第三章 : 百合女子ミュージシャンとシスコン馬鹿

第17話「妹の家出」

 耳元で、何かが聞こえる。ボソボソと。女性の声だ。ゆっくりと、意識が鮮明になっていく。すると、耳元だった筈が、それにボヤがかかった様に。声がくぐもる。だが、女性の声は未だ聞こえる。

 小さく、細々と。淡々と。


「っ!?な、何だ!?」


 思わず起き上がったエルマンノは、周りを見渡した。


「...だ、、誰も、、居ないよな、?」


 聞いた事の無い声だ。


「...疲れてんのかな」


 昨日は魔力を使い果たしたのちに妹達と市場で買い物デート。やはり、体の負担は大きかったのだろう。二日酔いってこんな感じなんだろうな。頭が重くてガンガンする。それ故に吐き気もだ。


「魔力の使い過ぎは気をつけた方がいいな、」


 そう呟きながら、時計に目をやる。すると。


「なっ!?」


 十一時。今までで一番遅いでは無いか。エルマンノは慌ててベッドから抜け出し、アリアの元へと向かう。


「おいっ!朝だぞ!アリアも疲れてるのは分かるが、逆に今日の夜眠れなくーーっ!?」


 向かった先。アリアが普段寝ている部屋。そこにーー


 ーー彼女の姿は、無かった。


「抜け駆けか、?」


 兄を起こしてくれてもいいでは無いか。そう思いながらエルマンノは家中を探す。以前の反省を活かし、トイレもだ。覗きとかそういう意味ではないぞ。

 だが。


「...あ、、アリア、?」


 冷や汗が頰を伝う。居ない。家のどこにもだ。


「なるほど、、先に村に行ってるんだな」


 エルマンノは嫌な予感を覚えながらも、そう解釈して村に行くための支度を始める。

 と、支度を済ませて、玄関に向かおうとした。その時。

 リビングのテーブルに、それを見つける。


「...手紙、?」


 もしや、辞表だろうか。そんなふざけた事を思いながら手紙に目をやると、それは親からのものであった。

 内容は本日に帰れるという事。そして、今王国は魔物の活発化だったり行方不明事件だったり、陰で計画が進んでいた陰謀の阻止だったりと、忙しかった様だ。それ故に遠征が長引いてしまった事へのお詫びなどが書かれていた。

 それを見て、エルマンノは生唾を飲む。


「...まさか、」


 ガタッと。テーブル横の椅子を倒しながら、勢いよく家を飛び出す。そう、アリアは、ずっとエルマンノの両親が帰ってくる事を気にしていた。テーブルの上に手紙があるという事は、玄関口から投げ込まれたそれをアリアが見たという事だろう。

