第11話「尊過ぎる妹とキャッチボール」
「今日からここが君のお家だ!」
「ん〜?」
「お家」
「おーち、?」
「そう。お家」
獣族の少女との生活が始まった。見た目はエルマンノと同い年に見えるが、何せずっと檻に入れられ、更には獣族である。その中で育ったかは不明だが、獣族には専用の言語があるため、一から言葉は覚えなくてはならない。これは、赤ちゃんプレイが出来そうだ。逆の意味で。
「良く出来たな〜、偉いぞ〜」
獣族の少女の頭をエルマンノは撫でる。
あの後、浄化魔法によって彼女に与えられていた服従魔法を解き、体の不調もまた全て取り除いた。どうやら、獣族は魔力を持ち合わせていないらしく、浄化のみで魔力を与えなくても大丈夫の様であった。
「はぁ、キモッ」
「なんか心にくる言葉を言われた気がする」
「前よりシスコン馬鹿が悪化してる。もうそろそろ捕まるんじゃない?」
「その前に自立させなきゃな、」
「う〜」
「あー!待てっ!部屋の物を触る前に手を洗って!」
「て〜?」
「そうだ手。ほら、こっち。見てて」
エルマンノは獣族の少女に手を洗って見せる。
「こうやるんだぞ?」
「うん!」
「はぁ。あんたは手を洗う前に足を洗ったらどう?」
「...手を汚したのにか?」
「そう。どんだけ頑張っても、手は綺麗にならない」
「なら、これからは耳を洗うとするよ」
「使い方おかしくない?」
エルマンノとフレデリカはそんないつも通りの会話をしながら、懸命に真似する少女を見つめる。
「ん〜!可愛い〜、、ほんと、守ってあげたくなっちゃう、」
「お、ロリコン犯罪者がもう一人居るみたいだぞ。フレデリカ」
「前科が無いだけマシ」
「俺なんかしました?」
「なんでこの一言でロリコン犯罪者になっちゃうの!?」
巻き込まれたアリアがそう声を上げると、少女がこちらに歩いて近寄る。
「できた!」
「っ!きゃわっ!」
「きゃわわっ!」
「...」
その様子に、アリアとエルマンノが同時に尊死する中、その隣で。
「...ん?どうしたフレデリカ。なんだかんだ言って、可愛いと思ってるんじゃ無いか?」
「別に、」
「おまかわだな」
「ん〜!」
「あ、悪い悪い、、妹がいっぱい居ると大変だなぁ!」
二人と話していたからか、話を無視されたと思った少女が、頰を膨らませる。それに、エルマンノは豪快に笑いながら少女と共に部屋案内を再開した。
「はぁ、だから妹じゃないって、」
「ふふ、、でも、エルマンノ楽しそう、」
「結果オーライ、みたいね」
その様子を見つめながら、フレデリカとアリアは優しく微笑む。と、対するフレデリカは少し間を開けたのち、息を吐きながら口を開く。
「結果オーライ。なんだから、、あまり気にしなくていいと思う」
「え、?」
「気にしてるんでしょ?自分のせいでお金がなくなったのに、また振り出しに戻って。それに、私も巻き込んだって」
「...それは、、そりゃ、そうだよ、」
「でも、そのお陰であの子は助かった。だから、アリアはそれだけを思ってればいいと思う。きっと、エルマンノも、そう言う」
「そ、それでも、」
「ねぇエルマンノ!」
「えぇっ!?今聞くの!?」
フレデリカの言葉に目を逸らすアリアに、痺れを切らしてエルマンノに声を上げる。
「ん?どうした?」
「その子の名前、どうするの?」
「え、あ、そ、そっち、?」
フレデリカの問いに、アリアは拍子抜けしながらも、息を浅く吐く。と。
「名前か、、まず、元々名前、あるのか?」
「んー?」
「なまえだ。おなまえ」
「おなまえ?」
「そう」
「おなまえ!」
「なんか無さそうだな」
「言葉の意味も分かってなさそうね」
エルマンノの言葉に首を傾げる獣族の少女に、フレデリカはそう割って入る。
「なら、俺が名付けてやろう」
「あんたが名付けて大丈夫?」
「それはどういう意味でだ?」
