第20話「上京妹と共同制作」
「お前、、東京行くんだってな」
「え、?とう、、何処ですか、?」
「話を合わせてくれ」
「え、?あ、はい。...その、えと、行きます、」
夕方。エルマンノとラディアは日差しに照らされながら村の人達に声をかけたのち、村から足を踏み出した。
「何で、、言ってくれなかったんだ、」
「な、何でって、、その、言う機会が、見つからなくて、」
「お兄ちゃんには、、言いづらかったのか、?」
「え、?あ、あっ!う、うん、、お兄ちゃんに言ったら、、きっと、悲しむと思ったから」
ラディアは突如エルマンノのイかれた言葉を理解し、そういうことかと話を合わせる。
「別に、、悲しくは無い、ただ、」
「ただ、?」
「辛くて、苦しくて、胸の奥がざわめいて、体が震えるだけだ」
「もっと駄目じゃん、」
エルマンノは、ふと帰り道に王国を通ると、そこに川があるのを見つけて堤防へと降りる。
「あ、ちょっ、お兄ちゃん!」
「っと、、これくらいで良いか、」
「?」
エルマンノがふとそこで小さな石を見つけると、それを川へとーー
ーー投げる。
「え、?何やってるんですか、?」
「ラディアも、、やってみてください」
「え、?あ、はい、、え、えーと、、えいっ!」
「なぁ、何で引っ越しのこと、、黙ってたんだ、?」
「え、あ、言ったでしょ?お兄ちゃんが、心配するから」
「...そうか、、何しに行くんだ、?」
「え、?えーと、、親の、仕事で、」
エルマンノが憧れるシチュエーション。水切りしながら上京する妹と話す。それを見事に行いながら、それを聞き出す。
「...そうか、、この世界にも、そういうのって、あるんだなっ!」
「この世界、?」
「こっちの話だ。ほら、ラディアも投げる」
「え?あ、うん」
「こういうのは、交互にやるんだ。キャッチボールと一緒だ」
「...」
「ん、?どうした、?」
エルマンノがラディアに日本の文化を促す中、ふと、彼女は表情を曇らせる。
「...ごめんなさい、、引っ越しのこと、話して無くて、」
「...別に気にしてないです。仕方ない事ですから。親の都合なら。...それに寧ろ、ラディアだって、もしかすると素直に喜べないかもしれないですし」
「そうじゃ、、無くて、」
「ん?」
ラディアが小さくそう呟くと、エルマンノの返しに「何でもないです」と答え堤防を後にした。
☆
あの後も変わらず会話をしながら途中まで一緒に帰り、彼女の家の近くで別れた。
その後の帰り道。森の中、ふと一人で考えた。
ラディアの、あの反応を。
「はぁ、、気づかれてたかなぁ、」
妹と離れ離れになるのはこれ以上無い程の苦痛だ。いや、仕方のない事なんだが。
そんな事をぼやきながら家へと到達したエルマンノは、変わらずその日も夜を過ごした。
その、次の日であった。
「おはよう、」
「お、おはよう、、エル、」
「...ど、どうしたの?」
エルマンノは、眉間に皺を寄せる。リビングで家事をする母が、どこか
「ん?うーん、、何だか眠れなくてね、」
「っ!...まさか、」
エルマンノは、母の目の下の隈を見据えハッとする。昨日の夜、またあの歌が聞こえていた記憶がある。エルマンノは現世でも緊急速報などの最中に熟睡するタイプであったため、何とも思わなかったものの、まさか。
「...また、、あの歌、?」
「っ!あ、あー、、昨日は凄かったね、、でも、きっと今日は大丈夫だから」
「...」
エルマンノは目を細め視線を泳がす。今まで、軽く見ていたのかもしれないと。
エルマンノは朝食を済ませると、「昼間、寝て」と母に告げ家を後にした。
その、向かう先は。
「居るか、?フレデリカ!」
勿論、彼女の実験室であった。
「...いつも同じ時間に来るんだから、、居るの分かるでしょ?」
「そういえば引きこもりだったな」
「はっ倒すよ?」
「同じ時間に来た方が、準備しやすいかなと」
「何の準備?その答えによってはあんたを生き埋めにする」
「するなら前に体液を捨てたあそこに埋めて欲しいなぁ」
「居酒屋の壁の真下に埋めてやろうか」
「うわ、、そこ酔っ払いと動物の体液のパラダイスじゃないか、?」
「二つ目は私も考えて無かった」
「酔っ払いにも気をつけて欲しいところだ」
「それで?今日は何?」
エルマンノの謎の話に一通り付き合ったのち、フレデリカはぶっきらぼうに放つ。
「まず、一つ謝りたい事がある」
「何、?またロクでも無い事?」
