第13話「妹誘拐事件」
「嘘、」
誘拐。その一言に、アリアは力無く崩れ落ちた。それに、エルマンノはいつもとは一転。荒い呼吸で、頭を押さえ、気が気でない様子であった。こんな状態である。まあ、当たり前なのだが。
「だ、だって、、私、昨日、一緒に寝てたんだよ!?...そ、それなのにっ、、私、、私の、せいだ、」
「アリアの所為じゃない。俺だって、昨日深夜に見た時はまだオリーブは居た。あの時刻が二時あたりだった気がするから、、オリーブが一人で出ていったとしても、朝方になるな」
ならどちらとしても可能性はあるか。そんな事を考えながら、エルマンノは目を細める。
「ど、どうしよエルマンノ!?」
「安心しろ。こんな時のために用意しておいた」
「え、?」
「もしかすると侵入されるかもしれないだろ?その時のために、昨日の夜ドア全てに紙を置いておいたんだ」
「紙、?」
「よくあるだろ?ドア開けたらその紙が落ちてて、それで侵入されたか分かるってやつ」
エルマンノはそうアリアに解説しながらドアへと向かう。と。
「嘘だろ、」
全てのドアに、紙が刺さったままであった。
「いやだって、エルマンノもやってるけど、ある程度魔法使える人だったら物体貫通出来るでしょ?」
「ああっ!盲点だった!」
「えぇ!?いつも自分でやってるのに!?」
アリアの指摘に、エルマンノはやっとその事に気づき、頭を押さえる。
「だが、大丈夫だ」
「え?」
「紙が残ってる。これは、オリーブが自分から出てったわけじゃ無いって事の証明になる」
「な、なるけど、って!でも結局誘拐犯は分からないんじゃん!」
「いや、この紙を落とさずに侵入出来る人物。即ち、それ相応の魔力を持ち合わせてるって事だ。つまり、俺の魔力追跡でいけるかもしれない」
「えっ」
フレデリカの父に会う際に使った魔法。とは言えないが。
「あと、不可解な点がある」
「不可解、?」
「ああ。俺の寝室に、聖書を置いておいたんだが、持っていかれてない。またドジっちゃったのか?」
「そんな事いいから!早く追跡しないと!」
「そうだな。妹のピンチだ。行くぞ」
エルマンノはアリアと顔を合わせ頷き、上着を着るだけで、寝起きのまま家を飛び出した。
☆
「はぁっ、はぁっ!クソッ、」
「どうしたの、?追跡難しい?」
「ああ。極端に強いわけでも、癖のあるものでもない。だからこそ、見分けるのが難しいな」
必然的に、誘拐犯は人目を避けるものの、それが夜であるならば、商店街の辺りを通っている可能性も高い。即ち、現在は人で賑わっている場所に侵入してしまうと、魔力分散がされ、上手く一つの魔力を追えなくなってしまうのだ。
「...マズいな、、何か、ないか、?」
「エルマンノ、」
その、完全に見失った様な反応に、アリアは小さく呟く。すると。
「クソッ、とりあえず、フレデリカのところに戻ろう」
「えっ!?」
「もしかすると、ただフレデリカが連れて行っただけの可能性もある」
「そ、、そっか」
エルマンノはフレデリカには魔力が無い事からそれはあり得ない。そう思いながらも、彼女の意見を聞きたいと、表向きにそう口にする。それを聞いたアリアもまたそれを察しながらも頷き、そのまま二人で森の方へと戻って行く。と、その道中で。
「エ、エルマンノさん!」
「ん?」「え?」
声をかけられ、振り返った先。そこには、以前街の復旧作業をお願いしに来た、獣族の村長がいた。
「お願いしたい事が、」
「悪い、今急いでるんだ」
「そこを何とか!現在、また雨が強くなってきまして、」
「「っ!」」
二人は目を見開く。これは、まさか、と。もしオリーブがその村の土地神であるのならば、現在雨が降っている理由は、あの時と同じ。
恐怖を感じているから。
「すみません。もっと相手をしてあげられなくなってしまいました」
「えぇっ!?お願いします!貴方の力がーー」
「大丈夫です!今から晴れるよ!」
