第23話「姉妹の仲裁は兄の役目」
「す、すみません、」
「いえ、そんな、」
数分後。エルマンノはボコボコにされていた。
あらすじ。ソフィは目覚めると、目の前には見知らぬ人物がおり、そいつは自身をお兄ちゃんだと錯覚しソフィと接触。身に覚えのない事を連発する彼に、恐怖から自己防衛が発動。エルマンノはこの通り、見るも無惨な姿となった。
「わ、、私、昨日、何か、、しましたか、?」
「ノックしただけの俺を部屋に入れて、そのまま誘い始めて、一線を越えようとしてきました」
「っ!?す、すみませんっ!」
「恐らく、貴方が思ってる数倍エロかったです。その時のソフィは」
「っ!?そ、そのっ、わ、、私から、、言っておいて、、あれ、なんですけど、、その、や、やったり、」
「してませんよ」
「はぁ、、良かったです」
「心底ホッとしないでくださいよ。お兄ちゃん泣きますよ」
「いや、それは貴方に被害を出さなくてって意味でもあって、」
「被害は出てますが」
「う、」
「被害届、出しに行こっかなぁ」
「う、、そ、その、何を、、お望みですか、?」
「俺がそこまで外道だと?」
「そこまで深くは、知らないので、何とも、」
どうやら、昨日の記憶は無いらしい。本当に寝たら記憶リセット少女だ。
「それじゃあ、俺がお兄ちゃんって事も、忘れてるのか?」
「え、、あ、貴方が、、私の、お兄ちゃん、?」
「そうだ」
「そ、そんな事、誰からも」
「それはそうだ。昨日、兄になったからな」
「え?」
「俺が昨日、ソフィに妹になってくれと言ったら、いいよ〜って言ったんじゃないか」
「えぇっ!?わ、私が!?」
エルマンノは、声を上げるソフィに、真剣に頷く。と。
「クソッ、、何めんどくさい事してんだよ、、恨むぞ私、」
「おーい、聞こえてるぞ〜」
恐らく、現在のソフィも本当の彼女では無いようだ。恐らく今の愚痴が本音だろう。聞こえているので全然陰口では無い。
「その、、一度了承しておいて何なんですけど、、その、妹には、な、なりたく無い、といいますか、」
「じゃあ、被害届出してきますね」
「あぁっ!も、もう、、クソッ、分かりましたよ、、妹になれば、、いいん、ですよね?」
「はい。あの時のソフィは快く受け入れてくれたなぁ」
「分かった!妹になります!それで良いんでしょ!?」
「なんか投げやりだな、」
「ヤケクソにもなりますよ」
「それじゃあ、俺の事は"にぃ"って呼んでくださいね。貴方はそう言ってました」
「クッ、、な、何で、そんな恥ずかしい言い方を、」
顔を赤らめ歯嚙みする彼女もまた、それはそれで良かったので、エルマンノはつい調子に乗りすぎてしまった様だ。いかんいかんと。首を振る。すると、そんな中で。
「あれ、、部屋が、」
「ん?ああ、部屋の事は覚えてるのか?」
「え?まあ、私の部屋だし、」
「寝てる間暇だったんで、掃除してたんだよ。とりあえず、見栄えは良くなったでしょう?」
「え、、あ、ありがとう、、ございます、」
「そんなにかしこまらなくて良い。タメ口でいい。そう、寝る前のソフィは言ってたぞ」
「はぁ、、ほんと、めんどくさいな、私って」
ソフィは低く自身への嫌悪を見せると、改めてエルマンノを見据えた。
「と、とりあえず、ありがとう。にぃ」
「もっと言ってくれても良いんだが」
「はぁ、ダル、」
「心の声聞こえてますよ」
エルマンノは淡々とそう返すと、ソフィは姿勢を正して座り、改める。
「それで?どうして私の家に?宅配では無さそうだし、理由があったんでしょ?」
「ああ。その通りだな」
「その、掃除もしてくれたんだし、、その事に関して私が手伝えるなら、手伝うけど、、まあでも、手伝うのはその一つだけ。貴方をーー」
「んっん!」
「う、、はぁ、にぃを部屋に無理矢理入れたのはその妹になるって条件でチャラだし、残りは掃除分だけ」
エルマンノが貴方と言ったところに指摘する様にして咳き込むと、ソフィは息を吐きながらそう付け足した。すると。