「いや、昨日、直ぐ戻るって言っておいて、、戻って来られなかったから、」
「私の場合今日でも直ぐだよ」
「時間が、加速してるのか、?」
エルマンノは慌てて窓から顔を出し空を見上げる。だが、どうやら雲のスピードは通常の様だ。
「違う。もう戻って来るなって事」
「ツンデレだな」
「幸せ者ね、」
「それで、、話なんだが、、俺も、やっぱり昨日一日一緒に居て、ラディアがソナーを発している可能性があると思うんだ」
「やっぱりね、、で?何か、そのラディアが嘘をついている可能性がある証拠でも見つけたの?」
「いや、、多分、フレデリカが最初に言った無意識ってやつが、可能性としては一番高いと思う」
「何を根拠に?」
「有名になりたい。そんな思いが、強かった。昔手を貸してくれた方達に恩返しがしたいって、、ライブハウスを建て直したいって。そこまで言ってた」
「なるほどね、、それ程まで、強い意志があったわけだ」
エルマンノの言葉に、大体のことを察したフレデリカは息を吐く。
「その強い思いが、無意識に発動して、自分の歌を広めたいという思いからソナーが出ている。...そういう事でしょ?あんたが言いたいのは」
「ああ。話が早くて助かる」
「で?またどうすればそれが収まるか考えて欲しいって話をしに来たわけ?」
「...ああ。その通りだ」
エルマンノは、バツが悪そうにそう呟くと、フレデリカは大きくため息を零した。
「その仮説でいくと、普通に有名になったら収まるんじゃない?」
「...今までは、、そこまで大きくは考えて無かった。出来るなら、別に、フレデリカの言う様に有名になって収まるのを待つのでいいと思ってた。...でも、俺だけの問題じゃ無いんだ」
「...」
「つまり、、ソナーを受け取っている人全員に、、その、迷惑、と言っては何だが、、影響が、出てるんだ」
「なるほどね。私は魔力が無いから問題無いけど、魔力のある人にはそのソナーは有害でしか無くて、出来る限り早く収めたい。...そういう事ね」
「ああ。...その通りだ」
「でも、そんな直ぐにアイデアをポンポンと出せるわけじゃ無いの。私を過信しないで」
「いや、、フレデリカは、、いつも頑張って、考えてくれる。...今も、自分に被害がないのに、、そうやって考えてくれてるんだ。それだけで、俺はフレデリカを信じる理由になるぞ」
「あっそ。でも、答えは変わらない」
「分かってる。...とりあえず、オリーブのところの村で今週野外ライブをする事になった。まずはそれがチェックポイントだ。人に認知される。それの第一歩が踏み出せれば、少しは収まる可能性もある」
「無理だったら?」
「その時はラディアに直接聞いてみるか、フレデリカを頼るしかないな」
「だから無いってば」
エルマンノが微笑みながら放つと、フレデリカは呆れた様に息を吐いた。それを見届けたのち、よし、と。エルマンノは改めて気合いを入れてドアを開けた。
「助かった。行ってくるよ」
「何も助言はしてないけど」
「話を聞いてくれるだけで十分だ」
「めんどくさい彼女みたいだね、エルマンノは」
「女々しい彼氏と言ってくれ」
「言い換えられてないよ」
エルマンノがそう残しドアを閉めると、フレデリカはそれを見据えながら小さく零したのだった。
☆
「はぁ、待たせたっ」
「あ、いえ!待ってないですよ!というか、約束の二十分前じゃないですか!」
「三十分前までは今なんですよね」
「そう、、ですけど、」
「それに、ラディアももう来てるじゃないですか」
エルマンノの言葉にラディアは恥ずかしそうに赤面して目を逸らす。
「じゃあ、行きましょうか」
「は、はい!」
「で?何処に行くんですか?」
「行きましょうかの後に言う台詞では無いですよそれ、」
エルマンノの返しに浅く息を吐くラディアは、改めて微笑んで放った。
「今日から練習です!」
「え、何の、、ですか、?」
「ギターのです!」
「あ、え?まさか、、俺も出るんですか、?」
「最前列でって、言ったじゃ無いですか!」
「えぇっ!?いや、ソロ活動って言ってましたよね!?」
「はい!一人でしてます!」
「その一人でしてますのところ、もう一回、今度は吐息混じりで言ってほしいところですけど、、それよりも、なら何で俺が出るんですか?」
「だって、私単体で出ても、あの村の方の印象にはあまり残らないと思うんです」
「と、言うと?」
「つまり、あの村の方々が知っている、お兄ちゃんが一緒に出る事で、更に記憶に残る存在になれるって事です!」
