう一度、ソフィに会いに行きましょう」
「っ、、もう良いです!ありがとうございます、助かりました。今日のことは、、本当にそう思ってます、、でも、もうあれで分かりましたから!もう、、嫌なんですよ、、もっと、嫌われるのが、」
「分からないじゃ無いですか」
「分かりきってます!何度やろうとも、、同じなんです!...というより、、何度も言った方が、、余計に関係悪くなりますから!」
「三度目の正直って言いますよ?」
「後二回もするつもりですか!?」
ラディアは、涙目でそう声を上げる。
「もう、いいです!助かってましたけど、、もう、エルマンノさんのお節介は十分です!もう、、いりませんから!やめてください!もう、迷惑なんです!」
「...それで、、このままで良いんですか?」
「いいも何も、、もう終わりですから!全部、終わったんですよ!」
ラディアはそこまで言うと、呼吸を整えながら、エルマンノを見据える。
「だから、、もう関わらないでください。エルマンノさん」
「...今日の夜くらいが丁度いいか、」
「え、?はっ、話聞いてます!?」
「はい、分かりました。これで、終わりですね」
「はい、、終わりです、」
エルマンノが呟く中、ラディアが怒りを見せると、改めてそう告げる。
「なら、今日の夜、打ち上げしませんか?」
「え、?」
「夜と言っても、俺も実家暮らしで家族が心配するんで、日が落ちるくらいになると思いますけど」
「ふ、ふざけないでください!私はっ、もうそういうのをーー」
「妹と、最後くらいハメ外したいじゃないですか」
「ハメ倒したいの間違いじゃ無いですか、?」
「そんな事言えるなら、大丈夫そうだな」
「何がですか!?」
「じゃあ、とっておきの場所を紹介するから。家で待っててくれ」
エルマンノはそれだけを告げると、手を振ってその場を去った。それに、ラディアは「なんなのあの人」と呆れ気味に頭に手をやるものの、まあ、最後なんだし、と。家へと戻るのだった。
☆
「ラディア?居るかー?」
「居ますよ、、そんな大声で呼ばないでください、」
「何でですか」
「父が来ますよ?」
「おお、、それはめんどくさそうだな」
その日の夕方。エルマンノはラディアの家のドアをノックしながらそう声を上げると、嫌々ながらに彼女は現れた。
「それで?打ち上げってどこに行くんですか?」
「俺の一推しです。まあ、ついてきてください」
「...嫌な予感しかしませんよ、」
エルマンノに案内されるまま、ラディアはついて行くと、途中から目を細め始める。
「あ、、あれ、?この道って、」
「着きましたよ」
「えっ、」
そこは、間違いなく、ソフィの家だった。
「っ!騙しましたね!?」
「ああ。騙した」
「もう、、嫌って言いましたよね!?」
「聞いたな」
「なら、、何でっ!」
「まだ、話してない事があったんじゃ無いですか?」
「ですからっ!それはもうーー」
「ソフィィィィィィィィ!居るかぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
「っ!やめてください!近所迷惑になります!」
ラディアの言葉を遮り、エルマンノはソフィの家の前で大きく声を上げる。それに、ラディアは慌てて口にすると、その瞬間。
「居るよ〜〜!居る居る〜!な〜にまぁた夜這いに来たの〜?それならちょっと早いよ〜、、って、えぇっ!?ラディアちゃん!?」
「へ、?」
「ビンゴ」
ドアを開けて声を上げるソフィに、エルマンノは微笑む。
「ソフィ!妹と三人で、飲み会しないか?」
「そ、そんなのっ、絶対っ」
「っ、、い、いいの、?」
「え、?」
「ああ。語り尽くそう」