「え、?」
ちゃっかりと言ってみたい台詞を口にしながら、エルマンノは覚悟を決める。これは、只事ではないと、そう確信したのだ。
そんなエルマンノは、突如来た道を戻り始め、王国へと降りて行く。
「えっ、エルマンノ、?フレデリカのところに行かなくていいの、?」
「ああ。もし誘拐だったら、フレデリカを巻き込むわけにはいかない。それに、フレデリカのところに居るなら安心だ。後から行っても問題ないだろう」
エルマンノはマズい状況である予想をし、フレデリカの安否を考え気を改めると、二人は目つきを変えて街中を探す。エルマンノは意識を集中させて魔力を拾おうとするものの、中々掴み取る事が出来ずにいた。
と、その時。
「はぁっ、は、、はぁ、居ました、、お宅にいらっしゃらなかったのでどこに行かれたのかと、」
「っ!貴方はっ」
突如声をかけたその人物に、エルマンノとアリアは目を剥く。そう。突然背後から声をかけたその人物は、昨日我々の前に現れたラグレス。その人だった。
「ヘラ様の件、どうなさいましたか、?」
「何、?」
その一言に、エルマンノは目つきを変える。オリーブを誘拐したのは、神教徒の者では無いのか、と。
「...ちなみに、神教徒の方々に昨日の事は伝達したんですか?」
「え、?あ、はい。そうしましたところ、本日一緒に出向くと。ですから、わたくしが先にあなた方のお宅に顔を出し、その事を伝えようと向かったのですが、」
ーという事は、、やはり神教徒の犯行では無いのか、?ー
エルマンノは顎に手をやる中、ラグレスは首を傾げる。その様子に気づいたエルマンノは、ハッと目を見開くと、悪いと零し口を開いた。
「申し訳無いですが、今日その話は出来そうにないです」
「なっ!?一体何故です!?」
「...それは、」
その問いに、一度アリアと目を合わせバツが悪そうに息を飲むと、覚悟を決めラグレスに目を向ける。
「オリーブが。...その、土地神が、誘拐されたから、だ、」
「なっ!?誘拐!?一体何をやっているんですか!?だから一般の家に置いておくなんて不用心な真似しない方がいいとわたくしはあれ程っ!」
「分かってる。言われなくても、すぐに見つけ出して取り戻す」
エルマンノはそこまで告げると、目つきを変えて口を開く。
「神か何かは知らないが、それ以前に、俺の妹だからだ」
「話の重大さが何も分かってませんね。土地神の力を狙ってヘラ様を誘拐したに違いありません!何か、、手は無いんですか!?」
「...妹が拐われた以上の重大があるか!?誘拐されたその役立たずの一般人に、案を促すなよ」
エルマンノは僅かに怒りを見せながらそう返すと、少しののち、ハッと目を見開く。
「そうだ、、確か、」
エルマンノは念の為にと、ポケットに入れていた聖書を取り出すと、ペラペラとページを探しながら開き始める。
「ああっ!それはっ、、わたくしの!?何故そこにっ!?それが無くて、わたくしは教祖からお叱りを受けたのですよ!?」
「置いて行った貴方が悪いんですよ。...っと。あった、、これだ」
「ど、どれ、?エルマンノ、?」
エルマンノはラグレスの言葉に軽く返しながら、ページを見つけると、小さく呟く。それに続いてアリアが隣から覗き込むと、一文を口にする。
「土地神の力は、村と繋がる力であり、村にある神を祀りし場所に真実の水なるものがある。そこに、、意識が繋がる、?」
「ああ。昨日言ってたよな?真実の水とか言う、口みたいな名称のやつに、神の景色が映し出されるって」
「あ、はい。その通りです。土地神の力は村と繋がるということ。つまり、神が苦しめば村に影響が出ますし、村に影響が出れば神に影響が出ます。その真実の水には、実際に現在見ていらっしゃる土地神様の光景が映ります」
「...なら、そこに案内してくれませんか?そうすれば、何処に行ったのか、分かるかもしれまーー」
「申し訳ございませんが、それは出来ません」