「なんと、、知名度を上げる方法の一つがコラボであると把握してるとは、、流石底辺を長い事経験してるだけはありますね」
「底辺を長くは余計です!」
エルマンノがラディアについて行きながらそんな会話をする中、ふと。彼女は口を噤み拳を握りしめる。
「...ん?どうしたんですか?漏れたりしました?」
「それっ!生理中の女性に禁句ですよ!」
「生理中なのは事実なんですね」
「う、、でも、漏れてないですよ、」
「なら、どうしたんですか?」
エルマンノの淡々とした、いつもの様子に、ラディアは目を泳がせながら、手をいじって呟く。
「その、お、お兄ちゃん、、口では、、妹だからって話、、してますけど、本当は、ソナーを止めるため、、なんですよね、?」
「っ」
何か、見透かされている気がした。確かに、今日は以前とは違ってソナーの事ばかりを考えている。
「その反応、、やっぱり、そうなんですね、」
「別に、違いますよ。妹だからってのは事実です」
「でも、、その、すみません、、だから、怖かったんです、、私が、引っ越しする事を言ったら、、私のアーティストの手伝いを、、していただけないんじゃないかって、、思って、」
「その言い方だと、ライブが決まったから引っ越しの話を話したみたいな言い方になりますけど」
「っ!ち、違うんです!...その、、こうして、黙ったまま、力を貸してもらうのも申し訳無いと、、思ったから、、それに、その時に、お兄ちゃんの反応を、、見たくて、」
「俺の反応?」
「はい、、その、、ソナーを出してる原因が何もしなくても何処かに行くのに、、こんな事まで、していただいたので、、それで、がっかりするかどうか、です、」
なるほど。昨日の反応はそこからか。正直、エルマンノに一番打撃を与えたのは妹が離れ離れになる点だったのだが。
「はぁ、まあ、どちらにせよ、そしたら引っ越した先の人達に影響が出てしまうじゃないですか。...俺は、それを原因に妹が責められるのは嫌です」
「え、、責め、られる、?」
「はい。貴方の曲を、ソナーで送られた方々は、その歌に何らかの感情を抱いてると思います。俺は、いい曲だと思いましたけど、それをよく思わない人も、勿論居ると思います」
「...そ、そう、ですよね、、ずっと、耳元で聞こえてる曲なんて、」
「だからこそ、その曲でラディアがライブをした時、きっとラディアは責められる可能性が高いんです。責められなくとも、きっと、その評価が低くなる事も否めません」
「っ!」
「そんなのは、、嫌なんです。妹に、頑張ってる妹が、その頑張ってるもので周りから嫌悪を向けられるのは、、嫌なんですよ。兄として」
「...も、もしかして、、だから、魔力を持たない、ソナーの聞こえない獣族の村でのライブを最初に指定したんですか、?」
「まあ、、それもあります。一番はタイミングが良かったってのが、大きいですけど」
「...ど、、どうして、、ですか、?」
「え?」
「どうして、、私にそこまでするんですか、?」
震えながら、足を止めるラディア。
「分かりません、、貴方が、そこまで、する理由が、、勿論、嬉しい事です。...だからこそ、今まで、こうしてちゃんとは聞けませんでした。でも、、おかしいですよ。...赤の他人で、底辺の私に、そこまで、尽くしてくれるなんて、」
「はぁ、、またその台詞かぁ、」
「え、?何ですか?」
「いえ、こっちの話です」
エルマンノは少し微笑みながら呟くと、改めてラディアに向き直った。
「なら、ライブハウスの人達や、バンドだった時の貴方達に手を貸してくれた人達。その人達全員に、そう聞くんですか?」
「え、」
「同じですよ。俺も、貴方の曲はいい曲だと思いました。それに、ラディアに出会うまで、ライブの知識も、アーティストの現状も、良く知りませんでした。それでも、ラディアが教えてくれて、その良さに気づけたんですよ。だからこそ、俺は、見たいんです」
「な、、何を、、ですか、?」
「ラディアが、、いや、妹が、、自分の好きな事をして、兄だけで無くみんなから崇められる存在となるところを」
「っ」
エルマンノは、ラディアより僅か前へと出て続けた。
「まあ、妹は神なんで、軽く扱う奴が会場に居たら俺が潰します」
「は、、ははっ、はははっ!お客様減らさないでくださいよ!あははっ!」
泣きながら笑みを浮かべるラディアに、エルマンノもまた微笑む。この言葉で、信用してくれたかは分からない、それでも。
