第21話 赤信号みんなで渡れば怖く無い

 やってまいりました。

 勉強合宿。そう先生たちと福子の心理戦が始まった。

 今年の勉強合宿は四月の年だ。


「ねぇ、あと二人行こうよ。絶対に楽しいから、行こうよ」


「常葉行くの?」


「私は福子と行くとは言っていない」


「えっ、今福子って呼んでく」


「たまには名前で呼ばないとゴリラの本名忘れちゃうでしょ」

 同室のあと、四人は一様にうなずきそれはそうかと納得した。


「え、私たちつ」


「きが見えないと合宿に来たって雰囲気ならないってゴリラったら風流なこと言うな」

 同室はゲラゲラ笑ったが、私は内心ヒヤヒヤした。


「で、行くの? 大人のお店」


「そりゃ、千聖女子学園の意地にかけて我は大人のお店にレッツゴー」


「アンタもう累積四回でしょ。そろそろヤバいでしょ」


「今から行って教師の弱点をゲット。それをネタに停学を免れようという作戦でありんす。さ、常葉行くよ。我こそは勇者也」

 いやいやホテルから連れ出され、本当に営業しているのか疑わしいビルに入った。


「こうやって閉店モードにしておいて、尾行した奥さんの目をくらますの。廃墟みたいにして、の札かけとくらしいよ。そして隣には全年齢用の温浴施設。それから分かることを答えよ」


「全然、分かりませーん。教えてください前田パイセン」


「廃墟見学で疲れた体を温浴施設でさっぱり」


「で、当然バレるまでがセットでしょ?」


「なんかある程度まで同じことをしていると怪しむ物で、なぜ二ヶ月に一度同じシャンプーの匂いがするのかと」

 当然だ。それくらいで女の勘を使うまでも無い。


「おほん。さて、一年越しの大人になれる店に行こうでは無いか」


「その前に」

 ここで言わなければ、何を言われたかたまったものではない。


「みんなの前では付き合っている事言わないでね」


「えー、何でよー。あ、そうだよね。引かれたら嫌だもんね。ごめん、気づかいが出来ていなかったね」

 私は福子のシャツの襟を引いて、耳元に囁いた。


「言ったら特別の魔法が解けちゃう」


「と、特別。ま、魔法」


「行くんでしょ? お店。私に見られながらお風呂で、接待してもらうのもいいよ。恥ずかしい女の子だねって、じゃ行こっか」

 なんだかスイスイ行き過ぎていることにこの時点で違和感を覚え、早急に戻るべきだった。

 でも私たちは件の一番廃墟に見える建物の中に入った。


「福ちゃん。一年ぶりだね。割引券持っているね。みんな待ってるよ」

 受付のスタッフはむすっとした男性とにこやかに手をヒラヒラ振った女性だった。見た事がある。知っている顔だった。向こうも察したのだろう。


「じゃ、福ちゃんはパネル開いて待っててね。お友達は私の手練手管を使って骨抜きにするから待っててね」


「その、出来たらその前田はちゃんと人間のままで、私のそのえっと仮カノ子ですので」


「仮? 仮って言った」

 ガーンとなっている福子を放置して引きずっていかれた。


「恋人? 妬いちゃうな。分かった。手加減するよ」

 このスタッフ。いや、この女は私が街で遊んでいた時に初めて忠告をしてきた本物しんせいの人間だ。


「あまり調子に乗って遊んではいけないよ」

 そう言われた事を今もしっかり覚えている。


「アンタにしては意外だね。どっちから?」


「冬に向こうから」


「そうやって初心な女の子を釣った感想は?」


「カノ子は久しぶりなので、落ち着きません」



「向こうが飽きるでしょ」


「そうやって傷つかないように防衛戦張るところ私は好きじゃないなー。そうだ、私に飼われてみない? あの子じゃ無理なこと教えてあげるよ」


 初恋と同じくらいの手わざを持った女性。


「結構です」

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