「なっ」「えっ!?」
エルマンノとアリアは、その返事に声を漏らす。
「わたくし共も、その場所は知らないのです。知っていたら、今現在まで何処にヘラ様が居たのか、分かることになりますよ」
「「っ!」」
その言葉で、二人は気づく。即ち、今までそこに映し出されていたのにも関わらず、オリーブを助け出さず、そこに映し出された情報を使って、エルマンノの家を特定した。そう考えるならば。
「...あの村の獣族が怪しいな」
エルマンノが低く呟くと、アリアもまた目を細め強く頷いた。
☆
「村長」
「...ん?ああ、エルマンノさん、、どうしました、?まさかっ、村を助けてくださる気に」
「ならない。悪いが、真実の水ってやつの場所を知らないか?」
「し、真実の水、?何処のことだろうか、?」
ラグレスと同行し、二人は村にまで足を運んだ。ラグレスは驚いており、その様子から、この村と土地神が関係ある事を知らなかった様に見える。が、それと共に、村長のこの反応。とぼけている可能性もあるが、本当に知らないのだとするならば、この村はオリーブとは関係ないのだろうか、と。エルマンノは内心で思い目つきを変える。
「エルマンノ、、やっぱり真実を見つけるのは難しいよ、、だって、みんな怪しいもん」
「まあ、それを言っちゃあ、、その通りなんだが」
エルマンノがアリアの小声に頭を掻くと、一度息を吐いて、知らない可能性を配慮し更に情報を付け足す。
「なら、神社とかは無いですか?古くから伝わる、土地神的なものを祀ってる様な」
「ああ!はい、ございますよ。いつも、そこで雨乞いをしているんです」
「「「っ!」」」
ラグレスを含めた三人が目を剥く。そんな三人に、村長は案内しましょうと促し、歩き始めた。
「ね、ね、、エルマンノ。大丈夫かな、?なんか変なとこ連れてかれて、嵌められたり、」
「あぁ。変なとこ連れてかれてハメられる可能性あるな、」
「エルマンノが言うと卑猥に聞こえる、、その可能性があるのに、なんで平気でついてくの、?」
「他に策もない。それに、妹は俺が守る。お兄ちゃんにくっついてろ。もしそんな事があっても、俺がそれを許さない」
「エルマンノ、、後半代名詞が多くてどれが何だか分からなかったけど、、ありがとう」
「ああ。そうやってニュアンスで理解してくれるのはとても助かる。こちらこそありがとう」
「着きましたよ」
「「「っ」」」
アリアと小声の会話を交わす内に、目の前には天にまで続いている様な階段が現れる。
「これを、、登れというのか、?」
「はい。これこそが、神と会うための試練。これを越えられる程の覚悟が無いと、神と会う事は許されませんよ」
村長のその言葉に、露骨に嫌な顔をしながらも、妹のためだと。皆が皆オリーブのためだと意識を変えて、必死に一段一段を登り始めた。雨の中、足元が滑りやすいのにも関わらず、この急斜を。
「クッ、、ソッ!何だよっ、、これっ、まだっ、ハメられた方が良かった、、ぞ!」
「それっ、ほんとに言ってる!?」
「ああ!そういう趣味は無いけどな!」
「ある意味、嵌められているのでは、無いでしょうか、?」
エルマンノとアリア、ラグレスが、それぞれ息を切らしながら、一段一段を登り進める。
そうする事、数分後。
「はぁ、、はぁ、」
「はぁ〜〜〜〜〜、もう、むりぃ、、げんか〜い、」
「登り、切りましたよ、」
三人がそれぞれ登り切ると、エルマンノは来た道を振り返り優越感に浸った。
「...山登りの良さが少し分かった気がする」
「あ!あれ、、真実の水じゃ無い、?」
エルマンノが意味の分からない事を言う中、アリアは階段を登った先にある神社に備え付けられた手水舎の様なものに走り出した。
「これは手を清めるところじゃ無いのか?」
「ならエルマンノは洗った方がいいよ」
「手を汚してると言いたいのか、?」
