第18話「天使な妹」

「もしかして、、貴方も、ですか、?」


 エルマンノは頭痛のせいもあり、すれ違っただけの女性に声をかける。

 その女性は長い金髪を三つ編みでアレンジしており、服は白く、現世でいうワンピースの様なものが、僅かにアレンジされたものを着ていた。とても似合う。そして、デカい。何がとは言わないが。


「え、?貴方も、、って、、何が、、ですか、?」

「ああ、えと、頭痛です、」


 エルマンノは、息を切らしているだけで確証のない相手にそんな一言を放った事に僅かに焦りを見せる。普段支離滅裂な事を言っているくせに、何故かこういう時は汗が止まらない。これは頭痛のせいであってくれ。


「えっ、貴方も、ですか?奇遇ですねっ!」

「はい!奇遇ですね!今日はいい事がありそうだなぁ」


 何を言っているのだ。頭痛が酷いのにいい事あるか。


「はい!そうやってポジティブに考えるのって素敵ですよね!でも、ポジティブに考え過ぎて、理不尽に飲まれるのは違います!そのお考えは素敵ですけど、気を付けてくださいね!」


 天使だった。

 初めてこんな出会いをした。今回は初めてばかりだ。今から曲でも作ろう。曲名は「天使に触れました」とか。


「その、貴方は、これからどちらに、?」

「あっ、私もそこの丘のところに」

「いいところですよね。俺は妹から教えてもらったんですけど、」

「っ、そうなんですね。素敵な場所を知っていらっしゃる妹さんですね。大切にしてあげてください」

「それはもう、毎日お風呂一緒に入ってますし、寝る時も一緒ですし、出かける時も一緒ですし」

「へぇ!本当に仲が良いんですね!」

「すみません嘘です」

「えぇっ!?」


 駄目だ。眩し過ぎる。いつもの調子で話していたら、恐らく先にエルマンノが爆破するだろう。


「頭痛、、大丈夫ですか?」

「あ、はい!お、おかしいなぁ、、さっきまで元気いっぱいだったんですけど、」

「何で、ですかね、」

「貴方も、、大丈夫ですか、?凄く辛そうでしたけど、」

「最近気候変動が激しい場所に居ましたから、きっとそのせいでしょう」

「それは大変ですねっ、お身体しっかり休めてください。温度差や高低差、それが、体には一番良くないんですから!その、私に、何か手伝える事はありませんか、?」

「え?」


 まさかの向こうから手を差し伸べてくれた。これは、涙でモニターが見えません。初めて会ったこんな奴に、そんな言葉をかけられる天使は居ますか?いや、居ない。


「いや、、だいじょ、、」

「ん、?」

「その、一つ、お願いがあるんですけど、」

「はい!」

「俺の妹になってくれませんか?」

「えぇっ!?」


 見たところエルマンノより僅かに身長が高い。更に発育が良いところを見ると、恐らく。


「え、えと、、私、二十四歳ですけど、」


 やはり年上だった。


「俺の方が年上です」

「あっ!す、すみません!その、勘違いしてしまって!」

「すみません嘘です!本当にすみませんでした!」


 頭を下げるその女性の下で、更に低く土下座をする。マズい、こういう事を言うのはやめよう。ピュア過ぎて死ぬ。


「もう!あまりからかわないでくださいよ!」

「ですが、妹になって欲しいのは本当です。...その、俺は年齢関係無く」


 いや、待てよ。寧ろ、と。そこまで考えると、改めてエルマンノは想像する。


『うん!今日も美味しいよ、ありがとう』

『良かった!あ、もうお兄ちゃん。口元にご飯つけてるよっ。もう、ほんと子供なんだから、お兄ちゃんは』

『ばぶぅ』


 お姉さん系妹。寧ろありだ。


「で、ですが、さっき話していた限りでは妹さんがいらっしゃるって、」

「その方もこうやってスカウトしました」

「そういうシステムなんですか!?」


 意味の分からない発言にその女性は丁寧なツッコミを入れると、エルマンノは頷く。それに、彼女は一度俯き、寂しげな表情をしたのち、顔を上げて苦笑を浮かべた。


「その、ごめんなさい!私のお兄ちゃんは、、一人って、決まってるんです!」

「っ」


 なんと、本当の兄が居た。即ち、この人は正真正銘の。


