第5話 勉強合宿

「今年は行かないの?」


「ほう中田さんは大人のお店が気になるか」


「馬鹿じゃないの?」


「毎年行ったらパターンを読まれる。押せばいいものではない」

 風俗に行くか行かないかというろくでもない話し合いである。


「高校は中学と違って、夜の授業があるからな。どこかの誰かはもう悪さ出来ないな」

 私は前田を見ると鼻をほじっていた。


「なに? 照れるから見ないでよ」

 見てしまって後悔した。


 担任の言葉が全く耳に入っていないようだ。


「八月も末だ。今回の勉強合宿の後にも課題は出るが」

 ブーイングが起こった。隣で。


「何か文句があるか?」


「恐れながら申し上げます」


「一応聞いてやる」


「女子高校生。この世で最強にして、最悪の存在」

 最悪とは聞こえが悪すぎる。最強で止めておけばいいものをどうせ賢そうにいいたかったのだろう。

「そんな人間を課題という悪魔みたいな所業でしばりつけもいいのでしょうか。いいはずがありません。せめて一日休みをもらってもいいはずです。そもそも三泊四日、親元から離されて私みたいに寂しさを覚える生徒もいるでしょう。ですので、ここは今日はお昼を過ぎちゃったので明日は休みにしましょう」


「千聖女子学園は進学校だ。あとは選んだ親と生徒の問題だ」


「どうせ自称でしょうよ」

 小さく言っても元々静かだ。よく聞こえる。


「自称よりも鍛えてやるぞ。今日は夜に集中講義だ。苦手な科目別にクラスに分かれてもらう。中田は国語で前田は、前田は基礎講義だ」

 基礎講義は本来中学で終わりだ。高校ではめったに出てこない。


「え? 先生困りますな。中学生と同じ部屋で勉強しろと? そこまで落ちぶれてはいませんぞ旦那」


「本当に中学生と同じ教室で受けてもらう」

 聞こえた。うわぁって憐れむ声が部屋の中に充満した。


「まさか中一? プラマイゼロの話は分かります」


「心配しなくても中三だ。今だから言うけどな、進級テスト。二百五人中、二百四位なんだ」

 へぇ、ゴリラより下がいて驚いた。


「へへ、要は中学生と一緒に夕方まで授業を受けてお休みーでしょ? 余裕ですよ」


「自主勉強会に参加必須な」

 自主勉強会とは自主学習である。

 教師監督の元、中学生がというやる気を持った戦士が参加する。

 ちなみに私は受講した。そこでは何でもしていいとの事だった。

 夏休みの課題は終わっていたが、予習が出来ていなかったので、さっさと済ませた。


「何をすればいいのでしょうか」


「勉強。二日で四科目、良かったな。一日休めるぞ。もっとも高校の科目も自主勉強会に行ってもらうからな」

 尚、高等部は夜まで授業があるので、消灯までの一時間が自主勉強会だ。

 先生たちはそれはいらないことをさせない為の課題だとは思うのだが、それ以上にゴリラの学力が地面すれすれなのだろう。


「ということで質問は?」


「はい」


「お、前田。意欲があるな、言ってみろ」


「私、普段勉強しないので」

 よく分かっている。

「多分、勉強させたら体調を悪くすると思います。その辺りのフォローは?」


 言い訳も甚だしいなと、先生は笑っている。


 まさか次の日、熱を出すとは予想しまい。

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