第二章 : 奴隷少女とシスコン馬鹿

第8話「妹とパーティ組むとかいう異世界ドリーム」

「ん、んん、」


 チュンチュンと。クソデカい鳥が目覚ましのモーニングコールを行う中、エルマンノは目を擦ってベッドから起き上がった。


「...フ」


 昨日はいい事があった。妹の幸せは自分の幸せでもあると。エルマンノは思い返す中で勝手に口元が綻ぶ。と、その後、現在の時刻を確認するべくアンティーク調な置き時計に目をやる。

 と。


「っ!?馬鹿っ!何故起こしてくれないんだアリア!」


 慌てて起き上がり、アリアの寝ている部屋へと足を進める。時刻は午前十一時半。現世ではこんな事はしょっちゅうだったが、この世界では珍しい。いや、それよりも本日は問題である。

 何故なら。


「おい!アリア!今日はギルドハウスに行くんだろ!?何故起こして、、っ!」


 そう。本日はギルドハウスでクエストを探す日。昨日の晩、夜な夜なアリアと語り尽くしたというのに。その張本人であるアリアは、未だベッドの中で夢の中だった。


「...一緒か、」


 エルマンノは自身と同じ境遇であったアリアに息を吐くと、彼女に近づく。


「起きろ妹よ、朝だぞ?早くしないと学校遅れるぞ、ねぼすけ」

「う、うぅん、」


 うむ。やはり兄が妹を起こすパターンも悪くはない。そんな事を考えながら兄妹ごっこをするものの、アリアは起きようとはしなかった。


「低血圧だな。...よしっ!待ってろ!今お兄ちゃんがベッドに迎えに行ってやる!」

「わあぁっ!?いいっ!やめてっ!起きるから!」

「起きてたんじゃないか。まさか、期待して、?」

「違う!だったらここで起きないでしょ!じ、じゃ無くて、変な事言うのやめてよ馬鹿っ」

「起きたなら行くぞ」

「へ?何処に?」

「言っただろ?今日はギルドハウスに行く日だ」


          ☆


 あの後、急いで支度をして家を出た二人は、なんとかお昼にはギルドハウスに着く事が出来た。

 お兄ちゃんに任せてくれ。そんなカッコいい台詞を放ったものの、やはりクエスト以外で稼ぐのは難しい。故に、冒険者登録をして、パーティを組むことにしたのだ。パーティを組む以上、二人でないといけないため、アリアを結局呼ぶことにした。まあ、元々元凶この人だし、いいだろう。


「うぅ、、お腹減った、」

「終わったらパフェでも食べに行こうな」

「それお腹減ったって言ってる人に薦めるものじゃなくない?」

「思ったより腹膨らむぞ?」

「別腹だよ、それは」


 時間の関係上朝飯を抜いた二人は互いに腹を鳴らした。と、そんな状態で入室したギルドハウスは何やら騒がしかった。


「頼むっ!お金が必要なんだ!今、村には雨が降り続けている。早く村の建物や道の材料を変えないと、手遅れになってしまうんだ!」

「そ、そんな事を言われましても、」


 どうやら、村のピンチ故にお金が必要な様だ。我々よりもはるかに大切な事のためであり、はるかに高額そうだ。見たところ、その男性には尻尾や、頭の上から耳が出ているところから、獣族だろう。女性だったら良かったな。


「ねぇ、、あの人大丈夫、?」

「頭がか?」

「違う!その、あの人の、村、」

「...前に親から雨の止まない地がある事をさらっと聞いた記憶がある。そこの住人かもな」

「へぇ、、なんだか、大変そうだね、」


 アリアが表情を曇らせる隣で、エルマンノもまた息を吐く。異世界ファンタジー。一見夢のようだが、現実世界の様に場所によっては悲惨な地域も存在するのだろう。と、そう思う中。


「頼むっ!この通りだ!」

「ですが、言いましたでしょ?クエストを提供するにはパーティに属していないといけません。少なくとも、冒険者は三人いないとパーティとして認められませんよ?」

「「っ!?」」


 何っ!?

