第4話 課題

「ねぇ、クーラー壊れているでしょ。絶対」


「課題終わらないと帰れないわよ」


 このやり取りはこれで何回目だろう。私も暑いので、ジャージに着替えた。


「せくちー」

 出たくないのに夏休み補習に付き合わされるはめになった。食事は用意してくれたし、家にいてもすることは無かった。

 胸元がチラリ。それくらいで動揺するのはこじらせた中学生が限界よ。


「暑いなら脱げばいいじゃない」


「脱いでしまって、先生が来たらどうするのさ」


「私に聞かないでよ」


「ふっふっふ、超天才前田様はこう考える」

 はいはいと聞き流した。コイツに答え渡したら変なところで真面目だから、全部答え通りに書くだろうな。


「全部、中田が指示したって言う。さて、ブラウスのボタンを全て外した」


「待って、それは良くない」


「今頃、慌てても遅いぞよ。そうじゃの、購買でわらわにガラガラ君コーラ味を献上するか。答えを寄越せ」

 答えのありかを分かっているのだろう。スクールバッグを取ろうと手を伸ばしてきた。


「何、すんのよ」

 慌てて胸に抱いた。


「ええい、往生際が悪いぞ。見せろ、早く私に見せろ」


「もうガラガラ買ってやるから、それで手打ちにしなさい」


「課題はいつまで経っても終わらない。どうしろと言うのだ」


「アンタが無駄口を叩くからでしょ。しゅくしゅくと進めなさい」

 最終的には服のつかみ合いまで発展した。どれくらいの課題をしたくないのよ。

 前田が机に足を取られて背中から倒れた。ブラウスをつかんでいた私はつられて前田の上に倒れた。


 痛いのもそうだが、何よりも顔が近くて動揺した。近くで見ると案外きれいな顔だ。これほど可愛いと工科高校では取り合いになるだろう。


 女子校でもそういうきれいな女の子を食べる御仁はいる。


「ちょっと顔が近い。それに重い」

 背けた前田の顔が少し赤かった。


「さっき大きい音がしたが、大丈夫か?」


「大丈夫です」

 ね。と、前田に言おうとした。


 現状私は前田の上に座っているが、赤い顔の前田は顔を背けて、下着がしっかり見えていて、完全に私が押し倒した形だ。


「そういうことは学校でするなよ」


「えっ、違うんです。本当に何も無くてただ勉強を教えようとしていて、前田が倒れたから弾みで倒したように見えているだけでその」


「ということだ。前田どうだ?」


「少し怖かったです」

 前田も少し余裕が出てきた。はだけたブラウスを下着が見えないように隠しているし、私はまだ前田の上に座っている。


「中田、反省文一枚な」

 何を反省しろって言うんだ。


「あの何を」


「課題を一緒にやってくれるって名目で約束したのに、ブラウスのボタンを外させて、挙げ句の果てに押し倒した反省ですよね」

 うんうんと先生はうなずいたが、待てよと止まった。


「課題は中田と前田の分か?」


「いえ全部、前田の分です」


「前田、反省文な」


「なんで!」


「ここに至るまでに前田にも責任がある」


「でも、私は」


「何かあったら、どこかしかにボタンが飛んでいるはずだ。それが無いなら何かの不幸な理由で倒れた。だろ?」


「仰せの通りです。先生」


「今回は反省文ではなく、厳重注意な。前田は答え丸写ししたら、反省文な」


「私、何もしていないのに」


「本当に何もしていないからだ」

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