第19話「ミュージシャン妹の願望」
「貴方の曲なんですか、いやぁ、最高ッスよそれ!」
「えぇっ!?あ、はいっ!そうです!」
突然の狂気的テンションに、その少女は呆気に取られる。
「貴方の曲、、って事は、貴方が作ったって事ですか?」
「はいっ!そうなんです!実は、、前から作曲活動をしていて、、まだ、ど底辺なんですけどね、」
あはは、と。乾いた笑みで自虐的発言をする。
「俺は知ってました。少なくとも一人は知ってます。ど底辺なんて言わないでください」
「っ!は、はいっ!ありがとうございます!」
イカれた一言目を全て帳消しにするかの様に、エルマンノは優しく告げる。と、しかし。対する少女は首を傾げる。
「で、、でも、その曲は、まだ発表すらしてない曲ですよ、?何で、知ってるんですか、?知ってくださるのは、、嬉しいですけど、」
ーなるほど、まだ作ってる段階の曲だったかー
「ああ、いえ。実は、最近その曲が聞こえて来て、恐らく、ソナーだと思うんですけど、心当たり無いですか?」
「えぇっ!?ソ、ソナーなんて送ってません!間違い以前に、、誰にも、」
「そう、、なんですか、」
予想は外れたのだろうか。エルマンノは内心そう思いながら、言葉を濁す。すると、その少女は微笑んで口を開いた。
「でも、私の強い思いが届いちゃったんですかね?これも何かの巡り合わせです!知ってるかもですけど、私、ラディアって言います!あ、ちなみに本名です!昔はエターナルブラッドってグループで音楽活動してました。今は個人活動してます!」
「永遠の、血、?なんか物騒だな、、ビジュアル系ですか?」
「私がビジュアル系出来ると思いますか!?」
「別に誰も貴方のことを寸胴だなんて言ってないじゃ無いですか」
「その単語が真っ先に出るのが証拠です!って!どこ見て言ってるんですか!?」
「別に寸胴な人はビジュアル系になれないって訳でもないでしょう」
胸元から足にかけて舐める様に見つめるエルマンノに、ラディアは声を上げる。
「っていうか、、私のグループ名知らなかったんですね、」
「あ、」
さっきあんな事を言っておいて、何も知らなかったエルマンノに、ラディアは残念そうに俯く。
「確かに、知らなかったです。でも」
「でも、?」
「今は知ってます」
「何だかどっかから取ってきた様な台詞ですね、」
「バレたか、」
なんとも鋭い人だ。エルマンノはバツが悪そうに目を逸らしながら小さく返した。
「あ、ちなみに、俺はエルマンノって言います。シスターパラダイスってグループのプロデューサーしてます」
「えっ!?プロデューサーさんなんですか!?」
おお、アプリゲームでしか聞かない台詞を聞けた。これもまた死ぬまでに聞きたい台詞上位に君臨するであろう。
「みんなのお兄ちゃんです」
「あ、シスターパラダイスですもんね、、そういう設定なんですね」
「設定言わないでください。残念ながらプロデューサーじゃ無いですよ。本当の兄です」
「なっ!?騙しましたね!?」
「すみません。でも、妹達をプロデュースしているのは本当なので」
「妹達って、、いっぱい居るんですか、?」
「今のところ三人ですね」
「凄いですね、親御さん。ハッスルしてるなぁ、」
「血は繋がってないです」
「あ、、ふ、複雑なんですね、、すみません、」
「全然そんな事無いです」
なんかどんどんややこしい事になってきたぞ。もうこの話題はやめておこう。自分自身でさえこんがらがってきた。
「それで、、貴方はその、今は個人活動って、言ってましたよね?」
「はい、、それまでは、、良かったんですけどね、、色々あって、、今では底辺になっちゃって、」
「なるほど、、なら、俺が出来る範囲で、お手伝いさせてもらえませんか?」
「え、?」
「貴方を、一センチでもその底辺から浮かせます」
「...足が地に着いてないお考え、、ですけど、」
「浮かせるんですから、地に足着いてない方がいいでしょう。それに、足のつかない様に行動した方が、良い時もあります」
「犯罪でもするんですか?」
「妹のためなら」
「凄い執念ですね、」
少し引き気味にラディアが呟くと、改めてエルマンノに恐る恐る告げた。