「助かる。その、ラディアの件で、来たんです」
「っ!」
「ラディア、今度ソロのライブやるんです。その、観に来て、くれないですか?」
「...ごめん。前言撤回」
「え?」
エルマンノのお願いに、ソフィはそう口にすると、立ち上がり踵を返す。
「それは、、嫌。他のにして」
「...」
その返答に、エルマンノは目を細める。どうやら、ラディアの事を快く思っていないのだろうか。エルマンノはあの時とは反応がえらく違う彼女に、浅く息を吐きながらもそう問うた。
「その、、ラディアと、何か、あったのか?」
「...あな、、にぃ、には、関係ないから」
「関係ある。俺は兄だ。ソフィの、、そして、ラディアの」
「っ!」
エルマンノの最後の付け足しに、ソフィは目を見開く。
「え、、にぃ、ラディアの兄でもあるの?」
「そうだ。ラディアの兄になって、彼女のソロ活動をサポートしてきた。その中で、元バンドメンバーだったソフィの話を聞いて、今、会いに来たんだ」
「...ラディアが、、教えるはずない。だって、」
「ソフィを、嫌ってるからか?」
「っ!知ってるならなんで、」
「そんなわけないだろ」
「は、?」
「確かに、大まかな話は聞いた。自分勝手で傲慢。そんな事言ってましたね」
「...やっぱりね、」
「でも、それでも、大切だと思ってるんだよ。ソフィを」
「そんなわけないでしょ!?」
「っ」
エルマンノの言葉に、ソフィは声を荒げた。
「私、そのまんまの事してきた。傲慢で、自己中な、最悪な事。その時、ラディアからも色々言われた。最低、大っ嫌い。そう言われた。もう一緒に音楽をやりたくないって、、そこまで言われた!ほら、それで、結局、自分勝手で傲慢って、、言われてるんでしょ?」
「分かってないな。嘘なんだよ、それ」
「は、?そんな事、」
「確かに、その感情は、嘘じゃないかもしれない。鬱憤が溜まってたのかもしれない。でも、それなら俺にソフィの住所なんて教えるはずないし、ラディアはソフィが元気してるか聞いてきてって、そう言ってきたんだぞ?」
「え、、ラディア、が、?」
ソフィが呆気に取られながらそう開いた口から零すと、エルマンノは強く頷く。
「俺がここに来てる事が、その答えだ。証明だ。ただライブに来てくれ、とは言わない。だから、その代わり」
エルマンノはそこまで放つと、目つきを変えて放った。
「ラディアと何があったのか、教えてくれないか?」
☆
「ふぅ、、なるほどな、」
エルマンノは、ソフィの家からラディアの居るライブハウスにまで歩きながら、そんな独り言を呟く。
『昔、、三人でバンドやってたんだけど、、作曲者は特に決まって無かった。でも、強いて言うならドラムだった一人が作る事が多くて、、その人の曲を歌う事が多かった、、でも、私は納得出来なかった』
『と、言うと?』
『私は、、これじゃあ駄目だと、思った。そんな私の自己中心的な考えで、編曲という名目で曲を作り変えた、、でも、ほとんど変えちゃってさ、作る意味がないって、、そんな協調性のないやつとはバンドやれないって、、やめていったの』
『...つまり、自分の納得出来る形に、バンドメンバーの意見を聞かずに改変してしまった。そういう事か、?』
『そう、、ラディアの時も、それと同じ。私があの子の作った曲に対して文句言って、それでって感じ、、でも、今思えばあれだけじゃ無かったんだと思う。もっと前から、色々、思うところがあって、、それが爆発したのかなって、』
ソフィの話には、嘘は無いようで、本当に自身を見返しながら、心が締め付けられる思いで話してくれた。だが、そこにエルマンノは一つ疑問を抱いた。仲が良かった。ラディアからはそう聞いている。それなのに、話し合いもせずに、感情のままこんな事になるだろうか。エルマンノはそこまで考えたのち、主観的な意見だけを参考にするのは良くないと。改めた。
「はぁ、、じゃあ、次はラディアの意見だな、」