「良くない名前を付けそう」
「十八禁の名前とはどんな名前だ?」
「違う。なんか虐められそうな名前とか」
「大丈夫だ。キラキラネームはつけない。...獣族で、妹か、、色々思いつくが、、うーん、やはり、」
「オリーとか、、どう、?」
「それは檻に入れられていたからか?」
「え!?あ、いや、それはその、」
「趣味悪く無い、?」
「えぇ!?ご、ごめんなさい、」
エルマンノが名を考える中、アリアもまた母親気取りだったのか、そう名を口にしたものの、不評だった様だ。フレデリカに即却下されていた。
「...オリー、、っ。なら、オリーブでどうだ?あの場所に、オリーブが沢山生えてただろ?」
「あ、、そういえば、」
「はぁ、安直ね」
「おりーぶ!」
「「「っ」」」
どうやら、反応を示した様だ。うん。やはり可愛い。一同は口を噤み、一度それを噛み締めると、改めて口を開いた。
「まあ、この子がいいなら、いいんじゃない?」
「随分と素直ですこと」
「はっ倒すよ?」
「お願いします」
あふんっと。フレデリカによるエルマンノお楽しみ回とオリーブの間にアリアが割って入り笑顔を浮かべた。
「ほんとに、、オリーブでいいの、?」
「おりーぶ!かわいい!」
「っ!うん!そうだねっ!じゃあっ、よろしく!オリーブちゃん!」
オリーブの純粋な返しに、アリアは笑みを浮かべながら、そう答えたのだった。
☆
あれから数分後。フレデリカがエルマンノをぶちのめすと、皆に促し家を後にした。
「ああ、」
思わず声が漏れる。これからは妹二人と同棲生活。これは、体が保つのだろうか。エルマンノは僅かながらの不安を感じながらも、その至福な光景に身震いした。
「おにーたん!」
「ん?どうした?暇なのか?」
「まぁ、ずっとあんな状態だったわけだし、何していいかも分からないよね、」
「そういうもんか?俺だったら体を休めたいと思うが」
「人によると思うけど、、私は分かるなぁ、、突然自由になると、どうしていいか分からない気持ち」
「...」
アリアの、どこか遠い目をした物言いに目を細めながらも、エルマンノはそういうもんかと呟く。
「おにーたん!」
「お、おおっ!やだっ!今日はどうしちゃったのオリーブ!?なんだか強引よ!」
エルマンノの腕を引っ張るオリーブに顔を赤らめる中、アリアは引き気味にそれを見つめる。なんだか視線が痛い。
「どうした?外で遊びたいのか?」
「うん!」
「よし!じゃあそうするか!」
エルマンノの言葉に、オリーブは元気に頷き玄関へと向かう。その様子に、アリアは小さく呟く。
「な、なんか、こっちの話理解してるみたいな反応じゃない、?」
「やはり天才妹だったか」
「でも、言葉話せないのはおかしくない、?」
「そうか?俺もリスニングは出来るがスピーキングは出来なかったぞ」
これは、何も英語に限った話ではない。
思い出すぞ暗き記憶が。みんなの前での発表会。話す言葉が全て消え去り給食を戻した記憶だ。それから吐瀉物男と名付けられた。何で小学校でそんな言葉知ってんだよ。
「そういうもんかなぁ、?」
「でも、会話は出来た方がいいよな。これは兄である俺が、言語を優しくマンツーマンで、教え込むしか無いな」
「うっわ、、エルマンノが言うと最悪な事しか思い浮かばないんだけど」
「英才教育だ」
エルマンノが、心底嫌がるアリアを前にそう返すと、続けて箪笥の中を探し、奥にあったボールを見つけて足を踏み出した。
☆
「...で、?これ?」
「ああ!オリーブ!行くぞ!」
「ふんす!」
やる気はバッチリの様子だ。先程理解するまで二十分程時間をかけてルール説明をした。ルールは簡単。エルマンノが投げたボールをキャッチし、それをこちらに投げ返す。それをエルマンノがキャッチし、それをまたもやオリーブに投げキャッチし投げ返す。それが途切れたら負け。オリーブにはそう伝えた。