 両親が帰ってくる。それが、本日ならば、あるいは。


「い、居るか、?フレデリカ!」


 ドンドンと。フレデリカの実験部屋のドアをノックする。と。


「何、?居るけど、、というか、ノックっていうものが存在するの知ってたんだ」

「当たり前だ。トイレ入る前は妹が入ってないかノックしてるぞ?」

「その配慮、もっと前からした方が良かったと思うけど」


 普段から勝手に魔法で出入りしているエルマンノに、フレデリカは呆れ気味に呟くと、改めて放つ。


「悪い、その、アリア、来てないか?」

「え?いや、今日は見てないけど、」

「そ、そうか、、分かった。ありがとな!」

「何か、あったの?」

「いや、まだ分からない。とりあえず、オリーブのとこにも行ってみる」


 何かを察して呼び止めるフレデリカに、エルマンノは走り出しながらそう放つ。


「はぁ、、はっ、、はぁ、」

「あ!お兄たん!」

「おっ、オリーブ。あの特殊性癖から何かされてないか?」

「と、、とくしゅ、?せいへき?」

「ああ」

「それは私のことですか?」

「居たんですか」

「居ますよ。特殊性癖なんて、貴方にだけは言われたくありません」


 元気に村の人達と話していたオリーブに、村に到着したエルマンノが話しかける中、突如背後に登場した村長という名の特殊性癖さんは、そう息を吐いた。


「大丈夫ですよ。もう、この子に辛く当たる理由はありませんから」

「本当ですか?」

「大丈夫っ!ほんとだよ!」

「そうか、?調教されてないか?」

「人聞きの悪い、」


 笑って割って入るオリーブに、エルマンノは淡々と返すと、村長は頭を押さえた。


「にしても村長さん。貴方陰薄いですね。背後に居るの気付きませんでした。バスケ向いてますよ」

「それ褒めてます?」

「俺は褒めるのに慣れてますから」

「それ褒めてないって事になりますけど」


 村長とたわいもない会話をしたのち、エルマンノは改めて問う。


「それで、今日アリア、見かけなかったか?」

「え?アリア、?」

「アリアさんは、、見てませんね」

「...そうか、」

「アリア、、居ないの、?」

「ん?ああ、大丈夫だ。きっと買い出しに出てるんだろう」


 心配そうな表情で問うオリーブに、エルマンノはそう微笑んで返すと、その時。


「はいはい、みんな昼ご飯の時間だよ。あら、エルマンノさん。丁度いい、一緒に食べていきなさい」

「え?いや悪いですよ」

「お兄たん!食べよっ!」

「ああ。食べるか」


 奥から現れたお婆ちゃんが皆を呼びに来たのち、エルマンノは遠慮を口にしたが、オリーブの一言で全て吹っ飛んだ。この可愛さは犯罪級だな。


「それにしても、、ご飯は毎回みんなの分作っているんですか?」

「ん?ああ、そうじゃよ」

「あんたじゃないでしょうが!」


 家に上がるエルマンノがそう聞くと、手前のお爺ちゃんがそう答える。それに、食器を運ぶお婆ちゃんがツッコミを入れる。どうやら、お婆ちゃん達が調理は担当している様だ。


「でも、みんなって言っても、村の人達全員ってわけにもいかないしねぇ。ここに住んでるじじばばの分と、少し多めに作ってるだけだよ。最近は毎日来てくれるから、オリーブちゃんのも作ってるけどね〜」

「ね〜」


 お婆ちゃんがオリーブに顔を向け放つと、彼女もまた同じ様に返す。なんとも、尊死しそうだ。


「...」


 そんな中、エルマンノは目を逸らしながら、浮かない面持ちでお婆ちゃんに耳打ちする。


「その、、オリーブの、事なんですけど、」

「うん。なんだい?」

「名前の事、、大丈夫ですか、?」

「ん?オリーブちゃんの名前が?どうしたんだい?」

「...その、貴方達は、、ずっと、この村に居るんですよね」

「うん。そうだね」

「なら、、オリーブの、、お母さん。ライラと名付けた母親を、、知ってるって事ですよね、」

「...」


 エルマンノの呟きに、お婆ちゃんは支度をしながら口を噤む。


「オリーブは、、前の事を、、幼かったのもあって全く覚えてません。だから、、俺がつけたオリーブって名前が、、気に入ってるんだと思います。...でも、、それで村の人も、、みんな、オリーブって彼女を呼んだら、、まるで、母親との関係を否定している様な。...無かった事にしようとしてるみたいで、、その、村の人達からしたら、嫌だったりーー」