 思わずエルマンノとアリアは振り返った。確かに、パーティを組まなくてはいけない事は知っていた。がしかし、冒険者登録をして、二人でもパーティを作れば問題無いと考えていた。その、はずだったというのに。


「嘘だろ、」

「ど、どうするの?」

「かくなる上は、」



「頼もう!妹よ!」

「...はぁ、もうちょっとマシな入り方出来ないわけ?」


 森奥の実験小屋。息を吐くフレデリカの前に、エルマンノは声高らかに現れた。


「相変わらずやってるな、実験大好き少女」

「あんたの肉片を新薬の材料にしようか?」

「俺と片時も離れたくないという理由であれば、妹に体の一部を差し出すのも悪くはない」

「相変わらずあんたも狂ってるわね、」


 謎に鼻を鳴らすエルマンノに、フレデリカが呆れ混じりにそう放つと、続けて彼の背後からアリアが現れる。


「わ、私も、、居ます、」

「ん?アリアが静かだとなんだか変な感じなんだけど」

「私エルマンノと同類扱いなの!?」

「やはり兄妹だからな」

「兄妹じゃないし!それにその理屈だったらフレデリカもでしょ!」


 恐る恐る、罪悪感を示しながら入室したアリアに、フレデリカは目を見開いた。これは、何かある、と。


「フレデリカ、早速で悪いが、頼みがあるんだ」

「嫌」

「早くないですか?」

「絶対ロクな事じゃないでしょ?」

「まあ、、そうだな」

「納得しないで!」


 エルマンノが折れる中、アリアはそう声を上げたのち、頭を下げる。


「ごめんなさい!後でお詫びはいくらでもするからっ!今だけ、お願いを聞いてほしいんです!」

「...アリアの事なの?」

「いや、兄妹の問題だ」


 フレデリカは頭を下げるアリアを見つめたのち、作業する手を止めてエルマンノの方へと視線を移す。


「はぁ、、なるほどね。おおよそ、この間の金銭面の話なんでしょ?私は実験材料で所持金はほとんど使ってるから、貢献出来ないと思うけど」

「大丈夫だ。ちょっと冒険者になってもらいたいって話だからな」


 エルマンノがそう返すと、フレデリカはあー、と。何かを察した様に声を上げた。


「なるほどね。なら、その道中でも薬品の材料になるものが見つかるかもしれないし、ちょっとだけ付き合ってあげる」

「へっ!?いいの、?」

「兄妹の問題なんでしょ?なら、私にも協力する理由あるし」

「助かるよ。フレデリカ」


 顔を上げるアリアと、礼を口にするエルマンノに振り返って、フレデリカはほんのりと微笑んで告げた。


「これで、貸し借りなしだからね」


          ☆


 数分後。ギルドハウスに戻った一行は、冒険者申請を済ませ、パーティを組む事も認められた。


「助かった、フレデリカ。俺達だけだったら出来なかった」

「はぁ、、呆れた。あんた達申請の仕方も知らないなんて、今までどう過ごしてきたわけ?」

「異世界ファンタジーとは無縁の場所にいたもので」

「どういう事?」


 エルマンノが息を吐くフレデリカにそう返す。思ったより役所の様な雰囲気で、申請にも色々書類だのなんだのと、なんだか現世を思い出す様なものが多く絡んでいた。ただ、その申請書等の紙質が茶色く、ウエスタンな指名手配書の様なものだったのが唯一の救いだろうか。


「ほんとに、、ありがとう。このお礼は、、絶対に、するから」

「...」


 そんな中、アリアが小さく謝罪のこもった声音でお礼を呟く。恐らく、自身の招いた事故に反省しているのだろう。それを今までの話で察したフレデリカは、小さく笑って放った。