エルマンノは他の視点からの意見を求めるべく、ラディアの居るライブハウスに向かった。
ライブハウスに入ると、現在進行形でライブ練習を行なっていた様で、エルマンノは後ろで手を叩きながらノリに乗る。と。
「ありがとうございました〜!」
「いぇぇぇぇぇぇいっ!」
「わぁ!?びっくりした!?居たんですか!?」
「はい。ライブ中だったんで。静かに入りました」
「ライブと言っても練習ですよ、?観客貴方しか居ないですし」
「観客が俺しか居ないのに、気づかなかったのか、?随分と鈍感なんだな」
「そ、そういう問題じゃ無いと思いますが、」
エルマンノが芸人ばりに声を上げると、ラディアはやっと彼の存在に気づいた様で、慌てて声を上げる。
「集中、、してたんです、」
「観客、、あまり考えない様にしてたんだよな」
「っ!」
「また、緊張しちゃうから。それで」
「う、」
エルマンノが、察したそれを口にすると、ラディアは口を噤み目を背ける。と、そののち。
「そ、それにしても、突然タメ口なんて珍しいですね」
「ああ、、そうだ。ソフィと話してたから、、癖で。そのままタメ口になってました」
「いえ、別に私は良いですけど、妹ですし」
「認めてくれるんですね?」
「それで手を貸してくれるならいくらでも!」
「バイト感覚か、」
エルマンノは口を尖らせながらそう呟くと、改めて放つ。
「それで、ソフィのことなんですが」
「っ、、ど、どう、でした?」
「元気だってさ」
「よ、良かった、」
「後、とんでもない汚さでしたね」
「あー、、想像つきます、掃除担当は私だったので」
「分担してたんですか?」
「はい。私が掃除や洗濯、食事作ったり、買い物行ったり、家事は私がしてました!」
「分担とは、?」
「あの人引きこもりなんで、」
「まあ、、何と無く分かるが、引きこもりだからこそ家事してもらった方が良いんじゃ無いのか?」
食料は買い溜めしていたのだろう。日持ちするものが多かった印象だ。基本は家に居るのだろう。と、それを思うと同時に。
「なぁ、ラディア」
「え、は、はい、?」
「ソフィと、、またバンドやりたいんじゃ無いですか?」
「えっ」
「...少しの間でも分かりますよ。ソフィの事、誰よりも心配してますし、ソフィの話の時、イキイキしてる様に見えますし」
「...そ、それは、」
ラディアは目を逸らす。恐らく、予想通りなのだろう。それを認めたくない何かが、解散の原因にあるのか、と。
「ラディア、ソフィは自分がラディアの曲に文句を言ったから解散になってしまったと言ってたんですけど、そうなんですか?」
「っ、、そ、そう、ですね、、きっかけは、それだったと思います」
「きっかけ?」
「はい、、二人でバンドをやり始めて、女性二人なんで、、勿論、アイドルではないですけど、推しとか、そういう話もあって、」
「まあ、どっち推しとか、そうなりそうですね」
「その、私にも、居てはくれたんですけど、、ファンの数が明らかに違かったんですよ」
「ソフィとか?」
「はい、私、こんなだし、」
「こんなとは?」
「う、、ず、寸胴ですし、」
「まだ根に持ってるんですか、?」
「違いますよ、、お兄ちゃんの言う通り、自覚してたんです。それに対して、、ソフィは可愛いし、キャラが立ってるし、」
「銀髪、眼鏡、巨乳、酒飲み。まあ、確かに属性を盛りすぎではあるな」
「最後のやつは他の人は知らないですよ、」
エルマンノが独り言の様に呟くと、ラディアはジト目を向ける。と、少し間を開けたのち、ラディアは続ける。
「それで、曲もあの子が作ってて、歌も上手くて、ギターも弾けて、」
「ラディアも弾けるじゃないか」
「気休めですよ、、あの子はそれ以上の才能とカリスマ性がありますから、、それが、何だか、」
「悔しかったんですか?」
「うーん、、悔しい、、って、思った方が良かったのかもしれません。...でも、なんかもう、あの子だけでも良いかなって、思ったり、、まあソフィなら、仕方ないって、思う様になっちゃって、」