エルマンノの切り出しに、ラディアは表情を曇らせながら割って入ると、その直後。ソフィは目を見開き、目に涙を浮かべてそう呟く。
「ありがとう、」
「え、」
何故か感謝の言葉を放ったソフィに、ただ驚愕する事しか出来ない、ラディアであった。
☆
「お待たせお待たせ〜、まあ、汚いところだけど、上がってって〜」
「なるほど。本当に汚いな」
「歯に衣着せぬ言い方するな〜、失礼しちゃうよ」
「奥歯に物の挟まったような言い方の人よりも親切だと思うが?遠回しな言葉よりも、直接言ってあげた方が、優しさだと思うけどなぁ」
「それとこれとは話別だよ〜」
「別じゃ無く無いか、?」
ソフィの家に入りながら、エルマンノが内装を見据えジト目を向ける。と、そんな中。
「...な、何で、?どういう事なの、?」
「あ、ラディアちゃんも、良いんだよ?上がって上がって」
「どういう事ですか、?これ、ドッキリとかですか、?な、ど、どういうつもりですか!?ソ、ソフィは、、本当はどっちなの!?」
ラディアは、エルマンノに向かって言う中で、途中からソフィに向き直りそう声を上げる。
「ど、どっち?にぃ、なんか、話した?」
「いいや、話してない。話してないから、こうなってるんだ」
エルマンノは首を横に振ると、目つきを変える。
「ラディア。これはドッキリでも無いし、サプライズとかでも無い。確かに、俺がソフィのところに無理矢理連れてきたのは悪かった」
「えぇ!?無理矢理なの〜!?」
「だが、これは俺が仕組んだ事でも無い。ただ俺は、ラディアとソフィを会わせたかっただけだ。それ以外に、俺からは何も口は出してない」
「...手もぉ?」
「ああ。俺は奥手だからな」
「そ、それとは、意味違いますけど、」
「だから、今目の前に居るのは、ソフィだ。俺から何かを吹き込んだわけでも、これが口裏合わせたドッキリってわけでもない。だから、今からの話も、全て本人の、そのままの言葉だ」
「え、」
エルマンノの発言に、ラディアは口を一度噤むと、ソフィに向き直る。
「どういう事、?怒ってたんでしょ?私の事、大っ嫌いなんでしょ、?なら、何で家に入れるの、?何で、、話しかけてくるの、?」
「ラ、、ラディア、ちゃん、」
「え、」
「う、うぅっ、ごめんなさいぃぃぃっ」
「えぇ!?」
突如、ソフィはそう声を上げラディアの目の前で頭を下げる。
「私、、その、いつもっ、、言えなかったっ、私の、、本当の気持ち、、言いたくても、言えなかった、」
「え、?ど、どういう、?」
「いつも、私は見栄張っちゃって、、言いたい事、言えなかった、、本当は分かってた、、全部、私が悪いのに、それなのに、、ラディアは自分も悪いって、私に仲直り、、しに来てくれたのにっ」
「う、うん、、それは、分かってる。私の事、嫌いなんでしょ、?」
「違うよ!それがっ、言えないんだよ!」
「え、」
「変な、事言っちゃう、、いつも、逆のこと、言っちゃうの、、本当は、そんな事、思ってないよ!」
「え、?ど、え?」
意味が分からない。そんな様子のラディアがエルマンノに目をやると、部屋の奥で微笑みながら頷く。
「つまり、ツンデレって事だ」
「え?それって、」
「うん!私っ、本当はっ、ラディアちゃんの事大好きだった!」
「えぇっ!?」
ラディアは驚愕する。
「ごめんね、、ずっと言いたかったのは、、本当はそれ、、でも、ごちゃごちゃしちゃって、」
「ご、ごちゃごちゃ、?」
「うん、、分かんなくなっちゃった、、私、自分の事が分からない、、ううん、違う、、私、自分が大っ嫌いで、本当は分かってるのに、自分と向き合うのが、嫌だった、、もっと嫌いになるのが、、嫌だった、苦痛だった、、だから、だからっ、自分の非から逃げようと、、してた、気持ちは固まってるのに、、上手く、口に出せなかった、」