そう、それはつまり。
「キャッチボールだ!」
「何で!?」
「やはり会話をしながら体を動かして外で楽しめる競技はこれしか無いだろ」
「どういう理屈、?」
「これでキャッチボールしながら、俺の言葉を一緒に投げかけてもらうんだ。最初はキャッチボールだけで良いが、段々とレベルアップと題して言葉を追加していく。こうする事で、身体を使いながら脳を動かす。一番活性化させる状態を作り上げるって事だ」
「なんか意味分からないのに言ってる事は分かるの凄く腹立つ、」
「ふふふ、お兄ちゃんに負けるのが悔しいのか、、分かるぞ。兄妹間での劣等感は付きものだからな。だが、安心してくれ。俺に無いものが、アリアには沢山ある。他の人に出来なくて、アリアに出来る事が山の様にある」
「エルマンノ、」
エルマンノの返しに、アリアは少し声を優しくして名を返したが、その後。
「んー!」
「オリーブちゃん怒ってるから早く投げた方が良いよ」
「あぁっ!すまない!いくぞオリーブ!」
エルマンノはそう慌てて放つと、優しく。取れる位置に落下地点が来る様に投げる。
なんて素晴らしいんだろうか。妹とのキャッチボール。また一つ、したい事が叶ってしまった。そう思いながら、オリーブに目をやると、突如彼女は身を低くし構える。
「!」
そういえば、と。エルマンノは目を見開く。彼女は人の様に見えるが立派な獣族。獣族ならば別に手を使うだろうが、何せオリーブはずっと捕えられてきた獣族なのだ。ならば、もしかすると本能でーー
ーー口で、ボールを取るかもしれない、と。
「オリーブ!頼むっ!取ってくれ!」
俺のボールを咥えてくれと。エルマンノは懸命に声を上げる。それをエルマンノの元に戻して欲しい。それを一心に、足を踏み出すが、しかし。
「ん!とった!」
「おー!凄いっ!凄いじゃんオリーブちゃん!」
なんと、ボールは、右手に握られていた。オリーブは右利きなのだろうか。いや、そんな事はどうだって良い。彼女は、手で、エルマンノのボールを掴んだのだ。
いや、それはそれでありかもしれない。
「よしっ!良いぞオリーブ!今度は、俺の方に投げるんだ!」
「うんっ!」
「「っ!」」
元気に返事し投げたそのボール。
それは。
一秒とかからず、エルマンノの頰を掠って背後の木にぶち当たり。
二、三本の木を貫通させて大きく倒した。
「なん、だと、」
「嘘、、オリーブちゃんそんなに強いの、?」
エルマンノとアリアが力無く口にする。どうやら、オリーブは特に力が強い様だ。元々獣族は力が強いものの、ここまででは無い。いや、これは力の出し方が分からないが故に、起こってしまった事かもしれないが。
「この力でもあの檻は壊せなかったのか、、相当だな」
「よっぽど、、固かったんだね、」
「それ、もう一回言ってもらっても良いか?」
「へ!?」
「んーっ!」
「ああ!ごめんごめん!分かった分かった!取ってくるから!」
アリアとの会話中、やはりご機嫌斜めになってしまったオリーブを宥めながら、エルマンノはボールを取りに向かう。
「よしっ!じゃあ、もう一回な!」
「おにーたんまけ〜」
「何っ!?」「っ!」
エルマンノとアリアは同時に目を見開く。この短時間で、口数が増えている様に思える。更には、このゲームを、きちんとゲームだと認識出来たのか、と。そんな事をアリアは思ったものの、対するエルマンノがそう思ったのは一瞬。
そう、それよりも。
「妹にメスガキ要素だと!?これはっ!才能の原石だっ」
「え!?な、何!?どういう事!?」
「ちょっと黙っててくれ妹...今いいトコなんだよ!」
エルマンノはそう放ち目つきを変えると、オリーブに体を向けた。
「もう一回、勝負だ!」
「うん!しょーぶ!」
「いくぞっ!」
エルマンノは、今度は大人気なく、本気でそのボールを投げた。確かに妹に合わせるのは大切だ。だが、妹が本気で戦いに来る中、こちらが本気を出さずしてどうするのだ、と。
