第15話 駅にて

「それで何をするの?」

「そうだった。これ」

 横に座るゴリラは向こうのスクールバックからせかせか出したお弁当箱。

「味は保証しないけど、妹に食わせてもお腹壊さなかったから大丈夫だと思う。これご飯とおかずは別のお弁当だからずくずくではないよ」


 縦に長いお弁当箱は昔はやったなと思いながらテーブルの上に広げた。


 一番下にお味噌汁とか入っているやつだ。全て広げると梅干しの乗ったご飯に玉子焼き、ゆで卵、スクランブルエッグ、目玉焼き。


「玉子好きなの?」


「いや、これしか思いつかなかった。ゆで卵は味玉だよ」

 うーん。


「知ってる? 玉子っていっぱい食べるとアレルギーになるんだよ」


「え、都市伝説だと思っていた」

 私も都市伝説だと思っている。


「じゃ、てきとうに箸をつけて残してよ。あとは私が食べるから」


「いや、全部いただくよ。せっかく作ってくれたし、もったいないから」


「違う違う。それ二人分」

 ゴリラめ。


「もしかして、すごくお腹が空いていた?」

 違うそうじゃない。そういうことではない。


「半分ずつね。ちょうど良かった。そんなにお腹空いてないの」

 グー。誰の音だろうか。


 玉子尽くし、全体に塩辛かった。

 本人によると塩コショウがセットになっているやつと塩とコショウ別のやつをいれたらしい。まさかあの筒に塩が入ってあるとは思わなかったと言われた。


 ゴリラはゴリラか。仕方ない。


「今度、料理教えてよ」

 なんだか上手く距離感を近づけられている気がするので、ここは釘を刺しておこうと思う。


「冬休みはパス。案外、うちは忙しいの。今日だって、駅で友達と会うからって言って出て来たんだから」


「え、友達って思っていてくれていたんだ。いいとこ担当だからだと思われていると思っていたから」

 ミスった。これはいけない、これは良くない。


「嬉しい」

 ゴリラのくせにゴリラのくせに。こんなんじゃ、女の子じゃん。


「手出して」


「何よ」


「いいから」

 触られたゴリラの手はやはり少し硬くて、少し冷たい。


「今日も温かいね」


「アンタの手が冷たいのよ」


「友達って何するの?」


「こうやって椅子に座ってお弁当を食べるのが友達でしょう。アンタ、工科高校の男子共はどうするのさ」


「中嶋か小嶋に一回電話した」

 へ、へぇ。


「なんで電話したの」


魑魅魍魎ちみもうりょうの読み方分からないから教えてって送ったら、文系は分からないって言われた」

 そりゃ工科高校は理系だからな。


「分かるでしょ。魑魅魍魎くらい」


「私もね。ちみまでは分かったの。最近のインターネットはすごいよね。ちみって打ったら予測変換に出て来るんだもん」


「最初からネットで調べたら良かったと思うよ」


「いやー、使えるものは使っておこうと思いまして」

 ゴリラの餌食になってしまってご愁傷様です。


「それ以降は?」


「なんにも。あ、もしかしてあの工科高校のどちらか好きだった?」


「興味ない」


「良かった。あ、これは二つの意味でね」

 この女の属性が分からない。猫ではない、犬か。

 犬にしては考えるよな。他は狸か。いや。


「ぽんぽこ観たいな」

 前田から漏れた声はここいらではたまに見る動物の名前だった。


「クリスマスなのにぽんぽこ?」


「たまに観たくなるのはなんでだろう」


「私もぽんぽこ好きだよ。あの映画でしょ」


「映画何それ」

 え。


「狸見たくならない? 映画ってなに?」

 語源知っていると思っていた。

 冬に狸はねぇよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る