「妹、、じゃあないですか、」

「へっ!?あ、はい!そうです!」

「っ」


 エルマンノは、ゆっくりと彼女に近づいていく中でハッと意識を戻して首を振る。マズいマズい、と。


ー危うく飛びつくところだったー


「...なるほど、、なら、仕方ないですね」

「ご期待に添えず申し訳ございません」

「いえいえ、、そんな、俺こそ、何もしてあげられてないんですから」


 エルマンノが慌てて手を振ると、改めて問う。


「それにしても、、何で、助けてくれようと、してくれたんですか?俺、何もしてあげられてないのに、」

「え?」


 エルマンノが真剣に放つと、それに、彼女は愚問だと。僅かに自信げに微笑んだのちニコッと笑った。


「私のこの小さな手で拾える幸せなら、なるべく多く拾ってあげたいんです」

「っ!」


 エルマンノは、目を剥き圧倒された。目の奥が熱くなり、思わず、気を抜けば涙が出てしまいそうだ。


「だ、大丈夫ですか、?」

「あ、ああ、、はい。大丈夫です、」


 エルマンノは「はは、」と。小さく笑いながらそう手を振ると、優しい表情で微笑み、改めてお願い事を放った。


「なら、一つ、改めてお願いがあります」

「は、はい!」

「俺はエルマンノって言います。貴方のお名前を、教えてくれませんか?」


 エルマンノのその瞳に、彼女も優しい表情を浮かべながら、そう返した。


「はいっ!私の名前はクレアです!」


          ☆


「クレアさんか、」


 家に戻り、一人となった室内でベッドに横になる。先程まで頭が割れそうだった頭痛は無くなり、体の怠さはあるものの、症状は良くなってきた様だ。だが。


「クッ、まだか、」


 まだ、あの歌は続く。やはり自分しか聞こえない、だが確かに存在する、何か霊的なものなのだろうか。

 そんな事を考えた。その時。


「っ!た、ただいまぁ〜!」

「っ」


 玄関から、疲れた様な、心配している様な。そんな声が聞こえた。この声は。


「お、おかえり、母さん」

「っ!エル〜!寂しかったでしょ〜!ごめんねぇ〜、色々立て込んでて、予想以上に遅くなっちゃって、」

「だ、大丈夫、、だけど、、こんな長い間、俺一人で家に居て大丈夫だったのかな?その、俺、まだ十五だし、」

「安心しろ。ちゃんと遠征に行くための手続きはしてある。違法にはならない。そして、帰って来て一番の言葉がそれか?エルマンノ」

「おかえり、父さん」


 玄関を閉めながら、父が入り、母がエルマンノを抱きしめる。異様に長い。


「ちょ、、も、もう俺そんな歳じゃないんだから、離して、くれ、」

「自分でまだ十五って言ってたじゃない!もうちょっと、、長く会えてなかったんだから、補給させて」


 母も中々にやばい部類だったのか。エルマンノは冷や汗混じりに苦笑を浮かべる。


「あ、エル!お腹減ったでしょ?」

「あぁ、でも、自分で作って昼はもう食べたから、今は大丈夫だけど」

「そう、」

「でも小腹が空いてきたなぁ」

「っ!じゃあお母さんが色々作ってあげるわね!」

「小腹と言いませんでした?」


 エルマンノは、貯金や冷蔵庫の中身の辻褄を合わせるため、今日は村で食べたのだがこちらで食べた事にした。


「みんなでパーティでもやったか?」

「え?」

「そんぐらいしないとな。若いんだし」

「いややってないよ」

「そうか、でも一人は楽だっただろ?一人作業はし放題だ」

「確かにそうだ」


 エルマンノは頷くものの、ずっとアリアが居たため、そういうわけにもいかなかったのが現状だ。パーティでもやったか。その一言には焦ったものの、幸い冷蔵庫の中身が減っている事や、お金が減っている事に目をつけて言っていたわけでは無さそうだった。恐らく、いつものノリだろう。

 そう、思った矢先。


「エルマンノ、お前、女を入れたな?」

「っ!」

「しかも、長期に渡って、」

「な、、何故、、それを、」

「匂いだ」


 忘れていた。父は同じく変態だ。別ベクトルでやばい奴なのを忘れていた。女性の匂いならば瞬時に理解出来てしまう。昨日まで居たのだ。分からない筈が無かった。しくじった。