「ソ、ソフィ、」
ラディアは、崩れ落ちるソフィに、同じくしゃがみ込み視線を合わせながら優しく口にする。どうやら、もう困惑は無さそうだ。ラディアの表情から、それが窺える。
ラディアは、ソフィと仲良しだった。だからこそ、分かるだろう。ソフィの、性格を。ソフィが、ラディアの性格をなんとなく分かっていたのと同じで。
「ごめんね、、私、一人で、ずっと、、わがままで、、色々、してきちゃって、」
「...そうだね」
「ラ、ラディアちゃん、?」
ラディアは、ソフィの俯きながら放つそれに頷くと、息を吸って目つきを変えて放つ。
「ほんと!わがままだった!」
「っ!」
「私、、いっつも腹立ってたの!なんでも上手くいく貴方をみてると」
「ご、ごめん、」
「何でそんな簡単に出来るの、?どうしてそうなの?そうやって簡単に出来るからって、人のやる事に上から目線になって!私がっ、どれだけ、、どれだけ頑張ってきたか!」
「ご、ごめんなさい、」
ラディアの言葉に、ソフィは涙目になりながら掠れた声を零す。
「いい!?私は、ずっと、ずっっと頑張ってきたの!ソフィが精霊遊びしてる間も、勉強して、家事して、色々してたんだから!」
「ごめんなさい、」
「それで、、それでっ、どうしてステージで、ファンから注目を奪ってくの!?どうしていつも周りからチヤホヤされるの!?そんなっ、自分勝手で、人の事考えないのにっ、なんでそんなに上手くいくわけ!?ビジュアル系に憧れてたのにソフィのせいでアイドル寄りのポップスになってたし!それなのになんでファンが多いわけ!?節穴かよファンは!」
「う、」
「いっつも前を歩いて、、私がどれほど頑張っても、追い越せなくて、、ここまで頑張ってるのに、、私が成し遂げられない事簡単にこなして、平気なフリして、、ほんと、わがままでっ、嫌い!」
「っ!」
ラディアの言葉は、恐らく本当の事だったのだろう。それ程までの迫力が、そこにはあった。それに、ソフィは目を剥き、言葉を飲んで押し黙る。そんな彼女の頰に、涙が伝った。すると。
「でも、でもね。私、ソフィに、憧れてた」
「え?」
ラディアが優しく放ち、ソフィは真っ赤になった目で顔を上げる。
「あ〜!スッキリした〜っ!ずっと言いたかったんだ!」
「...へ?」
今度は、ソフィが困惑する。
「腹立ってた。それは本当。でも、ソフィに憧れて、そのお陰で頑張れてさ、、友達になれて、同じメンバーでバンド出来て、嬉しかった。それも本当。きっと、誰よりも、ソフィと一緒に居て嬉しかったと思う」
「え、?」
「だって、私が、どんなファンにも負けないくらい、一番ソフィ推しだから!」
「っ、、ラディア、ちゃん、」
ニコッと。ラディアは微笑む。そんな彼女の優しさに、ソフィは溢れんばかりの感情のまま、彼女に抱きついた。
「わっ、もー、甘えん坊さんだなぁ、ソフィは」
「う、うぅっ、ごめんねっ、ごめんっ、私、、いつも、そうやって、、独りよがりで、行動して、、バンド、やりたかった、、でも、誰も、みんなっ、私と組んですぐ、やめていった、」
「ソフィ、」
「私、、ラディアちゃんに出会えて本当に良かった、、私、きっとラディアちゃんがいなかったらバンドやってないし、、私のスキルも分からないままだった、、私も、ラディアちゃんが居たから、頑張れたのっ」
「えっ」
「一人じゃ、、何も、出来ないの、、ラディアちゃんが、私を見つけて、優しい心で、私を、、見つめてくれてたから、、だから、あそこまで、、あのバンドは大きくなれた、、私が、頑張れた、、私もっ、、ラディアちゃんに、、ずっと憧れてたっ、大好きだった!」
「ソフィ、」
お互いに感情を曝け出しながら、抱きしめ合う。掠れた声で、今にも泣き出しそうな表情で。