「...」
ラディアの、その言葉に、エルマンノは表情を曇らせる。比べられてしまうのは仕方がない。その中で、諦めが勝ってしまったのだろう。
「それでも、、ソフィとは、仲良かったですし、、その、ソフィの事、応援してたんです」
「そんな時に、、ラディアの曲を、ソフィが?」
「あ、はい、、そんな中、その、私が新曲を、作ったんです。いつも、ソフィが作ってて、それで、」
「たまには作りたいって思ったんですか?」
「いえ、、その日はソフィの誕生日で、、私、たまには、休んで欲しいと思ったんです。...いつも、任せきりで、私はいつも渡された楽譜を見て演奏して、、歌って、、それの繰り返しだったので、、たまには、その、私が作ってあげたいと、思って、」
「それが、、その曲が、誕生日プレゼントだったって事ですか」
「はい、」
「でも、それにいちゃもんを?」
「いちゃもんというか、、その、ここはこうすべき、、いや、もっとこうすると、いや、もう私が書き直すからって、、そう言われて、」
「確かにそれは辛いな」
「はい、、それで、今まで感じてたその、コンプレックスと言いますか、それを含めて、怒っちゃったんです、私。そんな事するから、メンバーも減ったなんて、言い方して、」
「間違っては無いかもしれないですけど」
「それでも、、言い過ぎました、、私、ソフィのために、あの子に喜んで欲しいから曲を作ったのに、、それで喧嘩なんてしたら、本末転倒で、、私、目的を、間違えてたんです」
「目的、?」
「元々、ソフィを喜ばせるためっていう目的のために曲を作ったのに、、その時、私は自分の曲を認めて欲しいに、変わってたんだと思います」
「...」
エルマンノは口を噤む。確かに、そう思ってしまうのも仕方がない。だが、きっとお互いに悪い事だと分かっていて、そして、どこかでもう一度やり直したいと思っているのだろう。
「だから、、曲を広めて、分かって欲しいって事ですか?」
「...きっと、、それも違います。お兄ちゃんの言葉で、、分かりました。多分、私はただ、ソフィに、曲を、聞かせてあげたかったんだと思います、、その時に作った歌ってのが、、この間ライブでお兄ちゃん達と歌った曲で、ソナーで出ている歌、だったので」
「...そうか、、という事は、この間試作品用の奏花をあげてしまったという相手は、」
「はい、その時に、、ソフィに、」
「なるほどな、」
エルマンノはそこまで聞いて呟くと、少し間を開けたのち、真剣な表情で告げる。
「それ、、その、誕生日プレゼントとして曲を作って、休んで欲しかったってやつ、、ソフィには、、言ったんですか?」
「...そ、それは、、言って、、ないです、」
「まあ、言える感じじゃ無かったんだろうしな、」
エルマンノはそう呟くと、そうだな、と。呟いて提案を口にした。
「...明日、ソフィと会ってみないか?」
「え、」
「嫌ならいい。きっと、ソフィの感じを見て、あの人ならライブに来てくれると思う。だから、焦らなくても良いとは思うが、、それでも、こんな感情で、ライブを控えてるっていうのは、少し嫌だろ?」
「...少し、、考えさせて、ください、」
「ああ。いつでも良い」
エルマンノはそう呟くと、ライブハウスを後にしようと踵を返す。が、その時。
「あ、その、お兄ちゃん」
「おお、、もう一回言ってくれません?」
「え、、あ、その、お兄ちゃん、?」
「"待って、お兄ちゃん"の方がありがたい」
「変な趣味ですね、、どうせならもっとえっちな事言わせた方が良くないですか?」
「良いんですか?」
「これも人生経験です」
「...俺が良くない道に進ませようとしてるみたいだからやめておくよ。妹には、清く正しい道を薦めるのが兄だ」
「...」
「それで?どうしたんですか?」
エルマンノの答えに、目を細め、僅かに視線を落とす。そんな彼女に、用件を促すと、ラディアはハッとし口を開いた。
「その、、明日、」
「明日?」
