第9話 DIY

 ゴリラの候補に残ったのは工藤君という男の子と、中嶋君という男の子だった。


「ま、及第点ね。ハーレムにならないのは残念って感じよね。中田も来るんでしょ」


 ゴリラも性格がゴリラなだけで顔の造形は整っている。

 ここが共学で、いいこと考えたと言った後、教室の窓から入り口の窓までビニール紐を渡してブラジャーを干すなんてしなければ、男の子に困らなかっただろう。


 先生たちも反省文を書かせても意味が無いことは分かっているが、もう我々に出来ることは反省文しかないと悲壮感たっぷりに話すところを目撃した。


 それでも大人は反省文を前田に命じた。生徒指導の先生の前で「先生も女の子になったらわかるはずです。残暑十月のブラジャーがどれだけ不快か。締め付けられるのも。ハンガー持ち込まなかっただけ褒めください」


「DIYしていい理屈にはならない」

 確かにそれはそうだ。


「前田担の中田をつけてください。それだったら先生方も勤務中に仕事を終えて帰ることが出来る。中田は私が書いている間、自習が出来るいいことだらけではないですか」

 そう生徒指導室の前で聞き耳を立てていたクラスメイトから聞いた。


「お前らを監視する教員の勤務時間が増えるとだろうが」


「そもそも何をそんなに目くじらを立てることがありますか。別にいじめとか、万引きはしていません。後ろ指を刺されるわけではありません」


「公序良俗的にアウトだ」


「なんですか? その難しそうなやつ」


「つまりお前の真似をされると世間的には非常に良くない」


「ちっちっち、学校の外で同じことはしません。区分けはしっかりしています」


「分別のつかない中学生が真似をしたら?」

 しばし無言の末、ゴリラは分かりましたと呟いた。


「それで何を反省すればいいですか?」


「今、全部言っただろ!」

 その光景がありありと思い浮かべることが出来た。ごめんなさい、ゴリラだから人間に近づけようと頑張るので今は耐えてください。


「全く、大人は反省文を出したがる。ビニール紐をしっかり張るのにどれほどの力がいるか分かっていないのがダメだな。ナンセンスだ」


「もう高一だよ。中学生では無いからね」


「私は至って真剣だよ。天才的にここだと思うタイミングで悪さをするなんて、そんなにユニークな人間じゃないよ。一歩一歩真面目に過ごしているだけだよ」

 その理屈で言うとあんたはもう十分ユニークだよ。


「で、さっきから手が止まっているけど?」


「そう隣のクラスのやっちゃんと梅ちゃんが手を絡めてホテル街に消えたらしいよ」


「はいはい早く書け」


「その時のプレイスタイルを事細かに書けばあの脳筋にサービスお色気を提供して反省文の枚数減に繋がるという」


「そうか。つまり前田は枚数が少ないと思っているのか」

 残念ながらプレイスタイルの時点で生徒指導の先生はゴリラの横に立っていた。


「いや、今の枚数でかなり堪えているので、これ以上はもう頭をフル回転させても難しいです」


「反省文増量かそのカップルの情報を渡すかどっちがいい?」


「仲間を売るなんて出来るか! 大人はそうやって汚い手を使うんだ。一度肥溜めに頭を突っ込むといい、少しは気遣いも出来るだろう」

 本人は大正義だと勝ち誇っている。こういう馬鹿だけでは無いところが友達の多さたる理由だ。


 でもゴリラは気づいていない。


「ほう生徒なのか」

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