「その、、本当に、、そんな事、」
「はい。まあ、どうするかはここから考えますけど、でも、俺の出来る限りのことはしてあげたいんです」
「な、、何で、、今日出会ったばっかりの貴方が、、そんな、」
「これも、何かの巡り合わせですから」
「っ、、あ、ありがとうっ、、ございますっ!」
微笑んで放ったエルマンノに、一度ハッと目を見開くと、ラディアはニコッと笑顔を作って笑い返す。すると、エルマンノもまた優しく微笑んだのち、背を向け歩き始め、ふと振り返る。
「その代わり、、と言っては何なんですけど、」
「え、?」
「一つ、お願いが、」
「え、あ、は、、はい、、私に、出来る、事なら、」
何をされるのだろうと、不安の色を見せるラディア。なんと、どれ程信用がないのだ。いや、一言目があれでは仕方がないか。エルマンノは脳内でそう思うと、目つきを変えて、真剣に告げた。
「俺の、妹になってくれませんか?」
「え、?」
「お願いします!」
「えぇっ!?」
☆
「と、いう事で、妹がまた一人増えた。それを、伝えておこうと思って。...家族として、、受け入れてやってくれないか、?」
「深刻そうにそんな意味の分からない事をよく平然と話せるね」
その日は時間もありそのまま家に帰宅。次の朝、エルマンノは家で朝食を済ませたのち、フレデリカのところに現れ昨日の話を告げた。
「はぁ、、ほんと、意味分かんない、」
「それと、その前には天使さんに出会ったんだ。凄く良い人だった。フレデリカと別れた後に直ぐ丘の下から登ってきたから、もしかすると会ってるかもしれないな」
「それ、女でしょ?」
「よく分かるな。もしかして、会ってたか?」
「違う。顔がキモい。鼻の下でスキーが出来そう」
「フレデリカも面白い事が言える様になってきたな」
「嫌悪を込めて言ったんだけど」
心底呆れた様子でため息を吐くフレデリカは、相変わらず調合をしていた。
「...その、昨日の、お父さんとの、あれは、どうだったんだ、?何事も無く、、終われたか、?」
「何事も無かったら困るの。私だって、、お父さんには聞きたい事沢山あったんだから、」
「ああ、今のそれは悪い事が無かったか聞いたのであって、そういう意味じゃないぞ」
「そう、、でも残念。どっちにしろ、何もないよ」
「筆談してたのにか?」
「っ!?な、何でそれ知ってっ!?」
「妹の事なら何でも知ってるぞ」
「あ、あんた、、森に唾液捨てた時と言い、そろそろ通報させてもらうけど?」
「もう既に事情聴取は受けてる」
「もう一回させてあげる。今度は本当に漏らすかもね」
「何でちびりそうだった話覚えてるんだよ、」
エルマンノは冷や汗混じりに目を逸らす。と、対するフレデリカは少し間を開けたのち、口を開く。
「で、?あんたが言ってた耳鳴りの正体は本当にソナーで、そのラディアって人によるものだったの?」
「話を逸らしたな?」
「はっ倒すよ?」
「はい、」
どうやら、詳しい話はしたくないらしい。やはり思春期。兄に隠したい事はあるだろう。あんな事や、こんな事。
「へへへ、」
「何ニヤケてんの、?二度と笑えなくさせてあげようか、?」
「さらっととんでもない事を言わないでくれ」
「それで、どうなの?」
改めて念を押すフレデリカに、エルマンノは浅く息を吐くと、一呼吸置いて話す。
「でも、、何だかそれも違うかもしれない。ソナーを送った事はないって、言ってるんだ。彼女」
「そんなわけないでしょ」
「え?」
「だって、まだ発表すらされてない曲だったんでしょ?なら、作曲者のあの人以外に、知ってる人は少ない」
「なら、内部の人間とか、?」
「それを送る理由は分からないけど、その可能性もあるかもね。それか、」
「それか、?」
「ラディア本人が、知らないで、無意識にソナーを出してしまってる、とか」
「っ!」
フレデリカのその一言に、エルマンノはハッとし目つきを変える。
「なるほど、、そうだ、その可能性は、、あるな」
と、エルマンノは何かを理解した様に立ち上がると、そのまま玄関口を開けた。
「帰るの?」
「帰って欲しくないか?」
「もう来ないで欲しいけど」
「悪いな、でも、今日これからラディアとの約束があるんだ。ちょっと行ってくる。直ぐ戻るから」