「明日に、、してください。答え、、出すの」
「焦らなくて良いんだぞ?」
「いえ、、そう言われると、甘えてしまう気がして、」
「...そうか、、分かった。それじゃあ明日、東の第二公園で、ソフィと待ち合わせだ」
「えぇっ!?そ、それはっ」
「嫌か?」
「う、、そ、それは、」
「嫌なら、来なければ良い」
「え、そ、そんな、」
エルマンノは冗談めかしてそう口にする。ラディアは、しっかり者の様だ。それに、心のどこかで、ソナーの事が引っかかっているのだろう。一日でも早く、迷惑をかけるのをやめたい。彼女は、そういう人だ。エルマンノは「大丈夫。ソフィにも同じ事言っておくよ」と付け足し、その場を後にした。
☆
「おーい、ソフィ、まだ起きてるかー?」
「んぇ?まだ居るに決まってるじゃん!これからだよ〜夜はぁ」
「...また飲んだのか」
「ちょっとだよ、ちょっと、先っぽだけ〜」
「それは全部だ」
エルマンノがジト目でまたもや顔が赤くなっているソフィに放つと、能天気な様子で口を開く。
「で?入る?」
「妹の部屋だ。入って妹空気を堪能したいところだが、今は時間的にやめておく」
「え〜、ケチだなぁ、、泊まってってもいいのに〜」
「起きた時にまたボコボコにされるのはごめんだ」
「あははっ、そうだっけぇ?」
駄目だ。全然飲んだ量が少しじゃ無い反応だ。
「ちゃんと栄養のあるもの食べなきゃ駄目だぞ?買い溜めして、外に出てないんだってな」
「えぇ、誰から聞いたの〜?酷い言われようだなぁ。買い溜めしても直ぐ無くなるから頻繁に外出てるよ〜」
「そんなに食べてるのか、、それでその体型だったら、そんな、」
エルマンノはそう呟きながら胸や尻、足を見つめる。うん、ちょっとむっちりしてるな。これは唆る。
「なるほどな」
「そんな舐める様な目で見ないでよ〜、、目でヤられちゃう〜、」
「視線で子供は出来ない。弁護人を呼んでくれ」
「でも私そんな食べてないんだよ〜、絶対誰かが食べてるって」
「誰が居るんだ?」
「屋根裏部屋に、なんか住んでるとか、?こ、こわぁ、」
「自分で言って怖がるなよ、、なら、お兄ちゃんが見て来てやろうか?」
「それはいいよっ!怖いから!」
「それは居る時の話じゃなくて、屋根裏部屋に何も居なかった時の話か?」
「絶対!ぜっったい居るから!」
中に入ろうとするエルマンノに、慌ててソフィが口にすると、その様子に息を吐く。
「それで〜?お泊まりしないのにうちに来たのはなんなん〜?」
「ああ、そうだった。その、明日なんだが、東の第二公園に来てくれないか?」
「え〜、なんで?あ、もしかして告白、?」
「違う。妹以上の関係なんてものは存在しない」
「じゃあ何よも〜」
「ラディアと、、話し合いをして欲しいんだ」
「っ」
ふと、ソフィは目を見開く。
「そ、、それは、にぃの判断で、?」
「まあ、姉妹がギクシャクしてるのは嫌だからな、それもあるんだが、それよりも、ラディアは、ずっと何か話したそうにしてるんだ」
「...そ、それで?」
「中々勇気が出ない。いや、タイミングとか、きっかけがなくて話せないって感じだった。だから、覚悟が決まったら、来てくれって、ラディアにはそう頼んだんだ」
「それ、もし行って来なかったら私虚しくな〜い?」
「その時はお兄ちゃんが励ましてやる」
「えぇ〜、」
「嫌そうだな」
エルマンノはそこまで話すと、少し呼吸を置いたのち、付け足す。
「でも、ラディアの思いは本気だ。来なかったとしても、きっとそれはソフィが嫌だからとかじゃ無い。その時は、その次の日も公園で待てばいい」
「私が毎日暇だって言いたいの?」
「違うのか?」
「正解だけど〜」
「別に毎日来なくても良い。来れたら来ればいい」
「行けたら行くは一生行かないと思うけど」
「なら、一緒に待とう」
「一緒に、?」
「ああ。ラディアが来たら去る。それまでは、お兄ちゃんとお話でもしてよう」
「はいは〜い!」
「ちゃんと分かってるのか?」
「分かってるって!記憶力はいいんだから!」