アリアに言われるがまま、妹の言う通りにエルマンノは手を清める。そんな中、薄らと。今まで水の上で手を注ぐエルマンノが映っていた水面に、僅かに違う光景が映し出される。
「ん、?」
ほんの僅かに。違和感を一瞬感じる程度であった。これが、サブリミナル効果というやつだろうか。それに気づいたエルマンノは、凝視する。
「んー、」
「え、?」
「んー、?んぼぼぼぼぼっ!」
「エルマンノ!?」
どうやら近づき過ぎてしまった様だ。手だけで無く、顔も清められた様だ。転生前ならまだしも、現在の顔に不満はない。
「はっ!そうだ。あそこだ!」
「え、?何か分かったの!?」
「時間がない!オリーブを、助け出しに行くぞ!」
そう叫ぶと、アリアの腕を掴み、長時間かけて登った階段を下り始めたのだった。
☆
「こ、、ここって、」
「アリア、、ここで引き返した方がいい。少し、怖い事に遭遇するかもしれない」
「いや、ここまで連れて来て言うことじゃ無いでしょ」
エルマンノが突如走り出し向かった先。そこはーー
ーー前、オリーブが檻に入れられ監禁されていた場所であった。
「犯人は犯行場所に戻って来る。そういう事だな」
「...あの時に倒した人って、主犯格の奴じゃ無かったって事、?」
「どうだろうか、、まあ、明らかにあれはお亡くなりになられてただろうし、恐らく、そういう事だろうな」
エルマンノは目を細めてその建物を見つめる。と、少しの間ののち、彼は僅かに目を見開き、アリアに向き直る。
「アリア、悪い。一つ、やって欲しい事がある」
☆
「...土地神と知らずに売却、、馬鹿な商人も居たもんだ」
薄暗い室内で、刈り上げた髪の男性はパネルを見つめながら息を吐いた。そこに表示されたものは、どれも心電図の様な見た目をした波が映し出されており、隣のパネルには、監視カメラの様な画面が多く映し出されていた。と、その時。
「っ、、なんだ、?」
突如、警報が鳴り出し、画面が赤く染まる。それに、侵入者が入り込んだ事を察したその人物は、慌ててその下の階にある装置の場所にまで向かう。
その、装置には。
「...はぁ。こちらにはまだ来ていない様だな」
「うぅぅぅぅっ!はなっ、せっ!おにいっ、たん!たすけっ」
「はぁ、、また兄の話か?お前に兄妹は居ない。貴様は唯一の土地神の力を得た生き残り。母が亡くなった今、村の力を持っているのはお前だけだ。...そう。今だけなんだ。今しかないんだ。実験が出来るのはっ!」
「うっ!?グッ、、うぅ!」
腕と足を固定された状態で吊し上げられ、機械に繋がれたオリーブが居た。
「君の土地神の力、、とうとうこの装置が完成したんだ、、どれ程のものか、確かめさせてもらうよ。一晩じゃ計り知れない。後二日で君の力の大部分を把握し、次はそれをどう使えるかを試行錯誤し、、次に発動条件を絞り、そしてっ、、っ!?」
その男性がぶつぶつと呟く中、瞬間。背後、遠くから鉄の音が響く。これはーー
「階段の音、、まさか、侵入者か、?」
その男性は、他の奴らは何をやっているんだと言わんばかりに頭を掻いてそちらに向かう。が、しかし。
「お前か、、主犯格は」
「!?」
ー早い、、何故。上のモニタールームを無視してここに来たのか?ー
向かうより前に、目の前にエルマンノが現れた。
「何故こんなに早くに?って顔だな。他にも部屋が沢山あったのにって」
「何、?」
「答えは一つだ。妹が、俺を呼んだ声が聞こえた」
「...妹、?まさか、お前が」
「ああ。俺がオリーブの兄だ」
「オリーブ、?」
「お、おにいたん!」
エルマンノの自信げなそれに、その男性は首を傾げる。と、その瞬間、エルマンノは奥の機械に繋がれたオリーブを見つけ、目を見開く。
「オリーブ!?」
「...ああ。あの土地神の事か、、お前もまさか、知らずに奴と一緒に居た口か?」
「...お前がこれをしたのか、?」
「質問に質問を返すな。その面、ボコボコにするぞ?」
「口だか面だか知らないが、妹は返してもらう」