「でもね」

「っ」

「知らない方が幸せな事も、、あるからねぇ。今、もう会えないお母さんの話をしても、、辛くなるだけだよ。せっかく、、エルマンノさんのお陰であの子に笑顔が戻ったのに」

「ですが、、いつかは、」

「そうだねぇ〜、、いつか、言わなきゃいけない時は来るだろうね。...でも、、それは今じゃ無いよ」


 お婆ちゃんの言葉に、エルマンノは目を見開くと、それもそうかと。少し俯き気味だったものの、頷いたのだった。


「さて、みんな食べようかね!」

「「「「いただきま〜す」」」」

「で、何で貴方も居るんですか特殊性癖さん」

「私は村長です」

「それは特殊性癖ではなく村長って事が言いたいのか、村長だからここに居てもいいだろうという傲慢な言葉なのか、、どっちですか?」

「どちらもです」

「あ〜、いい具合に腹立ってきたなぁ」

「腹減ってきたみたいなノリで言わないでください」


 二人してボソボソと。淡々と会話をする中、オリーブがお婆ちゃんやお爺ちゃん達と話している様子を見つめる。


「あははっ、もじゃおじちゃっ、違うよ〜、それソースじゃ無くてめんつゆ!」

「あら、、そうじゃったか、?」

「気をつけろよ〜もじゃおじ〜」

「お前こそ、頭気をつけろよまるおじ!何も頭守るもん無いんだからな!」

「お前っ、儂のハゲを侮辱したか!?」

「はいはい。ハゲ同士が喧嘩してんじゃないよ」

「あははっ」


 お爺ちゃんお婆ちゃんの会話に、オリーブは笑みを浮かべる。それに釣られて、エルマンノもまた微笑む。と。


「にしてもオリーブ。もじゃおじとか、まるおじとか、、どういう事だ?」

「えっ、あ!そうそう!あの人は、髭がもじゃもじゃしてるからもじゃおじちゃん!あっちの人は、頭がまるいからまるおじちゃん!そして、そこのお婆ちゃんはいつもおにぎり作ってくれるからおにばあ!」

「はっはっはっ!おにばあだってよ、鬼婆の間違いじゃろ」

「重力で髪が下に下がった分、顔も下に埋め込んでやろうかねぇ」

「ほっ、ほらぁ!鬼婆じゃあ!」

「なるほどな、、みんな、それぞれあだ名があるのか、いいな」


 エルマンノはみんなを見渡しながらそうぼやくと、少し間を開けて放つ。


「なら俺はイケおじだな」

「ふふっ、貴方は池おじの間違いでしょう」

「俺が池沼だとでも言いたいのか?」

「あまりそういう事は言わない方がいいですよ」

「クソッ、、嵌められた、」


 エルマンノが自信げに放つ中、隣から村長とかいうやべぇ奴に絡まれる。何故隣に座ってるんだこいつは。席替えが待ち遠しい。

 そんな事を横隅に置きながら、アリアの事を考える。考えられるのは、やはり一つしかないだろう。

 出て行ったのだ。元々、親が居ないと言い出した瞬間に家に居候をすると言い始めていた。ならば妥当だろう。

 どうするつもりなんだろうか。家出少女。フレデリカの一言が脳を過る。次の当てはあるのだろうか。いや、まずそんな事やめさせなくてはいけなかったのだろうか。分からない。アリアとは一番長く一緒に居た筈なのに。肝心な事を、何一つとして聞けなかった。彼女の、明るさと馬鹿さに掻き消されて。


「...はぁ、、兄失格だな、」


 エルマンノが小さく呟くと、その瞬間。


「っ!?」


 まただ。突如どこからか、女性の声が聞こえる。何だ。この声は。変な感覚だ。ボソボソと。話しているような。いや、これは。歌っているのか。何か、鼻歌の様に。小さく。


「今、、なんか聞こえ無かったですか?」

「ん?なんじゃ?」

「儂の屁の音かのぉ。悪かったのぉ」

「お客さんに失礼な事言うんじゃ無いよ!」

「痛っ!?」


 まるで芸人の如くおに婆ちゃんはまる爺ちゃんを叩く。


「いや、、なんか、女性の、、歌、、みたいな、」

「えぇ、、何だか怖いねぇ、」

「オカルトか!?何だかんだ昔はよく心霊スポットに良く行ったもんじゃ」

「歌かぁ、、昔は私もよく歌ったねぇ、」

「村長さん。カラオケ大会でも開催してくれないかのぉ」

「そんな簡単に言わないでくださいよ」

「だ、、大丈夫、?お兄たん、」


 皆がそれぞれ自分勝手な話題で話す中、オリーブはエルマンノにピッタリとくっつき、小さく呟く。


「...ああ、、大丈夫だ。オリーブが気にする事じゃ無い。それに、ただの耳鳴りかもしれないしな」

「それが、、心配なんだよ、、お兄たん、」


 オリーブはそう放つと俯く。恐らく、昨日の事でこうなっていると。何処かで思っているのだろう。確かに、雨を降らせたのち一日デートはやり過ぎたかもしれないな。帰ってゆっくり休むか。

