仕官希望者と織田家新当主

 坂本龍司



 謙信は三日後に越後に帰った。清子は“今の所は大丈夫”だそうだ。長尾家臣の皆さんに酒を控えさせるように言っといたから、史実よりは長生きするだろう。


 そう言えばやっと景虎から謙信に変えたらしい、ややこしくて仕方なかったから助かった。でも上杉憲政の養子になってないので、長尾謙信てことになる。


 上泉さんや慶次と打ち合い稽古をしている所に多羅尾さんが稽古場にやって来た。


「殿、仕官希望者です。どうやら手下達が旅人一行を助けたらしく、殿の話を聞かせたら仕官したいと」


 前に幻影衆から禄を貰いすぎて余ってると言われたので、各地で困ってる人を助けなさいと言っておいたんだ。お金なんて貯めててもただの塊にしかならないからね、どんどん使わないと。


 屋敷に通されたのは、細身でつり目のイケメンと美男子がいた。


「お目通りが叶い恐悦至極でございます。某、明智十兵衛光秀と申します」


「竹中半兵衛重治と申します」


 ・・・・え、明智?光秀??竹中半兵衛???美濃からわざわざ北条に来たんだ。てか困ってる人を助けるよう言ったのは俺だが、まさか明智光秀と竹中半兵衛を拾ってくるとはね。本能寺の変阻止しようと思ってたし丁度いいか!


「女子か?」


 慶次が言っては行けないことを言った、俺は慶次の所まで静かに歩き、胸ぐらを掴んだ。


「慶次、お前の自由奔放な性格俺は好きだ。だがな、不意に出た一言が相手を不快にさせる事があるのを忘れるな。いいな!!」


「は、はい・・・」


 殺気が漏れたか、慶次がビビってるとこ初めて見た。でも慶次には人を魅了する力がある、その才を潰すような事をして欲しくない。


「私の家臣の御無礼をお許し下さい。申し遅れました、私が北条家臣で伊豆守の坂本龍司と申します」


「噂は聞いておりましたが、どうやら真のようですね。御屋敷に着くまでだけでも領内を見れば坂本殿が善政をしているのが分かります」


 二人はどうやら、美濃で起きたお家騒動の巻き添えを食らったみたい。光秀は斉藤家嫡男に付く父に猛反対して親子喧嘩→廃嫡、半兵衛は見た目のこともあって家中で蔑まれてた所を光秀に引っ張り出されたんだとか。


「まあ正直に申し上げると戦があまり好きじゃないので、北条の端っこで細々とやってるだけですよ」


「ご謙遜を」


「聞けば朝倉家に仕官しようとしていたとか、よろしかったのですか?」


「坂本様のお噂は美濃まで届いており個人的に興味はありました、ですが如何せん北条までは距離があります。妻子も連れていたため長旅は出来ず、朝倉に向かう途中賊に襲われていたところを幻影衆の方々にお助け頂きました。これは天命だと思い参った次第でございます」


「北条家ならまだしも、うちは家臣に領地を与えていません。それでもよろしいですか?」


「何も問題ございません。何卒お頼み申す」


「分かりました、伊豆は比較的平穏な日々を送っておりますので一族の皆さんも安心できるかと思います」


 光秀には軍師教官として、まだ成長途中の真田信綱と半兵衛を鍛えてもらうか。




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 坂本龍司



 冬の雪祭りは定番になりつつあるけど、雪が降らない年はできない。夏にも何か祭りっぽいこと出来ないかな。


 そう思った俺は、最近治川が終わったことを思い出した。そこで領民も参加自由の大BBQ祭りを思いついた、浅瀬の所で子供も遊べるし丁度いいだろう。


 明智一族と半兵衛の歓迎も込めて家臣の家族達も招待した。もちろん領民が飲み食いするものは俺が買い取っている。


 祭りの様子を眺めていると、光秀と半兵衛が俺のところにやってきた。


「殿は、このような事をいつもしているので?」


「そうだね、最初は些細な出来心だったのは否定できないけど。この世は戦が耐えない、そのため領主から民まで生きることで精一杯になる。俺はもっと余裕をもって生きて欲しいんだ、生きることを楽しいとも思って欲しい」


「こんなにも早く仕官した事を喜べる日が来ようとは、感服致しました」


「そう言ってくれると俺も報われるよ。そう言えば半兵衛、軍師になるの嫌だったら言ってね。働き口は沢山あるから、やりたいことをやればいいよ」


「それなら某は文官になりとうございます」


「そっか、それなら智の所に行くといいよ。若様も内政が得意だから気が合うと思う」


「はっ、ありがとうございまする」





 織田信長



 親父が死んだ。急に体調を崩してからは一年も持たなかったな。


 龍司のお陰で家中の俺に対する風向きは良くなった。それでも信行を担ぐたわけがいたが早々に叩き俺が当主になった。


 うつけを演じはしたが、信行を討つ気にはどうしてもなれなかった。そういう意味では龍司に助けられたな。


「まずは美濃を取り、その次に三河、今川と手を伸ばす。準備を怠るな」


「「はっ」」


「母上、三年私が収める織田家を見守ってくだされ。何卒」


「三郎、分かっております」


 母上は龍司の話を聞いて渋々といった感じだが、納得してくれた。


「美濃は家中が纏まっておらん、今のうちに攻め込むぞ!!」

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