第13話 一年の冬

 朝の様々なあいさつ。おはよう寒いね。もこもこの女の子たちが校舎に入っていく。まさかあんなに寒がっていたゴリラがミニスカで来るなんて誰が予想したか。

 クラスメイトからしきりに「前田悪い事言わないから、私のジャージ貸したげるから、着なさい」と、言われている。


「今日の占いは少々辛いことでも乗り越えたらハッピーって5チャンネルで言ってた」


「アンタそんなに占い信じる方だっけ」


「今日は何をそんなこだわって」


「願掛け」

 ふーん。どうせ今日、あの工科高校の中嶋君か工藤君に告白でもするのだろう。やれやれ、人の誕生日にえぐいことするね。やれやれ。


「ゴリ担、もこもこだね」

 とうとう、名前を呼ばれなくなった。


「ちゃんと防寒しても寒いよね」

 私は防寒あるあるで他の子と話した。


「すき間がね」

 講堂に集まるように指示があった。

 どうせ本日で二学期も終わりだから云々だろう。


「ということで、明日から冬休みですが気を抜いて遊び過ぎないように」

 みんなは床に座って寝ているのに、ストーブの温かさのせいかゴリラは爆睡をかまして、話が終わってすぐに生徒指導の先生に引きずられていった。


 寒い中、帰るよりもこの温かい学校で課題を済ましておいた方がいいという判断の元、私はみんなが帰り出した辺りから課題をやっつけにかかった。

 お互いがお互いに軽く線を引く校風のせいかガリ勉とは言わない。そもそもそんな余裕はない。あのゴリラ以外は。


 けして待っているとかそういうわけではない。私はここで提出物を出して、冬休みを優雅に過ごしたいだけだ。


「おお、教室が温かい。寒かったもん廊下」


「おかえり」


「なに、待っていてくれたの?」


「この寒さで頭が凍り付いたの?」


「ふぅーん。でさ、相談なんだけどさ」


「何よ、かしこまって」

 ゴリラは床に正座した。


「その多分、あれなんだけど、おそらく、えーっと」


「早く言いなさいよ」


「中田の事が気になっていて」

 は? なんだそれ。ゴリラの事だから、また変なドラマを観て影響されたのだろう。


「ドラマ? それとも映画?」


「違うの! 違うの。なんか中田が他の子と話しているとこうイライラして」

 そりゃ、周りからはひかれているからな。


「手を繋ぎたいし、そのキスとかも中田としたいし」

 ここで勘違いと突き放すとどうなるだろう。勘違いだ。そう言ったらゴリラは傷つくかもしれない。

 でも受け入れるとあとでやっぱり勘違いだとゴリラが気づいたら私はきっと傷つくだろう。


「そのお試しでいいからさ。年度終わりまで付き合ってよ」


「勘違いかもしれないわよ」


「だから年度末。それ以降は今までの担当に戻るということで」


「それならいいわ。担当だしね」

 きっと戻ることが出来ないのに。

 へぇ、そんなに嬉しそうに笑うんだ。

 この子の顔って、今まであんまり見たこと無かったな。

 こんな顔をするんだ。

 ブラジャー干してた時もちゃんと顔を見れば良かった。

 ふぅーん、可愛いじゃん。

 手練手管を使えないので、この女を落とすとかは出来ないけど、ちょっと遊び相手としては十分だ。


「まずは手を貸して」


「まずって何よ」


「いいから」

 両手を差し出した。


「温かい」


「それはアンタ。廊下から帰って来たから」


「たまには薄着をするもんだね」


「って、どこのタイミング?」


「前からだけど、一番は体育祭」

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