「す、すみません、」

「まあ、お前も頃合いの歳だ。俺がどうこう言うことはしないし、深くは聞かない。だが、、したのか?」

「結構それ深いですけど」

「付き合う前にヤッちゃったりするもんだろう。まだ浅瀬の話だ」

「ヤッてない」

「本当か?」

「誓おう、俺は童貞だよ」

「自信げに誓うもんじゃないぞそれ」


 親子の会話とは思えない、男同士の会話をしたのち、父は微笑みながら息を吐いた。


「ま、あまり無茶するなよ」


 言葉だけ見ればカッコいいが、それの意味は最悪である。というか絶対信じてないだろ。


「あ、あと、父さん」

「ん?どうした?」

「何か、変な歌、聞こえない?なんか、女性の、細い声で、」

「どうした。まさかそこまで進んでいるとはな」

「女性を家に上げていた話からは離れてくれないかな」

「いや、聞こえないな。気のせいか、それか霊か。とは言っても、この辺は安全だと思うんだがな」


 こんな魔物がうじゃうじゃ居る森のどこが安全だというのだろうか。エルマンノは息を吐きながらも、やはりこの声は自分にしか聞こえていないのかと。料理を済ませた母の呼ぶ声に釣られてリビングに向かった。

 が、そこで。


「何の話?」

「っ!?」

「いや、なんか変な歌が聞こえるんだと」

「ふぅ、」


 危ない。母の切り出しに、あの話をされるのではと震えたエルマンノだったが、そちらの話を切り出してくれた父に、珍しく感謝した。


「え、エルも?」

「え?」

「私もなんかここ最近聞こえるの。何なのかなぁ、ってずっと思ってたんだけど、」

「なんだ、言ってくれれば良かったのに」

「遠征中はそれどころじゃないし、貴方昨日の夜は酔っ払ってて話せる状況じゃ無かったでしょ?」

「え、遠征に行ってたんじゃないのか?」

「宴だよ。終わった後のな、」


 エルマンノのジト目に、目を逸らす父。だが、彼は自身の秘密を知っている人物だ。下手に反発は出来ない。だが、これで一つ分かった事がある。即ちこれは自分だけが聞こえる音ではない。聞こえない人と聞こえる人が居る。その、違いは。


「...」


 エルマンノはそこまで考えると、この後あそこに向かおうと、目つきを変えた。


          ☆


 コンコンコンと。三回ノックする。礼儀的にはこれで合っている筈だ。確か二回はトイレだった気がする。と、目の前の、実験部屋の扉が開く。

 すると、その先に居たのはーー


「っ、お前、」

「こんにちはお父様」


 ーーまさかのフレデリカの父だった。


「はっ!?な、何で来てるの!?」

「急用だったんだ」


 それに、フレデリカは慌てて近づくと、小さく呟く。


「というか、お父さん来るって今日だったのか」

「そう。だから緊張してたんでしょ!」

「まあ、でも、兄が居た方が緊張も解れるか」

「帰って」

「何を話してるんだ?」


 耳打ちする二人に割って入る父に、二人はビクッと肩を震わせ振り返る。


「いや、今どういう状況なのかを、」

「どういう状況なのか分かったなら早く帰りなさい。君には関係ない」

「ですから、俺はフレデリカの兄であって、関係多ありーー」

「帰れ」

「っ」


 確かに、二人の時間を邪魔するわけにはいかない。エルマンノは引き下がり、仕方がないと頷いた。


「にしてもどうするか、、フレデリカに聞こうと思ってたからな、」


 普段はそうしているのだから、今回もと思ったのだが、あいにくタイミングが良くなかった様だ。エルマンノは息を吐きながら、何故か未だにフレデリカの実験室の壁にもたれかかりながら、外で空を見上げていた。