エルマンノはその意を込めその一球に賭ける。
が。
「とった!」
「エルマンノ、?どうしたの?」
先程と、球の速度と軌道は全く同じであった。
「俺は本気で投げたんだよっ」
「えぇ!?そうだったの!?」
どうやら、また優しく投げたと思われていたらしい。情け無く妹に声を上げるエルマンノに、アリアは驚愕の表情を浮かべた。
「じゃあっ、かえすよー!」
「おぉっ!任せろ!」
「ん!」
「生成魔術」
「えぇ!?キャッチボールに魔力使うの!?」
「タワーブロック!」
気分はまるで超次元サッカー。エルマンノは魔力で生み出した岩の壁によってボールを押さえた。
気がしたのだが。
「ごふ!?」
「エルマンノ!?」
なんと生成した壁をも貫通して、オリーブの一球はエルマンノの腹に届いた。
それ程、兄の事を想ってくれていたのだろう。
「ありがとう、、オリーブ、この気持ち、、お兄ちゃんは、受け取ったぞ、」
「エルマンノ!?」
エルマンノは遺言の如くそう呟くと、腹でボールを受け止めながら崩れ落ちる。生成した壁を通った事によって威力が軽減されていたから良かったものの、壁が無くては恐らく即死だった。
「おにーたんすごいっ!」
「っ!オリーブ、、今俺を、、認めてくれたのか、?」
「ん?」
「ありがとうオリーブ!オリーブの気持ち以上の俺の想い!受け取ってくれ!」
エルマンノはそう放つと、ボールを真上へと上げ、その瞬間。
「ウォータースプリット!」
「えぇ!?」
エルマンノは水圧調整の魔力を使用して、ボールの速度を極限にまで高めてオリーブへ送り返した。
「受け取ってくれ!」
「ん!」
がしかし、それすらも難なく受け止めるオリーブに、エルマンノは目を見開き歓声を上げる。
「おお!よくやった!凄いぞオリーブ!流石だ!」
「はぁ、、なんか、親バカね、、いや、妹バカ、、あれ?それならいつもと変わらないか、」
元気に声を上げるエルマンノの背後で、アリアが息を吐く。そんな中、エルマンノは「さあ!もう一回!お兄ちゃんにオリーブの想いを見せてくれ!」と声を上げながらキャッチボールの続きを再開する。
だが、やはりオリーブの力は凄まじく、魔力を持ってしても、エルマンノは彼女に押されている印象だった。それで喜べる兄で良かったと言うべきだろう。その想いに応えるべくエルマンノもまた魔力を高めてボールを返す。それにオリーブもまた力を込める。いつしかそれは想いの強さという概念では無く、ただの負けず嫌い二人による力比べの様になっていった。そのためーー
「あ、」
「あぁっ」
ーーボールが先に力尽きた。
「も、もう、、できない、?」
「はぁ、、はぁ、、あ〜、、これは、手遅れですね」
「えぇ、」
残念そうに俯くオリーブに、エルマンノは淡々と告げると、改めて顔を上げる。
「安心してくれ、今度新しいの買ってやるから。一緒に、買いに行こうな。...というかそれより、、もうこんな時間か、」
と、気づいた時には、既に辺りが暗くなっていた。魔力によって光が生まれるため、日没後になるまで気がつかなかった。
「これじゃあボール見えないし、今日はやめるしかないな。悪い、オリーブ。今日はもうおしまいだ」
エルマンノもボロボロであった。口調やトーンこそ、いつも通りだったものの、息は上がっており、明らかに魔力と体力の消耗が見てとれた。このキャッチボールに意味があったのか。そんな事を思う輩がいる事だろう。だが、やはりこの行為が吉と出た様だ。
「うん!わかった!あしたね!」
そう。キャッチボールをする中で、単語に区切ってはいるものの、言葉を話せる様になってきたのだ。この短期間でのこれほどまでの成長。やはり、天才だった様だ。
エルマンノが優越感に浸っていると、ふと周りを見渡し彼女が居ない事に気がつく。