「はぁ、、話聞いてた、?」
エルマンノがそう放って扉を閉めると、フレデリカは頭に手をやり深いため息を吐いた。
☆
「あ、エルマンノさん!」
「はぁ、、はぁ、悪い、、遅れたな、」
「全然です!今来たところです!」
おお。これだこれ。これが聞きたかったんだ。
「私、三十分前後は全て今だと思うんです!」
「遠回しに根に持ってないか、?」
「全然っ!」
なんか奥にもの凄い悪意を感じる。気のせいだと、思いたい。
「それと、遅れた身で言うのもなんだが、、お兄ちゃんって呼んで欲しいんだが、」
「あ、そうでした!今日から妹ですからね!遅いよ!お兄ちゃん!」
「おふあっ!?」
「え、?だ、大丈夫ですか?」
「あ、、わ、悪い、、嬉しくて、、涙が、」
「こ、これ良いんですか?」
「そ、そうそう、それ、、それが良いんだ、」
「遅いよ!私ずっと待ってたんだから!何で三十分も遅れるの!?待ってたのに!近くのお店で時間潰して戻って来たのに、まだ来ないってどういう事お兄ちゃん!」
「あはっ!?」
「ねぇ!聞いてるの!?ほんと、時間管理ちゃんとしてないんだから!」
「おはっ」
「時間の概念知ってる?そんなんじゃ社会に出た時何も出来ないよ!?時間を見ながら行動なんて常識でしょ!?何でそれすらも分からないの!?幼児でも知ってるよ!約束は守るって!」
「あ、、がはっ!」
なんかエスカレートしてません?
エルマンノは至福の雄叫びから、どんどん吐血を交えた恐怖の叫びへと変化していった。
「わ、、悪かった、、申し訳ない、、本当に、、踏んづけて、いいから、許してください、」
「許して欲しい側が罰を提示しない!それじゃあご褒美になるでしょ!?判決を受刑者側が宣言する事なんて無いんだからさ!馬鹿なの!?」
「あ、、あが、」
「お、お兄ちゃん!?大丈夫、?」
「ち、、ちょっとやりすぎだ、、ラディア、、お兄ちゃん、豆腐メンタルなんだ、」
「え、そうなの、?む、難しいなぁ、」
「半分本音入ってませんでした?」
「え!?そ、そう見えました、?」
「見えたし聞こえました」
エルマンノは、歩きながらそんな会話をする。今日の日程はまずお昼に時間も良いので飲食店で食べながらこれからの計画を立てる。というものだった。
「お昼時は混んでるな、」
「凄いですね、、こんなになるもんなんだ、、あの人は来れないなぁ、絶対、」
「ん?あの人?」
「いえいえっ!すみません!何でもっ、ないです!」
エルマンノ達は、近くで見つけた飲食店に入り、何とか座る事は出来たものの、人が多すぎる。
それに対しラディアが呟いたそれにエルマンノは目を細めたのち、これではゆっくりと話せる場所では無かったなと、僅かに失敗したとぼやいた。
「...それにしても、、妹達って、こういう感じで集めてる人達って事なんですか?」
「あ、ああ。妹になって欲しいというスカウト的な事をして回ってて」
「スカウトのノリでする事じゃ無いですよ、」
息を吐きながら、頭に手をやる。
「でも、ラディアも受け入れてくれたじゃないか、」
「それは成り行きです。力を貸して頂けるなら、それくらい耐えきれます」
「辛い下積み生活の一つにしないでもらえますか、?お兄ちゃん泣いちゃいますよ?」
「ああっ!だ、大丈夫だよ〜、お兄ちゃん!私、お兄ちゃんの事大好きだからっ!」
「コンセプトカフェってこんな感じなのか、?」
「え、?なんですか、?それ」
「こっちの話だ」
エルマンノは渋々感じながら食事を済ますと、ラディアと共に店を出る。
「え、?お、お会計は、?」
「もう済ませました。さっきトイレ行くって言った時に」
「え?トイレでお会計が出来るんですか?」
「それはいい考えだな。トイレの窓から食い逃げするやつが居なくなるかもしれない」
「そんな事する人いるんですか?」
「まあ、というのは置いておいて、その時に一緒に払ったって事だ」
「えぇっ!?そ、そんなっ、悪いですよ!何で奢る事先に言ってくれないんですか!」
「先に言ったら奢ってもらえると思ってめっちゃ食べる人いるでしょう?俺の近くにそういう人が居たんですよ」
