第17話 赤点課題の大行進
お正月は平和に暮らした。お餅を食べて、順調に太り幻滅させてやろうと思った。
こちらが直接手を下さずとも私の姿を見て、勝手に心が離れていくといい。
登校日、なぜか福子は縦にでかくなっていた。
「餅って身長伸ばすものなんかね」
休み前まで百六十中盤だったじゃん。
「もうちょっとで百七十だわ。そんな私はいや?」
「ゴリラさ、うちのバスケ部に入ってよ」
「バレーボールは再来年の末まで活動するからさ」
ゴリラ、引く手あまたである。学園のスターになってしまうのかゴリラ。
さようなら、男子と致すのには知っているけど、女の子同士でするにはどうするか知らないだろうな。
でもゴリラはゴリラである。
脱いだタイツは消臭スプレーをふんだんにかけて空席の机に置いている。冬なので扉や窓はしめきっている。当然、空気の循環もほどんどない。
後に聞くとゴリラは「置いていない。干している」と、言ったがそのせいで空気をいれかえるはめになった。
「うち、ゴリラが身長高くなって変わったか思ったけど、変わってなくて失望と安心を共に味わいました」
クラスメイトの皆さん、ごめんなさい。ご迷惑をおかけしております。
「そんな変なにおいしないと思うけど、におう?」
「におうわけないでしょ。さっさとしまいなさい」
「ポテチあるけど食べる?」
「食べないわよ」
「キスする?」
「しないわよ」
はいはいと聞き流していた。ん、このゴリラ今なんて言った?
「あんたたちキスするの?」
「まだ」
これはまずい。学校内で女を食っていない。
これはクラスだけはそういう性的な物を持ち込まないための保険だったのに、このアホゴリラのせいで私の性質が明るみに出たら、もちろん嫌な顔をしない子もいるだろう。
でも全員がそうじゃない、今まで付き合ってきた女の子たちが自らを性的な目でみられてる可能性があると知れば、途端に学校生活が息苦しくなる。
「しようよ」
「アンタとキスするくらいなら、廃品倉庫にあるほこりまみれの椅子にキスする方がマシよ」
「中田さん。廃品倉庫はダメだよ、あそこ変なにおいするし」
「それくらい前田とキスすることはあり得ないって意味よ」
「そうだよね」
くすくす笑うクラスメイトを尻面にしょぼんとするゴリラが見えた。
「福子。ここで女の子の敵を作りたくないから察しなさい」
「廃品倉庫」
「そう言わないとみんなは納得してくれない」
「いつキスしてくれる?」
「あなたが年度末に心が変わらないことが分かってからよ」
「変わらないよ。絶対」
一月の課題提出はゴリラを除いて全員がクリアした。すぐにテストだ。
「なんで、身長伸びたのに」
テスト後、震えるゴリラにテストを見せろというと丁寧に赤点と書かれたテスト用紙に一桁台の行進。
中には「お前、冬休み何やってたんだ」という嘆きが書かれているものもあった。
他にも「身長を伸ばす前にもっとやることあっただろ」とか「お前、来年も高一な」という辛辣な物もあった。
「どうしよう。私、二年生になれないよ」
放課後、職員室へ嘆願に行った。なぜか私も。
「課題だな」
担任の先生は冷酷で、
「課題ですよね」
私は納得した。
「なんで?」
福子は涙目だった。
「手伝ってもらうなよ」
「課題出来なかったら反省文で済ませてやることを考えてもいいぞ」
一部、極悪人がいたがたくさんの課題が出た。
多分、リュックで登校している私のカバンには入らない量の課題。
「中田に手伝ってもらうなよって先生は言ったけどさ。いいよね」
「ダメです」
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