「別に私は大丈夫。言ったでしょ?新薬の材料見つかるかもって。それと、そこの変態馬鹿にいいとこ持ってかれてるのは不快だから」

「おい!言い方なんとかならないのか!?」


 エルマンノが声を上げ、だから大丈夫だとフレデリカは微笑んでみせる。その光景に、目の奥が熱くなりながらも目を逸らしてアリアは拳を握りしめた。


「それで?どんなクエストをするわけ?なるべく今日中にクリア出来て、高値の方がいいんでしょ?」

「話が早くて助かる。流石俺の妹だ」

「はいはい、いいから。出来れば薬草を探せるものが好ましいけど、、それだと上級者向けかな?」

「どっかの世界みたいに草むしりのクエストかキャベツのクエストねぇかなぁ、、安いけど」

「何?キャベツのクエストって」

「無さそうだな、、いや、こっちの話だ」


 エルマンノとフレデリカが掲示板に貼られた現在開催中のクエスト一覧に目を向ける中、アリアはその上を見据え目を見開き冷や汗を流す。

 と、そんな中。


「これいいんじゃ無い?」

「ん?何々、?中級魔物退治。...魔の森へ行って、、って、これうちの近くじゃないか、?」

「そう。場所も近いし、この間のゴブリンを倒してるところから、中級なら倒せるでしょ」

「まあ、、悪くはないか。時に妹よ」

「ん?」「え?」

「...」

「どうしたの?」

「え?いや、妹で反応したから」

「っ!今のは条件反射でっ!」


 エルマンノが驚き振り返ると、アリアは慌てて声を上げた。それに続いて、フレデリカは息を吐く。


「はぁ、、冗談に決まってるでしょ?」

「冗談抜きで?」

「そう」


 適当に流すフレデリカに、エルマンノは早速とクエスト申請を行いに移動しながら先程の問いを口にする。


「それで、二人は戦闘経験は?」

「全く」「ぜんっぜん」

「...じゃあ戦闘中はお兄ちゃん頑張れって言ってくれてればいいよ」

「「絶対嫌」」

「似てきたな。姉妹なだけある」

「姉妹じゃないから」「姉妹じゃない!」

「フッ」

「何その顔、」「キモ」

「単純な悪口やめてもらえます?」

「妹からの罵倒はご褒美でしょ?変態」

「おうふ、」

「あのー、早く渡していただけますか?」

「「「あ、すいません」」」


 受付の前で兄妹コントをしてしまった。これは恥ずかしい。現世だったら死んでたな。



 その後、申請が完了した一同は晴れて冒険者。パーティでクエストを行う事となった。内容は中級魔物の退治。が、それをする前に腹が魔物化しそうだ。そう意気投合したため、三人で食事にした。


「...外食で良かったの?」

「安心してくれ。俺は飲み物しか飲まない」

「店側からしたら厄介でしかないわね、」


 三人でテーブルに座るや否や、皆はそれぞれメニューを見始め、エルマンノは一番安いドリンクを注文した。


「いや、、飲み物にしては高くないかこれ」


 現実世界のレートに合わせると約四百円とちょっと。これは高いだろう。


「別にこんなもんでしょ。元々、お茶するところなんだから」

「いや、飲み物なんて蛇口捻ればいくらでも出てくるし、なんなら今ここで魔法で出せるしな、」

「戦時中の人と魔力の使えない私に謝りなさい」

「大変申し訳ございませんでした皆様方」

「...ケチ臭、、って言いたいけど、私のせいだし、何も言えない、」


 その光景を見ていたアリアは、そう自身を思い返し目を逸らすものの、対するエルマンノは鼻を鳴らした。


「いや、確かに俺はケチだが、妹には妥協しない。それが俺のバイブルだ」

「えっ、ほんと!?ならこれ頼んじゃおっ!」

「は、?お、おい馬鹿っ」

「すみません!注文いいですか?」


          ☆


 結局、アリアはステーキ。フレデリカはスパゲッティと、平気で高額の食事をした。危ない。危うく妹でなければ魔法で溶かしていたところだ。特にアリア。


「...」

「エ、エルマンノ、、ごめんね。お腹空いてるよね、?私の、半分あげるから」

「っ!」


 これは。エルマンノは思わず目を見開いた。妹自ら兄に自分の食事を分け与える。これはドロップ飴を分け合った兄妹並みに感動モノだ。自分の金だけど。いや、更に言うなら親の金だけど。