と、そんな中。
「...」
「...エルマンノさん、ちょっと、何そんな舐める様な目で見てるんですか、」
「いや、妹同士の百合は大歓迎だ。続けてくれ。俺は背景に透過してるから」
「透過出来てませんよ。存在感が」
「現実でもレイヤーを別に出来たら良いんだけどなぁ。今は村長が羨ましい限りだ」
エルマンノが、二人のムードを邪魔してしまった事に息を吐く。と。
「うぅ、、ラディアちゃん、、大好き、」
「ん?えぇっ!?ここで寝てるの!?」
「凄いな。どこでも眠れるんじゃ無いか?」
「...色々話して、、疲れちゃったのかもしれません。寝かしておいてあげましょう」
「...それもそうだな」
ラディアは、その寝顔と寝言に微笑むと、そう優しく呟き、上から被さる様にして抱きついて来たソフィを退けようとする。
が。
「んっ!」
「?」
「ふんっ!」
「?」
「...エルマンノさん、助けてください」
「どうした?」
「お、重くて、」
「それソフィに言ったら傷つきそうだが」
「食べてばっかのくせに動いてませんからね、」
「理由は明確だな」
エルマンノはそう呟くと、二人で彼女を持ち上げ、寝かしつけたのち上から毛布をかけて部屋を出る。
「...ありがとうございます」
「感謝の相手が違うんじゃないか?」
「ソフィには、もう言いましたから。それに、明日も、言えますし」
「俺が今日死ぬみたいな言い方やめてくれません?」
「ふふっ、そう聞こえますね」
部屋の前。廊下から王国を見渡しながら、エルマンノとラディアはそう会話を交わす。と、そののち、少し間を開けてラディアは放つ。
「分かってて、、この時間に呼び出したんですよね」
「何の事ですか?」
「あの後、ソフィはまたヤケ酒を飲んで、この時間帯に酔っ払うのを予想したから。それで、その時間に合う様に、私を連れて来たんですよね」
「...妹は、兄の事よく見てるんだなぁ」
エルマンノはそう吐き出す様にして口にすると、優しく微笑んで続ける。
「はい。...その、ソフィ、飲んでる時は自分じゃ無くなるって言ってたんです。でも、話してる感じから、きっとそうじゃ無くて、酔っ払ってる時が本当の彼女と言いますか、アルコールが入ると素直になるといいますか。...そんな感じに見えました。これがどうなるかは一か八か、正直、賭けでしかなかったです。ソフィがお酒を飲んでるかも分かりませんし、それで酔っ払ってるかも、本心を話してくれるかも、、そして、ラディアが来てくれるかも。全てが不確定でした。でも、上手くいって良かったなぁ」
エルマンノは一仕事を終えた様子で伸びをする。
「...でも、、あのまま私が帰ったり、、ソフィの言葉を信じなかった可能性もありますよね?ソフィも現に、酔っ払ってる時は自分じゃ無いって言ってたんですし、」
「そこは心配してませんでしたよ」
「え?」
ラディアの問いに、エルマンノは口元を綻ばせながら、振り返る。
「ソフィとラディアは仲良かったんですよね?ラディアの話の中で、相手のことよく見てるのが分かりました。だから、そこは問題無いと思ったんです。だって」
エルマンノはそこまで言うと、改めて真剣な表情で告げた。
「ソフィにアルコールが入った時に話す事は、本心なんだって。出会って二日しか経ってない俺ですら、何と無く分かったんですから」
「っ」
「だから、それ以上の説明は必要無いって思ったんです。ただ、俺が何か裏で話を合わせてたって思われたら疑われると思ったんで、そこは先に誤解を解きましたけど」
「...エルマンノさん、」
「きっと、喧嘩してからお酒の入ってるソフィと話してないから、本当か嘘かが分からないんじゃないかなって、、俺の勝手な憶測ですけどね」