一度挑発的に笑うと、怒りを見せながら低くそう返した。と。
「...フッ、馬鹿が。お前みたいな小僧一人で俺を止めるって言いたいのか?」
「その小僧一人に、お前の部下はみんなやられたんだよ」
「っ、、まさか、警備を全員、?」
「ああ。見てなかったのか?至る所に監視カメラがあったぞ?」
「っ!」
エルマンノに、その人物は目を見開く。
「にしても、また同じところに居るって、学ばないなと思ったが、地下にこんなのを隠してたんだな。なら、理解した。土地神の力を利用する装置か何かなんだろ?なら、そう簡単に移動は出来ないよな」
「お前、あの家に居た奴だな?こいつが土地神と知って購入したのか?」
「購入とか人聞きが悪いな。俺は、オリーブを妹だから家族になろうと思っただけだ」
「意味が分からないな。話していても無駄みたいだ」
「ああ。ツーブロがオッケーな学校に居なかったもんでね。お前を見てるとヤンキーとやり合ってるみたいで震えてくる。さっさと終わらせよう」
エルマンノは震えた体でその人物と向き直ると、目つきを変える。魔力は高い。エルマンノでも分かる。がしかし、相手もまたエルマンノの魔力の異様さに距離を取っている様子だ。互いに、距離を掴めていないというのが現状だろう。だが、先手必勝。一撃で仕留める。
「アッパーロックストライク!」
「っ!間抜けが」
「っ!」
下から岩を突き出すものの、躱され彼は微笑む。
「バーストブースト」
「っ!?」
エルマンノは避けながら放たれたそれに直撃すると、思わず耐えきれずに吹き飛ばされる。
「グッ、クソッ、、重いっ」
「まだまだ序の口だ。これで悲鳴を上げるなよ?小僧」
「...ハッ、強者ぶるなよ、、クレイラップ」
「っ!」
エルマンノが倒れながら地面に触れると、彼の足元が泥の様に変化し、彼を包み込む。
「足止めか。甘いな。スリップムーブ」
「っ」
「更にブレスバースト」
「っ!?」
「っ!おにっ、たん!」
彼は瞬間移動して空中に現れると、エルマンノに向けて重力魔法を放つ。それにより、地面に埋め込まれたエルマンノは、血を吐き出すものの、オリーブの声で耐える。
「おお。耐えたか」
「ああ、、兄はな、、妹の前で、倒れるわけには、いかねぇんだよ」
「兄に酔ってるな、お前」
「どう、いう事だ、」
「妹が好きなんじゃ無い。兄である自分が好きなんだよ、お前は」
「ハッ、、浅はかな考えだな」
「何、?」
「物事を表面でしか見られない哀れな存在だと言ってんだ」
エルマンノはゆっくり立ち上がりながら、嘲笑う様にして放つ。
「何が言いたい?」
「お前は、妹の良さをいくつ言える?」
「は、?」
「妹キャラは、朝起こしにくる時が可愛い。お兄ちゃんと言う時が可愛い。兄にくっつく時が可愛い。兄嫌いな妹も可愛い。兄を見て心底嫌そうに引くところが可愛い。兄を見て一番に死ねだとかキモいだとか言うところも可愛い。普段そう言ってるくせに、料理の出来ない妹は、他の人が居ないと夕食時は兄頼りなところも可愛い。それ故にたまに遅く兄が帰ってくると、妹が寂しそうにしてて、それに口を出すとそんなわけないだろ死ねとか言ってくるところが可愛い」
「な、何だ、?お前、」
「全部可愛いんだよ。名前で呼んでくるけど、何処の誰かも分からないけど、俺のわがままに付き合ってくれて、家に居て、俺の呼びかけが無いと起きない低血圧な妹。いつも調合ばっかで実験室から出なくて、兄に死ねとはっ倒すを言い続けてるくせに、俺の提案をちゃんと聞いてくれて、一緒に出かけてくれるツンデレな妹。そして、、歩き方も、言葉がまだ覚えたてなところも、お兄ちゃんが言えなくておにいたんって言うところも、全てが可愛い妹!」
「何なんだよ、」
「分からないか?俺は妹が好きだ。心からな。だからこそ俺はここに居る。お前こそ、自分に酔ってるだけの、上っ面の人間と同じだ。俺の妹の内側も見れねぇ奴は、同類だよ」