 エルマンノはオリーブをこれ以上心配させて、自分を責めない様に、直ぐに家で寝る選択を選んだ。

 これを耳鳴りの可能性として、正直に休む事を皆に告げたのち、エルマンノは村を抜けて家へと向かった。

 が。


「...やっぱ、、気になるな、」


 アリアの事。考えてしまう。妹を心配しない兄はいない。きっとこのままでは、帰っても寝られないだろう。


「...ちょっと、、寄ってくか」


 幸い、エルマンノには、少し心が軽くなると言われているスポットを知っていた。

 そこへと、王国内に入り、その通りを走り抜け、王国の奥へと足を進めた。

 そう、その場所は。王国の端にある、丘の上。

 すると。


「っ!...先客か、、朝イチに来たんだけどな」

「どこが朝イチなの。私の実験室来たのももうお昼だったでしょ」


 丘の上の芝生に座る、フレデリカが居た。


「どうしたんだ、?久しぶりだな。ここに来てるなんて」

「まあ、、ね、」

「...新薬の、、事か、?」

「まあ、、それもある。...けど、、新薬はもう少しで完成しそうだから、、大丈夫、」

「さらっと凄い事言ったな。...それなら何だ?便秘か?」

「はっ倒すよ?」

「そろそろ押し倒してください」

「...はぁ、、ほんと、最悪、」

「最悪な事が、、あるのか?」

「あんたに言ってんの」

「ああ、、俺という理由でここに来てたのか」

「違う」


 エルマンノが納得という様子で空を見上げると、フレデリカは目つきを鋭くして返す。


「...お父さんが、、来るの、」

「っ、、またか、?」

「うん、、手紙見たんなら知ってるでしょ?」

「ああ...って、っ!?何故手紙を見た事を知ってるんだ?エスパーなのか、?まみなのか?」

「はぁ、、バレるって、、引き出し、、閉めていったでしょ?少し開いてたのに」

「なるほど、これが玄関の上に開けたら落ちる様に仕掛けるあれか」

「パンの袋留めるあれみたいに言わないで」


 フレデリカの返しに、エルマンノは納得した様に微笑むと、改めて彼女を見据える。


「つまり、今回の来場は前みたいなものではないって事か?」

「前?」

「鬼みたいな顔してただろ、あの時は」

「あれはいつも」

「おお、、おにばあも居ればおにパパも居るんだな」

「はぁ、、でも、確かに前みたいに急かしに来る訳じゃ無い、、でも、、実験の成果を観に来るのは一緒」

「いいじゃないか、頑張ってるんだ。それをそのまま伝えればいい。もう少しなんだろ?新薬も」

「そう、、でも、」


 エルマンノの言葉に、フレデリカは足を畳んでそこに頭を埋める。


「...」

「...独り言のつもりでもいい、言ってみてくれないか?」

「...はぁ、、その、緊張、、してるの、」

「緊張という感情がちゃんとあったんだな」

「沈めるよ?」

「やるならフレデリカの実験室の浴槽にしてくれ。いい最期になりそうだ。ちゃんとフレデリカが入った後のやつな」

「はぁ、、仕方ないでしょ、、ずっと、すれ違ってたんだから」

「...大丈夫だ。手紙を送り返してくれて、ちゃんと見に来てくれるお父さんだぞ?無理に話そうとなんかしなくていい。見せてやれればいいんだ。今の、フレデリカを」

「なんか腹立つ、」

「ま、兄の言葉に怒りを感じる時期は誰にでもある。前も言ったが、俺の話は聞いても聞かなくてもいい。でも、フレデリカとお父さんは、大丈夫だ。それは、言える」

「何の自信?」

「俺の保証だ」

「あぁ、、あの信じられない保証ね」

「どこまで広がってんだそれ」


 ジト目を向けながら、エルマンノは放つ。今回のことに、口を出す必要は無いだろう。二人は、お互いに緊張している筈だ。明日は、それ故にまた話せないかもしれない。でも、前とは違った見方が、お互いに出来ると思うから。