「あれ?アリアは?」
「んー?」
エルマンノはオリーブを連れて家へと戻る。
と。
「ん?あー、エルマンノおかえり〜」
「おい、何先に帰ってるんだ」
「だってあれ見てるだけってつまんないじゃん」
「っ!悪かった、、お兄ちゃんが気づいてあげられなかった、、そうか、悪かった。アリアも、、やりたかったんだな、」
「え〜、、それは別に、」
「そしたら明日は三人でしような」
「エルマンノが言うと何だか違う意味に聞こえる、」
エルマンノが家に戻ると早々にアリアがそう口にする。妹が三人の時点でこれでは、兄失格では無いか。皆へ意識を向けられなくては、お兄ちゃんにはなれないというものだろう。エルマンノは謎理論を脳内定義しながら悶々とすると、オリーブがアリアに近づき、笑顔を浮かべる。
「あした!いっしょに!」
「っ!う、うん!二人でしよ!」
「うん!」
「えぇ、、俺はどこにいったんだ、?」
オリーブの可愛さに負け、アリアはデレデレとニヤけながら頭を撫でた。これが妹同士の百合か。お兄ちゃんは悲しいが、どこかこれはこれでアリな感じがする。
「よし。じゃあ、、そろそろ夕食にするか。市場に行った時から食べてないから、腹減ってるだろ?」
「あ、、それは、その、」
「...まさか、冷蔵庫を漁ったか?」
「えっ!?いやぁ、、その、お腹、減っちゃって、」
「これが主婦や几帳面な人のお宅だったら大変だぞ?冷蔵庫の中ってのはな、すっぴん並みに見られたく無いものだからな」
「すっぴんって見られたく無いの?」
「元から美人ですアピールはやめろ?」
「えっ!?私美人!?」
「悪いが美人の部類では無いな」
「ムッカァ!そんな直球に言わなくていいでしょ!」
「ムッカァはこっちの台詞だ。人の冷蔵庫漁って」
「そ、、それは、、ごめんなさい、」
エルマンノの返しに、アリアは先程とは対照的に、小さく縮こまる。その様子に、エルマンノは小さく息を吐くと、小さく微笑んで残った材料を取り出した。
「ま、妹は冷蔵庫から兄のプリンを横取りするもんだ。今度はアリアの冷蔵庫から勝手に盗み食いするとするよ」
「...う、うん、」
エルマンノの言葉に、アリアは目を逸らしながら頷く。その反応に、またもやエルマンノは目を細めたものの、何かを聞く事はせずに台所へと向かった。
☆
「さあ妹達よ!召し上がってくれ!」
エルマンノが自信げに放って、これまた自信が漂う料理をテーブルに置く。
「「〜〜〜〜〜〜っ!」」
それを見つめる二人は、声にならない歓声で感情を露わにした。やはり自身の作ったもので喜んでもらえるのは最高に嬉しい限りだ。それが妹であるならば三割り増しになるってもんだろう。
「召し上がれ」
気分は高級料理店。オリーブの初お食事。いつも以上に気合を入れてしまった。獣族は人によるものの基本的には肉食。故に魔物の肉を使用したステーキに特製のガーリックソース。ポン酢を入れる事で爽やかさを演出した、食べやすい一品。草食だった時用に、サイドでサラダも一つ用意してある。さあ、どうだ。
エルマンノはゴクリと。生唾を飲み反応を見据える。と、その時。
「あ、、美味しい、、いつもの何十倍も美味しいじゃん!今日凄く気合い入ってない?」
「悪いな、今先に感想聞きたかったのはアリアじゃ無いんだ。それに、普段はマズいみたいな言い方しないでくれ」
「いやいや!元から美味しい上で、今日は更に美味しいって事!それと、いいでしょ!感想のタイミングなんて!」
アリアといつもの会話をしたのち、ふと。オリーブはエルマンノに抱きつく。
「おうふっ!?ど、どうされました、?」
「ちょっと!何変な声出してるの!?」
「ん!おにいたん、、すき、」
「「っ!」」
その一言に、その場の二人が目を見開き驚愕の表情を浮かべる。なんと言っただろうか。そんな、夢みたいな台詞を、聞ける日がこようとは。