「俺をボコボコにしたのは?」
「覚えてない」
「そういう事だ」
エルマンノはそう笑みを浮かべて話すと、それじゃあ明日に、と。手を振り、帰ろうとする。本当に分かっているのか。明日覚えているかは不明だ。だが、と。どこか覚悟を決めた様に、こういう時はと。いつもの場所へと向かった。
☆
「妹よ、居るか、?」
「...」
「今日は居ないのか、」
「家の中にまで入って来ててその発言は喧嘩売ってるの?」
「売るもの何もないですよ」
「なら帰って」
「ここリサイクルショップだったのか、」
エルマンノがフレデリカの実験室に、家に帰る途中で寄ると、彼女はいつも通り平然とドアを貫通して入ってくる彼に息を吐いた。
「いつも平気で入ってくるけど、」
「今日のは何回ノックしても出てこなかったからで」
「それは帰れって意味」
「分かりやすいクッションとかあると助かるんだが」
「それは夜に必要になるものでしょ?」
「もうそろそろ夜だな」
「話を逸らさないで」
フレデリカが呆れ気味に放つと、エルマンノが視線を逸らす。と。
「もし私が着替え中とかだったらどうするの?」
「ご褒美だ」
「通報する」
「わ、悪かった、妹のプライバシーを守るのも、兄の務めだ、、気をつけるよ」
「はぁ、、で?どうだったの?」
「本当は気になってたんじゃないか?」
「帰らせるよ?」
「分かった分かった、、まあ、まだ、確信は無い。でも、明らかに未練が残ってる感じだったな、、お互い」
「またバンドやりたいって?」
「ラディアにそう聞いたらそんな感じだった。ソフィに関しては自分に非があるのも理解してたし、それのせいでバンドをまた作ることは出来ないって考えてるみたいだな」
「平然と知らない名前出さないで」
「ああ、そうか、そういえば紹介がまだだったな、、今日からフレデリカの妹になる、俺の最高の妹、ソフィっていってーー」
「その子がラディアの元バンドメンバーって事ね」
「はいそうです」
エルマンノがいつもの様に妹の紹介をする中、フレデリカはざっくりと割って入る。
「なら、話し合いで何とかなりそうな雰囲気だけど、、きっと、話出せないって事よね、」
「ああ。フレデリカの時と同じだ」
「もうあんな雑な真似しないで」
「雑とは、、失敬な」
エルマンノはそう返したものの、フレデリカの曇らせた表情に口を噤む。
「...悪かった、、わざと、あんな真似して、、お父さんにも、きちんと謝らなきゃいけないよな、、あんな、言い方して、」
「それだけじゃない、」
「え、?」
「いつも、、自分を犠牲にしようとするけど、、今回は、そういうのやめて欲しいって事」
「お兄ちゃんを、心配してくれてるのか、?」
「違うから」
「えぇ、、そこはしてるでいいじゃん、」
「でも、、やめて、」
目を背けて呟くフレデリカに、エルマンノは浅く息を吐いたのち、改めて放つ。
「大丈夫だ。明日、公園で待ち合わせにした。ラディアにもソフィにもそう言って、それが嫌なら来なくていいって、そういう形にした」
「はぁ!?そんな投げやりなやり方にしたわけ!?」
「投げやりとは失礼な」
「はぁ、、それで、片方来なかったらもっと仲が拗れるかもしれないし、そんな言い方されたら悩んじゃうでしょ?」
「ラディアは、、立派だった。覚悟を決めてる感じで、恐らく、ソナーの事に関しても、早く止めたいから、早めに解決したいと、そう思ってるんだと思う。自分から、明日までに答えを出すって言ったんだ。自分を追い込むために。そうやって、覚悟決めてる相手に大丈夫だって、逃げ道を作るのは、覚悟決めてる相手に失礼じゃ無いか、?少なくとも兄は、背中を押す存在でなくてはならない。一歩踏み出せずに居るのなら、それが踏み出せる様に誘導するのが、兄ってもんだ。それに、これは二人の問題だ。お互いの本当の気持ちを伝えるのが一番だ。俺がどうこういう話でもない」
「はぁ、、それでもやり方ってもんがあるでしょ?」