その言葉に、ラディアは一度キョトンとしたものの、直ぐに微笑んで息を吐いた。
「...はぁ、、凄いなぁ、、これが、兄ってもの、なんですか?」
「ああ。妹の事は、何でも分かる」
何か吹っ切れたのか、ラディアはクスリと笑ってそう聞く。と、エルマンノの自信げな返しに、ラディアは意地悪に笑って放つ。
「でも、私がソフィの言葉が本音だって確信したのは、そこじゃ無いですよ」
「ん?他に何かあったか、?」
「ソフィは、ずっと私をラディアちゃんって、呼んでたんです!」
「っ、、フッ、そうか。お兄ちゃんの知らないところで、そう呼び合ってたんだな」
きっと、それだけでは無いだろう。エルマンノの知らないところで、お互いしか知らない事で、関係の深さから察する事ができた部分が、沢山あるのだろう。それを思いながら、エルマンノは微笑んだ。
「なぁ、ラディア」
「どうしました?」
「ソフィはいつも前を歩いてる。そう、見えてたのかもしれないけど、ソフィもまた、ラディアが必要だった。ラディアは、ソフィは才能があるからいつも前を歩いている様に見えたかもしれないが、本当は、二人並んで、酔っ払って眠りそうなソフィを支えながら、肩貸しながら歩いてたんじゃないかな」
「...そう、なんですかね」
「ああ。きっと、どちらも欠けてはいけない存在だったんだ。この部屋見たら分かるだろ?ソフィを一人にさせたら、問題大アリだ」
「ふふ、それもそうですね」
エルマンノがドアを見つめながら、ドアの向こう側を想像して口にする。それに、ラディアは一度微笑むと、何か考えがまとまったのか、うん、と。頷いて改めた。
「あの、エルマンノさん、本当にありがとうございました!今まで」
「ああ。というか、本当に今日で殺そうとしてませんか?」
ラディアはそう元気に感謝を伝えると、それにエルマンノは苦笑を浮かべる。が、そののち。
「いえ、そして、これからよろしく、ね?おにぃ!」
「っ、、そうか、そうだな。ああ。よろしく。ラディア」
そう元気に笑うラディアに、おにぃと呼ばれたことに心躍らせながら、エルマンノは差し出された手を握った。
「おうふ、」
「?どうしたんですか?」
「いや、妹肌に触れると声が出るんです」
「確かに、手には色々な感覚神経が通ってるっていいますもんね、、一番えっちな場所かもしれません!」
「妹肌はどこでもえっちですけど」
そう口にするラディアに、エルマンノが淡々と返すと、改めて彼女を見据える。
「どうしました?」
「いや、敬語はそのままなんだなと」
「あ、はい!慣れてしまったので、、その、おにぃに敬語は駄目ですか?」
「大歓迎です」
「良かったです!」
エルマンノが即答すると、ラディアは元気に微笑む。その表情に、良かったと。エルマンノは優しく口元を綻ばせた。と、そののち。
「マズいな、そろそろ帰らないと」
「あ、実家暮らしですもんね」
「ラディアもだろ?そろそろ帰らないとマズいんじゃないか?」
「私のところはそこまで厳しくないので。それに、ソフィのところに、もう少し居たいので」
「...そうか」
エルマンノは彼女の言葉に微笑むと、頷いて手を振った。
「じゃあ、また明日にでも顔出すよ」
「はい!」
ニコッと笑うラディアの笑顔は、今までで一番輝いてみえた。流石ステージに立っているだけあるな。エルマンノはそう思いながら、ニヤついた顔のまま家へと向かったのだった。
☆
「っ」
翌朝。エルマンノはいつもの様にゆっくりと起き上がるが、しかし。眠たい意識を壊す様に。
「嘘だろ、」
あの歌が、ソナーとして脳に届いた。
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