「いいのか?」

「いいのかって、、私のせいだし、エルマンノが食べるべきっていうか、」


 そう言って差し出したそこには、なんと。

 既に使用済みのナイフとフォーク。

 どうやら、他には無いらしい。これは、つまり。そういう事なんだな。


「...妹フォークを、、いいのか、?」

「え、?何言って、」

「じゃあ、遠慮なくいただくよ。ありがとう」

「あ、うん、、どういたしまして?」

「食べます」


 エルマンノはそう放ち"フォーク"を口に運ぶ。


「え?」


 そう。何も刺していない状態でだ。


「あー、いやぁ上手いな妹フォーク。これは五つぼーーごはっ!」

「キモい。死ね」

「喉にフォーク入ったらどうする!?」

「フォーク食ったのあんたでしょ」


 エルマンノの至福の瞬間を、隣に居たフレデリカに阻止されてしまった。なんとも残念だ。そう思いながらアリアに目を向けると。


「あれ?」

「...」


 なんか先程より数メートル離れている気がした。これがなんちゃらフィールドか。全開してるな。


「ありがとう。美味しかったよ」

「え、?いや、もういいから。返さないで。全部食べて」


 なんだか大きな何かを失った気がする。早くもパーティクラッシャーになってしまった様だ。



 なんだかんだ食事を済ませた一同は、改めて森の中へと足を進めた。


「...いつもはこんなに奥に来ないから、、なんか不気味ね、」

「な、なんか、、心なしか寒くなってきたかも、」

「大丈夫だ。俺達は今回歩きで来ている。突然トラブルで故障するものが無いんだ。フラグは立たない」

「なんの話?」


 エルマンノは自宅よりも更に奥へと進んだ未知の場所を歩きながら、その発言がフラグなのでは。と、そう思わずにはいられない言葉を口走った。


「森の奥に外科医の家があったら要注意だ。三人いるし。宿を見つけても入らない事だ。これはホラー作品の鉄板だぞ?」

「勝手にホラーにしないでよ、」


 そんな身も蓋もない会話をしたのち、目の前には廃墟となった建物が点々と現れ始めた。それはただただ崩れているというわけではなく、状態は維持しており、建物の至る所に蔓が巻き付いていた。これは、長年人の手が加わっていない事の意だろう。


「そ、そろそろ魔物が出てきそうな雰囲気になってきたね、」

「おい、俺を盾にするな」

「守ってよ。私のお兄ちゃんなんでしょ?」

「命の代わりになります」


 エルマンノの背後に周るアリアに放つと、続けてフレデリカが言い換える。だいぶ、エルマンノの扱いが分かってきてしまった様だ。

 そんなやり取りをしながら、辺りを見渡す。クエスト内容は森奥に居る魔物。ケルベロスの駆除とされている。最近、近くの村の作物が荒らされているとの事だ。それの原因が、小さいケルベロスの大群だとの情報がある様だ。