「まあ、、それも、そうだな、」
エルマンノは、もし来なかった時を考えて、目を逸らす。一歩及ばなかった時、それを提案した自分は、どうするのか、と。
「まあ、言ったならもう仕方ないし、明日、賭けるしかないね」
「ああ、、陰ながら応援しててくれ」
「何で私が二人の仲を応援しなくちゃいけないのかは分からないけど、応援してるよ。姉妹、だから」
フレデリカの返しに、エルマンノはフッと微笑むと、優しく「ありがとう、フレデリカのお陰で、なんかまとまった気がする」とだけ告げ、実験室を後にした。
☆
次の朝。エルマンノは公園をウロウロと歩いていた。時刻は九時。八時からこうして公園に居るものの、正確な時間を伝えていなかったため、もしかすると一日こうしている可能性もある。
「俺が待ちぼうけの可能性もあるよな、」
エルマンノはそう呟きながらも、ラディアには時間いっぱい。悩んで考えて、その上で答えを出してほしい。そう思っていたため、心配の心もあったものの、信じて待とうと。そう強く決意した。
それからも、エルマンノはソワソワとしながら、公園で待つ。ラディアの家の方向。ソフィの家の方向へと、視線を向けながら。そうする事三十分が過ぎ、九時半となった。
と、その時。
「はぁ、、はぁ、、エ、あ、お、お兄ちゃん、」
ラディアが現れた。
「っ、、おはよう。早起きだな」
その姿に、エルマンノは一度安心した様に、泣きそうになりながらも、微笑んでそう優しく告げた。
「は、早起きなのは、お兄ちゃんもじゃ無いですか、」
「今来たところだ」
「三十分前ですか、?」
「一時間半前だ」
「お兄ちゃんの今は広いんですね、」
ラディアが力無く笑う中、エルマンノは優しく笑って改める。
「ラディア、、大丈夫、だったんだな、」
「...いえ、、その、大丈夫では、無かったです。怖かったです。怖かった、、何でかは分からないけど、、体、動かなかった、今日六時に起きて、七時には支度出来てたのに」
「...ラディア、」
エルマンノは名を呟く。彼女のその一言で、察する。二時間半も、葛藤していたのだろう。道中、色々と考え足を止める事も多かっただろう。
「悪かった、、無理、させてしまって」
「ううん、、そんな事ない、、ありがとう。ここまで、してくれて、、こういう風にされなかったら、きっと私は覚悟決められなかったから」
「ラディア、」
ラディアはそう放つと、ゆっくりと近づく。
「大丈夫ですか、?ベンチで、一回休んで、」
「ソフィは、、まだ、来てませんか、?」
「え」
エルマンノがラディアに近づき、公園のベンチへ誘導する中、彼女はそう呟いた。
「ああ、、ま、まだですね、、あの人、引きこもりですから」
「...そう、ですね、」
ラディアのその様子に、エルマンノは何かを感じたのか、浅く息を吐くと、軽く。だが真剣に口を開いた。
「行けますか?」
「え、?」
「今から、行きませんか、?ソフィのところ」
「え、」
ラディアからは、ここで休憩しては、また逃げてしまいそうだと。そんな心の叫びが聞こえた。だからこそ。
「...はい、、行かせてください、」
「その、行かせてくださいのところ、もう一回言ってもらっても良いですか?」
「ふふふっ、もう、変態ですね、、これが終わって、全て丸く収まったら、、いくらでも言ってあげますよ」
そう笑う彼女には、まだ緊張や不安、震えが見て取れたが、大丈夫だと。エルマンノはそう確信し、頷いた。
☆
「おーい、運命の日だぞ。答えは出たか?」
ノックしながらそう口にする。すると、中から気乗りしない様子のソフィが現れた。
「おお、コンディションに関してはアレだが、外に出てるだけですごい進歩だ」
「外に出れない人だと思ってるの?」
「基本引きこもりだと聞いたが」
「はぁ、、まあ、合ってるけど、」
僅かに目の下に隈を作りながら、眠たい目を、眼鏡をずらして擦るソフィは、エルマンノに言われて、家から足を踏み出した。
「...公園集合でしょ、?家まで来るとは思わなかった」