「てめぇ。さっきから聞いてれば、意味分かんねぇんだよ!」
エルマンノの感情と煽りを込めたそれに、男性が憤りを露わにして突進してくる。それをエルマンノは既のところまで引きつけたのち、口を開く。
「スリップ、ムーブ」
「っ!」
エルマンノがそれを口にしたと同時。向かって来た男性を貫通して、彼の背後にエルマンノが現れる。
「お前の部下が使ってた魔法だ。参考にさせてもらった」
「お前、そんな、それだけでっ、習得したのか、?」
「ま、天才ですから」
「させるか、スリップムーブ」
がしかし、彼を貫通しオリーブに向かったエルマンノを、さらに通り抜けて目の前にその男性が現れる。それに、「流石にこれだけで行かせてはくれないか」と呟くと、目つきを変える。
「エンテイプロメテウス」
エルマンノは、残った全ての魔力を出し切る。その意思のまま、それを放つ。
「一度この建物半壊した魔法だ。ここは地下室。分散する場所も無い!終わりだ!」
「ハッ、間抜けが。スリップムーブ」
「っ!」
「さあ。どうする?小僧」
瞬間、男性はそれを口にすると共に、先程のエルマンノ同様瞬間移動をしてそれを避ける。
その後ろには、オリーブが居た。
またやってしまった。今度はオリーブが土地神と知っている以上、そう簡単に避けられないと思い込んでしまった。だが。
エルマンノの熱のこもった演説。それにより、彼はそれを逆手に取ったのだ。
「クソッ!」
「さあ。どうする?大切な、大切な妹だぞ?助けなきゃな」
「っ!」
エルマンノは妹が大切。だからこそ助ける。その意思を、逆手に取られたのだ。それに冷や汗を流す。以前の様にはいかないだろう。現在のオリーブは以前よりぐったりとしている。元々身体能力が優れているからとは言え。
いや、待てよ。
それでも。
いけるかもしれない。
エルマンノはふと何かを察し、オリーブに身体強化魔法をかけたのち、声を大にして放つ。
「オリーブ!キャッチボールだ!」
「っ!きゃっち、、ぼーる!」
「そうだ!今日こそ、負けないぞ!さあ!返してみろ!」
オリーブは、その言葉に目を見開く。目の前に近づく、エルマンノの巨大な魔力を見つめながら。
「...うん!やる!」
「何、?」
「んーっ!あっ!ぐぅ!あぅ!」
オリーブは瞬間、バフ上げのお陰か腕と足に付けられた枷を破壊して外すと、目の前に迫ったそれを思いっきりバシンと。手で打ち返す。
「なっ!?あの質量の魔力を!?」
「分からなかっただろ?俺は、キャッチボールの時、普通に本気を出して、魔力込みでキャッチボールしてたんだ。オリーブにとっては、遊びなんだよ!エンテイプロメテウスッ!」
「なっ!?」
その男性に向かう巨大なエンテイプロメテウス。それに追い討ちをかける様に、今度は瞬間移動では避けられないと言う様に背後から同じものを打ち込む。
「クッ!?う、うぅ!?」
と、その男性はその間で。両手を使って両方を堰き止めると、その最中。
エルマンノは走り出す。
「身体強化魔法」
それを呟くと共に、大回りをしながら壁を走りオリーブのところに駆けつけると、彼女を抱っこして笑みを浮かべる。
「こんなとこ、早く出て行こうか。オリーブ」
「っ!うん!おにいたん!」
「捕まってろよ!」
エルマンノがその返しに一度笑顔を浮かべると、そう前置きをして、男性が堰き止めるエンテイプロメテウスに向かって走り出す。すると。
「スリップムーブ!」
エルマンノは瞬間移動でそれを避け、出入り口付近に到達し笑みを送った。すると、その瞬間。
「クソが、逃すかっ。スリップムーブ」
ギリギリまで引き止めたのち、この距離ならばと。その男性もまた確信したのち、瞬間移動でこの魔力の束から抜け出す。と、瞬間。
「っとぉ!」
「んん!」
堰き止めていた男性が居なくなり特大魔法同士が激突。地下が大きく爆破を起こした。
「はぁ、、はぁ、」
「は〜、、は〜、」