「で?あんたの方は何でここに来たの?逆に私の方が疑問なんだけど」


 フレデリカはそう告げると、まあ大体予想は出来るけどと付け足す。それに。


「あぁ、実は、、さっきから変な声、、いや、歌が聞こえるんだ」

「は、?歌、?」


 予想外だったのか、フレデリカは目を見開く。


「ああ。フレデリカは、、聞こえないか?今日の朝からなんだ。みんなは聞こえないって言っててな。さっき話してる時も、たまに」

「え、それ聴きながら話してたって事?」

「店内BGMだと思えば問題無いぞ」

「店内BGMって、、店内の弾き語りのこと、?というか、そういう問題じゃないでしょ、」


 フレデリカは呆れながら頭を押さえると、少し間を開け目を逸らした。


「...ごめん、、それに関しては、分からない。私も、聞こえないみたい」

「なっ」


 エルマンノは驚愕する。これは、やはり心霊的なものなのか、と。


「何震えてるの?トイレ?」

「いや、それはちびってるだ。俺はビビってるんだ」

「何に、?それただの耳鳴りでしょ?」


 最初は、自身もそう思っていたのだが、これは何か違う。次第に鮮明になっていく。本当に、隣で歌っている様に。


「そう、、なのか、?」

「私に聞かれても、」


 エルマンノが冷や汗混じりに放つと、フレデリカは浅く息を吐いて遠くに目をやった。


「...きっと、、ショックなだけだよ」

「...ショック、?」

「私も、、それと重なってここに来たの。アリア、その様子じゃ居ないんでしょ?どこ探しても」

「...」


 エルマンノはバツが悪そうに目を逸らす。


「やっぱり。...何か心当たりはある?」

「色々ありすぎてなぁ」

「確かに、今まであんたと同棲出来てたのは奇跡としか言いようがないね」

「でも、、多分あれだ」

「え?」

「今日、、帰って来るんだ。...両親が」


 エルマンノが小さく呟くと、フレデリカはなるほどと納得した様に頷いて視線を王国の方へと向けた。


「きっと、私の予想通り、家出少女だったんじゃないかって思う。それで、大人にバレたらきっと通報されるって思って、逃げ出したんじゃない?」

「でも、、一言くらい、」

「探さないでくださいって?」

「王道だな。フレデリカも面白い事言える様になってきたみたいだな」

「真面目になんだけど、」


 前も、こんな会話をしたな、と。エルマンノはアリアの顔を思い浮かべ目を逸らす。


「そんなの、するわけないでしょ?それで引き止められたら大変なんだし、探さないでくださいは探してくださいの意味でしょ?」

「...アリアは、、求めてないのか、それを」

「そうなるね」


 フレデリカは、相変わらず淡々と。冷静に話すものの、ここに来たという理由と、現在僅かに震える声に、エルマンノは更に表情を曇らせる。


「私達がどうこう言う事じゃないから。...あの人のことは、もう諦めるしかないよ。どこに行ったのかも、、分からないんだから」

「...アリアは、、妹だ、」

「...それでも、、だよ」


 エルマンノが歯嚙みして放つ中、フレデリカは立ち上がり、帰ろうと歩き出す。それに、エルマンノが立ち上がり放つ。


「それでもって、、どういうっ」

「もう心配させないで」

「っ」


 と、その時。フレデリカは背中だけを向けて、そう告げた。まただ。一人の妹のために、他の妹を蔑ろにしてしまった。今、エルマンノは昨日強大魔法を使用したがために危険な状態なのだ。アリアが居なくなったのに、エルマンノまで居なくなったらと。彼女は拳を握りしめた。


「フッ」


 それに、素直じゃないな、と。エルマンノは微笑む。


「安心しろ。別に追いかけたりしない。...俺だって、当てがないんだ。今日は耳鳴りもするし、早く横になるよ」


 エルマンノのその言葉に、僅かに一瞥すると、フレデリカはその場から去った。


「フッ、、」


 その後、エルマンノはしおらしく笑い視線を王国へと戻した。


「もう少し、、居るか、」


 そう、呟いた、その時。


「っ!?がはっ!?」


 思わず崩れ落ちる。突如、割れそうな程の頭痛が、エルマンノを襲ったのだ。


「なんっ、、だっ、これっ」


 頭を押さえて、ゆっくりと立ち上がる。衝撃は凄かったものの、段々と慣れてきたのか、ズキンズキンと波打つものの、耐え切れる程度になっていった。


「はぁ、、はぁ、はっ、」


 これは、何だ。魔力の使い過ぎか?にしては急過ぎる。いや、耳鳴りが前兆だろうか。マズい、本当に死んでしまうのではないか、と。

 エルマンノは息を切らしながらも、懸命に家へ戻ろうと足を踏み出す。

 と、その先に。


「はぁ、、はぁ、、はっ、はぁ、」

「はぁ、、はぁ、ん、?」


 同じく、息を切らして歩く、金髪の長い髪を三つ編みでアレンジした女性が、ゆっくりとこちらに近づいていた。


「も、、もしかして、、貴方もですか、?」

「え、?」


 エルマンノは頭痛のせいか、初めてまともな出会いを、経験した。いや、待てよ。見ず知らずの相手に突然話しかけたのか。

 明らかにまともではないな。

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