第9話「シスコンVS密猟者」

「獣族の少女だ」

「え、?」

「グルルルルルル、」


 その檻の中には、幼い少女の見た目をしており、赤いロングの髪のてっぺんから二つ、可愛らしい狐の様な耳が生えている獣族が居た。そんな獣族の少女は、こちらを睨みつけて唸った。


「...警戒してるな」

「な、なんでこんなところに、?誰が閉じ込めたんだろ、」

「分からない。ここに他に人がいるとも考えづらいし、もっと前に来た人間が閉じ込めた可能性が高いかもな」


 エルマンノはそう呟くと、その獣族の女の子に歩み寄る。


「えぇっ!?だ、大丈夫、?あんまり近づかない方が、閉じ込められた理由も、その、き、凶暴だったからなんじゃないの、?」

「...いや、、これは、ただ怯えてるだけに見えるな」


 アリアの問いを受け、エルマンノはその子に近づき、確信する。これは、恐怖からくる威嚇。


「...恐怖対象に強くみせるのは、野生の本能でしょうからね」

「...そ、そうなのかな、?」

「そういうもんだ。これは、生き物全てに言える。魔獣だろうと獣族だろうと、人だろうと変わらない。きっと、、ただ怖いだけなんだ」

「なら、閉じ込めた人が、悪い人って事?」

「断定は出来ないけど、可能性は高そうだ。獣族は確か、値打ちがいいらしいしな」

「え?そうなの?」

「そう。特に若い雌の獣族は高値で取引されてる。ちょうど、悪いところに足を踏み込んじゃったのが運の尽きね」


 フレデリカがそう息を吐きながら、だがどこか寂しげに放つと、エルマンノはその獣族の前にしゃがみ込み、石の魔法で容器を作った。


「こんな事しか出来ないが、」


 エルマンノはそう呟きながらその容器に水の魔法で水分を溜めると、それをその少女に差し出した。


「え、?助けるんじゃ無いの?」

「今、もしここで直ぐにこの檻を破壊したら、襲われるのは私達。先に敵対意識が無い事を証明する必要があるの。...でも、」


 フレデリカがそこまで言うと、同時にその獣族の少女は声を上げ、その水を容器ごとひっくり返す。


「...まだ恐怖が拭えてない。誰かも分からない人からの水は飲めるはずもない」

「おお、、喉は渇いてなかったか。悪かった」


 エルマンノはそう呟くと、立ち上がりフレデリカに振り向く。


「確かに、それもあると思うが、それ以前だ」

「と、言うと?」

「きっと飲み方も分かってない」

「グルルルルル」


 エルマンノはそう答えながら少女をまたもや見つめる。ボロボロになった服、体。それを見るに、前から閉じ込められており、何者かに暴行を加えられていたと考えるのが妥当だろう。それか、自分自身で、ここを抜け出すために負った傷か。どちらにせよ、放っておくわけにはいかない。