「...お、オリーブ、」
「エルマンノ、、変な事しないでよね、」
「言っただろ。妹は神だ。手を出すはずがない」
「ん!」
「あぁ、」
エルマンノがアリアに返したと同時、オリーブは突如パタパタと手を離しアリアの方へと向かった。すると。
「ん!あり、あ、?すき!」
「きゃっ!?きゃわ!」
「アリアこそ、変な声出すなよ?」
「これは仕方ないって〜。私も大好きだよ〜、オリーブちゃん」
抱きしめるオリーブを抱きしめ返し、頭を撫でるアリアを見ながら、エルマンノは浅い息を吐いて微笑む。
オリーブは、救われたのだ。幼い頃に捕まり、実験対象となっては売り飛ばされそうになり、その後魔力を浄化させられたと思いきや、またもや捕まり今度は売り物にされてしまった。壮絶な人生だ。そこから抜け出し、こんな暖かい生活がやってきたのだ。それが、オリーブにとってはとても特別で。全てが嬉しく楽しくて。好きでたまらないのだろう。彼女の笑顔を見ていると、自然と口元が綻んだ。
と、そんな時。
「っ、、客か?」
「誰か呼んだの?」
「俺に呼ぶ相手がフレデリカ以外に居ると思うか?...そして、そのフレデリカが家に来ると思うか?」
「なら無いか、」
「正解だ」
エルマンノの返しに納得したアリアは、そののち目の色を変える。対するエルマンノもである。突如我が家にノックをした人物を予想して、身構えながらドアをゆっくりと開ける。覗き穴でもあればいいのだが、残念ながらこの家にその様なものは無かった。
すると。
「少しいいですか?」
「...どちら様ですか?」
エルマンノは怪訝そうにそう呟いた。その相手は、高身長でガタイの良い男性。貴族の服装に似た姿というのもあり、エルマンノは思わず身震いする。ああ、トイレに行っておくんだった。
「少し入らせてもらえますか」
「ちょーっ!ちょっちょっちょ!何勝手に人様のお家へ土足で踏み入れようとしてるんですか」
「脱げばいいですか?」
「いや、そうでは無く」
その男性の答えにエルマンノは苦笑いで答えると、その男性は改めて頭を下げた。
「これは失礼。自己紹介が遅れました。わたくし、神教徒のラグレスと申します」
「し、神教徒、?...っ!」
エルマンノはそこまで呟いて何かを察したのか、目を見開き後退る。
「受信料は払いませんよ!?うちテレビないんで!」
「えぇ!?宗教の人じゃないの!?多分勧誘だよ!」
「え?」
「おぉ、話が早い方がいらっしゃる。どうか、後ろにいらっしゃる女性とお話をーーっ」
エルマンノは、家へ上がり込もうとするラグレスを止めるべく、前に立ち塞がる。
「エルマンノ、」
その姿にアリアは思わず目の奥を熱くさせながら名を呟いたが、しかし。
「クッ!」
自分より大きな人間相手である。足は小山羊の如く震え、吐息を溢した。
「妹には手を出させないぞ」
「その状態で言われても迫力無いと思うけど、」
アリアのツッコミを無視し、戦闘体勢へと入るエルマンノに、ラグレスは息を吐いて続けた。
「確かに、そちらの妹さんの言う通り、わたくしは宗教の者です」
「ほらやっぱり!...って、妹じゃありません!」
「ん?妹さんでいらっしゃるのでは、?」
「そんな事は今どうだっていい。貴方、勧誘なら結構です。間に合ってますから」
「間に合ってるというのはわたくしのような者が他にも?」
「ああ。俺は妹教の信者だからな」
「妹狂の間違いでしょ、」
エルマンノが胸を張る中、アリアが呆れを見せる。すると、ラグレスは、何故か頷き、改めて口を開いた。
「それは失礼した。だが、今回あなた方のお宅に訪問したのは勧誘等の目的ではございません」
「なら一体何が目的なんだ?」
エルマンノは純粋にそう聞き返す。すると、ラグレスは突如目つきを変えて、声のトーンを落とし、真剣にそう口にした。