エルマンノとオリーブ。お互いに傷だらけではあるものの、重傷は見当たらなかった。
「良かったぁ、」
エルマンノは心からの安堵を込めて、オリーブを抱きしめる。それに初めは驚いた様子のオリーブだったものの、直ぐに笑顔を浮かべて抱きしめ返した。
と、そんな二人に。
「貴方達」
「え?」「んー?」
一人の人物を先頭に、数名の同じ貴族の様な服装をした凛々しい男性達が近づいた。
☆
「はっ、はあ、、はぁ、待て、、俺の計画が、、これだけで終わると、」
「待て」
「何だよ、、っ!」
パラパラと。瓦礫が落ちる中、男性がゆっくりと地上を目指して、非常階段を登る。その中、それを止める様にして、目の前に現れた数名の男性が声をかける。その男性達は、貴族の様な服装をしていた。
「お前がラークだな?一緒に来てもらう」
「クソッ、、こんな、、ここでかよっ、!」
そう。その男性達は。
「はぁ、、間に合ったみたいだな、、アリア、」
「はぁ、、ほんと、何一人で勝手に突っ走ってるの、?無茶しないでって言ったのに。聖騎士を呼んできてくれなんて、、そう簡単に出来る事じゃ無いの分かってる?」
「ああ、、分かってる。悪かった、一番重要な役柄を任せて。...重荷にしてしまったな」
「別にいいけど、、ほんと、無茶はやめて」
男性達は、聖騎士だったのだ。聖騎士とは、この世界での警察の様な役割を果たしている方々の事である。
「それで?何でフレデリカがここに居るんだ?」
「居て悪い?」
「ご褒美です」
「ならいいでしょ」
アリアに頼んだはずの事を、何故フレデリカが行ったのかといった疑問に首を傾げるエルマンノ。何で本人が居ないんだよ。そんな事を思うエルマンノを含めた皆に割り込み、聖騎士の一人が口を開く。
「最初は冗談かと思いましたが、、本当だったとは。...大丈夫でしたか?」
「あ、はい。俺は、、全然、」
エルマンノはそこまで言うと、改めてオリーブに向き直った。
「オリーブは大丈夫か、?」
「うん!だいじょぶ!」
「ふ、、そうか、良かった、」
エルマンノは思わず微笑みながら、そう口にする。と、そんな一同に、聖騎士の男性が改めるように咳払いをして切り出した。
「エルマンノさんと言ったな。あなた方も、一緒に来てもらいます。少し、お話を伺わせてもらいますよ」
「...職質は初めてだな。普段外に出ないから」
「バリバリ出てると思うけど」
こちらですと。聖騎士の方々に促されるまま歩く中、突如、背後から。
「エルマンノさん」
「...え、?ああ、貴方は、」
そこには、村の村長が居た。すると、村長は突如。エルマンノの名を呟いたのち、それによって目の前に居る彼女が振り返ったのを見て驚愕に目を見開いた。
「...ライラ、、ライラ、、なのか、?本当に、」
「え、?」
村長は、オリーブに駆け寄り掠れた声で放った。
「ライラ、、ずっと、捜してたんだぞ、?村のみんなで、、ずっと、」
「そ、その、、すみません、ライラ、?って、?話が、見えないんですけど、」
突如感動の再会を始めた村長とオリーブに、エルマンノは口をツッコむ。まあ、対するオリーブは何が何だか分からず首を傾げていたが。
「ああ、、失礼。その、、ライラは、、昔、誘拐されたんです。私達の、村で、、神の力を持つと言われている家からの娘でした。...それなのに、、我々のせいで、、三歳という若さで、、行方不明になってしまって、」
「「っ!」」
そう切り出す村長に、エルマンノ達は目を見開き、オリーブを見つめた。三歳。そう言っただろうか。ならば、オリーブは。
「オリーブ、、君は、何も分からないまま、ずっと、あの檻の中に入れられてたのか、?」
嫌な予感ばかりが脳内を埋め尽くすエルマンノは、力無く、冷や汗混じりにそう小さく口にした。
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