「...よし。決めた」

「「え?」」


 エルマンノはそう呟くと、自信げに前に踏み出し、彼女を見つめて強く宣言した。


「君は、俺の妹だ。いいな?」

「暴論ね、」

「暴行から守るための暴論だ」

「えぇ、、いい事言ってそうで何も良くない、」


 エルマンノがフレデリカに返すと、アリアが呆れ顔で零す。


「...でも、やっぱり食べ物はあげた方が良さそうだな。この様子だと、もう一週間は食べてないだろ、」

「えぇ!?それ、大丈夫、?死なない、?」

「ギリギリね。まあ、これが飲み物だったら、相当キツイけど」

「っていう事は、飲み物は与えられてるって事?」

「...そうなるな。もし、売買目的なら、死なせるわけにはいかない。最低限の食事は出されてる筈だ」


 つまり、ここに頻繁に出入りする者が居るはずだと。そう口にした、次の瞬間。


「何をやっている」

「「「!」」」


 先程我々が、横に並ぶという天才的解決法でも突破出来なかったドアの前に、顔に傷のある、金髪の跳ねた髪が目立つ男性が立っていた。


「密猟者か何かか?」

「...あんたね。この子を閉じ込めたのは」

「初対面で。しかも勝手に人の領域に侵入しておいて随分と馴れ馴れしい小娘だな。お前ら、一体なんだ?」


 その男性の問いに、フレデリカが睨みつけながら放つと、次の瞬間。


「俺の妹が無礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでした!」

「えっ」「は!?」


 エルマンノは、これぞジャパニーズ土下座。そう、なんのプライドもない姿で謝罪を繰り出す。


「我々冒険者の端くれでっ、お金が無く、クエストを行っている最中でして、」

「...何、?一体なんのクエストだ」

「魔獣狩りです」

「っ、、そうか」


 エルマンノの返しに、一度は眉間に皺を寄せたものの、そのクエスト名に息を吐いた。


「ならばこいつは対象外だ。見たら分かると思うがこいつは獣族。魔獣には加算されない。分かったらさっさとこの場所から去れ。こっちも時間がないんだ」


 しっしっと。手を払う様にしながらその男性は獣族の少女に近づく。その様子を睨みつけながら、フレデリカはエルマンノに小さく耳打ちした。


「何!?どういう事?あの子、助けるんじゃ無いの?」

「そうだよっエルマンノ!見損なった!」


 二人の言葉に、エルマンノは目を逸らしながらも、ゆっくりと立ち上がり帰ろうと促す。


「嫌。こんなの見た後、寝つき悪いよ!」

「私も、ここから離れるつもりはっ!?って、えぇっ、ちょっと!」


 断固として動かない二人を、エルマンノは風の魔法で吹き飛ばし、ドアの外へと飛ばすとーー


「先にギルドハウスに戻って、報酬に変えてきてくれ。直ぐ、戻る」

「「っ」」


 ーーエルマンノはそれだけを告げたのち、ドアを閉め、それを|内(こちら)側から岩を出現させて塞いだ。


「...なんだ。どういうつもりだ?」

「悪いが、妹を危険には晒せないんでね」

「はぁ、そんな事をして。この、何の関係も無い獣族を助けるために、その妹が悲しむ結果になってもいいのか?」

「勘違いしてることが二つあるみたいだな」


 エルマンノは強くそう前振りをすると、手を前に出し、手のひらを上に上げると、そこから炎の塊を出して告げた。


「一つ。その子も、俺の妹だ。そして二つ」

「ん?」

「...そんな結果にはならない」

「そうか。命知らずが」


 エルマンノがそれと同時に炎を放つと、その男性もまた手を前に出し呟く。


「リフレクターシールド」

「なっ!?あいつも魔法使いか」

「なんだその童話みたいな言い方は」

「ぐはっ!」


 炎を防いだその煙の中から男性は現れ、エルマンノの腹に蹴りを入れる。


「がはっ!...はぁ、ゴリゴリに物理攻撃じゃねぇか!」

「身体強化魔術。お前の様な小僧に、この魔術は扱えない」

「ははっ、どうかなっ!」

「何、?」


 エルマンノが自信げに微笑む中、その男性は怪訝な表情を浮かべる。


ー確かに、こいつから感じる異質な魔力は何だ、?何だか不穏な感じだ、、まさか、こいつ、実は魔女レベルの魔力をー


「身体強化魔力!」

「なっ」

「ごあぁぁぁーー!」

「...」


 それを叫んだと同時、エルマンノの体から突如大量出血を起こし、断末魔ののち倒れ込んだ。


「ばっ、馬鹿なっ!馬鹿なぁぁぁっ!このっ、エルマンノがぁぁっ!」

「はぁ、、馬鹿か。身体強化魔術は、体に合った魔力量がある。お前の肉体はそれに耐えられないだろ」

「なっ!?やはり持つべきものは筋肉っ!筋肉さえあれば妹を同時に四人、肩に乗せれただろうに!」

「何だその化け物じみた思想は」