 魔物というからどんな内容なのかと身構えたものの、どうやら現実世界の警察の職務と近いものがある。


「ガゥルルル、」

「っ!やはり現れたか。タイミング的にはここだよな!」

「何呑気な事言ってるの!?てか、何あれ!?顔三つあるしっ!あれって実在したの!?」

「ケルベロス。魔獣の代表であり、三つの顔があるのが特徴。奴に効くのはみーー」

「ファイアバースト!」

「ギャウ!」

「ちょっと!?なんで最後まで聞かずに攻撃するわけ!?」

「すまない、やはり妹を守るのに必死になって、」


 フレデリカの解説を他所に、エルマンノは瞬時に炎を放つ。それに、一度は倒れたケルベロス。だったが。


「ギュウルルル」

「なっ!?」

「全然効いてないじゃん!...て、、いうか、なんか、更に凶暴化してない?」


 アリアが冷や汗混じりにそう呟く。目の前のケルベロスは、先程までとは一転。更に強い形相で。見ているだけでも伝わる強い気迫で近づく。


「だから最後まで聞いてって言ったでしょ!?ケルベロスは、炎属性なの!だから、炎を与えるとそれは強化になって」

「何っ!?それはもう少し早く言うべき事だが、妹だから許す」

「いや許すも何もあんたのせいでしょ、」


 エルマンノはそれを聞いたのち、改めてケルベロスと向き合って手を地面に着いた。


「悪いな。でも、苦しませずに終わらしてやるっ!俺らも、こうしないと生きていけないからな」


 エルマンノは真剣に。何故かカッコつけて放つと、瞬間。


「ロックノック」

「ギャウ」

「は、?」


 ケルベロスに、ゴブリンの時と同様、尖った石を生やして突き刺そうと試みるがしかし。それを見越していたケルベロスは、簡単にそれを避けた。

 と、そののち。


「マズいっ!みんな逃げるぞ!」

「えっ!?」「はっ!?」


 もの凄い速度でエルマンノ達を追いかけ始める。それに慌てて、みっともなく逃げる選択肢をしたエルマンノは、誰よりも先にその場を去る。

 が、それ故に。


「う、嘘っ!」

「グガアッ!」


 目の前に居た、アリアがケルベロスに飛びかかられる。


「っ!アリア!」


 それに驚愕の表情で振り返るフレデリカ。だったがしかし、次の瞬間。


「キィユゥッ!?」

「「っ!」」


 その場に、大きな雷が落ち、そのケルベロスに大きな一撃を与えそれは倒れ込んだ。


「え、、何、今の、」

「妹に飛びかかっていいのは兄だけだ!」

「は、?どういうこと、」


 あっけらかんとする中、奥からエルマンノもケルベロスに負けず劣らずの形相で手を構え走って現れる。


「ギ、ギュウルルル、」

「これで止めだっ!スプラッシュストーム!」


 構えた手を、そのまま天にあげると、瞬間。


「ギュウルルル!」


 ケルベロスの上空から。その場にだけ。威力を高めて雨を降らす。雨、とは言うものの、ほぼ滝行だ。


「ガゥ、、ガ、ガウ、」

「そこはガクッ、じゃないのか」

「えぇ、倒した第一声それ?」

「とんだサイコパス野郎だったわけね。シスコン馬鹿でサイコパス野郎。最低なラインナップ」

「お、おい!形はどうであれ助けた救世主だぞ?一度はお兄ちゃんと呼んでくれてもーー」

「さぁ、次に行きましょう。この先に、もしかすると新薬に使える物質があるかもしれないから」

「うん、そうだね〜」

「おい!なんか目的変わってるしその棒読みやめてくれ!」


 息を吐いて早々とその場を去ろうとする二人にエルマンノは声を上げた。


         ☆


「あれ、?これって、」

「ん?どうしたの、?」


 その後、同じく一行は廃れた街の中を歩きケルベロスを探す。そんな中、フレデリカはふと足を止め、近くに咲いていた小さな花にしゃがんで目をやった。


「確か、、図鑑にあった、、赤の奇跡」

「赤の奇跡、?何それ、、確かに、赤い花だけど、」

「これがあればどんなものにでも効くと言われているの。基本、病気に主に使われるみたいだけど、これを使った魔薬も存在するくらい。...でも、これを単体で使って、魔力と融合させて作った魔薬が一般的。これに、他の魔薬を混ぜ合わせたら、、あるいは」


 顎に手を当てフレデリカは呟く。どうやら、実験大好き少女の血を騒がせてしまったらしい。


「...いいんじゃないか?持って帰っても。ここはもう廃れてるし、ケルベロスを退治する予定だ。これくらい、もらっても罰にはならないだろ」

「で、でも、これが本物かは分からないし、もし毒のある花だったりでもしたら、その薬品は逆に人を死に至らす負の魔薬になっちゃう、」


 即ち、これがその花である確証がないということだ。エルマンノはそれに一度考える素振りをしたのち、改めて問う。


「じゃあ、その赤の奇跡は、どうすれば違いが判断できるんだ?」

「本当は、よく見てみると細部が違うらしいんだけど、、私は今直ぐに頭に思い描ける程記憶してないし、それは厳しいかな、、他に方法があるとすれば、毒だから自分で毒味してみるしか方法は無いけど、」

