韮山城と仕官希望者
坂本龍司
新年を迎えもうすぐ春になる頃。大幸丸もすくすく育ち、富士子の身体も落ち着いてきたので、伊豆へ移転するため相模を出た。
途中韮山城を通るので、ついでに視察することにした。大幸丸の為にも城で一晩過ごす予定だ。
好きにやっていいとは言ったけど、これはやりすぎな気がする。稲葉山城並の強固な城に加え、マチュピチュを彷彿とさせる長い長い砦。
氏康様に何をやっているんだと驚かれたが、攻められたくないのでと言ったらため息をつかれた。まあ防衛なんてのはやりすぎなくらいがちょうどいい。
智も褒めちぎるくらいの要所だ。幸綱も鼻高々にしてたな。幻庵おじさんには要所に城を建てる時に幸綱を貸して欲しいと言われたので快く了承した。
伊豆に新しく立てた屋敷についた。前の屋敷は訓練所と庭が一緒で、味気なかったので今回は別にした。屋敷自体は広間を除きそこまで広くないけど、庭も桜や紅葉の木を植えて季節ごとに楽しめるようにした。
訓練場も、屋敷から少し離すことでだいぶ広くすることが出来た。富士子は訓練場を見てニヤニヤしてた。そんな顔も可愛いけど、ほどほどにね?兵のみんな死んじゃうよ。
縁側で、桜を見ながらのんびりしてたら士官希望者が来た。あの戦以降、時々仕官を願う人がくるけど、武士の仕官は基本お断りしてるんだけど。誰だろう。
「もしかして多羅尾さんの紹介?でもなんで幸綱殿もいるんだ?甲賀と信濃と縁がある人って、もしかして」
「流石は殿、ご明察でございます。こちらにおりますは、信濃国佐久郡に城を持つ望月盛正殿と、娘の千代女でございまする。私からすれば、盛正殿は忍びのすべを教わった師でもありまする」
「でもなんで城を捨ててまで?申し訳ないけど、武田が絡んでる事も有り得るからさ」
望月の名を聞いて喜びたい所だけど、どうしても疑いが晴れない。ここはきちんと確認しておかないと。
「ご懸念はもっともかと、某はだいぶ前から望月殿とご縁がありまして。生活が立ち行かなくなったと知り、独断ながら多羅尾殿にお願いし今に至ります」
「なるほど、ね。北条の内情は最低でもあと三年は知られたくないんだよね。これでもし望月殿が武田からの手の者だったら、容赦なく殺すから。そこは分かって頂きたい」
「はっ、承知しておりまする。実は武田が乱波を探しておるらしく、望月殿に声がかかる前にお連れした次第でございまする」
そういう事か。多羅尾さんナイスだね!まあまだ疑いは完全に晴れてないけど、今回は多羅尾さんを信じよう。
「今回は多羅尾さんを信じるよ。もし裏切ったら望月家の一族郎党、皆殺しだからね。それほど他家に漏らしたくないんだ」
俺の言葉にみんな驚いてるけど、当然だよね。守りたいものを守るためには、時として鬼になる事も必要だ。特に防謀に関しては一切手を抜くつもりは無い。
「盛正殿は忍び働きは引退してもらおう、若手の育成に力を入れて欲しい。千代女さんは見た感じ忍び働きよりは他のことをやった方がいいね、北条に働き口はいっぱいあるから、ゆっくり探すといいよ」
「「はっ、畏まりました」」
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