 エルマンノが蹲りながらそう声を上げる中、突如。


「エルマンノッ!」

「「なっ!?」」


 ドアの向こうからフレデリカの声と共に、細長い試験管の様なものが投げ込まれ、それが地面に着いたと同時に濃い煙が立ち込めた。


「今のうちにっ!」

「うん!エルマンノっ!これっ!飲んでっ」

「え!?は?なんでここに!?」

「え?あのドア内開きだよ?部屋の中に岩置いても開けられるし、上登ってこれちゃうけど」

「終わった。完璧なお兄ちゃんムーブが、」


 エルマンノは、その事実に、先程のカッコ良いムーブが台無しだと空を見上げる。何だか残酷な程青い空だ。見えるのは天井のみだったが。いや、天上か。


「それよりもっ!ほら、これっ!私のこれっ、飲んで!」

「今の私のこれってやつもう一回言ってもらってもーー」

「いいから!」

「ごぶっ!?」


 何とも強引な妹だ。だが、これはこれで憧れた展開だろう。何かは分からなかったが、何かの液体を飲まされた。聖水だと思うことにしよう。


「がはっ!?はぁっ!はぁ!?」

「えっ!?ちょっと!フレデリカ、これでいいんだよね!?」

「えぇっ!?それ全部飲ませたの!?それは魔力量を高める魔薬!一度に多量摂取したら、人によっては耐えられない!」

「えっ、それ早く言ってよ!」


 倒れ込むエルマンノの隣で、二人が合流し声を上げる。と、その瞬間。


「てめぇらいい加減にしろ」

「「っ!」」


 マズいと。二人は思わず大きく退く。と、目の前に現れたその男性は、魔力によってその煙を払い、指先を一同に向けた。

 が、刹那。


「お、おお!」

「「「?」」」

「キタキタキタァッ!」


 ゆっくりと、歓声を上げながらエルマンノは立ち上がる。


「俺はまだ、本気を出していなかった」

「何だ、お前」

「ただ言いたかっただけだ。フリーズフローズン」

「っ!?何っ!?」


 エルマンノは笑顔から一転、真剣な表情で放つと、彼の足を氷で固めて手を前に出す。


「エルマンノ!良かった、、良かったぁ、無事だったんだ、」

「ああ、無事だった。っていう事で、そろそろお兄ちゃんって呼んでくんね?」

「嫌だよ!こんな時に何言ってるの!」

「なんでだよ、」

「なんなんだよ!」


 エルマンノが悔しそうに呟くと、その様子に男性は声を荒げた。すると、エルマンノは目つきを変えて男性に向き直った。


「悪かったな、放置して。これで終わりだ。エンテイプロメテウス」

「なっ!?特大級魔術だとっ!?スリップムーブ!」


 エルマンノは手から巨大な火の玉を作り上げ放つと、その男性は瞬時に魔法を発動させてそこから抜け出す。

 と、その先には。


「っ!マズいっ」

「えっ!?あんた何も考えてないの!?」


 獣族の閉じ込められている、檻があった。


「「止めろぉぉぉっ!」」


 妹を助けたいエルマンノ、売買目的のその男性。互いに自分のせいだろと言いたくなる二人が、同時に声を上げる。

 がしかし、それには間に合わずにその場は大きく爆破した。


「あ、ああ、、嘘だろ、」

「え、、ど、どうなったの、?」

「頼むフレデリカ、タイムリープマシンを作ってくれ」

「私は魔薬専門なんだけど、」


 崩れ落ちるエルマンノとアリアに、目を疑うフレデリカ。と、そんな皆の前、煙が薄れたその先。


「...え、?」

「何っ!?」


 エルマンノとその男性が同時に零す。そう。その先にはーー


「グルルルル」


 ーー檻を破壊され自由となった獣族の少女が居た。


「タフだな、」

「いやそのレベルじゃ無いでしょ、」


 エルマンノが驚愕と共に呟くと、アリアもまた驚愕の表情を少女に向けながら呟く。


「おい、、落ち着け、」


 どうやらよくありがちな展開。それを収容していた側の人間がマークされてしまった様だ。その獣族の少女は、グルルと喉を鳴らしながらジリジリと近づく。


「クソッ!仕方ない。抵抗するならまた寝ていろ!ライジングストライク!」

「ガゥッ」

「なっ!?」


 その男性は腕から電気を放ち、少女の気を失わせようとする。がしかし、恐らく前もそれによって捕まったのだろう。その少女からは、もう同じ手には乗らないと言うような表情でそれを飛び越え、男性に向かった。


「馬鹿なっ!?光の速度だぞ!?」

「ガヴッ!」

「ハッ、爪で引っ掻くだけか?そんな原始的な攻撃喰らうかっ!間抜けがっ、、って、何っ!?」

「油断したな。間抜け」


 その男性は、心のどこかで獣族を下に見ていた様だ。それはそうだ。収容していた本人なのだから。だが、そのお陰で彼は、彼女を避ける方法に、先程の瞬間移動魔術を使用しなかった。それが運の尽きである。彼の足には既に、エルマンノの魔法によって土で固められていたのだから。