「...ここに、我々の神を監禁しているとの情報があった。その真意を知りたく参った次第です」
「...神、?なら人違いです。まあ、妹は神ですが、」
「はぁ、」
エルマンノの返しに、アリアが頭を押さえて息を吐く。
「ですが、神の姿は我々神教徒の者しか知りません。ですから、少し中を見て確認したいのです」
「だから、そんな大層なものは居ないって言ってるじゃ無いですか。その神とやらは、そこら辺に転がってる石や埃にでもなれるんですか?だったら、俺には分からないですけど」
「いえ、生き物です」
「なら知りませんね。この家に居るのは俺と妹くらいですから」
「どしたのー、?」
「あ、オリーブちゃん!ごめんね、今取り込んでるから、向こうで遊んでいようね」
「っ」
エルマンノとラグレスの会話の中、奥でオリーブが声をかけ、代わりにアリアが答える。その声を、一瞬で聞きつけ、ラグレスは突如目の色を変えてその巨体でエルマンノを押し退けると家へと踏み入れた。
「なっ!?おい!ここは俺の家だぞ!」
エルマンノがそう叫ぶ中、怯えるアリアとオリーブの前で、ラグレスは震えて拳を握りしめた。
「やっと、、やっと見つけた、、ヘラ様、」
「へ、ヘラ、?」
ラグレスの言葉に、一度声を漏らしながら首を傾げたものの、ああ、と。何かを察して息を零した。
「その歳になって中二病ですか?なら、真の中二病である俺がレクチャーしますよ。まず、ヘラは王道過ぎます。ですから、少し名前を捻って、」
「この方を、どこで、?」
「え?あ、ん?無視?」
「何が目的ですか、?」
エルマンノのアドバイスを他所に、ラグレスはそう切り出し、アリアが目つきを鋭くする。すると。
「質問したのはわたくしですよ?」
「なっ!?」
「まあいいじゃ無いか、、ここは穏便に行こう。奴隷市場で売られてました。そこで一目惚れして、今では家族です」
「エルマンノが言うと違う意味に聞こえる、」
「なるほど、、奴隷市場に、、どうりで、」
「...こちらは返答をしました。次は貴方の番ですよ」
それに続いてエルマンノがそう口にすると、ラグレスはいけないと呟きながら、向き直って真剣に放った。
「実は、、このヘラ様が、、いや、こちらの獣族の少女が、神なのです」
「なるほど。確かに妹は神だもんな。お前もそれが分かる部類の人間みたいだな。オリーブの可愛さには、みんな神って言うしかないよなぁ、」
エルマンノはそれを笑って話しながら、周りを見渡し口を噤む。どうやら、空気は最悪の様だ。そういう意味では無かったのだろうか。いや、ならばどういう意味なのだ。
エルマンノの額に、突如として冷や汗が溢れ出る。
「...違います。この方は、本当の神。いや、土地神なのです」
「土地、、神、?」
「はい。この少女は獣族の中での神の末裔。代々土地神の力を持って生まれてくる家柄の少女。その方が、十二年前に行方不明になったのです。我々のミスで大変申し訳ございません。私事ではありますが、こちらの少女を譲ってはくれないでしょうか、、対価は多く払います!」
熱弁するラグレスを前に、エルマンノは行方不明の話までで思考が止まる。もし、それが本当だとするならば、それを知っている連中が誘拐をした可能性もある。故に、あれ程までの報酬がクエストクリア金として出た理由も納得出来る。
それを思いながら、エルマンノはゆっくりと振り返る。口を押さえ、目を見開きながら現状に追いつけないアリアを通り過ぎ、その先。
座りながら、何が起きているのか理解出来ていない様子の、オリーブへと。
「...な、なぁ、オリーブ、、お前、本当に、、神、なのか、?」
エルマンノはそんな力無く、掠れた声で確認を口にすると、対するオリーブは、首を傾げた。
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