第2話 電車で行こう

「で、なに?」

 週末の朝、駅に呼び出された。


「これから喫茶店に行きます」


「で、なに?」


「クリームソーダご馳走してあ・げ・りゅ」


「何も無いなら帰る」


「殺生な、私は初恋の男性と連絡先の交換をしたいだけですのに」

 前田の初恋が今だと知った。知りたく無かったけど、知ってしまったものだから仕方ない。


「プランはあるの?」


「もち、ケツが痒くてもかかない」


「当然」


「スポーツバッグで行かない」


「その可愛いポーチは抵抗感が無くてカバンを持った気にならないでしょ」


「軽すぎて仕方ない。雲をつまんでるみたい」

 その例えはよく無いが、前田は学校ではゴリラだ。態度にも行事にもそれがでている。


「屁こいて、大股で授業受けてるままいくと、絶対にフラれるわよ」


「ふむふむ勉強になります」


「女の子にとって必要な所作よ」

 ますます気に入らないあんなにゴリラなのに一丁前に化粧なんかしちゃってさ。ま、彼氏の一人でも出来たらちょっとはマシな女になるよね。


「では喫茶店に行こう」

 この辺りは一応、市を名乗っているが、夜は電灯は無く田舎だ。老人の溜まり場は二時間に一本しかないバスの停留所で、学生は学校にいる。


 校舎もそう大きくない。百合の花舞う大きな校舎を予想しているなら、帰るのはどこかは知らないけど早々に帰った方がいい。

 古くて風通しは悪く。その上、三つある自販機の一つは雨が降ると動かなくなる。申し訳程度の体育館の天井は代々いるキャプテンゴリラのせいでバスケットボールが挟まっている。

 予算を出してもすぐにキャプテンゴリラによって天井ボールが現れるので、大人は練習で使う分だけのボールを持ってくる。考えたな、だがキャプテンゴリラは高みを目指す。

「私、一番上に到達したら、キャプテンとして県大会を突破出来る気がするよ」

 そう宣言したキャプテンゴリラは毎年、反省文一回だそうだ。


「で、私はなんで暑い中、外にいるわけ? 今からバスに乗るには走った方がいいわよ。どうせここまで考えなしに来たんでしょ。

 嫌ーな気がする。


「中田くん、君は大きな勘違いをしている。体感温度がバグって温度調整の出来ない老人の乗るマイクロバスを乗り換えて街に行くのか? ノンノンノン」

 何かとても腹立つ言い方をする。


「でも学生の味方よ。無料だもの」


「初恋の男性にじじばばの乗る無料バスから降りるところを見られては前田一生の恥」


「安心しなさい。もう恥は出し尽くしているから」


「悪意のある言い方だな」

 そうよ、悪意のある言い方しかしていないわよ。


「とりま電車に乗ろう」


「アンタ時刻表は?」


「無いが、すぐに来るだろう」

 この町に限らないが、紙の時刻表はしばらく前に廃止されたことを知らないのが一点、そして事前にもしかしたらの可能性を考え集合時間前後三十分の時刻表をアプリで検索。


「あと一時間来ないわよ」


「なぜだ。なぜ分かった」


「じゃ、バスに行くよー」


「何をする。服が伸びたらどうする」


「だから腕持ってるのよ」


「嫌だ嫌だ。電車から颯爽クールに出るの。いい女と呼ばれるくらい凄くとても沢山のアレがアレで」

 前田は焦ると語彙がパンクする。

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