 すると。


「ん?やけに静かだな」

「...」

「...」

「どういう状況だ、?」


 エルマンノは気になる、と。静かに裏に周り、窓から覗く。と。


「嘘だろ、、ここに来て、」


 そこに映し出されていたのは、二人はまさか直接会っているのにも関わらず。

 筆談。

 嘘だろ。なら手紙で良くね?エルマンノは冷や汗混じりにそれを見据えた。違う意味で震えそうだ。

 どれ程までシャイなのだあの親子は。

 だが、と。エルマンノは微笑む。互いに分かり合おうと、顔を見て、それぞれの思いを、言いづらいそれを、手紙という形で見せ合っている。


「...良かったな、」


 思わず口元が綻び、今度は暖かい意味で震える。

 ここで割って入るのは、流石の兄でも野暮ってもんだ。クールに去るぜ。

 エルマンノはそのまま踵を返すと、次はあそこに行くかと。村に向かった。


          ☆


「久しぶり」

「あっ、お兄たん!大丈夫なの、?...来て、」

「久しぶりって時間でもないねぇ、、どうしたんだい」

「いや、ちょっと聞きたいことがありましてね」


 エルマンノはオリーブに優しく微笑むと、改める。


「オリーブ、あの、俺の言った歌は聞こえなかったんだよね?」

「う、うん、、そう、だけど、」

「貴方達も、ですよね?」

「え、そうじゃな」


 エルマンノはオリーブに放ったのち、周りのお爺ちゃんお婆ちゃんにも促す。

 エルマンノの中に、一つの可能性を感じていた。あれは、もしかするとそういう事なのかもしれない、と。


「突然ですみません。少し失礼な質問かもしれないですけど、獣族の方って、、魔法使え無いんですよね?」

「魔法は使わないねぇ。まず、魔力すらないよ。この獣族の毛は魔力を蓄えることは出来ても、使う事は出来ないからねぇ」

「蓄えること出来るんですか?」

「魔力はないけどね」

「それ意味あります?」

「我々からすると魔法を受けた時に少し吸収してくれるからってのはあるけど、一番は毛を売る時かねぇ」

「売る時?」

「魔力を貯蔵するのに、獣族の毛を使うところも多いんだよ」

「なるほど、、魔力がある者からするととてもありがたいもので、獣族の方からすると商売ではプラスなのか」

「そうじゃな。まあ、とにかく、魔力を持つ種族じゃないってことじゃよ」

「そもそも、魔力が無い。でも、その代わり超人的な肉体と運動能力を兼ね備えている。それが、獣族です」

「なるほど、、って、居たんですか」

「居ましたよ。わざとやってます?」


 またもや背後に村長が居た。いよいよ透明化の能力を疑い始めるぞ。


「やっぱり、、そういう事か、」

「何か、、分かったの?お兄たん、」

「ああ。完璧だ」

「ちなみに、オリーブの土地神の力も、魔力とは関係は無いので魔力は持ってませんが、魔力には耐性があります」

「魔力に耐性、?」

「毛で吸収するのは勿論ですが、魔力のバフ上げの効果以外は全て弾き返せます」


 その言葉により、思い返す。と、何か思い当たる節が色々と見つかった。キャッチボールをした時や、捕まっていた時にエルマンノが特大魔法を放ったのに効いていなかった点。そして、それには耐え切れるのに、オリーブを閉じ込めていた檻や手枷からは抜け出せ無かった理由。


「ああ、」


 それを思うと共に納得し、言葉を漏らす。すると。


「も、もしかして、、さっきの、歌の話、?」

「そうだ。あれはオカルトでも何でも無い。あの歌は、ソナーだったんだ」

「...って、何、?」


 そうか、魔力が無い人には縁のない話かもしれない。エルマンノは皆が首を傾げているのを見て間を開けると、改めて続ける。


「ソナーっていうのは、魔力を使って伝言の様なものを送る事ができる方法だ。まあ、言わば手紙の音声バージョンって感じだな」

「っ!そんな事出来るんだっ!」

「なるほど、、テレパシーに似たものですね。...それなら、そのソナーだったで、片付きます」

「だが、おかしい」

「「「え?」」」

「ソナーっていうのは、そもそも伝達する行為。手紙と一緒で、伝えたい相手を特定して放つのが普通だ。魔力を感知して、その目的の人に放つ。それがソナーの方法なんだが、実は俺以外に、俺の母さんも反応していた」


 エルマンノの続けたそれに、確かにそれならばおかしいと。村長や村の人達は呟いた。が、そんな中。


「え、お兄たんお母さん居たの、?」

「ん?ああ、、そうだな。ちょうどうちに来た時は居なかったから、」

「会いたいっ!」

「っ」


 エルマンノは目を見開く。どうする、どう紹介するか。いや、待て。よく考えろ。この子は奴隷市場で売られていた少女でも、土地神でも、村の象徴である獣族でもない。この子は、俺の妹だ。紹介なんて一言でいいでは無いか。