「分かりました!じゃあ、特訓ですよ!お兄ちゃん!」
「はいはい、、妹の頼みだ、、断れないな、」
前を向いて、歩き始める事は出来そうだ。
☆
「それで、結局何処に向かってるんだ?ライブハウスか?それともスタジオとかがあるのか?」
「いえ、今日は私の家に来てもらいます!」
「なっ!?えぇっ!?いいのか、?」
「えっちな妄想しちゃいます?」
「貴方の想像する五倍は」
「でも残念!私の家、実家で両親が居るので、それは禁止ですよ〜」
「安心してください。妹に手は出しませんよ、神なんで」
「あははっ、何ですかそれ〜」
何だか、吹っ切れた様に見えた。先程の話で、胸の奥にあった何かが解消されたのだろう。その様子に微笑むと、その直後。
「ここです!」
「おお、いかにもなファンタジー」
「どういう事ですか?」
「こっちの話です」
そこには、ファンタジー感丸出しの、二階建ての一軒家があった。
「まあまあ良い家なのに、、引っ越すのは何だか勿体ない気がするな、」
「そう、、ですよね、」
小さく零すエルマンノに、ラディアは目を逸らす。それを一瞥しながら息を吐くと、改めて足を踏み出す。
「今日はご両親居るんですか?」
「え、あ、はい!その、母は居ないですけど、父は居ると思います」
「マジかよ、、俺今日死ぬんじゃないか、?」
「大丈夫ですよ!恋人じゃ無いですし!」
「恋人じゃ無くても、一人の妹の父に殺されかけた事がある。...自分のせいだが、」
「大丈夫です!他人にあまり興味がないので」
ラディアはそう言ってドアを開け、エルマンノもまたお邪魔しますと小さく呟き入る。
すると。
「おい、何処行ってたんだ、ラディ、、ア、?」
「あ、あれ?貴方は」
部屋の奥から現れたその男性に、お互いに言葉を失う。そう、そこには。
「ラ、ラグレス、?」
「貴方はっ」
「え、?お知り合い、?」
「ヘラ様をっ、ヘラ様を何処に隠したのですかぁ!?」
「えぇっ!?お、お父様、?」
突如目の前にしゃがみ込み、エルマンノに声を上げた。いや、まさかここで再開してしまうとは。本当に、世界は狭いな。
「あの後私を置いてどこかに行ってしまわれたのち、私は見失ってしまったのですよ!後日貴方の家に伺ったのですが、男性と女性の二人に追い返されてしまって、」
「ああ、、まあ、そりゃ追い返すわな、」
エルマンノは突然こんな人が家に来たらと想像し、恐らく父と母であろう二人の行動に頷く。と、ラディアが小さく割って入る。
「ど、どういう関係ですか、?」
「あー、、えと、これを話すと長くなる」
「文庫本くらいですか?」
「単行本二冊くらいだ」
「聞いておられますか!?エルマンノさん!」
「ああ、はい。その、獣族の村に、、つまり故郷に帰ってる。後はそこの村長に聞いてください」
「っ!あそこですか!」
「はい。前にオリーブが居なくなった時に一緒に行った、真実の水があるところです」
「ありがとうございます!行ってまいります!」
そう声を上げると、ラグレスは家を飛び出していった。話をしない村長のせいでこうなったのだ。面倒ごとは彼に押し付けるのが妥当だろう。
「お父様、、あんな風になるんだ、」
「...?」
「いえ、こっちの話です!それにしても、父と面識があったなんて驚きですよ!」
「まあ、色々とあったからな、、それで、?それよりもまずは練習だ。早くしないと、俺はライブの日までに覚えられる気はしない」
「自信げに言わないでください!とりあえず、上の階の、私の部屋でやりましょう!」
「私の部屋でってところ、もう一回言ってほしいんですけど」
「えっちな事はしないんじゃ無かったんですか?」
「父は居なくなりましたよ?」
「兄が目の前に居ます」
「っ、、フッ、それもそうだな」
エルマンノは微笑みながら頷くと、案内されるままラディアの部屋へ入室した。
と。
「ここが、、妹の部屋、」
「はい!カッコいいですよね!」
何と、バンド一色な部屋であった。ギターやキーボードが置いてあり、更にはバンドの人なのか、壁の至る所にポスターが貼ってある。その手前のテーブルには魔薬もいくつか置いてあった。
「やっぱりビジュアル系じゃ無いですか」
「憧れていたのは事実です」
「別にビジュアル系バンドでも良かったんじゃ無いですか?」
「まあ、、色々、ありましたから」
「...」