「バカっなっ!?」

「ガヴゥゥ!」

「があああああああああああああっ!」

「「「...」」」


 なんという事だ。その少女。とは思えない獣族に頭を喰われ、血を噴き出した。これはグロ過ぎる。エルマンノの異世界転生劇にR18は付けたくないのだが。


「...ど、どうする?」

「何その最悪な質問」

「これはもう魔薬で何とかなるってレベルじゃ無いわね、」


 エルマンノがそう責任転換とも取れる発言をすると、アリアはジト目で返した。


「だが、とりあえずこれで一件落着か」


 フレデリカの絶望的な一言をスルーしてエルマンノがフラグにしか聞こえない終戦の言葉を呟くが。

 瞬間。


「ガヴ」

「「っ!」」


 突如、その獣族の少女は素早くこちらに振り返った。


「エッ、エルマンノ!早くっ、逃げなきゃ!」

「とりあえず解放はしたんだから。この子一人でも何とかなるでしょ?だから早くこの場からーー」


 エルマンノが一件落着と。宙を見つめている中、その動きを目にした二人は声を上げ出口へと走り出す。

 が、対するエルマンノは。


「いや、待て!」

「「!?」」


 エルマンノは、突如その少女を庇う様に手を横に広げ放った。


「この子は俺の妹だ。痩せ細ったこの不健康な状態で自然に返すのはあまりにも危険だ」

「ああ、本当に頭おかしくなったのね、」

「どう見ても生きていけそうだよ!この子!」

「いや!二人とも勘違いしている!この子は、ただ苦しいだけなんだ。どこにやればいいかも分からない怒りと苦しみ、そして、幸せの意味も分からないまま、ただ放浪している!そんな子をっ、一人で行動させていいって言うのかーーこぶあっ!?」

「「エルマンノ!」」


 なんと、演説中にその少女に背後から引っ掻かれた様だ。うーん、美少女妹に引っ掻かれるのは悪くは無い。猫の引っ掻き傷は愛情と言うのと同じだ。だが、これは。


「ごはっ!?はっ!がっ、、はっ、」


 デカすぎんだろ。


「「エルマンノ!?エルマンノ!?」」


 本日二度目の生死の彷徨い。最後くらいカッコよく終わりたかったものだ。背中の傷は、剣士の恥だというのに。


          ☆


「はっ!?妹は!?」


 あれからどれ程の時間が経っただろうか。エルマンノは意識を取り戻したと共に、慌てて起き上がった。


「はぁ、、もう少しマシな起き方無いの?」

「...フレデリカ、、あ、あの後、、どうなったんだ、?」

「どうも何も、正直別にあんた以外に敵意は無さそうだったけど」

「え!?そうなの!?」


 どうやら、フレデリカの話によるとあの獣族の少女は、自分に魔法を放ってきた二人以外には攻撃はしなかった様で、その後獣族のケアをしてくれる施設に預けた様だ。そんな、捨て猫ではあるまいし、獣族専門なんてものが、あるのだろうか。