「お、覚えてたか」
「忘れるはずないでしょ。そんな大切なこと」
「そうか」
ソフィの「大切」。その言葉に、エルマンノは思わずクスリと微笑む。
「時間を指定してなかったことを思い出してな」
「時間指定するつもりだったの?」
「ああ」
エルマンノは、淡々と嘘をつきながら頷く。と、ソフィはドアの鍵を閉めて共に下へと降りる。
「それにしても、、凄いな。相当、勇気がいる事なのに、」
「はぁ、いや、私に関しては家の前ににぃが居るんだから、拒否権ないでしょ?」
「逃げ出すかと」
「私を何だと思ってるの」
息を心底呆れた様子で吐くと、一呼吸開けて放つ。
「まあ、、ラディアには言いたい事あるし」
「...そうか」
「それよりも、向こうは大丈夫なの?」
「ラディアの事か?」
「そう」
「大丈夫だ。もう答えは出てる様子だった。話す事も、分かってるみたいだったし、後はきっかけが欲しい。そんな感じだったな」
「でも、あの子あがり症だからなぁ」
「...そうかもな」
エルマンノは、その一言に微笑む。分かってるじゃないか。と。
「何、?その顔」
「何かついてるか?」
「違う、、ニヤついてる、」
「やっぱりついてるんじゃないか」
「いいから。で、なんで?」
「ああ、、それは、こういうことですよ」
エルマンノは微笑んで振り返り、後ろに目をやる。それに釣られて、ソフィもまた首を傾げながらもその視線の先を見据える。
と、そこには。
「!」
ラディアが居た。
「ラ、、ラディア、」
エルマンノが静かに撤収しようとする中、ラディアはソフィに視線を向ける。
「ひ、久しぶり、ソフィ」
「ん、、久しぶり、」
「元気してた、?お兄ちゃんから聞いたけど、」
「え、?ま、まあ、、言った記憶ないけど」
「え?」
「え?」
ラディアとソフィがエルマンノに視線を送る。ああ、そういえばあれは酔っ払っている時だったな確か。まるで嘘を言った様な雰囲気に引き攣った笑みを浮かべると、それはそうと、と。ラディアは改めて口にする。
「その、、ごめんね、」
「え?」
「私、、ちゃんと、話せば良かった、、話すの遅くなってごめん、、実は、あの日、ソフィの誕生日だったでしょ?」
「あ、そ、そう、ね、」
「ごめんね、、楽しい日なのに、、あんな事に、、しちゃって、」
「私が悪いんだから、、謝らないでよ、」
「でも、、こうして、一度話せば良かった。あんな直ぐに解散って、、子供じゃ無いんだから、、感情のまま言うべきじゃ無かった」
「...」
頑張って話しているのが伝わる。手は震えている。まだ、言葉を探しているのだろう。だが、それは間違いなく本心だ。それだけは見て取れる。
「あの日に私が作った歌、、実は、ソフィへの誕生日プレゼントととして作ったの」
「え、」
「ソフィは性格的に物が欲しいと思ったから、当然物も用意したけど、、でも、一番は、その歌だった。ソフィに、、いつも歌を作ってくれるソフィに、、贈りたかった」
「...嘘、、そう、だったんだ、」
「...」
その一言に、ソフィは突如震える。その変化に、エルマンノは目を細め、目をやると、対するラディアは真剣な表情でソフィに視線を送る。
「あ、、ありがとう、、話してくれて、」
「うん、、そ、それで、」
「あの、」
「え?」
「私も、、ラディアに、、ずっと言いたい事があった」
「な、何、?」
手が震えていた、唇も、息も上がっていた。ラディアもそうだったが、それとはまた違う。緊張とは違った、何か、他のもの。
「大丈夫か、?」
エルマンノが聞こえない程小さく零すと、ソフィは懸命に口を開いて告げた。
「私、、実は、実はね、ずっと、、ずっと、」
「う、うん、」
「ラディアの事っ」
ソフィが勢いの如くそう告げた、その直後。
「大っ嫌いなの」
「へ、」
「なっ」
ソフィはそう声を上げた。
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