前のバンドでの話だろうか。ラディアは目を背けて小さくぼやいた。それに、エルマンノは目を細めたのち、話を変えるべくテーブルに近づいた。
「これ、音響サポート魔力を生成する魔薬か。あとこれはソナーと同じ要領で音を信号として飛ばす魔薬」
「っ!良く知ってますね!そうです!これは、アーティストには欠かせないです!こっちの魔薬も、喉を潤すためのものです!」
「なるほど。まあ、妹の一人に、魔薬に熱心な人が居るからなぁ。その影響で兄も取り憑かれたんです」
「そうなんですね!その妹さんは、この間の人では無いんですよね?」
「あー、そういえば会った事無かったな、、今度紹介しますよ」
「はい!話してみたいです!」
元気に笑う姿に口元が綻んだ次の瞬間、ラディアはそれではと。切り替える様にして手を叩いた。
「練習しますよ!」
「う、、うぃ〜、」
「元気が無いですね、」
「まず第一ステップは何ですか?ギターも持った事が無い人間用にスケジュールをお願いします。例えば、楽譜の読み方とか」
「まずは私の曲を聴いてもらいます!」
「もう散々聴きました。アカペラの」
「アカペラじゃないですか!なら、今一番重要な演奏が分からないじゃ無いですか!」
「あぁ、確かに、なるほど、、ん?という事はつまり、演奏音声は出来てるって事ですよね?」
「はい!」
ラディアは奥から細長いディスプレイケースの様なものを持って来てそう放った。
「なら、それを後ろで流して、俺がそれっぽく演奏すれば良くないですか?」
「はい!もし間に合わない時は、そうします!それでも、極力生演奏が良いんです!」
「まあ、、確かに迫力は違うだろうけども、」
エルマンノは浅く息を吐きながら、そのディスプレイケースに目をやる。そこには、小さな草が敷き詰められていた。
「これは?」
「あ、これは知りませんか?これは奏草。水滴が触れるとそれぞれ違う音程の音が出る、種類の多い草です」
「それが、どうしてケースに?研究でもしてるのか?」
「違いますよっ!これもまたアーティストには欠かせないんです!それぞれ違う音程の音を出す草を、音楽に合わせて配置します。その後魔法で起動させると、そこに一定間隔で水が降る様になってるケースなんです!」
「なるほど、これがこの世界の楽曲制作の仕方なんだな、、でも、この長さなら短い曲しか出来ないんじゃないですか?」
「大丈夫です!水滴は右から左に一定間隔で落ちていくので、その間に手前側の奏草を移動させて、次の楽譜の音に合わせておくんです」
「かなり大変そうだな、」
「はい、、でも、一度出来れば、それをこの奏花に聴かせるだけで同じものを何度もリピートしてくれるんです!原理は同じで、水滴を垂らせば鳴ります」
「なんか、、ネーミングが適当じゃないですか、?」
隣に置かれた花弁がラッパの様に開いた花を見ながら、エルマンノはジト目を向けた。
「名前なんてそんなものですよ」
「まあ、、確かに、虫の名前とか、そうだもんな」
エルマンノは現実世界でも似た様なものはあると悶々と頷く。
「それじゃあ!いきますよ!」
「あ、もう録音はしてあるんですか?」
「はい!奏花にはもう聴かせてあります!」
「なるほど、」
内心、出来なかった時の予備策が目の前に現れたため、ホッとしながら、エルマンノはその完成曲を試聴した。
「...」
「...」
ただ、無言で、それを聞く。良い曲だ。少しソナーで聞いていた声音とは違かったものの、音楽が加わった事によって良さが溢れ出している。
恐らく、初見で聴いても上手い言葉は出てこなかったかもしれないが、長く歌声のみを聴いていたのもあり、メロディは覚えていたため、知っている曲がライブフェスで流れた時の様な感覚に陥った。
「凄い、、俺の好みの曲です」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「でも、、一つだけ、いいですか?」
「...?ど、どうされました、?」
「...これ、オフボーカル版録音してあります?」
恐る恐る、曲を聴いている間ずっと感じていた疑問を、口にする。いや、まだ可能性はある。これは完成品だろう。エルマンノは僅かな可能性を信じ、ラディアを見つめた。
が。
「ありません!」
「...」
「...」
「終わった、」
笑顔の彼女とは対照的に、エルマンノは逃げ道が消えた現状に絶望を見せた。
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