晴信と義元の憂鬱

 武田晴信



 北条戦の大敗から暫くして、甲斐国は落ち着きを取り戻した。新たな躑躅ヶ崎館も建てて家中もいつも通りになった。


 だが、儂の中では山本勘助を失ったことが大きい。士官して数年程な為か、家臣達もあまり悲しむことがなかった。だが儂としては勘助を軍師にするつもりだったのだ。


 勘助とは馬が合う為か、謀をする時は必ず呼ぶようになり策を練ったりしていた。己の中での勘助の存在が大きかったのだと、失って気付かされるとは。


 それに北条家家臣の名を坂本龍司だったか、儂が流れを作ったにも関わらず堂々と意見し、今回の戦の賠償ゆ同盟を破った際の銭も求めてくるとは。


 聞けば里見を潰したのはあやつだとか。あの場で意見を申しても誰も異を称えないということは、北条からの信が厚いということじゃろう。


 ん、待てよ?今回の戦で武田家は勘助を失い、今川は太原雪斎を失った。両家とも軍師を失ったことになる。これは偶然か?嫌な戦い方をするのう。もちろん隙あらば食らうつもりじゃが、真っ向からやり合うのは愚策だ。






 今川義元



 今川家において、太原雪斎と朝比奈泰朝の存在がどれほど大きかったのか。家中がなかなか纏まらん、このままでは他家に罵られるわい。


 和尚よ。先に逝くには早すぎるわ。これからと言う時にいなくなりおって・・・あまり弱音を吐くと和尚に叱られるの。早々に家中を立て直し、尾張を手にする為に織田を叩く!!


 今回の戦で分かったことは、北条には手を出したら不味いということ。こちらから仕掛けなければ問題無いじゃろう。関東にしか興味が無い連中じゃ。


 まずは三河をこちらに取り込み、一気に織田を攻め落とす。北条に報復したいところじゃが、それを言うとこれまた怒られるんだろうて。言われずとも雪辱は違う形で取る。

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