「私そう思われてるんですか!?」
「底辺って自分で言ってるんですから。無理しなくて良いですよ」
「何だかその扱いはプライドにきます、」
「なら、ライブコンサートの時奢ってくれればいいです。最前列で」
「っ!...ふふっ、もっと前でも良いですよ?」
「ステージに立てと、?無理です。引っ込み思案なんで」
「よくそれで引っ込み思案って言えますね、」
二人は店を後にし、ある場所に向かった。ラディア曰く、そこにまずは連れて行きたいとの事だ。
「着きました!ここです」
「...ホラー映画のセットか何かですか?」
そこは、小さな城の様で。だが、それがボロボロとなっており、明らかに誰も手を加えていない様子であった。
「ちっ、違いますよ!失敬な!ここが、、ライブハウスですよ」
「へ〜、」
目を見開いた。この見た目で?そうも思ったが、何よりも異世界にもライブハウスがあるのだと。
この世界ではメディアというものがないため、そういうもので宣伝する様な事は出来ない。昔ながらの手法の様に、路上ライブやビラ配り、呼び込み、お店を通しての許可を取ってのコラボなど。そういうものを通して有名になっていくのが一般的の様だ。この世界でも、数多くのアーティストが目標にする様なライブハウスがある様で、その様な知識を持っていなかったエルマンノは、先程の昼食中ラディアからしっかりと叩き込まれた。
「それで、これが目標のライブハウスですか?」
「違います。...ここは、、私がエターナルブラッドだった頃に、、初めてライブをやったところなんです」
「っ、、なるほど、思い出の地。みたいなものですね」
「現在は辞めてしまって、誰も手を出さなくなって、この有様なんですけど、」
「なるほど、通りで」
そんな事を話しながら、ラディアはその建物の中へと入る。いいのか、入って。
「ここです」
「っ!凄いな、、中は本当にライブハウスだ」
「それはそうです!ライブハウスですから!」
そこには、地下アイドルがライブをやってそうな、小さめのステージと観客席があった。席と言っても、椅子は無いが。
「中は、、思ったより綺麗ですね」
「勿論です。...私が、、掃除してるので、」
「もう閉まってるのにですか?」
「はい、、もう一度、、ここで、ライブ出来たらなって、」
「...」
感慨深そうに呟くラディアに、エルマンノは目を細める。と。
「私、それもあって有名になりたいんです」
「え?」
「こんな、底辺だった私の所属していたバンドに、目をつけてくださって、応援して、何度もライブに出演させてくださった方々に、恩返しがしたくて、、そして、このライブハウスを、私が、もう一度建て直せたらって、」
「...それは、、大変な事、、かもしれないですよ?」
「はい。それは、、分かってます」
「俺が約束したのは、少しでも底辺から足を浮かせるって話ですよ?」
「分かってます。...まず、、誰かの力で、それで全部上手くいっても、、逆に申し訳ないですから」
「...」
エルマンノは少し悩む様にしながら目を泳がせると、その後、軽く息を吐いて告げる。
「なら、まずはラディアという、貴方の名前を広めるところから始めましょう」
「っ!はいっ!」
「俺に一つ当てがあります。ついて来てください」
エルマンノは真剣な表情でそう告げると、そのライブハウスを後にした。
☆
「こ、、ここって、」
予想外の場所に、ラディアはそう驚いた様に声を漏らす。それを聞き流しながら、エルマンノは"村"の奥へと進む。
「あ、ちょっと待ってください!」
「あれっ、お兄たん!どうし、、あれ、?その、人は?」
「お客さんだ。オリーブ、あの特殊性癖はどこに居るか分かる?」
「とくしゅ、、あっ、村長さんの事?なら、神社の方に居たと思う、」
「嘘だろ、」
オリーブの言葉に絶望を浮かべるエルマンノ。それに、オリーブが言葉を濁していると、ラディアは首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「ん?...あぁ、貴方は、、知らないんですよね。あの地獄、」
「え?何の、」
「なら、一度経験してみましょう」
「えぇっ!?」