「そうだな、俺の妹だ。俺の母さんは、、オリーブの母さんだ、」


 だが、その言葉を口にする中で、彼女の本当の母の話がチラつき、目を逸らす。


「今度、、紹介してあげるからな、」

「やった!」

「それで、、話を戻しますが、つまり我々に聞こえないのは魔力を持たないからで、魔力を持っている人には皆聞こえているという事ですか?」

「いや、全員では無い。父さんには聞こえてなかったし、魔力がそこまで多くない人に聞こえてるんだと思うんですけど。それを踏まえて考えると、」

「考えると、?」

「...恐らく、意図してやっているのでは無く、無意識に、知らずのうちに勝手にソナーが出ているんだと思います」

「そ、そんな事あるの、?」

「どうなんだろうな、、でも、それだとしても広範囲には及ばない筈です。だから、、探そうと思えば探せる筈」

「さ、捜すの、?その、ソナーを送ってる人、」

「みんなに心配かけちゃうしな、俺もずっとこれが続くのはごめんだし」

「そ、、そっか、」

「明日の朝、また顔出します!」

「りょーかい!明日の分の朝ご飯作っとくかい?」

「いえ!母が戻って来たので、食べてから来ます!」

「そうかい!待ってるよ!」


 手を振るお婆ちゃんにそれを伝え村から走り出すエルマンノに、オリーブは唇を噛んで彼を見据えた。


「アリアの事、、何も言って無かった、」

「何も無かったからじゃないのかい?」

「ううん、、お兄たん、、何だか苦しそうだった、、やっぱり、」


 オリーブは何かを察して、拳を握りしめる。それと同時に、村の空には雨雲がかかった。


          ☆


「はぁ、はぁっ、、とはいえ、、どうやって見つけ出すかな、、送信者、」


 王国内を捜しながら、エルマンノは愚痴を零す。先程丘に来た時も聞こえた。即ち、王国内の可能性が高いだろう。魔力を持たない獣族の村と森に囲まれた我が家。そこを除けば、この辺りで可能性があるのはここだけである。だが、王国。というだけありかなり広い。この中からピンポイントで捜すのは一苦労だろう。

 だが、手がない訳ではない。その人物が無意識にソナーを放っているのならば、出しっぱなしになっている可能性が高いのだ。つまり、その人物に近づけば反応が現れるはず。そう察したエルマンノは、日が落ち始める中、王国一周を目標に走り出した。

 が。


「はぁ、、はぁ、、はぁ、感じねぇ、」


 王国の端にまで到達してしまった。だが、その歌が聞こえない。今ではこれ程までにあの歌を望んでいる。何故聞こえないのか。


「ふん、ふふふん、、ふん、」


 いつの間にか、その歌を口ずさみ始めていた。何故か、頭に残る。いや、頭に直接与えられているのだから当たり前なのだが、何だか無性に歌いたくなってくる。バイト先でかかっている音楽を無意識に覚えて、不覚にもハマってしまうのと同じ感覚だろう。バイトした事ないが。


「疲れたな、、とりあえず中間地点って事で、いつもの丘で休んでいくか」


 昨日から歩きっぱなしである。更に今日は王国内を二回も往復しているのだ。足が悲鳴を上げているため、休んでも許してくれるだろう。誰にかは分からないが。


「ふふふん、、ふんふん、ふふふ、」


 口ずさみながら、丘を登っていく。

 いや、よく考えたら休むだけなら登って行く必要は無かったのではないだろうか。更によく考えると、あの時クレアは同じく頭を押さえていた。もしかすると同じ歌が聞こえていた可能性がある。


「あ、なんであそこで聞いておかなかったんだよ俺の馬鹿野郎ぉ!」


 頭を抱えた。あんなイカれた話をしている場合では無かったかもしれない。まあ、あの人が天然の妹である事に気づけたのはグッジョブだが。


「あ、、あのぉ〜」

「え!?あ、なん、ですか、?」


 突然話しかけられた。突然話しかけられるとこんなにビックリするものなのか。大変申し訳無かった。クレア。


「その、、気のせい、、だったら、ごめんなさい、」

「?」


 そう前置きして恐る恐る近づくのは、耳の下あたりでミディアムのピンク髪をツインテールにする、小柄な少女であった。


「...あの、さっき、、口ずさんでた、、歌、その、」

「え」

「私のっ!私の歌じゃ無いですか!?」


 俯いていたのが嘘のように、パァッと明るくなって顔を上げ大きく放つ。

 居たよ、発信者。

 自分から出て来てくれるとは、ありがたい。

 エルマンノはそう思いながら。


「貴方の曲なんですか、いやぁ、最高ッスよそれ!」


 イカれた一言目を決め込んだ。

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