第14話 クリスマスデート
その場で連絡先を交換した。というか今まで連絡先を交換しようと思わなかったのは少し不思議だ。
嬉しそうに帰って行くゴリラを見送った。
「マジか。課題やろ」
夕方には終わった課題を担任の机に置きに行き、学校を出た。
「マジか」
これを私は校舎を出ても家に帰る途中も繰り返した。嬉しいようななんというか。でも勘違いという線もある。
まだ分からない。
でもまぁ、願掛けするほどの物なら少し嬉しいかもしれない。
家に帰ると早速メッセが来た。
「初詣行かない?」
この辺りに神社やお寺は無い。
街か。混むだろうな。それに親が出してくれる気がしない。
「行きたいけど、多分無理そ」
「私が何のために背が高いと思う?」
「成長期だからでしょ?」
「変装すれば男に見える」
「その場合、お父さんが許さない」
「ダメか。電話してもいい?」
「なんで?」
「ダメかな」
本当にくだらない話。生徒指導の先生が国語科の新卒に対しての視線がいやらしい。体育用のサッカーボールは軒並み空気が入っていなくて転がらない。結構楽しかった。
「明日、会わない? 街に行こうよ」
「電車は嫌よ。なんで、家に行くとかでいいじゃない」
「街の方がいいよね。そのクリスマスデートとか」
「調子に乗んなし」
「行こうよ。デート」
「何度も遊びに行ったでしょう」
「その男の相談に行っただけだし、あとは他の子と遊んだりして結局二人では無かったから」
「遊びに行くだけよ」
明日にするか明後日にするか。そんなことを無我夢中に前田は話した。
こんなに興奮して幸せがあふれた声で話すんだ。
へぇ、可愛いじゃん。コイツ、私の事めちゃくちゃ好きじゃん。
「遊びに行くと、デートは何が違うの」
会っていたら赤面した顔を見られたかもしれない。
「手を繋ぐの禁止」
「えー」
街に遊ぶところと言えば、ボウリングかカラオケしかない。ゲーセンはアングラな空気だから、あまり近寄りたくなかった。
「ボウリングかカラオケか」
「どっちも行こうよ」
「ダメ。私たちはお金を持っていない。仮に持っていたとしても貸し借りはしない」
「いいじゃん。どうせためているでしょう」
「それでもダメなものはダメ」
「あきらめるよ。クリスマスデート」
「別に街に行かなくてもいいじゃない」
「なんで?」
「駅の中、待合室は温かいでしょ」
「そうだよね。そうしよう」
クリスマス。駅に十三時集合。高校のジャージで現れた。
かくいう私も普段着だ。それにしても変えてきたな。
あの体育祭の時は高校のジャージだったけど、というかそのジャージはデートに着て来る服装じゃない。
「すごい可愛い。いや、そのね。可愛い服は妹に取られちゃってもうこれしか無かったの。でも本当にごめん。まさかそういうかっこうで来るとは思っていなくて、その担当はあったけど、いつでもそばにいてくれたから、好きで意識して本当にもう本当に好きで」
私がジャージで来ないだけで好きになった理由まで教えてくれた。
「年度末に気持ちが変わるかもよ」
「そうか。そうだよね。私はきっと変わらないけど」
そうやって先の約束をした人間から私の元を去って行く。
多分、この子もそうだろう。年度末になったら担当を変えてもらおう。
早くに違う方に向いてくれたらその方がいい。
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