数分後。エルマンノとラディア、そしてオリーブの三人であの無限階段を駆け抜け、神社の前で膝に手をやった。
「はあ、、はぁ、、はぁ、、どうだ、?」
「どう、、はぁ、、って、、これ、、うそ、でしょ、、きっつ、、明日、、動けない、はぁ、、足、、パンパン、です、」
「その響き何だかエッチだな。...もう一度、、言ってもらってもいいですか?」
「嫌です、、貴方の顔を、パンパンにしますよ、?」
「俺も、、パンパンしたいです、」
「どうしたの?大丈夫、?二人とも、」
流石獣族と言うべきか。オリーブは全然平気そうだ。
「凄いな、、オリーブは、」
「うん!お兄たんとのキャッチボールで、慣れてるから!」
「そうか、、何で脚力の話でキャッチボールなのかは分からないが、またキャッチボールしような、」
「うん!でも、、無理、しないでね、?何もしないで、一緒に居るだけで、、私は、幸せだから、」
「うぅ、、ありがとう、」
「っ!な、泣かないでっ!お兄たん!ごめんっ、ごめんねっ、私、何か言っちゃって、」
「泣く事は悪い事じゃ無い。そう言っただろ?これは、嬉しくなると溢れてきちゃう汁なんだ」
「そ、、そうなんだ、、なら、いい、けど、」
「その卑猥な言い方やめてください、」
オリーブとの会話に、苦笑を浮かべてラディアは割って入る。と。
「それにしても、、この方も、言っていた、妹さんの一人ですか?」
「ん?あぁ、そうです。階段に必死で自己紹介の場を奪ってしまいましたね」
エルマンノが忘れていたと言わんばかりに声を漏らすと、改めてラディアに向き直り、口を開いた。
「こちら、俺の大切で大好きで最高な妹。オリーブです」
「っ!あ、あのっ、その、、オリーブ、、って、言います、!よ、よろしく、お願いします!」
「あ、はい!よ、よろしくお願いします!オリーブ、ちゃん、?」
さんと言うべきか悩んだ末、ラディアは恐る恐るそう告げる。だが、対するオリーブは緊張をしながらも嬉しそうに笑みを浮かべる。その姿に良かったと、失礼では無かったと息を吐くと、そんなラディアに向けていた体を、今度はオリーブに向けてエルマンノは放つ。
「そして、こちらの方は、俺の大切で大好きで最高な妹。ラディアです」
「えっ、、この方、、お兄たんの、、妹、?なの?」
「突然の報告になって申し訳ない、、その、大切な家族として、姉妹として、、受け入れて、くれないか、?」
「うん!まだ、、少し緊張しちゃうけど、、でもっ、よろしく、、ね、?ラディア!」
「えっ、あ、はい!よろしくお願いします!」
「ちなみに順番的にラディアがオリーブの妹になります」
「えぇっ!?」
「見た目で判断してはいけない。こう見えてもオリーブは神様です」
「ちょっと、、もう話についていけないんですけど、」
一通りの自己紹介を終えたその時。ここまで来た理由である張本人。村長が奥から現れる。
「ん?何だ、、エルマンノさんでしたか。声がしたものですから」
「何だとは何だ。来たらまずかったか?お楽しみの最中だったか?」
「違いますよ。それに、オリーブも一緒で、、あれ?あの方は?アリアさんじゃ無いんですね」
「っ」
珍しい。まるでそう言う様に村長が口にすると、それにオリーブはハッとしてエルマンノを見つめる。それに、彼もまた歯嚙みしながら目を逸らすと、その反応に何かを察したのか、オリーブは表情を険しくする。と、そののち。
「そ、そんな事より、一つ、お願いがあるんです」
「はい、?」
「この村で、ライブをさせて欲しいんです」
☆
「はぁ、、本当、こんな大事にしてしまって、、すみませんでした、」
西日が眩しくなる中、ラディアは神社の奥にある家の縁側の様な部分で座り込み、隣のエルマンノに謝罪を口にした。
あの後、何とか必死の説得により村長を渋々頷かせる事に成功したエルマンノは、優しく息を吐いた。
「大丈夫ですよ。元々、村の人達も歌を歌いたがっていたんです。カラオケ大会をやって欲しいって色々な方から言われていたらしいですし。村民の希望には、目を逸らす事は出来ないですよ。村長は」
「...そんな、、村の方達が楽しみにしているカラオケ大会の様な場所で、、私が歌って良いんでしょうか、」