「そうか、、とりあえず、あの子は無事なんだな、」

「そう。私が保証する」

「おお、俺とは違って安心出来る保証だ。ちなみに、資金の方はどうなったんだ、?」


 恐らく、全てが終わった後なのだろう。エルマンノは自身がフレデリカの実験部屋に居る事によりそれを察して、結果に聞き耳を立てる。


「...魔獣は少なかったみたい。あんたの言った通り、五体カケル銅貨十枚で銅貨五十枚」

「なっ!?馬鹿なっ、それじゃあ今日の昼食分しか無いんですけど?」

「残念。あんたは大人しく怒られなさい。いや、あんたにとってはそれはご褒美なのかもしれないけど」

「親に怒られるのがご褒美は流石にヤバいッスよ」

「それ以上にヤバい奴に言われたく無いと思うけど」

「俺はマザコンじゃない。シスコンなんだ」

「はいはい。でも、私はあの廃墟で面白い物質見つけて、満足してるから見返りはいらない」

「ああ、そんなものが」


 エルマンノが息を吐きながらも冷や汗をかいて返すと、フレデリカは僅かに微笑んで返す。


「どうやら、あそこは極秘に行われていた研究所だったみたい。あそこに居た男の人も、亡くなったから難しいけど、何か関係のある人みたいよ」

「え、?じゃあ、俺達結構ヤバい事に顔突っ込んじゃったのか、?」

「そう。顔どころか全身ね」


 嘘だろ、と。フレデリカが淡々と話す中、エルマンノは目を細め視線を泳がす。これで裏で動き始めて皆が狙われたらどうしようか。そんな、SF映画の様な展開に焦りを覚えていると、ふと。

 フレデリカはクスッと微笑んだ。


「でも、それのお陰でいい事があったみたいよ」

「え、?」


          ☆


「アリア!本当か!?」

「えっ!?エルマンノ!目が覚めたの!?」

「本当にっ、、産まれたんだなっ」

「え?何の話してるの?」

「悪い、感動が大きくて、こんな気持ちなのかなと」

「新たな生命の誕生瞬間が?」

「そうだ」

「こんなもんじゃ無いでしょ」


 アリアは少し頰を赤らめさせながら目を逸らす。それに、突如ギルドハウスに押し寄せたエルマンノは彼女の肩を掴む。


「そんな事より、本当なのか!?そんな、、高額だったのか!?」

「ふぇっ!?あ、そ、そう!金貨四十枚」

「ああ、、ありがてぇ、、ありがとうッ!神様ッ!これで俺はっ!金持ちにッ」


 気分はギャンブラー。エルマンノは天を仰ぎながらそう声を上げる。

 そう、どうやら、我々が見つけ出したあの男性は、今回の超級クエストの一つのクリア条件に重なっていたという。

 内容は、現在獣族や魔獣を独自の魔術で変化させ、凶暴化させたり、錬金術で新生物を作り上げようとしている組織の特定とのこと。


「まさか、、あの引き立て役みたいな奴がボスだったとは、、この世界何があるか分からないな、」


 エルマンノはフッと微笑みながらそう呟く中、改めてギルドハウスの受付スタッフが金貨を用意し我々に声をかける。


「こちら、お確かめください」

「おおっ、、慎重に扱うんだぞ、?下手しても噛んだりするなよ、?炎上するから」

「え?どういう事?」

「ああ!ちょっと、危ないって!」

「ああっ!?ちょっとぉ!大きい声出さないでよ!別にそんなに珍しいものでも無いでしょ」


 気分はまるで宝くじに当たった夫婦。いや、兄妹だな。


「よし。使った分より物凄く余るから、これから夕食にしよう」

「エルマンノ大して今日食べてなかったもんね」


 既に日は沈み始めていた。フレデリカはああ言っていたが、せっかくだから三人で打ち上げをしたのち、魔薬の本でも探してあげよう。そんな事を、エルマンノはふと考えた。

 と、その矢先。


「お、おお、、貴方がっ、、あの超級クエストを」

「え?あ、ああ!余裕だったな。妹が居れば、俺は何でもーー」

「お願いします!」

「「え、?」」


 突如声をかけられ、エルマンノは自信げにそう口を開く。どうやら超級クエストを新人の冒険者がクリアするのは異例らしい。これでは有名人になってしまうなと。微笑むエルマンノにアリアはジト目を向ける。が、しかし。


「誠に勝手なご提案で申し訳ございません。報酬は今回の超級以上のものを差し上げます。ですから、どうか、お助けください」

「え、?あ、、ああっ、貴方っ!」


 頭を深く下げるその人物に、エルマンノは見覚えがあった。頭の上から生えた耳。ふわふわの尻尾。この男性は、あの時パーティの人数不足で返されていた獣族の男性だ。


「わ、わたくしを、、ご存知で、?」

「いや、この間話してるのを見て、、っ!まさか、その頼みって、」

「っ!そうですか!既に認知しておられるとは!流石です!わたくしの故郷は長年雨で苦しんでおります。どうか、我々の代わりにクエストをしてくれないでしょうか、?」

「お断りします」

「「え?」」

「...え?」


 瞬間、今すぐにでもこの場を去りたい様な冷たい視線が、一同からエルマンノに向けられた。

 いや、よく考えたら何でだよ。

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