「よし、なら俺が試そう」

「えっ!?」「はっ!?」


 さらっと放ったエルマンノの耳を疑う発言に、二人は声を上げた。


「は、?あんた、ほんと馬鹿なの?」

「言っただろ?俺は馬鹿だ!食べます。ごはっ!」


 口に入れ飲み込む。その僅か数秒後。


 エルマンノは息を引き取った。


「はぁ、、ほんと馬鹿、」

「エルマンノ〜、、起きて〜」


 その後、フレデリカが持ち合わせていた薬をエルマンノの顔面にフラスコから直接かけると、その数分後。


「エルマンノ〜、、起きてよ〜」

「お兄ちゃんの間違いでは?」

「はぁ、、起きた、」

「俺一応死んだんだぞ?もう少し悲しみと、俺が起きた時に喜びを見せてくれてもいいんじゃないだろうか、?」

「はぁ、今ので脳みそも少し改良されてれば合格だったんだけど、」

「どういう意味ですか」

「あんたみたいな奴に打ってつけの新薬が出来そうって話」


 エルマンノが起き上がると共に、その周りで彼の様子を見ていたアリアとフレデリカはそれぞれ口にした。その様子に皆がフッと微笑むと、改めて出発をし直した。


          ☆


 あれから、更に奥に入り、辺りにはオリーブの様な花々が現れ始め、先程以上に大きな建物が目立つようになってきていた。


「これで五体目、、っと」

「正確な数は無いから、どのくらいでクリアなのか分かりづらいわね、」

「こういうのは、数カケル報酬って事が多い。キャベツと一緒だ」

「だからさっきからなんなのそれ」

「「「っ」」」


 エルマンノが悩むフレデリカに自信げに話すと、アリアがジト目で放つ。すると、それと同時。

 突如、エルマンノ達の背後の建物から、大きな物音が響いた。


「何、、今の、」

「何かを叩くような音、だったけど、」

「...何か、落ちたんじゃ無いか?そんな気にするところじゃ無いって、」

「なんでちょっと震えてるわけ?」


 突然の心霊現象に少し声を震わせる中、フレデリカは冷静に放つと、その建物へと近づく。


「おいっ!フレデリカ危ないぞ!お兄ちゃん駄目って言ったでしょう!?」

「はぁ、、行くよお兄ちゃん。お兄ちゃんならついてきてよ。気になるでしょ?それに、ケルベロスなら報酬追加なわけだし」

「っ!今、お兄ちゃんって、、言ったか、?」

「え、そっち?」


 フレデリカが呆れながら呟き、その建物に入っていくと、エルマンノは声を低くしてそう呟いた。それに、アリアは引き気味にツッコむ。


「任せろ。妹を守るのは兄貴の仕事だ」

「ちょっ、ちょっと待って!私だって妹なんでしょ!」


 エルマンノが真剣な表情でフレデリカと同じく建物に入って行く中、アリアは慌てて追いかける。

 ひたひたと。その建物の中は湿っており、日差しも入らないが故に恐怖心を昂らせた。


「中は思ったより綺麗だな」

「どこが、?」


 エルマンノは鉄板ネタを披露しようとしたものの、アリアの呟きにより突き放される。かなしい。がしかし、建物の状態が悪いのも事実である。ヒビ割れや瓦礫、ゴミの山。全てが廃墟と呼ぶに相応しいものだった。


「フレデリカ、待て。先頭はお兄ちゃんだ」

「えっ!?そしたら私が一番後ろじゃん!その、一番後ろって、一番最初に殺されてるでしょ!?しかも知らないうちに!」

「アリアだってホラーにしようとしてるじゃないか。...大丈夫だ。一度死んだ俺が言うんだから間違いない」

「なんの説得力も無いわね、」


 エルマンノがそう言い先陣を切ると、ハッと。何かを思いついたのか目を見開く。


「なら、これでどうだ!?」


 すると、一休さんもびっくり。横に手を繋いで並び、そのまま進むという画期的アイデアを思いついたのだ。


「妹と手を繋げ、更には誰も置いていかない。最高の配置だ」


 胸を張るエルマンノとは対照的に、皆の表情が絶望的なのはスルーしよう。そう思った矢先。


「「「あ、」」」


 なんと。ドアという存在を忘れていた。これは、仕方がない。


「無理矢理でも入るぞ!」

「そんなのっ、入るわけないでしょ!」

「ん、?それ、もう一回言ってもらっていいか?」


 アリアのツッコミに、エルマンノが目の色を変えて低く呟くと、次の瞬間。


「「「っ!」」」


 またもや、響く。


「まただ!」

「この奥ね」

「へっ!?」


 エルマンノの背後に皆が移動しながら、目つきを変える。

 目の前の扉の奥。先程同様、何かを叩く様な、鈍い金属音が響いた。その音にエルマンノもまた目つきを変えると、ゆっくりとドアノブを掴んで開けた。


「っ!あれって」

「ま、魔獣!?」


 するとその先には、一つの牢屋の様なものがあった。牢獄というには小さい。そう、それはまるでペットショップの様な。

 それに息を呑んでゆっくりと近づく。恐らく、先程の音は、この檻を叩く音だったのだろう。その中に居る、魔獣の様なものを見つめながら、ジリジリと近づき思う。

 と、それが目の前に差し掛かり、だんだんとその生き物の姿が露わになる。


「...いやっ、違うっ」

「えっ」

「これって、」

「グッ!グゥルルルルルル、」


 エルマンノが声を上げ、アリアが声を漏らし、フレデリカが呟く。

 そう、その檻の中に居たのはーー


「獣族の少女だ」

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