そう。エルマンノの提示した案は、村の人達から寄せられた要望であるカラオケ大会の大トリとして、ラディアが歌い、村の人達にだけでも名前を覚えてもらいたい。そんな考えの元放った案だった。
「大丈夫です。この村の人達は、みんな優しいですから。確かに、身内ノリが多くなるかもしれないんで、少しこの村の雰囲気は掴んでおいた方がいいかもしれないですけど」
「...エルマンノさん、、ううん、、お兄ちゃん」
「どうした?」
「...私がお兄ちゃんって言うと、タメ口になりますね、」
「ラディアもそうだろ?」
「...そう、、かも、」
「それで?どうしたんだ、?言いづらい事なら、ここから見える景色は綺麗だ。それを見ながら、、独り言を話していればいい」
「...ねぇ、お兄ちゃん。その、何でここまで、してくれるんですか?」
「え?」
「これも、何かの巡り合わせ。そう言ってくれたのは、、嬉しいですけど、、それでも、ここまで、するなんてことは、」
「あそこまでボヤッとした話を、本当に行動するとは思ってなかった。...そういう事か?」
「う、、うん、」
「ふっ、心外だな。俺はお兄ちゃんだぞ」
サラッと信用していなかったと遠回しに告げられたエルマンノは、微笑みながらそう返す。
「妹のためなら、力になりたい。それが、兄ってもんだ」
「...そこまで、しないよ、、兄は、」
「え?」
目を逸らしながらそう呟くと、エルマンノはそれはどういうことだと。声を漏らした。が、対するラディアは、ふと神社の方を見つめ、微笑み改めた。
「それにしても、凄いですね。この場所、」
「ん?あぁ、神を祀る場所、ですからね」
「神を祀る場所なんですか、?ここが?」
「え、はい。そうです。ここの土地神を祀ってるんですよ」
「へぇ、、こんな感じなんですね、、私、教会とかしか見たこと無かったんで、、こういう場所もあるんですね、」
なるほど。この世界にも色々な神が存在し、それぞれに祀りあげる場所が存在するのだろう。現世と同じだ。
「ラディアは、、何か信仰している神様がいらっしゃるんですか?」
「え?あぁ、、私は、そんなに、、父が、宗教に入っていて、」
「なるほど、」
僅かに視線を下げて放つ。その姿に、あまり良い方向では無いと察したエルマンノは、目を背ける。
「その、その神も、土地神の力を持つ、少女らしいんですけど、」
「へぇ、似た様な神が居るんですね」
「はい、、その神は、獣の姿をしているらしくて、」
「へぇ、、獣か、、神獣の様な?」
「はい。...でも、人型みたいですよ」
「ちなみに、その神の名前って知ってます?」
エルマンノは何か思い当たる節があると顔を顰めながら、まさか、と。苦笑を浮かべ問うた。すると。
「あ、えと、、た、、確か、、ヘラ、だった様な、」
「っ!」
「え、、どうしたんですか、?」
思わず驚愕に固まる。こんな、こんな偶然があるのか。世界は狭いな。
「...それ、さっきの子ですよ」
「え、?」
「あの子はここの土地神なんです。だから、この村で住んでますし、この神社がお家なんですけど、」
「あ、、じゃあ、突然土地神を奪われたって言ってたあれはこの事だったんですね、」
「う、奪われた、?」
「はい!その、父が言ってたんです。今まで信仰してきた神様が、突然知らない奴に奪われたって。凄く怒ってましたよ」
「あ、あの特殊性癖、、事情説明してないのかよ、」
エルマンノは頭を押さえながら、息を吐く。宗教の人達にも話をつけておくのが筋ってものだろう。我々よりもよっぽど先に話しておかなくてはならない相手だ。
「でも、、もう良いんです」
「え、?」
「父は、、いえ、私達、家族で、引っ越すので」
「え、」
いや、何と言った?まさかの、引っ越し?
そうか、そうだな。別に、それは家庭内の事情もあるだろうし、自分の意思もあるだろうし、お兄ちゃん全然気にしない。
全然気にし...
「嘘だろぉ!?」
クールに対応する言葉を考える中、エルマンノはそれを口にするよりも前に声を上げていたのだった。
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